第72回サンセバスチャン映画祭2024*ポスター発表 ① ― 2024年07月01日 16:00
映画祭の顔にドノスティア栄誉賞受賞者ケイト・ブランシェット

★まだ大分先の話になりますが、今年の第72回サンセバスチャン映画祭(9月20日~28日)の顔にケイト・ブランシェットが選ばれ、同時にドノスティア栄誉賞を受賞します。昨年、全米脚本家組合と俳優組合のストライキに賛同して授与式を2024年に延期していたハビエル・バルデムも今年は現れるはずです。
*ハビエル・バルデムの栄誉賞授与式延期の記事は、コチラ⇒2023年09月14日
★ケイト・ブランシェットをあしらったセクション・オフィシアル(コンペティション部門)のメインポスター以下、各セクションのポスターも一挙に発表になりました(5月9日)。ノミネートは先になりますが、コンペティション部門のオープニング作品が、レバノン出身のフランスの監督オドレイ・ディヴァンの「Emmanuelle」に決定しています。エマニュエル・カルサン(1932~2005)の同名小説の映画化、1974年にジュスト・ジャカンによって映画化され世界的な大ヒットとなった。同年『エマニエル夫人』の邦題で公開され、昨2023年暮には製作50周年を記念して4Kレストア版をリバイバル公開している。

(オドレイ・ディヴァン、ベネチア映画祭2021ガラ)
★オドレイ・ディヴァン(ディワン、1980)は、「L’Evénement / Happening」で第78回ベネチア映画祭2021の金獅子賞を受賞した注目の監督、受賞作は翌年『あのこと』の邦題で公開されている。アニー・エルノーの同名小説の映画化、翻訳書も刊行されている(『事件』ハヤカワ文庫)。一方、新作は最初主役のエマニュエルにレア・セドゥがアナウンスされていたが、その後『燃ゆる女の肖像』のノエミ・メルランに変わり、ナオミ・ワッツ、ウィル・シャープ、ジェイミー・キャンベル・バウアーなどが共演している。
*ベネチア映画祭2021金獅子賞の記事は、コチラ⇒2021年09月15日
★第72回サンセバスチャン映画祭2024の主なポスターをアップしておきます。

(コンペ部門のポスターをお披露目するホセ・ルイス・レボルディノス総ディレクター)

(今年の映画祭の顔ケイト・ブランシェットをあしらったセクション・オフィシアル)

(オリソンテス・ラティノス部門)

(サバルテギ-タバカレア部門、アニメ、ドキュメンタリーなどジャンルを問わない)

(ペルラス部門、本祭以外の今年度の受賞作や話題作)

(ニューディレクター部門)

(ネスト部門、30分以内の短編)

(メイド・イン・スペイン部門、既に公開されているスペインの話題作)
アロンソ・ルイスパラシオスにバレンシア・ルナ賞*シネマ・ジュピター ― 2024年06月29日 17:59
『グエロス』のアロンソ・ルイスパラシオスがバレンシア・ルナ賞

(受賞者アロンソ・ルイスパラシオス、バレンシアFF 6月21日)
★6月21日、2014年『グエロス』で鮮烈デビューを果たした、メキシコのアロンソ・ルイスパラシオス監督(メキシコシティ1978)が、バレンシアの第39回シネマ・ジュピター・フェスティバルで「バレンシア・ルナ賞」を受賞しました。本賞は過去のキャリアよりこれからの活躍が期待される独創的なシネアストに与えられる賞です。マラガ映画祭の特別賞の一つ「才能賞」に似ています。昨年トロフィーを受け取るためにバレンシアにやってきたのは、今年のカンヌ映画祭で「Anora」(10月30日公開予定)で初めてパルムドールに輝いたショーン・ベイカー(ニュージャージー1971)でした。
★フェスティバルは、授賞理由として作品が「新鮮さ、知性、ヒューマニズム」に貢献し、「非常に異なるキャラクター、特に互いに相反する精神に対しても惜しみない理解を示した」こと、「現代メキシコの有為転変の大いなる記録者であり、皮肉やユーモアを失うことなく日々の不条理を活写した」ことなどをあげております。ルイスパラシオスは「とても感動して興奮しています。大人になりたくない登場人物という点で、私の映画には青春の要素があると思います。テーマの一つにピーターパン症候群のようなものがあります」と語っている。
★メキシコのボブ・ディランを探すロードムービー『グエロス』の登場人物がそうでした。デビュー作の成功で、第2作「Museo」にガエル・ガルシア・ベルナルを起用することができました。既に作品紹介で書きましたように、この物語は1985年のクリスマスイブにメキシコ人類学歴史博物館で起きた150点にものぼる美術品盗難事件にインスパイアされたもので、ベルリン映画祭で脚本賞を受賞しました。つづく第3作「Una película de policías」も、ベルリン映画祭2021の映画貢献銀熊賞を受賞、『コップ・ムービー』の邦題でNetflixで配信されています。ドキュメンタリーとジャンル分けされていますが、個人的にはドラマドキュメンタリー(ドクドラ)、フィクション性の高いユニークなドラマの印象です。2人の警察官に扮するモニカ・デル・カルメンとラウル・ブリオネスの演技に注目です。
*『グエロス』の作品紹介は、コチラ⇒2014年10月03日
*「Museo」の作品紹介は、コチラ⇒2018年02月19日
*「Una película de policías」『コップ・ムービー』の紹介は、コチラ⇒2021年08月28日

(第4作「La cocina」のポスター)
★第4作がアメリカで撮った「La cocina」(24、139分、モノクロ、メキシコ=米国合作)で、言語は英語とスペイン語、前作『コップ・ムービー』主演のラウル・ブリオネスと『ドラゴン・タトゥーの女』やトッド・ヘインズの『キャロル』でカンヌ映画祭2015女優賞を手にしたルーニー・マーラが主演しています。いずれ作品紹介を予定していますが、イギリスのアーノルド・ウェスカーの戯曲 “The Kitchen” (1957)がベースになっている。20世紀半ばのロンドンから現代のニューヨークのタイムズスクエアに舞台を移しかえている。ランチタイムのラッシュ時に、世界中の文化が混ざりあうレストランの厨房で働く移民の料理人たちの生活を描いた群像劇。監督はロンドンの王立演劇学校で演技を学んでいたとき、レストランでアルバイトしていたときの経験が役に立ったと語っています。本作はベルリンFFコンペティションでプレミアされ、トライベッカ映画祭のワールド・ナラティブ・コンペティションにもノミネートされました。いずれ公開されるでしょう。

(左から、製作者ラミロ・ルイス、アンナ・ディアス、ラウル・ブリオネス、
ムーニー・マーラ、ルイスパラシオス監督、ベルリン映画祭2024のフォトコール)
「メキシコで文化が贅沢品でないと見なされることを願っています」と監督
★「ハリウッドで仕事をしても、自分はメキシコを離れることはありません。ハリウッドに移住してグリンゴの物語を撮ることに興味はありません」と強調している。先だってのメキシコ大統領選挙で勝利を手にした新大統領クラウディア・シェインバウムが10月1日付で就任します。彼女の助言者である現大統領アンドレス・ロペス・オブラドールとの決別を願う監督は、「女性が遂にこのような権力の座についたことは喜ばしい。人によってはいろいろ感情が入り混じることですが、メキシコが必要としていたことです。現大統領との繋がりが深いため事態はより複雑ですが、関係を断ち切ることを願っています。彼から独立して自由になることを信じています」と。

(バレンシア・ルナ賞の受賞スピーチをするルイスパラシオス監督)
★現大統領の6年の任期が「文化に背を向けてきた」と指摘する監督は、「文化が贅沢だと見るのを止める」よう求めた。文化が贅沢品で生活必需品ではないという文化軽視は、多かれ少なかれどこの国でもスペインでも日本でも見られる現象ですが、監督は「メキシコ映像ライブラリーが果たす役割の重要性」を受賞スピーチで強調しました。メキシコに変化があることを認める監督は、それでも「道のりはまだ遠い」と語り、映画を作るのはお金がかかることなので誰でも可能ではないが、「映画は私にとって抗議の手段なのです」ともコメントしている。
★私生活では女優イルセ・サラスとの間に2人の息子がいる。『グエロス』や「Museo」出演の他、『グッド・ワイフ』(18)、TVシリーズ『犯罪アンソロジー:大統領候補の暗殺』(19)、ロドリゴ・ガルシアの『Familia:我が家』(23)主演などで、日本では監督より認知度が高いかもしれない。

(監督とイルセ・サラス、ベルリン映画祭2018)
*追加情報:第4作「La cocina」が『ラ・コシーナ/厨房』の邦題で、2025年6月13日公開。
アルモドバルの新作「The Room Next Door」*スペインサイドのキャスト発表 ― 2024年06月18日 18:24
英語で撮られた最初の長編映画――今年10月18日公開予定

(撮影中のティルダ・スウィントン、監督、ジュリアン・ムーア)
★6月12日、待たれていたスペイン・サイドのキャストと公開予定日が同時に発表になりました。アルモドバルの長編23作目となる「The Room Next Door」(スペイン題「La habitación de al lado」)は、英語で撮る最初の長編になります。主役の二人、娘との関係で悩んでいる従軍記者マーサを演じるティルダ・スウィントン、その親友の自伝的小説家イングリッドになるジュリアン・ムーア、ほかジョン・タトゥーロは2月に発表になっており、スペイン側キャストのアナウンスが待たれていました。
★共演者は、複雑なキャラクターを演じる能力で知られるフアン・ディエゴ・ボット、その抜群の演技力でカリスマ性を発揮してきたラウル・アレバロ、目下人気上昇中のメリナ・マシューズ、映画のみならず舞台テレビでの豊富な経験をもつビクトリア・ルエンゴの4名が参加、いずれもキャリア、知名度、演技力のレベルの高さは申し分ないでしょう。男性陣二人は揃って監督デビューしており、それが吉と出るかどうか興味も尽きない。産業界は興行収入での成功も当てにしているようですが、コロナ禍で映画館への足が遠退いてしまった大衆を再び呼びもどすことができるでしょうか。まだ詳細は見えてきませんが現時点で分かっていることを紹介しておきます。
「The Room Next Door」(「La habitación de al lado」)
製作:El Deseo 協賛Movistar Plus+
監督・脚本:ペドロ・アルモドバル
音楽:アルベルト・イグレシアス
撮影:エドゥアルド・グラウ
編集:テレサ・フォント
製作者:アグスティン・アルモドバル
データ:製作国スペイン、2024年、英語、ドラマ、撮影地マドリード、ニューヨーク、配給ワーナー・ブラザース、公開スペイン2024年10月18日予定、ほか米国、イタリア、イギリス、ドイツ、中欧、ポーランドを除く東欧、北欧、ラテンアメリカ諸国、その他が予定されている。公開後のネット配信はMovistar Plus+が独占配信する。
キャスト:ティルダ・スウィントン(マーサ)、ジュリアン・ムーア(イングリッド)、ジョン・タトゥーロ、アレッサンドロ・ニヴォラ、フアン・ディエゴ・ボット、ラウル・アレバロ、メリナ・マシューズ、ビクトリア・ルエンゴ、ほか
あらすじ:大きな誤解によって常に緊張関係にある母と娘の物語。二人の間には母親マーサの友人であるオートフィクションの小説家イングリッドが、二人の痛みと苦い思いのもとになっている。マーサは戦争の報道記者で、この映画は戦争の際限のない残酷さについて、二人の作家が現実にアプローチして書く全く異なる方法について、恐怖と打ち勝つための最良の味方としての死、友情、性的快楽についてが語られる。また二人の友人は、ニューイングランドの自然保護区のなかに建てられた家で、鳥のさえずりで目覚め、奇妙に甘やかな時を過ごすことも語られる。(製作者の説明の要約)

(ジュリアン・ムーア、監督、ティルダ・スウィントン)
★アルモドバルは、英語映画としてジャン・コクトーの戯曲「人間の声」を映像化した短編『ヒューマン・ボイス』(20、30分、日本公開2022年)、イーサン・ホークとペドロ・パスカルがガンマンに扮したウエスタン『ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ』(23、31分、日本公開2024年)の2作を撮っているが、短編ながら劇場公開になった。長編映画は今作が初となり、前者に主演したイギリスのティルダ・スウィントンを再びオファーした。オートフィクションの小説家役のジュリアン・ムーアは、「いつも、いつも、いつも、ペドロ・アルモドバルと仕事をしたいと思っていた。それもマドリードでティルダ・スウィントンと一緒だなんて、なんて幸運なの!」と、エモーショナルなコメントをしている。


(斧を物色するティルダ・スウィントン、『ヒューマン・ボイス』のフレームから)
★オートフィクションというのは自伝的小説と翻訳されるが、いわゆる私小説とは違って、作者を主人公にして自分自身の人生を語るが、あくまでもフィクションです。ジュリアン・ムーアは『マップ・トゥ・ザ・スターズ』(カンヌFF2014)、『エデンより彼方に』(ベネチア2002)、『めぐりあう時間たち』(ベルリン2002)と三大映画祭で女優賞を受賞、『アリスのままで』(14)でゴールデングローブ賞とアカデミー賞の主演女優賞を受賞して、貰える賞はすべて手にしている。

(ジュリアン・ムーアを配した『アリスのままで』のポスター)
★今秋10月公開ということですから間もなくです。スペイン・サイドのキャスト&スタッフ紹介は、もう少し全体像が見えてきてからアップします。今回は過去の紹介記事をアップしておきます。
*『ヒューマン・ボイス』の紹介記事は、コチラ⇒2020年02月17日/同年08月16日
*『ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ』の作品紹介は、コチラ⇒2023年05月04日
*フアン・ディエゴ・ボットのキャリア紹介は、コチラ⇒2022年09月03日
*ラウル・アレバロのキャリア紹介は、コチラ⇒2016年02月26日/2017年01月09日
*ビクトリア(ヴィッキー)・ルエンゴの出演作「Suro」は、コチラ⇒2022年08月01日
映画国民賞2024に製作者マリア・サモラ*スペイン映画賞 ― 2024年06月16日 14:45
2024年の映画国民賞はヒット作を連発しているマリア・サモラが受賞

(インディペンデント映画製作者マリア・サモラの近影)
★今年の映画国民賞は、インディペンデント映画製作者マリア・サモラ(バレンシア1976)が受賞することになりました。映画国民賞の選考母体は文化スポーツ教育省で、副賞は30,000ユーロと控えめですが、毎年一人という名誉ある賞です。ほかにスポーツ、文学、科学など各分野ごとに選ばれます。映画部門の審査員は文化省とスペイン映画アカデミーなどで構成されます。基本的に年齢に拘らず、前年に活躍した人から選ばれることが多い。
★今年の受賞者は、昨年の受賞者カルラ・シモンの「Alcarràs」(22)やハイオネ・カンボルダがガリシア語で撮った「O corno」(23)などを手掛けています。前者でベルリン映画祭金熊賞を受賞した初のスペイン女性プロデューサーとなりました。後者はサンセバスチャン映画祭で金貝賞を受賞、製作者でもあったカンボルダ監督、もう一人の製作者アンドレア・バスケスの3人で喜びを分かち合いました。本作は東京国際映画祭2023ワールド・フォーカス部門バスク映画特集で『ライ麦のツノ』として上映されました。
*映画国民賞の授与式は、第72回サンセバスチャン映画祭2024の開催中に行われ、プレゼンターは選考母体である文化省の大臣です。

(金熊賞受賞のマリア・サモラとカルラ・シモン、ベルリン映画祭2022ガラ)

(金貝賞受賞のマリア・サモラ、サンセバスチャンFF2023、プレス会見)
★授賞理由は、マリア・サモラは「国際市場におけるスペインの独立系映画の存在感を高め、感受性豊かで多様性のある視点に影響を与えている」こと、「サンセバスチャン映画祭で金貝賞を受賞し、2024年のゴヤ賞で8部門ノミネートされた複数の作品」を手掛けたことを挙げている。複数の作品の一つが『ライ麦のツノ』(新人女優賞受賞ジャネット・ノバス)、ほかにアルバロ・ガゴの「Matria」(新人監督・主演女優賞)やエレナ・マルティン・ヒメノがガウディ賞を制覇するもゴヤ賞はノミネートに終わった「Creatura」(監督・助演男優・助演女優・新人女優賞)などが含まれます。



★審査員は以前から危険を顧みずに無名のプロジェクトに支援を続ける独立系の制作会社に光を与えたいと考えていたようでした。それも監督や俳優のように常に脚光を浴びる存在ではなく、縁の下の力持ちである製作者を選びたかったそうです。というのも製作者が選ばれたのは2018年、アルモドバル兄弟が設立した「エル・デセオ」のエステス・ガルシアまで遡る必要があったからです。彼女が女性プロデューサーの初の受賞者でした。
*エステル・ガルシアの紹介&授与式の記事は、コチラ⇒2018年09月17日/09月26日
★マリア・サモラは、1976年バレンシア生れの47歳、プロデューサー。バレンシア大学で企業経営と運営管理を専攻、視聴覚制作管理の修士号を取得した。2000年、バレンシアのテレビ局チャンネル9(現チャンネルNou)でキャリアをスタートさせる。2001年、マドリードに移り、アバロン・プロダクションのプログラム・アシスタント、プロデューサーとして働く。2007年5月、アバロンPCの創設メンバーとなり、エグゼクティブディレクターとなる(~2021)。
★初期には、ダニエル・サンチェス・アレバロ(04「Física II」)、ダビ・プラネル(05「Ponys」)、ベアトリス・サンチス(08「La clase」、10「La otra mitad」)、カルラ・シモン(19「Después también」)などの短編を手掛けている。その後ダビ・プラネルの「La vergünza」、ベアトリス・サンチスの「Todos están muertos」、カルラ・シモンの『悲しみに、こんにちは』などの長編で成功をおさめている。
★2021年にアバロンPCを退社、エンリケ・コスタ(アバロンの配給会社兼パートナー)とエラスティカ・フィルム Elastica Films を設立、独立系の主に女性監督の映画を手掛ける。その1作目がカルラ・シモンの「Alcarràs」で、幸先よくベルリンの金熊賞を受賞する。続いてカンボルタの『ライ麦のツノ』、アルバロ・ガゴのデビュー作「Matria」、エレナ・マルティン・ヒメノの「Creatura」と先述した通りの快進撃、今年から来年にかけて、話題作が目白押しである。シモンの3作目「Romería」は撮影も終わり、ロドリゴ・ソロゴジェンのパートナーで『おもかげ』に主演したマルタ・ニエトを監督として長編デビューさせるようです。
★マリア・サモラはインタビューで「製作する映画を選ぶ理由は常に同じとは限りません。脚本だけに拘るわけではないのです。しかし決して安易な決定ではなく、それらがありきたりでなく語られるに値するストーリーのあることが決め手です。自分にインパクトをあたえたり共鳴したりするプロジェクトであれば、興味を持ってくれる人が増えるのではないかと思っているからです」と語っている。一例としてカルラ・シモンの『悲しみに、こんにちは』を挙げている。本作のメインのプロデューサーは、バレリー・デルピエールでしたが、サモラも共同プロデューサーとして参画しています。脚本の要約を読んだとき「嘘が微塵もなかったことに感銘を受けました。瞬時に共感できる真実があり、まさにそれは純金でした」と、エルパイスのインタービューに応えている。
★サモラは長いあいだ女性監督とタッグを組んできた理由として、「男女間の平等の欠如を懸念していた時期があり、そのことが女性監督をサポートしてきた理由」であることを認めている。これからは「多様性に焦点を当てて、新しいジャンル、新しい視点、あまり馴染みがない、自分にとって居心地がよくない場所から語られる物語も探求したい。しかし、それは挑戦です」と。まだ公表できる段階ではないが、3つのプロジェクトが進行中ということでした。
★審査員の紹介:審査委員長はイグナシ・カモス・ビクトリア(ICAA映画視聴覚芸術研究所長官)、カミロ・バスケス・ベリョ(ICAA副長官)、理事としてフアン・ビセンテ・コルドバ・ナバルポトロ(スペイン映画アカデミー代表)、ジョセップ・ガテル・カストロ(視聴覚メディア著者文学代表)、ダニエル・グラオ・バリョ(俳優組合代表)、パウラ・パラシオス・カスターニョ(CIMAスペイン女性映画製作者協会代表)、ICAA理事デシレ・デ・フェス・マルティン、スサナ・エレラス・カサド、アリアドナ・コルテス・プリオ、前年の受賞者カルラ・シモンの10名です。
◎フィルモグラフィー(邦題、監督名、短編・TVシリーズは除く)
2008「Acné」『アクネACNE』フェデリコ・ベイロ(ハバナ映画祭新人監督賞)
2009「La vergünza」ダビ・プラネル(マラガ映画祭2009金のビスナガ賞)
2009「La mujer sin piano」ハビエル・レボーリョ(サンセバスチャン映画祭銀貝監督賞)
2010「Un lugar lejano」ジョセップ・ノボア
2011「La cara oculta」『ヒドゥン・フェイス』アンドレス・バイス
2012「Mapa」(ドキュメンタリー)エリアス・レオン・シミニアニ
(セビーリャ・ヨーロッパ映画祭ドキュメンタリー賞)
2014「Todos están muertos」ベアトリス・サンチス
(マラガ映画祭銀のビスナガ審査員特別賞)
2016「María ( y los demás)」『マリアとその家族』共同プロデューサー、ネリー・レゲラ
(メストレ・マテオ賞)
2017「Verano 1993」『悲しみに、こんにちは』エグゼクティブディレクター、
カルラ・シモン (ベルリン映画祭新人監督賞)
2017「Amar」『禁じられた二人』
エステバン・クレスポ&マリオ・フェルナンデス・アロンソ
2018「Apuntes para una pelícla de atracos」(ドキュメンタリー)
エリアス・レオン・シミニアニ
2019「Los días que vendrán」カルロス・マルケス≂マルセ(マラガ映画祭金のビスナガ賞)
2019「My Mexican Bretzel」『メキシカン・プレッツェル』(ドキュメンタリー)
ヌリア・ヒメネス・ロラング
2021「Libertad」『リベルタード』クララ・ロケ&エドゥアルド・ソラ(ゴヤ新人監督賞)
*以下はElastica Films エラスティカ・フィルム製作
2022「Alcarràs」カルラ・シモン
2022「Qué hicimos mal」リリアナ・トーレス
2023「Matria」アルバロ・ガゴ
2023「Creatura」エレナ・マルティン・ヒメノ
2023「O corno」『ライ麦のツノ』ハイオネ・カンボルダ
2024「Polvo serás」カルロス・マルケス≂マルセ
*プレ&ポストプロダクション
2025「Romería」プレプロダクション、カルラ・シモン3作目
「Hildegart」ポストプロダクション、パウラ・オルティス、「La novia」(15)の監督
「Las madres no」同上、マル・コル、2009年『家族との3日間』で長編デビュー
「La mitad de Ana」同上、マルタ・ニエト、短編「Son」(22)に続く長編デビュー作
◎関連記事・管理人覚え◎
*『ライ麦のツノ』の作品紹介記事は、コチラ⇒2023年07月17日
*「Creatura」の作品紹介記事は、コチラ⇒2023年05月22日
*「Matria」の作品紹介記事は、コチラ⇒2023年03月08日
*「Alcarràs」の作品紹介記事は、コチラ⇒2022年01月27日
*『リベルタード』の作品紹介記事は、コチラ⇒2021年10月12日
*『メキシカン・プレッツェル』の作品紹介記事は、コチラ⇒2020年09月14日
*「Los días que vendrán」の作品紹介記事は、コチラ⇒2019年04月11日
*『悲しみに、こんにちは』の作品紹介記事は、コチラ⇒2017年02月22日
*『マリアとその家族』の紹介記事は、コチラ⇒2016年08月14日
*「Todos están muertos」の作品紹介記事は、コチラ⇒2014年04月11日
ミゲル・ゴメスの「Grand Tour」が監督賞*カンヌ映画祭2024受賞結果 ― 2024年06月07日 10:48
ポルトガルのミゲル・ゴメスの「Grand Tour」が監督賞

(トロフィーを手にしたミゲル・ゴメス、カンヌ映画祭2024ガラにて)
★カンヌ映画祭2024は、コンペティション部門の監督賞に「Grand Tour」(ポルトガル=伊=仏ほか)のミゲル・ゴメスを選びました。初期の短編、ドキュメンタリーを含めると既に17作を数えますが、劇場公開は第3作『熱波』1作のみ、今回カンヌFFの監督賞受賞作が『グランド・ツアー』の邦題で2025年公開が決定しています。先輩監督ペドロ・コスタ(『ヴァンダの部屋』『ホース・マネー』他)の後押しもあって、ミニ映画祭で特集が組まれるほどシネマニアのあいだでは人気の監督です。しかしスペイン語以上にマイナーなポルトガル語映画、公開に先立ってキャリア&フィルモグラフィーの予習をしてみました。


(左から、クリスタ・アルファイアチ、ゴメス監督、ゴンサロ・ワディントン、
カンヌ映画祭2024レッドカーペット、5月23日)
★簡単なストーリー:『グランド・ツアー』の舞台は1917年、公務員のエドワード(ゴンサロ・ワディントン)は、ヤンゴンでの結婚式の当日、婚約者のモリー(クリスタ・アルファイアチ)からの逃亡を企てます。しかし彼との結婚を決意したモリーは夫の逃亡を面白がり、シンガポール、バンコク、サイゴン、マニラ、大阪、上海とアジアの各都市を横断する彼の冒険を尾行することにします。
*ヤンゴンは2006年までミャンマー(旧称ビルマ)の首都だった大都市、英語風に訛ってラングーンで知られる。旧称サイゴンはベトナムのホーチミン市。


★というわけで監督と撮影隊は、ミャンマー、シンガポール、タイ、ベトナム、フィリピン、日本の各都市を移動した。コロナ禍で予定されていた中国上海での撮影は中止となったが、封鎖ぎりぎりセーフだった日本の京都鴨川での撮影はできフォトが公開されている。カラー&モノクロ、コダックフィルム16mmで撮影され、撮影監督は『ブンミおじさんの森』(10)のサヨムプー・ムックディプロム、ゴメス監督お気に入りの『自分に見合った顔』、『私たちの好きな八月』や『熱波』のルイ・ポサス、初参加のGui Liang 桂亮グイ・リャン、クランクインは2020年初頭、監督によると4年の歳月を要したということです。

(右端が京都の鴨川で撮影中のゴメス監督、2020年2月)
★日本側製作者として今夏7月に公開されるサスペンス・ドラマ『大いなる不在』の近浦啓監督が参画しています。本作はサンセバスチャン映画祭2023で藤竜也が銀貝賞の最優秀主演俳優賞、監督もギプスコア学芸協会賞を受賞した作品、藤竜也の受賞スピーチが絶賛されたことは当ブログで紹介しています。間もなく封切られます。
★ミゲル・ゴメス Miguel Gomes は、1972年リスボン生れ、監督、脚本家、フィルム編集者。リスボン映画演劇上級学校(Escola Superior de Teatro e Cinema di Lisbona)で学び、映画評論家としてキャリアをスタートさせる。イタリアのネオリアリズムとフランスのヌーベルバーグの影響を受けたニューシネマ運動の世代に属している。短編デビューは1999年の「Entretanto」(仮題「合い間」)以下9編、2004年の「A Cara que Mereces」で長編デビュー、第2作『私たちの好きな八月』は、カンヌFF2008併催の「監督週間」に正式出品され注目される。2010年、日本ポルトガル修好通商条約150周年を記念して、東京国立近代美術館フィルムセンターが企画した「マノエル・ド・オリヴェイラとポルトガル映画の巨匠たち」で、ジョアン・セーザル・モンテイロ、ペドロ・コスタ、パウロ・ローシャなどと並んで若手監督の一人として本作が紹介された。この映画祭は当時ちょっとしたポルトガル映画旋風を巻き起こした。

(ゴメス監督、カンヌFF2024,フォトコール)
★カンヌ映画祭2015併催の「監督週間」にノミネートされた「アラビアン・ナイト三部作」(6時間21分)は、「第2回広島国際映画祭2015」(11月20日~23日)で特集が組まれ、3分割された第1部~第3部が一挙上映された。ゴメス監督も来日してQ&Aに参加、前作の『熱波』もエントリーされた。後に「イメージフォーラム・フェスティバル2019」が企画され、東京初上映となったが、その他ミニ映画祭での上映もあり、マイナーながら日本語字幕入りで鑑賞できた監督。公開作品は上記したように『熱波』のみ、2025年の「グランド・ツアー」が待たれるところである。2012年ポルトガルは、スペイン同様経済危機に見舞われ、EUのお荷物といわれた。監督によると「貧乏であることの唯一のメリットは、大ヒット作を放つ義務から解放され、少し自由が得られることです」と皮肉っている。

(公開された『熱波』ポスター)
*因みにアントワーン・フークアの『サウスポー』(15)にジェイク・ギレンホールの対戦相手として共演しているミゲル・ゴメス(Gómez)は、1985年コロンビアのカリ生れの俳優です。米国のTVシリーズに出演している。またホラーコメディ『パラノーマル・ショッキング』(10)の監督は、コスタリカのミゲル・アレハンドロ・ゴメス(Gómez / Gomez サンホセ1982)で別人です。メジャーな名前なのでネットでの紹介記事に混乱が見られます。以下に主なフィルモグラフィーをアップしておきます。目下配信されている動画は見つかりませんでした。
*主なフィルモグラフィー(短編割愛、主な受賞歴)
2004「A Cara que Mereces」『自分に見合った顔』ポルトガル、108分、監督・脚本
インディリスボア・インディペンデントFF作品・批評家賞
2008「Aquele Querido Mes de agosto」『私たちの好きな八月』同上、147分、監督・脚本
BAFICIブエノスアイレス国際インディペンデントFF2009作品賞、
バルディビアFF国際映画賞、ポルトガルのゴールデングローブ2019作品賞、
グアダラハラFF特別審査員賞、サンパウロFF2008批評家賞、
ビエンナーレ2008FIPRESCI賞、カンヌFF2008併催の「監督週間」正式出品
2012「Tabu」『熱波』ポルトガル・独・ブラジル、118分、公開2013、監督・脚本・編集
ベルリンFF2012、FIPRESCI賞&アルフレッド・バウアー賞受賞、ゲントFF作品賞、
ポルトガルのゴールデングローブ2013作品賞、ラス・パルマスFF2012観客賞他、
ポルトガル映画アカデミー ソフィア賞2013編集賞、他多数
2015「As Mil e Uma Noites: Volume 1, O Inquieto」
『アラビアン・ナイト 第1部休息のない人々』ポルトガル・仏・独・スイス、
125分、監督・脚本
「As Mil e Uma Noites: Volume 2, O Desolado」
『アラビアン・ナイト 第2部孤独な人々』同上、132分、監督・脚本
「As Mil e Uma Noites: Volume 3, O Encantado」
『アラビアン・ナイト 第3部魅了された人々』ポルトガル・仏・独、125分、同上
*以上「三部作」はカンヌFF2015併催の「監督週間」正式出品された。
ポルトガルのゴールデングローブ2016作品賞、シドニーFF2015作品賞、
コインブラFF2015監督・脚本賞、セビーリャ・ヨーロッパFF作品賞、
シネヨーロッパ賞2016トップテン入り、他
2021「Diários de Otsoga」『ツガチハ日記』モーレン・ファゼンデイロとの共同監督、脚本
ポルトガル・仏、102分、カンヌFF2021併催の「監督週間」正式出品、
マル・デル・プラタFF2021監督賞、イメージフォーラム・フェスティバル2022上映
2024「Grand Tour」『グランド・ツアー』ポルトガル・仏・伊・独・日本・中国、129分、
監督・脚本、カンヌFF2024監督賞、2025公開予定
*2023年にスペインのヒホン映画祭の栄誉賞を受賞している。
女優賞は「エミリア・ぺレス」の4女優の手に*カンヌ映画祭2024受賞結果 ― 2024年06月04日 14:10
4人を代表してカルラ・ソフィア・ガスコンが登壇!

(カルラ・ソフィア・ガスコンとプレゼンターの前男優賞受賞者役所広司)
★第77回カンヌ映画祭2024は、パルムドールにショーン・ベイカーの「Anora」(米国)、グランプリにパヤル・カパディアの「All We Imagine as Light」(インド)を選んで閉幕しました。両受賞者ともカンヌ初参加、世代交代を歓迎する半面、コンペティション部門の質低下が話題になった今年のカンヌでした。大物監督たちコッポラ、クローネンバーグ、ソレンティーノなどは無冠に終わりました。

(カンヌに集合したスタッフ&キャスト陣、カンヌ5日目の5月18日)
★当ブログ関連受賞作品は、審査員賞(ジャック・オーディアール)と女優賞(アドリアナ・パス、ゾーイ・サルダナ、カルラ・ソフィア・ガスコン、セレナ・ゴメス)をダブルで受賞した「Emilia Pérez」(仏=米=メキシコ)、オーディアール監督はカンヌの常連として紹介不要ですが、受賞者4名はアメリカのスーパースターのセレナ・ゴメス、「アバター」のゾーイ・サルダナ(サルダーニャ)は別として、メキシコのアドリアナ・パス、スペインのカルラ(カーラ)・ソフィア・ガスコンは、メキシコ、スペインでこそ知名度がありますが、カンヌのような国際的な大舞台で脚光を浴びたのは恐らく今回が初めてのことでしょう。カンヌ5日目の5月18日に上映された。


(カルラ・ソフィア・ガスコンとジャック・オーディアール、カンヌ映画祭2024ガラ)
★フォトコールには4人揃ってカメラにおさまりましたが、授賞式までカンヌに留まった、エミリア・ぺレス役を演じたカルラ・S・ガスコンが登壇、昨年の男優賞受賞者の役所広司の手からトロフィーを受けとりました。トランスジェンダー女性としてカンヌで「初めて女優賞を受賞した」と報道されたガスコンは、壇上から「苦しんでいるすべてのトランスジェンダーの人々に捧げる」とスピーチしたということです。これには後日談があって、このスピーチを聞いた国民戦線の創設者ジャン≂マリー・ルペンの孫娘で極右政治家マリオン・マレシャル・ルペンが早速Xに「性差別的な侮辱」文を投稿、すかさずガスコンが告訴の手続きをしたということです。

(左から、アドリアナ・パス、カルラ・S・ガスコン、ゾーイ・サルダナ、セレナ・ゴメス)
★「犯罪ミュージカル・コメディ」と作品の紹介文にありましたが、どんな作品なのでしょうか。
*ストーリーをかいつまんで紹介しますと、舞台は現在のメキシコ、弁護士のリタ(ゾーイ・サルダナ)は、彼女のボスから思いもかけない申し出を受けます。周囲から怖れられているカルテルのボスが麻薬ビジネスから引退して、彼が長年夢見ていた女性になって永遠に姿を消すのを手伝わねばならなくなります。リタは正義に仕えるよりも犯罪者のゴミ洗浄に長けた大企業で働くことで、その才能をあたら浪費していましたが・・・

★カルテルのボスことフアン・”リトル・ハンズ”・デルモンテ役にガスコン、その妻にセレナ・ゴメスが扮する〈麻薬ミュージカル・コメディ〉のようです。上映後のスタンディングオベーション9分間は、オーディアール映画でも2番目に長かった由、性別移行に固執せず、家族、愛、メキシコに蔓延する暴力の犠牲者というテーマを探求したことで批評家からは高評価を受けていた。そして〈9分間〉のスタンディングオベーションで観客からも受け入れられたことが証明された。いずれ日本語字幕入りで鑑賞できる日が来るでしょう。
★カルラ・ソフィア・ガスコン・ルイスは、1972年マドリードのアルコベンダス生れの52歳、フアン・カルロス・ガスコン→カルラ・ソフィア→カルラ・ソフィア・ガスコンと、時代と作品によってクレジット名が変わる。2018年9月、自叙伝 ”Karsia. Una historia extraordinaria” を出版、性別適合手術を受けてカルラ・ソフィア(Karla Sofía)になったことを発表した。ECAM(マドリード映画オーディオビジュアル学校)の演技科卒、1994年「La Tele es Tuya Colega」でヴォイス出演、映画デビューは1999年、アレックス・カルボ・ソテロの「Se buscan fulmontis」のクラブのジゴロ役、エンリケ・ウルビスの『貸金庫507』(02)、フアン・カルボの「Di que sí」(04)、アントニ・カイマリ・カルデスの「El cura y el veneno」(13)の神父役、映画よりTVシリーズ出演が多い。


(感涙にむせぶカルラ・ソフィア・ガスコンカンヌ映画祭2024ガラ)
★国籍はスペインだが2009年にメキシコに渡り、サルバドール・メヒア製作の「Corazón salvaje」(09~10)にヒターノのブランコ役で出演、テレノベラ賞の新人男優賞にノミネートされた。以来両国のTVシリーズ(9作)や映画(8作)で活躍している。メキシコ映画では、ゲイリー・アラスラキのコミックドラマ「Nosotros, los Nobles」(13)にペドロ・ピンタド、愛称ピーター役で出演している。本作は公開当時、メキシコ映画史上における興行収入ナンバーワンとなったヒット作。2021年、Netflixが英語でリメイク版の製作を発表している。カルラ・ソフィア・ガスコンとして出演したメキシコのTVシリーズ「Rebelde」(22、16話)は、『レベルデ~青春の反逆者たち~』の邦題でNetflixが配信している。
★アドリアナ・パスは、1980年メキシコ・シティ生れの44歳、メキシコ自治大学哲学部で劇作法と演劇を専攻、キューバのロスバニョス映画学校で脚本を学ぶなど、女優でなく監督、脚本家を志望していた。東京国際映画祭2013コンペティション部門にノミネートされ最優秀芸術貢献賞を受賞した、アーロン・フェルナンデスの第2作『エンプティ・アワーズ』(「Las horas muertas」)でヒロインを演じた。カルロス・キュアロンの『ルドとクシ』(09)ほか、マヌエル・マルティン・クエンカの「El autor」(17、「小説家として」)、新しいところではNetflixで配信されている、ロドリゴ・グアルディオラ&ガブリエル・ヌンシオの『人生はコメディじゃない』(21、「El Comediante」)に出演している。『エンプティ・アワーズ』でキャリア紹介をしています。
*アドリアナ・パスのキャリア&フィルモグラフィーは、コチラ⇒2013年11月07日

(アドリアナ・パス、カンヌ映画祭2024フォトコール)
★セレナ・ゴメス(テキサス州1992)は、女優、歌手、ダンサー、ソングライター、モデル、ユニセフ親善大使とすこぶる多才、31歳ながら出演本数も受賞歴も書ききれない。日本語版ウイキペディアに詳細な紹介文があり割愛しますが、オーディアール監督が本作で起用するまでセレナの活躍をご存じなかったことが話題になっています(笑)。ゾーイ・サルダナ(本名ソエ・サルダーニャ、ニュージャージー州1978)は、2009年ジェームズ・キャメロンの『アバター』のネイティリ役で一躍有名になった。『アバター』の続編、「アバター3」(仮題、24)、「アバター4」(26)にも起用されている。映画にテレビに、ヴォイス出演も含めて活躍している。多くが吹き替え版で鑑賞でき、日本語版ウイキペディアあり。

(セレナ・ゴメスとゾーイ・サルダナ、カンヌ映画祭2024フォトコール)
★監督賞のミゲル・ゴメスの「Grand Tour」(ポルトガル)、来年「グランド・ツアー」で公開がアナウンスされている。
★追加情報:『エミリア・ぺレス』の邦題で2025年3月28日公開決定。
ホナス・トゥルエバの新作「Volveréis」*カンヌ映画祭併催の「監督週間」 ― 2024年05月27日 18:00
愛の終わりを盛大に祝う離婚式?

★「監督週間」と「批評家週間」はカンヌ映画祭の公式部門ではないので正確にはカンヌではない。しかし運営母体が違ってもカンヌの一部ではあるので、当ブログでは併催と但し書きを入れている。今回は長編21作と短編を含めると30作がノミネートされた。本体のコンペティション部門にはスペイン映画はゼロでしたが、こちらにはホナス・トゥルエバの10作目となるコメディドラマ「Volveréis」が選ばれた。フランス語タイトルは「Septembre sans attendre」、英題は「The Other Way Around」として紹介されている。波乱万丈な事件は何も起こらないようですが、ヨーロッパ映画賞受賞のニュースが入ってきましたのでアップします。昨年エレナ・マルティン・ヒメノがカタルーニャ語で撮った「Creatura」が受賞した賞で、ガウディ賞2024を席巻したのでした。
★もう一つの「批評家週間」は新人登竜門的な立ち位置で、監督作品2作までが対象、今年は7作選ばれ、中にアルゼンチンのフェデリコ・ルイス(ブエノスアイレス1990)のデビュー作「Simon of the Mauntain」がエントリーされています。新人監督とはいえ短編などで高い評価を得ている監督作品から選ばれることが多い。
「Volveréis」(「Septembre sans attendre」・「The Other Way Around」)
製作: Los Ilusos Films / Alte France Cinéma / Les Films du Worso
監督:ホナス・トゥルエバ
脚本:イチャソ・アラナ、ビト・サンス、ホナス・トゥルエバ
撮影:サンティアゴ・ラカ
編集:マルタ・ベラスコ
音楽:イマン・アマル、アナ・バリャダレス、ギジェルモ・ブリアレス
プロダクション・マネジメント:アンヘレス・ロペス・ゲレーロ
プロダクション・デザイン:ミゲル・アンヘル・レボーリョ
製作者:アレハンドロ・アレナス、シルヴィ・ピアラ、オリヴィエル・ペレ
データ:製作国スペイン=フランス、2024年、言語スペイン語、ロマンティックコメディ、114分、撮影地マドリード郊外ほか、2023年の晩夏から初秋の11月上旬。配給:Elasticaエラスティカ(スペイン)、Arizonaアリゾナ(フランス)、公開:スペイン2024年8月30日、フランス8月28日
映画祭・受賞歴:第77回カンヌ映画祭併催の「監督週間」ノミネート、ヨーロッパ映画賞ヨーロッパ・シネマズ・ラベル受賞
キャスト:イチャソ・アラナ(映画監督のアレ)、ビト・サンス(映画俳優のアレックス)、フェルナンド・トゥルエバ(アレの父親)、ジョン・ヴィアル(脚本家)、他
ストーリー:アレとアレックスのカップルは、15年間の関係を解消して円満に別れることを決意しています。二人はアレの父親のアドバイスにそって、夏の終わりに家族や友人、隣人を招待して結婚式のような盛大なお別れパーティを企画しました。しかしこのニュースは周囲を唖然とさせ、二人が別れる可能性を受け入れられません、何故かというと二人はうまくやってるようだからです。ばかげていて、もの悲しく、ちょっぴり笑えて、古風な優しさに満ちている。観光地から外れたマドリード郊外を舞台に、映画業界の隅っこで働く人々を活写している。

(冷静で賢いアレと少し迷子になっているアレックス、フレームから)
カンヌ初出品でヨーロッパ映画賞受賞!
★パルムドールより一足先に「監督週間」の受賞者が発表されましたが、もともと監督週間自体はコンペティションではないので審査員がいるわけではありません。賞は外部機関によって授与されます。フランスの劇作家・作曲家協会が授与するSACD賞に昨年若くして鬼籍入りしたフランスのソフィー・フィリエールの「This Life Of Mine」が受賞、オープニング作品で評価が高かったようです。欧州映画ネットワークが選ぶヨーロッパ映画賞ヨーロッパ・シネマズ・ラベルにホナス・トゥルエバ、既に日本では報道されている国際映画批評家連盟が選ぶFIPRESCI賞に山中瑤子の『ナミビアの砂漠』が受賞しました。

(受賞を喜ぶ左から、イチャソ・アラナとホナス・トゥルエバ)
★カンヌでのプレス・インタビューでは、「お別れパーティのアイデアは、何年も前から構想していましたが、結局のところ、悲しみが多すぎて、実際にこんなことをする人はおりません。映画は実生活では敢えてできないことをさせてくれます。イチャソ・アラナとビト・サンスの起用は最初から決まっていたので、二人に創作プロセスに参加してもらうことを提案しました。彼らを共犯者として映画全体の構成、キャラクター、セリフに協力してもらい、結局3人共同で脚本を執筆することになった」と語っている。
★マドリードを舞台に選んだのは、自分のよく知っている場所で撮影するのが好きなこと、何かが終わり、何か新しいことが起こっていることが感じられる夏の終わりの雰囲気が重要でした。40度の酷暑のなかでクランクイン、まだ秋だというのにコートを着用、雨が降り氷点下になってしまったと語っている。
★フランスとの合作は初めてだそうで、ハビエル・ラフエンテと共同で設立した制作会社「Los Ilusos Films」とシルヴィ・ピアラのパートナーであるアレハンドロ・アレナスのお蔭で、自然に実現した。パリに本社を置くピアラの制作会社「Les Films du Worso」の協力を得ることができたのは、「とても贅沢なことでした」とも語っている。カンヌに選ばれた一因かもしれない。 因みにスペイン語の〈Iluso〉は、夢想家または騙されやすい人をさします。
★ホナス・トゥルエバ(マドリード1981)は、父フェルナンド・トゥルエバ監督と製作者の母クリスティナ・ウエテの息、ダビ・トゥルエバ監督、ドキュメンタリー作家ハビエル・トゥルエバは叔父にあたる。父親が監督した『泥棒と踊り子』(09)で脚本家デビュー、「Todas las canciones hablan de mí」で監督デビュー、ゴヤ賞2011新人監督賞にノミネートされた。マラガ映画祭2015で審査員特別賞を受賞した「Los exiliados románticos」、ラテンビート2019で上映された『8月のエバ』、ゴヤ賞2022長編ドキュメンタリー賞を受賞したドク・ドラマ4部作「Quien lo impide」などで、キャリア&フィルモグラフィーを紹介をしています。

(仲睦まじいホナス・トゥルエバとイチャソ・アラナ、カンヌにて)
*「Los exiliados románticos」の紹介記事は、コチラ⇒2015年04月23日
*『8月のエバ』の紹介記事は、コチラ⇒2019年06月03日
*「Quien lo impide」の紹介記事は、コチラ⇒2021年08月16日

(イチャソ・アラナ、『8月のエバ』のフレームから)
★2022年の「Tenéis que venir a verla」が、EUフィルムデーズ2023で『とにかく見にきてほしい』という邦題で上映された。これには新作の主役二人イチャソ・アラナとビト・サンスも共演しています。若手ながら日本語字幕入りで鑑賞できる幸運な監督の一人です。
★『8月のエバ』で脚本家デビューした主演のイチャソ・アラナ(1985)は、監督のパートナーで新作でも脚本を共同執筆しています。Netflixで配信された初期の作品「La reconquista」(16、邦題『再会』)、ダニエル・サンチェス・アレバロの『最後列ガールズ』(TVミニシリーズ6話)に出演しています。同じくダビ・トゥルエバ作品の常連でもあるビト・サンスも今回脚本執筆に参画、直近ではマラガ映画祭2024出品のダビ・トゥルエバの「El hombre bueno」に出ている。アレの父親を演じている実父フェルナンド・トゥルエバはIMDbにはクレジットされているが、スクリーンには現れないようです。現れるのは古びたガウンだったり、バスローブらしい(笑)。二人を取り巻く登場人物は、映画業界の端っこで働く人々です。
*『再会』の紹介記事は、コチラ⇒2016年08月11日
*「El hombre bueno」の紹介記事は、コチラ⇒2024年03月08日

(ビト・サンスと共演のホルヘ・サンス、「El hombre bueno」フレームから)
★撮影監督のサンティアゴ・ラカは、「Los ilusos」、『再会』、『8月のエバ』、『とにかく見にきてほしい』ほか、当ブログ紹介のカルロス・ベルムトの『マジカル・ガール』、カルラ・シモンの『悲しみに、こんにちは』、リノ・エスカレラの『さよならが言えなくて』など、慎重なフレーミングと落ち着いたトーンで観客を魅了している。まだ予告編はアップされていないが楽しみである。また本作には40年代のハリウッド再婚コメディ、例えばケーリー・グラントが早口でまくしたてるハワード・ホークスの『ヒズ・ガール・フライデー』の2024年版と紹介されているから、離婚式ではなく再婚式のリハーサルでしょうか。
スペイン移住を決意したアルフレッド・カストロ*チリの才能流出 ― 2024年05月23日 09:57
「チリではプラチナ賞なんか誰も気にかけない!」

(ズームでインタビューに応じるカストロ、2024年4月25日、メキシコ・シティ)
★先月、4個めのイベロアメリカ・プラチナ賞(TV部門男優賞)を受賞したアルフレッド・カストロのスペイン移住のインタビュー記事に接しました。ニコラス・アクーニャの「Los mil días de Allende」(全4話、仮題「アジェンデの1000日」)でサルバドール・アジェンデ大統領(1970~73)を体現した演技で受賞したのですが、このドラマ出演とスペイン移住がやはりリンクしているようです。ラテンアメリカ諸国のなかでは、チリは経済こそ比較的安定していますが、文化軽視が顕著で芸術にはあまり敬意を払いません。多くのシネアストがヨーロッパやアメリカを目指す要因の一つです。インタビュアーは2022年からチリに在住するエルパイスの記者アントニア・ラボルデ、メキシコのプロダクションのための撮影が終了したばかりのカストロとズームでインタビュー、以下はその要約とカストロのキャリア&フィルモグラフィーを織り交ぜて紹介したい。

(アジェンデ大統領に変身するためのメイクに毎日3時間を要した)
★チリだけでなくアルゼンチンを筆頭にラテンアメリカ諸国やスペインなどの映画に出演していることもあって、当ブログでも記事にすることが多い俳優の一人です。しかしその都度近況をアップすることはあっても纏まったキャリア紹介をしておりませんでした。パブロ・ララインの長編デビュー作「Fuga」、続く「ピノチェト政権三部作」(『トニー・マネロ』『ポスト・モーテム』『Noノー』)、『ザ・クラブ』や『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』、『伯爵』と監督の主要作品で存在感を示しているパフォーマーです。

(観客を震撼させた『トニー・マネロ』のポスター)
★アルフレッド・アルトゥール・カストロ・ゴメスは、1955年サンティアゴ生れの68歳、俳優、舞台演出家、映画監督、その幅広い演技力でラテンアメリカを代表する俳優の一人、特にチリの舞台芸術ではもっとも高く評価されている演技者及び演出家と言われています。5人兄弟でサンティアゴで育った。母親を10歳のとき癌で失っている。ラス・コンデスのセント・ガブリエル校、プロビデンシアのケント校、ラス・コンデスのリセオ・デ・オンブレス第11校で学んだ。1977年チリ大学芸術学部演劇科卒、同年APESエンターテイメント・ジャーナリスト協会賞を受賞する。同じくイギリスのピーター・シェイファーの「Equus」で舞台デビュー、専門家から高い評価を得る。
★1978年から1981年のあいだ、創設者の一人でもあったテアトロ・イティネランテで働く。1982年、チリ国営テレビ制作の「De cara al mañana」でTVでのキャリアをスタートさせた。翌年ブリティッシュ・カウンシルの奨学金を得てロンドンに渡り、ロンドン音楽演劇アカデミーで学んだ。1989年にはフランス政府の奨学金を受け、パリ、ストラスブール、リヨンで舞台演出の腕を磨き、帰国後テアトロ・ラ・メモリアを設立したが、2013年資金難で閉鎖した。彼は、チリの舞台芸術で高く評価されている演技者であり演出家ではあるが、大衆向けではない。傾向として登場人物に複数の人格をあたえ、それを厳密に具現化すること、比喩に満ちた演出で知られています。「私は、2000人が見に来てくれる劇場を作っているわけでも、起承転結のある物語を作っているわけでもありません」と語っている。
★その後フェルナンド・ゴンサレス演劇アカデミーの教師及び副理事長として働く。カトリック大学の演劇のため、ニカノール・パラが翻案した「リア王」、ホセ・ドノソの小説にインスパイアーされた「Casa de luna」他を上演した。2004年にサラ・ケインの戯曲「Psicosis 4:48」を演出、翌年、チリのアーティストに与えられるアルタソル賞を演劇部門で受賞、主演のクラウディア・ディ・ジローラモも女優賞にノミネートされた。2014年、テネシー・ウィリアムズの『欲望という名の電車』を演出、キャストはチリ演劇界を牽引するアンパロ・ノゲラ、マルセロ・アロンソ、ルイス・ニエッコ、パロマ・モレノを起用した。2020年3月日刊紙「エル・メルクリオ」によって2010年代の最優秀演劇俳優に選ばれている。
★1998年、チリ国営テレビ局に入社、ビセンテ・サバティーニ監督と緊密に協力し、TVシリーズの黄金時代(1990~2005)といわれたシリーズに出演して絶大な人気を博した。2006年、上述したパブロ・ララインの長編デビュー作「Fuga」に脇役で出演、2008年「ピノチェト政権三部作」の第1部となる『トニー・マネロ』に主演、その演技が批評家から絶賛された。第2部『ポスト・モーテム』、第3部『No /ノー』」と三部作すべてに出演、以後ララインとのタッグは『ザ・クラブ』から『伯爵』まで途絶えることがない。

(女装に挑戦したロドリゴ・セプルベダの「Tengo miedo torero」のフレームから)
★2015年、初めて金獅子賞をラテンアメリカにもたらしたロレンソ・ビガスの『彼方から』に主演したこともあってか、その芸術的キャリアが評価されて、2019年にベネチア映画祭からスターライト国際映画賞が授与された。以下にTVシリーズ、短編以外の主なフィルモグラフィーをアップしておきます。(ゴチックは当ブログ紹介作品、主な受賞歴を付記した)

(金獅子賞を受賞したロレンソ・ビガスの『彼方から』で現地入りしたカストロ)
◎主なフィルモグラフィー
2006年「Fuga」監督パブロ・ラライン
2008年「La buena vida」(『サンティアゴの光』)同アンドレス・ウッド
2008年「Tony Manero」(『トニー・マネロ』「ピノチェト三部作」第1部)
同パブロ・ラライン
アルタソル2009男優賞、金のツバキカズラ2008男優賞、ハバナFF2008男優賞、他
2010年「Post Mortem」(『ポスト・モーテム』「ピノチェト三部作」第2部)同上
グアダラハラ映画祭2011男優賞
2012年「No」(『No/ノー』「ピノチェト三部作」第3部)同上
2013年「Carne de perro」監督フェルナンド・グッゾーニ
2015年「Desde allá」(『彼方から』ベネチアFF金獅子賞)
同ロレンソ・ビガス(ベネズエラ) テッサロニキ映画祭2015男優賞
2015年「El club」(『ザ・クラブ』ベルリンFFグランプリ審査員賞)同パブロ・ラライン
フェニックス主演男優賞、マル・デル・プラタFF男優賞
2016年「Neruda」(『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』カンヌFF「監督週間」)同上
2017年「La cordillera」(『サミット』)同サンティアゴ・ミトレ(アルゼンチン)
2017年「Los perros」(カンヌFF「批評家週間」)同マルセラ・サイド
イベロアメリカ・プラチナ2018主演男優賞
2018年「Museo」(ベルリンFF)同アロンソ・ルイスパラシオス(メキシコ)
2019年「El principe」(ベネチアFF批評家週間クィア賞)同セバスティアン・ムニョス
イベロアメリカ・プラチナ2021助演男優賞
2019年「Algunas bestias / Some Beasts」(サンセバスチャンFF)
同ホルヘ・リケルメ・セラーノ
2020年「Tengo miedo torero / My Tender Matador」同ロドリゴ・セプルベダ
グアダラハラFF2022メスカル男優賞&マゲイ演技賞、カレウチェ2022主演男優賞
2020年「Karnawal」同フアン・パブロ・フェリックス
グアダラハラFF2020男優賞&メスカル男優賞、銀のコンドル2022助演男優賞、
マラガFF2021銀のビスナガ助演男優賞、イベロアメリカ・プラチナ2022助演男優賞
2021年「Las consecuencias」(マラガFF批評家審査員特別賞)
同クラウディア・ピント(ベネズエラ)
2022年「El suplente」(『代行教師』サンセバスチャンFF)
同ディエゴ・レルマン(アルゼンチン)
2022年「La vaca que canto una cancion hacia el futuro」同フランシスカ・アレグリア
2023年「Los colonos」(『開拓者たち』カンヌFF「ある視点」)同フェリペ・ガルベス
2023年「El viento que arrasa」同パウラ・エルナンデス
2023年「El conde」(『伯爵』)同パブロ・ラライン
★フランコ没後半世紀が経っても多くの信奉者がいるように、チリのピノチェト信奉者はしっかり社会に根付いている。社会主義者アジェンデ大統領の最後の3年間(1970~73)を描いたTVミニシリーズ「Los mil días de Allende」で大統領に扮した俳優を攻撃したり、一部のメディアがタイトルを無視したりしたことがチリ脱出の引き金になっているようです。要約すると、まずはスペインに部分的に軸足を移し、本格的な移住は来年早々になる。このことが吉と出るかどうか分からないが、チリとの関係は今後も続ける。スペイン国籍は民主的記憶法のお蔭で既に取得している。母方の祖父がカンタブリア出身であったこと、ゴメス家の歴史を書いたスペインの従兄弟と知り合いだったことが取得に幸いした。母方の苗字がゴメスということで、ルーツを徹底的に調べることができた。

(『ポスト・モーテム』右は共演者アントニア・セへルス)
★TVシリーズ「アジェンデ」はベルギー、フランス、スペインでの放映が決定しており、国内より海外での関心の高さが顕著です。アウグスト・ピノチェト陸軍大将が犯した軍事クーデタから約半世紀が経つが、チリでの総括は当然のことながら終わっていない。両陣営の対立は相変わらずアンタッチャブルな側面を持っている。「パンを買いに出かけたら無事に帰宅できる、通りが憎しみに包まれていないところで暮らしたい」と、チリで最も多い受賞歴を持つカストロはインタビューに応えている。〈ボット〉はネガティブなコメントを集め、プレスはそっぽを向く。チリでは文化など不愉快、海外で評価される人は無価値、「4個のプラチナ賞など誰も重要視しない!」とカストロ。

(パブロ・ララインの『ザ・クラブ』のフレームから)
★移住を決意した理由の一つに68歳という微妙な年齢もあるようです。「私はもう若くない」と、引退するには若すぎるがチリで仕事を続けるのはそう簡単ではない。スペインにいるエージェントたちから「アルフレッド、もしそのうち考えるよなら、来るチャンスはないよ」と言われた。しかし「私にとってチリは常に私を育ててくれ、楽しんだところだ。良きにつけ悪しきにつけ、チリは私の祖国なんです」と。
★60代というのは興味ある世代です。「スペイン語を母語とするコンテストの機会はそんなに多くない。私の世代には素晴らしい俳優がいるが、5~6人くらいです。自分は壁の隙間に入っている」。世間に〈高齢者〉と一括りされているが、旅をして、恋をして、仕事をして、SNSを自由に操作しているアクティブな〈60代の若者〉もいる。「このコンセプトが気に入った。自分にピッタリだよ」。幸運を祈りますが、わくわくするような映画を待っています。
◎主な関連記事
*「ピノチェト政権三部作」の紹介記事は、コチラ⇒2015年02月22日
*『ザ・クラブ』の紹介記事は、コチラ⇒2015年10月18日
*『彼方から』の紹介記事は、コチラ⇒2016年09月30日
*『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』の紹介記事は、コチラ⇒2016年05月16日
*『サミット』の紹介記事は、コチラ⇒2017年05月18日
*「Los perros」の紹介記事は、コチラ⇒2017年05月01日
*「Museo」の紹介記事は、コチラ⇒2018年02月19日
*「Algunas bestias / Some Beasts」の紹介記事は、コチラ⇒2019年08月13日
*「Tengo miedo torero / My Tender Matador」の関連記事は、コチラ⇒2019年02月18日
*「Karnawal」の紹介記事は、コチラ⇒2021年06月13日
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『エル・ニド』の監督ハイメ・デ・アルミニャン逝く*訃報 ― 2024年05月12日 14:25
ブラックコメディ「Mi querida señorita」に隠された批判精神

(在りし日のハイメ・デ・アルミニャン)
★去る4月9日、フランコ時代を生き抜いた監督にして脚本家、戯曲家のハイメ・デ・アルミニャンが97歳の長い生涯を閉じました。映画、テレビ、舞台と半世紀以上にわたって活躍した。1927年3月9日マドリード生れ、スペイン内戦時代の子供としてサンセバスティアンで育ちました。マドリードのコンプルテンセ大学で法学を学び、卒業後は弁護士のかたわら雑誌に記事を書き、1957年にTVシリーズの脚本家としてスタートを切りました。1950年代にはカルデロン・デ・ラ・バルカ賞やロペ・デ・ベガ賞など受賞歴のある劇作家としての地位を築いていた。当時人気のあったホセ・マリア・フォルケ監督作品の脚本を手掛けていました。以下に簡単なキャリア&フィルモグラフィーをアップしております。
★「Mi querida señorita」(72)と「El nido」(80)で2度の米アカデミー賞外国語映画(現在の国際長編映画)部門にノミネートされながら、日本での公開作品はおそらく『エル・ニド』1作かもしれません。妻を亡くしたばかりの初老の孤独な男にエクトル・アルテリオ、早熟で子供特有の攻撃性と嫉妬心を見事に演じた13歳の女の子にアナ・トレント、二人の複雑に絡み合った愛憎関係、誰からも理解されない無償の愛を描いた作品。民主主義移行期とはいえフランコ時代の残滓があった時代の映画としては斬新なテーマだった。1984年11月に開催された「第1回スペイン映画祭」(全10作)に『巣』の邦題で上映された後、1987年に上記のタイトル『エル・ニド』として公開されました。

(エクトル・アルテリオとアナ・トレント、『エル・ニド』から)

(日本語版のチラシ)
★この映画祭には『クエンカ事件』のピラール・ミロー監督を団長にフアン・アントニオ・バルデム、『血の婚礼』のカルロス・サウラ、『庭の悪魔』のマヌエル・グティエレス・アラゴン、『ミケルの死』のイマノル・ウリベ、『パスクアル・ドゥアルテ』のリカルド・フランコ、それにハイメ・デ・アルミニャンが各々自身の新作を携えて来日しました。この映画祭にはビクトル・エリセの『エル・スール 南』も上映されましたが、来日は翌年の公開まで待たされました。20世紀スペイン映画史に残る粒揃いだったことが分かります。
★アカデミー賞外国語映画部門にノミネートされた「Mi querida señorita」(仮題「愛しのお嬢さま」)は、〈お嬢さま〉として育てられながら中年になって男性であることが分かり、性転換手術を受け、かつて女中として雇っていた若い女性に恋をするコメディ。女性が社会に出ることを求めていない教育制度のせいで、男性として生きようとするも仕事が見つからない。成人学級に入学して高等教育を受けるなどコメディ仕立てでカモフラージュされているが、性転換、タブーであった性的指向をテーマにしており、随所に社会批判が首をだす。フランコ検閲時代によく脚本がパスしたと思わずにいられない。脚本はホセ・ルイス・ボラウとの共同執筆、主役のホセ・ルイス・ロペス・バスケスがシカゴ映画祭1972の銀のヒューゴー賞主演男優賞を受賞した他、シネマ・ライターズ・サークル賞(監督・脚本・男優賞)、サン・ジョルディ賞1973の作品賞ほか受賞歴多数。

★第28回ゴヤ賞2014の栄誉賞を受賞、当時すでに86歳でしたが「シネアストに引退なんて言葉はないんです。私と同じ思いのシネアストたちは引退なんかできないのです」と語っていました。日刊紙エル・ムンドのコラムニストだったし、戯曲を執筆しておりましたから現役でした。しかし、映画は2008年の「14, Fabian Road」を最後に撮っておりません。本作はマラガ映画祭にノミネートされ、共同執筆した子息エドゥアルド・アルミニャンと銀のビスナガ脚本賞を受賞しました。愛の物語とはいえ、復讐、秘密、不信、許し、忘却が入りまじって語られ、何よりもキャストが素晴らしかった。『エル・ニド』主演のアナ・トレント、1995年の「El palomo cojo」出演のアンヘラ・モリーナ、アルゼンチン出身のフリエタ・カルディナリ、イタリアのオメロ・アントヌッティ、フェレ・マルティネスなどが起用された。
★代表作の一つ「El palomo cojo」には、1989年TVシリーズのヒット作「Juncal」(全7話)で主役の元花形闘牛士フンカルに扮したパコ・ラバル、アルモドバルのかつての「ミューズ」たちのカルメン・マウラやマリア・バランコも初めて参加した。サンセバスチャン映画祭セクション・オフィシアルにノミネートされ、翌年のゴヤ賞にも脚色賞にノミネートされましたが受賞は叶いませんでした。結局、ゴヤ賞は2014年の栄誉賞だけ、当時のスペイン映画アカデミー会長エンリケ・ゴンサレス・マチョからトロフィーを受けとりました。


(ハイメ・デ・アルミニャン、2014年1月20日、ゴヤ賞ガラ)
★1974年の「El amor del capitán Brando」は、ベルリン映画祭に出品され、観客賞を受賞、ナショナル・シンジケート・オブ・スペクタクル監督賞を受賞している。亡命先から帰国した初老の男と女教師、その教え子との三角関係を描いている。性的、政治的抑圧をテーマにすることからベルリンとは相性がよく、1985年の「Stico」も出品され、フェルナンド・フェルナン・ゴメスに銀熊主演男優賞をもたらした。
★時には過小評価されることもあったが、新しい世代のロス・ハビスことハビエル・アンブロッシとハビエル・カルボによって「Mi querida señorita」のリメイク版が製作されているようです。Netflixということなのでいずれ字幕入りで鑑賞できるかもしれません。

(ポスターとロス・ハビス)
A.J. バヨナ監督がパルムドールの審査員に*カンヌ映画祭2024 ― 2024年05月07日 16:25
審査委員長は『バービー』のグレタ・ガーウィグ監督に!

★間もなく開催される第77回カンヌ映画祭2024(5月14日~25日)のコンペティション部門の審査団が発表になっています。日本からも是枝裕和監督が選出されたことがニュースになっていました。審査団の委員長に『バービー』や『レディ・バード』のグレタ・ガーウィグ監督(1983)が選ばれ、女性監督が委員長を統べるのはジェーン・カンピオン以来とか。女優、脚本家としての豊富なキャリアの持ち主だが長編映画としては『バービー』が3作目になり、40歳の委員長は最年少ではないがいかにも若い。以下の9名がパルムドールを選ぶ重責を担うことになりました。
★審査委員長グレタ・ガーウィグ(米の監督・脚本家・女優)、オマール・シー(仏の俳優・製作者)、エブル・ジェイラン(トルコの脚本家・写真家)、リリー・グラッドストーン(米の女優)、エヴァ・グリーン(仏の女優)、ナディーン・ラバキー(レバノンの監督・脚本家・女優)、A.J. バヨナ(西の監督・脚本家・製作者)、ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ(伊の俳優)、是枝裕和(監督・脚本家)

(審査委員長グレタ・ガーウィグ監督)

★バヨナ監督は、長編デビュー作『永遠のこどもたち』(07)がカンヌ映画祭と併催の「批評家週間」にノミネートされた以外、本祭との関りは薄く、最近イベロアメリカ・プラチナ賞6冠の『雪山の絆』もベネチア映画祭でした。オマール・シーは、東京国際映画祭2011のさくらグランプリ受賞作『最強のふたり』で刑務所から出たばかりで裕福な貴族の介護者を演じた俳優、ナディーン・ラバキーは、2018年の審査員賞を受賞した『存在のない子供たち』の監督、2018年は是枝監督が『万引き家族』でパルムドールを受賞した年でした。

(A.J. バヨナ監督、ベネチア映画祭2023年9月10日)
★興味深いのがトルコのエブル・ジェイランで、カンヌの常連監督である夫ヌリ・ビルゲ・ジェイランの共同脚本家として活躍している。2003年のグランプリ『冬の街』、2008年の監督賞『スリー・モンキーズ』、2011年のグランプリ『昔々、アナトリアで』、そして劇場初公開となった2014年のパルムドール『雪の轍/ウィンター・スリープ』などの脚本を共同で執筆している。2014年の審査委員長がジェーン・カンピオン監督でした。
★また異色の審査員がリリー・グラッドストーン、先住民の血をひく女優で、2016年のケリー・ライヒャルトの群像劇『ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択』で、複数の助演女優賞を受賞している。またスコセッシ監督の『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』で、先住民出身の女優として初めてゴールデングローブ賞2024主演女優賞を受賞したばかり、今年の審査団はコンペティションの作品以上に興味が尽きない。
★スペインからは、カンヌ本体とは別組織が運営する「批評家週間」(5月15日~24日)の審査員に、『ザ・ビースト』(公開タイトル『理想郷』)のロドリゴ・ソロゴジェンが選ばれています。本作は2022年カンヌ・プレミェール部門で上映されました。彼にしろバヨナにしろ、比較的若手ながらバランス感覚の優れたシネアストが審査員に選ばれるようになりました。

(本作でセザール外国映画賞を受賞したロドリゴ・ソロゴジェン、2023年2月24日)
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