ウォルター・サレスの「Ainda Estou Aqui」*サンセバスチャン映画祭2024 ⑱ ― 2024年09月06日 18:14
1970年代初頭、軍事独裁政権の弾圧に直面していたブラジルが描かれる
★ペルラス部門に『セントラル・ステーション』、『モーターサイクル・ダイヤリーズ』のウォルター・サレスが、12年ぶりの長編映画、マルセロ・ルーベンス・パイヴァの同名の回顧録に基づいた「Ainda Estou Aqui / I’m Still Here」で戻ってきました。1970年代の初頭、軍事独裁政権が日増しに厳しさを増すリオデジャネイロで暮らしていたパイヴァ一家の闘いが尊厳をもって語られる。既にベネチア映画祭コンペティション部門でのプレミア上映があり、10分間のオベーションということで、まずまずのスタートを切った。
(監督、原作者、主演者フェルナンダ・トーレスとセルトン・メロ、ベネチアFF2024)
「Ainda Estou Aqui / I’m Still Here」
製作:VideoFilmes / RT Features / MACT Productions
共同製作 Arte France Cinéma / Conspiraçao Filmes / Globoplay
監督:ウォルター・サレス
脚本:ムリーロ・ハウザー、エイトル・ロレガ、マルセロ・ルーベンス・パイヴァ
原作:マルセロ・ルーベンス・パイヴァ著 ”Ainda Estou Aqui”(2015年刊)
撮影:アドリアン・テイジド
編集:アフォンソ・ゴンザウベス
美術:カルロス・コンティ
音楽:ウォーレン・エリス
衣装デザイン:クラウジア・コブケ
製作者:マリア・カルロタ・ブルノ、ロドリゴ・テイシェイラ、マルティーヌ・ド・クレルモン・トネール、(エグゼクティブ)ギリェルメ・テラ、ティエリー・ド・クレルモン・トネール、ダビド・タギオフ、マーシャ・マゴノヴァ
データ:製作国ブラジル=フランス=スペイン、2024年、ポルトガル語、ドラマ、136分、撮影地リオデジャネイロ、公開ブラジル2024
映画祭・受賞歴:ベネチア映画祭2024コンペティション部門、トロント映画祭コンペティション部門、サンセバスチャン映画祭ペルラス部門、ニューヨーク映画祭、BFIロンドン映画祭、各正式出品
キャスト:フェルナンダ・トーレス(ユーニス・パイヴァ)、セルトン・メロ(夫ルーベンス・パイヴァ)、フェルナンダ・モンテネグロ(現在のユーニス・パイヴァ)、アントニオ・サボイア(長男マルセロ・ルーベンス・パイヴァ)、ヴァレンティナ・ハーサージュ(長女ヴェラ)、ルイザ・コゾフスキー、バルバラ・ルス、オリヴィア・トーレス、マリア・マノエラ、他多数
ストーリー:1970年代の初頭のリオデジャネイロ、軍事独裁政権下のブラジルは、日増しに厳しい統制に直面していた。パイヴァ家のルーベンスとユーニス夫婦と5人の子供たちは、ビーチ近くの貸家に住んでいる。友人たちが自由に出入りできるようドアには鍵をかけていなかった。1971年のある日の午後、軍事独裁政権を痛烈に批判していた、元下院議員ルーベンス・パイヴァは、政府高官に連行され永遠に家族のもとから姿を消してしまった。永遠に変わってしまった家族の人生をユーニスと子供たちの目を通して、夫についての父親についての真実への飽くなき探求が何十年も続くことになる。マルセロ・ルーベンス・パイヴァの回顧録を原作とする、或る家族の胸を打つ政治ドラマ。愛とユーモアを交えて、この国を混乱に陥れた弾圧に抵抗する家族を鋭い独特の方法で、ブラジルの歴史から隠されてきた重要な部分を再構築している。
★本作は国家公認の壊滅的な犯罪の物語であると同時に、友人、政治、音楽、映画、芸術に囲まれた、世界に開かれた素敵な家族が、次第に沈黙し、恐怖につつまれ、仲間が去り、門戸に鍵が掛けられていく物語でもある。原作者のマルセロ・ルーベンス・パイヴァは、1959年サンパウロ生れ、作家、脚本家、戯曲家、20歳のとき水泳中の事故で上記の写真のように電動車椅子生活になっている。原作 ”Ainda Estou Aqui”は2015年に刊行されベストセラーになった。サレス監督はパイヴァ家とは1960年代からの知り合いで、思春期に多くの時間をこの海辺の家で過ごしたそうです。
★監督紹介:ウォルター・モレイラ・サレス・ジュニアは、1956年、リオデジャネイロ生れ、監督、製作者、脚本家、他にヴァルテル、ヴァウテルとも表記される。ブラジルのウニバンコの創設者で政治家の息子、父ウォルター・モレイラ・サレスと同名ということでジュニアを付記することもある。2023年発表の「フォーブス」の長者番付で『スターウォーズ』の生みの親ジョージ・ルーカスを抜いて世界で最も裕福な映画監督といわれている。
(監督、二人の主演者、ベネチアFF2024のレッドカーペットにて)
★SSIFF関連では、「Terra Estrangeira」(95、サバルテギ―ニューディレクター部門)、『セントラル・ステーション』(98、観客賞、ユース賞)、監督初となるスペイン語映画『モーターサイクル・ダイヤリーズ』(04、観客賞)、オムニバス映画『パリ、ジュテーム』(06、ペルラス部門)、ドキュメンタリー『ジャ・ジャンクー、フェンヤンの子』(15、サバルテギ-タバカレア部門)が上映されている。他にデビュー作サイコスリラー『殺しのアーティスト』(91)、『ビハインド・ザ・サン』(01)、『ダーク・ウォーター』(05)、『オン・ザ・ロード』(12)などが劇場公開されている。製作者としてはフェルナンド・メイレレスの『シティ・オブ・ゴッド』(02)、カリン・アイヌーズの『スエリーの青空』(06)などを手掛けている。
(ベネチア映画祭2024のフォトコール)
★キャスト紹介:1970年代のユーニス・パイヴァを演じたフェルナンダ・トーレス(リオデジャネイロ1965)は、作家でもある。サレスの「Terra Estrangeira」に出演、アルナルド・ジャボールの「Love Me Forever or Never」(英題)でカンヌ映画祭1986の主演女優賞を受賞している。現在のユーニスを演じたフェルナンダ・モンテネグロ(リオデジャネイロ1929)とは実の母娘、本当によく似ていますが、恐らく本作が最後の共演となるでしょう。モンテネグロは今さら書くまでもなく『セントラル・ステーション』の手紙の代書屋を演じて、ベルリン映画祭主演女優賞を受賞、ブラジル初となるアカデミー賞主演女優賞にもノミネートされた。他に本作とテーマと時代背景が近いブルーノ・バレットの『クアトロ・ディアス』(97)に娘トーレスと共演している。『コレラの時代の愛』(07)、ラテンビート2019で上映されたカリン・アイヌーズの『見えざる人生』など、脇役ながら存在感がある。間もなく95歳になります。
*『見えざる人生』でのモンテネグロのキャリア紹介は、コチラ⇒2019年11月03日
(フェルナンダ・トーレス、フレームから)
(フェルナンダ・モンテネグロ、フレームから)
(トーレス、モンテネグロ、二人のフェルナンダ)
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