ゴヤ栄誉賞2019にナルシソ・イバニェス・セラドール*ゴヤ賞2019 ② ― 2018年12月03日 11:51
ホラーとファンタジー映画の草分けチチョ・イバニェス・セラドールに栄誉賞
★11月27日、ゴヤ栄誉賞に ’チチョ’ の愛称で親しまれている監督、脚本家、俳優のナルシソ・イバニェス・セラドール受賞をスペイン各紙が一斉に報じました。栄誉賞の便りが届くと「やれやれ今年も終わりか」と年の瀬を実感します。2017年はアナ・ベレンの9月初め、2018年はマリサ・パレデスの10月中頃と発表が早かったが、今年は例年に戻ったようです。女優が2年続きましたので今年は男性かなと予想していました。12月中頃にはゴヤ賞全体のノミネーションも発表になるでしょう。2019年のガラはマドリードを離れてセビーリャで2月2日開催が既に決定しています。
(ナルシソ・イバニェス・セラドール、2017年ごろ)
★スペインのホラー、ファンタジー映画に筋道をつけたシネアスト、後に続くフアン・アントニオ・バヨナ、ロドリゴ・コルテス、アレハンドロ・アメナバル、アレックス・デ・ラ・イグレシア、ジャウマ・バラゲロ、マテオ・ヒル、エンリケ・ウルビス、パコ・プラサほか多くの若手監督に影響を与えた。いずれも当ブログでもお馴染みのシネアストたちです。第4回フェロス賞2017栄誉賞を受賞した際には、車椅子で登場、デ・ラ・イグレシアからトロフィーを受け取りました。
*第4回フェロス賞2017の受賞の記事は、コチラ⇒2017年01月29日
(デ・ラ・イグレシアからフェロス賞栄誉賞のトロフィーを受け取るチチョ)
★ナルシソ ’チチョ’ イバニェス・セラドールNarciso ‘Chicho’ Ibañez Serradorは、1935年ウルグアイのモンテビデオ生れの監督、TVシリーズ製作者、脚本家(ペンネーム、ルイス・ペニャフィエル)、俳優。当時アルゼンチンで仕事をしていたスペインの舞台監督ナルシソ・イバニェス・メンタとアルゼンチン女優ペピータ・セラドールの一人息子。ウルグアイとスペインの二重国籍を持っている。幼少期は両親のラテンアメリカ諸国巡業について回り子役としてステージにも立っていたが、丈夫でなかったせいか本好きの子供だった。1940年両親が離婚、1947年スペインに渡りサラマンカの高校で学ぶ。50年代は母親が所属していた劇団で俳優として働き、テネシー・ウィリアムズのヒット戯曲『ガラスの動物園』で舞台演出家としてデビューを果たした。
★1957年アルゼンチンTVで仕事をしていた父親とのコラボを開始、エドガー・アラン・ポーやロバート・ルイス・スティーブンソンのTVシリーズを制作、舞台演出、ラジオなど共同で働いた。演劇は彼の学校であり大学でもあったが、次第に「役者より監督や脚本に魅了されていった」と語っている。1963年スペインに戻り、TV界で仕事を得る。ユーモアをちりばめたホラー・シリーズ「Historias para no dormir」(66)が1967年モンテカルロ・テレビ・フェスティバルで脚本賞を受賞、これはスペイン初のテレビ番組の国際賞だった。1968年、先輩監督ハイメ・デ・アルミニャンと共同執筆した「Historia de la frivolidad」が、最初はなかば秘密裏に放映されていたにも拘わらず批評家からも認められた。検閲制度をコミカルにパロディー化したもので、モンテカルロでも高評価だった。当時スペインはフランコ体制で、いかに検閲を潜り抜けるかに神経をすり減らしていた。ハイメ・デ・アルミニャンは、2014年にゴヤ賞栄誉賞を受賞している。
*ハイメ・デ・アルミニャンのゴヤ栄誉賞受賞の記事は、コチラ⇒2014年01月17日
(「Historias para no dormir」のポスター)
(「Historias para no dormir」撮影中のチチョ)
★ホラー・ファンタジー映画の代表作は、1969年の「La residencia」(英仏との合作)は、フアン・テバールの小説の映画化、ミステリー・ホラーということもあって邦題『象牙色のアイドル』として1972年6月に公開された。1976年の「¿ Quién puede matar a un niño ?」(「Who Can Kill A Child?」)は、2001年『ザ・チャイルド』の邦題でDVD化され、2008年に30周年特別版も発売されている。2013年にはメキシコでリメイクされているが、オリジナル版にあった政治的なテーマが消え、ホラー色が強くなっている。
(「La residencia」のポスター)
(オリジナル版「¿ Quién puede matar a un niño ?」のシーンから)
★また2006年TVムービー「Pelicula para no dormir」6作品の監修を手掛け、自身も「La culpa」(『産婦人科』)を監督した。このシリーズは「スパニッシュ・ホラー・プロジェクト」として全6作がWOWOWで放映され、スパニッシュ・ホラーのファンに歓迎された。因みに他の監督は、現在スペイン映画界を牽引している、アレックス・デ・ラ・イグレシア、エンリケ・ウルビス、ジャウマ・バラゲロ、パコ・プラサ、マテオ・ヒルの5人です。
(「La culpa」のポスター)
★愛煙家としてもつとに有名で、葉巻を常に手にしている。1970年制作会社「Prointel」を設立、今や伝説化している長寿TVゲームショー「Un dos tres.....responda otra vez」(1972~2004)をプロデュースした。上記のフェロス賞2017の他、2002年演劇賞ロペ・デ・ベガ賞、テレビ国民賞2010他、「Hablemos de sexo」で最優秀プログラム賞、金のアンテナ賞、アイリス賞など受賞歴は多数。
(葉巻を手放さないチチョ・イバニェス・セラドール)
★「チチョにとって何が怖い?」「仕事に挫折することだね」「じゃ、死は?」「もう怖くないよ」「生まれ変わったら何になりたい?」「同じ仕事を選ぶが、もっと良いのを作りたい」と「エル・ムンド」のインタビューに応えていた。
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