クラウディア・ピントの「Las consecuencias」*マラガ映画祭2021 ㉓ ― 2021年07月01日 20:31
クラウディア・ピント、第2作「Las consecuencias」で批評家審査員特別賞

★クラウディア・ピントはベネズエラ出身ですが、本作「Las consecuencias」はスペイン=オランダ=ベルギー合作の映画です。ご存知の通り故国ベネズエラは政情不安が続いて映画製作どころではありません。主演女優のフアナ・アコスタはコロンビアのカリ生れ、共演者アルフレッド・カストロはチリ出身、今回助演女優賞を受賞したマリア・ロマニジョス、カルメ・エリアス、ソニア・アルマルチャはスペイン、エクトル・アルテリオはアルゼンチン、とキャスト陣も国際的です。音楽監督、撮影監督、編集はデビュー作と同じ布陣、監督と共同で脚本を執筆したビンセント・バリエレ以下、音響、美術などスタッフは概ねベネズエラ・サイドが担当しています。

(本作をプレゼンするクラウディア・ピント、5月25日マドリード)
「Las consecuencias」2021年
製作:Sin Rodeos Films / Las Consecuencias AIE / N279 Entertaiment(オランダ)/
Potemkino(ベルギー)/ Erase Una Vez Films(スペイン)
協賛:TVE / TV3 / A Punto Media / バレンシア州TV
監督:クラウディア・ピント・エンペラドール
脚本:クラウディア・ピント・エンペラドール、エドゥアルド・サンチェス・ルへレス
撮影:ガボ(ガブリエル)・ゲーラ
音楽:ビンセント・バリエレ
編集:エレナ・ルイス
美術:フロリス・ウィレム・ボス
音響:ダーク・ボンベイ
キャスティング:アナ・サインス=トロパガ、パトリシア・アルバレス・デ・ミランダ
衣装デザイン:マノン・ブロム
メイクアップ&ヘアー:アランチャ・フェルナンデス(ヘアー)、サライ・ロドリゲス(メイク)
製作者:ジョルディ・リョルカ・リナレス(エグゼクティブ/プロデューサー)、
エルス・ヴァンデヴォルスト(オランダ)、クラウディア・ピント、
アンヘレス・エルナンデス、ヤデラ・アバロス他
データ:製作国スペイン=オランダ=ベルギー、スペイン語、2021年、サイコ・スリラー、96分、撮影地カナリア諸島のラ・ゴメラ、ラ・パルマ、バレンシア州のアリカンテ、ベニドルム、撮影期間2019年5月18日~6月27日、スペイン公開2021年9月17日。販売Film Factory
映画祭・受賞歴:第24回マラガ映画祭セクション・オフィシアル部門プレミアム(6月11日)、銀のビスナガ批評家審査員特別賞、同助演女優賞(マリア・ロマニジョス)受賞
キャスト:フアナ・アコスタ(ファビオラ)、アルフレッド・カストロ(父)、カルメ・エリアス(母)、マリア・ロマニジョス(娘ガビ)、エクトル・アルテリオ、ソニア・アルマルチャ、クリスティアン・チェカ、エンリケ・ヒメノ・ペドロス、他
ストーリー:最近夫をダイビング中の事故で亡くしたファビオラは、思春期の娘ガビと一緒に人生をやり直そうと家族の住むカナリア諸島に浮かぶ小さな火山島へ、長らく疎遠だった父親と連れ立って旅に出る。家族は再会するが、ファビオラは家族になにか秘密があるように感じる。確かな証拠があるわけではないが、彼女の直感はすべてが見た目通りでないといっている。しかし彼女は見つかるかもしれないものへの怖れと、その答えを知る必要があるのかどうかで引き裂かれている。他人の私事に何処まで踏み込めるでしょうか。愛する人を守るための嘘は何処までなら許されるのでしょうか。母性への恐れから生まれたエモーショナルなサイコ・スリラー。怖れ、愛、嫉妬、そして火山島の風景も重要なテーマの一つ。

(小さな火山島を目指すファビオラと父親、映画から)
文化の混合は物語を豊かにし、映画を普遍的なものにする
★監督紹介:クラウディア・ピント・エンペラドール、1977年カラカス生れ、監督、脚本家、製作者。1998年、カラカスのアンドレス・ベジョ・カトリック大学で視聴覚社会情報学を専攻、卒業する。現在はスペインのバレンシアに移って映画製作をしている。短編「Una voz tímida en un concierto hueco」(01)、「El silencio de los sapos」(06)、「Todo recto」(07)、長編デビュー作「La distancia más larga」(13、ベネズエラ=スペイン合作)など。
★「La distancia más larga」については、モントリオール映画祭2013で優れたラテンアメリカ映画に贈られるグラウベル・ローシャ賞受賞を皮切りに国際映画祭で17賞している。映画賞はイベロアメリカ・プラチナ賞2015オペラ・プリマ賞、ゴヤ賞2015イベロアメリカ映画賞部門ノミネート。映画祭受賞歴はモントリオールのほか、ウエルバ・ラテンアメリカ2013観客賞、パナマ2015観客賞、クリーブランド女性監督賞、ヘルシンキ・ラテンアメリカ観客賞、トリエステ・イベロアメリカ批評家特別賞などを受賞。ハバナ、トゥールーズ・ラテンアメリカ、ヒホン、各映画祭にノミネートされた。
*「La distancia más larga」紹介は、コチラ⇒2013年09月05日/2015年02月07日

(数々の受賞歴を配したデビュー作のポスター)
★2作目が本作「Las consecuensias」である。サンセバスチャン映画祭の合作フォーラムに参加、ユーリマージュ賞Eurimages(欧州評議会文化支援基金、1989年設立)を受賞した。「このフォーラムに参加して、オランダやベルギーのシネアストと交流したことは、私にとって非常に興味深いものでした。文化と見解の混合は物語を豊かにし、映画を普遍的なものにします。それは私の望んだことでもあったのです」と語っている。2006年からTVシリーズの監督と映画製作を両立させている。
8年ぶりの長編2作目――「彼らは愛する方法を知りません」と監督
★8年ぶりの新作というのも驚きですが、ピント監督によると「製作には多額の資金が必要ですから、それが私にとって本当に重要な何かをもっているかどうか自問します。新作は母性への怖れから生まれました。というのも丁度妊娠していて完成できるか分かりませんでした。間違ったことをして娘を危険に晒してしまう母親はどうなるのだろう。娘がドアを閉めて沈黙してしまうとしたら最悪です。物語は娘が危険に晒されていると想像している母親と娘の闘いを描きますが、母親に確信はなく、それは不確実な怖れから生まれてきます」とRTVEスペイン国営放送で語っています。

(撮影中のフアナ・アコスタ、マリア・ロマニジョス、監督、アルフレッド・カストロ)
★家族の秘密が語られますが、「私たちは敷物の下に隠しているものについては表立って話しません。多くの場合、他人を守るためには沈黙は金なのです。こうして秘密は正当化されます。まだ傷は癒えていません。正しいことをしたいと思っていますが、その方法が分かりません、彼らは愛する方法を知らないのです」と監督。キャスティングについて「フアナ(・アコスタ)はとても勇気のある女優と言わざるを得ません。彼女のことはよく知りませんでしたが、素晴らしい女優、とてもラッキーでした。彼女はこの島の人だと直ぐに私に気づかせたのです。外観だけでなく印象的なオーラを放っていました。私は『あなたと一緒にやりたい、二人なら何でもできる』と言いました」とアコスタの第一印象を語っています。
★キャスト紹介:主役ファビオラ役のフアナ・アコスタは、1976年コロンビアのカリ生れ、監督と同世代の女優、昨年のマラガ映画祭にベルナベ・リコの「El inconveniente」で現地入り、主役のキティ・マンベールが女優賞を受賞している。デビューはコロンビアのTVシリーズでしたが、2000年ごろからスペインに軸足をおいている。シリアス・ドラマ(「Tiempo sin aire」、「Anna」)からコメディ(「Jefe」)まで演技の幅は広い。既にキャリア&フィルモグラフィーを紹介をしています。受賞歴はアレックス・デ・ラ・イグレシアの「Perfectos desconocidos」でフォトグラマス・デ・プラタ2018女優賞、ジャック・トゥールモンド・ビダルの「Anna」の主演でコロンビアのマコンド賞2016、ウエルバ映画祭2019ウエルバ市賞などを受賞している。まだゴヤ賞はノミネートもない。
★2003年、彼女の一目惚れで始まったエルネスト・アルテリオとの間に一人娘がいますが、2018年にパートナーを解消、正式には結婚していなかった。新恋人はパリ在住のフランスの実業家チャールズ・アラゼット、幼児を含む4人の子供がいる。本作出演のエクトル・アルテリオは実父です。
*フアナ・アコスタのキャリア&フィルモグラフィーは、コチラ⇒2018年07月11日

(ファビオラと父親、映画から)

(オシドリ夫婦といわれていた頃のフアナとエルネスト・アルテリオ、2017年2月)
★父親役のアルフレッド・カストロは、1955年チリのサンティアゴ生れ、俳優、舞台演出家。1982年TVシリーズでスタート、既に50本以上に出演しているチリを代表する俳優。人間の暗部を掘り起こす登場人物を演じつづけ、チリ国内だけでなくラテンアメリカ各国で活躍している。今年のマラガでは、フアン・パブロ・フェリックスの「Karnawal」(アルゼンチン)もセクション・オフィシアル部門にノミネートされ、予想通り銀のビスナガ助演男優賞を受賞している。

(銀のビスナガ男優賞受賞のプレス会見、6月13日)
★パブロ・ラライン映画(『トニー・マネロ』『ザ・クラブ』『No』)出演が有名だが、ラテンアメリカに初の金獅子賞をもたらしたベネズエラのロレンソ・ビガスとタッグを組んだ『彼方から』(15)に主演している。『ザ・クラブ』でイベロアメリカ・フェニックス2015主演男優賞、マルセラ・サイドの「Los perros」(17)でイベロアメリカ・プラチナ2018男優賞など受賞歴多数。俳優に贈られるマラガ―スール賞がラテンアメリカから選ばれるとしたら、カストロを一番にあげておきたい。
(2018年のギレルモ・デル・トロ、今年のアメナバルの監督受賞は異例です)
*「Karnawal」の紹介記事は、コチラ⇒2021年06月13日
*『ザ・クラブ』『No』の紹介記事は、コチラ⇒2015年02月22日/同年10月18日
*『彼方から』の紹介記事は、コチラ⇒2016年09月30日
*「Los perros」の紹介記事は、コチラ⇒2017年05月01日

(カナリア諸島のラ・ゴメラの浜辺に佇むアルフレッド・カストロ)

(父と娘、アコスタとカストロ、中央はロマニジョス、映画から)
★母親役のカルメ・エリアスは、1951年バルセロナ生れ、舞台俳優を目指し、ニューヨークのリー・ストラスバーグ演劇学校でメソッド演技法を学んでいる本格派。ハビエル・フェセルの『カミーノ』のオプス・デイの敬虔だが頑迷な信者を演じきって、ゴヤ賞2009主演女優賞、ほかサンジョルディ賞、トゥリア賞、スペイン俳優組合の各女優賞を受賞している。今年のガウディ栄誉賞を受賞している。クラウディア・ピントのデビュー作「La distancia más larga」で死出の旅に出る主役マルティナを好演し、第2作にも起用された。カルロス・ベルムトの『シークレット・ヴォイス』(18)では歌えなくなった歌手の冷静なマネージャー役だった。
*ガウディ栄誉賞でキャリア&フィルモグラフィーを紹介、コチラ⇒2021年03月29日

(ファビオラの母、ファビオラ、ファビオラの娘、映画から)

(ゴヤ賞2009主演女優賞のトロフィーを手に喜びのカルメ・エリアス)
★ファビオラの娘ガビを演じたマリア・ロマニジョスは、2004年マドリード生れ、Teatro Cuerta ParedとCine Primera Toma の学校で演技を学んでいる。2019年本作起用がアナウンスされ映画デビューした。先述したようにデビュー作で銀のビスナガ助演女優賞を受賞している。モビスター+のTVシリーズ、フェルナンド・ゴンサレス・モリナの「Paraíso」(7話)にも抜擢され、続いてフェリックス・ビスカレットのスリラー「Desde la sombra」では、パコ・レオンやレオノル・ワトリングと共演している。まだ17歳、小柄で、172センチという長身のアコスタと並ぶと幼さが残る。目下のところ上昇気流に乗っているようだが、願わくば今回の受賞が吉となりますように。

(銀のビスナガ助演女優賞のトロフィーを手にしたマリア)

(クロージングに出席したアコスタとロマニジョス、6月12日)
★スタッフ紹介:オランダのエルス・ヴァンデヴォルストは、『アイダよ、何処へ?』でオスカー賞2021国際長編映画賞にノミネートされた製作者。他『ジグザグキッドの不思議な旅』(12)、『素敵なサプライズ』(15)、『ドミノ 復讐の咆哮』(19)などが公開されている。カタルーニャのジョルディ・リョルカ・リナレスは『少年は残酷な弓を射る』の製作者、ヤディラ・アバロスはメキシコ出身だがスペインでTVシリーズ『エリーテ』や、エドゥアルド・カサノバの『スキン あなたに触らせて』などを手掛けている。
★撮影監督のガボ・ゲーラは、彼女の映画では「風景が重要な意味をもっています。前作のジャングルの撮影も過酷でしたが、今回は危険に晒されることが度々だった」と語っている。ラパルマ島で最も壮観な場所で撮影したが、困難が付きまとった。アコスタは「入り江のなかでも最も遠いところを選び、そこに到達するにはかなりのオデュッセイアでした」と。潮の流れに翻弄され、数時間中断することもあり、毎日が冒険だったようです。監督も「本当に美しい風景を手に入れましたが、それなりの代償を払いました。しかし払っただけのことはありました。物語の厳しさと風景の美しさのコントラストの映画でもあるからです」と。

(本作撮影中のピント監督)

(撮影地のカナリア諸島ラ・ゴメラ島、フォト:サウル・サントス)
*写真提供のサウル・サントスは、1979年ラパルマ島フエンカリエンテ生れ、世界最高を誇る『ナショナルジオグラフィック』誌の表紙を飾る写真家として、国際的に有名です。
タマラ・カセリャスとフリア・デ・パスの「Ama」*マラガ映画祭2021 ㉔ ― 2021年07月07日 13:26
タマラ・カセリャスが「Ama」主演で銀のビスナガ女優賞を受賞

★フリア・デ・パス監督のデビュー作「Ama」は、主役のタマラ・カセリャスに銀のビスナガ女優賞をもたらしました。本作は2019年にESCAC(カタルーニャ映画視聴覚上級学校、マラガ映画祭が注目している映画学校)の卒業制作として撮られた同名の短編がベースになっています。当時フリアは「あまり良い状態ではなかった」とマラガのEFEインタビューに応えている。監督はまだ25歳、母親に借金をして製作したようですが、マラガで母親に最大級のプレゼントを贈ることができました。ハリウッドや男性シネアストたちが、長年にわたって作り続けてきたスーパー家父長制の映画は害をもたらし続けている。監督は、あってはならない「母性神話」の打ち壊しに挑戦しました。何故なら「母性は一つでなく、母親の数だけあり、それぞれ違っていていい」と監督。

(タマラ・カセリャス、レイレ・マリン・バラ、監督、マラガFF2021フォトコール)
「Ama」2021
製作:La Dalia Films / Ama Movie AIE
監督:フリア・デ・パス・ソルバス
脚本:フリア・デ・パス・ソルバス、ヌリア・ドゥンホ・ロペス
撮影:サンドラ・ロカ
音楽:マルティン・ソロサバル
編集:オリオル・ミロン
美術:ラウラ・ロスタレ
衣装デザイン:クリスティナ・マルティン
メイクアップ:メルセデス・ルハン、タニア・ロドリゲス
プロダクション・マネージメント:リチャード・ファブレガ、マメン・トルトサ
音響:ヤゴ・コルデロ、ほか
視覚効果:ギレム・ラミサ・デ・ソト(短編)
製作者:(エグゼクティブ)シルビア・メレロ、ホセ・ルイス・ランカニョ
データ:製作国スペイン、スペイン語、2021年、ドラマ、90分、撮影地バレンシアのアリカンテ、撮影期間2020年3月から6月、パンデミックで中断、2021年完成させた。配給&販売Filmax、スペイン公開2021年7月16日
映画祭・受賞歴:第24回マラガ映画祭2021セクション・オフィシアル部門、銀のビスナガ女優賞受賞(タマラ・カセリャス)、AICE(スペイン映画ジャーナリスト協会)が選ぶフェロス・プエルタ・オスクラ賞を受賞。
キャスト:タマラ・カセリャス(ぺパ)、レイレ・マリン・バラ(娘レイラ)、エステファニア・デ・ロス・サントス(ロサリオ)、アナ・トゥルピン(アデ)、マヌエル・デ・ブラス(カルロス)、チェマ・デル・バルコ、パブロ・ゴメス=パンド(レイラの父ディエゴ)、マリア・グレゴリオ、バシレイオス・パパテオチャリス、カルメン・イベアス、エリン・ガジェゴ、シルビア・サンチェス、ほか
ストーリー:母性神話に縛られて孤独のなかにいる多くの女性たちの物語。さまざまな警告の末に、アデは友人のぺパを家から追い出してしまう。6歳になる娘のレイラと一緒に道路に佇んでいるぺパを目にしたのが最後だった。もう助けてくれる人は誰もいない、ぺパとレイラは生きるための場所を見つけるために闘わねばならない。困難に直面しながらも探求に取りかかる。それは遠い昔の今では存在しない関係との和解に耐えることでもあるだろう。母と娘の新たな絆を創りだすだろうが、それは間違いを許容するもので理想化とは異なるものだろう。あってはならない母性神話に挑戦する女性たちの物語。

(路頭に迷うぺパと娘レイラ、映画から)
監督紹介:フリア・デ・パス・ソルバスは、1995年バルセロナ生れの監督、脚本家。バルセロナのESCAC(カタルーニャ映画視聴覚上級学校)で映画演出を専攻する(2012~18)。2012年、短編「Atrapado」、助監督、キャスティング監督などをしながら、2017年に共同監督(11名)として撮った長編「La filla d’algú」(19)は、マラガ映画祭2019でモビスター+賞を全員で受賞した。2018年ESCACの卒業制作である短編「Ama」(19、19分)は、アルカラ・デ・エナレス短編映画祭にノミネートされた。今回、初の単独監督として本作「Ama」で長編デビューした。テーマは不平等、特に女性が受けている社会的地位の格差、フィクションとドキュメンタリーの接続点を求めている。鼻ピアスに耳の後ろから剃り上げたライオン・ヘアー、エイミー・ワインハウス風のアイライン、このタフでぶっ飛んだ監督は、映画祭に旋風を巻き起こした。

(「まだ私は25歳の青二才です」と応えるデ・パス監督、プレス会見)
★短編「Ama」の登場人物で重なるのはぺパ、ディエゴ、レイラ(別の子役エンマ・エルナンデス・ぺレス)、アデ(ロランダ・パテルノイ)と多くない。監督とぺパ役のタマラ・カセリャスは長編デビューに4年の歳月を掛けたという。映画はこんな風に始まる。ディスコで踊り明かした若い女性が帰宅する、既に新しい一日が始まっており、テーブルでお絵描きをしていた小さな女の子が迎える、女性は動じる風もなくおはようと言う。娘の育児放棄に耐えきれない友人から家を追い出されてしまう。

(短編「Ama」のポスター)
★監督は「これまでのぺパの人生を説明しない方針にした。町中を子連れで放浪するぺパを無責任な母親と呼ぶこともできます」。しかし監督は、ぺパを理解するためのモラルやアリバイを提供しない。またぺパを裁かないし、観客に許しを求めない。このような状況に至るまでの経済的社会的なリソースを提供しないシステムを描くだけです。母性は存在してはならない神話であって「それは一つでなく、母親の数だけあり、それぞれ違っていていい」と監督。製作者のホセ・ルイス・ランカニョは、「芸術的品質、若くて才能あふれる制作チームの努力、何よりも映画が語る物語の力強さのため」と、製作意図に挙げている。

(マラガ入りした監督、タマラ・カセリャス、レイレ・マリン・ベラ)
★ぺパを演じて、銀のビスナガ女優賞受賞のタマラ・カセリャス(カセジャス)は、セビーリャ生れの35歳、舞台女優を目指し、セビーリャのViento Sur Teatroの演劇学校で学ぶ。その後18歳でバルセロナに移り、バルセロナの演劇学校Nancy Tuñonで学んでいる。2010年映画デビュー、2015年アルバル・アンドレス・エリアスの短編「4 días de octubre」(ESCAC Films)に出演、ハビエル・チャカルテギのコメディ「La estación」(18)、ホセチョ・デ・リナレスの「Desaparecer」(18、ESCAC Films)で長編デビュー。他に上記の短編&長編の「Ama」、デ・パス監督との接点はESCACのようです。

(銀のビスナガを手に喜びを全開するタマラ・カセリャス)
★ウェイトレスの仕事を終えて映画祭に馳せつけたタマラは、「私はぺパのように感じたことはないとはいえ、もし彼女が傷ついていると信じれば、すべての家族に言えることですが、まさかそんなことだったとは気づかなかったと言うのです」と語っている。事件後に親戚やご近所さんがメディアに語る定番ですね。またタマラは映画が絶えず深層に潜めているライトモチーフ、放棄または怠慢について「それぞれモードは異なりますが、それは私たち二人が感じている何かです」と。この映画には私にとって父や母が何であるかの分析があり、映画を見れば感動すると語っている。

(自分とは違うぺパを演じたタマラ、映画から)
★ぺパが遊びまわっているあいだ、娘レイラの世話を押しつけられている友人アデ(アナ・トゥルピン)は、二人が彼ら自身の人生を見つけるために敢えて路頭に送り出す。レイラを演じたレイレ・マリン・ベラは自然体で、本当に難しいシーンをカバーしてくれたと監督は少女を絶賛している。タマラと同郷の先輩ロサリオ役のエステファニア・デ・ロス・サントスは幼女の祖母役、セクション・オフィシアル部門のアウトコンペティションで上映された、ビセンテ・ビジャヌエバのコメディ「Sevillanas de Brrooklyn」で活躍しています。短編「Ama」にもディエゴ役で出演していたパブロ・ゴメス=パンドは、幼女の父親役です。

(意見の異なる友人アデとぺパ)

(撮影中のレイラ、ぺパ、ロサリオ、2020年3月)

(新たな絆を模索するレイラとぺパ)
★マラガFF はESCAC出身のシネアストを重視している。2017年のカルラ・シモン(『悲しみに、こんにちは』)、2018年のエレナ・トラぺ(「Las distancias」)が金のビスナガを受賞している。2020年のピラール・パロメロ(「Las niñas」)はサラゴサ出身で卒業生ではないが、ゴヤ賞2020新人監督賞のベレン・フネス(「La hija de un ladorón」)もESCACで学んでいる。4作とも作品紹介をしていますが、今のスペインはマドリードよりバルセロナが熱い。マラガFFやESCACが女性監督の採石場と称される所以です。1994年バルセロナ自治大学の付属校としてバルセロナで設立、2003年に本部をバルセロナ州テラサ(タラサ)に移した。活躍中の卒業生は、J.A. バヨナ、マル・コル、キケ・マイジョ、オスカル・ファウラ、ハビエル・ルイス・カルデラなど数えきれない。生徒に非常に厳しい要求をする学校として有名ですが、それなりの成果をあげているということでしょう。
★マラガ映画祭はとっくの昔に終幕しましたが、ゴヤ賞2022の新人監督賞、主演女優賞のノミネートを視野に入れて紹介いたしました。デ・パス監督の次回作は、児童虐待をテーマにした短編、目下準備中ということです。
ジョディ・フォスターに栄誉パルムドール*プレゼンターはアルモドバル ― 2021年07月09日 11:18
2年ぶりのカンヌ映画祭、アルモドバルがジョデイ・フォスターにトロフィーを

★2年ぶりの第74回カンヌ映画祭2021が2ヵ月遅れで開幕した。開幕宣言は、栄誉パルムドール受賞者ジョデイ・フォスター、栄誉パルムドールのプレゼンターのペドロ・アルモドバル、審査員委員長スパイク・リー(去年と同じ)、2019年のパルムドール受賞のポン・ジュノの4人でした。

(アルモドバルとジョデイ・フォスター、2021年7月6日)
★ジョディ・フォスター(ロスアンゼルス1962)は、「『タクシードライバー』がパルムドールを受賞したのは45年前、私のキャリアを変えてくれたカンヌにとても感謝しています」。だから彼女にとってここに戻ってくることはとても重要。「未来が私たちに期待していることを皆さんと一緒に見られるよう望んでいます」と完璧なフランス語でスピーチした。彼女はロスにあるフランス人学校のリセに在籍、バカロレアの国家試験に合格している。マーティン・スコセッシの『タクシードライバー』(76)に娼婦役で出演したのはなんと13歳でした。

(トロフィーを披露するジョディ・フォスター)
★フォスターにとって、この1年で多くの映画館が閉鎖され、時には耐えがたい苦しみに直面している人々が増えているとしても、すべてが映画への愛に絞られる。「映画館が閉鎖されているけれども、映画は常に存続していきます。今年、映画は私の救命具でした」と語った。また52年間のキャリアを通して思うのは「映画は人を感動させ、人と繋がり、変化させる。だから映画に対する感謝をなくすことは決してない」と締めくくった。
★プレゼンターのペドロ・アルモドバルは、女優が2019年にロスアンゼルスで『ペイン・アンド・グローリー』をプレゼンスしたときのことを思い出したが、それよりずっと以前から彼女を身近に感じていた。それは「Bugsy Malone」の可愛い歌姫役で、『タクシードライバー』より数ヵ月前に制作された映画でした。アルモドバルは「女性の映画人が珍しかった時代に、彼女は役選びにも賢明だった。弱さを隠すことなく強さを見せる女性像の創造を知っていた」と、この類いまれな才能の受賞者を彼流に絶賛した。アラン・パーカーのデビュー作は、『ダウンタウン物語』の邦題で翌年公開された。禁酒法時代のニューヨークはダウンタウンを舞台に、抗争を繰りひろげる二大ギャング団を描いたミュージカル。全員子役が大人に扮して出演、マシンガンから飛びだすのは弾丸ではなくパイ、最後はみんなパイだらけになって終わる。フォスターはボスの情婦でキャバレーの妖艶な歌姫になった。
★コロナが収束したわけではないので、メイン会場には、ワクチン2回接種の証明書のある人、あるいは48時間ごとのPCR検査(無料)合格者とガードは厳しい。結果が分かるには最低でも6時間ほど必要だからどうなるのか。レッドカーペットに登場したシャネルやプラダのドレスに身を包んだマスク無しのセレブたちは、合格してるということですね。因みにフォスターのドレスはジバンシィだそうです。パートナーの写真家で監督のアレクサンドラ・ヘディソンも出席、アツアツぶりの映像が配信されています。
★オープニング作品はレオス・カラックスのミュージカル「Annette アネット」(2021、英語、140分)は、5分間のスタンディングオベーションだった由、監督よりスタンダップ・コメディアンを演じたアダム・ドライバーに注目が集まったとか。本作はアマゾン・オリジナル作品、ネットフリックスとの話合いは平行線でノミネーションはNO、一方でアマゾン・プライム・ビデオ、アップルTVはYES、観客の一人としては違和感を覚えるが、将来的に問題を残すのではないか。ピンクのダブルの背広上下にサングラス、スニーカーで現れた審査委員長のスパイク・リーは「ストリーミングのプラットホームは共存する」とインタビューに応えて、新型コロナが世界を、映画産業をも変えてしまったことを印象づけた。
映画国民賞2021はホセ・サクリスタン*授賞式はサンセバスチャンFF ― 2021年07月13日 16:54
教育文化スポーツ省が選考母体の国民賞

★ホセ・サクリスタン映画国民賞受賞の報せに、すぐ思い出したのが2015年の受賞者フェルナンド・トゥルエバだった。「今さら貰っても・・・」と、受賞を拒んだのでした。選考母体の教育文化スポーツ省の大臣も「断れるかな」と恐る恐る電話したというから笑える。授賞にはタイミングというものがあるということです。当時トゥルエバ監督の最新作は3年前の『二人のアトリエ~ある彫刻家とモデル』と大分前、『美しき虜』(98)の続編である「La reina de España」は、まだ準備中でクランクインもしていなかった。文化の重要性を軽視して文化予算を削り、チケット代に21%の消費税をかける政府に怒りを露わにしていた時期だった。結局は妻で製作者のクリスティナ・ウエテにとりなされて受けっとったのでしたが。
*国民賞の沿革、トゥルエバ受賞の記事は、コチラ⇒2015年07月17日
★ホセ・サクリスタン(マドリードのチンチョン1937)が未だだったとは実に意外というか驚きでした。おそらく本人がニュースを知った最後の一人だったろうと言う。というのも彼はフェルナンド・コロモの新作「Cuidado con lo que deseas」の撮影でセゴビアの森の中にいて連絡が取れなかった。妻のアンパロ・パスクアルが制作チームのメンバーを通じて彼を捜しだし受賞を知らせたという。しかし数年、最有力候補者の一人だったそうですから、ホセ・マヌエル・ロドリゲス・ウリベス文化大臣の電話を敬遠したのではないかと忖度する人もいるそうですw。お祝いに数分中断しただけで何事もなかったように撮影は続行された。

(フェロス賞2015に揃って出席したサクリスタンとアンパロ・パスクアル)
★撮影が終わって帰宅したサクリスタンは「賞はどれも歓迎です。それを祝う最良の方法は仕事をすることです。私にとってそれが重要だからです。この職業を続けてエンジョイできるようにするためです」と、エルパイスのの記者に電話で語った。仕事あっての人生というわけです。映画も芝居も引退の気はさらさらないが、83歳の俳優にとって撮影の手順は日増しに厳しくなっているようです。「早起きとか、待ち時間の長さ、寒さ暑さ・・・舞台のほうがずっと落ちつける」と弱音もチラリ。
★最初電話が繋がらなかった大臣も最終的には繋がった。「私たちは、ベルランガの年にスペイン映画史で最も偉大な俳優を選びたかった。電話で話せましたよ、勿論。渓谷の麓で撮影中の彼を見つけだしてね。ありがとう、ペペ、本当に。大いなる愛をこめて!」だそうです。遅かったのはベルランガの年を待っていたからというわけ。2021年はベルランガ生誕100周年、コロナに負けずイベントも目白押し、ペペはホセの愛称です。
★受賞の理由にはサクリスタンが「ルイス・ガルシア・ベルランガやフェルナンド・フェルナン・ゴメスなどスペイン映画史上に残るシネアストと仕事をしてきたこと、また若い監督カルロス・ベルムトやイサキ・ラクエスタ、ハビエル・レボーリョなどアクティブな監督とコラボしていることを審査員たちは挙げている。彼の多様性、60年代のコメディ、70年代後半からの社会派のスリラーまで幅の広いことも挙げている。本賞は映画部門の受賞だが、映画のみならず演劇、周囲を驚かせた90年代の「ラマンチャの男」や「マイ・フェア・レディ」のようなミュージカル出演も視野に入れたということです。
★受賞者のキャリア&フィルモグラフィーについては何回か登場させておりますが、1960年舞台でスタート、1965年のフェルナンド・パラシオスのコメディ「La familia y uno más」で映画デビューした。60年代は、アルフレッド・ランダ、ホセ・ルイス・ロペス・バスケスのトリオの一人として、おびただしい数のコメディに起用されている。フランコ体制末期の1975年、ハイメ・カミーノの『1936年の長い休暇』で生物学者を演じた。内戦勃発でカタルーニャ地方の山間避暑地に閉じ込められた人々を敗者の視点で描いた作品。翌年のベルリン映画祭に出品され国際映画批評家連盟賞を受賞した。日本では1984年に開催された「スペイン映画の史的展望 1955~77」で上映されている。1977年にはホセ・ルイス・ガルシのデビュー作「Asignatura pendiente」(仮題「未合格科目」)で主役に抜擢された。
★そして転機になったのが、ペドロ・オレアのホモセクシュアルをテーマにした「Un hombre llamado Flor de Otoño」(仮題「秋の花と呼ばれた或る男」)主演だった。サンセバスチャン映画祭1978銀貝男優賞、ほかサンジョルディ男優賞など受賞、続いてマリオ・カムスの『蜂の巣』(82)でACE賞1984とフォトグラマス・デ・プラタ賞1983を受賞、ピラール・ミロの「El pájaro de la felicidad」(93)などシリアス・ドラマに起用された。オレア作品は、マラガ映画祭2018「金の映画」に選ばれ、監督と一緒にマラガを訪れている。
*マラガ映画祭2018「金の映画」の紹介記事は、コチラ⇒2018年04月22日

(昼は弁護士、夜は女性歌手に変身する「Un hombre llamado Flor de Otoño」のポスター)

(マラガに連れ立って参加したオレア監督とサクリスタン)
★どの作品も大好きで誇りを感じており、私の人生の一部になっていると語るが、「デビュー作で受けたような衝撃をその後一度も感じたことはありません。アルベルト・クロサスが私を見たときの視線のことで、その夜は眠れませんでした。デビュー作は私の心の中で特別な場所を占めています」と。アルベルト・クロサスというのは、「La familia y uno más」の主役で、フアン・アントニオ・バルデムの『恐怖の逢びき』(55)で主役の大学教師を演じた俳優です。俳優も監督も鬼籍入りしています。
★2005年から2011まで舞台に専念していたが、ダビ・トゥルエバの「Madrid, 1987」で銀幕に復帰、フォルケ賞2013男優賞を受賞した。続いてハビエル・レボーリョの「El muerto y ser feliz」で、余命幾ばくもない雇われ殺し屋を飄々と演じて、サンセバスチャン映画祭2012の二度目となる銀貝男優賞、初となるゴヤ賞2013主演男優賞、ガウディ賞主演男優賞、銀幕カムバック後は受賞ラッシュとなった。
*ゴヤ賞・フォルケ賞受賞でキャリア紹介、コチラ⇒2013年08月18日


(ゴヤ賞2013主演男優賞の受賞スピーチをするペペ)
★他にイサキ・ラクエスタのコメディ「Murieron por encima de sus posibilidades」(14)、他に当ブログ紹介作品では、カルロス・ベルムトの『マジカル・ガール』(14、フェロス賞2015助演男優賞)、キケ・マイジョのアクション・スリラー「Toro」(16)でのマフィアのボス役、ポル・ロドリゲスのブラック・コメディ「Quatretondeta」(16)では、妻に先だたれ認知症の兆候が出はじめた寡役、パウ・ドゥラのコメディ「Formentera Lady」(18)では、バレアレス諸島のフォルメンテラ島を舞台に、老いた元ヒッピーを演じた。
*「Quatretondeta」の作品紹介は、コチラ⇒2016年04月22日
*「Formentera Lady」の作品紹介は、コチラ⇒2018年04月17日

(サクリスタンを配した「Formentera Lady」のポスター)
★『Alta mar アルタ・マール:公海の殺人』(22話出演、ネットフリックス配信)のようなTVシリーズを含めると150作を超えるから、いくら紹介してもこれで充分という気になれない。役者稼業は死ぬまで続けるというから終りがない。目下撮影中のフェルナンド・コロモの「Cuidado con lo que deseas」は、今年11月19日公開が予告されている。
★上記の受賞以外に、バジャドリード映画祭2013栄誉賞、マラガ映画祭2014レトロスペクティブ賞、フェロス栄誉賞(2014)、ヒホン映画祭2015ナチョ・マルティネス賞、スペイン俳優組合2015栄誉賞、メリダ映画祭ケレス賞、アルゼンチンの銀のコンドル賞(1993、2011)、シネマ・ライターズ・サークル賞2020金のメダル、などなど。授賞式は第69回サンセバスチャン映画祭2021(9月17日~25)です。セクション・オフィシアル部門以下8部門のポスターは発表されましたが、ノミネーションは未だです。シガニー・ウィバーがポスターの顔になりました。
アルゼンチン映画 『明日に向かって笑え!』*8月6日公開 ― 2021年07月17日 16:26
ダリン父子がドラマでも父子を共演したコメディ

(スペイン語版ポスター)
★セバスティアン・ボレンステインの「La odisea de los giles」(英題「Heroic Losers」)が『明日に向かって笑え!』の邦題で劇場公開されることになりました。いつものことながら邦題から原題に辿りつくのは至難のわざ、直訳すると「おバカたちの長い冒険旅行」ですが、無責任国家や支配階級に騙されつづけている庶民のリベンジ・アドベンチャー。リカルド・ダリンとアルゼンチン映画界の重鎮ルイス・ブランドニが主演のコメディ、2年前の2019年8月15日に公開されるや興行成績の記録を連日塗り替えつづけた作品。本当は笑ってる場合じゃない。公開後ということで、9月にトロント映画祭特別上映、サンセバスチャン映画祭ではアウト・オブ・コンペティション枠で特別上映された。ダリンの息チノ・ダリンがドラマでも息子役を演じ、今回は二人とも製作者として参画しています。

(ドラマでも親子共演のリカルド・ダリンとチノ・ダリン)
*「La odisea de los giles」の作品紹介は、コチラ⇒2020年01月18日
*ボレンステイン監督キャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2016年04月30日
*リカルド・ダリンの主な紹介記事は、コチラ⇒2017年10月25日
*チノ・ダリンの紹介記事は、コチラ⇒2019年01月15日
★公式サイトと当ブログでは、固有名詞のカタカナ起しに違いがありますが(長音を入れるかどうかは好みです)、大きな違いはありません。リカルド演じるフェルミンの友人、自称アナーキストのバクーニン信奉者ルイス・ブランドニ、フェルミンの妻ベロニカ・リナス(ジナス)、実業家カルメン・ロルヒオ役のリタ・コルテセ、などのキャリアについては作品紹介でアップしています。悪徳弁護士フォルトゥナト・マンツィ役アンドレス・パラ、銀行の支店長アルバラド役ルチアノ・カゾー、駅長ロロ・ベラウンデ役ダニエル・アラオスなど、いずれご紹介したい。

(監督と打ち合わせ中のおバカちゃんトリオ)
★原作(“La noche de la Usina”)と脚本を手掛けたエドゥアルド・サチェリは、大ヒット作『瞳の奥の秘密』(09)でフアン・ホセ・カンパネラとタッグを組んだ脚本家、ボレンステイン監督とは初顔合せです。大学では歴史を専攻しているので時代背景のウラはきちんととれている。
*『瞳の奥の秘密』の作品紹介は、コチラ⇒2014年08月09日
★作品紹介の段階では、受賞歴は未発表でしたが、おもな受賞はアルゼンチンアカデミー賞2019(助演女優賞ベロニカ・リナス)、ゴヤ賞2020イベロアメリカ映画賞、ホセ・マリア・フォルケ賞2020ラテンアメリカ映画賞、シネマ・ブラジル・グランプリ受賞、ハバナ映画祭2019、アリエル賞2020以下ノミネート多数。

(ゴヤ賞2020イベロアメリカ映画賞のトロフィーを手にした製作者たち)
★ネット配信、ミニ映画祭、劇場公開、いずれかで日本上陸を予測しましたが、一番可能性が低いと思われた公開になり、2年後とはいえ驚いています。公式サイトもアップされています。当ブログでは原題でご紹介しています。
★1都3県の公開日2021年8月6日から順次全国展開、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネマカリテ、ほか。新型コロナウイリスの感染拡大で変更あり、お確かめを。
シガニ―・ウィーバーが公式ポスターの主役*サンセバスチャン映画祭2021 ① ― 2021年07月20日 16:46
セクション・オフィシアルのノミネーションの一部が発表されました

(第69回SSIFF公式ポスターの主役になったシガニー・ウィーバー)
★1ヵ月前に第69回サンセバスチャン映画祭の公式ポスターがお披露目されていましたが、このほどセクション・オフィシアル部門のノミネーション9作品が発表になりました。フランスのローラン・カンテ(1999年ニューディレクターズ部門受賞者)、本祭の常連ともいえるイギリスのテレンス・デイビス、金貝賞部門は初めてというクラウディア・リョサやクレール・シモン、イネス・バリオヌエバの女性監督などです。まだ一部なので全作品が決まった段階でアップします。

(アナウンスされたコンペティション部門の9作品)
★サンセバスチャン映画祭は、2018年から写真とイラストを組み合わせたグラフィック・ポスターを制作して、映画祭の公式ポスターのスターを発表してきました。イザベル・ユペール、ペネロペ・クルス、ウィレム・デフォー、そして4人目となる今年はシガニー・ウィーバーが選ばれました。マシュー・ブルックスのモノクロ写真をデザイナーのエバ・ビリャールのスタジオがデザインしたものです。本祭総指揮のディレクターであるホセ・ルイス・レボルディノスは、フェスティバルの運営委員会のメンバーであるヨシェアン・フェルナンデスを伴ってイベント会場タバカレアで発表いたしました。「第69回となるフェスティバルの主役に、シガニ―・ウィーバーのような映画の架空のキャラクターで大衆に愛されている、類いまれな女優を選ぶことができ嬉しく思います」とスピーチした。本祭のセクション・オフィシアル部門を含めて8部門のポスターも一斉に発表になり、デザインのすべてがエバ・ビリャール・スタジオの制作であることも発表されました。

(公式ポスターを発表するレボルディノス、フェルナンデス、6月22日)
★シガニー・ウィーバー(ニューヨーク州マンハッタン1949)は、2016年のドノスティア栄誉賞受賞者としてご紹介しておりますが、ざっとおさらいいたしますと、来セバスチャンは今回が4回目になるそうです。1979年リドリー・スコットの『エイリアン』、1999年のスコット・エリオットの『マップ・オブ・ザ・ワールド』、2016年J.A. バヨナの『怪物はささやく』とキャリア全体が認められドノスティア賞を受賞した年でした。他に代表作品としてマイク・ニコルズの『ワーキング・ガール』、アン・リーの『アイス・ストーム』、J, キャメロンの『アバター』など。
*ドノスティア栄誉賞&キャリア紹介記事は、コチラ⇒2016年07月22日

(ドノスティア栄誉賞のトロフィーを手にしたシガニー、2016年9月23日)
★今回からジェンダーの基準を区別せず、銀貝賞の女優賞と男優賞を止め、銀貝賞主演俳優賞、同助演俳優賞にしたことも発表されました。レボルディノスは「ベルリン映画祭で友人たちが始めた道を進むことにしました。・・・フェミニスト運動のなかで進行中の議論を綿密に追跡していますが、私たちに確信はありません。しかし進化を続け、より公平で平等な社会の構築を支援するつもりです」とコメントした。
★開催されるには開催されますが、パンデミックが収束したわけではありませんから、公共衛生面の制限があります。巨大スクリーンでの上映がウリのベロドロモは2年連続で中止、オープニングとクロージングのパーティもありません。回顧展「韓国映画の黄金期」が当初より本数を減らして、1950年代後半から1960年代のモノクロ、シン・サンオク監督のクライムドラマ『地獄花』(58)を含む10作が選ばれています。

(韓国映画の黄金期として選ばれた10作品)
★主なセクション別の公式ポスターをアップしておきます。

(ホライズンズ・ラティノ部門のポスター)

(ニューディレクターズ部門のポスター)

(サバルテギ-タバカレラ部門のポスター)
TCMユース賞の新設*サンセバスチャン映画祭2021 ② ― 2021年07月25日 17:11
対象は「ニューディレクターズ」と「ホライズンズ・ラティノ」の2部門

(対象になる両部門のポスター)
★どの映画祭でも賞の数は増える傾向ですが、サンセバスチャン映画祭SSIFFは、第69回からTCM ユース賞Premio TCM de la Juventudの新設を発表しました。ニューディレクターズ部門の監督、ホライズンズ・ラティノ部門は長編2作目までが対象者です。審査員(75名)の投票方式、メンバーは1日平均3作を鑑賞しなければならない。スペインのTCM*最高責任者ギジェルモ・ファレ(スペイン、フランス、アフリカなどでワーナーメディアのエンターテインメント・チャンネルの責任者)は、「TCM とワーナーメディアからSSIFF とのコラボを託された」とコメント、最終日の9月25日に発表される。
*TCM(Turnar Classic Moviesターナー・クラシック・ムービーズ)は、ワーナーメディア傘下のワーナー・ブラザースが運営する映画専門チャンネル。
★セクション・オフィシアル部門の9 作品以外のミネーションは未発表です。
セクション・オフィシアル部門のノミネーション*サンセバスチャン映画祭2021 ③ ― 2021年07月26日 17:36
第1弾――ローラン・カンテ以下9作品のノミネーションの発表

★去る7月19日、第1弾として9作品のノミネーション発表がありました。全作揃った段階でアップ予定でしたが、選考が難航しているのか続報がありませんので、先ず9作品だけ列挙しておきます。順番は映画祭事務局の発表に従っています。ポルトガル語を含むスペイン語映画紹介ブログなので、主な作品紹介はスペイン、ラテンアメリカ諸国が中心です。タイトル、製作国、製作年、時間、監督名の順、ゴチック体は紹介予定作品です。
*セクション・オフィシアル部門ノミネーション*
①Arthur rambo フランス、2021
ローラン・カンテ(1961)
紹介:1999年『ヒューマン・リソース』でデビュー、ニューディレクターズ賞を受賞、『南へ向かう女たち』(05)などペルラス部門の常連、2012年セクション・オフィシアル部門に「Foxfire」(『フォックスファイア 不良少女の告白』)がノミネート、ケイティ・コセニが銀貝女優賞を受賞した。カンヌ映画祭2008で『パリ20区 僕たちのクラス』がパルム・ドール受賞。

②Benediction イギリス、2021、77分
テレンス・デイビス(リバプール1945)
紹介:2016年サバルテギ-タバカレラ部門に「Distant Voices, Still Lives」(『静かな情熱 エミリ・ディキンスン』)がノミネーション、1988年『遠い声、静かな暮らし』がロカルノ映画祭で金豹賞、「The Long Day Closes」カンヌ1992のコンペティション部門、他に『ネオン・バイブル』(95)、『愛情は深い海の如く』(11)などがある。

③Camila saldrá esta noche / Camila Comes Out Tonight アルゼンチン、2021,100分
イネス・マリア・バリオヌエボ(アルゼンチンのコルドバ1980)
*監督、脚本家、女優。後日アップ予定につき割愛。
*作品紹介の記事は、コチラ⇒2021年08月02日

④Crai nou / Blue Moon ルーマニア、2021,84分
Alina Grigore アリナ・グリゴレ(ブカレスト1984)
紹介:監督デビュー作、ルーマニアの子役出身の女優、脚本家。アドリアン・シタルの「Ilegitim(Illegitimate)」(16)出演と脚本を監督と共同執筆した。シタル監督がベルリン映画祭フォーラム部門でCICAE賞を受賞した他、ヨーロッパ映画祭などの受賞歴多数。

⑤Distancia de rescate / Fever Dream ペルー・米国・チリ・スペイン、2021,93分
クラウディア・リョサ(リマ1976)
*後日アップ予定につき割愛。
*作品紹介の記事は、コチラ⇒2021年07月28日

(主演のマリア・バルベルデとドロレス・フォンシ)
⑥Du som er i himlen / As In Heaven デンマーク、2021,85分
テア・リンデブルク(1977)
紹介:長編映画の監督デビュー作。Equinox 1985の創設者。新作は1912年に公刊されたデンマークのマリー・ブレゲンダール Marie Bregendahl の古典にインスパイアーされて製作された。舞台は19世紀末の大家族が暮らす農園、9番目の子供の出産を待ち受けている一方、長女は勉学のため出立の準備をしている。TVシリーズの監督のほか、サスペンス「Equinox」(2020年12月30日~、6話)のクリエイター、『はかなき世界』の邦題で Netflix で配信されている。

⑦Earwig イギリス・フランス・ベルギー、2021
ルシール・アザリロヴィック(リヨン1961)
紹介:2004年のデビュー作「Innocence」(『エコール』)がニューディレクターズ賞、本部門の審査員を経験している。長編2作目『エヴォリューション』(15)がセクション・オフィシアル部門の審査員特別賞を受賞している。ほか中編、短編がサバルテギ-タバカレラ部門にノミネートされている。新作はブライアン・カトリング(ロンドン1964)の同名小説の映画化。氷の歯をした少女ミアを育てているアルバートの物語。

⑧Ping Yuan Shang De Mo Xi / Fire on the Plain 中国、2021、113分
Zhang Ji(?)
紹介:監督デビュー作のスリラー、撮影監督として活躍。1997年中国の都市Fentunの若い警察官は、8年前に起きた未解決連続殺人事件についての再調査に乗り出す。

⑨Vous ne désirez que moi / To Talk About Duras フランス、2021,95分
クレール・シモン(ロンドン1955)
紹介:セクション・オフィシアル部門のノミネーションは初めて。イギリス生れのフランスのシネアストが金貝賞を競うのもおそらく初めてでしょうか。最初アルジェリアで人類学を学んだという異色の監督。フィクション、ノンフィクションの垣根を超えた作品が多い。2017年ドキュメンタリー「Le Concours」、2013年「Gare du Nord」、ミニ映画祭で『夢が作られる森』(15)が上映されている。新作はジャーナリストでデュラスと友情を結んだミシェル・マンソーが、マルグリット・デュラス(1914~96)の晩年の恋人ヤン・アンドレア・シュタイナーにインタビューする手法で進行する。

クラウディア・リョサの「Distancia de rescate」*サンセバスチャン映画祭2021 ④ ― 2021年07月28日 11:58
サマンタ・シュウェブリンの同名小説「Distancia de rescate」の映画化

(クラウディア・リョサ、主演のマリア・バルベルデとドロレス・フォンシ)
★クラウディア・リョサの長編4作目「Distancia de rescate」(仮題「救える距離」)は、監督初となるNetflix 作品、年内に鑑賞できる可能性が出てきました。リョサ監督は2作目「La teta asustada」がベルリン映画祭2009の金熊賞と国際批評家連盟賞を受賞、一躍国際舞台に躍りでた。日本では同じ年に開催された <2009 スペイン映画祭> に『悲しみのミルク』の邦題で上映された。さらにアカデミー賞外国語映画賞(現在の国際長編映画賞)のペルー初のノミネーション作品となった。当時は未だノーベル文学賞作家ではなかったが、伯父のマリオ・バルガス=リョサの知名度も幸いしたのか国際映画祭で引っ張り凧になった。


(ベルリナーレ2009の金熊を手にしたクラウディア・リョサ監督)
★サンセバスチャン映画祭SSIFFのセクション・オフィシアル部門にノミネートされるのは、「Distancia de rescate」が初めてですが、リョサはSSIFF 2010の審査員を体験している。2006年『マデイヌサ』で長編デビュー、3作目の「No llores, vuela」は英語映画で、原題は「Aloft」でした。本作はマラガ映画祭2014に正式出品されています。そして4作目となる本作でスペイン語に戻りました。リョサはマラガ映画祭2017の特別賞の一つ、現在は <マラガ才能賞―ラ・オピニオン・デ・マラガ> と改称されている <エロイ・デ・ラ・イグレシア賞> を受賞しています。1976年リマ生れ、国籍はペルーですが、2000年からバルセロナに拠点をおいています。キャリア&フィルモグラフィーは既に以下の項でアップしています。
*エロイ・デ・ラ・イグレシア賞&フィルモグラフィーは、コチラ⇒2017年03月16日
*「No llores,vuela / Aloft」の紹介記事は、コチラ⇒2014年04月13日

(エロイ・デ・ラ・イグレシア賞のトロフィーを手にしたリョサ監督)
「Distancia de rescate」(英題「Fever Dream」)
製作:Gran Via Productions / Fabula / Wanda Films
監督:クラウディア・リョサ
脚本:クラウディア・リョサ、(原作)サマンタ・シュウェブリン
音楽:ナタリエ・ホルト
撮影:オスカル・ファウラ
編集:ギジェルモ・デ・ラ・カル
キャスティング:ロベルト・マトゥス
プロダクション・デザイン:エステファニア・ラライン
セット・デコレーション:アゴスティナ・デ・フランチェスコ
衣装デザイン:フェリペ・クリアド
メイクアップ:マルガリタ・マルチ
製作者:マーク・ジョンソン、トム・ウィリアムズ、(エグゼクティブ)サンドラ・エルミダ、ケン・メイヤー、ナターシャ・セルヴィ、(共同)フアン・デ・ディオス・ラライン、パブロ・ラライン、(ライン)エドゥアルド・カストロ
データ:製作国ペルー=スペイン=チリ=米国、スペイン語、2021年、ミステリー・ドラマ、93分、撮影チリ、期間2019年1月から3月、Netflix オリジナル作品
映画祭・受賞歴:サンセバスチャン映画祭2021コンペティション部門ノミネーション
キャスト:マリア・バルベルデ(アマンダ)、ドロレス・フォンシ(カロラ)、ギジェルモ・フェニング(アマンダの夫マルコ)、ヘルマン・パラシオス(カロラの夫オマール)、エミリオ・ヴォダノヴィッチ(カロラの息子、少年ダビ)、ギジェルミナ・ソリベス・リオッタ(アマンダの娘ニナ)、クリスティナ・バネガス(民間療法師)、マカレナ・バロス・モンテロ(幼女のママ)、マルセロ・ミキノー(幼児ダビ)
ストーリー:アマンダは家から遠く離れた病院のベッドで死に瀕していた。少年のダビがかたわらに付き添っている。アマンダは彼の母親ではなく、ダビも彼女の息子ではない。彼女の時が尽きようとしているので、少年は記憶するため矢継ぎばやに女性に質問をしている。アルゼンチンの片田舎の共同体を舞台に、壊れた精神の不安、待ち伏せしている未知の恐怖、子に対する母の愛の力、親と子を結びつけている細い糸についてが語られる。短編作家サマンタ・シュウェブリンが、初めて上梓した長編小説「Distancia de rescate」の映画化。
★2018年、Netflix が2021年中に配信予定の70作の一つとして本作を選んだ。原作「Distancia de rescate」(2014年ペンギンランダムハウス刊)は、2015年にティグレ・フアン文学賞*を受賞している。母と子の間に広がる暗い隔たり、母と子を繋ぐピーンと張った糸、母子関係の暗闇は、作家が最も頻繁に取り上げるテーマということです。物語の舞台はアルゼンチンの地方の静かなコミューンであるが、実際の撮影はラライン兄弟の制作会社「Fabula」の参加でチリで行われた。主人公のアマンダとカロラ(小説ではカルラ)の目を通して、母性に包囲されている共同体の恐怖を掘り下げる。
*1977年に創設されたスペイン語で書かれた作品に与えられる文学賞、賞名ティグレ・フアンは、オビエド出身の作家ラモン・ぺレス・デ・アヤラ(1880~1962)の小説 ”Tigre Juan y El curandero de su honra” からとられている。
★キャスト紹介:
〇アマンダ役のマリア・バルベルデ(マドリード1987)のキャリア&フィルモグラフィーについては、既にチリの監督アンドレス・ウッドの「Araña」(19、『蜘蛛』ラテンビート)、マリア・リポルのロマンティック・コメディ「Ahora o nunca」(15、『やるなら今しかない』Netflix)で紹介済みです。私生活では、2017年にベネズエラの指揮者グスタボ・ドゥダメルと結婚した。
*『蜘蛛』の紹介記事は、コチラ⇒2019年08月16日
*『やるなら今しかない』の紹介記事は、コチラ⇒2015年07月14日
〇カロル役のドロレス・フォンシ(アルゼンチンのアドログエ1978)のキャリア&フィルモグラフィーについては、サンティアゴ・ミトレの「La Patota」(15『パウリーナ』ラテンビート)と「La cordillera」(17『サミット』同)で紹介しています。ミトレ監督とは『パウリーナ』撮影中は恋人関係だったが、完成後に結婚した。セスク・ゲイの『しあわせな人生の選択』(16)では、リカルド・ダリンの従妹役を演じた。
*『パウリーナ』の紹介記事は、コチラ⇒2015年05月21日
*『サミット』の紹介記事は、コチラ⇒2017年05月18日

(マリア・バルベルデとドロレス・フォンシ、2019年2月)
〇マルコ役のギジェルモ・フェニング(アルゼンチンのコルドバ1978)は、俳優、監督、脚本家。1998年俳優デビュー、映画、TVシリーズを含めると83作に及ぶ。代表作としては、カンヌ映画祭2013に出品されたルシア・プエンソの「Wakolda」(『ワコルダ』ラテンビート)で、アルゼンチン・アカデミー賞の助演男優賞、アルゼンチン映画批評家連盟賞2014助演男優銀のコンドル賞を受賞、フリア・ソロモノフの「Nadie nos mira」でトライベッカ映画祭2017のインターナショナル部門の審査員男優賞などを受賞している。イサベル・コイシェのTVシリーズ「Foodie Love」(19、8話、HBO Europe配信)主演でスペインのファンを獲得している。監督作品としては、ミトコンドリア病(全身の筋肉疾患や心臓機能低下)の兄弟ルイス(愛称カイ)を主人公にしたドキュメンタリー「Caito」(短編04、長編12)を撮っている。

(『ワコルダ』でカンヌ入りしたギジェルモ・フェニング)

(「Nadie nos mira」で審査員男優賞を受賞したフェニングと
フリア・ソロモノフ監督、トライベッカ映画祭2017授賞式)
〇少年ダビ役のエミリオ・ヴォダノヴィッチは、エドゥアルド・ピント&フェルナンダ・リベイスのホームドラマ「Natacha, la pelicura」(17)でデビュー、ミゲル・コーハンのスリラー「La misma sangre」(19)でドロレス・フォンシと共演している。
★原作者サマンタ・シュウェブリンは、1978年ブエノスアイレス生れの小説家、ブエノスアイレス大学で現代芸術論を専攻した。現在はベルリン在住。短編集「Pájaros en la boca」(2010年刊)が、『口のなかの小鳥たち』の邦題で翻訳されており(2014年)、解説によると「Distancia de rescate」はその一部と繋がっているということです。少年ダビが女性アマンダに質問するという対話形式で始り、大人と子供という二つの好奇心旺盛な声が対話している。物事をよく知っている声は大人でなく子供、大人は逆に無邪気である。少年は女性と話しているのだが、同時に私たちにも語りかけて読み手を不安にさせる。アマンダはどうして幼い娘のニナから切り離され、自分が死の床にあるのか理解できないので、記憶を辿り始める。他に「Siete casas vacias」(15)が『七つのからっぽな家』として翻訳されている。

(小説「Distancia de rescate」の表紙と作家)
*追加情報:『悪夢は苛む』の邦題で、2021年10月13日よりネットフリックスで配信開始。
ニューディレクターズ部門ノミネート13作*サンセバスチャン映画祭2021 ⑤ ― 2021年07月31日 15:00
ニューディレクターズ部門のノミネーション13作が発表されました

★去る7月28日、サンセバスチャン映画祭ディレクターのホセ・ルイス・レボルディノスとクチャバンク・ギブスコア・ネットワークのディレクター(アイノア・アルアバレナ)がプレス会見、13作のタイトを発表しました。共同監督作品があるので監督は14人です。このセクションはデビュー作か第2作目までが対象です。うちスペイン語作品はアルゼンチンの2作を含めて5作、ほかトルコ、スロベニア、カナダ、ルーマニア、米国、ロシア、韓国、中国、残念ながら日本はノミネートありませんでした。スペイン語作品をアップしておきます。
*ニューディレクターズ部門*
① Carajita アルゼンチン(製作国ドミニカ共和国=アルゼンチン)2021、86分
監督:シルビナ・シュニサーSchnicer(シュニッセルか、アルゼンチン)&ウリセス・ポラ(カタルーニャ)、両監督は2017年に「Tigre」で同セクションに参加しています。タイトルのティグレは地名デルタ・デル・ティグレ。ウリセス・ポラはカタルーニャ出身ですがブエノスアイレスに在住しています。共に長編2作目です。
*「Tigre」の作品紹介は、コチラ⇒2017年08月23日

(デビュー作「Tigre」のポスター)
出演:セシル・ヴァン・ウェリーCecile Van Welie(サラ)、マグノリア・ヌニェス(ヤリサ)、リチャード・ダグラス(ペドロ)、アデラニー・パディリャ、ハビエル・エルミダ他
ストーリー:サラと彼女の乳母ヤリサは社会的階級の垣根を超えた関係で繋がっており、それはまるで娘と母親のようだった。しかし二人の人生に押し入ってきた或るアクシデントのため、引き離されてしまうことになる。サラは熱烈なフリーのダイバーとして海の近くで暮らすことを切望している。静かな水中の世界に安息の場を見つけている。一方ヤリサにとっては、家族の世話をするために18年前に娘を残してきた村に帰ることを意味している。映画は舞台となったドミニカ共和国のラス・テレナスで撮影された。


(シルビナ・シュニサー、ウリセス・ポラ)
② Ese fin de semana / That Weekend アルゼンチン
(製作国アルゼンチン=ブラジル)2021、70分
第4回ヨーロッパ-ラテンアメリカ合作フォーラム
監督:マラ・ペスシオ(アルゼンチン)監督、脚本家。2015年「Historias breves 11:20 años」を8人の監督の一人として撮る。マルティン・ロドリゲス・レドンドの「Marilyn」(18)の脚本を監督と共同執筆した。他TVシリーズのコメディ、ドラマの脚本を数多く手掛けている。本作が長編デビュー作、2017年サンセバスチャン映画祭の合作フォーラムに選ばれていた。
出演:ミス・ボリビア、イリナ・ミシスコ、ラウラ・クラメール、マリア・パス・フェレイラ
ストーリー:フリアは詐欺をしたことで、長らく離れていた故郷に帰ってきた。旅行許可書に署名してやってきたが、何よりもまず、抱えている多くの問題を解決するためのお金を集めに戻ってきた。過去とのぶつかりは、彼女が期待していたようにはならなかった。長年会うことのなかった母と娘の再会が語られる。

(イリナ・ミシスコ、マリア・パス・フェレイラ)

(マラ・ペスシオ監督)
③ Josefina / Josephine スペイン(製作国スペイン)2021、90分
監督:ハビエル・マルコ(スペイン)、短編「A la cara」がゴヤ短編映画賞2020、ベルリナーレ・タレントやレイキャビック・タレント・ラボに選ばれている。本作の脚本はベレン・サンチェス・アレバロによって執筆され、エンマ・スアレスとロベルト・アラモのベテラン二人が主演している。『さよならが言えなくて』や『マリアの旅』を手掛けているセルゲイ・モレノの製作、2020年4月~5月に撮影した。
出演:エンマ・スアレス(ベルタ)、ロベルト・アラモ(フアン)、ミゲル・ベルナルデュ、オリビア・デルカン(ジョシ)、マノロ・ソロ(ラファエル)、ペドロ・カサブランク、マベル・リベラ、他
ストーリー:刑務官として働く内気なフアンは、セキュリティモニターを通して、毎週日曜日に面会に訪れるベルタを静かに観察している。囚人の一人の母親であるベルタは、1日の大半を寝たきりの夫の介護で家に閉じ込められている。或る日のこと遂にベルタに近づくことができた。彼は女囚ホセフィナの父親を装うという自らの思いつきに驚いている。フアンとベルタが生きている空っぽの現実に必要なもの、遅い出会いと愛の物語。


(エンマ・スアレスとロベルト・アラモ)

(ハビエル・マルコ監督)
④ La roya / The Rust コロンビア(製作国コロンビア=フランス)2021、85分
第4回ヨーロッパ-ラテンアメリカ合作フォーラム2017、
サンセバスチャンWIP Latam 2020
監督:フアン・セバスチャン・メサ(コロンビア)の第2作目、デビュー作「Los nadie」は、ベネチア映画祭2016の「国際批評家週間」で観客賞を受賞している。第2作目はカンヌ映画祭の新人監督育成プロジェクト「シネフォンダシオン・レジデンス」で脚本が練られた。
*「Los nadie」の紹介記事は、コチラ⇒2016年09月17日

出演:フアン・ダニエル・オルティス、パウラ・アンドレア・カノ、ラウラ・グティエレス
ストーリー:ホルヘはコーヒーのプランテーションで働いている。ホルヘのような若い世代で田舎に残ろうと決めたのは彼一人である。町のフィエスタが近づいてくると、以前恋人だったアンドレアも都会から戻ってくる。彼女の到着は心身ともに彼を混乱に引きこむだろう。地方のアイデンティティについて語られる。


(フアン・セバスティアン・メサ監督)
⑤ Las vacaciones de Hilda / Hilda's Short Summer ウルグアイ
(製作国ウルグアイ=ブラジル) 2021、88分
Cine en Construcción 36(現在のWIP Latam)
監督:アグスティン・バンチェロ(ウルグアイ1987)監督、脚本家のデビュー作。2012年より短編「Pozos」、高評価だった「De las casas blancas」や「Pérdidas」などを発表しつづけている。長編第1作は「ばらばらに壊れた家族に端を発した映画で、1990年代末と現代の二つの時代が語られる。ドロレスやバルネアリオ・ソリス、モンテネグロでも撮影された」と監督。2019年3月クランクイン。
出演:カルラ・モスカテリィ(イルダ)、エドガルド・カストロ、ガブリエル・ビリャヌエバ、スサナ・アンセルミ、他
ストーリー:イルダはコンセプションの田舎町で一人暮らしをしている。彼女は周囲の人々との情緒的な関係を意図的に避けている。数年来会っていない息子が会いに来るという報せがくる。彼女の生活は中断されてしまう。室内を片付けたり、ここ最近の容姿の衰えを少しでも見栄えよくしようと準備を始めた。しかし息子は訪問を延期し、日取りは分からないという。過去のある夏を生きている女性の物語。


(アグスティン・バンチェロ監督)

(撮影中のバンチェロ監督とイルダ役のカルラ・モスカテリィ)
★以上、スペイン語映画5作のみご紹介しました。7月30日、セクション・オフィシアル部門のスペイン映画がアップされました。イシアル・ボリャイン、フェルナンド・レオン・デ・アラノア、パコ・プラサ、ホナス・トゥルエバ、アウト・オブ・コンペティションには、カルロス・サウラ(開幕)、ダニエル・モンソン(閉幕)を含めて、アレハンドロ・アメナバル、マヌエル・マルティン・クエンカなどです。まだ全体像は見えてませんが、それも時間の問題でしょう。


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