アロンソ・ルイスパラシオスの第3作*サンセバスチャン映画祭2021 ⑮2021年08月28日 11:49

 3弾――アロンソ・ルイスパラシオスの第3作「Una pelícla de policías

    

 

  

★ホライズンズ・ラティノ部門の作品紹介3作目は、メキシコのアロンソ・ルイスパラシオスの第3作目Una pelícla de policíasです。「警察の映画」とまことにシンプルなタイトルですが、どうやら内容はタイトルとは裏腹に別の顔をしているようです。ドキュメンタリーとフィクションのテクニックを組み合わせて、メキシコ警察の現在の課題を提供するという大きな賭けに出たようです。「バラエティ」誌のコラムニストは「不必要に複雑に見えるが、最終的にはその構想の輝きが明確になる」と絶賛しているが、各紙誌とも概ねポジティブ評価です。モノクロで撮った第1『グエロス』で鮮烈デビュー、Museoが第2作目の監督は、崩壊の危機に瀕しているメキシコ社会を二人の警官に予測不可能な旅をさせる。第71回ベルリン映画祭2021でワールドプレミア、イブラン・アスアド銀熊フィルム編集賞を受賞した。

『グエロス』(原題Gúeros」)の作品とキャリア紹介は、コチラ20141003

Museo」の作品紹介は、コチラ20180219

 

   

 (銀熊を手にしたイブラン・アスアドとルイスパラシオス監督、ベルリンFF 20216月)


   

Una pelícla de policías / A Cop Movie

製作:No Ficción

監督:アロンソ・ルイスパラシオス

脚本:アロンソ・ルイスパラシオス、ダビ・ガイタン

撮影:エミリアノ・ビリャヌエバ 

編集:イブラン・アスアド

キャスティング:ベルナルド・ベラスコ

プロダクション・デザイン:フリエタ・アルバレス・イカサ

衣装デザイン:ヒメナ・バルバチャノ・デ・アグエロ

メイクアップ:イツェル・ペーニャ・ガルシア

プロダクション・マネージメント:フアン・マヌエル・エルナンデス

視覚効果:エリック・ティピン・マルティネス

録音:イサベル・ムニョス・コタ、(サウンド・デザイン)ハビエル・ウンピエレス

製作者:エレナ・フォルテス、ダニエラ・アラトーレ

 

データ:製作国メキシコ、スペイン語、2021年、ドクドラマ、107分、ネットフリックス・オリジナル作品(海外販売Netflix)、スウェーデン2021115日インターネット

映画祭・受賞歴:第71回ベルリン映画祭2021正式出品、イブラン・アスアドが銀熊フィルム編集賞を受賞、メルボルン映画祭、第25回リマ映画祭(ドキュメンター部門)、第69回サンセバスチャン映画祭ホライズンズ・ラティノ部門正式出品、ほか

 

キャスト:ラウル・ブリオネス(モントーヤ)、モニカ・デル・カルメン(テレサ)、ほか

 

ストーリー:家族の伝統に従って、テレサとモントーヤは警察で働き始めるが、機能不全のシステムによって、二人の信念と希望が押しつぶされていくのを感じるだけでした。自分たちが晒されている敵意を前にして、避難所としての愛の絆にすがっているだけでした。本作は革新的なドキュメンターとフィクションの限界を超え、観客をいつもと異なる空間へ導きだします。メキシコと世界で最も物議を醸している組織の一つである警察の内部にスポットライトを当て、司法制度に影響をあたえる不処罰の危機の原因を分析しています。フィクション、ドキュメンタリー、アクション、コメディ、ロマンスのカクテル。

 

          

        (モントーヤ役のラウル・ブリオネス、フレームから) 

 

アロンソ・ルイスパラシオス(メキシコシティ1978)は、デビュー作Gúerosがベルリナーレ2014のパノラマ部門にノミネート、初監督作品賞(銀熊)、第2作目の「Museo」は同映画祭2018のコンペティション部門に昇格して、最優秀脚本賞(銀熊)を受賞、第3作目となる本作もベルリナーレでワールドプレミア、クマとは相性がいいらしい。警察をテーマに新プロジェクトを立ち上げたとき、メキシコの警察内部の腐敗と不処罰の連鎖を探求したかったが、「警察のように外側からは不透明な組織の内部に入るにはどうすればよいか。まずドキュメンタリーは無理、それでフィクションを利用することにした」と語っている。つまり両方の要素を組み合わせて、テレサとモントーヤに旅をさせるという賭けに出た。

 

    

        (アロンソ・ルイスパラシオス、ベルリン映画祭2021にて)

 

★前作「Museo」で示された、1985年のクリスマスに実際に起きたメキシコ国立人類学博物館のヒスパニック以前の文化遺産盗難事件が如何にして可能だったのかが本作にヒントを与えたのではないか。テオティワカン、アステカ、マヤの重要文化財140点の窃盗犯は、大規模な国際窃盗団などではなく、行き場を見失った二人の青年だった。この事件はメキシコ社会に衝撃を与えたが、ルイスパラシオスの映画は事件の正確なプロセスの再現ではなく、「青年の自分探しの寓話を描こうとしたら、この盗難事件の犯人がひらめいた」と語っている。現実を飲み込んでしまうフィクションのアイディアは前作と繋がっているように見える。正確なカメラの動きとナレーションは、マーティン・スコセッシのギャング映画を参考にしているということです。

 

★本作は共謀的な沈黙を強いる、あるいは沈黙は金に報いるシステムに対して、異を唱えようとする人々を罰する社会を改革することの必要性、警察の腐敗に従ってきたことへの反省と議論を生み出すことを目的として製作された。2年前からの専門家との面会、さまざまな警察官へのインタビュー、その真摯な調査の結果が実った。それからキャスティングを行った。二人の主人公には雰囲気をキャッチするため警察学校に2週間の体験入学をした。「この映画は非常に愛情のこもった二人の主人公の肖像画でもあります」と監督。警察には親戚もなく、知識も一般の人と同じだったから、監督にとって完全な新しい旅であった。モニカ・デル・カルメンラウル・ブリオネスのプロの俳優が演じたテレサとモントーヤを追って進行します。二人は社会に役立ちたいという意欲をもっていますが、直ぐに存在する腐敗と公共の安全を維持しなければならないという厳しい現実に直面します。カップルである二人の信念は揺らいでいきます。

 

       

      (ラウル・ブリオネスとモニカ・デル・カルメン、フレームから)  

 

ラウル・ブリオネスは、メキシコシティのクアヒマルパ市生れ、映画と演劇の俳優。メキシコ自治大学 UNAM の演劇大学センター CUT で演技を学んだ。演劇では本作監督のアロンソ・ルイスパラシオス、脚本を監督と共同で手掛けたダビ・ガイタンほか、ルイス・デ・タビラ、ダニエル・ヒメネス=カチョ、マリオ・エスピノサなどの演出で舞台に立つ。ルイスパラシオスの『グエロス』で長編映画デビュー、代表作は、2020年にアリエル賞ディオサ・デ・プラタ助演男優賞をもたらしたケニア・マルケスAsfixia(仮題「窒息」19)とアントニオ・チャバリアスEl elegido(『ジャック・モルナール、トロツキー暗殺』16)、TVシリーズのコメディにも出演している。モレリア映画祭2018 Ojito 男優賞を受賞している。アマゾンプライム・オリジナル作品TVシリーズLa templanza9話、スペイン、21)に脇役で出演、アンダルシアで撮影された本作は『ラ・テンプランサ~20年後の出会い』の邦題で配信されている。コメディもやれるプロ意識と力強い演技力で期待のスターとして注目されている。

    

      

      (モレリア映画祭2018男優賞のトロフィーを手にしたラウル・ブリオネス)


   

 

       (アリエル賞助演男優賞を受賞したラウル・ブリオネス)

 

モニカ・デル・カルメン(本名モニカ・カルメン・マルティン・ルイス)は、1982年オアハカ州ミアワトラン生れ、映画と舞台で活躍する女優、14歳でオアハカ市に移り、演劇教育センターで本格的に演技を学んだ。2000年から4年間メキシコシティのINBA国立美術研究所で演技コースを受講する。2003年舞台女優としてスタート、2006年に映画デビューした。オーストラリア系メキシコ人の監督マイケル・ロウAño bisiestoがカンヌ映画祭2010で衝撃デビュー、主役を演じたことで一躍有名になる。監督は新人監督に与えられるカメラドールを受賞、彼女自身はアリエル賞2011女優賞を受賞した。ラテンビート2011『うるう年の秘め事』の邦題で上映された。

 

    

      (モニカ・デル・カルメン、『うるう年の秘め事』のフレームから

 

★アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの『バベル』(06)、2011年コメディ・アニメーション「La leyenda de la Llorona」のボイス、ミシェル・フランコ2作目「Después de Lucía」(公開『父の秘密』)の教師役、3作目A los ojosでは眼病の子供を抱えた母親役で主演、5作目「Las hijas de Abril」(公開『母という名の女』)の家政婦役、ベネチア映画祭2020で審査員グランプリを受賞した政治的寓話Nuevo ordenなどフランコ監督のお気に入りでもある。他にラウル・ブリオネスと共演して共にアリエル賞2020助演女優賞を受賞したAsfixia」などがある。ガブリエル・リプスタインの6 millas15)など、社会的にシステム化された抑圧を批判する作品には欠かせない存在感を示している。舞台女優としてはメキシコだけでなくスペインやフランスでも舞台に立っている。ジェンダー差別、中絶の権利、HIV感染予防などに対して社会的な発言をする物言う女優の一人、慈善活動もしている。

『父の秘密』「A los ojos」『母という名の女』については、当ブログで紹介しています。

     


 (Nuevo orden」で赤絨毯を踏むモニカ・デル・カルメン、ベネチアFF2020)

 

★製作はNo Ficciónの二人の女性プロデューサー、エレナ・フォルテスダニエラ・アラトーレです。ネットフリックス・オリジナル作品ということなので、いずれ配信されることを期待したい。ベルリナーレにはエレナ・フォルテスが出席していました。

  

     

          (エレナ・フォルテスとダニエラ・アラトーレ)

   

     

         (ビエンナーレに参加したエレナ・フォルテス

 

★フィルム編集賞を受賞したイブラン・アスアドは、フィルム編集者、監督、脚本家。長編監督デビューの「El caco」(06)では編集も兼ねている。ルイスパラシオスの『グエロス』以下全作を手掛けている。他にNetflix配信のフェルナンド・フリアスYa no estoy aquí19『そして俺は、ここにいない。』)では、アリエル賞2020編集賞を監督と受賞したほかイベロアメリカ・プラチナ賞にノミネートされている。同じくNetflix配信のマヌエル・アルカラPrivate Network: Who killed Manuel Buendía21『プライベートネットワーク:誰がマヌエル・ブランディアを殺したのか?』)などオンラインで鑑賞できる。監督・脚本・編集を兼務したTodas las pecas del mundoは、フォトフィルム・ティフアナ2019の観客賞にノミネートされた。

 

  

       (銀熊フィルム編集賞を受賞したイブラン・アスアド、ベルリン映画祭2021にて)


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