フランシスコ・ロンバルディの最新作*マラガ映画祭2026 ⑩ ― 2026年05月07日 15:54

       レトロスペクティブ賞を受賞したフランシスコ・ロンバルディの最新作

   

       

 

★フランシスコ・J・ロンバルディの最新作「El corazón del lobo」は、賞に絡むことはできませんでしたが、久方ぶりのロンバルディ映画、今回のマラガ特別賞の一つレトロスペクティブ賞受賞者の最新作ということでアップいたします。ペルーの1990年代、テロ組織センデロ・ルミノソに拉致され戦士に教育された少年の10年以上にわたる旅路が、実話に基づいて語られます。同じセンデロ・ルミノソをテーマにした「La boca del lobo」(88、『ライオンの棲みか』)はノミネートされませんでしたが、第61回アカデミー賞ペルー代表作品に選ばれています。ノーベル賞作家マリオ・バルガス=リョサの小説『都会と犬達』の映画化から40年が経ちましたが、監督の映画への情熱は衰えていないようです。簡単なキャリア&フィルモグラフィー紹介、レトロスペクティブ賞授賞式については、以下にアップしています。

*レトロスペクティブ賞授賞式の記事は、コチラ⇒2026年03月19日

 

       

      (レトロスペクティブ賞のトロフィを手に、マラガFF2026,3月12日)

 

 「El corazón del lobo / Heart of the Wolf」

製作:La Soga Producciones / Tinta Roja Producciones

監督:フランシスコ・J・ロンバルディ

脚本;フランシスコ・J・ロンバルディ、アウグスト・カバダ

   原作カルロス・エンリケ・フレイレのノンフィクション “El miedo del lobo”

撮影:テオ・デルガド

音楽:カリン・ジエリンスキ

編集:エリック・ウィリアムズ

美術:テレサ・ウルタド・エスコバル、

プロダクションマネージメント:アナ・トレス・ヒガンテ

衣装デザイン:ジョシー・セラダ・アコスタ

録音:ダビ・ロメロ、ラウル・アステテ

製作者:グスタボ・サンチェス、(アシスタント)ミゲル・テヘリナ・アルバ、パウル・マテオス・ベルデホ

 

データ:製作国ペルー、2025年、スペイン語・アラワク語族のアシャニンカAshaninca語、ドラマ、99分、撮影地:ペルー北部サンマルティン県タラポト、カハマルカ県パリアマルカ、カンタ県、2024年10月から11月。公開ペルー10月2日

映画祭・受賞歴:第29回リマ映画祭2025(8月9日)、第40回マル・デル・プラタ映画祭2025ラテンアメリカ映画部門ノミネート(11月)、マラガ映画祭2026セクション・オフィシアル(3月12日)

 

キャスト:ビクトル・アクリオ・シチャ(アキレス)、ハレド・ビセンテ・サンチェス(少年時代のアキレス)、シルバナ・ディアス・ゴイコチェア(同志ルシア)、パウル・ラミレス・ベルガラ(ロヘリオ)、マルティン・マルティネス・ゴンサレス(ロケ)、ホセ・フェルナンデス・ギサド(フアン・ガルシア神父)、アルベリック・ガルシア・セルナ(アルバレス)、マルティン・ベラスケス・アトーチェ(同志ホセ)、アニバル・ロサノ・エレーラ(同志ウィリアム)、他

 

ストーリー:ペルー、1990年。テロ組織センデロ・ルミノソに拉致されたアマゾンの先住民の少年アキレスのアイデンティティと自由への闘いの物語。私たちは彼の証言を通じて、犠牲者から戦士へと教育された、10年以上にわたる逃亡の旅路を目撃することになる。洗脳、暴力、生存を生々しくも親密な視点で描いた本作は、実話に着想を得て製作されました。

 

      

    

    (アキレスとルシア役のシルバナ・ディアス・ゴイコチェア、フレームから)

 

 

      ペルー内戦の激化を活写――新作の撮影には陸軍の装備を採用した

 

★日本人が「一度は行ってみたい観光地」ナンバーワンのマチュ・ピチュは知っているが、センデロ・ルミノソについてはどうでしょうか。一言で説明するの難しいが、簡単におさらいしてみます。〈輝ける道*〉センデロ・ルミノソは、1970年、毛沢東思想を標榜する最高指導者アビマエル・グスマンによって結成されたペルーの極左ゲリラ組織の通称で、正式名称は「ペルー共産党」です。1980年ごろから武装闘争を開始して政府軍と対立してきました。コカインを収入源として組織を拡大、1980年代半ばからは農村部、山間部は荒廃し、国内難民が都市部になだれ込んだと言われます。舞台となる1990年はフジモリ政権時代で、国際協力事業団 JICAの技術者3名が殺害されるなどして日本でも大きく報道されました。1992年アビマエル・グスマンを含む最高幹部が次々に逮捕され弱体化、2018年内部分裂を起こして活動停止になり、現在に至っています。因みにグスマンは獄中で2021年9月に死去。

**ペルーの20世紀を代表する政治思想家ホセ・カルロス・マリアテギ(1894~1930)の理論書『マリアテギの輝ける道』から命名された。先住民の擁護と文化的社会的復権を求めたラテンアメリカ最初の「マルクス主義者」と言われた。

 

★監督が着想を得て映画化したというノンフィクション・ノベル “El miedo del lobo / The Fear of the Wolf”(アルファグアラ社、2022)の著者は、カルロス・エンリケ・フレイレ、作家は1974年リマ生れの陸軍中佐ということです。映画では主人公アキレスの証言を通して、12年間に及ぶ彼の生存と抵抗の物語が語られます。洗脳された振りをして脱出のチャンスを狙っていたということです。予告編でもそのシーンが視聴できます。

 

      

     (カルロス・エンリケ・フレイレと2023年発売のペーパーバックの表紙)

 

★監督紹介:フランシスコ・J・ロンバルディFrancisco José Lombardiは、1949年、ペルー南部、チリとの国境近くに位置するタクナ県の県都タクナ生れ、監督、脚本家、製作者。アルゼンチンのサンタフェ映画学校で学ぶ。ペルーにとどまらずラテンアメリカで高く評価されている監督の一人、長編20作はカンヌ、ベルリン、サンセバスチャン、トロント各映画祭で上映され、中で4作が字幕入りで鑑賞できました。

 

   

 

★代表作は、ロカルノ映画祭1977エキュメニカル審査員賞スペシャル・メンション受賞のデビュー作「Muerte al amanecer」、ノーベル文学賞を受賞したマリオ・バルガス=リョサの自伝的小説 ”La ciudad y los perros” を映画化した『都会と犬達』(翻訳書は『都会と犬ども』)は、カンヌFF併催の「監督週間」にノミネートされ、マンハイム‐ハイデルベルクFF1985、サンセバスチャン映画祭SSIFFでは優れたLGBT映画・ドキュメンタリーに与えられるセバスティアン賞を受賞した。同作家の “Pantaleón y las visitadoras”の邦題は、苦し紛れに『囚われの女たち』(翻訳書は『パンタレオン大尉と女たち』)となったが、〈visitadoras〉訪問者たちが、ただの〈女たち〉ではないのでした。第72回アカデミー賞ペルー代表作品に選ばれたコメディ、「Sin compasión」はドストエフスキーの『罪と罰』をベースに映画化、2作ともゴヤ賞のスペイン語外国映画賞にノミネートされ、スペインでも知名度を上げた。80年代後半から90年代にかけてペルー映画と言えばロンバルディ映画の印象でした。

 

    

  (『都会と犬達』撮影中のマリオ・バルガス=リョサとロンバルディ監督)

  

★個人情報として、女優のタティアナ・アステンゴと結婚、ロンバルディの「Pantaleón y las visitadoras」、「Tinta roja」、「Ojos que no ven」、当ブログで作品紹介している、サルバドール・デル・ソラルの政治スリラー「Magallanes」(15)、ハビエル・フエンテス=レオンのブラック・コメディ「Las mejores familias」(20)に主演している。現在は解消しているようで、監督は約10年前からジャーナリストのカルラ・メンドサとパートナー関係です。俳優のディエゴ・ロンバルディは長男、「Dos besos: Troika」に出演、監督、脚本家、製作者のジョバンナ・ロンバルディは長女、「Ella」の脚本を共同執筆している。2023年にオスカー賞のアカデミー会員に選ばれました。

 

    

        (アカデミー会員に選ばれたフランシスコ・ロンバルディ)

 

★主なフィルモグラフィ(長編映画)

1977「Muerte al amanecer」デビュー作、ロカルノFFエキュメニカル審査員特別賞受賞

1978「Cuentos inmorales」4人の監督によるオムニバス映画

1981「Muerte de un magnate」犯罪スリラー

1983「Maruja en el infierno」ボゴタFF監督賞受賞、第56回アカデミー賞ペルー代表作品

1985「La ciudad y los perros」『都会と犬達』未公開TV放映、

   カンヌFF併催「監督週間」ノミネート、SSIFFセバスティアン賞受賞、

   マンハイム-ハイデルブルクFFインターフィルム特別賞受賞

1988「La boca del lobo / In the Mouth of the Wolf」『ライオンの棲みか』

   未公開TV放映、SSIFFセバスティアン賞受賞、アカデミー賞ペルー代表作品

 

1990「Caídos del cielo」『豚と天国』スイス合作のブラックコメディ、

   モントリオールFFグランプリ・デ・アメリカ受賞、

   シカゴFFゴールド・ヒューゴ賞ノミネート

1994「Sin compasión」メキシコ=フランス合作、カンヌFF「ある視点」ノミネート、

   ゴヤ賞1995スペイン語外国映画賞、グラマドFF1995ゴールデン・キキト賞ノミネート

1996「Bajo la piel」西独合作の犯罪ドラマ、SSIFF銀貝監督賞受賞、

   ハバナFF脚本賞・作品賞第2席受賞、グラマドFF1997ラテン部門キキト批評家賞受賞

1999「Pantaleón y las visitadoras」『囚われの女たち』スペイン合作のコメディ、

   未公開DVD、カルタヘナFF2000作品賞ノミネート、ビーニャ・デル・マルFF観客賞受賞、

   ゴヤ賞2001スペイン語外国映画賞ノミネート、

   グラマドFF2000作品賞・監督賞・キキト批評家賞・観客賞受賞

 

2000「Tinta roja」西合作、カルタヘナFF2001 OCIC賞受賞、ハバナFF監督賞・望楼賞受賞

   SSIFF正式出品、リマ・ラテンアメリカFFエルシネ2席受賞

2003「Ojos que no ven」ビアリッツFFラテンアメリカ・シネマ部門ゴールデン・サン受賞、

   SSIFF正式出品、バルディビアFF作品賞受賞

2006「Mariposa negra」西合作、モントリオールFFグラウベル・ローシャ(ホーシャ)賞受賞、

   マラガFF2007正式出品、ゴヤ賞2008スペイン語外国映画賞ノミネート

2009「Ella」メキシコ合作、ジョバンナ・ロンバルディが脚本を共同執筆

2015「Dos besos: Troika」ロマンチックドラマ

2025「El corazón del lobo」割愛

   

2001年マイアミ映画祭ゴールデンリール賞受賞

2014年文化国民賞受賞

2019年ウエルバ・ラテンアメリカ映画祭ウエルバ市賞受賞

2026年マラガ映画祭レトロスペクティブ賞受賞

 

★キャスト紹介:主人公アキレスには少年時代をハレド・ビセンテ・サンチェス、青年時代をケチュア出身のビクトル・アクリオ・シチャが演じています。ビクトル・アクリオはセサル・ガリンドのケチュア語映画『今日からぼくが村の映画館』(22)で主人公の少年シストゥを演じています。撮影当初12歳ということでしたが、本作ではすっかり大人になってしまいました。偶然ですが今春ロードショーが始まって全国展開中です。

 

  

          (少年アキレスのハレド・ビセンテ・サンチェス)

 

   

           (青年アキレスのビクトル・アクリオ・シチャ)

 

★スタッフ紹介:脚本を共同執筆したアウグスト・カバダ(1961)は、作家、脚本家。ロンバルディ映画には本作以外、『ライオンの棲みか』に始まって、『豚と天国』、「Huellas del paraiso」(91)、「Sin compasión」、「Bajo la piel」、「Dos besos: Troika」などを単独、または共同で執筆していますから長い付き合いです。現在上映中のセサル・ガリンドの『今日からぼくが村の映画館』も手掛けています。人気TVシリーズのヘッドライターを務めるベテランです。本作は監督から「これ読んどいて」と、カルロス・エンリケ・フレイレの “El miedo del lobo” を渡されて始まったとインタビューで語っています。

 

『愛しのセニョリータ』ネットフリックス鑑賞記*マラガ映画祭2026 ⑪ ― 2026年05月22日 18:34

           オリジナル版はハイメ・デ・アルミニャンの『お嬢さま』

 


     

★フェルナンド・ゴンサレス・モリーナの「Mi querida señorita」が、『愛しのセニョリータ』の邦題でNetflixストリーミング配信が始まっています。マラガ映画祭2026セクション・オフィシアルでワールドプレミアされた作品です。フランコ体制の末期1971年に完成、翌年2月公開されたハイメ・デ・アルミニャンの長編3作目のリメイク版です。リメイク版といっても、ジャンル、時代、場所、登場人物、セニョリータの年齢なども変えておりますが、「愛の物語」というオリジナル版の本質は失っておりません。どちらかというと翻案のほうがぴったりきます。製作者のロス・ハビスもオリジナルに敬意をはらった「リメイクではなく翻案です」と語っています。出版以来17言語に翻訳されたというベストセラー “La mala costumbre” (2023刊)の著者アラナ・S・ポルテロが脚本を手掛けるなど話題も尽きません(翻訳書は現在のところ出版されておりません)。

  

     

   (ハビエル・アンブロッシとハビエル・カルボに囲まれて、マラガFF、3月8日)

 

★マラガに参加したクルー、後列左から、アンヘラ役のロラ・ロドリゲス、ハビエル・アンブロッシ、ガト―役のマヌ・リオス、イサベル役のアンナ・カスティーリョ、母親役のナゴレ・アランブル、ハビエル・カルボ、シンガーソングライターのサハラ Zahara、アレックス・デ・ルカス、前列エリザベス・マルティネスと監督でした。主要人物のうち、長寿テレドラ出演でスペインで最も有名な祖母役者となった女優マリア・ガリアナ、モニカ・ナランホのファンだという神父役のパコ・レオン、サンティアゴ役のエネコ・サガルドイなどは欠席でした。

   


    

 「Mi querida señorita / My Dearest Señorita」

製作:Suma Content

監督:フェルナンド・ゴンサレス・モリーナ

脚本:アラナ・S・ポルテロ

   オリジナル版:ハイメ・デ・アルミニャン、ホセ・ルイス・ボラウ

音楽:アレックス・デ・ルカス、Zahara

撮影:カルロス・リゴ

編集:ベロニカ・カリョン

キャスティング:エバ・レイラ、ヨランダ・セラノ

メイクアップ&ヘアー:エバ・R・フォンテンラ、アマイア・ミロ―、セルモ・デル・カンポ・ペスケラ

製作者:ハビエル・アンブロッシ、ハビエル・カルボ、アンドレア・エレーラ・カタラ

プロダクション(Netflix):ジェスイカ・メナ

 

データ:製作国スペイン、2026年、スペイン語、ドラマ、112分、撮影地ナバラ州パンプローナ、配給Netflix、公開スペイン2026年4月17日、Netflix ストリーミング配信開始5月1日

映画祭・受賞歴:第29回マラガ映画祭2026セクション・オフィシアル、3月8日プレミア

 

キャスト:エリザベス・マルティネス(アデラ/アデーA.D.)、アンナ・カスティーリョ(イサベル)、パコ・レオン(ホセ・マリア司祭)、ナゴレ・アランブル(アデラの母クルス)、マリア・ガリアナ(アデラの祖母アデリナ)、エネコ・サガルドイ(サンティアゴ)、デルフィナ・ビアンコ(パトリシア/マダム・フェリ)、マヌ・リオス(ガトー/ラモン・ビセンテ)、ロラ・ロドリゲス(アンヘラ)、ロドリゴ・クエバス(アロンソ、神父のパートナー)、ウスエ・アルバレス(ベゴーニャ)、アインホア・アルテチェ(イサベルの友人アネ)、ヨグリニャ・ボロバ(ヨグリニャ)、イニゴ・デ・ラ・イグレシア(カルボ医師)、グレンダ・ガロア(グレンダ)、エスペランサ・グアルダード(マダム・デネブ)、フェリペ・ロサ(セサル)、イサベル・ミゲル・エルナンデス(館員)、ニコ・モントーヤ(イシドロ)、アラナ・S・ポルテロ(アラナ)、アリナ・ラズメンコ(マダム・アルタイア)、ミナ・セラーノ(マダム・ベガ)、他(クレジット無し)ホセ・ルイス・ロペス・バスケス(フアン)、フリエタ・セラーノ(イサベリータ)

 

ストーリー:パンプローナ、間もなくミレニアムを迎える1999年暮れ、保守的な家庭の一人娘アデラは、母親の過保護のもと家族が営むアンティークショップ「デ・フアン」で働き、週末には子供たちの教理指導の教師をしている。自身のインターセセックスを取り巻く沈黙の中で生きている。不安をかかえながらそれが自分の人生全体を左右していることに気づかない。しかし新たに赴任してきた司祭ホセ・マリアの思いがけない友情、幼馴染サンティアゴのロンドンからの帰郷、自動車事故をきっかけに突然闖入してきた理学療法士イサベルの登場が連鎖反応を引き起こし、アデラをパンプローナからマドリードへの自己発見の旅に誘い出すことになる。自分のアイデンティティを知るには愛と他人の助けが欠かせないだろう。

          

★監督紹介:フェルナンド・ゴンサレス・モリーナ Fernando González Molina、1975年パンプローナ生れ、監督、脚本家、製作者。ナバラ大学で視聴覚コミュニケーションを専攻、その後マドリード自治体映画学校ECAM 映画監督の学士号を取得する。短編映画、ドキュメンタリー制作に携わり、アンテナ3のTV人気シリーズ「Los hombres de Paco」(2006~10,全136話)に2008年から参加して28話を監督した。そこで出会ったマリオ・カサスを主役にコメディ「Fuga de Cerebros」を撮り、マラガ映画祭2009の観客賞を受賞、映画館に100万人以上が足を運んで興行的にも成功を収めた。その後もカサスとマリア・バルベルデを起用した青春ドラマ『空の上3メートル』、続編『その愛を走れ』ではカサスの相手役にクララ・ラゴを主演させ、いずれも高い興行成績を記録した。

 

    

            (エリザベス・マルティネスとゴンサレス・モリーナ監督、マラガ)

 

★2015年、ルス・ガバスの同名小説 “Palmeras en la nieve” に触発されて映画化した『ヤシの木に降る雪』が大ヒット、観客動員数300万人以上の大記録、ゴヤ賞2016オリジナル歌曲賞、美術賞を受賞した。2017年、サンセバスティアン出身の作家ドロレス・レドンドの犯罪サスペンス、マルタ・エトゥラの主演で「Trilogía del Baztánバスタン渓谷三部作」と言われる第1部を原作とした「El guardián invisible」を発表、劇場公開3週目で300万人突破を果たした。翻訳書のタイトル『バサジャウンの影』を邦題にして、Netflixで配信されている。第2部「Legado en los huesos」と第3部「Ofrenda a la tormenta」も日本語字幕なしだが鑑賞できる。2018年の「The Best Day of My Life」は、国籍の異なる6人のLGBTメンバーについて語るドキュメンタリー、2017年バルセロナのランブラスで起きたバルセロナ同時多発テロを追う犯罪スリラー「Cronos」が公開予定(9月10日)になっている。

 

*主なフィルモグラフィ

2009「Fuga de Cerebros」マラガFFセクション・オフィシアル観客賞を受賞、

   タラソナ・イ・エル・モンカイヨ・コメディFF作品賞受賞

2010「Tres metros sobre el cielo」『空の上3メートル』、

2011「Fuga de Cerebros 2」エグゼクティブプロデューサー

2012「Tengo ganas de ti」『その愛を走れ』シネフォリア賞2013年間トップテン観客賞受賞

2015「Palmeras en la nieve」『ヤシの木に降る雪』フォトグラマス・デ・プラタ2016観客賞

2017「El guardián invisible」『バサジャウンの影』バスタン渓谷三部作第1部

2018「The Best Day of My Life」シネフォリア賞2019ドキュメンタリー賞ノミネート

2019「Legado en los huesos」「レガシー・オブ・ボーンズ」バスタン渓谷三部作第2部

2020「Ofrenda a la tormenta」「吹雪と贄」バスタン渓谷三部作第3部

2021~22「Paraíso」TVシリーズ(全15話)SFミステリー、

   アリカンテFF 2021&2022、TVシリーズ部門ノミネート

2026「Mi querida señorita」『愛しのセニョリータ』

2026「Cronos」犯罪スリラー

2022 アリカンテFFルセンタム賞受賞

 

     オリジナル版は米アカデミー賞外国語映画賞ノミネートの『お嬢さま』

 

A: 上述したようにハイメ・デ・アルミニャン(マドリード1929~2024)が監督、脚本を製作者で監督でもあったホセ・ルイス・ボラウ(サラゴサ1929~2012)が共同執筆した。本作の成功にはボラウに負うところが大きいと言われた。当時、新進気鋭の劇作家として数々の受賞歴をもつデ・アルミリャンの長編3作目、フランコ体制の末期とはいえ未だ検閲下にあったスペインでタブー視されていた性的指向について初めて語った作品でした。第45回アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされたが、ルイス・ブニュエルのフランス映画『ブルジョワジーの秘かな愉しみ』に敗れた。デ・アルミリャンは本作で第一線に登場したことになる。

 

  

            (オリジナル版のポスターとロス・ハビス)

  

B: スペインで検閲が全廃されるのは、フランコ没後の1976年4月、コメディとして検閲を摺り抜けた。ボラウは本作を手掛けた制作会社「エル・イマン」の設立者、またアデラに「あなたは女ではない」と診断結果を告げる医師としてスクリーンにも登場するなど多才の人ですね。

 

A: 邦題『お嬢さま』は、1984年11月に開催された「スペイン映画の史的展望1951~1977」上映時に付けられたタイトルです。京橋の東京国立近代美術館フィルムセンターで、ルイス・G.ベルランガ、J. A.バルデムからルイス・ブニュエル、カルロス・サウラ、ビクトル・エリセなど20人の監督からなる23作が一挙に上映された。

B: 日本のスペイン映画元年ともいわれる映画祭でした。中には既に公開されていたブニュエルの『ビリディアナ』やバルデムの『恐怖の逢びき』など4作も含まれていましたが、本邦初上映の粒ぞろい作品ばかりでした。エリセの『ミツバチのささやき』も翌年公開されました。

 

A: 成功のカギは、なんといってもアデラを演じた当時の大スターホセ・ルイス・ロペス・バスケス(マドリード1922~2009)の名演技でした。俳優、コメディアン、衣装デザイナー、更に舞台美術家でもあった。トータルの出演本数262本には驚くほかはない。油の乗りきった時代のロペス・バスケスが、鬘を被って女性のアデラと男性になったフアンを演じ分け、シカゴ映画祭1972「銀のヒューゴー男優賞」を受賞した。

B: アカデミー授賞式に出席したロペス・バスケスに、ハリウッドの監督たちから「英語を習ってハリウッドに来ないか」と誘われたエピソードは有名になった。

 

      

          (アデラ時代のホセ・ルイス・ロペス・バスケス)

 

A: あっさり断ってくれたお蔭でアントニオ・メルセロの短編ホラー「La cabina」(仮題「電話ボックス」72)、マヌエル・グティエレス・アラゴンの「Habla mudita」(『話してごらん』74)などを楽しむことができたわけです。リメイク版のようなインターセックスの女優は当然存在しなかったというか、そういうキャリアの存在を許してこなかった。後述するリメイク版でアデラを演じたエリザベス・マルティネスも、今作がスクリーンデビュー作品です。

B: マルティネスの演技をとやかく言うのは簡単ですけどね。

 

A: オリジナル版の時代背景は、1970年代初めのスペイン北部の町、アデラは中流階級の婚期を逸した43歳の女性であるが、そのことに違和感っを感じている。メイドのイサベリータと暮らしている。バルセロナ生れの舞台女優フリエタ・セラーノが演じている。それほど映画出演は多くなかったが、古典劇からシェイクスピア、チェーホフ、テネシー・ウィリアムズと幅広く出演していた。若いころ好意を感じていたドン・サンティアゴ(アントニオ・フェランディス)が地方銀行の支店長として赴任してくる。最近妻を亡くしたばかりの彼はアデラにさっそく求婚する。しかし、アデラは彼に体を接触されるのが嫌である。

   

     

           (口髭、顎髭、頬髭を剃らねばならないアデラ)

 

B: そこで教区の神父(エンリケ・アビラ)の勧めもあって医師の診察を受けると、信じられないような重大な真実を知らされる。イサベリータに好意を感じていたのも、彼女のボーイフレンドのことで喧嘩別れしたことも腑に落ちるというわけです。

 

    

     (アデラ時代のロペス・バスケスとイサベリータ役のフリエタ・セラーノ)

 

A: ここからが後半部、フアンと呼ばれる男性が列車でマドリードに到着する。しかし身分証もないうえ、男性になっても女性としての教育しか受けていないから出来る仕事が容易に見つからない。かつての日本と同じ「男は外で仕事、女は内で家事育児」のせいで職業訓練など受けたことがない。家賃は滞納するは、食事もままならないほど困窮する。

B: そこでフアンはミシンを運んできたことを思い出し、裁縫の特技を生かして、アデラ時代に着ていた洋服を仕立て直して洋装店に持ち込むことで就労許可証を手にする。   

  

        

       (マドリードで再会したフアンになったアデラとイサベリータ)

 

A: 女性が低く見られている現実と、男女の役割分担を強いる政権を批判しているのですが、コメディタッチにすることで検閲を逃れている。洋装店の近くのカフェでウェイトレスをしていたイサベリータと再会するが、彼女はフアンがもとの雇い主とは気づかない。フアンは彼女が自分を憎からず思っていることに気づくが、男としての自信がない。そこで若者に混じって成人学級で学び始めたりするが上手くいかない。イサベルを遠ざけようとするフアンを彼女は優しく抱擁する。いつか大切なことを話すというフアンに、「必要ありませんよ、お嬢さま」と返事する。

B: 彼女が既にフアンの正体を知っていたことを示唆しているシーンで終わる。なんだと思うでしょうが、検閲を向こうに回して、1970年代のスペインがもっていたジェンダーについての情報や感受性を語ったパイオニア的な映画だったのです。

 

A: リメイク版に較べて登場人物は多くありませんが、アパートの管理人役にロラ・ガオス(『ビリディアナ』)、その姪にチュス・ランペアベ(アルモドバル映画の常連)、アパートの隣人で娼婦役のモニカ・ランダル(『カラスの飼育』)など、当時の個性的な演技派女優がズラリですから見ごたえがあります。公開50年後の2022年に記念上映会がもたれた。現代の観客もかつての観客同様、ロペス・バスケスの女装を見たいからではなく、愛と不適合、孤独についての物語を観に行ったのでした。

 

        時代設定を1999年にした理由――パンプローナは16世紀

 

B: ロス・ハビスが「これは挑戦です」と語った2026年版は「ゼロから始まった」という。二人のハビエルは、昨年11月、13年間の交際を解消したと発表しましたが、仕事上のパートナー関係は維持していくということです。

A: 監督によると、時代を現在ではなく1999年に設定した理由として、ミレニアムを控えた特殊な年であったこと、現在のようにインターセックス(性分化疾患)が完全に可視化されておらず、まだ LGTBI のうち I は存在しなかったこと、更にパンプローナからマドリードに旅立つアデラの年齢が、脚本を手掛けたアラナ・S・ポルテロ(マドリード1978)と自分とが同世代だったことを上げている。このことで彼ら自身のことを語ることにもなったという。トランス女性としての彼女、ゲイとしての自身のことですね。

   

    

                (アラナ・S・ポルテロとゴンサレス・モリーナ監督)

  

B: パンプローナは監督の生れ故郷です。オリジナル版はマドリード以外はガリシアのポンテベドラ県のバヨナやビゴで撮影した。

A: ロス・ハビスからリメイク版の打診があった。オリジナル版は映画学校で観ていたが、改めて見直すとリメイクはとても難しいと感じた。なにしろ名優ロペス・バスケスに匹敵する俳優を探すのは至難の業だったし、2026年の現在、鬘をつけた男優でインターセクシュアリティについてのドラマを語ることは出来ないのもはっきりしていた。そこで当時アラナ・S・ポルテロの小説 “La mala costumbre” に魅了されていたので、脚本を彼女が担当することを条件にオーケーした。

  

B: 彼女も脚本執筆は初めて、「恐怖を感じた」と述懐しています。

A: インターセックスの女優が演じるのが本作のカギでした。しかしこれがなかなか大変で、エリザベス・マルティネスに辿りつくまでが長い道のりでした。演技経験は全くのゼロでしたが、「私たちのイメージに完璧にぴったりだった」と監督。しかし探す段階で多くのトランスの方々と知り合うメリットがあった。


B: マルティネス本人によると、皆に助けられての撮影は本当に大変だったと語っている。好きなシーンを訊かれて、足の悪いパトリシア(デルフィナ・ビアンコ)を助けて「一緒に歩道を歩いているシーンが一番好きだ」と応じている。

B: とても繊細な人、スタッフの選択は間違っていなかった。 

          

A: 彼女に関する情報は映画データでも少ないし、AI情報は別人との混同もあるようです。本人のインタビュー情報から、2000年アリカンテ生れ、育ったのはマドリード、あちこち海外にも移動している。他の職業にも興味があるらしく目下勉強中、今後女優として生きていくのかどうか分かりませんね。

B: 人格造形を最も変えたのがイサベル、パンプローナでは理学療法士で、アマチュア劇団に属して本格的な舞台女優を夢見ている。レズビアンのイサベルはアデラに好意を寄せている。再会したらアデーになっているので戸惑うが、彼女の心の扉を開けるのはイサベルで、重要人物に変わりない。

   

    

       (ジャンヌ・ダークに扮したイサベルを座席で見つめるアデラ)

  

A: アンナ・カスティーリョが演じた。当ブログでは、ゴヤ賞2017新人女優賞を受賞した、イシアル・ボリャインの『オリーブの樹は呼んでいる』、ロス・ハビス自身が演出した大ヒット・ミュージカルの映画化『ホーリー・キャンプ!』、ダビ・マルティン・デ・ロス・サントスの『マリアの旅』などでキャリア&フィルモグラフィーを紹介しています。  

B: お茶の間では、TVシリーズ「Su majestad」(25~26)で主役のスペイン王女を好演して人気が上がったようです。

      

                

            (意気投合するアデラとイサベル)

 

A: 特別出演のパコ・レオン(セビーリャ1974)はゲイの神父ホセ・マリアを演じた。自身の典型的な務めから離れて、アデラの真の問いに助け舟をだす。正式名司祭の条件は独身男性が必須だが、自室でモニカ・ナランホの曲をがんがん流したって許される。

B: アデラに「パンプローナは16世紀を生きている」と語る。イサベルといると「自由になる」が「自分らしく生きることが怖い」と悩むアデラに、「もっと自分らしくなれ」とけしかける異色の神父。

 

          

             (アデラに助言するホセ・マリア神父)

 

A: 俳優、監督、脚本家、製作者と多才、マラガ映画祭2015のエロイ・デ・ラ・イグレシア賞の受賞など数えきれない。実母カルミナを主役にした「Carmina o revienta」で監督デビュー、ゴヤ賞2013新人監督賞にノミネート、監督・出演の『KiKi 愛のトライ&エラー』でもゴヤ賞2017脚色賞とオリジナル歌曲賞にノミネート、受賞がないのが不思議です。

B: 俳優としてはTVシリーズ「Aída」(05~14)のルイスマ役で238話に出演した記録をもっている。

     

A: 映画の冒頭、1973年11月に誕生した赤ん坊がインターセックスであること、母親と医師が赤ん坊の性別を決める外科的な医療介入をしたことが知らされる。スペインでは20世紀末まで「hermafroditismo」(両性同体)の外科的医療が病院の手引き書だった。侮蔑的な意味合いが感じられることから、大人になってもアデラには知らされなかった。1999年の地方都市では、教区が町の道徳的な標準枠であった。現在のスペインではインターセックスと変わり、外科的な医療介入は禁止されている。しかし、法と現実は別、外科介入の論議は閉じていない。またこの名称も流動的で変わるかもしれません。

 

B: 娘を選択した母親にナゴレ・アランブルが起用された。アデラを心から愛して理不尽な外圧から守っているが、娘が苦しんでいることを知りながら嘘をつき続けている。この映画のテーマに「自分の人生の選択権は誰にあるか」がある。出生時に本人がどうするかは物理的にできない。

A: 家長でもある祖母役のマリア・ガリアナ(1935)に一族の秘密を語らせる。親戚にはアデラのような大柄な女性、マルガ叔母さんとその娘エルネスティナがいたことを打ち明ける。長いあいだ沈黙が家族を支配していたわけです。冒頭に伏線として二人の古ぼけた写真が映しだされている。事実を知ったアデルはパンプローナからマドリード行きを選択する。

        

   

        (母親のナゴレ・アランブル、エリザベス・マルティネス)

 

B: 23年間に及ぶテレビの歴史ドラマシリーズ「Cuéntame cómo pasó」(01~23)以来、スペインを代表する祖母役と言えば、もうマリア・ガリアナをおいて他にいないでしょう。

A: 日本ではベニト・サンブラノの『ローサのぬくもり』がヒットしました。本国ではイマイチでしたが、ゴヤ賞2000助演女優賞を受賞している。今年スペイン映画アカデミーからタリア栄誉賞も授与された。

 

     

            (祖母アデリナ役のマリア・ガリアナ)

 

B: アデルの幼馴染サンティアゴを早い段階で登場させている。

A: 大都会ロンドンから「99人しか住んでいない」遅れたパンプローナに帰郷するサンティアゴ役にエネコ・サガルドイを起用した。彼のセリフには当時の監督の思いが投影されている。

B: オリジナル版のドン・サンティアゴとは職業以外似ていない。あちらは陽気なタイプですが、こちらは家業を継ぐため仕方なく故郷に戻ってきたニヒルな人物造形にした。

   

      

             (冒頭で再会する幼馴染のサンティアゴ役エネコ・サガルドイ)

 

A: エネコ・サガルドイはアイトル・アレギ & ジョン・ガラーニョのバスク語映画『アルツォの巨人』でゴヤ賞2018新人男優賞を受賞している。

B: TVシリーズ出演も多く、頭の回転の早さから映画祭のホストなども任され、プロデューサーとしても活躍している。

 

        変えるのは「身体でなく社会」――後半はまるで合唱劇 

 

A: 90年代は、スペインだけでなく世界中で吹き荒れたエイズに怯えた時代でした。「大柄な女やなよなよした男は、人々を怖がらせる」とアデラに語ったホセ・マリア神父の最愛の人はアロンソ(ロドリゴ・クエバス)、エイズで亡くなった。神父は宗教の道に入った理由の一つに上げる。これでエイズを取り扱うことになったと監督。  

B: 神父の造形も大幅に変えている。オリジナル版は登場人物が少なく、マドリードにやってきたフアンの孤独も続いている。しかしフアンは他人の助けを求めません。語りたいテーマが違うからです。

  

A: 監督は「私たちは、自分探しの旅をさせているアデーA.D. に他人が手を差し伸べることにしたかった」。アパートの部屋をシェアリングしているガトー役のマヌ・リオス、アンヘラ役のロラ・ロドリゲス、二人が育てている息子の父親はガトーじゃない。

B: 再会したイサベルの女友達アネやヨグリニャ、仕事を世話してくれたトランスのパトリシア、そこで働くマダム・アルタイア(アリナ・ラズメンコ)やマダム・ベガ(ミナ・セラーノ)、血は繋がっていない家族が増えていくから当然テーマも増える。しかし「自分らしく生きることが怖かった」主人公も解放されていく。

 

    

        (ガトー役マヌ・リオスとアンヘラ役のロラ・ロドリゲス)

 

    

         (信頼で繋がるガトー、アデー、アンヘラの疑似家族)

 

A: しかし二つのバージョンは、付かず離れずの関係です。アデーの窮地を救ってくれた雇い主のパトリシアが、仕事場では「フェリ様か、マダム・フェリ」と呼ぶようにアデラに命じますが、これはオリジナル版でモニカ・ランダルが演じた〈フェリ〉に敬意を払っている。

B: 後半部で最も光っていた登場人物がこの哲学者のようなパトリシアです。彼女のセリフから脚本家アラナ・ポルテロの声が聞こえてくるようです。

  

            

           (マダム・フェリ役のデルフィナ・ビアンコ)

 

 

         脚本の過剰さは決断の代価――1999年に遡らせた理由

  

A: マラガ映画祭に寄せられた声として、脚本の過剰さがありました。アデラが起こした自動車事故の原因の一つ「ワニンコフ事件」に始まって、病院の受付の女性が読んでいたフルール・イェギーの『規律という甘い日々』と訳されたされた “Los hermosos años del castigo” という小説、神父がファンのモニカ・ナランホは、プライド・パレードに参加する活動家でもある。

B: ワニンコフ事件は1999年10月にアンダルシアで起きたばかりの若い女性の殺人事件。

 

A: 母親の元恋人ドロレス・バスケスが逮捕されたが、全くの冤罪だった。スペインで一番有名な冤罪事件と言われてます。アリバイもあったのに犯人に仕立て上げられた。理由は同性愛者だったからです。

B: アデルの祖母も世間同様有罪を確信する。たまりかねたアデラの怒りが爆発する。

 

A: ネットフリックスがドキュメンタリー『コスタ・デル・ソル殺人事件』の邦題で配信しています。1989年に刊行されたフルール・イェギーの小説は、少女の成長物語ですが、クィア小説でもあるようです。

B: 現在のところ翻訳書はないようですが、スイスの作家でイタリア語で執筆している。

  

A: イサベルが手に入れたいカール・T・ドライエルのフランスの無声映画『裁かるるジャンヌ』(28)、アナイス・ニンの日記を映画化したフィリップ・カウフマンの『ヘンリー&ジューン』(90)、アナイスにポルトガルの女優マリア・デ・メデイロス、ヘンリー・ミラーにフレッド・ウォード、妻ジューンにユマ・サーマン、1930年代のパリで織りなす3人の屈折した愛の物語、DVDが発売されている。

B: ネットでマリア・ファルコネッティが演じた聖女ジャンヌを見てしまいました。クローズアップの多用さに正直びっくりしましたが、カット構成技法の巧みさに引き込まれました。

 

A: 日本でも公開されましたが映画館で観た人は、もうこの世に一人もいない。主人公に「自分らしい生き方」を決断させるにはいささか多すぎるかもしれませんが、現代にすれば必要なかったでしょう。地方都市のパンプローナに暮らすアデラには、エストロゲン服用の必要性さえ分からなかった。ネットで繋がることが出来なかった時代に遡った理由かもしれません。

  

B: プライド・パレードのイベントに窓から手を振るシーンがありました。

A: 決断にはアデラをマドリードに旅立たせる必要があったのです。パンプローナでは不可能でもマドリードなら可能です。オリジナル版の出演者の多くは既に旅立ちました。イサベリータになったフリエタ・セラーノはアルモドバル映画に出演でゴヤ賞助演女優賞を受賞するなど元気です。今回、祖母役が検討されたという記事も目にしました。エンディング「寂しくなると美術館に来るの」と老婦人はアデーに話しかける。この老婦人を演じたのがフリエタ・セラーノです。

 

      

          (プライド・パレードにエールを送るアデラたち)

   

B: シンガーソングライターのサハラ Zahara が歌う "La luz que vendrá" が、これからアデラの進む道です。

   

   

            (居場所を見つけ一歩踏みだしたアデラ)


A: 光に満ちた未来がやってくる、来年のゴヤ賞オリジナル歌曲賞ノミネートを期待します。まもなくカンヌ映画祭の結果発表があります。ロス・ハビスのグラナダの詩人ガルシア・ロルカの4ページの未完のテキストにインスパイアされた「La bola negra」がノミネートされ、スタッフ、キャストが揃って現地入りしています。今年は珍しいことにアルモドバルの新作「Amarga Nadidad」、ロドリゴ・ソロゴジェンの「El ser querido」が、日本映画と同じように3作コンペティション部門に入りました。濱口竜介は脈ありでしょうか。ハリウッド映画の不振が関係しているのかもしれません。政治と芸術は切り離せません。今回でマラガ映画祭の記事は終わりにします。

  

      

             (Zahara、マラガ映画祭フォトコール)

ロス・ハビスの「La bola negra」が監督賞*カンヌ映画祭2026 ― 2026年05月26日 13:45

          プレゼンターにディエゴ・セスペデス登場で勝利を確信したか?

   

      

   (ロス・ハビスこと、ハビエル・アンブロッシとハビエル・カルボ、5月23日)

 

★濱口竜介の『急に具合が悪くなる』主演の岡本多緒が女優賞受賞というニュースに「まさか!?」、ということはパルムドールも監督賞もダメだったのね、じゃ、受賞は? 「Fjord(フィヨルド)」のクリスチャン・ムンジウが「17年ぶり2回目のパルムドール」に。『4ヶ月、3週と2日』から、もう17年も経ったのかと、時の流れの速さに愕然としました。確か下馬評はアンドレイ・ズビャギンツェフの「Minotaur(ミノタウロス)」のはずだった。こちらは次点のグランプリ、そしてびっくり玉手箱は、ロス・ハビスの「La bola negra / The Black Ball」(西仏合作)が監督賞を受賞したことでした。プレミアムが後半の5月21日のせいか情報が中々入りませんでした。スタンディングオベーションが16分とか最長の20分とか嘘みたいな情報に「誰が時間を計かってるんだか、ペネロペ・クルスのお蔭かも」と苦笑していました。因みにギレルモ・デル・トロの『パンズラビリンス』は、22分でした。

  

  

            (「La bola negra」のポスター)

 

★カンヌ入りした監督以下、主なキャスト陣は、下の写真左からロラ・ドゥエニャス、ミゲル・ベルナルドー、ギタリカデラフエンテ(本名アルバロ・ラフエンテ・カルボ)、ハビエル・アンブロッシ、ハビエル・カルボ、ペネロペ・クルス、ミロ・キフェス、カルロス・ゴンサレスなどがレッドカーペットのフォトにおさまりました。

   

 

     (レッドカーペットに勢揃いした両監督とキャスト陣、5月21日)

 


  (ギタリカデラフエンテ、ロス・ハビス、ペネロペ・クルス、ミロ・キフェス)

 


          (レッドカーペット、5月23日の授賞式)

 

 
         
(ロラ・ドゥエニャスとミゲル・ベルナルドー)

 

           スペインのクィア・アイデンティティを探求する

 

★ガルシア・ロルカの未完の遺稿とアルベルト・コネヘロの戯曲 ”La piedra oscura” に着想をえて製作された。三つの時代(1932、1937、2017)に、LGBTIQ+ の人々が受けた苦しみ、痛み、沈黙、欲望、死などに敬意を払って、スペインでゲイであることの意味を探求しています。昨年夏、製作発表があった折に既に作品のアウトラインを紹介しております。ロルカのたった4ページの未完の遺稿、コネへロの戯曲、キャスト陣などを紹介しています。役どころが不明だったペネロペ・クルスは、20世紀初頭に流行したコプラ(copla、cuplé 歌謡)の歌手ネネというクプレティスタになる由、圧倒的な存在感で映画を支えたグレン・クローズが歴史家役で出演するなど話題に事欠きません。「La Mesias」主演でその演技力に脱帽して今回も起用したロラ・ドゥエニャスの役どころは? バージョンアップした紹介記事を予定していますが、取りあえず以下に関連記事をアップしています。

 

*作品・キャストなどの紹介は、コチラ⇒2025年07月04日

*監督デビュー作『ホーリー・キャンプ!』の作品紹介は、コチラ⇒2017年10月07日

*「ロルカの死をめぐる謎」を紹介した記事は、コチラ⇒2015年09月11日

 

 

      

 (セバスティアンを演じるギタリカデラフエンテ)

 

    

             (ネネ・ロメロ役のペネロペ・クルス)

 

   

              (歴史家役のグレン・クローズとカルロス・ゴンサレス)

 

★受賞が決まったとたん、複数の配給会社がアメリカの配給権をめぐって争奪戦を繰りひろげ、どうやら Netflix が400万から500万ドルに吊り上げて手にしたようです。ネトフリには端金でもスペインでは大金です。カンヌは神様、ノミネート22作品のうちアルモドバル、是枝監督、韓国のナ・ホンジンが自国のみで製作、ジェームズ・グレイの「ペーパータイガー」がフランス抜きで、他は全部フランスが一枚嚙んでます。資金的に単独は無理、ならばフランスと繋がりたい、という関係者の心理が頷けます。クィア・パーム対象作品が7作と3分の1を占めたのも時代の流れでしょうか。