「監督週間」にはコロンビアの新人ナタリア・サンタ*カンヌ映画祭2017 ⑤ ― 2017年05月05日 17:46
コロンビアでカメラドールに挑戦する初めての女性監督ナタリア・サンタ
★今年の「監督週間」にコロンビアの新人ナタリア・サンタの「La defensa del dragón」がエントリーされました。IMDbにはキャストを含めてまだ詳細がアップされておりませんが、後で追加するとして、分かる範囲で見切り発車いたします。テーマはボゴタの中心街に暮らす古くからの友人3人のそれぞれの再出発物語のようです。年齢は53歳、65歳、72歳と開きがありますが、各自冒険を侵すことなく安全地帯に避難して現状に甘んじています。ポスターに載っている3人の老人は、人生の時間が残り少なくなったボゴタの市井の人の写真です。監督にインスピレーションを与えてくれた人々で、映画の登場人物ではありません。ポスターとしてはちょっと珍しいケースですが、それなりの理由があるのでした。
「La defensa del dragón」2017年
製作:Galaxia 311
監督・脚本・製作:ナタリア・サンタ
撮影:ニコラス・オルドーニェス、イバン・エレーラ
録音:フアンマ・ロペス
美術:マルセラ・ゴメス
編集:フアン・ソト
オリジナル音楽:ゴンサロ・デ・サガルミナガ
製作者:Ivette Liang(リャン/リアン?)、ニコラス・オルドーニェス、イバン・エレーラ
データ:製作国コロンビア、スペイン語、2017、ドラマ、79分、撮影地ボゴタ。FDC*(コロンビア映画振興基金)より助成金を得る。ニカラグアで開かれた第3回IBERMEDIAの中央アメリカ=カリブ映画プロジェクトのワークショップ、トライベッカ=コロンビア2014のワークショップ、カルタヘナ映画祭FICCI**2014のワークショップなどに参加して完成させた。コロンビア公開6月15日予定。
*FDC Fondo cinematografico colombiano は、長編映画の脚本や製作に資金を提供するために設立された映画振興策。カンヌ映画祭2015「批評家週間」でカメラドール他を受賞したセサル・アウグスト・アセベドの『土と影』(ラテンビート&東京国際映画祭2015共催上映)も同基金の助成金を受けて製作された。
**FICCI Festival Internacional de Cine de Cartagena de Indias(インディアス・カルタヘナ国際映画祭)
キャスト:ゴンサロ・デ・サガルミナガ(サムエル)、エルナン・メンデス(ホアキン)、マヌエル・ナバロ(マルコス)、マイア・ランダブル(マティルデ)、マルタ・レアル、ラウラ・オスマ(フリエタ)、ビクトリア・エルナンデス(ホセフィナ)他
(左から、サムエル、ホアキン、マルコス、映画から)
物語と解説:ボゴタの中心街に暮らす旧知の友人同士、サムエル、ホアキン、マルコスの物語。一番若い53歳のサムエルはプロのチェス・プレイヤーで、勝つと見込める小規模なゲームで賞金稼ぎをして暮らしている。65歳のホアキンは腕のいい時計職人だが、デジタル時計を拒否しているので父親から受け継いだ時計工場を手放す危機にあった。マリファナ依存症の72歳のマルコスはスペイン出身のホメオパシー医だが患者は減り続けている。ポーカーの運任せの勝負事で一儲けしようと必勝法を練っていた。それぞれ自分の世界に安住して決定的な敗北を喫したくないと考えていた。しかし三人にも転機が訪れ、安全地帯から脱出しなければならない事態に直面する。サムエルは地元のチャンピオン大会出場の弟子をコーチしたり、ある女性とのチャンスに賭ける決心をする。ホアキンは危機に瀕した時計工場を立て直そうと立ち上がる。マルコスは故国の息子がどうして自分の年金を送ってこないのか調べることにする。愛でも人生でも同じことだが、今日では遅すぎるということはない。映画にはボゴタで一番古いチェス・クラブ「Lasker」、カジノ・カリブ、老舗カフェテリア「ラ・ノルマンダ」が登場する。失われつつあるボゴタの伝統への哀惜がノスタルジーをもって描かれる。
★ナタリア・サンタNatalia Santaは、1977年ボゴタ生れの監督、脚本家、製作者。大学では文学を専攻、2002年ミニ・テレドラの脚本を執筆、2009年テレドラ「Verano en Venecia」の脚本を執筆(1エピソード)。ニコラス・カサノバの「La Azotea」(2015、5分)にアシスタント・プロデューサーとして参画、本作で長編映画デビューを果たす。撮影監督のイバン・エレーラIván Herreraは夫君。彼が長年にわたり撮りためてきたボゴタ市の映像が本作の土台となっている(YouTubeで「ビデオ・ピッチ2013」を見ることができる)。
(ナタリア・サンタ)
★Ivette Liangは、2003年に設立された制作会社「Galaxia 311」の共同設立者・経営者。コロンビア、ペルー、キューバの映画に携わっている。
主人公たちは急ピッチで変貌する大都会ボゴタで生き残りを賭けている
★昔のボゴタの冷えた灰色の湿った声が聞こえてくる。しかしある種のノスタルジーをもって親密な居心地の良い雰囲気が醸しだされてくる。前述したように撮影監督のイバン・エレーラは、超高層ビルを建設するために自宅を取り壊されていくボゴタ市民の生態を長年にわたりフィルムに収めてきた。それが本作を撮ろうとした動機だと監督、「進歩発展という名の下でボゴタの伝統ある場所が次々に消えつつある」とナタリアは危機感を吐露する。「この国では異質のものを疎外したり忘れてしまうことに慣れてしまっている。今のボゴタに残っている姿や声を残す必要がある」と思ったのが最初の動機だった。
(映画にも登場するボゴタで最古のチェス・クラブ「Lasker」の店内)
★「長年、取り壊されずに以前のままで残っている場所もあった。大都市の変化にもかかわらず、以前のスタイルのまま、進歩に抵抗して生き残っている、残り時間が少なくなっている人々の物語です」と監督。ボゴタの中心街は、高層ビルや車がやたら増え、代わりに空き地や伝統が失われつつある。「私たちの歴史的遺産は消滅しようとしています。それは私たちのアイデンティティーの消滅にも繋がると思った」と。「チェス・クラブ Lasker の存在を知り、トーナメント観戦にも出かけて取材した。このチェス・クラブを中心に据えて映画を撮ろうと決め、そうやって造形した人物がチェス・プレイヤーのサムエルだった」と明かす。コロンビア映画にお馴染みのバイオレンスは描かれないが、日に日に減っていくとはいえ仕立て屋、靴屋、バル、カフェテリアなどが、レジスタンスの闘志のごとくスクリーンに堂々と登場する映画のようです。
★キャスト3人の俳優は、主にテレビ界で活躍しているベテラン揃いです。マルコス役のマヌエル・ナバロは、役柄同様スペイン出身の俳優、コロンビア、スペイン両方の映画、TVシリーズに出演しています。スタッフもデビュー作では珍しくありませんが、掛け持ちで担当していることが分かります。
*『ドラゴンのディフェンス』の邦題で、インスティトゥト・セルバンテス東京「第3回コロンビア映画上映会」で日本語字幕で上映されました。(2018年11月13日)
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