ヌリア・ヒメネスの「My Mexican Bretzel」*サンセバスチャン映画祭2020 ⑩2020年09月14日 10:33

        メイド・イン・スペイン部門――ヌリア・ヒメネスの「My Mexican Bretzel

 

      

 

912日に閉幕したベネチア映画祭で黒沢清『スパイの妻』が監督賞(銀獅子賞)を受賞しました。本作はサンセバスチャン映画祭SSIFFでもペルラス部門のオープニング作品に選ばれています。その昔、ホラー映画『回路』がカンヌ映画祭2001「ある視点」で国際批評家連盟賞を受賞したときには、黒澤明監督の縁戚関係者と間違われたが、もうそんな誤解は昔話になりました。クラスターが起きたのか起きなかったのか、とにかくベネチアは閉幕しました。

 

★メイド・イン・スペイン部門の中から、気になる映画を時間が許す限りアップする予定ですが、先ずヌリア・ヒメネスMy Mexican Bretzelが邦題『メキシカン・プレッツェル』で、なら国際映画祭2020918日~22日)のコンペティション部門にノミネートされておりますので、本作からスタートします。また本映画祭では「カタラン・フォーカス」として、IRLインスティテュート・ラモン・リュイスとの共催でカタルーニャの女性監督作品6作が上映されます。その中には当ブログSSIFF 2019でご紹介した、ルシア・アレマニーのデビュー作「La inocencia」(19『イノセンス』)とベレン・フネスの「La hija de un ladrón」(19『泥棒の娘~サラの選択~』)が含まれており、嬉しいサプライズです。後者は主演のグレタ・フェルナンデスが女優賞(銀貝賞)を受賞、翌年のゴヤ賞2020ではベレン・フネスが新人監督賞を受賞している力作です。奈良県はコロナウイリス感染者も落ち着いているようなので無事終了することを願っています。

   

 

My Mexican Bretzel『メキシカン・プレッツェル』スペイン、2019

製作:BRETZEL & TEQUILA FILM PRODUCTIONS(ヌリア・ヒメネス)/

   AVALON PRODUCTORA CINEMATOGRAFICA(マリア・サモラ、ステファン・シュミッツ)

監督・脚本:ヌリア・ヒメネス・ロラング

撮影:フランク・A・ロラング、イルセ・G・ロラング

編集:クリストバル・フェルナンデス、ヌリア・ヒメネス

音楽:NO HAY NO HAY

 

データ:製作国スペイン、スペイン語、2019、ドキュメンタリー・ドラマ、74

映画祭・受賞歴:ヒホン映画祭2019スペイン映画部門の作品・監督・脚本賞受賞、ロッテルダム映画祭2020ワールドプレミア、Found Footage賞、D'Aバルセロナ映画祭2020観客賞を受賞、サンセバスチャン映画祭メイド・イン・スペイン部門上映、なら国際映画祭2020コンペティション部門ノミネート、ほか

 

解説:映画はインテリ階級の裕福な女性ビビアン・バレットの日記と、夫のレオン・バレットが前世紀の40年代から60年代にかけて、スーパー8ミリと16ミリで妻を撮影したアーカイブ資料を結び付けている。YouTubeで流れるフィルムは撮影されたばかりのように鮮明で美しく、どのように保存されていたのか完成度の高い映像に驚かされる。無声の部分と後から追加した飛行機、車、列車、風の音で構成され、ナレーションの代わりにビビアンのエッセイ風の日記で構成されている。

 

      

 

  監督キャリア&フィルモグラフィー

ヌリア・ヒメネス・ロラング(バルセロナ1976)は、監督、脚本家、製作者。ジャーナリズム、国際関係、ドキュメンタリー映画の制作を学んだ後、セミナー参加、イサキ・ラクエスタ、ビルヒニア・ガルシア・デル・ピノ、パトリシオ・グスマン、フレデリック・ワイズマンのようなシネアストが指導するクラスで知識を蓄積している。2017年短編ドキュメンタリーKafeneioでデビュー、ドキュメンタリー・マドリードやMIDBOで上映された。本作『メキシカン・プレッツェル』が長編第1作。

 

       

                  (ヌリア・ヒメネス)

 

1分程度の予告編で驚くのは、ビビアンの夫レオンが撮影したというそのヴィンテージ映像です。多くの批評家が「ダグラス・サークの映画に典型的なテクニカラーで撮られている」と口を揃える。ドイツ出身の監督だが、妻がユダヤ人だったことでアメリカに亡命、1950年代に撮ったハリウッド映画は、本邦でも何作も公開されている。当時を知るオールドファンにはロック・ハドソン、ローレン・バコールなど出演俳優の名前からして懐かしい。世界の都市、ニューヨーク、ロスアンゼルス、サンフランシスコ、バルセロナ、ベネチア、リヨンなどを訪れ、いみじくも古いヨーロッパやアメリカへのロマンティックな旅に観客を誘っている。観客賞受賞の所以です。

 

        

               (ビビアンとレオン・バレット)

 

★映画は「嘘は真実を語るためのもう一つの方法に過ぎない」というParavadin Kanvar Kharjappali(パラバディン・カンバール・カージャッパリ?)という作家の言葉で始まるようです。ビビアンの伯父の家にあった赤表紙の本から引用したというが、グーグルで検索しても見つかりません、架空の作家のようですから。勿論ビビアンの声も聞くことができません。こういう作品は見るに限るのですが、ドキュメンタリー映画と簡単に括れない、現実とフィクションが交じり合った偽りのドキュメンタリーとでも言うしかない。海の中央にいる女性とお菓子のプレッツェルというタイトルを組み合わせたポスターも謎めいている。