セクション・オフィシアル部門の追加情報*サンセバスチャン映画祭2021 ⑥ ― 2021年08月01日 17:47
開幕、閉幕作品を含むセクション・オフィシアルの主力スペイン映画の発表

★7月30日、セクション・オフィシアル部門のノミネーション4作の続報が報じられた。前回の記事と重なるが、今回は4作全てがスペイン映画、イシアル・ボリャイン、フェルナンド・レオン・デ・アラノア、パコ・プラサ、ホナス・トゥルエバの4監督、オープニング作品はカルロス・サウラ、クロージング作品はダニエル・モンソン、両作とも金貝賞に絡まないアウト・オブ・コンペティションから選ばれ、他にマヌエル・マルティン・クエンカ、アレハンドロ・アメナバルの4監督、既に9作が発表になっていますので17作になりました。
★ホライズンズ・ラティノ部門、サバルテギ-タバカレラ部門、ペルラス部門の一部も発表になりましたが、今回は取りあえずセクション・オフィシアル部門のアウトラインに絞り、タイトル、製作国、監督、製作年、キャストなど。製作スタッフ、ストーリーは個別に順次アップいたします。

(コンペティション部門ノミネートの4人の監督)
*続セクション・オフィシアル部門*
⑩ Maixabel(スペイン)2021年、115分
監督:イシアル・ボリャイン、
出演:ルイス・トサール、ブランカ・ポルティリョ、ウルコ・オラサバル、マリア・セレスエラ
*作品紹介記事は、コチラ⇒2021年08月05日

⑪ El buen patrón / The Good Boss (スペイン)2021年、120分
監督:フェルナンド・レオン・デ・アラノア
出演:ハビエル・バルデム、マノロ・ソロ、アルムデナ・アモール、オスカル・デ・ラ・フエンテ、ソニア・アルマルチャ、フェルナンド・アルビス、タンク・ルミリ、ラファ・カステジョン、セルソ・ブガジョ
*作品紹介記事は、コチラ⇒2021年08月10日


⑬ Quién lo impide(スペイン)2021年、220分
監督:ホナス・トゥルエバ
出演:カンデラ・レシオ、パブロ・オヨス、シルビオ・アギラル、パブロ・ガビラ、クラウディア・ナバロ、マルタ・カサド、ハビエル・サンチェス、ロニー・ミシェル・ピンサル
*作品紹介記事は、コチラ⇒2021年08月16日


(アウト・オブ・コンペティション部門の4人の監督)
*アウト・オブ・コンペティション部門*
① Rosa Rosae, La Guerra Civil / Rosa Rosae, A Spanish Civil War Elegy(スペイン)2021年、6分
*オープニング作品、
監督:カルロス・サウラ
*監督はある歴史を創造するために、操作した後に撮影した30枚以上の画像、デッサン、写真を制作、復元する。スペイン内戦を再現するためではあるが、子供の目を通して、あらゆる戦争の惨禍を映しだすだろう。

② Las leyes de la frontera(スペイン)2021年、127分
*クロージング作品、
監督:ダニエル・モンソン
出演:マルコス・ルイス、ベゴーニャ・バルガス、チェチュ・サルガド

③ La hija / The Daughter(スペイン)2021年
監督:マヌエル・マルティン・クエンカ
出演:ハビエル・グティエレス、パトリシア・ロペス・アルナイス、イレネ・ビルグェス

④ La fortuna(スペイン)2021年、295分、TVミニシリーズ(6話、秋公開)
監督:アレハンドロ・アメナバル
出演:アルバロ・メル(アレックス・ベントゥラ)、アナ・ポルボロサ(ルシア)、スタンリー・トゥッチ(フランク・ワイルド)、クラーク・ピータース(ホナス・ピエルセ)、カラ・エレハルデ、ブランカ・ポルティリョ(セータ)、マノロ・ソロ、ペドロ・カサブランク、タニア・ミラー(スーザン)、他


★以上、セクション・オフィシアル部門に追加されたスペイン映画です。いずれの監督も日本では認知度があり、当ブログにも一度は登場させています。
アルゼンチンのイネス・マリア・バリオヌエボの新作*サンセバスチャン映画祭2021 ⑦ ― 2021年08月02日 16:58
コンペティションにイネス・バリオヌエバの「Camila saldrá esta noche」

(主人公のカミラ)
★セクション・オフィシアルの第一陣としてアナウンスされたイネス・バリオヌエバの第4作目「Camila saldrá esta noche」は、サンセバスチャン映画祭 SSIFF コンペティション部門に初参加した3作の一つです。この朗報は「目が眩むほどでした。部屋の中をスキップして走り回りしました。”Julia y el zorro” で SSIFF に行ったことはありますが、魅了されているテレンス・デイビスと同じセクションだなんて、もうクレージーよ」と、アルゼンチンはコルドバ生れの監督は喜びを隠さない。どんな映画なのでしょうか。
「Camila saldrá esta noche / Camila Comes Out Tonight」
製作:Aeroplano Cine / Gale Cine
監督:イネス・マリア・バリオヌエボ
脚本:アンドレス・アロイ(オリジナル脚本)、イネス・マリア・バリオヌエボ
撮影:コンスタンサ・サンドバル
編集:セバスティアン・シュヤーSchjaer
音楽:リベラ・ムシカRivera Música
製作者:セバスティアン・アロイ(Aeroplano Cine)、ルイス・フェルナンド・ブスタマンテ(Gale Cine)、マルティン・ブルリッヒ
データ:製作国アルゼンチン、スペイン語、2021年、ドラマ、100分、製作費65万ドル(推定)
映画祭・受賞歴:第69回サンセバスチャン映画祭2021セクション・オフィシアル正式出品
キャスト:ニナ・ジエンブロウスキーDziembrowski(カミラ)、アドリアナ・フェレール(ビクトリア)、カロリナ・ロハス(マルティナ)、マイテ・バレロ(クララ)、フェデリコ・サック(パブロ)、ディエゴ・サンチェス
ストーリー:未熟だが激しい気性の少女カミラの物語。ブエノスアイレスで暮らす祖母が重病になり、一人娘である母親が介護することになった。カミラはラプラタのリベラルな公立高校から魅力的なレコレタ地区にある私立の伝統的なカトリック校に転校する。突然の友人たちとの別れ、シングルマザーの家庭に起きる問題に巻き込まれる。カミラの未熟だが激しい気性は、状況の急激な変化に試練を受けるが、大都会で彼女を待ち受けていた可能性と体験が組になって彼女を魅惑する。

(公立高校の友人たち、映画から)
★イネス・マリア・バリオヌエボ(コルドバ1980)は、監督、脚本家。マラガ映画祭2020のZonaZineソナチネ部門に出品されたガブリエラ・ビダルと共同監督した3作目「Lxs chicxs de las motitos」(20)が、イベロアメリカ映画賞銀のビスナガを受賞、主演のカルラ・グソルフィノが同女優賞を受賞している。長編デビュー作「Atlántida」は、ベルリン映画祭2014年のジェネレーション14plus部門と初監督作品賞にノミネート、アルゼンチン映画批評家連盟2015(銀のコンドル)のオペラ・プリマ賞にノミネートを受けている。第2作目「Julia y el zorro」はSSIFF2018(ニューディレクターズ部門)とアトランタ映画祭2019にノミネートされ、後者では撮影監督エセキエル・サリナスが特別審査員賞を受賞した。「未だコロナウイリスがなかった時だったが、今回も皆で出かけられ、一緒に映画を見られますように」と監督。

(撮影中のイネス・マリア・バリオヌエボ監督)

(デビュー作「Atlántida」のポスター)
★サンセバスチャン映画祭の朗報は7月15日にもたらされ、正式には19日に発表された。アルゼンチンのフリア・モンテソロのインタビューに「カミラはラプラタで暮らす17歳の高校生、フェミニストで行動派に設定した。オリジナル脚本はアンドレス・アロイだが、私の視点を加えて完成させた。アンドレスと一緒に猛スピードで働き、撮影は2020年の1月にクランクイン、3月に終了したときには私はへとへとでした」と応えている。思春期にある若者たちの混沌に魅了されているとも語っている。デビュー作の「Atlántida」も同じ思春期がテーマだった。

(SSIFFニューディレクターズ部門ノミネートの「Julia y el zorro」のポスター)
イシアル・ボリャインの「Maixabel」*サンセバスチャン映画祭2021 ⑧ ― 2021年08月05日 18:35
ボリャインの4回目の金貝賞を狙う映画はETAの犠牲者の実話

(主役のブランカ・ポルティリョとルイス・トサールを配したポスター)
★セクション・オフィシアルの最初のスペイン映画の紹介は、イシアル・ボリャインが今回で4回目となる金貝賞に挑戦する「Maixabel」です。原題はブランカ・ポルティリョ扮する主人公マイシャベル・ラサからとられている。2000年7月29日トロサのバルで、ETAのテロリストによって暗殺された社会主義政治家フアン・マリア・ハウレギの未亡人である。2019年にはジョン・システィアガ&アルフォンソ・コルテス=カバニリャスによってドキュメンタリー「ETA, el final de silencio: Zubiak」も製作され、第67回サンセバスチャン映画祭で上映された。ETAの犠牲者は854人といわれるが、マイシャベルは他の犠牲者家族とどこが違うのか、物語はスリラーとして始り人間の物語として終わります。

(左から、監督、マイシャベル・ラサ、ブランカ・ポルティリョ、2021年2月)
「Maixabel」
製作:Kowalski Films / FeelGood 参画RTVE / EiTB / Movistar+
協賛ICAA / バスク州政府 / ギプスコア州議会 / ギプスコア・フィルムコミッション
監督:イシアル・ボリャイン
脚本:イシアル・ボリャイン、イサ・カンポ
音楽:アルベルト・イグレシアス、EuskadikoOrkestra
撮影:ハビエル・アギーレ
編集:ナチョ・ルイス・カピリャス
美術:ミケル・セラーノ
音響:アラスネ・アメストイ
衣装デザイン:クララ・ビルバオ
メイクアップ:カルメレ・ソレル、セルヒオ・ぺレス
キャスティング:ミレイア・フアレス
プロダクション・マネージメント:イケル・G・ウレスティ、イツィアル・オチョア
製作者:コルド・スアスア(Kowalski Films)、フアン・モレノ、ギジェルモ・センペレ( FeelGood)、(ラインプロデューサー)グアダルペ・バラゲル・トレジェス
データ:製作国スペイン、スペイン語、2021年、115分、実話、撮影地主にバスク自治州ギプスコア県、アラバ、撮影期間2021年2月~3月、配給ブエナビスタ・インターナショナル、販売フィルムファクトリー。公開SSIFFの第1回上映後の9月24に決定。
映画祭・受賞歴:第69回サンセバスチャン映画祭2021セクション・オフィシアルノミネート、9月17日と25日に上映
キャスト:ブランカ・ポルティリョ(マイシャベル・ラサ)、ルイス・トサール(イボン・エチェサレタ)、マリア・セレスエラ(マイシャベルの娘マリア)、ウルコ・オラサバル(ルイス)、ブルノ・セビリャ(ルイチ)、ミケル・ブスタマンテ(パチ・マカサガ)、パウレ・バルセニリャ(友人)、他
ストーリー:夫が暗殺された11年後、マイシャベルは暗殺者の一人、イボン・エチェサレタから奇妙な要求を受け取る。彼はETAのテロリスト集団と関係を絶ち刑に服していた。服役中のアラバ県はナンクラレス・デ・ラ・オカ刑務所内でのインタビューを受けたいという。マイシャベルは多くの疑念と辛い痛みにも拘わらず、16歳のときから仲間になった自分の人生を終わらせたいという人物の面談を受け入れる。夫を殺害した人間と面と向かって会うことの理由を質問された彼女は「誰でも二度目のチャンスに値する」と答えた。「主人公への敬意をこめて、私たちの最近の過去を伝えたい」とイシアル・ボリャイン。

(2000年7月29日に殺害されたフアン・マリア・ハウレギの葬儀)
バスク自治政府テロ犠牲者事務局長だったマイシャベル・ラサの人生哲学
★バスクではなくマドリード生れの監督がETAのテロリズムをテーマに映画を撮り、サンセバスチャン映画祭4度目の金貝賞に挑戦する。第1回目の『テイク・マイ・アイズ』(Te doy mis ojos、03)では、主演のルイス・トサールが銀貝男優賞、ライア・マルルが銀貝女優賞を受賞した。2回目が2007年の「Mataharis」、2018年「Juli」で脚本審査員賞、そして今回作品賞をローラン・カンテやテレンス・デイビスと金貝賞を競うことになる。監督のキャリア&フィルモグラフィーについては2016年の『オリーブの樹は呼んでいる』、2020年の「La boda de Rosa」で紹介しています。
*『オリーブの樹は呼んでいる』の紹介記事は、コチラ⇒2016年07月19日
*「La boda de Rosa」の紹介記事は、コチラ⇒2020年03月21日

(「Juli」ノミネートでインタビューを受けるボリャイン監督、SSIFF 2018)
★上述したように報道ジャーナリストのジョン・システィアガとアルフォンソ・コルテス=カバニリャス監督のドキュメンタリー「ETA, el final de silencio」(7編)が製作され、2019年10月31日から12月12日まで毎週放映された。第1編がこの「Zubiak」で<橋>という意味です。ルポルタージュとして放映されたのでIMDbには登録されていないようだが、マイシャベル・ラサとイボン・エチェサレタの和解を描いている。システィアガはバスク大学でジャーナリズムを専攻、国際関係学の博士号を取得している。ルワンダ、北アイルランド、コロンビア、コソボ、アフガニスタン他、世界各地の紛争地に赴いてルポルタージュを制作している。


(マイシャベルの家で語り合うマイシャベルとエチェサレタ、ドキュメンタリー)
★ブランカ・ポルティリョ(マドリード1963)が、グラシア・ケレヘタの「Siete mesas de billar francés」(07)で銀貝女優賞を受賞して以来、14年ぶりにSSIFF に戻ってきました。翌年のゴヤ賞主演女優賞はノミネートに終り、目下ゴヤ受賞歴はありません。もともと舞台女優として出発、ギリシャ悲劇、シェイクスピア劇、ロルカ劇に出演、演劇の最高賞といわれるMax賞は5回受賞している。最近ではTVシリーズ出演や監督業に専念していた。「マイシャベルになるのは名誉なことです」とツイートしている。

(マイシャベルに扮したポルティリョ、映画から)
★映画は上述以外では、主な代表作としてマルコス・カルネバルの『エルサ&フレド』、ミロス・フォアマンの『宮廷画家ゴヤ』、ペドロ・アルモドバルの『ボルベール』(カンヌ映画祭グループで女優賞)や『抱擁のかけら』、アグスティン・ディアス・ヤネスの『アラトリステ』では異端審問官役で男性に扮した。他にアレックス・デ・ラ・イグレシアの『刺さった男』、2020年にはグラシア・ケレヘタの「Invisibles」にカメオ出演している。多彩な芸歴で紹介しきれないがアウトラインだけでお茶をにごしておきます。

(二人の主役、ポルティリョとトサール、映画から)
★ルイス・トサール(ルゴ1971)は、フェルナンド・レオン・デ・アラノアの『月曜日にひなたぼっこ』で助演男優賞、ボリャインの『テイク・マイ・アイズ』とダニエル・モンソンの『プリズン211』でゴヤ賞主演男優賞と3回受賞している。脇役時代が長かったので出演作は3桁に及ぶ。何回も登場させているので割愛したいが、本作のように実在しているモデルがいる役柄は多くないのではないか。舞台俳優としても活躍、最近Netflixで配信されたTVシリーズ『ミダスの手先』(6話)では主役のメディア会社の社長を演じていた。製作者デビューも果たしている。最近の当ブログ登場は、アリッツ・モレノのブラック・コメディ『列車旅行のすすめ』、パラノイア患者役の怪演ぶりで楽しませた。
*簡単なキャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2016年07月03日
*『列車旅行のすすめ』の紹介記事は、コチラ⇒2019年10月14日

(撮影中の監督とルイス・トサール)
★サウンドトラックは、ゴヤ胸像のコレクター、11個を手にしたアルベルト・イグレシアス、オスカー賞にも3回ノミネートされている。キャスト陣では、マイシャベルの娘に新人マリア・セレスエラ、監督、脚本家のウルコ・オラサバルやミケル・ブスタマンテと、バスクを代表するシネアストを俳優として起用している。ブルーノ・セビリャは、エレナ・トラぺ映画やTVシリーズ、ホラー映画『スウィート・ホーム』に出演している。
ホライズンズ・ラティノ部門10作が発表*サンセバスチャン映画祭2021 ⑨ ― 2021年08月08日 15:04
ラテンアメリカ諸国からデビュー作3作を含む10作が一挙に発表

★8月4日、ホライズンズ・ラティノ部門のノミネーション10作が発表になりました。このセクションはブラジルを含むラテンアメリカ諸国のスペイン語・ポルトガル語映画に特化しています。翌日にはペルラス(パールズ)部門15作、日本からは先ほど閉幕したカンヌ映画祭の脚本賞を受賞した濱口竜介の『ドライブ・マイ・カー』が特別上映されるほか、コンペ部分にもベルリン映画祭で銀熊審査員グランプリを受賞した『偶然と想像』がノミネートされています。それはさておき、今回はホライズンズ・ラティノ部門のご紹介、ラテンアメリカに初めて金獅子をもたらしたベネズエラのロレンソ・ビガスやベルリン映画祭パノラマ部門でデビュー作が初監督作品賞を受賞したアロンソ・ルイスパラシオスなどの名前が目にとまりました。取りあえずタイトル、製作国、監督、キャスト、などのトレビアをアップします。



*ホライズンズ・ラティノ部門*
① Jesús Lopéz (アルゼンチン=フランス)2021年、90分、WIP Latam 2020
オープニング作品
監督:マキシミリアノ・シェーンフェルド Schonfeld(アルゼンチン、クレスポ1982)の本作はワールドプレミア、事故死したレーシングドライバーのヘスス・ロペスの従弟アベルのその後が語られる。
別途作品紹介予定
キャスト:ルカス・シェル、ホアキン・スパン、ソフィア・パロミノ、イア・アルテタ、アルフレッド・セノビ、パウラ・ランセンベルク、ロミナ・ピント、ベニグノ・レル
*作品紹介記事は、コチラ⇒2021年08月30日

② El empleado y el Patrón / The Employer and the Employee クロージング作品
(ウルグアイ=アルゼンチン=ブラジル=仏)2021年、106分、WIP Latam 2020
監督:マヌエル・ニエト・サス(ウルグアイ)の第3作目は、WIP Latam 2020のEGEDAプラチナ賞受賞作品、カンヌ映画祭と併催の「監督週間」にノミネートされている。『BPMビー・パー・ミニット』のナウエル・ぺレス・ビスカヤートが主演。
キャスト:ナウエル・ぺレス・ビスカヤート、クリスティアン・ボルヘス、フスティナ・ブストス、ファティマ・キンタニージャ

③ Amparo (コロンビア=スウェーデン=カタール)2021年、95分
監督:シモン・メサ・ソト(コロンビア、メデジン1986)の長編デビュー作、カンヌ映画祭併催の「批評家週間」にノミネートされている。短編「Leidi」(14)はカンヌで短編部門のパルムドールを受賞、2016年にも「Madre」がノミネートされている。両作とも当ブログでアップしています。長編デビュー作ということで別途作品紹介予定。
キャスト:サンドラ・メリッサ・トレス、ディエゴ・アレハンドロ・トボン、ルチアナ・ガジェゴ、ジョン・ハイロ・モントーヤ
*作品紹介記事は、コチラ⇒2021年08月23日

④ Aurora(コスタリカ=メキシコ=パナマ)2021年、92分、Cine en Construcción 37
監督:パス・ファブレガ(コスタリカ)の長編2作目、ロッテルダム映画祭に正式出品された。デビュー作「Agua fria de mar」(10)は同ホライズンズ・ラティノ部門にノミネートされた。
キャスト:レベッカ・ウッドブリッジ、ラケル・ビリャロボス

⑤ Azor (スイス=アルゼンチン=フランス)2021年、100分、
V Foro de Coproducon Europa=America Latina ヨーロッパ・ラテンアメリカ共同製作
監督:アンドレアス・フォンタナ(スイス)のデビュー作、アルゼンチン独裁政権とデサパレシードスを背景にした2人の銀行家が語られる。
キャスト:スティファニー・Cleau、ファブリツィオ・Rongione

⑥ La caja / The Box (メキシコ=米国)2021年、92分
監督:ロレンソ・ビガス(ベネズエラ、メリダ1967)は、デビュー作「Desde Allá」がベネチア映画祭2015で金獅子賞を受賞してシネマニアを驚かせた。ラテンビートでは『彼方から』の邦題で上映された。別途作品紹介予定。
キャスト:エルナン・メンドサ、Hatzin Navarrete
*作品紹介記事は、コチラ⇒2021年09月07日

⑦ Madalena (ブラジル)2021年、85分、Cine en Construcción 36
監督:マディアノ・マルチェティMadiano Marcheti(ブラジル)のデビュー作は、ロッテルダム映画祭のコンペティション部門にノミネートされている。マダレナの失踪に関係した3人の人物の物語が語られる。
キャスト:ナタリア・マザリン、ラファエル・デ・ボナ、パメリャ・ユーリ、Chloe Milan、マリアネ・カセレス

⑧ Noche de fuego / Players for The Stolen(メキシコ=独=ブラジル=カタール)
2021年、110分
監督:タティアナ・ウエソ(エルサルバドル1972、メキシコの二重国籍)の長編デビュー作、カンヌ映画祭「ある視点」でスペシャル・メンションを受賞している。ドキュメンタリー作家として高い評価を得ているウエソが初めて劇映画を撮りました。2016年のドキュメンタリー「Tempestad」は、アリエル賞2017監督賞、ベルリン映画祭カリガリ賞(特別審査員賞)、ゴヤ賞2018イベロアメリカ映画賞ノミネート、ハバナFF、リマFF他受賞歴多数。代表作にノンフィクション「El lugar más pequeña」(11)がある。別途作品紹介予定。
キャスト:アナ・クリスティナ・オルドニェス・ゴンサレス、マルヤ・メンブレニョ、マイラ・バタリャ
*作品紹介記事は、コチラ⇒2021年08月19日

⑨ Piedra noche / Dusk Stone (アルゼンチン=チリ=スペイン)2021年、87分、
WIP Latam 2020
監督:イバン・フンド(アルゼンチン)は、監督、脚本家、撮影監督、製作者。本作は一人息子を失った或る夫婦の苦悩が語られる。WIP Latam 2020の産業賞受賞作品。9月1日開催のベネチア映画祭と併催の「ヴェニス・デイ」がワールドプレミアになります。イバン・フンドは既に「Los labios」がカンヌの「ある視点」にノミネート、マル・デル・プラタFFやBAFICIブエノスアイレス国際インディペンデントFFなど国内の映画祭で受賞歴があります。
キャスト:マリセル・アルバレス、マラ・ベステリィ、アルフレッド・カストロ、マルセロ・スビオット、へレミアス・クアロ

⑩ Una pelícla de policías / A Cop Movie (メキシコ)2021年、107分
監督:アロンソ・ルイスパラシオス(メキシコシティ1978)は、モノクロで撮ったデビュー作「Güeros」(14)がSSIFF ホライズンズ・ラティノ部門で作品賞とユース賞を受賞、同年ラテンビートで『グエロス』の邦題で上映された。今回はベルリナーレ2021でイブラン・アスアドが銀熊フィルム編集賞を受賞している。別途作品紹介予定
キャスト:モニカ・デル・カルメン、ラウル・ブリオネス・カルモナ
*作品紹介記事は、コチラ⇒2021年08月28日

★今年は女性監督が2人とバランス的には偏りがありますが、タティアナ・ウエソの名前を久しぶりに目にしました。政情不安のエルサルバドル生れですがメキシコに渡って国籍を取得しています。今年はメキシコからアロンソ・ルイスパラシオスと2人がノミネートされた。どちらも話題作のようですから、秋の映画祭を視野に入れて作品紹介を予定しています。
フェルナンド・レオンの新作「El buen patrón」*サンセバスチャン映画祭2021 ⑩ ― 2021年08月10日 15:31
フェルナンド・レオンの新作コメディ「El buen patrón」

★フェルナンド・レオン・デ・アラノアのサンセバスチャン映画祭セクション・オフィシアルのノミネートは3回目になる。1998年の「Barrio」は銀貝監督賞とFIPRESCI(国際映画批評家連盟)賞ほかを受賞、続く2002年の『月曜日にひなたぼっこ』が金貝賞とカトリックメディア協議会SIGNIS賞ほかを受賞した。そして今年、長編10作目の「El buen patrón」が3回目のノミネーションとなる。新作の主役は『月曜日にひなたぼっこ』主演のハビエル・バルデム、18年ぶりの再会などと言われるが、2017年にコロンビアのメデジン・カルテルの麻薬王パブロ・エスコバルに扮した「ラビング・パブロ Loving Pablo」でタッグを組み、本祭のペルラス部門のクロージング作品に選ばれている。共演の愛人役ペネロペ・クルスと監督の3人でベロドロモの大会場に現れ、3000人の観衆を沸かせた。ということで二人がタッグを組むのも3回目になる。

(製作者ジャウマ・ロウレス、フェルナンド・レオン監督、ハビエル・バルデム)

(「ラビング・パブロ」撮影中の監督とバルデム)
「El buen patrón / The Good Boss」
製作:Reposado P.C. / The MediaPro Studio 協賛RTVE / TV3
監督・脚本:フェルナンド・レオン・デ・アラノア
音楽:セルティア・モンテス
撮影:パウ・エステベ・ビルバ
メイク&ヘアー:(メイク)アルムデナ・フォンセカ、(ヘアー)パブロ・モリリャス
プロダクション・マネージメント:ルイス・グティエレス、チュス・サン・パスクアル
美術:ダニエル・エルナンデス、ハビエル・ロペス・アンティア、パブロ・トラサンコス
音響:アナ・カパロス、エドゥアルド・カストロ、ダニエル・フング・マッチ、他
特殊効果:ダビ・カンポス、スサナ・コンテラ、ホアキン・ドラド、他
視覚効果:ミラグロス・ガルシア、他
製作者:ジャウマ・ロウレス、フェルナンド・レオン・デ・アラノア、(エグゼクティブ)ピラール・エラス、マリサ・フェルナンデス・アルメンテロス、エバ・ガリード、カルレス・モンティエル、パトリシア・デ・ムンス、ハビエル・メンデス
データ:製作国スペイン、スペイン語、2021年、ブラックコメディ、120分、撮影地マドリード、モストレス、期間2020年10月20日~12月終了。スペイン公開2021年10月15日、配給Tripictures、海外販売MK2 Films
映画祭・受賞歴:第69回サンセバスチャン映画祭2021セクション・オフィシアルに正式出品
キャスト:ハビエル・バルデム(バスクラス・ブランコ)、マノロ・ソロ、アルムデナ・アモール、オスカル・デ・ラ・フエンテス、ソニア・アルマルチャ、マリア・デ・ナティ(アンヘラ)、ダニエル・チャモロ(新聞記者)、セルソ・ブガーリョ、フェルナンド・アルビス、ヤエル・ベリチャ、マラ・ギル(アウロラ)、ラファ・カステジョン、タリク・ルミリ、マルティン・パエス、ダリト・ストリット・テハダ、他
ストーリー:スペインの地方都市で工業用秤を製造する会社のカリスマ的な経営者ブランコは、ある委員会の決定を心待ちにしている。それは優秀な企業家に贈られる地元のビジネス・エクセレンス賞、それにはすべてに完璧でなければならないし、委員会の訪問は彼の運命を決定することになるだろう。しかしながら状況は反対方向を指しているようだ。ブランコは大至急で対策を立てはじめる、従業員の問題を解決しようとするあまり考えられる全ての境界線を越えてしまう。予期せぬことが原因で、不測の結果をもたらすとんでもない出来事が立て続けに起きてしまう。個人と労働の関係についての厳しい視点が語られる監督得意のブラックコメディ。

(ブランコ社のオーナー役のハビエル・バルデム、映画から)
★フェルナンド・レオン・デ・アラノア(マドリード1968)は、監督、脚本家、製作者、作家、コンプルテンセ大学情報科学部卒。デビュー作「Familia」(96)がスペイン映画祭’98にエントリーされ、『ファミリア』の邦題で字幕入りで見ることができた。今は亡き名優フアン・ルイス・ガリアルドを主役に、往年の大スターのアンパロ・ムニョス、そしてエレナ・アナヤが銀幕デビューした作品でした。上述した「Barrio」も『月曜日にひなたぼっこ』も当ブログがなかった頃の作品で、最初に登場させたのが2015年の戦争コメディ「A Perfect Day」、大分経ってから『ロープ 戦場の生命線』の邦題で公開された。多分これが最初の劇場公開映画だったのではないか。ベニチオ・デル・トロとティム・ロビンスの大物俳優が共演した、基本が英語映画だったからかもしれない。
*「A Perfect Day」の紹介記事は、コチラ⇒2015年05月17日

(名優フアン・ルイス・ガリアルド主演の「Familia」のポスター)
★受賞歴のない作品は一つもないほど数が多すぎるので、ゴヤ賞に限ってアップします。
1996「Familia」(ファミリア)ゴヤ賞1998の新人監督賞受賞、脚本賞ノミネート
1998「Barrio」ゴヤ賞1999の監督賞・オリジナル脚本賞受賞
2002「Los lunes al sol」(月曜日にひなたぼっこ)ゴヤ賞2003監督賞受賞、
脚本賞ノミネート
2005「Prinsesas」ゴヤ賞2006脚本賞ノミネート
2007「Invisibles」ゴヤ賞2008ドキュメンタリー映画賞(イサベル・コイシェ他5人合作)
2015「A Perfect Day」(ロープ 戦場の生命線)ゴヤ賞2016脚色賞受賞、監督賞ノミネート

(ルイス・トサールとバルデムを配した『月曜日にひなたぼっこ』のポスター)
★以上が監督の受賞歴ですが、「Los lunes al sol」のように、作品賞(エリアス・ケレヘタ、ジャウマ・ロウレス)、主演男優賞(ハビエル・バルデム)、助演男優賞(ルイス・トサール)、新人男優賞(ホセ・アンヘル・エヒド)を含めると5冠を制したことになる。MediaProのジャウマ・ロウレスは、新作でのメイン製作者です。バルデムについては何回か中途半端だがキャリア紹介をしておりますが、いずれ賞に絡んだらアップします。アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの『ビューティフル』(10)の受賞以来、ゴヤ賞から遠ざかっている。
パコ・プラサの新作ホラー「La abuela」*サンセバスチャン映画祭2021 ⑪ ― 2021年08月12日 18:26
『エクリプス』のパコ・プラサの新作はホラー「La abuela」

★パコ・プラサのセクション・オフィシアルは初めて、金貝賞を競うことになった。新作「La abuela」はホラー、脚本を『マジカル・ガール』や『シークレット・ヴォイス』の監督カルロス・ベルムトが手掛けているのが話題を呼んでいる。祖母役にココ・シャネルのお気に入り、1950~60年代に世界で最も人気のあったモデルの一人、ヴェラ・バルデス(リオデジャネイロ1936)を起用、その孫娘に前回アップしたフェルナンド・レオンの「El buen patrón」で長編映画デビューしたアルムデナ・アモールが抜擢されている。新旧世代のコントラスト、老いの恐怖がテーマのようだ。

(アルムデナ・アモール、プラサ監督、ヴェラ・バルデス)
「La abuela」(「Grandmother」)
製作:Apache Films / Apache AIE / Atresmedia Cine / Les Films Du Worso
監督:パコ・プラサ
脚本:カルロス・ベルムト、(アイデア)パコ・プラサ
撮影:ダニエル・フェルナンデス・アベリョ
キャスティング:フランソワ・リヴィエール
プロダクション・デザイン&美術:ライア・アテカ
衣装デザイン:ビニェト・エスコバルVinyet Escobar
メイクアップ:(特殊メイク)ナチョ・ディアス、フアン・オルモ、ルベン・セラ、他
プロダクション・マネージメント:ダビ・ラゴニグ
特殊効果:ラウル・ロマニリョス、他
録音:ガブリエル・グティエレス、他
製作者:エンリケ・ロペス・ラヴィーン(Apache Films)、ピラール・ロブラ
データ:製作国スペイン=フランス、スペイン語、2021年、ホラー、100分、撮影地マドリード、パリ、撮影期間2020年夏、配給ソニーSony Pictures、スペイン公開2021年10月22日決定、公開後アマゾン・プライム・ビデオにて配信予定。
映画祭・受賞歴:第69回サンセバスチャン映画祭セクション・オフィシアル正式出品
キャスト:アルムデナ・アモール(スサナ)、ヴェラ・バルデス(祖母ピラール)、カリナ・コロコルチコワ(エバ)、チャチャ・ホアンHuang(ウェートレス)、Michael Collisマイケル・コリス(乗客)
ストーリー:スサナはモデルとして働いていたパリの生活を一旦止めて、マドリードに戻らねばならなくなった。両親の死後、我が子のように育ててくれた祖母ピラールが脳溢血で倒れ、介護者を必要としていたからだ。数日間の滞在と考えていたのだが、まもなく超常的な悪夢へと変貌していく。若い女性の人生をを変えてしまう悪夢、私たちが触れたくない老いの恐怖が語られる。

(スサナと祖母ピラール)
「ジャンルシネマは比類のない創造的な自由がある」とパコ・プラサ
★パコ・プラサ(バレンシア1973)は、監督、脚本家、製作者、編集者。CEU サンパブロ大学、バレンシア大学で情報科学の学士号、マドリード・コミュニティ映画視聴覚上級学校ECAMの映画監督の学位を取得している。英語、フランス語に堪能、1995年監督デビュー、短編「Abuelitos」(99)や「Rompecabezas / Puzzles」(01)でキャリアをスタートさせた。2001年、長編デビュー作「Los hijos de Abraham」がシッチェス映画祭2001ファンタスティック映画ヨーロッピアンのグランプリを受賞、2004年ホラーサスペンス「Romasanta. La caza de la bestia」でマラガ映画祭監督賞を受賞した。しかしなんといっても彼の存在を世に示したのは、ジャウマ・バラゲロと共同で監督したホラー『RECレック』(07)だったでしょう。

(単独で監督した『RECレック3 ジェネシス』のスペイン版ポスター)
★シリーズ・レックは4作あり、第1作と2作が共同で監督、3作目がプラサ単独(レティシア・ドレラ主演)、4作目がバラゲロ単独です。国際映画祭で合計26賞したと言われる大ヒット作でした。プラサ監督は2014年7月インスティテュート・セルバンテス東京で開催された<スペインホラー映画上映会>のため来日、講演している。他にアメナバルの『テシス』やバヨナの『永遠のこどもたち』などが上映された。パートナーのレティシア・ドレラの映画をプロデュースしている。
★2017年に撮ったホラー「Verónica」(邦題『エクリプス』)がゴヤ賞2018で作品賞を含む7カテゴリーにノミネートされた折り、少しだけ監督紹介をしています(受賞は録音賞のみ)。「私たちは男性優位で女嫌いの社会に暮らしている」と、警鐘を鳴らしていた。ルイス・トサールを起用して撮ったスリラー「Quien a hierro mata」は、共演のエンリク・アウケルにゴヤ賞2020の新人男優賞をもたらした。この度ホラーに戻ってきたのが本作「La abuela」です。
*『エクリプス』の紹介記事は、コチラ⇒2018年02月01日

(『エクリプス』のスペイン版ポスター)
★新作のインタビューで「ジャンルシネマは、私たちに関係する問題を話すのに最適です。比類のない創造的な自由を利用して現実について語ることができる」と監督。方や脚本を手掛けたカルロス・ベルムトは、「ホラーの脚本をずっと書きたいと思っていました。チャンスが与えられて幸運でした。ホラーは現在最も革新が行われている、X線撮影が可能なジャンルの一つです。本作は、私たちの社会が怖れているあまり隠し続けているもの、それは老いです」とコメント、どうやらテーマの一つはアンタッチャブルな老後のようです。

(タッグを組んだカルロス・ベルムトとパコ・プラサ)
★主役の一人84歳になるヴェラ・バルデスは、モデル引退後ブラジルに戻り舞台女優として活躍していたそうですが、ここ最近映画に出演している。パラグアイの監督パブロ・ラマルのデビュー作「La última tierra」に出演、監督がロッテルダム映画祭2016のタイガー賞スペシャル・メンションを受賞している。上述したようにアルムデナ・アモールは未知数、共演者のチャチャ・ホアンは、ラウラ・アルベア&ホセ・オルトゥーニョのサイコ・ホラー「Ánimas」(18)に主人公のガールフレンド役で出演している。『アニマ』の邦題でNetflixで配信されている。


(ピラール役のヴェラ・バルデス、映画から)

(撮影中のアルムデナ・アモールとプラサ監督)

(スサナ役のアルムデナ・アモール、映画から)
ホナス・トゥルエバの「Quién lo impide」*サンセバスチャン映画祭2021 ⑫ ― 2021年08月16日 11:25
「ドキュメンタリーでもフィクションでも映画でもない」とホナス・トゥルエバ

★ホナス・トゥルエバが「Quién lo impide」で再びサンセバスチャン映画祭に戻ってきた。SSIFF 2016セクション・オフィシアルに初参加した「La Reconquista」は、後に『再会』の邦題でNetflixで配信された。そして主役のイチャソ・アラナを起用して撮ったのが「La virgen de agosto」(19)、『8月のエバ』の邦題でラテンビート2019で上映された。新作「Quién lo impide」のタイトル名は、昨年3月、肺癌に倒れたシンガーソングライターのラファエル・ベリオの歌詞から採られたそうです。『再会』では「アルカディア・エン・フロール」を演奏していた。監督キャリア&フィルモグラフィーは、長編第3作「Los exiliados románticos」がマラガ映画祭2015で審査員特別賞を受賞した折り紹介記事をアップしております。

(ホナス・トゥルエバ監督)
*「Los exiliados románticos」フィルモグラフィーは、コチラ⇒2015年04月23日
*『再会』の紹介記事は、コチラ⇒2016年08月11日
*『8月のエバ』の紹介記事は、コチラ⇒2019年06月03日/同年11月13日

(イチャソ・アラナ主演の『8月のエバ』のポスター)
★新作「Quién lo impide」は、2018年6月20日にマドリードのシネテカでプレゼンされた「Quién lo impide」(4部作282分)がもとになっている。ドキュメンタリー風であったりフィクションの部分が主であったりまちまちのようだ。バルセロナで開催されるD'Aバルセロナ映画祭*2019でも上映されているが、再編集されたもののプレゼンはSSIFFが初、どのように220分に編集しなおしたかは目下詳細を明らかにしていない。21世紀初頭生れの10代の若者たちに呼びかけて実施した教育プロジェクトから誕生した。彼らの現在への意見、未来への期待を反映させている。約5年間に及ぶ撮影と編賞を経て完成された。監督が設立した制作会社Los Ilusos Filmsが手がけた。
*D'Aバルセロナ映画祭についての記事は、コチラ⇒2021年04月17日
*4部作のタイトルは、以下の通り:
「Quién lo impide: Principiantes」60分
「Quién lo impide: Sólo somos」90分
「Quién lo impide: Tú también lo has vivido」52分
「Quién lo impide: Si vamos 28, volvemos 28」80分

(4部作の各ポスター)
製作・製作者:Los Ilusos Films(ホナス・トゥルエバ、ロレナ・ツデラ、ハビエル・ラフエンテ)/ Cineteca Madrid
監督:ホナス・トゥルエバ
撮影:ホナス・トゥルエバ、サンティアゴ・ラカ、ダニエル・オカント、ギジェルモ・ロドリゲス、マネル・アグアド・コル、フェルナンド・メレロ、ロレナ・ツデラ
編集:マルタ・ベラスコ
データ:製作国スペイン、スペイン語、2021年、ドクドラマ、220分、サンセバスチャン映画祭2021ワールドプレミア
キャスト:カンデラ・レシオ、パブロ・オヨス、シルビオ・アギラル、パブロ・ガビラ、クラウディア・ナバロ、ナタリア・ウアルテ、イチャソ・アラナ、フランセスコ・カリル、ペドロ・ロサノ、マルタ・カザド、リカルド・ガルシア、マリア・エラドール、ロニー=マイケル・ピンサル、ハビエル・サンチェス、ビクトル・ぺラレス、レナタ・ピコ、クラウディア・ロセット、ほか
解説:本作は、若者と青年期についての私たちの認識を変えるための呼びかけです。21世紀の初頭に生まれ、大人になったばかりの人々です。今では全ての罪を犯しているように思われると同時に、彼らは希望が薄れていくのを感じている。ドキュメンタリーとフィクション、そして純粋な証言の記録の狭間で、青年たちは自身の在りのままを見せますが、私たちが彼らを見たり、あるいは私たちに見させたりすることは多くはありません。自分自身をよく見せるために映画用カメラを利用して、将来の自信を取り戻します。弱さと感動から、ユーモア、知性、信念、意見までです。何故なら愛、友情、政治、教育について私たちに話しかける若者は、自分のことだけではなく、年齢に関係なく私たちが常に気にかけていることを話しているからです。「誰がそれを阻止するのか」は私たちについての映画、私たちが何であったか、何であるか、そしてこれから何であろうとするのかについての映画です。






(4部作の予告編に登場する画像のピックアップ)
★YouTubeで見られる4部作の予告編では「これはドキュメンタリーでもフィクションでもない」、更には「映画でもない」と。ドキュメンタリーとフィクションのジャン分けをしない(・できない)という監督は沢山いるが、映画ではないと言うなら、じゃこれは何か。これは「人生のようなもの」で「映画(館)に入り込む」のだという。見るのではなく参加するものということか。とにかく現時点では推測するしかない。
タティアナ・ウエソのデビュー作「Noche de fuego」*サンセバスチャン映画祭2021 ⑬ ― 2021年08月19日 15:17
ホライズンズ・ラティノ部門――タティアナ・ウエソの「Noche de fuego」

★前回でセクション・オフィシアルのスペイン語映画は全作アップしましたので、今回からホライズンズ・ラティノ部門の作品紹介に移ります。10作のうち第1弾としてドキュメンタリー作家として実績のあるタティアナ・ウエソの劇映画デビュー作「Noche de fuego」から。カンヌ映画祭2021「ある視点」審査員スペシャル・メンション受賞作、コロナ禍で作品数が少ないのかワールドプレミアでない作品が増えています。ウエソ監督は1972年エルサルバドル生れだがメキシコで活躍しており、両国の国籍をもっている。ベルリン映画祭特別審査員賞、アリエル監督賞ほかを受賞した「Tempestad」(16)で、既に国際的評価を受けている。カンヌ受賞作なので何かの賞に絡むかどうか分かりませんが、長編劇映画デビュー作ということで、まず紹介いたします。

(マイラ・バタリャ、ウエソ監督、マルヤ・メンブレニョ、カンヌFF 2021、フォトコール)
「Noche de fuego / Player for the Stolen」
製作:Pimienta Films / Match Factory Productions / Bord Cadre Films
監督:タティアナ・ウエソ
脚本:タティアナ・ウエソ、原作者ジェニファー・クレメント
撮影:ダリエラ・ルドロー
音楽:ハコボ・リーバーマン、レオナルド・ハイブルムHeiblum
編集:ミゲル・シュアードフィンガー
プロダクション・デザイン:オスカル・テリョ
製作者:ニコラス・セリス(Pimienta Films)、ジム・スターク(Bord Cadre Films)
データ:製作国メキシコ=ドイツ=ブラジル=カタール、スペイン語、2021年、ドラマ、110分、撮影地ケレタロ州シエラ・ゴルダ、海外販売The Mactch Factory
映画祭・受賞歴:カンヌ映画祭2021「ある視点」部門、スペシャル・メンション受賞、サンセバスチャン映画祭2021「ホライズンズ・ラティノ」部門正式出品
キャスト:アナ・クリスティナ・オルドニェス・ゴンサレス(アナ、8歳)、マルヤ・メンブレニョ(アナ、13歳)、マイラ・バタリャ(アナの母リタ)、ノルマ・パブロ(ルス)、オリビア・ラグナス(スルマ)、ギセレGiselle・バレラ・サンチェス、アレハンドラ・カマチョ、ブランカ・イツェルItzel・ペレス、カミラ・ガール、エモ・ビジェガス、ほか
物語・解説:シエラ・デ・メヒコに暮らすアナ、パウラ、マリアの三人の少女の物語。ある町では家族が逃亡して住んでいない空き家に三人の若者が入り込んで暮らしている。三人は誘拐やレイプを逃れるため髪を切って男装した少女たちだった。誰も見ていないときはこの隠れ家で少女に戻る。しかし暴力の暗いエコーは避けられない警告になろうとしていた。少女たちの目を通して、特にアナの目を通して、ジェンダーにもとづくメキシコの暴力、麻薬密売人によって管理された共同体、女性の友情や誠実さ、更には愛が語られる。父親は出稼ぎ労働者として不在の母子家庭では、母親は危険から娘たちを守るために奔走する。犯罪組織によってコントロールされている町で生きのびることを探している少女たちのフィクション。

(まだ長い髪のままでいられた頃の3人)


(初潮をむかえてしまった3人)

(アナ役のマルヤ・メンブレニョをバックにしたポスター)
★2年ぶりのカンヌで、最も拍手喝采を浴びた映画が本作でした。上映後のスタンディングオベーションは最高の10分間だったそうです。「私たちの映画を受け入れてくれてありがとう。とても幸せです。この作品は、多大な労力と旅に同行してくれたトップレベルのアーティストたちのお蔭です」と監督、洞察に満ちた観察がなされ、少女たちが経験する葛藤に敏感な作品と高評価され、審査員スペシャル・メンションを受賞した。ラテンアメリカ諸国から審査員が選ばれることも少なく、実力がないと受賞は難しいから快挙です。今年に限らずメキシコ映画にとってカンヌの敷居は高い。ここ10年の受賞者は、カルロス・レイガダス、アマ・エスカランテ、ミシェル・フランコの顔が思い浮かぶくらい。今回はルーマニアの監督テオドラ・アナ・ミハイの「La Civil」(メキシコ=ルーマニア=ベルギー)にミシェル・フランコが製作者の一人として参画しており、こちらはCourage勇気賞を受賞、期せずして二人の女性監督が受賞した。
★原作はアメリカ系メキシコ人のジェニファー・クレメント(コネチカット州グリニッジ1960)の小説 ”Ladydi”(2014年刊)がベースになっている。タイトルは主人公の名前、作家は1歳のときにメキシコシティに移住したがニューヨーク大学で英文学と人類学を専攻、現在はメキシコシティに在住している。2009年から12年まで、メキシコ初となる女性のペンクラブ会長を務めている。

(原作 ”Ladydi” の表紙)
★小説では舞台はゲレロ州でしたが、映画はメキシコ中部のケレタロ州シエラ・ゴルダの小さな村で撮影した。監督によると「ここに決定するまでたくさんの山地を訪ね歩きましたが、この村に着いたときすっかり魅了されてしまいました。自然は主人公に付随するもので、音、光、風、嵐、日の出日の入りの魔法の時間に恋をしてしまった。それらはキャラクターの感情をともなう大きな要素だからです」と、エルパイス紙の取材に答えている。これは予告編を見ただけで、よく分かります。フェミニンな映画ですが「フェミニストや過激派の映画を作ることを目指していません」とも語っている。世界に疑問を投げかけ、現実に影響を与えられるような、本物の女性を生み出せるような映画を求めている。

(タティアナ・ウエソ監督の近影)
★タティアナ・ウエソは、1972年エルサルバドルのサンサルバドル生れ、4歳のとき家族とメキシコに移住、メキシコに在住している。映画養成センターCCC卒、2004年バルセロナのポンペウ・ファブラ大学でドキュメンター制作を学ぶ。主なフィルモグラフィーは以下の通り:
1997 Tiempo cáustico 短編10分
2001 El ombligo del mundo 中編30分
2011 El lugar más pequeño ドキュメンタリー、100分
2015 Ausencia 短編27分
2016 Tempestad ドキュメンタリー、105分、イベロアメリカ・フェニックス賞2016、
アリエル賞2017監督賞受賞
2021 Noche de fuego 長編映画、110分
★2011年の「El lugar más pequeño」は、生れ故郷エルサルバドルの内戦についてのドキュメンタリー、国際映画祭での受賞歴は、アリエル賞2012長編ドキュメンタリー賞、エルサレムFF、リマFF、マル・デル・プラタFF、モンテレイFF、モレリアFF、パルマ・スプリングFFほか、ソフィア、ミュンヘン、サンディエゴ、カタルーニャ・ラテンアメリカ映画祭など多数。2016年の正義が行われず暴力が無処罰なメキシコの現状に立たされた2人の女性のドキュメンタリー「Tempestad」は、アリエル賞2017監督賞・作品賞、ハバナFF、リマFF以下、モレリア、ソフィアの映画祭で受賞、イベロアメリカ・フェニックス賞2016では、ドキュメンタリー賞、音楽賞、撮影賞などを受賞、ゴヤ賞2018イベロアメリカ映画賞にノミネートされた。

(「Tempestad」のポスター)
★ウエソ監督が「トップレベルのアーティストたち」と呼んだプロデューサーのニコラス・セリスは、アルフォンソ・キュアロンの『ROMA/ローマ』を手掛けたことで有名だが、ウエソ監督とは10年来の知己、「El lugar más pequeño」や「Tempestad」でタッグを組んでいる。ジム・スタークは「Tempestad」のエグゼクティブプロデューサー、ジム・ジャームッシュの『ミステリー・トレイン』や『コーヒー&シガレッツ』のプロデューサーとして知られている。
★音楽を担当したハコボ・リーバーマン、レオナルド・ハイブルムの両人は、「Tempestad」のほか、当ブログで作品紹介をしたディエゴ・ケマダ=ディエスの「La jaula de oro」、クリスティナ・ガジェゴ&チロ・ゲーラの『夏の鳥』、G.G. ベルナルの監督2作目「Chicuarotos」などを手掛けているベテラン、編集のミゲル・シュアードフィンガーは、ルクレシア・マルテルのサルタ三部作や『サマ』、ガジェゴの『夏の鳥』、ディエゴ・ルナの『アベル』、ダビ・パブロスの『選ばれし少女たち』など、フィルム編集者としてラテンアメリカ諸国の監督たちから信頼されている。
シモン・メサ・ソトの「Amparo」*サンセバスチャン映画祭2021 ⑭ ― 2021年08月23日 11:22
第2弾――コロンビアのシモン・メサ・ソトの長編デビュー作「Amparo」

★ホライズンズ・ラティノ部門の作品紹介2作目は、コロンビアのシモン・メサ・ソトの長編デビュー作「Amparo」です。カンヌ映画祭2014短編部門のパルムドール受賞作「Leidi」に続いて、2016年に「Madre」がノミネート、長編が待たれていました。1986年アンティオキア県都メデジン生れ、アンティオキア大学で視聴覚コミュニケーションを専攻、後にロンドン・フィルム・スクールの奨学金を貰い映画製作の修士号を取得しています。パルムドール受賞作は同スクールの卒業制作作品だった。短編2作とキャリア&フィルモグラフィーは以下の通り:
*「Leidi」の作品紹介は、コチラ⇒2014年05月30日
*「Madre」の作品紹介は、コチラ⇒2016年05月12日

(シモン・メサ・ソト監督)
「Amparo」
製作:FDC Proimagenea Colombia / Antioquia Film Commission /
Swedish Film Institute / Goethe Institut Bogota / Magin Comunicaciones
監督・脚本:シモン・メサ・ソト
音楽:ベネディクト・シーファー
撮影:フアン・サルミエント・G
編集:リカルド・サライバ
キャスティング:ジョン・ベドヤ
衣装デザイン:フリアン・グリハルバ
メイクアップ:フアニータ・サンタマリア
プロダクション・デザイン:マルセラ・ゴメス・モントーヤ
録音:テッド・クロトキエフスキー Krotkiewski、カルロス・アルシラ、ホルヘ・レンドン
製作者:フアン・サルミエント・G、シモン・メサ・ソト、(エグゼクティブ)マヌエル・ルイス・モンテアレグレ、エクトル・ウリョケ、(共同)マルティン・エルディエス、ダビ・エルディエス、ほか
データ:製作国スペイン=スウェーデン=ドイツ=カタール、スペイン語、2021年、ドラマ、95分、撮影地メデジンほか
映画祭・受賞歴:カンヌ映画祭2021併催の「批評家週間」に正式出品、ゴールデンカメラ賞ノミネート、ルイ・ロデレール財団ライジングスター賞受賞(サンドラ・メリッサ・トレス)、イスラエル映画祭国際シネマ賞ノミネート、カルロヴィ・ヴァリ映画祭、サンセバスチャン映画祭「ホライズンズ・ラティノ」部門ノミネート
キャスト:サンドラ・メリッサ・トレス(アンパロ)、ディエゴ・アレハンドロ・トボン(息子エリアス)、ルチアナ・ガジェゴ(娘カレン)、ジョン・ハイロ・モントーヤ、ほか
ストーリー:メデジン1998年、二人の子供を育てているシングルマザー、アンパロの物語。アンパロが縫製工場での長時間に及ぶ夜勤を終えて帰宅すると、子供たちの姿がなかった。18歳になる息子エリアスが軍に強制的に連れ去られ、国境近くの危険な戦闘地に配備されてしまったことが分かってくる。彼の運命は閉じられてしまったのか。アンパロがエリアスのファイルの内容を変更して、ここから脱出できるよう或る人物に接触したのは、エリアスが徴兵された前日のことだった。殆ど選択肢のないアンパロにとって、汚職や暴力が支配する社会で自分の息子を強制徴兵から救出する方法はあるのか、彼女は時間との闘いに投げ込まれる。

(息子を探しまわるアンパロ)
貧しい人々によって戦われる戦争「コロンビアで生きる普通の母親たちに捧ぐ」
★カンヌ併催の第60回「批評家週間」のオープニング作品に選ばれた本作は、主演サンドラ・メリッサ・トレス(メデジン、31歳)に新人賞に当たる「ルイ・ロデレール財団ライジングスター賞」をもたらした。全く演技経験のない新人、本作のオーディションに応募する前の職業は、家電製品店で働いていた。「映画と同じようなことを自分の母親が経験していたので、物語に入り込むのは難しくありませんでした」とサンドラ。監督も「プロではありませんでしたが飲み込みが早く、役柄へのアプローチが的確で、私たちを驚かせた」と賛辞を惜しまない。カンヌでの受賞がコロンビアにもたらされたとき「サンドラ・メリッサって誰?」と話題になったようです。

(サンドラ・メリッサ・トレス、フレームから)

(ソト監督とサンドラ・メリッサ・トレス、カンヌFF2021)

(証書を披露するサンドラ・メリッサ・トレス)
★2014年に「Leidi」が短編部門でパルムドールを受賞したシモン・メサ・ソトは、この映画は「普通のお母さんたち、コロンビアで暮らしている全ての人々に捧げます」と、また「これは非常に政治的な映画です」ともカンヌで語っていた。アンパロはメロドラマのステレオタイプ的な造形からはかけ離れている。脚本執筆時から自分の母親が念頭にあった。「私の家庭は中産階級に属していましたが、母はアンパロと同じシングルマザーで、私たち兄弟を守るためにはあらゆることをしました」と監督。監督をコロンビア軍からの自由を買うために有力者に会いに行く、これは90年代のコロンビアでは非常に一般的なことでした。兵役を果たさなかった場合、軍に誘拐される可能性が高かった。「通りを歩くのが怖かった」と監督。軍隊と犯罪者は同じ穴の狢ということです。当時のメデジンは世界で最も暴力的な都市の一つ、麻薬密売が国の秩序を破壊していた。

(母アンパロと息子エリアス)
★監督は「カール・テオドア・ドレイヤーのサイレント映画『裁かるるジャンヌ』(28)の最初のフレームに大きな影響を受けている」、ジャンヌ役のルネ・ファルコネッティのノーメイクの美しさ、キャラクターに密着したクローズアップに魅了されたという。「古典的で非常にフォーマルな映画を作りたかった。古典的な映画、キェシロフスキやベルイマンの調和のとれた映画を撮りたかった。自国の映画にはなかったタイプの映画です。何十年にもわたって支配してきた政治的領域に疑問を投げかけたい。私たち新世代には明らかな不適合感があり、本作は私の母が生きていた経験を背景にして、暴力を体系的に取りあげた非常に政治的な映画です」と述べている。因みにスペイン語のアンパロamparoという単語には、保護とか避難場所という意味があり、示唆的です。

(母アンパロと娘カレン)
★2016年の「Madre」から長編は時間の問題と思われていたが、5年も掛かってしまったのは矢張り資金不足が原因ということでした。コロンビア政府の文化助成金のほか、2017年のトリノ・フィルム・ラボを経て、スウェーデン映画協会から映画プロジェクト助成金を獲得して完成させた。製作者で撮影監督のフアン・サルミエント・G(コロンビア1984)とは、8年前の「Leidi」以来の友人でもあり、監督にとって非常に重要な存在、将来的な連携を視野に入れ、2017年に制作会社「Ocútimo」を二人で設立した。フアン・サルミエントのカメラは、ダイナミックなサンドラ(アンパロ役)を追い、彼女が主導するエネルギーとリズムを維持することを心掛けたということです。音楽担当のベネディクト・シーファー(独ローゼンハイム1978)は、ブラジルのカリン・アイヌーズの「A vida invisível」を手掛けている。ラテンビート2019で『見えざる人生』の邦題で上映された。
アロンソ・ルイスパラシオスの第3作*サンセバスチャン映画祭2021 ⑮ ― 2021年08月28日 11:49
第3弾――アロンソ・ルイスパラシオスの第3作「Una pelícla de policías」

★ホライズンズ・ラティノ部門の作品紹介3作目は、メキシコのアロンソ・ルイスパラシオスの第3作目「Una pelícla de policías」です。「警察の映画」とまことにシンプルなタイトルですが、どうやら内容はタイトルとは裏腹に別の顔をしているようです。ドキュメンタリーとフィクションのテクニックを組み合わせて、メキシコ警察の現在の課題を提供するという大きな賭けに出たようです。「バラエティ」誌のコラムニストは「不必要に複雑に見えるが、最終的にはその構想の輝きが明確になる」と絶賛しているが、各紙誌とも概ねポジティブ評価です。モノクロで撮った第1作『グエロス』で鮮烈デビュー、「Museo」が第2作目の監督は、崩壊の危機に瀕しているメキシコ社会を二人の警官に予測不可能な旅をさせる。第71回ベルリン映画祭2021でワールドプレミア、イブラン・アスアドが銀熊フィルム編集賞を受賞した。
*『グエロス』(原題「Gúeros」)の作品とキャリア紹介は、コチラ⇒2014年10月03日
*「Museo」の作品紹介は、コチラ⇒2018年02月19日

(銀熊を手にしたイブラン・アスアドとルイスパラシオス監督、ベルリンFF 2021、6月)
「Una pelícla de policías / A Cop Movie」
製作:No Ficción
監督:アロンソ・ルイスパラシオス
脚本:アロンソ・ルイスパラシオス、ダビ・ガイタン
撮影:エミリアノ・ビリャヌエバ
編集:イブラン・アスアド
キャスティング:ベルナルド・ベラスコ
プロダクション・デザイン:フリエタ・アルバレス・イカサ
衣装デザイン:ヒメナ・バルバチャノ・デ・アグエロ
メイクアップ:イツェル・ペーニャ・ガルシア
プロダクション・マネージメント:フアン・マヌエル・エルナンデス
視覚効果:エリック・ティピン・マルティネス
録音:イサベル・ムニョス・コタ、(サウンド・デザイン)ハビエル・ウンピエレス
製作者:エレナ・フォルテス、ダニエラ・アラトーレ
データ:製作国メキシコ、スペイン語、2021年、ドクドラマ、107分、ネットフリックス・オリジナル作品(海外販売Netflix)、スウェーデン2021年11月5日インターネット
映画祭・受賞歴:第71回ベルリン映画祭2021正式出品、イブラン・アスアドが銀熊フィルム編集賞を受賞、メルボルン映画祭、第25回リマ映画祭(ドキュメンター部門)、第69回サンセバスチャン映画祭ホライズンズ・ラティノ部門正式出品、ほか
キャスト:ラウル・ブリオネス(モントーヤ)、モニカ・デル・カルメン(テレサ)、ほか
ストーリー:家族の伝統に従って、テレサとモントーヤは警察で働き始めるが、機能不全のシステムによって、二人の信念と希望が押しつぶされていくのを感じるだけでした。自分たちが晒されている敵意を前にして、避難所としての愛の絆にすがっているだけでした。本作は革新的なドキュメンターとフィクションの限界を超え、観客をいつもと異なる空間へ導きだします。メキシコと世界で最も物議を醸している組織の一つである警察の内部にスポットライトを当て、司法制度に影響をあたえる不処罰の危機の原因を分析しています。フィクション、ドキュメンタリー、アクション、コメディ、ロマンスのカクテル。

(モントーヤ役のラウル・ブリオネス、フレームから)
★アロンソ・ルイスパラシオス(メキシコシティ1978)は、デビュー作「Gúeros」がベルリナーレ2014のパノラマ部門にノミネート、初監督作品賞(銀熊)、第2作目の「Museo」は同映画祭2018のコンペティション部門に昇格して、最優秀脚本賞(銀熊)を受賞、第3作目となる本作もベルリナーレでワールドプレミア、クマとは相性がいいらしい。警察をテーマに新プロジェクトを立ち上げたとき、メキシコの警察内部の腐敗と不処罰の連鎖を探求したかったが、「警察のように外側からは不透明な組織の内部に入るにはどうすればよいか。まずドキュメンタリーは無理、それでフィクションを利用することにした」と語っている。つまり両方の要素を組み合わせて、テレサとモントーヤに旅をさせるという賭けに出た。

(アロンソ・ルイスパラシオス、ベルリン映画祭2021にて)
★前作「Museo」で示された、1985年のクリスマスに実際に起きたメキシコ国立人類学博物館のヒスパニック以前の文化遺産盗難事件が如何にして可能だったのかが本作にヒントを与えたのではないか。テオティワカン、アステカ、マヤの重要文化財140点の窃盗犯は、大規模な国際窃盗団などではなく、行き場を見失った二人の青年だった。この事件はメキシコ社会に衝撃を与えたが、ルイスパラシオスの映画は事件の正確なプロセスの再現ではなく、「青年の自分探しの寓話を描こうとしたら、この盗難事件の犯人がひらめいた」と語っている。現実を飲み込んでしまうフィクションのアイディアは前作と繋がっているように見える。正確なカメラの動きとナレーションは、マーティン・スコセッシのギャング映画を参考にしているということです。
★本作は共謀的な沈黙を強いる、あるいは沈黙は金に報いるシステムに対して、異を唱えようとする人々を罰する社会を改革することの必要性、警察の腐敗に従ってきたことへの反省と議論を生み出すことを目的として製作された。2年前からの専門家との面会、さまざまな警察官へのインタビュー、その真摯な調査の結果が実った。それからキャスティングを行った。二人の主人公には雰囲気をキャッチするため警察学校に2週間の体験入学をした。「この映画は非常に愛情のこもった二人の主人公の肖像画でもあります」と監督。警察には親戚もなく、知識も一般の人と同じだったから、監督にとって完全な新しい旅であった。モニカ・デル・カルメンとラウル・ブリオネスのプロの俳優が演じたテレサとモントーヤを追って進行します。二人は社会に役立ちたいという意欲をもっていますが、直ぐに存在する腐敗と公共の安全を維持しなければならないという厳しい現実に直面します。カップルである二人の信念は揺らいでいきます。

(ラウル・ブリオネスとモニカ・デル・カルメン、フレームから)
★ラウル・ブリオネスは、メキシコシティのクアヒマルパ市生れ、映画と演劇の俳優。メキシコ自治大学 UNAM の演劇大学センター CUT で演技を学んだ。演劇では本作監督のアロンソ・ルイスパラシオス、脚本を監督と共同で手掛けたダビ・ガイタンほか、ルイス・デ・タビラ、ダニエル・ヒメネス=カチョ、マリオ・エスピノサなどの演出で舞台に立つ。ルイスパラシオスの『グエロス』で長編映画デビュー、代表作は、2020年にアリエル賞とディオサ・デ・プラタの助演男優賞をもたらしたケニア・マルケスの「Asfixia」(仮題「窒息」19)とアントニオ・チャバリアスの「El elegido」(『ジャック・モルナール、トロツキー暗殺』16)、TVシリーズのコメディにも出演している。モレリア映画祭2018 Ojito 男優賞を受賞している。アマゾンプライム・オリジナル作品TVシリーズ「La templanza」(9話、スペイン、21)に脇役で出演、アンダルシアで撮影された本作は『ラ・テンプランサ~20年後の出会い』の邦題で配信されている。コメディもやれるプロ意識と力強い演技力で期待のスターとして注目されている。

(モレリア映画祭2018男優賞のトロフィーを手にしたラウル・ブリオネス)

(アリエル賞助演男優賞を受賞したラウル・ブリオネス)
★モニカ・デル・カルメン(本名モニカ・カルメン・マルティン・ルイス)は、1982年オアハカ州ミアワトラン生れ、映画と舞台で活躍する女優、14歳でオアハカ市に移り、演劇教育センターで本格的に演技を学んだ。2000年から4年間メキシコシティのINBA国立美術研究所で演技コースを受講する。2003年舞台女優としてスタート、2006年に映画デビューした。オーストラリア系メキシコ人の監督マイケル・ロウの「Año bisiesto」がカンヌ映画祭2010で衝撃デビュー、主役を演じたことで一躍有名になる。監督は新人監督に与えられるカメラドールを受賞、彼女自身はアリエル賞2011女優賞を受賞した。ラテンビート2011で『うるう年の秘め事』の邦題で上映された。

(モニカ・デル・カルメン、『うるう年の秘め事』のフレームから)
★アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの『バベル』(06)、2011年コメディ・アニメーション「La leyenda de la Llorona」のボイス、ミシェル・フランコの2作目「Después de Lucía」(公開『父の秘密』)の教師役、3作目「A los ojos」では眼病の子供を抱えた母親役で主演、5作目「Las hijas de Abril」(公開『母という名の女』)の家政婦役、ベネチア映画祭2020で審査員グランプリを受賞した政治的寓話「Nuevo orden」などフランコ監督のお気に入りでもある。他にラウル・ブリオネスと共演して共にアリエル賞2020助演女優賞を受賞した「Asfixia」などがある。ガブリエル・リプスタインの「6 millas」(15)など、社会的にシステム化された抑圧を批判する作品には欠かせない存在感を示している。舞台女優としてはメキシコだけでなくスペインやフランスでも舞台に立っている。ジェンダー差別、中絶の権利、HIV感染予防などに対して社会的な発言をする物言う女優の一人、慈善活動もしている。
*『父の秘密』「A los ojos」『母という名の女』については、当ブログで紹介しています。

(「Nuevo orden」で赤絨毯を踏むモニカ・デル・カルメン、ベネチアFF2020)
★製作はNo Ficciónの二人の女性プロデューサー、エレナ・フォルテスとダニエラ・アラトーレです。ネットフリックス・オリジナル作品ということなので、いずれ配信されることを期待したい。ベルリナーレにはエレナ・フォルテスが出席していました。

(エレナ・フォルテスとダニエラ・アラトーレ)

(ビエンナーレに参加したエレナ・フォルテス)
★フィルム編集賞を受賞したイブラン・アスアドは、フィルム編集者、監督、脚本家。長編監督デビューの「El caco」(06)では編集も兼ねている。ルイスパラシオスの『グエロス』以下全作を手掛けている。他にNetflix配信のフェルナンド・フリアスの「Ya no estoy aquí」(19『そして俺は、ここにいない。』)では、アリエル賞2020編集賞を監督と受賞したほかイベロアメリカ・プラチナ賞にノミネートされている。同じくNetflix配信のマヌエル・アルカラの「Private Network: Who killed Manuel Buendía?」(21『プライベートネットワーク:誰がマヌエル・ブランディアを殺したのか?』)などオンラインで鑑賞できる。監督・脚本・編集を兼務した「Todas las pecas del mundo」は、フォトフィルム・ティフアナ2019の観客賞にノミネートされた。

(銀熊フィルム編集賞を受賞したイブラン・アスアド、ベルリン映画祭2021にて)
追加情報:『コップ・ムービー』の邦題で2021年11月5日、Netflix 配信開始。
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