世代交代が進むスペイン映画界*2016年に見たい映画はどれか ― 2016年01月01日 15:30
スペイン映画はジャンルの垣根を取っぱらう?
★2015年のスペイン映画は、前年のようなヒット作が現れなかったせいか盛り上がらなかった。これは年初から予測されたことで驚かないが、思えば2014年が異例の年だったのだ。またベテラン勢、例えばイサベル・コイシェやアレハンドロ・アメナバルが海外の俳優を起用して〈英語〉で撮ったことも原因の一つでした。国際化を非難する気は毛頭ありませんが、吹き替えを嘘っぽく感じるようになったシネマニア、字幕入り映画を敬遠しがちな一般の映画ファンの存在は今後の課題、国際化のスピードに追いついていけないからです。サンセバスチャン映画祭の不振から当然予測されたことなのですが、スペイン映画アカデミーの前途は明るいとはいえない。しかし、マラガ映画祭では新人監督の台頭が目立ち世代交代の萌しを感じた。それが今年のゴヤ賞にはっきり現れたように思います。

(ジュリエット・ビノシュとイサベル・コイシェ、ベルリン映画祭にて)
★ゴヤ賞2016のノミネーションを一瞥して感じるのは、「スペイン映画アカデミーが意識して世代交代に舵をとった」ということでした。作品賞5作品のうち若手の監督パウラ・オルティスと新人ダニエル・グスマンの二人がノミネートされている。特に前者の第2作目“La novia”は最多の12個、サンセバスチャン映画祭「サバルテギ」部門上映後、つい最近の12月11日に封切られたばかりです。人気のマリベル・ベルドゥを主役にしたデビュー作“De tu ventana a la mía”(2011)が高い評価を受けて、第2作が待たれていた監督ですが、管理人にはちょっとしたサプライズです。4月に開催されたマラガ映画祭の作品賞・監督賞ほかを受賞した後者“A cambio de nada”も作品賞のノミネーションは予想しませんでした。

(パウラ・オルティス監督)
★下の写真はサンセバスチャン映画祭2015のときに撮られたもので、アグスティ・ビリャロンガ、イマノル・ウリベ、フェルナンド・コロモなどのベテランは別として、多くが1960年代~70年代後半に生まれたシネアストです。ゴヤ賞2016に絡んだ監督の顔も散見されますが、これからのスペイン映画界の担い手たちと称して間違いない。生年順に列挙しますと(生年・出身地・作品、ノミネーション数)、
*フェルナンド・コロモ(1946,マドリード、“Isra bonita”)1個
*アグスティ・ビリャロンガ(1953、パルマ・デ・マジョルカ、
『ザ・キング・オブ・ハバナ』)3個
*アレックス・デ・ラ・イグレシア(1965,ビルバオ、
『グラン・ノーチェ!最高の大晦日』)4個
*セスク・ゲイ(1967、バルセロナ、“Truman”)7個
*アシエル・アルトゥナ(1969,ギプスコア、“Amama”)1個
*マルク・レチャ(1970、バルセロナ、“Un dia perfecto para volar”)無し
*ダニ・デ・ラ・トーレ(1975、ルゴ、『暴走車 ランナウェイ・カー』)8個
*パウラ・オルティス(1979、サラゴサ、“La novia”)12個
★写真には写っていないがノミネーション受けた主な監督には、
*フリオ・メデム(1958,サンセバスチャン、“Ma ma”)3個
*イサベル・コイシェ(1960,バルセロナ、“Nadie quiere la noche”)9個
*フェルナンド・レオン・デ・アラノア(1968,マドリード、“Un dia perfecto”)8個
*ダニエル・グスマン(1973,マドリード、“A cambio de nada”)6個
*フアン・ミゲル・デル・カスティージョ(1975、“Techo y comida”)3個
*ハビエル・ルイス・カルデラ(1976,バルセロナ、『SPY TIMEスパイ・タイム』)2個
*ボルハ・コベアガ(1977,サンセバスチャン“Negociador”)1個
*レティシア・ドレラ(1981、バルセロナ、“Requisitos para ser una persona normal”)3個

(サンセバスチャン映画祭の宣伝に集合したシネアストたち、2015年9月)
など。かつての若き獅子たち、メデムやコイシェ、レオン・デ・アラノアはベテラン監督入りしている感がある。コメディやスリラーが映画産業の要になっているのは事実だが、「適正な資金があれば、良質の映画を作るのにジャンルなんか関係なく上手くやっていける」(ダニ・デ・ラ・トーレ)、デ・ラ・イグレシアも「わたしたちの映画が評価されるのはその異質性だ。それぞれ自分のゴールを目指そう。違いこそ重要だ」と語っている。
★1月下旬に劇場公開されるハビエル・ルイス・カルデラの『SPY TIMEスパイ・タイム』は、フランコ政権下に出版されたマヌエル・バスケス・ガジェゴのコミックの映画化、スペインでは9月に公開され、お堅い批評家、コメディ・アクション大好きな観客両方に受け入れられた。主人公アナクレトにイマノル・アリアス、その息子にキム・グティエレスと文句なしの演技派を起用した。ルイス・カルデラ作品は何本か公開されていて、日本でもファンが多い。年末ジャンボもお年玉ハガキも当たらなかったのでスカッとしたい方にお薦めです。これからゴヤ賞ノミネーション作品のご紹介を授賞式に間に合うようアップしていきますが、本作も魅力の一端をと思っています。

(アナクレト父子、『SPY TIMEスパイ・タイム』ポスター)
★当ブログも今年で3回めの新年を迎えることができました。記述などに間違いがありましたらご指摘ください。ノミネーション12個に敬意を表してパウラ・オルティスの“La novia”から、ぼつぼつ始めます。
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