ペルラス部門のクロージング作品「Marco」*サンセバスチャン映画祭2024 ⑰ ― 2024年09月03日 16:22
バスクの監督コンビの新作「Marco」の主言語はスペイン語
★ペルラス部門のクロージングは、アウト・オブ・コンペティション(コンペティション作品ですが賞の対象外)のジョン・ガラーニョとアイトル・アレギの「Marco」、3000人収容できるベロドロモで上映されます。サンセバスチャン映画祭初となるバスク語映画『フラワーズ』(14)、同『アルツォの巨人』(17、審査員特別賞、イリサル賞)、スペイン語映画「La trinchera infinita」(19、銀貝監督賞、脚本賞)、以上3作に参画していたホセ・マリ・ゴエナガは、新作には脚本の共同執筆者の一人としてクレジットされているだけです。新作はエドゥアルド・フェルナンデス扮するエンリク・マルコという実在した人物が主人公、彼はナチスの強制収容所フロッセンビュルク*の生存者と偽って、スペインのホロコースト犠牲者協会の事務総長を長らく務めていたというカリスマ的な詐欺師の物語です。
*フロッセンビュルク強制収容所は、ドイツとチェコスロバキアの国境に近い遠隔地にり、1938年5月に開設された。当初の目的は、他の収容所とは異なって、ナチスの建築用の花崗岩を採掘する労働力確保のためであり、初期にはダッハウから囚人が移送された。主にナチスSSにとって好ましくない個人や「反社会的」な囚人を収容したが、ドイツのソ連侵攻後、国外の政治犯が増加した。ポーランド、ソ連の捕虜、チェコスロバキア、ベルギー、オランダ、スペインが主で、初期にはユダヤ人は多くなかった。1945年4月アメリカ陸軍によって解放されるまで、延べ89,974人だが実際はもっと多かったといわれている。うち約3万人が過労、栄養失調、処刑、死の行軍で死亡した。(Wikipedia, the free encyclopedia から作品に必要と判断した箇所の抜粋)
「Marco」
製作:Irusoin / Moriarti Produkzioak / Atresmedia Cine / La Verdad Inventada
協賛ICAA / バスクTV / バスク州政府 / Movistar Plus+ / BTeam Pictures
監督:アイトル・アレギ、ジョン・ガラーニョ
脚本:アイトル・アレギ、ジョン・ガラーニョ、ホルヘ・ヒル・ムナリス、ホセ・マリ・ゴエナガ
撮影:ハビエル・アギレ・エラウソ
編集:マイアレン・サラスア・オリデン
音楽:アランサス・カジェハ
音響:アラスネ・アメストイ、アンドレア・サエンス・ペレイロ、シャンティ・サルバドール
視覚効果:ダビ・エラス
キャスティング:マリア・ロドリゴ
美術:ミケル・セラーノ
衣装デザイン:サイオア・ララ
メイクアップ:ナチョ・ディアス
製作者:(Irusoin)シャビエル・ベルソサ、アンデル・バリナガ・レメンテリア、アンデル・サガルドイ、(Atresmedia)ハイメ・オルティス
データ:製作国スペイン、2024年、スペイン語・カタルーニャ語・英語、スリラー・ドラマ、伝記映画、101分、撮影地バスク州サラウツ、カタルーニャ、マドリード、ドイツ、海外販売はフィルム・ファクトリー、公開スペイン11月8日
映画祭・受賞歴:第81回ベネチア映画祭2024オリゾンティ部門、ワールドプレミア8月30日、SSIFFアウト・オブ・コンペティション出品作品
キャスト:エドゥアルド・フェルナンデス(エンリク・マルコ)、ナタリエ・ポサ(妻ラウラ)、チャニ・マルティン(歴史研究家ベニト・ベルメホ)、ソニア・アルマルチャ、フェルミ・レイシャック(Reixachレイザック)、ダニエラ・ブラウン(メルセデス)、ビセンテ・ベルガラ、ジョルディ・リコ
ストーリー:ナチ強制収容所フロッセンビュルクからの強制送還者が架空の人物であったことが判明した実話が語られる。エンリク・マルコは長年にわたってスペインのホロコースト犠牲者協会の事務総長を務めていた。捏造は非常に複雑で巧妙だったため、協会内はいうに及ばず、世間も家族も気づかなかった。しかし或る歴史家によって真実が判明する日が訪れる。自分は強制収容所の囚人だったと虚偽を主張した非常にカリスマ的なカメレオン男の人生が、エドゥアルド・フェルナンデスの素晴らしい演技で観客を魅了するだろう。
エンリク・マルコとは誰であるか――真実と嘘、欺瞞と現実
★エンリク・マルコは、1921年バルセロナ生れ、第二次世界大戦中、ナチスドイツの強制収容所マウトハウゼンとフロッセンビュルクに捕虜として収容されていたという虚偽を主張した詐欺師。2001年カタルーニャ州政府からサンジョルディ勲章を授与され、回顧録を上梓したが、2005年、歴史研究家ベニト・ベルメホによって虚偽が判明し、自身も嘘を認め、勲章を返還した。金属労働者のマルコは、1978年から翌年にかけて、スペインのアナーキスト連合CNT全国労働者連合の書記長を務めている。2022年5月没、享年101歳でした。『サラミナの兵士たち』の著者ハビエル・セルカスが、この完璧な変装を演じ続けた人物を “El Impostor”「詐欺師」という題で2014年に刊行している。
(サンジョルディ勲章を授与されるエンリク・マルコ2001年)
★捏造の理由にマルコは「強制収容所に収容された人々の苦しみを宣伝できると考えた」もので「捏造に悪意はなかった」と主張した。しかしホロコースト生存者は「ナチス収容所の存在を否定する人々がこれを利用して、ホロコーストの証言には価値がないと主張する危険をはらんでいる」と憤慨している。
★キャスト紹介:エドゥアルド・フェルナンデス(バルセロナ1964)は、アルベルト・ロドリゲスの『スモーク・アンド・ミラーズ 1000の顔を持つスパイ』(SSIFF2016銀貝男優賞)で実在したスパイを演じ、アレハンドロ・アメナバルの『戦争のさなかで』(19)では、隻眼片腕のホセ・ミリャン・アストライ将軍を演じてゴヤ賞2020助演男優賞を受賞、最近ではオリオル・パウロの『神が描くは曲線で』(22)に主演している。アルモドバルの『誰もがそれを知っている』(18)のようにゴヤ賞ノミネートの常連だが、デビュー当時からその演技力が認められて「Fausto 5.0」で2002主演男優賞、「En la ciudad」で2004助演男優賞を受賞している。TVシリーズのヒット作「30 Monedas」に続いて、『鉄の手』がNetflixで配信中。
*『スモーク・アンド・ミラーズ』の紹介記事は、コチラ⇒2016年09月24日/同年09月26日
*『戦争のさなかで』の紹介記事は、コチラ⇒2019年09月27日/同年11月26日
(マルコを演じたエドゥアルド・フェルナンデス)
★マルコの妻ラウラを演じているのがナタリエ・ポサ(マドリード1972)、リノ・エスカレラのデビュー作『さよならが言えなくて』でゴヤ賞2018主演女優賞とフォルケ賞、イベロアメリカ・プラチナ賞、フェロス賞、マラガ映画祭女優賞、イシアル・ボリャインの「La boda de Rosa」でゴヤ賞2021助演女優賞他を受賞、この2作で受賞の山を築いている。フェルナンデスと『戦争のさなかで』で共演、他アルモドバルの『ジュリエッタ』、セスク・ゲイの『しあわせな人生の選択』など、シリアスもコメディも演じ分ける、その確かな演技力で多くの監督に起用されている。
*『さよならが言えなくて』の紹介記事は、コチラ⇒2017年06月25日
*「La boda de Rosa」の紹介記事は、コチラ⇒2020年03月20日
(妻ラウラを演じたナタリエ・ポサ)
★マルコの嘘の人生を調べ上げた歴史研究家ベニト・ベルメホに扮したチャニ・マルティン(トレラグナ1973)は、映画&舞台俳優、歌手、作曲家。テレビ出演が多いが、『パンズ・ラビリンス』、『悪人に平穏なし』、『Seventeen/セブンティーン』など、字幕入りで観られる作品に出演している。フェルミ・レイザック(ジローナ1946)は、出番はほんの少しだったが、カルラ・シモンの『悲しみに、こんにちは』で少女の祖父を演じた俳優。つい先だって訃報に接した。結果的に本作が最後の出演となった。リー・ストラスバーグの演劇研究所「アクターズ・スタジオ」で演技を学んだ舞台俳優でした。
★監督紹介:アイトル・アレギ(オニャティ1977)、ジョン・ガラーニョ(サンセバスティアン1974)のキャリア&フィルモグラフィーは、以下に紹介しています。
*『フラワーズ』の作品、キャリア紹介は、コチラ⇒2014年11月09日
*『アルツォの巨人』の作品、キャリア紹介は、コチラ⇒2017年09月06日
*「La trinchera infinita」の作品紹介は、コチラ⇒2019年12月20日
(新作プロモーションをするガラーニョ&アレギ監督、ベネチアFF2024ノミネート会場)
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