ビクトル・エリセのドノスティア栄誉賞授賞式*サンセバスチャン映画祭2023 ㉕2023年10月10日 09:44

          「映画の学びが終わることは決してない」

 

   

    

929日ビクトリア・エウヘニア劇場、ビクトル・エリセ(ビスカヤ県カランサ1940)のドノスティア栄誉賞授賞式と30年ぶりの4作目「Cerrar los ojos」の上映がありました。今回本賞の受賞者は、ハビエル・バルデム(授与式は来年の予定)、宮崎駿(ビデオ出演)とエリセの3人でしたが、登壇したのはエリセ唯一人でした。プレゼンターは、ちょうど50年前に金貝賞を受賞した『ミツバチのささやき』に主演したアナ・トレント、当時6歳だった女の子も成熟した女性として登場しました。

    

      

★エリセ登場前に長編4作を含む主なフィルモグラフィー9作の紹介がありました。初期の短編は割愛され、『ミツバチのささやき』(73)、『エル・スール』(83)、『マルメロの陽光』(92)、オムニバス『ライフライン』(02)、「緋色の死」(06)、『アッバス・キアロスタミとのビデオ往復書簡』(07)、オムニバス『ポルトガル、ここに誕生する~ギマランイス歴史地図』(12)、ドキュメンタリー「石と空」(21)、「Cerrar los ojos」(23)でした。

 

★長いスタンディングオベーションになかなかスピーチできない受賞者は、生後数ヵ月で引っ越しして以来、17歳まで育ったドノスティア市の名前を冠した栄誉賞を受賞したことに感無量、「いま目を閉じると、決して忘れることのできない映画の数々を客席に座って楽しんでいる男の子が目に浮かぶ」と、クルサールやビクトリア・エウヘニア劇場で観客の一人として映画を楽しんでいたことを語りました。映画の仲間たち、身近な両親、親友たち、そしてサンセバスチャン映画祭に感謝の言葉を述べ、アルベール・カミュ、フェデリコ・フェリーニ、フランコ時代の検閲、息子パブロにまで触れていた。「常に映画は知識を得る一つの方法と考えている。だから私にとって映画を学ぶことに終りはない」と。最後にバスク語で「ありがとう、サンセバスチャン映画祭、どんな時もサン・セバスティアン」と締めくくった。

 

  

 

★レッドカーペットには新作の出演者、ホセ・コロナド、アナ・トレント、マリア・レオン、ペトラ・マルティネス、マリオ・パルド、エレナ・ミケルなどがお祝いに馳せつけ、授賞式では中央2階席で拍手を送っていた。劇中エリセの分身を演じた映画監督役のマノロ・ソロは欠席のようでした。

      
                

     

     (レッドカーペットに勢揃いしてフォトコールに応じる出演者たち)

     

      

   (特別席からエリセを見守る応援団)

 

★ライトが当てられたもう一人の主賓がアナ・トレントでした。映画祭主催者からのインタビューで「ミツバチと同じこの場所で、今宵ビクトル・エリセのプレゼンターに選ばれたことを大いに名誉に思い、とてもエモーショナルでした」とコメント、「ビクトルは人生と映画をあまりにも交錯させるので、円環を閉じるときには殆どマジックのような何かを感じてしまいます。女の子アナは映画を発見するのですが、現実とフィクションの違いを理解しているわけではありません」と語っていた。監督自身もトレントには他のキャストとは違う思い入れがあり、エル・ムンド紙のインタビューで「脚本を執筆中に彼女なしでは映画は作れない、失踪する俳優の娘役に起用しようと思った」と語っている。トレントとホセ・コロナドが父娘を演じるようです。「ミツバチ」も父と娘の関係が重要なテーマの一つで、小さなアナが「ある人間が他の人間を死に至らしめることができることを発見する」映画でもありました。

     

 

                     (新作撮影中の監督とアナ・トレント)

   

   

       (ビクトル・エリセの珍しいファン・サービス、29日午前中)

 

エリセのキャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ20220725