続ゴヤ賞ガラ落穂ひろい*ゴヤ賞2025 ⑭ ― 2025年03月05日 10:50
レッドカーペットでフォトコールに応じるセレブたち
★今年のレッドカーペットは、やはり黒と赤、それに白も結構多かった印象でした。受賞は叶わなかったがノミネートされた人、プレゼンター、ベストドレッサーに選ばれた方などに絞って笑顔をお届けします。(カップル以外男性陣は割愛、順不同)

(ゴヤ栄誉賞受賞者アイタナ・サンチェス=ヒホン、
デザインはカロリナ・エレーラ・ニューヨーク、宝石ブルガリ)

(総合司会者マリベル・ベルドゥ、
デザインはイタリアのアルベルタ・フェレッティ、銀メッキのドレス、宝石ダミアニ)

(総合司会者レオノール・ワトリング、デザインはレドンド・ブランド)

(マカレナ・ガルシア、「Casa en flames」で助演女優賞ノミネート
デザインはディオール2025コレクション、宝石ラバト)

(アレハンドラ・シルバ、国際ゴヤ賞受賞者リチャード・ギア夫人で人道活動家、
デザインはアルマーニ・プリヴェ、宝石はブルガリ)

(パス・ベガ、「Rita」で新人監督賞にノミネート、メガネ姿は珍しい。
デザインはチェルビナ、宝石は人気の高いメシカ)

(エンマ・ビララサウ、「Casa en flames」で主演女優賞ノミネート、
エレガントなドレス、ブローチはメンチェン・トマス)

(エステル・エクスポシト、『叫び』主演、マルティン=カレロが新人監督賞ノミネート、
デザインはイギリスのヴィヴィアン・ウエストウッド、宝石ブルガリ)

(アウラ・ガリード、スパンコールのドレス、デザインはレドンド・ブランド)

(エレナ・アナヤ、助演女優賞のプレゼンターの一人、
デザインはアルマーニ・プリヴェのオートクチュール、宝石カルティエ)

(マルタ・ニエト、短編ドキュメンタリーのプレゼンター
デザインはカロリナ・エレーラ・ニューヨーク、2024コレクション、宝石スアレス)

(グレタ・フェルナンデス、主演男優賞プレゼンター、
父 E・エドゥアルド・フェルナンデス受賞。デザインはアルマーニ、宝石カルティエ)

(カエタナ・ギジェルモ・クエルボ、ゴヤ賞レッドカーペットの皆勤者
豪華なドレスのデザインはルベン・エルナンデス・コストゥラ、宝石メシカ)

(ナタリア・デ・モリーナ、ベストドレッサー
メタリックなスカートのデザインはレドンド・ブランド、宝石メシカ)

(ニエベス・アルバレス、ベストドレッサー
デザインはフランスのステファン・ロランのオートクチュール、宝石ブルガリ)

(ベレン・ルエダ、作品賞のプレゼンターの一人、奇抜なドレスが楽しめる。
グラナダのアルハンブラに着想を得たというドレスはバレンスエラ・アテリエル)

(マリア・レオン、助演女優賞ノミネートの一人
デザインはヴィヴィアン・ウエストウッドのぴったりの〈ビュスチェ〉のドレス)

(イチャソ・アラナ、「Volveréis」に主演、
デザインはテレサ・エルビグ、宝石ダミアニ)

(ルシア・ヒメネス、「El trono」が短編映画賞にノミネート
デザインはアンドレウ・ポクリド、宝石モリーナ・クエバス、靴アクアズーラ)

(ソエ・ボナフォンテ、「El 47」で新人女優賞ノミネート
デザインはカロリナ・エレーラ・ニューヨーク、宝石カレーラ・イ・カレーラ)

(ラウラ・ヴァイスマール、「Salve María」で新人女優賞受賞
デザインはハーベイ・クラブ、靴クリスチャン・ルブタン)

(カロリナ・ジュステ、「La infiltrada」で主演女優賞受賞、
デザインはアレクサンダー・マックイーン、登山靴のようなスニーカー)

(マレナ・アルテリオ、昨年の主演女優賞者、プレゼンター
デザインはNYのデザイナー、ザック・ポーゼン、宝石はムミット)

(歌手リゴベルタ・バンディニ、2024年のオリジナル歌曲賞受賞者、
デザインはマンズ・コンセプト、靴はマグリッド、宝石スオット・スタジオ)

(エバ・リョラチ、助演女優賞プレゼンターの一人、
デザインはカール・ラガーフェルド、宝石ホセ・ルイス・ホジェリアス)

(ロラ・ドゥエニャス、助演女優賞プレゼンターの一人、
デザインはテレサ・エルビグ)

(アルバ・プラナス、「La virgen roja」に出演、
デザインはアリシア・ルエダ、宝石カレーラ・イ・カレーラ)

(ラケル・サンチェス・シルバ、ベストドレッサー、
デザインはハエン・レアンドロ・カノ、宝石アルバロ・ラロサ・フレスト、
手袋グアンテ・バラデ、靴ルイス・オノフレ)

(歌手ラ・タニア、オリジナル歌曲賞受賞、
「La guitarra flamenca de Yerai Cortés」)

(ミナ・エル・ハンマニ、新人女優賞プレゼンター、ベストドレッサー
デザインはトニー・ワード、宝石カルティエ)

(クララ・セグラ、「El 47」で助演女優賞受賞、
袖なしの胴着のデザインはレン、靴マグリット、宝石ラバト)

(ナウシカ・ボニン、「La infiltrada」で助演女優賞ノミネート、
デザインはマルタ・マルティ、宝石はバルセロナが拠点のレベンス)

(マリア・ロドリゲス・ソト、「Casa en flames」で助演女優賞ノミネート、
デザインはリディア・デルガド)

(アイシャ・ビリャグラン、「La virgen roja」で助演女優賞ノミネート、
デザインはアルトゥーロ・オベヘロ、宝石メシカ、靴はフランスのロジェ・ヴィヴィエ)

(歌手ロラ・インディゴ、ガラ出演、ベストドレッサー
デザインはシビラ、靴クリスチャン・ルブタン、宝石スオット・スタジオ)

(歌手バレリア・カストロ、「El 47」のテーマ曲を歌っている。
デザインはメゾン・レン、宝石ダミアニ)

(イシアル・ボリャイン、『私はネベンカ』が脚色賞にノミネート、
ジャケット右襟にパレスチナ国旗のブローチ)

(ルシア・ベイガ、『私はネベンカ』)で新人女優賞ノミネート)

(パウラ・オルティス、「La virgen roja」が監督賞にノミネート、
デザインはアリシア・ルエダ、宝石マリナ・ガルシア)

(マベル・ロサノ、「Lola, Lolita, Lolaza」が短編アニメーションにノミネート
デザインはミルト、靴ペドロ・ガルシア、ブレスレット&イヤリングはラティド)

(パウラ・パラシオス、「Mi hermano Ali」がドキュメンタリー賞にノミネート、
デザインはスペインのトットハムTot-Hom、宝石イシドロ・エルナンデス)

(サルバ・レイナ、「El 47」で助演男優賞を受賞、パートナーの女優キラ・ミロー、
プロノビアスのドレスと靴、宝石はラバト)

(ルイス・トサール、「La infiltrada」で助演男優賞ノミネート、デザインはアルマーニ
チリの女優マリア・ルイサ・マジョール、デザインはマイケル・コステロ、宝石カルティエ)

(ロス・ハビスことハビエル・カルボ&アンブロッシ、昨年の総合司会者、
スーツはヴィヴィアン・ウエストウッド、靴クリスチャン・ルブタン、宝石スアレス)

(マカレナ・ゴメス&アルド・コマス、毎回レッドカーペットを楽しませてくれるカップル、
テレサ・エルビグのドレス、アベジャネダのスーツ)

(無冠に終わったピラール・パロメロの「Los destellos」のチーム、
マリナ・ゲロラ、監督、パトリシア・ロペス・アルナイス、アントニオ・デ・ラ・トーレ)
*会場を盛りたてたミュージシャンたち*

(アレハンドロ・サンス、”Abre la puerta”)

(グラナダのモレンテ3姉弟、エストレージャ、ソレア、キキ、”Anda jaleo”
グラナダの詩人ガルシア・ロルカへのオマージュ)

(デリャフエンテ & ロラ・インディゴ、”Verde que te quiero verde”)

(昨年のオリジナル歌曲賞受賞者リゴベルタ・バンディニ、”El amor”)

(サハラ &ドラ、”Si tú no estás” 点鬼簿のバックミュージック)
★マラガ映画祭が3月14日に開幕、特別賞も既に発表されています。大賞マラガ・スール賞はカルメン・マチです。
ゴヤ賞落穂ひろい*ゴヤ賞2025 ⑬ ― 2025年03月02日 17:33
イベロアメリカ映画賞授与式―ウォルター・サレス

★去る2月18日、マドリードのスペイン映画アカデミー本部で、ウォルター・サレスの「Ainda estou aqui / Aun estoy aqui」(邦題『アイム・スティル・ヒア』)にイベロアメリカ映画賞の授与式がありました。2月8日のガラ当日出席できなかったためアカデミー預りになっていました。ブラジル映画が受賞するのは初めてだそうです。そういえば『セントラル・ステーション』(98)もノミネート事態もありませんでした。フェルナンド・メンデス=レイテ会長がプレゼンターを務めました。本作主演のフェルナンダ・トーレスがゴールデングローブ賞の主演女優賞を受賞、間もなくガラが始まるアカデミー賞2025にもノミネートされています。

(メンデス=レイテ会長、受賞者ウォルター・サレス監督、2月18日)
★受賞者は、「本当に感謝に堪えません、ブラジル映画がゴヤ賞を受賞する意味は重要です」と強調しました。さらにスペインとブラジル両国の映画芸術について、「私たちの映画の記憶はこちらに根を下ろしています。というのもブラジル映画史で最も重要な映画運動シネマ・ノーヴォは、かつて私たちのマエストロであるカルロス・ディエゲス*が申しましたように、ルイス・ブニュエルの『忘れられた人々』やロベルト・ロッセリーニの『無防備都市』との出遭い、またはセルゲイ・エイゼンシュテインのモンタージュ理論の確立にあるからです。イベロアメリカ映画の記憶はとても近しいものであり、この賞は近接と所属の賞でもあるのです」と言及しました。
*カルロス・ディエゲス(ヂエギス、ディエギスの表記も)は1週間ほど前の2月25日、84歳で鬼籍入りしてしまいました。代表作品は『バイバイ・ブラジル』(79、DVD)、ビニシウス・デ・モライスの戯曲をベースに映画化され、カエタノ・ヴェローゾが音楽を担当した話題作『オルフェ』(99)は翌年公開された。
*作品紹介記事は、コチラ⇒2024年09月06日
*ゴールデングローブ賞主演女優賞受賞の記事は、コチラ⇒2025年01月28日
マリサ・パレデス逝く*ゴヤ賞2025 ⑫ ― 2025年02月25日 15:57
前触れもなく旅立った〈映画界のレジェンダ〉マリサ・パレデス追悼

★今年のゴヤ賞ガラで多くの人が深い喪失感を味わったのが、昨年師走に前触れもなく旅立ったマリシータことマリサ・パレデス(1946)の追悼でした。毎年ガラにはノミネートがなくてもプレゼンターとして姿を見せ、偉ぶることもなく各メディアのインタビューに応じ、常に女性の地位向上に言及していた。もうあの青い瞳の優雅な佇まいに接することは叶わなくなってしまった。ガラ後半、スペイン映画アカデミー会長フェルナンド・メンデス=レイテもスピーチの締めくくりはパレデス追悼でした。母親と同じ女優の道を歩む一人娘マリア・イサシが会長に伴われて壇上に登場、亡き母への想いを語った。会場には40年以上も共に人生を歩んだホセ・マリア・プラド(愛称チェマ、ルゴ1952、元国立フィルムライブラリー館長)の未だ事実を受け入れられないのか、悪い夢を見ているような、打ちのめされたような姿が印象的でした。隣席の男性はマリサの兄弟ということです。

(感謝の辞を述べるマリア・イサシ)
★マリア・イサシは、「私たちと心を分かち合って下さっている全ての方々に御礼を申し上げたい、皆さまから寄せられた親愛や素晴らしい言葉、そして私たちの空虚感を共有して下さる全ての方々です。彼女は親愛、熱愛、敬意を重んじることを知っておりました。その凄さは決して想像できないほどでした」とスピーチした。マリア・イサシ(マドリード1975)は、パレデスが17歳の年齢差で結婚した監督アントニオ・イサシ・イサスメンディ(1929~2017)の娘、母親が「私の最高作品」と称した一人娘です。共演作として、アンパロ・クリメントが同名戯曲を映画化したドキュメンタリー・ドラマ「Las cartas perdidas」(21)、カルロス・モリネロのデビュー作「Salvajes」(01)ではゴヤ賞新人女優賞にノミネートされている。母親が2018年ゴヤ栄誉賞を受賞したときのプレゼンターを務めている。

(マリサ・パレデス、第32回ゴヤ栄誉賞2018ガラ)

(マリア・イサシ、マリサ・パレデス母娘、同フォトコール)
★2024年12月17日の明け方、心不全のため帰らぬ人となった。生来の優雅さをたたえた、貴婦人のお手本のようなマリサ・パレデスは、少し体調が良くないとマドリードのヒメネス・ディアス財団病院に緊急入院していた。互いに支えあった40年来のパートナーであるチェマ・プラドも、当日の朝には別れの言葉を交わすことが叶わなかったということです。元気そうに見えていたが心臓に栄養を運ぶ血管の冠状疾患を抱えていたようです。

(チェマ・プラドとマリサ・パレデス、ベルリン映画祭2018にて)
★マリサの旅は、マドリードの中心街サンタ・アナ広場近くの労働者階級が多く暮らす守衛室から幕を開けた。ビール工場で働く保守的な父ルシオと建物の守衛をしていた自立心に富んだ母ペトラの末娘、家は貧しかったという。当時のスペインは階級の違いがはっきりしていて、マリサは労働者階級意識を胸に刻み付けて成長した。そして国際的な女優になった後も決してそのことを忘れることはなかった。
★「ママ、どうして家は貧乏なの?」と尋ねる娘に「金持ちは遺産を相続するからなの。同じように貧乏人は貧乏を受け継ぐんだよ」と、指で頭をさして「ここによーく叩き込んでおきなさい」と諭したそうです。個人の努力が足りないとか、日本の為政者や権力者が大好きな言葉〈自己責任〉ではないということです。社会がどのように変わろうともブレない彼女の強い責任感、民主主義への政治的コミットメント、義務を果たすフェミニストぶりが筋金入りなのは、この幼少期の母親の教えにあると語っている。彼女が母親を〈共犯者〉と呼ぶ所以です。

(「品位ある民主主義のために」の会合で「今日世界は少し悲しい」と。2024年4月)

(「性暴力は終わりにしよう」の団扇を手にしたゴヤ賞ガラ、2024年2月)
★家計を助けるため、小学校は11歳まで、婦人服の仕立で屋で働き始める。隣人が持っていたコミック雑誌を借りて独学した。痩せていたのでパハリート、小鳥ちゃんの綽名で呼ばれていた。母親の「いいかいマリシータ、自分のやりたいことを諦めずに闘いなさい」という言葉を終生忘れなかった。守衛室の建物の屋上からエスパニョール劇場を見下ろして「女優になる」と決めたのは5歳だった。

(アルモドバル監督と。フォトグラマス・デ・プラタ栄誉賞2015ガラ)

(パレデス、チュス・ランプレアベ、ロッシ・デ・パルマ、『私の秘密の花』から)

(母娘の最後の共演作となった「Las cartas perdidas」から)
★主な受賞歴:映画国民賞1996、芸術功労賞金のメダル2007、CinEuphoria栄誉賞2011、フォトグラマス・デ・プラタ栄誉賞2015、バジャドリード映画祭栄誉賞2017、ゴヤ栄誉賞2018、ナント映画祭栄誉賞2021、ほか演技賞受賞はキャリア紹介に譲ります。2018年以降の主な出演は上記の「Las cartas perdidas」、2024年のアルバ・ソテロのドキュメンタリー「Mucha mierda」、TVミニシリーズでは、ロス・ハビスがプロデュースした「Vestidas de azul」(23~24)の2話に出演している。キャリア&フィルモグラフィーは以下にアップしております。
*ゴヤ栄誉賞2018とキャリア&フィルモグラフィーは、コチラ⇒2018年01月18日
*ナント映画祭2021栄誉賞と「Las cartas perdidas」作品紹介は、コチラ⇒2021年04月11日

(カンヌ映画祭2024のレッドカーペットにて)
★訃報が伝えられると、X や SNS には、急逝に驚いたペドロ・サンチェス首相以下、労働大臣で副首相ヨランダ・ディアス、スペイン映画アカデミー会長フェルナンド・メンデス=レイテ、『私の秘密の花』や『ハイヒール』の監督アルモドバル、製作者のアグスティン・アルモドバル、『オール・アバウト・マイ・マザー』の共演者ペネロペ・クルス、「あまりにも早すぎます」とアントニオ・バンデラス、カンヌ映画祭の元会長ジル・ジャコブ、『ペトラは静かに対峙する』の監督ハイメ・ロサーレス、『私の秘密の花』の共演者ロッシ・デ・パルマ、フアン・ディエゴ・ボットーなど多くの仲間や友人からの感謝の言葉が投稿されている。日本では考えられないことですが、12月18日の通夜がエスパニョール劇場で行われると発表したのはサンチェス首相でした。

(最後のアディオス、エスパニョール劇場、2024年12月18日)
アイタナ・サンチェス=ヒホンのゴヤ栄誉賞授与式*ゴヤ賞2025 ⑪ ― 2025年02月20日 19:29
プレゼンターはマリベル・ベルドゥ、感動的なキャリア紹介

★ゴヤ栄誉賞授与式が比較的早い時間帯にありました。プレゼンターが誰になるかも楽しみの一つ、2023年の受賞者は、授賞式の前日に旅立ってしまった巨匠カルロス・サウラで、『歌姫カルメーラ』で主演したカルメン・マウラが務めました。会場は激動の時代を死の直前まで走り続けたマエストロを偲ぶ感動の渦が巻き起こりました。今回のプレゼンターは、総合司会者でもあるマリベル・ベルドゥでサウラのときと負けず劣らず会場を泣かせました。
★受賞者アイタナ・サンチェス=ヒホンのキャリア紹介の途中、感動で言葉を詰まらせて中断する一幕があったのでした。会場からは「マリベル、頑張れ」の温かい応援の拍手が沸き起こり、カメラは会場の涙にくれるクララ・セグラ、2014年、最年少で受賞したアントニオ・バンデラスの姿などを追いました。師匠ともいえるアルモドバルより先に受賞することに拘って固辞した末の受賞が頭をよぎったのか、やはり目は潤んでいました。アイタナは「マリベル、このゴヤをあなたの手から受け取ることが私の夢だったのを知らなかったの?」と。二人は2歳違い、まだゴヤ賞など存在しなかった少女時代から女優を天職と考え、大女優になることを夢見る仲良しだったそうです。

(ハグしあう、アイタナとマリベル)
★プレゼンターは、「光り輝く類いまれな才能の持ち主、素晴らしい信頼のできる共犯者、これは皆が納得のゴヤです。私たちが自分の姿を映す鏡、何故ならあなたは私たちの国や文化が向上するよう努力したからです。40年間ものあいだ闘ったなんて、それは奇跡です」と、受賞者の卓越性に敬意を払った。

(エモーショナルなキャリア紹介をしたマリベル・ベルドゥ)
★受賞者のキャリア&フィルモグラフィーは、既にアップしておりますが、映画とTV出演を中心にした紹介記事で、舞台女優としてのキャリアは割愛しています。スペイン語版ウィキペディアに載っていない事柄なども含めて、今回受賞スピーチから明らかになった事柄をかいつまんで補足します。自分の師として、演劇の師アリシア・エルミダ(マドリード1932~2022)、受賞者にサンセバスチャン映画祭1999銀貝女優賞をもたらした『裸のマハ』の監督ビガス・ルナ(バルセロナ1946~2013)、2023年師走旅立ってしまった女性監督のパイオニアの一人であるパトリシア・フェレイラ(マドリード1958~2023)の3人にオマージュを捧げました。
★アリシア・エルミダ*については、12歳での初舞台がここフェデリコ・ガルシア・ロルカの生れ故郷グラナダの劇団《バラッカ》だったことに触れた。ロルカが1930年初めに設立した劇団です。「彼女と一緒にロルカの生地フエンテバケーロスでロルカの作品を上演したのです。だから私の人生は文字通りここグラナダから始まったわけです」と語った。この瞬間から彼女の学校は仕事場となり、職業として生活できるわずかな数の俳優の一部分になることができた。「だからこのゴヤを逆風に向かって進む仲間たちと分かち合いたい、皆さんとともに!」と。演技の師は舞台にあり、若い人たちに舞台で演技を学んで欲しいとも語った。
★さらに自分にとって学びは尽きない泉のようなものだと語り、今宵この場にいない人々のなかで、どうしても感謝したい師としてビガス・ルナに言及した。また40人以上の監督と仕事をする幸運に恵まれたこと、4人の女性監督に起用されたこと、その一人として脚本家でもあったパトリシア・フェレイラに触れた。まだ女性が足を踏み入れることができなかった時代からのパイオニアの一人でしたが、現在では多くの監督、製作者、脚本家、撮影監督、撮影技師、音響家が活躍している。それは彼女のような先輩たちの努力の成果だと語った。アイタナはフェレイラの『ティ・マイ~希望のベトナム』にカルメン・マチやアドリアナ・オソレスと出演している。(Netflix で配信しています)


★当然の流れとしてマリサ・パレデスを追悼しました。「彼女はゴヤ賞のガラではっきり述べていました。〈文化を怖れる必要はない。怖れるべきは無知であり、無関心であり、偽物や狂信的行為、暴力です。重要なのは戦争を怖れることです〉」と。「マリサにも納得して貰えると思いますが、怖れるべきことに新たな帝国主義、民族浄化の台頭を付け足したい」と述べた。
★最後に家族、生きる喜びである二人の子供レオとブルナ、ずっと以前に亡くなった父アンヘル、
会場で娘の晴れ姿を見守っていた母フィオレラに感謝を述べた。特に彼女の共犯者で仕事の原動力だった母親に「ママ、あなたの支えや信頼なしには、何事も成し遂げられなかった」と語りかけた。「愛を込めて皆さま有難うございました。映画館でお目にかかりましょう」と締めくくった。(父親は2007年に鬼籍入りしている)
★主な受賞歴:2022年にスペイン映画アカデミー名誉会員、アルハンブラ友好財団の名誉会員。1993年シネマ・ライターズ・サークル賞(「Havanera 1820」)、1995年フォトグラマス・デ・プラタ女優賞(TVシリーズ「Regenta」)、1996年フォトグラマス・デ・プラタ女優賞(演劇『熱いトタン屋根の猫』)、1999年サンセバスチャン映画祭銀貝女優賞(『裸のマハ』)、2004年バルセロナ女優賞、2015年「金のメダル」、同年Max賞主演女優賞(演劇「Medea」)、2022年フェロス賞助演女優賞(『パラレル・マザーズ』)、2024年12月に文化省が付与する芸術功労金のメダル、2025年ゴヤ栄誉賞。
*受賞者の主なキャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2024年12月17日
*スペイン映画アカデミー「金のメダル」受賞記事は、コチラ⇒2015年08月01日/11月20日
*アリシア・エルミダは、舞台女優、映画、TV女優。1950年代半ばに舞台女優としてスタートを切り、シェイクスピア、ロペ・デ・ベガ、あるいは米国のソーントン・ワイルダー、チェーホフの『桜の園』、フェデリコ・ガルシア・ロルカの『ベルナルダ・アルバの家』などに出演した。1981年、ロルカの《バラッカ》劇団の巡業に参加する。その後《アリシア・エルミダ学校》と呼ばれたクラスで後輩に発声法や演技の指導にあたった。古典詩の造詣が深く、ロルカの『ドン・クリストバルの祭壇装飾絵図』、『老嬢ドーニャ・ロシータ』ほか、バリェ=インクランの『聖なる言葉』(Max賞1999受賞)、ミゲル・デ・ウナムノの「El otro」、後にアイタナも演じたテネシー・ウィリアムズの『熱いトタン屋根の猫』などに出演した。2014年スペイン映画アカデミー「金のメダル」受賞。政治的発言も多く、もの言う女優として女性の地位向上に貢献した一人でした。
ラブストーリーが語られた『海を飛ぶ夢』公開20周年を祝う
★第19回ゴヤ賞2005のガラはアレハンドロ・アメナバルの『海を飛ぶ夢』のための授賞式でした。1作品がノミネートできる最大カテゴリー数は18個、うちオリジナル歌曲・編集・衣装デザイン賞を除いた15カテゴリーにノミネートされ、受賞できなかったのは録音賞だけでした。少しばかり白けたのを思い出しました。今回登壇したのは、作品・監督・オリジナル脚本・オリジナル作曲賞のアメナバル、主演男優賞のハビエル・バルデム、主演女優賞のロラ・ドゥエニャス、新人女優賞のベレン・ルエダ、新人男優賞のタマル・ノバスの5名、今回「El 47」で助演女優賞を受賞したクララ・セグラも共演者でしたが登壇しなかった。

(登壇した『海を飛ぶ夢』の監督、主要キャスト)
★この『海を飛ぶ夢』クルーが今回の作品賞のプレゼンターを務めた。昨年はペドロ・アルモドバルの『オール・アバウト・マイ・マザー』の公開25周年で、監督以下まだ元気だったマリサ・パレデス、主演のセシリア・ロス、ペネロペ・クルス、アントニア・サンフアンの豪華版でした。最近のゴヤ賞ガラはプレゼンターも視聴率アップに一役買っているようです。


(左端が受賞者ダニ・デ・ラ・オルデン、読み上げたのはベレン・ルエダでした)
国際ゴヤ賞にリチャード・ギア*ゴヤ賞2025 ⑩ ― 2025年02月16日 10:43
第二の青春を満喫している受賞者リチャード・ギア

(「いじめっ子が米国大統領になっている」とスピーチした受賞者)
★第4回目となる国際ゴヤ賞は、サンセバスチャン映画祭2007のドノスティア栄誉賞受賞者である米国の俳優兼プロデューサーのリチャード・ギアの手に渡りました。プレゼンターはハリウッドでも活躍しているアントニオ・バンデラスでした。1975年ミルトン・カトセラスの犯罪ドラマ「Report to the Commissioner」(未公開)で映画デビューしているので、今年はキャリア50周年記念の節目の年に当たります。会場から温かい数分のスタンディングオベーションを受け、「(この賞を頂くのは)少し時期尚早でした。というのも私は新しい家族のいるスペインで製作する企画をもっているからです。実はガリシアの素晴らしい女性と結婚しているのです」と、会場で見守る実業家で人道活動家の妻アレハンドラ・シルバを紹介しました。因みに第1回の受賞者はケイト・ブランシェット(オーストラリア)、第2回はジュリエット・ビノシュ(フランス)、昨年がシガニー・ウィーバー(米国)と3連発で女優さんが受賞していました。

(プレゼンターのアントニオ・バンデラスとジョルジオ・アルマーニを着た受賞者)
★リチャード・ギアは、1949年フィラデルフィア生れの、俳優、製作者、人権活動家、ダライ・ラマを支援するチベット仏教の熱心な信者である。中国政府によるチベット人民迫害を非難して入国拒否になっている。30年以上前に「ギア財団」を設立して、チベット自治区のための活動を整備するほか、ダライ・ラマ14世が提唱するチベット文化の保護、先住民の権利保護などに賛同、受賞スピーチでも訴えていた。なかでも拍手を受けたのは「難民や我が家を持てない人々に、この賞を捧げたい」とスピーチしたときでした。また、権威主義の新たな台頭を危惧し、米国は「いじめっ子が大統領になって、権力と金が支配する恐ろしい場所になっている」と、警鐘を鳴らした。同じチベット仏教徒の信者であるアレハンドラ・シルバ(ア・コルーニャ1983)は、立ち上がって賛同の拍手を送っていました。


(見つめあう幸せなカップル、レッドカーペットにて)
★私生活に触れると、二人の出遭いは2014年頃で、チベット仏教徒の権利保護の活動が縁ということです。アレハンドラの前夫との離婚が正式に成立した2018年に、ギアにとっては3度目となる結婚をした。33歳の年齢差をはねのけての結婚、「父親と娘みたい」という陰口を聞き流し、翌年第1子、2020年第2子が誕生、アレハンドラの前夫とのあいだの男児合わせて3人兄弟、ギアは再婚相手キャリー・ローウェル(2002~16)との間に既に成人している息子(ホーマー・ジェームズ・ジグメ・ギア、歌手、2000生)がおり、4人の父親になっている。ベネチア映画祭2024に妻、長男と連れだって参加していた。昨年コネチカット州の自宅を売却、シルバの両親が暮らしているガリシアに移住している。ロスにあるもう1軒の家には長男が住んでおり、当分行ったり来たりになる由。
★キャリア&フィルモグラフィー:スクリーン以外のことに字数を取りすぎましたが、ほとんどの映画が公開され、TVでも放映されているので詳細は不要でしょうか。日本語ウィキペディアも充実しています。親日家で何回も訪日しているうえ、『HACHI 約束の犬』の製作を手掛け出演もしているのでファンは多い。しかしこれだけ主役を演じているのにオスカー像には縁遠く、ノミネートさえ一度もありません。犯罪コメディ・ミュージカル『シカゴ』(02)で受賞していると思っていたが勘違いで、受賞したのは第60回ゴールデングローブ賞(コメディ/ミュージカル部門)の主演男優賞でした。共演のレネー・ゼルウィガーと受賞した。キャサリン・ゼタ=ジョーンズは、アカデミー賞で助演女優賞を受賞した。

(タップダンスを披露した『シカゴ』のポスター)
他に1982年テイラー・ハックフォードの『愛と青春の旅だち』(ドラマ部門)、1990年ゲイリー・マーシャルの『プリティ・ウーマン』(コメディ/ミュージカル部門)、2012年ニコラス・ジャレッキーの『キング・オブ・マンハッタン』(ドラマ部門)の3作にノミネートされているだけでした。ポール・シュレーダーのサスペンス『アメリカン・ジゴロ』(80)やフランシス・フォード・コッポラの『コットン・クラブ』(84)など80年代の良作にオファーされているが、賞には結びつかなかった。ヨセフ・シダーの『嘘はフィクサーのはじまり』(16)のノーマン役で新境地を開いたと称賛されている。

(ゴヤ栄誉賞を受賞したアイタナ・サンチェス=ヒホンと、レッドカーペットにて)
★次回は、アイタナ・サンチェス=ヒホンのゴヤ栄誉賞を予定しています。
作品賞に「El47」と「La infiltrada」のサプライズ*ゴヤ賞2025の結果発表 ⑨ ― 2025年02月12日 18:23
作品賞は「El 47」と「La infiltrada」の2作受賞というサプライズに騒然!


(前座から盛り上がった会場)
★1月8日(現地時間)、予定通り第39回ゴヤ賞2025の授賞式がグラナダ会議展示センターで開催されました。作品賞はマルセル・バレナの「El 47」とアランチャ・エチェバリアの「La infiltrada」が受賞するというゴヤ賞始まって以来の2作品受賞となりました。投票数が同じで引き分けだったということでした。ということでフィナーレは2チームのキャスト&スタッフにプレゼンターの『海を飛ぶ夢』チーム5名が登壇していたので、写真のように舞台は大賑わいになりました。「El 47」の製作者ラウラ・フェルナンデス・エスペソは「私たちの最初のプロジェクトを応援してくれて有難う」と、一方「La infiltrada」のメルセデス・ガメロは、「"El 47" の仲間たちと分け合えるなんて何て素敵なの。私たちの映画を観てくれた100万人以上の観客にこの賞を捧げたい」と挨拶、マリア・ルイス・グティエレスは、「映画館に足を運んでくれた大勢の若い観客」に感謝しました。

(5名のプレゼンター、受賞した2チームが入り混じって壇上は混雑模様)
★総合司会を務めたベテラン女優の魅力もあってか、視聴率24.4%(前年19%)と最近では稀にみる好記録でした。作品賞が発表されたゴールデンタイムは24.9%、約280万人が観たことになりました。早くからグラナダ入りして宣伝に努めた苦労が報われました。

(総合司会を務めたマリベル・ベルドゥとレオノール・ワトリング)
★監督賞はイサキ・ラクエスタ&ポル・ロドリゲスの「Segundo premio」でした。監督欠席でしたがペドロ・アルモドバルの「La habitación de al lado」は、脚色・オリジナル作曲・撮影賞、ダニ・デ・ラ・オルデンの「Casa en flames」はオリジナル脚本賞、新人監督賞には「La estrella azul」のハビエル・マシぺ、アイトル・アレギ&ジョン・ガラーニョの「Marco」は主演男優賞とメイクアップ&ヘアー賞、パウラ・オルティスの「La virgen roja」は美術・衣装デザイン賞、と各作品とも満遍なく受賞して一人勝ちは避けられました。

(スペイン映画アカデミー会長フェルナンド・メンデス=レイテ)
★ミュージカル「Segundo premio」のイサキ・ラクエスタ&ポル・ロドリゲスの監督賞受賞は若干サプライズだったのではないでしょうか。金のビスナガ受賞作品ですが、マラガ映画祭は3月開催と大分月日が経っていたので不利でした。個人的には「La infiltrada」のアランチャ・エチェバリアか、『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』のアルモドバルを予想していましたが外れました。共同監督のイサキ・ラクエスタは欠席で登壇したのはポル・ロドリゲス一人、彼はラクエスタや出演したミュージシャンたちに感謝を述べた。ラクエスタはメッセージで欠席を詫びた後「イサ、愛しています、ルナ、ありがとう」と、製作者の一人である妻イサ・カンポと、撮影中に白血病で天に召された幼い愛娘ルナに感謝を捧げました。

(左から、ペドロ・サンチェス首相、アンダルシア評議会会長フアンマ・モレノ、
行政府副長官ヨランダ・ディアス)
★ゴヤ栄誉賞アイタナ・サンチェス=ヒホン(プレゼンターはマリベル・ベルドゥ)、国際ゴヤ賞リチャード・ギア(プレゼンターはアントニオ・バンデラス)、昨年12月17日に突然旅立ったマリシータことマリサ・パレデス追悼、ゴヤ賞14カテゴリー制覇というゴヤ賞最多受賞を記録したアメナバルの『海を飛ぶ夢』公開20周年記念については別途アップします。監督以下主演のハビエル・バルデム、ロラ・ドゥエニャス、ベレン・ルエダ、タマル・ノバスが登壇しました。
*第39回ゴヤ賞2025の受賞者一覧(太字受賞者)*
◎作品賞
「Casa en flames」監督ダニ・デ・ラ・オルデン *
製作:アルベルト・アランダ、アナ・エイラス、アリエンス・ダムシ、ダニ・デ・ラ・オルデン、ハイメ・オルティス・デ・アルティニャノ、キケ・マイジョ、ト二・カリソナ、他
「La estrella azul」監督ハビエル・マシぺ *
製作:アメリア・エルナンデス、エルナン・ムサルッピ、シモン・デ・サンティアゴ
「Segundo premio」監督イサキ・ラクエスタ&ポル・ロドリゲス *
製作:クリストバル・ガルシア
◎「El 47」監督マルセル・バレナ *
製作:ハビエル・メンデス、ラウラ・フェルナンデス・エスペソ
*作品賞の他、助演男優・助演女優・プロダクション・特殊効果賞の5冠。プレゼンターは、公開20周年記念の『海を飛ぶ夢』の監督アメナバル以下主演キャストたち。


(マルセル・バレナ、ラウラ・フェルナンデス・エスペソ)

(受賞者たち)
◎「La infiltrada」監督アランチャ・エチェバリア *
製作:アルバロ・アリサ、マリア・ルイス・グティエレス、メルセデス・ガメロ、
パブロ・ノゲロレス

(アランチャ・エチェバリア)

(サプライズに喜び全開のエチェバリア監督)


(興奮がおさまらない製作者、長いスピーチに会場もお疲れ気味でした)
◎監督賞
ペドロ・アルモドバル「La habitación de al lado」(邦題『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』)*
アランチャ・エチェバリア「La infiltrada」
パウラ・オルティス「La virgen roja」
アイトル・アレギ&ジョン・ガラーニョ「Marco」 *
◎イサキ・ラクエスタ&ポル・ロドリゲス「Segundo premio」

(プレゼンターのアレハンドロ・アメナバル、受賞者ポル・ロドリゲス)

◎新人監督賞
ミゲル・ファウス「Calladita」
ペドロ・マルティン=カレロ「El llanto」(邦題『叫び』) *
サンドラ・ロメロ「Por donde pasa el silencio」
パス・ベガ「Rita」
◎ハビエル・マシぺ「La estrella azul」
*プレゼンターは、昨年『雪山の絆』で監督賞を受賞したホセ・アントニオ・バヨナ、同じく『ミツバチと私』で新人監督賞を受賞したエスティバリス・ウレソラ監督でした。

◎オリジナル脚本賞
アルベルト・マリニ&マルセル・バレナ「El 47」
ハビエル・マシぺ「La estrella azul」
アメリア・モラ&アランチャ・エチェバリア「La infiltrada」
アイトル・アレギ、ジョン・ガラーニョ、ホルヘ・ヒル・ムナリス、ホセ・マリ・ゴエナガ「Marco」
◎エドゥアルド・ソラ「Casa en flames」監督ダニ・デ・ラ・オルデン
*ガウディ賞、フェロス賞、ゴヤ賞とすべてを手にした。名前を呼ばれた途端にもう涙で顔がくしゃくしゃでした。


(涙が抑えられない受賞者)
◎脚色賞
アレックス・モントーヤ、ジョアナ M. オルトゥエタ「La casa」*
ピラール・パロメロ「Los destellos」監督ピラール・パロメロ *
マル・コル、バレンティナ・ビソ「Salve María」監督マル・コル
イシアル・ボリャイン、イサ・カンポ「Soy Nevenka」監督イシアル・ボリャイン *
◎ペドロ・アルモドバル「La habitación de al lado」(The Room Next Door)
*受賞者欠席で製作者のアグスティン・アルモドバルが「音楽と映画を守っていくのは奇跡です」というメッセージを代読した。6個目のゴヤ胸像は、今は亡きマリサ・パレデスに捧げられた。プレゼンターは昨年の総合司会者ロス・ハビスのコンビ、「受賞者は私たちのマエストロ、ペドロ・アルモドバル!」と。

(亡き「マリサ・パレデスに捧げたい」とアグスティン)

(どのポケットに入れたんだっけと老眼鏡を探すアグスティン)
◎オリジナル作曲賞
アルナウ・バタリェル「El 47」
アルトゥロ・カルデルス「Guardiana de Dragones-Dragonkeeper」アニメーション
監督Li Jianping(李建平)&サルバドール・シモ
フェルナンド・ベラスケス「La infiltrada」
セルヒオ・デ・ラプエンテ「Verano en diciembre」
◎アルベルト・イグレシアス「La habitación de al lado」監督ペドロ・アルモドバル
*ゴヤ胸像のコレクター、これで何個目になるのでしょうか? 数えたら最多受賞の12個でした。トロフィーをマリサ・パレデスに捧げました。最初のアルモドバル作品がパレデス主演の『私の秘密の花』だったからでした。プレゼンターはグラナダのフラメンコ歌手エストレージャ&ソレア・モレンテ姉妹、今回アルハンブラ宮殿でのライブ配信もありました。


(プレゼンターのエストレージャ&ソレア・モレンテ姉妹)
◎オリジナル歌曲賞
Show me - 作曲家:フェルナンド・ベラスケス「Buffalo Kids」アニメーション
監督フアン・ヘスス・ガルシア・ガローチャ”ガロ”、ペドロ・ソリス
El borde del mundo - 作曲家:バレリア・カストロ「El 47」
La Virgen Roja - 作曲家:マリア・アルナル「La virgen roja」
Love is the worst - 作曲家:アロンドラ・ベントレー、イサキ・ラクエスタ「Segundo premio」
◎Los Almendros - 作曲家:アントン・アルバレス、イェライ・コルテス
「La guitarra flamenca de Yerai Cortés」ドキュメンタリー、監督アントン・アルバレス


(イェライ・コルテス、歌手ラ・タニア、アントン・アルバレス監督)
◎主演男優賞
アルベルト・サン・フアン「Casa en flames」(欠席)
アルフレッド・カストロ「Polvo serán」監督カルロス・マルケス=マルセ
ウルコ・オラサバル「Soy Nevenka」
ビト・サンス「Volveréis」監督ホナス・トゥルエバ *
◎エドゥアルド・フェルナンデス「Marco」監督アイトル・アレギ&ジョン・ガラーニョ
*実在した詐欺師エンリク・マルコを演じた受賞者は、「今まで演じたことのない複雑な人物」とコメント、トランプ政権の不法移民のキューバ・グアンタナモ刑務所収容、ガザ問題、やはり政治的発言は止められない。プレゼンターはジョセップ・マリア・ポウとグレタ・フェルナンデス、4個目となるゴヤ胸像を愛娘から手渡された(主演・助演2個ずつ)。

(プレゼンターは娘グレタ・フェルナンデス)

◎主演女優賞
エンマ・ビララサウVilarasau「Casa en flames」
ジュリアン・ムーア「La habitación de al lado」(欠席)
ティルダ・スウィントン「La habitación de al lado」(欠席)
パトリシア・ロペス・アルナイス「Los destellos」
◎カロリナ・ジュステ「La infiltrada」監督アランチャ・エチェバリア
*プレゼンターはアネ・ガバラインと昨年の受賞者マレナ・アルテリオ、ハリウッドの大女優は共に欠席、大きなスキー靴のようなスニーカーを履いた受賞者は、エチェバリア監督や共演者のルイス・トサールに感謝の言葉を述べ「複雑で難しい役柄だった」と語った。主演女優賞は初めて。

(スピーチを見守る先輩ガバラインとアルテリオ、受賞者)

(毎回、ファッションはイマイチの受賞者)
◎助演男優賞
エンリク・アウケル「Casa en flames」
オスカル・デ・ラ・フエンテ「La casa」
ルイス・トサール「La infiltrada」
アントニオ・デ・ラ・トーレ「Los destellos」
◎サルバ・レイナ「El 47」監督マルセル・バレナ
*毎回最初の受賞者は助演男優賞に決まっていますが、予期しない受賞だったのか座席で小躍り、かたわらの奥さんキラ・ミローと熱烈キス、登壇してからも興奮はおさまらずトロフィーを振り回すので落とさないかとハラハラでした。

(「不法な市民は存在しない」とスピーチしたサルバ・レイナ)

(人目もはばからず熱烈キス)
◎助演女優賞
マカレナ・ガルシア「Casa en flames」
マリア・ロドリゲス・ソト「Casa en flames」
ナウシカア・ボニン「La infiltrada」
アイシャ・ビリャグラン「La virgen roja」
◎クララ・セグラ「El 47」監督マルセル・バレナ
*ガウディ賞、フェロス賞には欠席だった受賞者も今回は姿を見せた。プレゼンターが過去の受賞経験者5名、左からエレナ・アナヤ、マリア・レオン、エバ・リョラチ、ナタリア・デ・モリーナ、スシ・サンチェスという豪華版でした。


(クララ・セグラ、プレゼンターのエレナ・アナヤ)

◎新人男優賞
オスカル・ラサルテ「¿Es el enemigo? La pelicula de Gila」監督アレクシス・モランテ
クティ・カラバハル「La estrella azul」
クリスタリノ「Segundo premio」
ダニエル・イバニェス「Segundo premio」
◎ペペ・ロレンテ「La estrella azul」監督ハビエル・マシぺ


◎新人女優賞
ソエ・ボナフォンテ「El 47」
マリエラ・カラバハル「La estrella azul」
マリナ・ゲロラ「Los destellos」
ルシア・ベイガ「Soy Nevenka」
◎ラウラ・ヴァイスマール「Salve María」監督マル・コル
*ガウディ賞に続いての受賞、「熟考を駆り立てる勇敢さ」を語った映画に起用してくれたマル・コル監督に感謝を捧げた。


◎プロダクション賞
ライア・ゴメス「Casa en flames」
アシエル・ペレス・セラノ「La infiltrada」
カティ・マルティ・ドノグエDonoghue「La virgen roja」
カリオス・アモエド「Segundo premio」
◎カルロス・アポリナリオ「El 47」監督マルセル・バレナ


◎撮影監督賞
アイザック・ビラ「El 47」
ハビエル・サルモネス「La infiltrada」
タクロ・タケウチ「Segundo premio」
グリス・ホルダナ「Soy Nevenka」
◎エドゥ・グラウ「La habitación de al lado」監督ペドロ・アルモドバル
*「ペドロ・ペドロ・・・」と監督の名前を連呼して感謝。


(アルモドバル監督に感謝の受賞者)
◎編集賞
ナチョ・ルイス・カピリャス「El 47」
ハビエル・マシぺ、ナチョ・ブラスコ「Los destellos」
ビクトリア・ラマーズ「La infiltrada」
フェルナンド・フランコ「Los pequeños amores」監督セリア・リコ・クラベリーノ *
◎ハビ・フルトス「Segundo premio」監督イサキ・ラクエスタ&ポル・ロドリゲス


◎美術賞
マルタ・バサコ「El 47」
インバル・ワインバーグ「La habitación de al lado」
ペペ・ドミンゲス・デル・オルモ「Segundo premio」
ミゲル・アンヘル・レボーリョ「Volveréis」
◎ハビエル・アルバリニョ「La virgen roja」監督パウラ・オルティス


◎衣装デザイン賞
エステル・パラウダリエス、ビンジェト・エスコバルVinyet「Disco, Ibiza, Locomía」監督キケ・マイジョ
イランツェ・オルテス、オルガ・ロダル「El 47」
ビナ・ダイヘレル「La habitación de al lado」
ルルデス・フエンテス「Segundo premio」
◎アランチャ・エスケロ「La virgen roja」監督パウラ・オルティス


◎メイクアップ&ヘアー賞
カロル・トルナリア「El 47」
モラグ・ロス、マノロ・ガルシア「La habitación de al lado」
パトリシア・ロドリゲス、トノ・ガルソン「La infiltrada」
エリ・アダネス、パコ・ロドリゲス・フリアス「La virgen roja」
◎カルメレ・ソレル、セルヒオ・ペレス・ベルベル、ナチョ・ディアス「Marco」
監督アイトル・アレギ&ジョン・ガラーニョ


◎録音賞
アマンダ・ビリャビエハ、ホアキン・ラハデル、他「La estrella azul」
セルヒオ・ビュルマン、アンナ・ハリントン、マルク・オルツ「La habitación de al lado」
ファブロ・ウエテ、ホルヘ・カスティーリョ・バリェステロス、他「La infiltrada」
コケ・F.ラエラ、アレックス・F.カピリャ、他「La virgen roja」
◎ディアナ・サグリスタ、エバ・ベリニョ、アレハンドロ・カスティーリョ、アントニン・ダルマッソ 「Segundo premio」監督イサキ・ラクエスタ&ポル・ロドリゲス
*ガウディ賞に続く受賞。


◎特殊効果賞
Li Xinリー・シン「Guardiana de Dragones-Dragonkeeper」
マリアノ・ガルシア・マーティ、ジョン・セラノ、他「La infiltrada」
ラウル・ロマニリョス、フアンマ・ノガレス「La virgen roja」
ジョン・セラノ、マリアノ・ガルシア・マーティ、他「Marco」
◎ラウラ・カナルス、イバン・ロペス・エルナンデス「El 47」監督マルセル・バレナ


◎アニメーション賞
「Buffalo Kids」
「Guardiana de Dragones-Dragonkeeper」
「Rock Bottom」監督マリア・トレノル
「SuperKlaus」監督アンドレア・セバスティア、スティーブ・マジョーリー
◎「Mariposas Negras」監督・製作ダビ・バウテ
製作者セサル・セラダ、エドモン・ロチ、マルク・サベ
*フォルケ賞、ガウディ賞に続いての受賞。


◎ドキュメンタリー賞
「Domingo Domingo」監督ラウラ・ガルシア・アンドレウ
「Marisol, llámame Pepa」監督ブランカ・トレス
「Mi hermano Ali」監督パウラ・パラシオス
「No estás sola」監督アルムデナ・カラセド、ロベルト・バハル
◎「La guitarra flamenca de Yerai Cortés」監督アントン・アルバレス(芸名 C.タンガナ)
*クリスティナ・テレナス、サントス・バカナ

(アントン・アルバレス監督)

◎イベロアメリカ映画賞
「Agarrarme fuerte」ウルグアイ、監督アナ・ゲバラ・ポセ、レティシア・ホルヘ・ロメロ
「El jockey」『ジョッキー』アルゼンチン、監督ルイス・オルテガ *
「El lugar de la otra」『イン・ハー・プレイス』チリ、マイテ・アルベルディ *
「Memorias de un cuerpo que arde」コスタリカ=スペイン、
監督アントネリャ・スダサシ・フルニス
◎「Ainda estou aqui / Aún estoy aquí」ブラジル、監督ウォルター・サレス *
*監督、製作者欠席につき、代理がスマホに送られてきたメッセージを読んだ。
◎ヨーロッパ映画賞
「El Conde de Montecristo」フランス、
監督アレクサンドル・ド・ラ・パトリエール、マチュー・デラポルテ
「Flow」『Flow』ラトビア=フランス=ベルギー、監督ギンツ・ジルバロディス
「La Quimera」『墓泥棒と失われた女神』イタリア、監督アリーチェ・ロルヴァケル
「La zona de interés」『関心領域』イギリス、監督ジョナサン・グレイザー *
◎「Emilia Pérez」『エミリア・ぺレス』フランス、監督ジャック・オーディアール *
*プレゼンターはアナ・トレントとオスカル・マルティネス。監督、カルラ・ソフィア・ガスコンとも欠席、配給元のエンリケ・コスタとミゲル・モラレスが代理が受け取った。

(左エンリケ・コスタ、ミゲル・モラレスがスピーチした)
◎短編映画賞
「Betiko gaua / La noche eterna」(18分)監督エネコ・サガルドイ
「Cuarentena」(6分)監督セリア・デ・モリナ
「El Trono」(13分)監督ルシア・ヒメネス
「Mamántula」(48分)監督イオン・デ・ソサ
◎「La gran obra」(20分)監督アレックス・ロラ、製作リュイス・キレス・サラ
*フォルケ賞に続いての受賞。

◎短編ドキュメンタリー賞
「Ciao Bambina」(18分)監督アフィオコ・グネッコ、カロリナ・ジュステ
「Els Buits」(19分)監督イサ・ルエンゴ、マリナ・フレイシャ・ロカ、ソフィア・エステべ
「Las novias del sur」(40分)監督エレナ・ロペス・リエラ
「Los 30(no)son los nuevos 20」(20分)監督フアン・ビセンテ・カスティリェホ・ナバロ
◎「Semillas de Kivu」(29分)監督カルロス・バリェ、ネストル・ロペス


◎短編アニメーション賞
「El cambio de rueda」(9分)監督ベゴーニャ・アロステギ
「La mujer ilustrada」(8分)監督イサベル・エルゲラ
「Lola, Lolita, Lolaza」(9分)監督マベル・ロサノ
「Wan」(13分)監督ビクトル・モニゴテ
◎「Cafune」(7分)監督カルロス・フェルナンデス・デ・ビゴ、ロレナ・アレス

★次回、国際ゴヤ賞のリチャード・ギア、ゴヤ栄誉賞のアイタナ・サンチェス=ヒホン、マリサ・パレデス追悼、『海を飛ぶ夢』公開20周年記念などを予定しています。
アランチャ・エチェバリア監督紹介*ゴヤ賞2025 ⑧ ― 2025年01月25日 15:43
「La infiltrada」で初の監督賞ノミネート――アランチャ・エチェバリア

(アランチャ・エチェバリア監督)
★アランチャ・エチェバリア(ビルバオ1968)、監督、脚本家、製作者。マドリードのコンプルテンセ大学で映像科学を専攻、同大学のCMAでオーディオビジュアル制作を学んだ。その後オーストラリアのシドニー・コミュニティ・カレッジで映画製作を学んでいる。1991年、映画と広告宣伝を両立させ、オーディオビジュアル業界でのキャリアを築いてきた。2010年、アマチュアだけを起用して撮った「Panchito」でテレマドリード賞を受賞、つづく「Cuestión de pelotas」は、スポーツの才能がありながら清掃員として雇用される女子サッカー選手に関するドキュメンタリー、これにより王立サッカー連盟は女性たちの雇用の正規化を余儀なくされた。

(主演の二人、『カルメン&ロラ』から)
★2013年、サイコスリラー「De noche y de pronto」(20分、主演ハビエル・ゴディノ)が翌年のゴヤ賞短編映画部門にノミネート、モリンズ映画祭審査員賞、ロスのイーテリア・フィルム・ナイト・フェスティバルで短編賞を受賞した。コメディ「Yo, presidenta」には、プロの俳優(チュス・ランプレアベ、ビト・サンス、サブリナ・プラガ、タバタ・セレソなど)を起用した。「El último bus」では、タバタ・セレソやハビエル・ゴディノを再び起用したホラーを撮った。エチェバリアの短編作家としてのキャリアは長く、専門家の評価は高い。そして2018年、カンヌ映画祭併催の「監督週間」に正式出品された『カルメン&ロラ』で50歳にしてゴヤ賞2019新人監督賞を受賞した。その他、例年3月に開催される「メディナ・デル・カンポ映画週間」は21世紀の監督Roel賞を授与、グアダラハラFF、トゥールーズFF、パームスプリングスFF、バジャドリードFFで授与式がある女性監督に贈られるドゥニア・アヤソ賞など受賞歴多数。
*『カルメン&ロラ』の作品紹介は、コチラ⇒2018年05月13日

(ゴヤ胸像を手にしたアランチャ・エチェバリア、ゴヤ賞2019ガラ)

(21世紀の監督Roel賞のトロフィーを手に、メディア・デル・カンポ映画週間2019ガラ)
★長編2作目「La familia perfecta」(脚本オラッツ・アロヨ)は、裕福な家族(ベレン・ルエダとゴンサロ・デ・カストロ夫婦)と労働者階級(ホセ・コロナドとペパ・アニオルテの夫婦)の子供たちが結婚したことで衝突するコメディ。カロリナ・ジュステがコロナドの娘役で出演している。階級格差の設定がいささかステレオタイプ的、不要と思われる登場人物の多さが損をしている。コメディの110分は長すぎて疲れます。Netflixで配信されていますが日本語字幕はなく、西語、英語、独語他で鑑賞できます。コロナド・ファンならお奨めかもしれない。

★3作目「Chinas」は、マドリードの中国人コミュニティのウセラ地区が舞台、中国の他ラテンアメリカやアジア、アフリカからの移民が多いバリオである。今回監督は脚本も手掛けている。ここで二つの家族、一つは中国移民の4人家族、9歳のルシアとティーンエージャーのクラウディアと両親、もう一つがレオノール・ワトリングとパブロ・モリネロの夫婦が養女にした中国生れの9歳のシャンの家族。9歳の二人の少女が学校で出合うことでドラマが始まる。監督は中国出身の3人の少女のアイデンティティを探求している。ゴヤ賞2024、新人男優賞(フリオ・フー・チェンJulio Hu Chen)、新人女優賞(Xinyi Ye、Yeju Ji)、オリジナル歌曲賞(マリナ・エルロップ)がノミネートされた。俳優賞ノミネートの3人は、スペイン俳優組合賞をそれぞれ受賞している。その他ディアス・デ・シネ賞の観客賞受賞作品。

★4作目「Polítecamente incorrectos」は、再びオラッツ・アロヨの脚本による政治風刺コメディ、次の総選挙で左派と保守派の2大政党が対決する。出演者アドリアナ・トレベハノは左派政党を応援、フアンル・ゴンサレスは保守派を応援している。二人は政治信条は異なるが惹かれあっているという設定。エレナ・イルレタ、ゴンサロ・デ・カストロが脇を固めて概ね演技は評価されたものの全体としては評価は低かった。それぞれ政治家にはモデルがいるようです。

★長編5作目「La infiltrada」でゴヤ賞2025の作品賞、監督賞、脚本賞を含む13カテゴリーにノミネートされた。『カルメン&ロラ』で新人監督賞を受賞しているが、監督賞ノミネートは初めてです。体重オーバーで健康が心配ですが、ダイエットは難しそうです。以下に主なフィルモグラフィーをアップしておきます。
*「La infiltrada」の作品紹介は、コチラ⇒2025年01月15日
◎主なフィルモグラフィー(アンソロジー、TVシリーズは除く)
2010「Panchito」短編、テレマドリード賞受賞
2010「Cuestión de pelotas」ドキュメンタリー
2012「Don Enrique de Guzmán」短編
2013「De noche y de pronto」短編、ゴヤ賞2014短編映画賞ノミネート
2015「Yo, presidenta」短編(19分)、メディナ・デル・カンポ映画週間でプロジェクト賞受賞
2015「El solista se la orquesta」短編ドキュメンタリー
2016「El último bus」短編(17分)短編ホラー
2017「7 from Etheria」(女性監督7人のアンソロジー)
2018「#SHE」
2018「Carmen y Lola」『カルメン&ロラ』長編デビュー、ゴヤ賞2019新人監督賞受賞
2021「La familia perfecta」『The Perfect Family』コメディ、長編2作目、
Netflix(日本語字幕なし)
2023「Chinas」長編3作目
2024「Polítecamente incorrectos」長編4作目
2024「La infiltrada」長編5作目
巨大なゴヤ胸像のレプリカがグラナダに到着*ゴヤ賞2025 ⑦ ― 2025年01月17日 15:20
ゴヤ賞ガラを盛り上げようとゴヤの胸像のレプリカがグラナダに到着!

(ホアキナ・エグアラス大通りに置かれたレプリカ)
★第39回ゴヤ賞授賞式まで1ヵ月となった1月8日、グラナダの町に巨大なゴヤの胸像のレプリカ8個が到着した。レプリカの一つはホアキナ・エグアラス大通りに面したアンダルシア評議会州政府地方支所前に設置された。その他、観光名所のサン・ニコラス展望台、ヌエバ広場、グロリエタ・デ・アラビア、パセオ・デル・ビオロンなどに設置されたようです。また、巨大ゴヤ像に呼応して、同日「La Emoción de los Goya」のタイトルのもと、ゴヤ賞38年史を祝って過去38年間のゴヤ賞ガラのエモーショナルなフォト38枚が、グラナダのカレラ・デ・ラ・ビルヘン通りに展示された(ガラの終了する2月9日まで)。写真家はアルベルト・オルテガ、カルロス・アルバレス、エンリケ・シドンチャなど10名が手掛けた。グラナダ市民や訪問客が楽しめるようにということですが、巨大ゴヤ胸像にはびっくりです。

(ホセ・コロナドが『悪人に平穏なし』でゴヤ賞2012主演男優賞を受賞したときのフォト)
★新年3日には、ガラの総合司会を務めるマリベル・ベルドゥとレオノル・ワトリングがゴヤ賞宣伝に現地を訪れ、『テルマ&ルイーズ』よろしく、グラナダの文化遺産のスポットをオープンカーで走り回った。またホセ・コロナドの特別コラボレーションもアナウンスされた。コロナドのフォトが先頭を飾った理由が分かりました。

(どちらがテルマで、どちらがルイーズでしょうか)

(マリベル・ベルドゥとレオノル・ワトリング)
★1月14日には、ノミネート者を招いて行われる恒例の簡単な前夜祭が開催された。作品賞にノミネートされた監督5名、ダニ・デ・ラ・オルデン、マルセル・バレナ、ハビエル・マシぺ、アランチャ・エチェバリア、イサキ・ラクエスタ&ポル・ロドリゲスも参加した。以下に小さくて分かりにくいですが、各チームのフォトをアップしておきます。写真家は上記のアルベルト・オルテガです。

(マルセル・バレナの「El 47」のチーム)

(イサキ・ラクエスタ&ポル・ロドリゲスの「Segundo premio」のチーム)

(アランチャ・エチェバリアの「La infiltrada」のチーム)

(ダニ・デ・ラ・オルデンの「Casa en flames」のチーム)

(ハビエル・マシぺの「La estrella azul」のチーム)
アランチャ・エチェバリアの「La infiltrada」*ゴヤ賞2025 ⑥ ― 2025年01月15日 14:41
実話から生まれたフィクション――女性警察官ETAテログループ潜入記

(主人公アランサスに扮したカロリナ・ジュステを配したポスター)
★アランチャ・エチェバリア(ビルバオ1968)と言えば、同性愛が禁じられていたロマ社会の十代のレズビアンの愛をテーマにしたデビュー作『カルメン&ロラ』でしょうか。2018年カンヌ映画祭併催の「監督週間」に出品され、クィア賞とゴールデンカメラにノミネートされた作品。その後、国際映画祭巡りをして数々の受賞歴を誇り、ラテンビートFF2018でも上映された。ゴヤ賞2019新人監督賞を受賞、当時エチェバリアは50歳になっており、新人監督賞としては最年長の受賞者だった。作品紹介などは以下にアップしています。『カルメン&ロラ』以降のフィルモグラフィーは、監督賞にもノミネートされているので別途紹介を予定しています。
*『カルメン&ロラ』の作品、監督キャリア紹介は、コチラ⇒2018年05月13日

(ルイス・トサール、カロリナ・ジュステ、アランチャ・エチェバリア監督)
★デビュー作に唯一人プロの俳優として出演したのが、新作「La infiltrada」(潜入者)の主人公アランサス・ベラドレ・マリンを熱演したカロリナ・ジュステでした。監督のお気に入り女優、『カルメン&ロラ』でゴヤ賞2019助演女優賞を受賞した。新作でも既にフォルケ賞2024主演女優賞を受賞しています。キャリア紹介は後述します。勿論アランサス・ベラドレ・マリンは偽名、スペイン史上で唯一テロ組織ETA(バスク祖国と自由)への潜入を成功させて生還した女性警察官の実話に基づいて製作された。データ・バンクによると、興行成績は約800万ユーロ(830万ドル)を突破した。
「La infiltrada」(英題「Undercover」)
製作:Beta Fiction Spain / Beta Films / Bowfinger International Pictures /
Infitrada LP AIE / Esto también pasará SLU / Atresmedia Cine / Film Factory Entertainment / Movistar Plus + / ICAA 他
監督:アランチャ・エチェバリア
脚本:アメリア・モラ、アランチャ・エチェバリア
(オリジナル・アイディア)マリア・ルイサ・グティエレス
撮影:ハビエル・サルモネス、ダニエル・サルモネス
音楽:フェルナンド・ベラスケス
編集:ビクトリア・ラメルス
録音:マイテ・カブレラ、ファビオ・ウエテ、ホルヘ・カステーリョ・バリェステロス、
ミリアム・リソン
キャスティング:テレサ・モラ
メイク&ヘアー:パトリシア・ロドリゲス、パトリ・デル・モラル、マルビナ・マリアニ
(ヘアー)トノ・ガルソン
プロダクション・マネージメント:アシエル・ペレス
特殊効果:マリアノ・ガルシア、ジョン・セラーノ、フリアナ・ラスンシオン
製作者:メルセデス・ガメロ(BFS)、マリア・ルイサ・グティエレス(Bowfinger)、パブロ・ノゲロレス、アルバロ・アリサ
(太字がゴヤ賞2025ノミネート者)
データ:製作国スペイン、2024年、スペイン語・バスク語、実話、スリラー、118分、撮影地バスク自治州、配給:Film Factory Entertainment、公開バレンシア、セビーリャ2024年9月30日、サラゴサ10月1日、スペイン一般公開10月11日
映画祭・受賞歴:フォルケ賞2024作品賞・価値ある教育賞ノミネート、主演女優賞受賞(カロリナ・ジュステ)、ASECAN賞2024(アランチャ・エチェバリア)、ゴヤ賞2025ノミネート13部門(作品・監督・オリジナル脚本・オリジナル作曲・主演女優・助演女優、助演男優・プロダクション・撮影・編集・メイク&ヘアー・録音・特殊効果賞)、フェロス賞2025(監督・主演女優・予告編賞ハビエル・モラレス)、シネマ・ライターズ・サークル賞9部門(作品・監督・女優・助演女優・助演男優・脚本・撮影・編集・作曲賞)
キャスト:カロリナ・ジュステ(アランサス・ベラドレ・マリン)、ルイス・トサール(アンヘル)、ディエゴ・アニド(セルヒオ)、イニィゴ・ガステシ(ケパ・エチェバリア)、ナウシカ・ボニン(アンドレア)、ペペ・オシオ(ボディ)、ホルヘ・ルエダ(マリオ)、ビクトル・クラビホ(テルエル)、カルロス・トロヤ(ソイド)、アシエル・エルナンデス(ホセバ)、ペドロ・カサブランク(警察担当班長)、他多数
ストーリー:1990年代のバスクを舞台に、新米警察官アランサス・ベラドレ・マリンは或る難しいミッションを果たすため、ETAバスク愛国主義のテロ組織にスパイとして送り込まれる。それは家族や友人との関係を断ち、人生を一時停止にすることに他ならなかった。数多くのテロ攻撃を準備する2人のテロリストと同じアパートに宿泊する必要があった。時には彼らが殺害した同僚警官の死を祝って乾杯しなければならなかった。常にいつ自分の身元が割れるかという恐怖のなかでの二重生活は8年間の長期に及んだ。

(ルイス・トサールとカロリナ・ジュステ、フレームから)

(潜入者との連絡担当官アンヘルを演じたルイス・トサール)
実在したアランサス・ベラドレ・マリンの肖像
★アランサス・ベラドレ・マリンは偽名(本名エレナ・テハダ)、22歳でアビラの警察アカデミーを卒業後、ETA の潜入部隊のメンバーに選ばれる。家族との関係を断ち、エタのメンバーに彼女が彼らの目的に共鳴してグループに入ったと信じ込ませることに成功する。リオハの県都ログローニュの良心的兵役拒否運動に潜入して、エタメンバーとの緊密な関係を築いた。1998年9月16日、ETAは「停戦協定」を結ぶが、これは組織立て直しの時間稼ぎの休戦であった。停戦中にもかかわらず彼らは秘密裏にテロ活動を継続しながら再武装に従事した。グループ内で特権的な立場にあったアランサスは、将来の重要なテロ計画書と協力者の情報を入手した。これにより、政府と治安部隊はETA の最も活動的なグループの一つである「ドノスティ・コマンド」を解体させるに至った。この情報はETAの内部構造理解にも寄与した。エタ組織への潜入に成功した唯一人のスペイン人警察官。アランサスは、現在国家警察に勤務しているが、スペインを去り、海外の大使館で家族と新しい人生を歩んでいる。
「2017年に警察官の友人を通じて知った」と製作者グティエレス
★エチェバリア監督によると「プロデューサーからアランサスの話を聞いたとき、私の心は直ぐに90年代の無意味な対立で罪のない犠牲者が増え続けていたバスクに戻りました。20歳を越したばかりの未だ経験の浅い女性警官が、たった一つのミスが死を意味する殺人者たちの世界に潜入した事実に驚きました。直ぐに監督したいと言いました。私たちの最近の辛い過去を思い出すために、彼女が現在どこにいようとも、感謝を捧げたいと思ったのです」と語った。
★プロデューサーとはBowfinger International Picturesのマリア・ルイサ・グティエレス、「私たちは、観客がこの匿名の女性の物語を知るに値すると信じています。公の援助なしに一般市民のために命を危険にさらして闘わねばならなかった。ある意味で彼女は人生の過去と未来を犠牲にして任務を果たした。ETA のテロリストのグループを解体し、さらには国家安全保障に貢献した。私は匿名で闘わざるを得なかった人々の視点で語られた映画を見たことがありませんでした。何故ならそれはタブーだったからです。今やっと語ることができる時代になったのです」。そして「潜入捜査をしていた8年間、彼女が抱えていた矛盾、恐怖、前進し続ける理由を観客に伝えたい」とグティエレスは付け加えた。

(ビクトル・クラビホ、助演女優賞ノミネートのナウシカ・ボニン)
★BFSの最高経営責任者CEOメルセデス・ガメロ、「この映画は、複雑な女性の多面的な視点から語られる。それは時代の肖像画にもなり、映画館で壮大な物語を楽しみたいと思う多世代の観客の興味を引くでしょう」と述べた。俳優たちが実在した人物に会うことが、如何に価値があるかを強調した。何故なら「それは作品に真実味を与えるからです」と。
★エチェバリア監督によると、「この作戦に関わった人々と接触し、綿密なリサーチ作業をした。ルイス・トサールが演じた潜入者との連絡担当者であるマニピュレーター、作戦に参加した警察官、テロ・グループを脱退したエタの元メンバーを取材した。本物のアランサスにアクセスする機会もあったが、敢えてしなかった」と。チャンスが訪れたときには、脚本が完成していて「私たちのアランサス」が既に出来上がっていたからのようです。実話から生まれた映画でもフィクションということでしょうか。
潜入することに同意したアランサスの「公共の利益」とは?
★エチェバリア監督がこの作品で追求したテーマの一つは、「何故若い警察官がこのような危険な任務に参加することに同意したのか」であった。家族、友人、ボーイフレンド、フィエスタなどと関係を断ち、ライオンの檻に飛び込むことにしたのか。彼女は「公共の利益」のためにそうしたのだが、「今日の私たちが理解するのは難しい」と監督。「医師として地球上の危険な地域を訪れ、他者を助ける国境なき医師団の仕事は理解できても、彼女のケースは難しい・・・」と。また潜入者が若い女性警官でなく男性だったら映画にしたか、という問いには「男性でも同じですが、彼女がスパイだと気づかれなかったのは、おそらく女性だったからだろう」と答えている。
★ビルバオ出身の監督は、「バスク地方の紛争は、私たちスペイン人がつい最近体験したことなのを忘れないでほしい。何が起こったのかを若い世代に伝える必要があります。この映画は対立が理解されるようにするという意図をもっています。アランサスを通してバスク地方の特に紛争の時代を政治的社会的に描きたかった」と製作意図を語っている。未だフランコ独裁政権だった1968年から2010年までの犠牲者は、829人が殺害され、2018年に解散するまで22,000以上が負傷している。
★当ブログでは、テーマをETAのテロに据えた作品として、イシアル・ボリャインの「Maixabel」(2021年08月05日)、アイトル・ガビロンドのTVシリーズ「Patria」8話(2020年08月12日)、ボルハ・コベアガの「Negociador」(2015年01月11日)、ルイス・マリアスの「Fuego」(2014年12月11日)などを紹介しています。
キャスト紹介:カロリナ・オルテガ・ジュステ、1991年エストレマドゥラ州バダホス生れ、映画、TV、舞台女優、マドリードの王立高等演劇学校RESAD(1831年設立)とラ・マナダ演劇研究センターで演技を学ぶ。2014年、TVシリーズ出演でキャリアをスタートさせる。長編映画デビューはアランチャ・エチェバリアの『カルメン&ロラ』(18)出演でゴヤ賞2019助演女優賞を受賞した。エチェバリア監督の信頼が厚く、引き続き「La familia perfecta」(21)、「Chinas」(23)と4作に起用されている。


(アランサスを演じたカロリナ・ジュステ、「La infiltrada」から)
★他にカルロス・ベルムトの『シークレット・ヴォイス』(「Quién te cantará」18)、ダニエル・カルパルソロのアクション・スリラー『ライジング・スカイハイ』(「Hasta el cielo」20)、セクン・デ・ラ・ロサのデビュー作「El cover」(21)出演でベルランガ賞2021助演女優賞を受賞した。マラガ映画祭2021に正式出品され観客賞を受賞したカロル・ロドリゲス・コラスの「Chavalas」、ハイメ・ロサ―レスの「Girasoles silvestres」(22)、ダビ・トゥルエバが実在したカタルーニャのコメディアン、エウジェニオ・ジョフラを描いた「Saben aquell」は、サンセバスチャン映画祭2023で上映、カタルーニャ語を短期間でマスターして撮影に及んで高評価を得た。ゴヤ賞2024主演女優賞にノミネートされるも受賞できなかったが、ガウディ賞とサンジョルディ賞を受賞した。新作「La infiltrada」では上述したフォルケ賞受賞の他、本命視されているゴヤ賞、フェロス賞の主演女優賞にノミネートされている。

(フォルケ賞のトロフィーを手にしたカロリナ・ジュステ、2024年フォルケ賞ガラ)
★太字のタイトル名は作品紹介をしています。ヒット作のTVシリーズ、舞台出演は割愛します。最近短編映画「Ciao Bambina」(24)を監督している。
*「Saben aquell」の紹介記事は、コチラ⇒2023年12月30日
*「Girasoles silvestres」の紹介記事は、コチラ⇒2022年08月01日
*「El Cover」の紹介記事は、コチラ⇒2021年05月18日
*「Hasta el cielo」の紹介記事は、コチラ⇒2020年08月22日
ダニ・デ・ラ・オルデンの「Casa en flames」*ゴヤ賞2025 ⑤ ― 2025年01月08日 22:15
カタルーニャ語映画「Casa en flames」はシリアスコメディ

(スペイン語版ポスター)
★ゴヤ賞作品賞ノミネートのダニ・デ・ラ・オルデンのシリアスコメディ「Casa en flames」の言語はカタルーニャ語、前回アップしたマルセル・バレナの「El 47」も主要言語はカタルーニャ語でした。カルラ・シモンのデビュー作『悲しみに、こんにちは』(17)の成功以来、じりじり増えている印象です。カタルーニャ語映画の興行成績ナンバーワンは、シモンの2作め「Alcarràs」(22)の240万ユーロでしたが、6月28日に本作が公開されると尻上がりに数字を更新しつづけ、9月末には270万ユーロとなり、わずか3ヵ月で抜いてしまいました。製作に途中から参加したNetflix の配信が、10月23日から始まっているので投票には有利になるでしょう。残念ながら日本語字幕入りの配信は目下ありません。

(インタビューを受けるダニ・デ・ラ・オルデンとホセ・ペレス・オカーニャ)
★セレブな離婚女性モンセが、地中海に面したコスタ・ブラバのカダケスの家に2人の子供を呼び寄せて週末を過ごそうと計画する。建物の売却やら、まだ引きずっている恨みやら、いろいろあるにはあるが、それはさておき、何者にも週末を台無しにさせないと決心しています。どこの家庭にも少しの利己主義や秘密はありますが、なんとも嫌味な登場人物がモンセの家に集合することになる。
★ゴヤ賞ノミネートは8カテゴリー、うち5部門をキャスト陣が占めている。モンセにエンマ・ビララサウ(主演女優)、息子ダビにエンリク・アウケル(助演男優)、娘フリアにマリア・ロドリゲス・ソト(助演女優)、元夫カルレスにアルベルト・サン・フアン(主演男優)、さらに助演女優賞に息子のガールフレンドらしきマルタ役のマカレナ・ガルシアという布陣です。ほかのノミネートは、作品賞、オリジナル脚本賞(エドゥアルド・ソラ)、プロダクション賞(ライア・ゴメス)の3部門です。
「Casa en flames」(西題「Casa en llamas」、英題「A House on Fire」)
製作:3Cat / Atresmedia Cine / Eliofilm(伊)/ Sábado Pliculas(西)/
Playtime Movies(西)/ ICEC / ICAA / Netflix
監督:ダニ・デ・ラ・オルデン
脚本:エドゥアルド・ソラ
音楽:マリア・キアラ・カサ
撮影:ペペ・ゲイ・デ・リエバナ
編集:アルベルト・グティエレス
プロダクション・マネージメント:ライア・ゴメス
キャスティング:アナ・サインス・トラパガ、パトリシア・アルバレス・デ・ミランダ
美術:ヌリア・グアルディア
衣装デザイン:イシス・ベラスコ
メイクアップ&ヘアー:アンナ・アルバレス・デ・サルディ、エンマ・ラモス、(ヘアー)マリベル・ベルナレス
製作者:アルベルト・アランダ、アナ・エイラス、ダニ・デ・ラ・オルデン、キケ・マイジョ、アリエンス・ダムシ、ハイメ・オルティス・デ・アルティニャノ、トニ・カリソサ、ベルナト・サウメル
データ:製作国スペイン=イタリア、2024年、カタルーニャ語80%、スペイン語20%、シリアスコメディ、105分、撮影地カタルーニャ州ジローナ(ヘローナ)、公開スペイン6月28日、Netflix配信10月23日(日本語なし)
映画祭・受賞歴:バルセロナ・サンジョルディ映画祭 BCNFF 2024でワールド・プレミア、モンテカルロ・コメディFF2024作品賞受賞、ホセ・マリア・フォルケ賞2024観客賞受賞、ディアス・デ・シネ賞(エンマ・ビララサウ)、他にゴヤ賞2025に8部門、フェロス賞2025に8部門、ガウディ賞2025に14部門にノミネートされている。
キャスト:エンマ・ビララサウ(モンセ)、エンリク・アウケル(息子ダビ)、マリア・ロドリゲス・ソト(娘フリア)、アルベルト・サン・フアン(元夫カルレス)、クララ・セグラ(ブランカ)、マカレナ・ガルシア(マルタ)、ホセ・ペレス・オカーニャ(トニ)、フィリッポ・コントリ(リカルド)、ゾエ・ミリャン(ジョアナ)、他多数
ストーリー:離婚した裕福な女性モンセは、長いあいだ母親を無視してきた2人の子供をカダケスの自宅に呼び寄せ、最後の週末を過ごす計画を立てる。自宅売却の可能性やら、恨みつらみの数々やら、どこの家族にも口に出してはいけない秘密はあるけれど、それはさておき、この週末は誰にも台無しにさせないと決心している。しかし、元夫も登場して・・・家族再会劇の行方は?
カタルーニャのブルジョア階級の欺瞞をやんわり批判
★批評家と観客の評価が分かれるのは珍しくありませんが、前者の80パーセント以上が好意的、フォルケ賞では観客賞を受賞するなど、双方に齟齬がない。キャストの演技をカンペキと褒める批評家が多数を占める。1作品で俳優賞5個ノミネートは珍しい。カタルーニャのブルジョア階級の痛烈なパロディではありますが、笑ってばかりはいられない。何しろ火の手が上がって燃えさかっている家なので本当は怖い話なのです。ダニ・デ・ラ・オルデン映画としてはレベルが高そうですが監督賞に選ばれていませんので、今回はノミネートされているキャスト陣を中心に紹介しておきます。

(モンセ役のエンマ・ビララサウ、フレームから)
★カダケスで直ぐ思い出されるのがサルバドール・ダリ、彼はユニークな建物で有名なダリ美術館のあるフィゲラス出身ですがカダケスに別荘を所有しており、夏期にはここで過ごすことが多かった。詩人のガルシア・ロルカもひと夏を過ごしている。後にダリと結婚することになるポール・エリュアールの妻ガラとの出会いもカダケスのこの別荘でした。カタルーニャのお金持ちの別荘地というわけです。撮影場所にはバルセロナのカネ・デ・マルにあるホセ・アントニオ・コデルチが設計した建物カサ・ロビラも含まれている。邸内から地中海が見渡せる豪邸が舞台なのが観客を惹きつけているのかもしれません。

(カサ・ロビラ邸)

(息子ダビと娘フリア、カサ・ロビラの室内)
★モンセ役のエンマ・ビララサウ・トマスは、1959年バルセロナ生れ、映画、テレビ、舞台女優。1913年バルセロナ州議会によって設立された演劇研究所で演技を学ぶ。1980年カタルーニャTVのミニシリーズでキャリアをスタートさせ、テレビ界での活躍が続いた。長編映画デビューはジャウマ・バラゲロのホラー『ネイムレス無名恐怖』(99)、本作はシッチェス映画祭でプレミアされ、初出演で女優賞を受賞した他、ブタカ賞2000のカタルーニャ映画部門の女優賞も受賞した。次いでカンヌでワールド・プレミアされたお蔭で公開されたマリア・リポルの『ユートピア』(03)では、ナイワ・ニムリやアルゼンチンのレオナルド・スバラリアやエクトル・アルテリオと共演した。
★評価が定まったのは、パトリシア・フェレイラの「Para que no me olvides」(05)出演でした。三世代の家族関係を描いた力強いストーリー、建築科の学生、その母親と祖父、そして恋人、家族は交通事故で息子を失い、試練に立たされる。母親役で初めてゴヤ賞2006の主演女優賞にノミネートされた。受賞には至らなかったがトゥリア賞2006の女優賞、サンジョルディ賞2006のスペイン女優賞を受賞した。カタルーニャ語とスペイン語の他、フランス語もできるのが強みです。

★新作では結果が発表になったフォルケ賞はノミネートに終わり、これから始まるゴヤ賞、ガウディ賞、フェロス賞に期待がかかっている。ゴヤ賞に関しては、候補者ティルダ・スウィントンとジュリアン・ムーアが受賞する可能性は低く、ライバルはフォルケ賞を受賞したカロリナ・ジュステでしょうか。パトリシア・ロペス・アルナイスは、最近受賞が続いているのでないと予想します。ガウディ賞は堅いでしょうがゴヤは微妙です。しかしTVシリーズ出演でお茶の間での知名度も高く、バルセロナ派の会員も増えているから蓋を開けてみないことには分からない。舞台女優としても活躍、モンジュイックのリウレ劇場で初演された、アーサー・ミラーの戯曲 "All My Sons" 主演で、2023年のブタカ賞女優賞を受賞した。

(ブタカ賞2023女優賞の受賞スピーチをするエンマ・ビララサウ)
★娘フリア役のマリア・ロドリゲス・ソトは、1986年バルセロナ生れ、映画、舞台女優。マラガ映画祭2019の作品賞である金のビスナガ賞を受賞したカルロス・マルケス=マルセの「Els dies que vindran」で長編映画デビュー、銀のビスナガ女優賞を受賞、ガウディ賞2020でも主演女優賞を受賞した。共演したダビ・ベルダゲルと結婚している。作品とキャリア紹介を受賞作にアップしております。
*「Els dies que vindran」作品紹介は、コチラ⇒2019年04月11日

(銀のビスナガ女優賞を受賞、マラガFF2019ガラにて)
★デビュー作以降のフィルモグラフィーは、カルレス・トラスの『パラメディック―闇の救急救命士』(20)の理学療法士役、クララ・ロケの『リベルタード』(21)、TVシリーズだがNetflixで視聴可能なダニエル・サンチェス・アレバロの『最後列ガールズ』(22、6話)、リリアナ・トーレスのコメディ「Mamífera」(24)ではエンリク・アウケルと夫婦役で共演している。彼女は母親になることに抵抗している妻、エンリクは父親になりたい夫を演じている。SXSW映画祭2024で特別審査員賞他を受賞している。ガウディ賞2025には二人揃って、こちらは主演俳優賞にノミネートされている。フェロス賞2025では本作で助演女優賞にノミネートです。

(母親モンセと、フレームから)
★元夫カルレス役のアルベルト・サン・フアンは、1968年マドリード生れ、俳優、脚本家。マドリードのコンプルテンセ大学でジャーナリズムを学ぶ。日刊紙「ディアリオ16」で2年間働く。一纏めの紹介はしていないが、作品ごとにアップしている。長編映画デビューは1997年、フアンマ・バホ・ウジョアのハチャメチャ・コメディ「Airbag」、公開時は批評家から酷評されたが観客は大喜び、1997年の興行成績ナンバーワンになった。次いでビデオが発売されたマヌエル・ゴメス・ペレイラの『スカートの奥で』(99)、同年ミゲル・バルデムの『世界で一番醜い女』、今世紀に入るとエミリオ・マルティネス=ラサロの『ベッドの向こう側』(02)、続編『ベッドサイド物語』(05)、ラモン・デ・エスパーニャの『優しく殺して』(03)、ジャウマ・バラゲロの長たらしい邦題が笑えるサスペンス『スリーピング タイト~白肌の美女の異常な夜』(11)、主役のルイス・トサールの妄想ぶりでブレイクした。
*「Airbag」紹介記事は、コチラ⇒2021年02月18日

(元夫カルレス役のアルベルト・サン・フアン、フレームから)
★ゴヤ賞関連では、マラガ映画祭2007でフェリックス・ビスカレットの「Bajo las estrellas」(金のビスナガ受賞作)に主演、男優賞を受賞した。そのまま人気が持続して翌年のゴヤ賞主演男優賞も受賞した。ほかフォトグラマス・デ・プラタ2008もゲットし、未公開なのが残念だったコメディドラマです。もう1作がセスク・ゲイの「Sentimental」で、2021年のゴヤ賞とガウディ賞の助演男優賞を受賞している。最新ニュースによると、『リトル・ミス・サンシャイン』のジョナサン・デイトが英語版でリメイクするということです。ダニ・デ・ラ・オルデン映画では、本作の他、Netflix配信『クレイジーなくらい君に夢中』(21)、「El test」(22)などがある。
*ビスカレットの「Bajo las estrellas」の紹介記事は、コチラ⇒2017年11月11日
*セスク・ゲイの「Sentimental」の紹介記事は、コチラ⇒2021年02月01日

(ゴヤ賞2008主演男優賞を受賞)
★息子ダビ役のエンリク・アウケル、1988年ジローナ生れ、俳優、脚本家。2009年ホアキン・オリストレルの『地中海式 人生のレシピ』で長編デビュー、その後TVシリーズ出演で知名度を上げ、パコ・プラサのガリシアの麻薬密売がらみの「Quien a hierro mata」(19)でルイス・トサールと共演、中央のマドリードで注目されるようになった。数々の受賞歴を誇り、例えばゴヤ賞とシネマ・ライターズ・サークル賞2020では新人男優賞、ガウディ賞とフェロス賞では助演男優賞など。タイトルの意味は「剣を使う者は剣に倒れる」という格言の一部、因果応報、目には目をに近い復讐劇。以後、毎年のようにノミネート、受賞が続いている。

(マルタ役のマカレナ・ガルシアと、フレームから)
★マラガ映画祭2021短編部門のアレックス・サルダの「Fuga」で銀のビスナガ主演男優賞受賞、2022年TVシリーズ「Vida perfecta」でフェロス賞助演男優賞、オンダス賞男優賞、2024年パトリシア・フォントの「El maestro que prometió el mar」は、スペイン内戦時代の実話をもとに映画化された。理想主義的な若い教師を演じて、ゴヤ賞以下ガウディ賞、フェロス賞、サンジョルディ賞などにノミネートされた。賞には絡みませんが、ホアキン・マソンのコメディ「La vida padre」(22)では、記憶喪失の父親役カラ・エレハルデとタッグを組んでシェフ役に挑戦している。イサキ・ラクエスタの「Un año, una noche」(22)など話題作に引っ張り凧です。以上の作品はどれも字幕入りでは観られませんが、Netflixシリーズの『鉄の手』(24、8話)では脇役ですが目下配信中です。

(予期せぬ新人男優賞受賞に舞い上がるアウケル、ゴヤ賞2020ガラにて)
★マリア・ロドリゲス・ソトで紹介したように、リリアナ・トーレスの「Mamífera」では、ガウディ賞2025の主演男優賞にノミネートされている。今年も映画賞ガラで忙しいことになりそうです。コメディもドラマも演じ分けられる才能は貴重です。
★助演女優賞にマリア・ロドリゲスとダブルでノミネートされたマルタ役のマカレナ・ガルシア(マドリード1988年)は、パブロ・ベルヘルの『ブランカニエベス』で鮮烈デビュー、ゴヤ賞2013新人女優賞を受賞した。他、ロス・ハビスの『ホーリー・キャンプ!』(17)などでキャリア紹介をしています。
*マカレナ・ガルシアの紹介記事は、コチラ⇒2013年08月18日
*『ホーリー・キャンプ!』の紹介記事は、コチラ⇒2017年10月07日

(マリア・ロドリゲスとマカレナ・ガルシア、フレームから)

(『ブランカニエベス』で新人女優賞に涙の止まらないマカレナ、ゴヤ賞2013ガラ)
最近のコメント