コルド・セラの第2作「ゲルニカ」*マラガ映画祭2016 ③ ― 2016年04月20日 19:56
「ゲルニカ」といってもピカソは出てきません
★「ゲルニカ」と聞けば「ピカソ」に繋がる。ピカソが「ゲルニカGuernica」を描かなかったら、ゲルニカは観光地にはならなかったでしょう。現地に行ったことがない人でも、マドリードを訪れた観光客は「ゲルニカ」が展示されている美術館に案内される。日本で言えば国宝級なのか特別室に展示され監視人がいて近づけない。以前東京でも横長の実物大(7.82m×3.5m)のレプリカが展示されたことがあったほどの大作。フランコ没後民主主義移行期の1981年、亡命先の「ニューヨーク近代美術館」より返還されることになった。それで「最後の亡命者の帰国」と言われた。しかし既にピカソ亡き後のことで遺産問題も絡まって、どこの美術館で展示するかで喧々諤々、白熱の議論のすえにピカソが名誉館長を務めたこともあるプラド美術館へ、しかし本館ではなく別館だったことで当時の館長が辞任するなどのテンヤワンヤ、なんとかピカソ生誕100周年記念日の10月25日に一般公開された。更に1992年に開館した王立ソフィア王妃芸術センターの目玉としてお引っ越し、現在はここの特別室で展示されています。

(ピカソが50日間で一気に描いた「ゲルニカ」、王立ソフィア王妃芸術センターに展示)
マリア・バルベルデが共和派報道機関の編集者を力演
★さて本題、ビスカヤ県の町ゲルニカは、スペイン内戦中の1937年4月26日、ナチス・ドイツ空軍機によって史上初めてという無差別爆撃を受けた。当時共和派の軍隊は駐屯しておらず全く無防備の町であったという。どうしてナチスが第二次世界大戦勃発前に無防備のバスクの町を爆撃のターゲットにしたのか。いったいスペイン内戦とは誰と誰が戦ったのか。これがコルド・セラの長編第2作“Gernika”のメインテーマでしょうか。しかし本当のテーマは、やはり「愛と自由」かもしれません。マラガ映画祭2016正式作品、無差別爆撃を受けた4月26日に上映。スペイン公開は今年の秋が予定されている。

(ポスター)
“Gernika”(英題“Guernica”)2016
製作:Pecado Films / Travis Producciones / Pterodactyl Productions / Sayaka Producciones /
ゲルニカ The Movie 協賛カナル・スール、ICAA 他
監督:コルド・セラ
脚本:ホセ・アルバ、カルロス・クラビホ・コボス、バーニー・コーエン
撮影:ウナックス・メンディア
編集:ホセ・マヌエル・ヒメネス
衣装デザイン:アリアドナ・パピオ
製作者:バーニー・コーエン & ジェイソン・ギャレット(エグゼクティブ)、ホセ・アルバ、カルロス・クラビホ、ダニエル・Dreifuss 他
データ:製作国スペイン、スペイン語、撮影地ゲルニカ、マラガ映画祭2016年4月26日上映、スペイン公開は今秋、製作費約580万ユーロ(ゲルニカ市、ビルバオ市、バスク政府、アラゴン政府などから資金援助を受けた)
キャスト:マリア・バルベルデ(テレサ)、ジェームズ・ダーシー(ヘンリー)、ジャック・ダヴェンポート(ワシル)、バーン・ゴーマン、イレネ・エスコラル、イングリッド・ガルシア=ヨンソン、アレックス・ガルシア、フリアン・ビジャグラン、バルバラ・ゴエナガ、ビクトル・クラビホ、ナタリア・アルバレス=ビルバオ、ラモン・バレア、イレナ・イルレタ、他
解説:時は内戦勃発翌年の1937年、スペイン女性テレサとアメリカ人ヘンリーの戦時下での屈折した愛の物語。テレサは共和派の報道機関に勤めている編集者、ヘンリーは北部戦線を取材しているジャーナリスト、二人は意見の相違で対立している。テレサの上司ワシルは共和派政府の助言者として派遣されたロシア人、若く美しいテレサに気がある。いずれテレサはヘンリーの非現実的な理想主義に魅せられていくだろう。そして彼女のたった一つの目的、真実を語るための使命に目覚めることだろう。

(テレサ役マリア・バルベルデとヘンリー役ジェームズ・ダーシー)
★複雑で謎だらけのスペイン内戦の総括はまだ完全には終わっていないと思いますが、ファッシズムと民主主義の闘いではなかったことだけは明らかでしょう。どの戦争でも同じことと思いますが、共和派善VSフランコ派悪のように、真実はそれほど単純ではない。はっきりしているのは、共和派側についたのがソビエト、フランコ派を応援したのがドイツ、イタリア、ポルトガルということです。イギリスやフランスは心情的には共和派側だが、教科書的には中立だった。長いフランコ独裁制や米ソ冷戦構造が貴重な研究成果を覆い隠してしまっている。これがスペインで繰り返し映画化される原因の一つです。
★コルド・セラKoldo Serra de la Torre:1975年ビルバオ生れ、監督、脚本家。バスク大学美術科オーディオビジュアル専攻、ビルバオ・ファンタスティック映画祭のポスターを描きながら(2000~04)、コミックやデザインを学ぶ。“La Bestia del día”というタイトルで、短編のコミック選集を出版する。1999年、ゴルカ・バスケスとの共同監督で短編“Amor de madre”を撮り、ムルシア・スペイン・シネマ週間で観客賞を受賞した。これにはライダー役で自身出演している。2003年、短編“El tren de la bruja”がアムステルダム・ファンタジック映画祭でヨーロッパ・ファンタジック短編に贈られる「金のメリエス」を受賞、国際的にも評価される(ナチョ・ビガロンドとの共同脚本)。他シッチェス映画祭短編銀賞、サンセバスチャン・ホラー・ファンタジー映画祭最優秀スペイン短編賞、Tabloid Witch賞他、受賞歴多数。

(タブロイド・ウィッチ賞のトロフィーを手にしたコルド・セラ)
★2006年長編映画デビュー“Bosque de sombras”(“The Backwoods”仏=西=英、英語・スペイン語)は、サンセバスチャン映画祭の「サバルテギ新人監督」部門で上映、プチョン富川国際ファンタスティック映画祭2007に出品された。1970年代後半のバスクが舞台のバイオレンス・ドラマ、スペイン側からはアイタナ・サンチェス=ヒホン、リュイス・オマール、アレックス・アングロなどが出演している。10年のブランクをおいて本作が第2作目、主に脚本執筆、TVドラを手がけていた。ビルバオ出身の監督としては、1960年代生れのアレックス・デ・ラ・イグレシア、エンリケ・ウルビス(『悪人に平穏なし』)の次の世代にあたる。

(“Bosque de sombras”から)
★製作国はスペインですが、男優陣は英国出身の俳優が起用されている。なかでジェームズ・ダーシー、ジャック・ダヴェンポート、バーン・ゴーマンの3人は公開作品が結構ありますので簡単に情報が入手できます。ヘンリー役のジェームズ・ダーシーは1975年ロンドン生れ、1997年ブライアン・ギルバートの『オスカー・ワイルド』の小さな役で長編デビュー、セバスチャン・グティエレスのホラー『ブラッド』にカルト集団のメンバーとしれ出演、マドンナの第2作『ウォリスとエドワード 英国王冠をかけた恋』(11)でエドワード8世に扮した。続いて1960年の『サイコ』の舞台裏を描いたサーシャ・ガヴァンの『ヒッチコック』(12)では、主人公ノーマン・ベイツを演じたアンソニー・パーキンスに扮した。ヒッチコックをアンソニー・ホプキンスが演じるなど、テレビ放映もされた。最新作はジェームズ・マクティーグの『サバイバー』(15)でアンダーソン警部役になった。
★ジャック・ダヴェンポートは、1973年イギリスのサフォーク生れ、両親とも俳優、幼児期はスペインのイビサ島で育った。1997年、『危険な動物たち』で映画デビュー、ゴア・ヴァービンスキーのシリーズ『パイレーツ・オブ・カリビアン』(03,06,07)のノリントン提督役で知られている。マシュー・ヴォーンのスパイ物『キングスマン』(14)に出演している。最新作の“Gernika”ではスターリン信奉者のロシア人になる。
★バーン・ゴーマンは、1974年ハリウッド生れ、しかし家族と一緒にロンドンに移住している。父親がUCLAの言語学教授という家庭で育った。1998年テレドラで俳優デビュー、日本での公開作品は、マシュー・ヴォーンの『レイヤー・ケーキ』(04)、クリストファー・ノーランの『ダークナイト・ライジング』(12)、ロドリゴ・コルテスの『レッド・ライト』(12)、ギレルモ・デル・トロの『パシフィック・リム』(13)、同監督の最新作『クリムゾーン・ピーク』(15)は今年1月に公開されたばかり。英語映画、それもスリラーやホラーは公開されやすい。
★マリア・バルベルデは、1987年マドリード生れ、マヌエル・マルティン・クエンカの“La flaqueza del bolchevique”(2003)でデビュー、翌年のゴヤ賞とシネマ・ライターズ・サークル賞の新人女優賞を受賞した。日本登場はアルベルト・アルベロの『解放者ボリバル』(ラテンビート2014)で薄命のボリバル夫人を演じた女優。当ブログでは、マリア・リポルのロマンチック・コメディ“Ahora o nunca”(2015)でダニ・ロビラと共演して成長ぶりを示した。汚れ役が難しいほど品よく美しいから、逆に女優としての幅が狭まれているが、そろそろお姫さま役は卒業したいでしょう。監督との出会いはTVドラ出演がきっかけのようです。

(一時より痩せた監督とマリア・バルベルデ)
★イレネ・エスコラルは、“Un otoño sin Berlín”で今年のゴヤ賞新人女優賞を受賞している。イングリッド・ガルシア=ヨンソンは、オープニング上映となったキケ・マイジョの“Toro”にも出演しており、目下躍進ちゅうの「三美人」を起用するなど話題提供も手抜かりない印象です。

(イレネ・エスコラル、映画から)
*コメディ“Ahora o nunca”とマリア・バルベルデの記事は、コチラ⇒2015年7月14日
*スリラー“Toro”とイングリッド・ガルシア=ヨンソンの記事は、コチラ⇒2016年4月14日

(撮影終了を祝って記念撮影、中央の小柄な男性が監督)
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