パウラ・コンスの「La isla de las mentiras」*サンセバスチャン映画祭2020 ⑪ ― 2020年09月16日 17:57
メイド・イン・スペイン――パウラ・コンスの「La isla de las mentiras」
★既にオンラインで配信が始まっているパウラ・コンスのスリラー「La isla de las mentiras」は、1921年1月2日の明け方に起きた<ガリシアのタイタニック>と言われる実話に基づいて製作された。船舶沈没がテーマではなく、ネレア・バロスが扮したマリアの視点で、中央から離れた閉ざされた社会の当時の女性たちの勇気や闘い、カシキスモについての、逃走についての、自由についての物語。オリジナルはガリシア語であるが、オンラインではスペイン語で配信されている。ワーキングタイトルは「El Santa Isabel」だった。
(製作発表をする、監督とネレア・バロス以下3人の主演者たち、2019年3月)
「La isla de las mentiras」(The Island of Lies)2020
製作:Agallas Films(スペイン)/ Aleph Cine(アルゼンチン)/
Euskal Irratitelebista EITB(バスク)/ Take 2000(ポルトガル)/
Historias del Tío Luis(同) 協賛INCAA / ICAA / TVE / ガリシアTV、他
監督:パウラ・コンス・バレラ
脚本:パウラ・コンス・バレラ、ルイス・マリアス
撮影:アイトル・マンチョラ
編集:フリア・フアニス
美術:アントニオ・ペレイラ
録音:シャビ・アギーレ
衣装デザイン:エバ・カミノ
メイクアップ:ラケル・フィダルゴ
プロダクション・マネジメント:カロリナ・コレイア・メンデス
製作者:ビクトリア・アイゼンスタット、マウロ・ゲバラ、ルイス・マリアス、フアン・デ・ディオス・セラノ、(エグゼクティブ)エドゥアルド・カルネロス、他
データ:製作国スペイン=アルゼンチン=ポルトガル、言語ガリシア語、2020年、実話をもとにしたスリラー・ドラマ、93分、撮影地はサルボラ島、3月公開予定だったがコロナウイリス感染拡大のため中止、7月24日よりオンラインFilmin にてスペイン語で配信開始、アルゼンチン5月14日公開。
映画祭・受賞歴:上海映画祭2020正式出品、サンセバスチャン映画祭2020「メイド・イン・スペイン部門」上映
キャスト:ネレア・バロス(マリア)、ダリオ・グランディネッティ(アルゼンチンの記者レオン)、アイトル・ルナ、ビクトリア・テイヘイロ(ホセファ)、アナ・オカ(シプリアナ)、ミロ・タボアダ(ペペ)、レイレ・ベロカル、ミゲル・ボリネス、セルソ・ブガージョ、メラ・カサル、マリア・コスタス、ロベルト・レアル、セルヒオ・キンタナ、マチ・サルガド(ルイス・セブレイロ)、アナ・サントス、ハビエル・トロサ、ほか
ストーリー:1921年1月2日の明け方、ブエノスアイレスに向かう260名の移民を乗せた蒸気船サンタ・イサベル号が大西洋に位置するガリシアのサルボラ島の海岸で遭難した。その夜、島には男たちはいなかった。というのもクリスマスを祝うため本土に渡っていたからだ。マリア、ホセファ、シプリアナの3人の女性は、助けを求める生存者の声を聞くと岩だらけの海に危険を冒して救助に向かった。霧に閉ざされた暗闇の中、小舟のオールを漕いで幼児を含めて48名を救助した。一方、アルゼンチンのジャーナリストのレオンは事故のニュースを知ると調査のために現地に赴いた。背景が少しずつ分かってくるが、その夜、島では怖ろしい或る予期せぬことが起きていたのだった。解決すべき幾つもの謎が潜んでいることが次第に分かってくる。若い進取の気性に富んだ勇敢なマリア、無口だが思慮深いガリシアに典型的な女性ホセファ、広い世界を知りたいと島を抜け出したい一番若いシプリアナの3人の女性の視点で描かれる、<ガリシアのタイタニック>事件と言われる実話をベースにしたスリラー・ドラマ。中央から離れた閉ざされた社会の女性たちの勇気や闘いについての、ボス支配のカシキスモについての、逃走や自由についての物語。 (文責:管理人)
(マリア、ホセファ、シプリアナ、映画から)
*監督キャリア&フィルモグラフィー紹介*
★パウラ・コンス・バレラ(ア・コルーニャ1976)は、監督、ジャーナリスト、脚本家、ドキュメンタリー作家、Agallas Filmsのプロデューサー。ア・コルーニャ県生れだが、家族の祖先のコンスもバレラも映画の舞台になったポンテべドラ県出身。サンティアゴ・デ・コンポステラ大学の新聞学部でジャーナリズムを専攻(1994~98)、1998年よりポルティコ・デ・コミュニケーションの編集者や執筆者として働く。2004年マドリードに移住、クアトロTVの社会的問題をテーマにしたレポーターとなる。2009年 Agallas Films の共同設立者となる。
(撮影中のパウラ・コンス・バレラ)
★主なフィルモグラフィーは以下の通り:
2009年「13 badaladas」TVドキュメンタリー・シリーズ、監督
2015年「Lobos sucios」長編、共同脚本・エグゼクティブプロデューサー
2017年「La batalla desconocida」ドキュメンタリー、監督・脚本・エグゼクティブ
2018年「El caso Diana Quer, 500 días」ドクドラマ、監督
2020年「La isla de las mentiras」長編ドラマ、監督・脚本
(制作会社 Agallas Films の共同設立者フアン・デ・ディオスと監督)
★「Lobos sucios」は、第二次世界大戦中に、連合国側がスペインと争ったタングステン闘争についての報告書。フランコ政府は参戦しなかったが、戦略上ナチスにタングステン鉱山の採掘を認めて協力していた。「La batalla desconocida」は、前作と同じテーマで製作され、バジャドリード映画祭のドキュメンタリー部門の監督賞を受賞、他にナント映画祭、ブエノスアイレス政治映画祭などで上映された。「El caso Diana Quer, 500 días」は、ディアナ・ケル事件の警察の捜査を追った500日間のドキュメンタリー・ドラマ。今回が長編映画デビュー作とはいえ、経験豊富なシネアストであることが知れる。
20世紀初頭のガリシアの女性たちがおかれていた地位
★最近頓に輩出する女性監督のなかでも、実際の事件をベースにしてスリラー仕立てにしたドラマは珍しいのではなかろうか。この難破事件は当時のガリシア地方では知られていたようです。記事によって乗船者や生存者の人数が異なりますが、当たらずとも遠からずです。マリア16歳、ホセファ24歳、シプリアナ14歳という設定ですが、より年上に見えます。48名の救助者のなかに、当時1歳だったという女性が最後の生存者として今でも元気とか、驚くほかありません。
★マリアを演じたネレア・バロス(サンティアゴ・デ・コンポステラ1981)は、女優、看護師の資格を持っているという変り種。今回のパンデミックでは一時女優業を中断して看護師として治療に当たっているというニュースに接した。主にガリシアTV、アンテナ3、テレシンコのドラマに出演、公開作品ではアルベルト・ロドリゲスのスリラー『マーシュランド』(14)で失踪した姉妹の母親役を演じて、翌年のゴヤ賞助演女優賞を受賞している。他にNetflix配信の連続ドラマ『クリスマスのあの日私たちは』(「Dias de Navidad」全3話)の第2話にバレンティナ役で出演している。主役を演じるのは「La isla de las mentiras」が初めてか。ビクトリア・テイヘイロ(ア・コルーニャ)は、マドリードの王立芸術演劇上級学校卒、映画、TV、舞台で活躍、TVシリーズ「Aida」に出演、10年以上前から複数の演劇学校で後進の指導に当たっているベテラン、公開作品はない。アナ・オカは短編、TVシリーズ出演、本作で長編映画デビューした。
(マリアとホセファ)
★アルゼンチンのジャーナリストを演じるダリオ・グランディネッティ(ロサリオ1959)は、アルゼンチン出身だがスペインに軸足をおいている。アルモドバルの『トーク・トゥ・ハー』(02)、『ジュリエッタ』(16)、ダミアン・ジフロンの『人生スイッチ』(16)出演でお馴染みです。1984年、軍事独裁時代の末期、マルビナス戦争を背景にしたアレハンドロ・ドリアの「Darse cuenta」で映画デビュー、本作は銀のコンドル賞作品賞を受賞した秀作です。他にサンセバスチャン映画祭2018でベンハミン・ナイシュタットが監督賞、主演のグランディネッティが男優賞を受賞した「Rojo」出演がある。本作がオンライン配信になったことを「パンデミックで俳優は危機に陥っている。舞台ダメ、ソーシャルディスタンスで撮影もダメ、モビスター、アマゾン、HBO、ネットフリックスのようなプラットフォームに移行するしかない」と語っている。
(レオン役のダリオ・グランディネッティ)
★ガリシア出身者の他、バスク州の俳優も多く出演している。その一人がアイトル・ルナ(ギプスコア1981)だが、役回りが分からない。TVシリーズ出演が多く、『アラトリステ』(13)のテレビ版でディエゴ・アラトリステに扮している。Netflixで配信されている『海のカテドラル』(18)では、主役のアルナウ役に抜擢され、お茶の間では認知度がある。映画、テレビ出演のほか舞台にも立っている。
(ネレア・バロスとアイトル・ルナ)
★本作は主役となる3人の登場人物の他、スタッフにも女性シネアストが多く参加している。パウラ・コンス監督によると「女性たちが自分自身を信頼することが重要であり、それぞれ得意な分野を主張することが必要です。本作は私たち若い世代の女性たちが祖母世代へ贈るオマージュです」と。
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