ルイス・マリアスのスリラー”Fuego”*ヒホン映画祭20142014年12月11日 19:14

2015年公開予定が早くも今月公開に早まりました。いわゆるETAものという範疇に入りますが、テロは終息しつつあるとはいっても、当事者にとって「傷口は開いたまま」ということでしょうか。本作については製作発表のとき既に記事にしており、プロット、監督、主演のホセ・コロナドなどの紹介を簡単にしております(コチラ⇒2014320)。製作発表段階の意図と完成作品に大きな違いがない印象ですので、参照頂けると嬉しい。

 

     Fuego

製作:Deparmento de Cultura del Gobierno Vasco / Fausto Producciones Cinematograficas 他

監督・脚本:ルイス・マリアス

撮影:パウ・モンラスPau Monras

音楽:Aritz Villodas

美術:ギジェルモ・リャグノLlaguno

製作者:エドゥアルド・カルネロス

データ:スペイン、スペイン語、2014、スリラー、ETA、撮影地ビルバオ、第52回ヒホン国際映画祭2014コンペティション、20141128日スペイン公開

キャスト:ホセ・コロナド(カルロス)、アイダ・フォルチ(カルロス娘アルバ)レイレ・ベロカル(テロリスト妻オイアナ)、ゴルカ・スフィアウレ(同息子Aritz)、ハイメ・アダリド(マリウス)他 


プロット:元警察官カルロスの復讐劇。エタの自動車爆弾テロで妻を殺され、当時10歳だった娘は両脚を失う。11年後、カルロスは服役中のテロ実行犯に復讐を誓いながらバルセロナで暮らしている。自分の家族が受けた苦しみを同じだけ犯人の妻と息子に与える、「私こそが正義である」。憎しみと復讐で始まるがやがて内面の炎は悲しみとパッションに移ろっていく。登場人物たちは、それぞれ社会的イデオロギー的に異なった立場にいるため、その苦しみも複雑に交錯しながら物語は進行する。

 

52回ヒホン国際映画祭20141122日~29日)

★第52回ヒホン映画祭で唯一コンペに残ったスペイン映画、会場にはスタッフ、キャスト陣が揃って登場した。主役の三人のうち、コロナド、フォルチは既に登場、テロ実行犯の妻役ベロカルはまだ日本では未紹介です。スペインでもあまり知られていない女優、監督自身も脚本を手掛けたラファエル・モンレオンの“Questión de suerte”(96)で知り合った由。

 

  (左から、ベロカル、中央監督、隣りフォルチ、最右翼コロナド、ヒホン映画祭にて)

 

「傷口は開いたまま」

★本作について、「このスリラーは、バスクの歴史に基づいているが、どこでも起こりうる事件であり、特別エタものとして撮ったわけではない。何故なら激しい苦痛を感じている人の憎しみや暴力、痛みがもたらす結果を描いているからです」と、ヒホンのプレス会見で語っています。ETAの暴力について撮ることには「はっきりしたタブー」があったが、やっと解禁された。未来志向の観客が、この映画を見ることで共生を深く考えるきっかけになればと願っている。「テロの犠牲者の傷口は開いたまま癒えていない」とも語っていました。難しいですね。

 

テロの犠牲者も幸せになる価値がある

★撮影は厳しかったそうだが、結果には満足している。しかし心にしこりをもったままで希望を抱くのは厳しい。それぞれ抱えている過去、傷痕、将来への考え方が異なるから当然です。ホセ・コロナドによると「寛容で乗り越えるのは容易なことではないが、でも乗り越えようという動きが出はじめている。この映画が皆の心を動かし、よい影響を与えあうようになることを期待している」と、既にこの30年間で40作の映画に出演しているベテランもコメントを寄せている。カルロスは元警察官だから正義を行う人だが、現在は復讐者である。実際まるで「ジギルとハイド」のモデルのような役だから、最後までどちら側に自分を置いたらいいのか難しかった。役柄を落ち着かせるため、<尊敬している>エンリケ・ウルビスがやるようにバスクをあちこち歩き回りながら観察してまわったそうです。結果的には、どちら側でもない第三の生き方を見つけることになるんでしょうね。監督からは凄い集中力を求められたが関係は素晴らしかったそうで、撮影は納得いくものになったということでしょう。ゴヤ賞に絡むと予想しますが、『悪人に平穏なし』に近すぎるかな

 

ルイス・マリアスLuis Marias Amando:脚本家・監督・俳優・プロデューサー。1988年、脚本家として出発、映画&テレビの脚本多数。なかでホセ・アンヘル・マニャスの同名小説を映画化したサルバドール・ガルシア・ルイスの“Mensaka”(1998)の脚色が評価された。監督デビュー作は“X”(2002)とかなり前の作品、“Fuego”が第2作になります。TVミニシリーズ“Gernika bajo las bombas”(2エピソード2012)は、その年のサンセバスチャン映画祭で上映されました。1937426日のゲルニカ爆弾投下をテーマにしたドラマ。


1作“X”にはエンリケ・ウルビスの『貸し金庫5072002」でホセ・コロナドと共演したアントニオ・レシネスが主役を演じている。そんな繋がりで出演したのかもしれない。ウルビスは昨年『悪人に平穏なし』で登場、日本でも認知度の高い監督になりました。

 

ホセ・コロナドJosé Coronadoは、1957年マドリード生れ。つまりフランコ時代の教育を受けて育ったマドリッ子ということです。父親がエンジニアで比較的裕福な家庭環境で育った。大学では最初法学を4年間学んだが卒業できず、次に医学を志すもこれまた2年で挫折した。本人によれば大学を諦めて旅行会社、レストラン、モデル、トランプのギャンブラーなどを転々、要するにプータローをしていた。フランコ没後(1975)から約5年間の民主主義「移行期」というのは混乱期でもあった。映画の世界に入ったきっかけは、「ウィスキーのテレビ・コマーシャルのモデルに誘われ、マジョルカで撮影すると言うし、出演料が破格だったので引き受けた」そうです。その後30歳になる直前に演技の勉強を思いたち、キム・デンサラットの第1作“Waka-Waka”(87)で映画デビュー、1989『スパニッシュ・コネクション』の邦題でビデオが発売されている。初期の話題作では、イマノル・ウリベの“La luna negra”(89)、ビセンテ・アランダの“La mirada del otra”(98)、カルロス・サウラの『(ボルドーの)ゴヤ』(99)では青年時代のゴヤになった。

 

                  (撮影中のコロナド)

 

やはり今世紀に入ってからの活躍が目立ちます。主役を演じたエドゥアルド・コルテスの“La vida de nadie”(02)、エンリケ・ウルビスの『貸し金庫507』(02)、“La vida mancha”(03)とゴヤ賞主演男優賞受賞の『悪人に平穏なし』(11)、ミゲル・コルトワのETAの実話を基にした“El Lobo”(04)と“GAL”(06)、アレックス&ダビ・パストール兄弟の『ラスト・デイズ』13)、オリオル・パウロの『ロスト・ボディ』13)など、公開作品も多いほうですね。

 

アイダ・フォルチAida Folch1986年、カタルーニャのタラゴナ生れ、女優。子役でフェルナンド・トゥルエバの“El embrujo de Shanghai”(02)でデビュー、フェルナンド・レオン・デ・アラノアの『月曜日にひなたぼっこ』(02)、マヌエル・ウエルガの『サルバドールの朝』(06)、公開されたF・トゥルエバの『ふたりのアトリエ~ある彫刻家とモデル』12)、本作でゴヤ賞2013主演女優賞ノミネート、トゥリア賞2013女優賞を受賞した。他にアントニオ・チャバリアスの“Las vidas de Celia”(06)、Patxi Amescuaの“25 kilates”(08)で翌年のマラガ映画祭の女優賞を受賞している。来年になるが、ホセ・コルバチョ&フアン・クルスのコメディ“Incidencias”(15)に出演している。他、短編、TVドラ多数。




レイレ・ベロカル
Leyre Berrocal1973年ビルバオ生れ、女優、脚本家。フアン・ビセンテ・コルドバの“Entre con sol”(95)、前出のラファエル・モンレオンの“Questión de suerte”、ペドロ・ペレス・ロサドの“Agua con sal”(05)など。

 

              (レイレ・ベロカル、“Fuego”から)