ダビ・イルンダインの第2作目「Uno para todos」*マラガ映画祭2020 ⑨ ― 2020年04月16日 18:26
文化や世代を超えて許しの必要性と希望が語られる
★ダビ・イルンダインの第2作目「Uno para todos」は、セクション・オフィシアルにノミネートされた作品。イルンダインは2015年の裁判ドラマ「B, la pelicula」で長編デビュー、喝采を博した。本作は主人公ルイス・バルセナスの名前を入れた「B de Bárcenas」、単に「B」など幾つかのタイトルで紹介されています。国民党アスナル政権下(1996~2004)に起きたスペイン最大級の汚職事件の裁判ドラマです。元国民党会計責任者ルイス・バルセナスをめぐる裁判を描いている。撮影当時はまだ裁判は結審していなかった。ジョルディ・カサノバの脚本をイルンダインが脚色してゴヤ賞2016脚色賞にノミネートされた。
(ダビ・イルンダイン監督)
★第2作目はデビュー作の裁判ドラマとは打って変わって、小さな町を舞台に代用教員に採用されたアレックスが文化の違いを乗り越えて奮闘する姿を描いている。アレックスにカルラ・シモンの『悲しみに、こんにちは』のダビ・ベルダゲルが扮して、文化や世代の枠を超えた許しの必要性が語られるようです。観客の「どうして、何のために闘ったり学んだりするのか」の問いには明確な回答は得られませんが、目的は達成することができるという希望が得られる、それが監督の目的のようです。脇を支える女優陣にパトリシア・ロペス・アナイス、クララ・セグラなどがクレジットされている。プロデューサーに『悲しみに、こんにちは』のバレリー・デルピエール、撮影監督にサンセバスチャン映画祭2018年のコンペティション部門の審査員をしたベト・ローリッヒなど女性スタッフが目立つ。
「Uno para todos」
製作:Inicia Films / Fasten Films / Bolo Audiovisual / A Contracorriente Films /
Uno Para Todos La Pelicula AIE / Amalur AIE 協賛ナバラ政府、ICAA、RTVE、Movistar+
監督:ダビ・イルンダイン
脚本:バレンティナ・ビソ、コラル・クルス
撮影:ベト(エリザベス)・ローリッヒRourich
編集:エレナ・ルイス、アナ・チャルテ
音楽:ゼルティア・モンテス
美術:シェニア・ベソラ
キャスティング:イレネ・ロケ
衣装デザイン:イランツ・カンポス、オルガ・ロダル
メイク&ヘアー:(メイク)ジュディJudith・インベルノン、(ヘアー)ベンハミン・ぺレス
製作者:バレリー・デルピエール、アドリア・モネス、カロリナ・ゴンサレス、アドルフォ・ブランコ
データ:製作国スペイン、スペイン語、2019年、ドラマ、94分、撮影地バルセロナ県アレニス・デ・ムントArenys de Munt、アラゴン州サラゴサ県のカスぺ、期間2019年7月4日から6週間。配給A Contracorriente Films、販売Film Factory
映画祭・受賞歴:マラガ映画祭2020セクション・オフィシアル出品作品、延期のためスクリーン上映はなかった。マイアミ映画祭出品作品。
キャスト:ダビ・ベルダゲル(アレックス)、パトリシア・ロペス・アルナイス、クララ・セグラ、ベッツィ・トゥルネス、アナ・ラボルデタ、ホルヘ・ポベス、バレリア・エンドリノ(バレリア)、他オーディションで選ばれたサラゴサ県カスぺの子供たち。
(オーディションに集まったカスぺの子供たち)
ストーリー:34歳になる代用教員アレックスの物語。彼は今までまったく知らなかった小さな町の小学校に代用教員として赴任してきた。6年生の担任になるが、間もなくこのクラスに病気をもった一人の生徒を復学させねばならないことがわかった。クラスメイトは誰も彼が戻ってくることを望まなかった。それにはそれなりの理由があったのだが・・・。監督が新聞で読んだ美しい記事がベースになって映画化された。困難の克服、希望、文化や世代を超えた許しの必要性が語られるであろう。
(友達から復学を歓迎されない病気の生徒に扮した子役)
★ダビ・イルンダイン(パンプローナ1975)は、監督、脚本家。ナバラ大学でオーディオビジュアル・コミュニケーションを専攻、その後キューバのサン・アントニオ・デ・ロス・バニョスの国際映画テレビ学校EICTVで映画を学ぶ。短編「Flores」(02)、「En el frigo」(04)、「Ejecución」(13)、「Acción-reacción」(13、17分)ではルス・ディアスやマカレナ・ゴメスを起用した。
(短編「Acción-reacción」のポスター)
★長編デビュー作が前述した「B, la pelicula」で、ゴヤ賞2016脚色賞ノミネーション、フェロス賞特別賞、2016ディアス・デ・シネ賞他を受賞した。国民党アスナル政権下で起きたスペイン最大級の汚職事件「グルテル事件」の裁判が描かれた。国民党の元会計責任者ルイス・バルセナスにペドロ・カサブランク、裁判官パブロ・ルスにマノロ・ソロを配し、二人はASECAN2016男優賞を揃って受賞した。企画当時は裁判中であったこと(結審2018年5月)や政治絡みであることから、テレビ局から資金提供が受けられず、クラウドファンディングで597人から集めた55,000ユーロを元手に製作された。2013年7月15日、バルセナスが収監されていた刑務所から法廷に移送されたところからドラマは始まる。
(バルセナス本人に酷似したペドロ・カサブランクを配したポスター)
★代用教員役のダビ・ベルダゲル(ジローナ1983)は、前述したようにカルラ・シモンの『悲しみに、こんにちは』で孤児になってしまった姪の養父役を好演、2018年のゴヤ賞とフェロス賞の助演男優賞を受賞した。当ブログ初登場はダビの親友であるカルロス・マルケス=マルセの「10.000Km」でガウディ賞2015の主演男優賞を受賞、ゴヤ新人賞にノミネートされた。SXSW映画祭2014では、共演のナタリア・テナと特別審査員賞を受賞している。同監督の「Els dies que vindran」は、昨年のマラガ映画祭2019に出品、ベルダゲル自身は無冠だったが、実際の妻で劇中で夫婦を演じた舞台女優マリア・ロドリゲス・ソトが女優賞(銀賞)を受賞、カルロス・マルケス=マルセが作品賞「金のビスナガ賞」、監督賞(銀賞)に輝いた。彼は若くして今年の「マラガ才能賞」を受賞しているが、新型コロナウイルスのせいで授賞式はどうなるのか。最近ではパストール兄弟の『その住人たちは』(Netflix)で生意気なCM会社の幹部になった。
*ダビ・ベルダゲル紹介記事は、コチラ⇒2014年04月11日/2019年04月11日
(『悲しみに、こんにちは』のポスター)
(代用教員アレックス役のダビ・ベルダゲル、映画から)
★クララ・セグラ(バルセロナ1974)は、アメナバルの『海を飛ぶ夢』(04)で尊厳死協会員で主人公ラモンの相談にのるジェネ役を生き生きと演じていた女優。他にギリェム・モラレスの『ロスト・アイズ』(10)、最近ではオリオル・パウロの『嵐の中で』(18、Netflix)に出演しており、夫とその愛人に殺されてしまう役柄だった。本作では復学してくる病気の生徒の母親役らしいが、作品の詳細がまだよく分からないので不確かです。少年の病気は小児がんのようで、他の生徒たちが復学を望まないのは、どうやら病気で休む前はいじめっ子だったからのようです。監督が読んだ新聞の記事がベースになっているということです。
(クララ・セグラ、子供と一緒に登校してくるシーンから)
(クララ・セグラと共演者のアルベルト・ヒメネス、『海を飛ぶ夢』から)
★パトリシア・ロペス・アルナイス(ビトリア1981)は、アメナバルの『戦争のさなかで』にミゲル・デ・ウナムノの次女マリア役で出演した。同郷バスク出身の監督フリオ・メデムの『ファミリー・ツリー 血族の秘密』(17、Netflix)や、人気TVシリーズ出演で知名度を上げている。
*『戦争のさなかで』の作品、ロペス・アルナイスのキャリア紹介は、コチラ⇒2019年11月26日
(パトリシア・ロペス・アルナイス、『戦争のさなかで』から)
★ベッツィ・トゥルネス(バルセロナ)は映画と舞台女優、公表されている生年は20世紀。カタルーニャ語のTVシリーズ出演が多く映画では脇役が多い。代表作はマラガ映画祭2016のコンペティション部門にノミネートされたマルク・クレウエトのブラック・コメディ「El rey tuerto」でしょうか。主役の一人を演じてガウディ賞にノミネートされた。他にはNetflix配信のコメディ『やるなら今しかない』、『オチョ・アペリードス・カタラナス』、ミニ映画祭で公開されたオリオル・パウロの密室殺人劇『インビジブル・ゲスト 悪魔の証明』(17)、TVシリーズ「パキータ・サラス」に出演している。
*「El rey tuerto」の作品とベッツィ・トゥルネス紹介記事は、コチラ⇒2016年05月05日
(ベッツィ・トゥルネス、「El rey tuerto」から)
★スタッフ陣も女性が多く、先ず脚本のバレンティナ・ビソ(マル・コルの『家族との3日間』、ネリー・レゲラの『マリアとその家族』)とコラル・クルス(パコ・クルスの『エクリプス』、「Els dies que vindran」)が共同執筆している。製作の中核を担うバレリー・デルピエールはモナコ出身、『悲しみに、こんにちは』、今年のマラガのコンペティション上映の予定だったピラール・パロメロの「Las niñas」、イルンダイン監督のデビュー作「B, la pelicula」を、本作と同様にカロリナ・ゴンサレスと共同製作している。
★撮影監督ベト・ローリッヒBet Rourichは、ベルリン出身だがカタルーニャ映画視聴覚上級学校ESCACで映画を学んでいる。スペインのみならずイギリス、ドイツ、デンマーク、フランスとヨーロッパを駆け回っている。第66回サンセバスチャン映画祭2018のセクション・オフィシアル審査員の一人でもあった。音楽、編集、キャスティング、美術など、裏方の多くが女性ばかりというのも珍しいケースです。
(撮影中のベト・ローリッヒ)
★新型コロナウイリスは想像以上に悪賢い。今のような状態が何時終息するのか年単位になってきた。本作に限らず、映画をスクリーンで見られる可能性はしぼむばかりです。
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