アイタナ・サンチェス=ヒホンのゴヤ栄誉賞授与式*ゴヤ賞2025 ⑪ ― 2025年02月20日 19:29
プレゼンターはマリベル・ベルドゥ、感動的なキャリア紹介

★ゴヤ栄誉賞授与式が比較的早い時間帯にありました。プレゼンターが誰になるかも楽しみの一つ、2023年の受賞者は、授賞式の前日に旅立ってしまった巨匠カルロス・サウラで、『歌姫カルメーラ』で主演したカルメン・マウラが務めました。会場は激動の時代を死の直前まで走り続けたマエストロを偲ぶ感動の渦が巻き起こりました。今回のプレゼンターは、総合司会者でもあるマリベル・ベルドゥでサウラのときと負けず劣らず会場を泣かせました。
★受賞者アイタナ・サンチェス=ヒホンのキャリア紹介の途中、感動で言葉を詰まらせて中断する一幕があったのでした。会場からは「マリベル、頑張れ」の温かい応援の拍手が沸き起こり、カメラは会場の涙にくれるクララ・セグラ、2014年、最年少で受賞したアントニオ・バンデラスの姿などを追いました。師匠ともいえるアルモドバルより先に受賞することに拘って固辞した末の受賞が頭をよぎったのか、やはり目は潤んでいました。アイタナは「マリベル、このゴヤをあなたの手から受け取ることが私の夢だったのを知らなかったの?」と。二人は2歳違い、まだゴヤ賞など存在しなかった少女時代から女優を天職と考え、大女優になることを夢見る仲良しだったそうです。

(ハグしあう、アイタナとマリベル)
★プレゼンターは、「光り輝く類いまれな才能の持ち主、素晴らしい信頼のできる共犯者、これは皆が納得のゴヤです。私たちが自分の姿を映す鏡、何故ならあなたは私たちの国や文化が向上するよう努力したからです。40年間ものあいだ闘ったなんて、それは奇跡です」と、受賞者の卓越性に敬意を払った。

(エモーショナルなキャリア紹介をしたマリベル・ベルドゥ)
★受賞者のキャリア&フィルモグラフィーは、既にアップしておりますが、映画とTV出演を中心にした紹介記事で、舞台女優としてのキャリアは割愛しています。スペイン語版ウィキペディアに載っていない事柄なども含めて、今回受賞スピーチから明らかになった事柄をかいつまんで補足します。自分の師として、演劇の師アリシア・エルミダ(マドリード1932~2022)、受賞者にサンセバスチャン映画祭1999銀貝女優賞をもたらした『裸のマハ』の監督ビガス・ルナ(バルセロナ1946~2013)、2023年師走旅立ってしまった女性監督のパイオニアの一人であるパトリシア・フェレイラ(マドリード1958~2023)の3人にオマージュを捧げました。
★アリシア・エルミダ*については、12歳での初舞台がここフェデリコ・ガルシア・ロルカの生れ故郷グラナダの劇団《バラッカ》だったことに触れた。ロルカが1930年初めに設立した劇団です。「彼女と一緒にロルカの生地フエンテバケーロスでロルカの作品を上演したのです。だから私の人生は文字通りここグラナダから始まったわけです」と語った。この瞬間から彼女の学校は仕事場となり、職業として生活できるわずかな数の俳優の一部分になることができた。「だからこのゴヤを逆風に向かって進む仲間たちと分かち合いたい、皆さんとともに!」と。演技の師は舞台にあり、若い人たちに舞台で演技を学んで欲しいとも語った。
★さらに自分にとって学びは尽きない泉のようなものだと語り、今宵この場にいない人々のなかで、どうしても感謝したい師としてビガス・ルナに言及した。また40人以上の監督と仕事をする幸運に恵まれたこと、4人の女性監督に起用されたこと、その一人として脚本家でもあったパトリシア・フェレイラに触れた。まだ女性が足を踏み入れることができなかった時代からのパイオニアの一人でしたが、現在では多くの監督、製作者、脚本家、撮影監督、撮影技師、音響家が活躍している。それは彼女のような先輩たちの努力の成果だと語った。アイタナはフェレイラの『ティ・マイ~希望のベトナム』にカルメン・マチやアドリアナ・オソレスと出演している。(Netflix で配信しています)


★当然の流れとしてマリサ・パレデスを追悼しました。「彼女はゴヤ賞のガラではっきり述べていました。〈文化を怖れる必要はない。怖れるべきは無知であり、無関心であり、偽物や狂信的行為、暴力です。重要なのは戦争を怖れることです〉」と。「マリサにも納得して貰えると思いますが、怖れるべきことに新たな帝国主義、民族浄化の台頭を付け足したい」と述べた。
★最後に家族、生きる喜びである二人の子供レオとブルナ、ずっと以前に亡くなった父アンヘル、
会場で娘の晴れ姿を見守っていた母フィオレラに感謝を述べた。特に彼女の共犯者で仕事の原動力だった母親に「ママ、あなたの支えや信頼なしには、何事も成し遂げられなかった」と語りかけた。「愛を込めて皆さま有難うございました。映画館でお目にかかりましょう」と締めくくった。(父親は2007年に鬼籍入りしている)
★主な受賞歴:2022年にスペイン映画アカデミー名誉会員、アルハンブラ友好財団の名誉会員。1993年シネマ・ライターズ・サークル賞(「Havanera 1820」)、1995年フォトグラマス・デ・プラタ女優賞(TVシリーズ「Regenta」)、1996年フォトグラマス・デ・プラタ女優賞(演劇『熱いトタン屋根の猫』)、1999年サンセバスチャン映画祭銀貝女優賞(『裸のマハ』)、2004年バルセロナ女優賞、2015年「金のメダル」、同年Max賞主演女優賞(演劇「Medea」)、2022年フェロス賞助演女優賞(『パラレル・マザーズ』)、2024年12月に文化省が付与する芸術功労金のメダル、2025年ゴヤ栄誉賞。
*受賞者の主なキャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2024年12月17日
*スペイン映画アカデミー「金のメダル」受賞記事は、コチラ⇒2015年08月01日/11月20日
*アリシア・エルミダは、舞台女優、映画、TV女優。1950年代半ばに舞台女優としてスタートを切り、シェイクスピア、ロペ・デ・ベガ、あるいは米国のソーントン・ワイルダー、チェーホフの『桜の園』、フェデリコ・ガルシア・ロルカの『ベルナルダ・アルバの家』などに出演した。1981年、ロルカの《バラッカ》劇団の巡業に参加する。その後《アリシア・エルミダ学校》と呼ばれたクラスで後輩に発声法や演技の指導にあたった。古典詩の造詣が深く、ロルカの『ドン・クリストバルの祭壇装飾絵図』、『老嬢ドーニャ・ロシータ』ほか、バリェ=インクランの『聖なる言葉』(Max賞1999受賞)、ミゲル・デ・ウナムノの「El otro」、後にアイタナも演じたテネシー・ウィリアムズの『熱いトタン屋根の猫』などに出演した。2014年スペイン映画アカデミー「金のメダル」受賞。政治的発言も多く、もの言う女優として女性の地位向上に貢献した一人でした。
ラブストーリーが語られた『海を飛ぶ夢』公開20周年を祝う
★第19回ゴヤ賞2005のガラはアレハンドロ・アメナバルの『海を飛ぶ夢』のための授賞式でした。1作品がノミネートできる最大カテゴリー数は18個、うちオリジナル歌曲・編集・衣装デザイン賞を除いた15カテゴリーにノミネートされ、受賞できなかったのは録音賞だけでした。少しばかり白けたのを思い出しました。今回登壇したのは、作品・監督・オリジナル脚本・オリジナル作曲賞のアメナバル、主演男優賞のハビエル・バルデム、主演女優賞のロラ・ドゥエニャス、新人女優賞のベレン・ルエダ、新人男優賞のタマル・ノバスの5名、今回「El 47」で助演女優賞を受賞したクララ・セグラも共演者でしたが登壇しなかった。

(登壇した『海を飛ぶ夢』の監督、主要キャスト)
★この『海を飛ぶ夢』クルーが今回の作品賞のプレゼンターを務めた。昨年はペドロ・アルモドバルの『オール・アバウト・マイ・マザー』の公開25周年で、監督以下まだ元気だったマリサ・パレデス、主演のセシリア・ロス、ペネロペ・クルス、アントニア・サンフアンの豪華版でした。最近のゴヤ賞ガラはプレゼンターも視聴率アップに一役買っているようです。


(左端が受賞者ダニ・デ・ラ・オルデン、読み上げたのはベレン・ルエダでした)
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