金のメダル2015発表*スペイン映画アカデミー ― 2015年08月01日 11:27
アイタナ・サンチェス≂ヒホンとフアン・ディエゴ
★先日、フェルナンド・トゥルエバが国民映画賞を受賞するニュースをお届けしたばかりですが、今回はスペイン映画アカデミー金のメダル*受賞者のお報せです。各年1名ですが、今年はアイタナ・サンチェス=ヒホンとフアン・ディエゴの二人がアナウンスされました。授賞式は10月、2回前の2013年から同日午前中にアカデミー本部でメダル授与が各メディアに公開され、夜にガラがあります。受賞対象者は国民映画賞と同じ、製作者、監督、脚本家、俳優、音楽家、撮影者などオール・シネアスト。

*メダルの正式名は:Medalla de Oro de la Academia de las Artes y las
Ciencias Cinematográficas de España と長たらしい。通称金のメダルです。1991年から始まり、第1回受賞者はフェルナンド・レイでした。内戦前のスペイン映画界に寄与した製作会社 CIFESA の設立者であったビセンテ・カサノバに敬意を表して、1986年に設けられた賞が前身。
★昨年は作曲家のアントン・ガルシア・アブリルと日本での知名度が低かったので記事に致しませんでした。最近の受賞者、アンヘラ・モリーナ(13、女優)、マヌエル・グティエレス・アラゴン(12、監督)、ホセ・ルイス・アルカイネ(11、撮影監督)、ロサ・マリア・サルダ(10、女優)、カルメン・マウラ(09、同)、マリベル・ベルドゥ(08、同)、ほかジェラルデン・チャップリン(06)、コンチャ・ベラスコ(03)など女優の受賞者が目立ちます。
★メダルのデザインには2回変更があり、現在のは1996年、スペインを代表する画家アントニオ・ロペスがデザインしたものが定着しています。エリセのドキュメンタリー『マルメロの陽光』(92)の主人公です。1996年はスペイン映画100周年の節目の年、『光と影 スペインシネマ100年』が製作された年でもありました。本作は1997年、日本スペイン協会創立40周年記念行事の一環として「スペイン映画祭」が開催された折りに上映されました。
★アイタナ・サンチェス=ヒホン:1968年ローマ生れ、映画・舞台女優。父は歴史学教授、スペイン語翻訳者(2007年没)、母はイタリアの数学教授という学者一家の生れ。アイタナという名前はスペイン文学「27年世代」を代表する詩人で戯曲家のラファエル・アルベルティの娘の名前から取られた。日本登場はアルフォンソ・アラウの『雲の中で散歩』(95、米)、イタリア映画のリメイク版、後のオスカー撮影監督エマニュエル・ルベッキの映像美やキアヌ・リーヴスが出演していたことで話題になった。アラウ監督は『赤い薔薇ソースの伝説』を撮った監督。マヌエル・ゴメス・ペレイラの『電話でアモーレ』(95、西)ではハビエル・バルデムとタッグを組んだ。しかしビガス・ルナの『裸のマハ』のアルバ公爵夫人役が忘れがたい。他に役に合わせて30キロ減量したというクリスチャン・ベールと共演したサイコ・スリラー『マシニスト』、ルイス・プエンソの『娼婦と鯨』(04)のように未公開だがDVD発売の作品もあり、比較的知られているほうか。最近は映画を離れて舞台に専念、7月下旬に開催された「メリダ演劇フェスティバル」でギリシャ悲劇『メデア』に出演した。それが金のメダル受賞の喜びの談話に現れている。

★受賞は、「もしかして間違いではないかと当惑しています。映画ではあまり知られていないから。でも映画界の方々が私を評価してくれたことに元気づけられました」と。加えて「大先輩のフアン・ディエゴと一緒に受賞できるなんて、彼は私の代父、16歳でデビューしたときいろいろ相談にのってくれ、スタニスラフスキー・システムの本を贈って支えてくれた」とも。スペイン映画アカデミーの女性初の会長を務めた(1999~2000)から、「当惑している」は謙遜です。
★フアン・ディエゴ:1942年セビーリャのボルムホス生れ。農作業がイヤで田舎を飛び出し、18歳でセビーリャの舞台に立ったのが病みつきとなる。それ以来役者が天職と俳優一筋の人生を歩む。まだゴールデン・メダルを貰っていなかったなんて、トゥルエバが国民映画賞を貰っていなかったと同様驚きです。好きな俳優ということもあって折々にご紹介してきましたが、マラガ映画祭2014でチェマ・ロドリーゲスの“Anochece en la India”で最優秀男優賞を受賞した記事に詳しい。なかで忘れられないのが、マリオ・カムスの『無垢なる聖者』(84)、故ガルシア・ベルランガの“París Tombuctú”(99)、サウラの“La
noche oscura”(89)、引退宣言してしまったオスカー監督ホセ・ルイス・ガルシの“You’re the one”(00)、故ビガス・ルナの『ハモン・ハモン』(92)、初のゴヤ賞主演に輝いた“Vete de mí”(06)などか。
◎マラガ映画祭2014の記事や輝かしい受賞歴&作品紹介は、コチラ⇒2014年04月21日

★受賞談話を要約すると、「とても嬉しい、アイタナにとっても私自身にとっても、どの賞よりも素晴らしい賞だからね。何が人の心を打つかは人さまざまだと思うけど、これは運命なんだ。星のめぐり合せが良かったとも言えるし、仲間たちからのプレゼントだとも言える・・・現在はとてもワクワクしている。ずっと前から待っていたからね。役者をつづけるには、いい脚本に出合うことだ」と語った。ホンが決め手ですね。
サンセバスチャン映画祭2015*ノミネーション発表(スペイン作品) ③ ― 2015年08月04日 17:32
近年になくスペイン映画のノミネーションが多い
★7月22日、マドリードのアカデミー本部でサンセバスチャン映画祭2015のノミネーション発表がありました。既に当ブログでご紹介した作品も何作か目に入りましたが、これからぼちぼち気になる作品をアップしていきますが、取りあえずメモランダムに、タイトル・監督・製作国・キャストの順で大枠だけ載せておきます。(★は作品紹介する予定のもの)
*オフィシャル・セレクション*
◎Amama アシエル・アルトゥナ(スペイン)
出演:イライア・エリアス、アンパロ・バディオラ、アンデル・リオウス、マヌ・ウランガ他

◎El Apóstata フェデリコ・ベイロフ(西・ウルグアイ・仏)
出演:アルバロ・オガリャ、バルバラ・レニー、マルタ・ララルデ、ビッキー・ペーニャ他

◎Un dia perfecte per volar(Un día perfecto para volar)マルク・レチャ(スペイン)
出演:ロック・レチャ(監督息子)、セルジ・ロペス

◎Eva no duerme パブロ・アグエロ(アルゼンチン・仏・西)
出演:ガエル・ガルシア・ベルナル、デニス・ラバント、イマノル・アリアス他
◎El rey de La Habana アグスティ・ビリャロンガ(西・ドミニカ共和国)★
出演: マイコル・ダビ・トルトロ、ヨルダンカ・アリオサ、エクトル・メディナ他
トレビア:ドミニカ共和国の首都サント・ドミンゴで撮影。『ブラック・ブレット』の監督。

◎Truman セスク・ゲイ(西・アルゼンチン)★
出演:リカルド・ダリン、ハビエル・カマラ、ドロレス・フォンシ、忠犬トルーマン
トレビア:『クランパック』(東京国際レズ&ゲイ映画祭2000上映、シネフィル・イマジカで『ニコとダニの夏』として放映された)、『イン・ザ・シティ』(ラテンビート2004上映)のバルセロナ派の監督。

*コンペティション外*
◎Mi
gran noche アレックス・デ・ラ・イグレシア(スペイン)★
出演:カルロス・アレセス、カロリーナ・バング、マリオ・カサス、カルメン・マチ、テレレ・パベス、ウーゴ・シルバ、ペポン・ニエト他
トレビア:歌手ラファエルとのコラボが実現、デ・ラ・イグレシア学校のお馴染みさん総出演のコメディ。(写真下:打ち合わせ中の監督とラファエル)
*本作は既にアップしています。コチラ⇒2015年3月14日

*特別上映セクション*
◎Lejos
del mar イマノル・ウリベ(スペイン)★
出演:エレナ・アナヤ、エドゥアルド・フェルナンデス、ベロニカ・モラル、オリビア・デルカン、ホセ・ルイス・ガルシア・ペレス、他
トレビア:ETAをテーマにしたラブ・ストーリー。『時間切れの愛』や『キャロルの初恋』が代表作。問題作『ミケルの死』も第1回スペイン映画祭1984で上映されたバスク映画の重鎮。
*本作は既にアップしています。コチラ⇒2014年11月30日

◎No
estamos solos ペレ・ジョアン・ベントゥラ(スペイン)★
出演:アンサンブル・ドラマ(合唱劇)

*ニューディレクターズ*
◎Paula エウヘニオ・カネバリ(アルゼンチン・西)
トレビア:ブルジョア家族の牧場で子守をして働く娘パウラの物語。父親の責任をとろうとしない男の子供を身ごもっている。昨年の「Cine en Construccion」に出品、長編初監督作品。2013年には「国際映画学生ミーティング」部門に“Gorila baila”(15分)が出品された。このセクションはだいたい10~20分の短編が上映される。

◎Pikadero ベン・シャーロック(西・英)
出演:バルバラ・コエナガ、Joseba Usabiaga
トレビア:お金がないため両親の家に居候して過ごしている若いカップルの物語。経済問題が足枷となって、次々におきる難問に二人の愛も風前のともし火、ロマンティック・コメディ。
*ホライズンズ・ラティノ*
◎El
botón de nácar パトリシオ・グスマン(チリ・西・仏)ドキュメンタリー
トレビア:本作がベルリン映画祭2015で脚本賞を受賞した折りに作品並びに監督紹介をしております。公開までに時間が掛かりましたが、評価の高かったドキュメンタリー『光、ノスタルジア』(2010)が今秋10月に岩波ホールで公開の運びとなりました。
*ベルリン映画祭2015「脚本賞」受賞の記事は、コチラ⇒2015年2月26日

◎Magallanes サルバドル・デル・ソラル(ペルー・アルゼンチン・コロンビア・西)★
出演:ダミアン・アルカサル(マガジャネス)、マガリ・ソリエル(セリナ)、フェデリコ・ルッピ、クリスティアン・メイエル、タチアナ・アステンゴ
トレビア:マガジャネスはタクシー運転手、彼の車に乗り込んだきた女性客に見覚えがあった。記憶は兵士だった20年前に遡る。農婦セリナとの間には未解決の事件があった。骨太の政治スリラー。「Cine en Construccion」2014年の最優秀作品賞を受賞した。サルバドル・デル・ソラルは1970年リマ生れ、俳優として出発、初監督にしてはメキシコ、アルゼンチンのベテランを起用できた理由が長い俳優歴。マリオ・バルガス=リョサの小説をフランシスコ・J・ロンバルディアが映画化した『パンタレオン大尉と女たち』(未公開、ビデオ『囚われの女たち』)で主役を演じた。

★このセクションはラテンアメリカ諸国が参加する、上記2作はあくまでもスペインが製作国に参加した作品。別途全作をアップします。
*サバルテギ*
◎Un
día vi 10.000 elefantes アレックス・ギマラ&フアン・パハレス(スペイン)
アニメ・ドキュメンタリー
出演:Gorsy Edu声(アンゴノ・ンムバAngono Mba)
トレビア:資料映像や写真、両監督の手になるアニメーションをミックスさせた意欲的なドキュメンタリー。1944年から2年間、旧スペイン領ギニア(現在の赤道ギニア共和国)にあるという神秘的な湖を探して撮影隊を組織して現地に赴いたマヌエル・エルナンデス・サンフアン監督を描いたドキュメンタリー。1万頭の象を見ることになるだろう。遠征隊のポーターをつとめたのがアンゴノ・ンムバとその子供たち。映画は彼のナレーションで進行する。

◎Isla bonita フェルナンド・コロモ(スペイン)
出演:フェルナンド・コロモ、ティム・Bettermann、オリビア・デルカン、リリアナ・カロ、ヌリア・ロマン、ミゲル・アンヘル・フロネス
トレビア:フェルナンドは最近危機に陥っているベテランの広告業者。友人ミゲル・アンヘルからメノルカ島(バレアレス諸島の一つ)に招待される。そこで反体制派の彫刻家ヌリアとその娘オリビアと再び出会うことになるだろう。

◎Mi
querida España メルセデス・モンカダ(スペイン)ドキュメンタリー
出演:ヘスス・キンテロ
トレビア:ヘスス・キンテロ、スペインのラジオ・テレビ界を代表するジャーナリスト、司会者、名インタビュアー。民主主義時代の原資料を含む放送・未放送の映像で構成された目で見る現代スペイン史。
◎La novia パウラ・オルティス(西・トルコ・独)
出演:インマ・クエスタ(花嫁)、アシエル・エクステアンディア(花婿)、レティシア・ドレラ(レオナルドの妻)、アレックス・ガルシア(レオナルド)、マリアナ・コルデロ(姑)
トレビア:オルティスの第2作め、花嫁は花婿との婚礼を前にして惨めさと不安に悩んでいた。目に見えない残酷で遮ることができない運命の糸に操られて、花嫁とレオナルドが結びつく。お馴染みロルカの戯曲『血の婚礼』を下敷きにした作品。

◎The
Propaganda Game アルバロ・ロンゴリア(スペイン)ドキュメンタリー
トレビア:北朝鮮が舞台にびっくりする。さらに実際に現地で撮影されたとは尚更である。共産主義政府のために働く唯一人の外国人アレハンドロ・カオ・デ・ベノスが特別に許可を貰って撮影した貴重なフィルム。真実を操作するための<ギャンブラーたち>が利用する戦略や誤って伝えられる情報を分析している。真実を知るための困難さについてのドキュメンタリー。

◎Duellum Tucker
Davil Wood (スペイン)短編
トレビア:森の中の決闘、ある平凡な一日。
*サバルテギZabaltegiは、バスク語で「自由」という意味、というわけでそれこそ言語やジャンル、長編短編を問わず自由に約30作品ほどが選ばれるセクションです。今回は合作を含めスペインから6作が上映される。
*ベロドロモ*
◎El
desconocido ダニ・デ・ラ・トーレ(スペイン)スリラー
出演:ルイス・トサール、ゴヤ・トレド、ハビエル・グティエレス

*ベロドロモVelódromoは、英語のvelodromeと同じくスペイン語でも「競輪場」を指します。作品は3~5作品と少なく皆で楽しめる娯楽アクションものが多い。3000人収容の大型スクリーンで上映、かつてアレックス・デ・ラ・イグレシアの『スガラムルディの魔女』もここで上映された。
第72回ベネチア映画祭2015*ノミネーション発表 ① ― 2015年08月07日 11:58
アルゼンチンとベネズエラの映画がコンペにノミネーション
★今年のベネチアは9月2日開幕、金獅子を競うコンペティション部門には、イタリア映画4作品を含めて21作がノミネーションされた(7月29日発表)。スペイン語映画は2作品。スペインはゼロ、アルゼンチンのパブロ・トラペロの“El clan”にアルモドバル兄弟の「エル・デセオ」が参画しているから、あると言えばあるのかな。もう一つはベネズエラのロレンソ・ビガスの“Desde allá”だけです。

★サンセバスチャン映画祭と同じ9月に開催されるから、スペイン語映画はどうしても少ない。場所もリド島と足の便が悪いうえに(水上バスを利用、蚊が多くて蚊取り線香が必需品とか)、開催時期はホテル代も高騰、レストランでの食事代も跳ね上がるから、お金のないスペインでは取材記者にも歓迎されない。自国のサンセバスチャンは料理もスペイン一美味しいし、レストランも節度を守って値段が高騰することはない。ホテルが会場近くに取れないのは致し方ない。消費税増税でチケット代が高くなったが、それでも日本ほど非常識ではない(笑)。
★マルコ・ベロッキオ、イエジー・スコリモフスキ、アモス・ギタイなどの大物から、アトム・エゴヤン、アレクサンドル・ソクーロフなど、カンヌの常連さんも目についた。日本ではソクーロフは35ミリフィルム全16作品の特集が組まれたほどコアなファンが多い。他に『闇の列車、光の旅』の日系アメリカ人キャリー・フクナガの名もあったが、これは英語ですね。
★審査委員長は、メキシコのアルフォンソ・キュアロン監督、オスカー受賞の『ゼロ・グラビティ』は、2013年のオープニング作品だったし、『天国の口、終りの楽園』では脚本賞、G.G.ガエルとディエゴ・ルナが新人賞にあたるマルチェロ・マストロヤンニ賞を受賞するなど、ベネチアとは縁が深い。ほか審査員もキラ星のごとく並んで豪華版、どう折り合いをつけるかキュアロンも大変だ。
“El clan”(“The
Clan”)アルゼンチン=スペイン 2015
製作:Kramer
& Sigman Films / Matanza Cine / El Deseo / Telefe / INCAA / ICAA 他
監督・脚本:パブロ・トラペロ
撮影:フリアン・アペステギア
衣装:フリオ・スアレス
データ:スペイン語、自伝・スリラー、撮影ブエノスアイレス、配給元20世紀フォックス
公開:アルゼンチン8月13日、ウルグアイ9月3日、チリ9月24日、ペルー12月3日
キャスト:ギジェルモ・フランセージャ(アルキメデス・プッチオ)、ピーター・ランサニ(息子アレハンドロ)、リリ・ポポビッチ、他

解説:1980年代に多くの人を営利誘拐、多額の現金を手にした後に殺害していた誘拐団プッチオの実話にインスパイアーされて製作された。プッチオ親子は実在の人物であるが映画はフィクション。プッチオ家の住居はサン・イシドロにあり、階下を水上スポーツ用品の店舗にしていた。人質を監禁していた地下室は外部に物音が漏れないよう密閉されていた。何故プッチオがこのような凶悪な犯罪を繰り返していたかの本当の理由が明らかにされるが、1976年まで時間を遡っていくことになる。

★アルキメデス・プッチオにカンパネラの『瞳の奥の秘密』でリカルド・ダリンの相棒になって洒脱な演技を披露したギジェルモ・フランセージャが扮した。アルゼンチンのお茶の間では知らない人がいないといわれるコメディアン、そのミスマッチも楽しめるか。
★パブロ・トラペロ監督は、昨年のカンヌ映画祭「ある視点」の審査委員長を務めたときにご紹介しました。そのときの記事に追加訂正して再録します。
1971年ブエノスアイレス州サン・フスト生まれ。製作者、監督、脚本家、エディター、俳優と多彩。2000年に『檻の中』の主演女優マルティナ・グスマンと結婚、出演した赤ん坊は二人の実子。2002年に第2作“El bonaerense”を公開するため製作会社「マタンサ・シネMatanza Cine」をグスマンと設立、自身の『檻の中』『カランチョ』他を手掛けている。カンヌ映画の常連の一人。

*フィルモグラフィー*
1999 Mundo grúa 国内映画賞以外の受賞、ヴェネチア映画祭Anicaflash 賞、ロッテルダム映画祭2000タイガー賞、ハバナ映画祭1999特別審査員賞を各受賞、ゴヤ賞2000ノミネートなど多数
2002 El bonaerense (ブエノスアイレス出身者の意味) カンヌ映画祭「ある視点」出品、シカゴ映画祭2002国際映画批評家連盟賞受賞、グアダラハラ映画祭、カルタヘナ映画祭、多数。
2004 Familia rodante コメディ、ロード・ムービー
2006 Nacido
y criado ドラマ
2008 Leonera『檻の中』カンヌ映画祭コンペ正式出品、アリエル賞2009受賞、ハバナ映画祭特別審査員賞受賞、他多数。「ラテンビート2009」上映
2010 Carancho『カランチョ』カンヌ映画祭「ある視点」出品、サンセバスチャン映画祭、「ラテンビート2010」などで上映
2012 Elefante blanco『ホワイト・エレファント』カンヌ映画祭2012「ある視点」出品、「ラテンビート2012」上映
2012 7 días en La Habana 『セブン・デイズ・イン・ハバナ』(7人の監督のオムニバス)
カンヌ映画祭2012「ある視点」出品、2012年8月公開
★次回はベネズエラの新進監督ロレンソ・ビガスの“Desde allá”と、オリゾンティ部門のロドリーゴ・プラの“Un monstruo de mil cabezas”(メキシコ)、映画祭と並行して開催される「ベニス・デイ」で上映されるカルロス・サウラ、チリのマティアス・ビゼなどの作品を予定しています。因みにサンセバスチャン映画祭のベロドロモ(大型スクリーン)で上映されるダニ・デ・ラ・トーレのスリラー“El
desconocido”がオープニングに選ばれています。サンセバスチャンに先駆けての上映となります。
第72回ベネチア映画祭2015*ノミネーション発表 ② ― 2015年08月08日 18:35
ベネズエラ初のコンペティションに選ばれたロレンソ・ビガスの快挙
★初監督作品とはいえビガス監督はベテランです。前回パブロ・トラペロの“El clan”をご紹介いたしましたが、彼と同じ傾向の気難しい社会派監督の印象です。今年のベネチアは世界の巨匠たち、粒揃いの力作が目立ちますが、「アレクサンドル・ソクーロフ、アトム・エゴヤン、それにアモス・ギタイと同じ土俵で競うなんて、本当に凄い。まだノミネーションが信じられない。デビュー作が三大映画祭のコンペティションに選ばれるなんてホントに少ないからね」とビガス監督もかなり興奮しています。まずは作品紹介から。
“Desde allá”ロレンソ・ビガス、ベネズエラ、2015
製作:Factor
RH Producciones / Lucia Films / Malandro Films
監督・脚本・プロデューサー:ロレンソ・ビガス
脚本(共同):ギジェルモ・アリアガ
撮影:セルヒオ・アームストロング
プロデューサー:ギジェルモ・アリアガ、ミシェル・フランコ、ロドルフォ・コバ、エドガー・ラミレス(エグゼクティブ・プロデューサー)、ガブリエル・リプステイン(同)
データ:ベネズエラ=メキシコ、スペイン語、2015、ドラマ、93分
キャスト:アルフレッド・カストロ(アルマンド)、ルイス・シルバ(エルデル)、カテリナ・カルドソ、ホルヘ・ルイス・ボスケ、スカーレット・ハイメス、他初出演者多数
プロット:歯科技工士アルマンドの愛の物語。アルマンドはバス停留所で若い男を求めて待っている。自分の家に連れ込むためにはお金を払う。しかし一風変わっていて、男たちが彼に触れることを受け入れない。二人のあいだにある「エモーショナルな隔たり」からのほのめかしだけを望んでいる。ところが或るとき、彼を殴打で瀕死の状態にした男に出会ったことで、彼の人生は突然破滅に向かっていく。タイトルの“Desde allá”は「遠い場所から」触れることのない関係を意味して付けられた。

トレビア:短編“Los
elefantes nunca olvidan”から十年余の沈黙を破って登場した長編は、プロットからも背景に政治的なメタファーが隠されているのは明らかです。ベネズエラのような極端な階層社会では今日においても起こりうることだと監督。プロデューサーの顔ぶれからも想像できるように、ベネズエラ(エドガー・ラミレス『解放者ボリバル』、ロドルフォ・コバ“Azul y no tanto rosa”)、メキシコ(ギジェルモ・アリアガ『21グラム』『アモーレス・ペロス』、ミシェル・フランコ『父の秘密』“Chronic”)と、ベテランから若手のプロデューサーや監督が関わっている(E・ラミレスはボリバルに扮した)。本作と短編、既にタイトルも決まっている次回作“La caja”の3本を合わせて三部作にしたい由。
*主役のアルフレッド・カストロはチリのベテラン俳優、パブロ・ララインのピノチェト三部作ほか殆ど全作に出演しており、当ブログでも再三登場してもらっています。他のキャストはテレビや脇役で映画出演しているだけのC・カルドソやS・ハイメス以外は、本作が初出演のようです。監督によると、エルデル役のルイス・シルバは映画初出演ながら、ガエル・ガルシア・ベルナルのようなスーパースターになる逸材とか。しかし、かなり厳しい内容なのでベネチアの審査員や観客を説得できるかどうか。(アルフレッド・カストロ、映画から)

*監督キャリア
& フィルモグラフィー紹介*
★ロレンソ・ビガスLorenzo Bigas Castes:1967年ベネズエラのメリダ生れ、監督、脚本家、製作者。クリスチャン・ネームは一応スペイン語表記にしましたが、イタリア語のロレンツォかもしれません。大学では分子生物学を専攻した変わり種。それで「分子生物学と映画製作はどう結びつくの?」という質問を度々受けることになる。後にニューヨークに移住、1995年ニューヨーク大学で映画を学び、実験的な映画製作に専念した。1998年ベネズエラに帰国、ドキュメンタリー“Expedición”を撮る。1999年から2001年にかけてドキュメンタリー、CINESA社のテレビコマーシャルを製作、2003年、初の短編映画“Los elefantes nunca olvidan”(13分、プレミア2004年)を撮り、カンヌ映画祭2004短編部門で上映され、高い評価を受ける。共同製作者としてメキシコのギジェルモ・アリアガ、撮影監督にエクトル・オルテガが参画して撮られた。その後メキシコに渡り長編映画の脚本を執筆、それが今回ベネチア映画祭ノミネーションの“Desde allá”である。

2004“Los elefantes nunca olvidan”短編、監督・脚本・製作、製作国メキシコ、スペイン語。カンヌ映画祭の他、モレリア映画祭、ウィスコンシン映画祭で上映される(写真下)。
2015“Desde allá”長編第1作、監督・脚本・製作

*関連記事・管理人覚え
『解放者ボリバル』の記事は、コチラ⇒2013年9月16日/2014年10月27日
“Azul
y no tanto rosa” ゴヤ賞2014イベロアメリカ部門紹介記事は、コチラ⇒2014年1月15日
『父の秘密』の記事は、コチラ⇒2013年11月20日
“Chronic” カンヌ映画祭2015の記事は、コチラ⇒2015年5月28日
第72回ベネチア映画祭2015*オリゾンティ部門ノミネーション ③ ― 2015年08月10日 17:02
ロドリーゴ・プラの第4作“Un
monstruo de mil cabezas”はスリラー
★ロドリーゴ・プラはベネチア映画祭で世界に躍り出た監督、だからベネチアとは相性がいい。長編デビュー作“La zona”(2007)は、ベネチア映画祭2007で初監督作品に贈られる「ルイジ・デ・ラウレンティス賞*」、「平和のための映画賞」、「ローマ市賞」の3賞を手にした。更にトロント映画祭で審査員賞、翌年のマイアミ、サンフランシスコ両映画祭で観客賞を受賞した。
*1996年に新設された賞、イタリアのプロデューサー、ルイジ・デ・ラウレンティス(1917~92)の名をを冠した賞。ベネチア映画祭のコンペティション部門、オリゾンティ部門以下、上映された全長編作品が対象になる。

“Un
monstruo de mil cabezas”メキシコ、2015
製作:Buenaventura
監督・プロデューサー:ロドリーゴ・プラ
脚本:ラウラ・サントゥリョ
撮影:オデイ・サバレタ(初長編)
音楽:レオナルド・ヘイブルム(『マリアの選択』)、ハコボ・リエベルマン(“Desierto adentro”)
プロデューサー(共同):アナ・エルナンデス、サンディノ・サラビア・ビナイ
データ:メキシコ、スペイン語、2015、スリラー、75分、撮影地メキシコ・シティー
キャスト:ハナ・ラルイ、セバスティアン・アギーレ・ボエダ、エミリオ・エチェバリア、ダニエル・ヒメネス・カチョ、マルコ・アントニオ・アギーレ、ハロルド・トーレス、マリソル・センテノ、ウーゴ・アルボレス、他
プロット:癌でむしばまれた夫を看病する妻ソニアの物語。夫は公的医療のシステムの不備や怠慢、さらに汚職の蔓延で適切な治療を受けられない。絶望の淵にあるソニアは他の方法を取ることを決心する。息子を一緒に連れていくことにする。前作『マリアの選択』のテーマを追及する社会派スリラー。

(映画“Un
monstruo de mil cabazas”から)
トレビア:前作『マリアの選択』は、監督夫妻の故郷モンテビデオが舞台だったが、第4作はメキシコに戻ってきた。というわけでデビュー作“La zona”の主役ダニエル・ヒメネス・カチョと再びタッグを組んでいる。彼は日本で一番知られているメキシコの俳優ではないかと思う。マドリード生れのせいかアルモドバル(『バッド・エデュケーション』)、パブロ・ベルヘル(『ブランカニエベス』)などスペイン映画出演も多い。それこそ聖人から悪魔までオーケーのカメレオン俳優、アリエル賞のコレクター(5個)。他の俳優もメキシコのTVドラで活躍している人で占められている。簡単なストーリーしか発表されていないが、ウルグアイの老人医療、認知症になった親の介護問題に迫った前作『マリアの選択』に繋がる作品ではないかと思う。
★脚本を手掛けたラウラ・サントゥリョは作家でもあり、本作は2013年Estuario社から刊行された同名小説の映画化、デビュー作から監督と二人三脚で映画作りをしている(彼女は監督夫人である)。音楽監督のレオナルド・Heiblumは、『マリアの選択』以外に、マルシア・タンブッチ・アジェンデの「我が祖父、アジェンデ」やディエゴ・ケマダ≂ディエスの『金の鳥籠』などを手掛けたベテラン。

(小説“Un monstruo de mil cabazas”の表紙)
*監督キャリア
& フィルモグラフィー*
★ロドリーゴ・プラRodrigo Plá:1968年、ウルグアイのモンテビデオ生れ、監督、脚本家、プロデューサー。「エスクエラ・アクティバ・デ・フォトグラフィア・イ・ビデオ」、後「カパシタシオン・シナマトグラフィカ」センターで脚本と演出を学んだ。以下フィルモグラフィーを参照。

(『マリアの選択』のポスターをバックに監督夫妻)
1996“Novia mía”短編、第3回メキシコの映画学校の国際映画祭に出品、メキシコ部門の短編賞を受賞、フランスのビアリッツ映画祭ラテンアメリカ部門などにも出品された。
2001“El ojo en la nuca”短編、グアダラハラ映画祭メキシコ短編部門で特別メンションを受ける。ハバナ映画祭、チリのバルディビア映画祭で受賞の他、スペインのウエスカ映画祭、サンパウロ映画祭などにも出品された。
2007“La zona”長編デビュー作、監督、脚本、製作、受賞歴は上記参照
2008“Desierto adentro”監督、脚本、製作、グアダラハラ映画祭2008で観客賞ほか受賞、
アリエル賞2009で脚本賞受賞
2010“Revolución”(10名の監督による「メキシコ革命100周年記念」作品)『レボリューション』の邦題でラテンビート2010で上映
2012“La demora” 『マリアの選択』の邦題でラテンビート2012で上映、ベルリン映画祭2012「フォーラム」部門でエキュメニカル審査員賞受賞、アリエル監督賞、ハバナ映画祭監督賞、ウルグアイの映画批評家連盟の作品賞以下を独占した。
2015“Un monstruo de mil cabezas”割愛
第72回ベネチア映画祭*カルロス・サウラ ④ ― 2015年08月11日 22:29
サウラのドキュメンタリー“Zonda:folclore
argentino”

★映画祭と並行して開催される「ベニス・デイ」で上映されるのがカルロス・サウラの音楽ドキュメンタリー“Zonda:folclore
argentino”です。『タンゴ』(98)、『イベリア、魂のフラメンコ』(05)、『ファド』(07)、『フラメンコ・フラメンコ』(10)などの音楽路線を踏襲しています。『ファド』ではポルトガル人からは「これはファドじゃない」と腐され、『フラメンコ・フラメンコ』は、日本では間際に行ったのでは満席で入れなかったのですが、マドリードの映画館はガラガラ、「スペインの映画は危機に瀕している」という記事では、このガラ空きの写真が採用されたほど評判が悪かった。危機に陥ったのはサウラ独りのせいじゃないと気の毒に思いましたが、サウラのフラメンコものは食傷気味でした。初期の『狩り』、『カラスの飼育』、『歌姫カルメーラ』の感動が忘れられないコラムニストが多かったのです。果たして本作は如何でしょうか。予告編、メーキングを見る限りでは『フラメンコ・フラメンコ』よりは面白そうです。既にアルゼンチンでは公開され、100点満点で52点、IMDb、ロッテントマトなども同じようです。

(製作者アレハンドロ・イスラエル、サウラ監督)
“Zonda:folclore
argentino” アルゼンチン、スペイン、フランス
製作:Barakacine
Producciones / INCAA / Mondex & cie
監督・脚本:カルロス・サウラ
音楽:リト・ビタレ
撮影:フェリックス“チャンゴ”モンティ
編集:セサル・クストディオ、ララ・ロドリゲス・ビラルデボ
美術:パブロ・マエストレ・ガジィ
録音:フェルナンド・ソルデビラ、アンドレス・ペルジニ
衣装:ラウラ・フォルティニ
メイクアップ:マルセラ・ビラルデボ
舞踊振付:コキ&パハリン・サアベドラ兄弟
プロデューサー:マリアナ・エリヒモビッチ(『ファド』)、アレハンドロ・イスラエル(『Juan y Eva』)、マルセロ・チャプセス、アントニオ・サウラ、他

(音楽監督のリト・ビタレ)

(歌手ソレダ・パストルッティ)
データ:アルゼンチン≂西≂仏、スペイン語、2015、音楽ドキュメンタリー、88分、撮影地ブエノスアイレス、配給元プリメル・プラノ、公開アルゼンチン2015年5月8日
出演:ペドロ・アスナール、フアン・ファルー、ソレダ・パストルッティ、ペテコ・カラバハル、チャケニョ・パラベシノス、マリアン・ファリアス・ゴメス、、リリアナ・エレーロ、ハイロ、オラシオ・ラバンデラ、ルシアナ・ジュリー、ガボ・フェロ、ベロニカ・コンドミ、トマス・リパン、メラニア・ペレス、マリアナ・カリソ、ハイメ・トーレス、ビクトル・マヌエル・アバロス、ポロ・ロマン、ルイス・サリナス、ワルター・ソリア、グルーポ・ロス・テキス、グルーポ・ロス・ノチェロス、他

(チャランゴ奏者ハイメ・トーレス)

(ガボ・フェロとルシアナ・ジュリー)
★“Zonda”は、アルゼンチンの大草原に吹く熱風のことで、直訳すると「パンパの熱風:アルゼンチン・フォルクローレ」くらいでしょうか。既に故人となっているアルゼンチン・フォルクローレの象徴的な存在であるアタワルパ・ユパンキ(“Preguntitas sobre Dios”「神についてのささやかな問い」モノクロ映像)とメルセデス・ソーサ(“Todo cambia”「すべては変わる」のライブ・バージョン)の歌も流れます。ブエノスアイレスのボカ地区に大きな掛け小屋を設えてジャンルの異なるアーチストごとに撮影したらしく、大変な作業だったことがうかがえます。

(アタワルパ・ユパンキとメルセデス・ソーサ)
ラテンビート2015*メインビジュアルが模様替え ① ― 2015年08月14日 16:06
上映3作品が発表になりました
★東京バルト9は、秋10月開催が恒例になりました。今年は10月8日(木)~12日(月祝日)の5日間、上映作品はまだ3作品だけの発表です。うちカンヌ映画祭「ある視点」部門にノミネーションされた“Las Elegidas”(メキシコ)が『選ばれし少女たち』の邦題で上映がアナウンスされました。これについては「もしかして、ラテンビート・・・」と考えて、既に作品・監督・製作者・キャストを紹介しております*。以下は作品・監督などを簡単にアップいたします。

(メインビジュアルは、ハビエル・マリスカルのデザインになりました)
監督ピーター・グリーナウェイ、ロマンチック・コメディ、伝記、オランダ≂メキシコ≂フィンランド≂ベルギー≂仏、英語・西語、105分
*ベルリン映画祭2013正式出品作品、シアトル映画祭2015監督賞第3席

(中央の白背広がエイゼンシュタイン役のE・バック、帽子がパロミノ役のL・アルベルティ)
2)『選ばれし少女たち』“Las Elegidas”(2015)監督ダビ・パブロス
メキシコ、西語、105分
*カンヌ映画祭2015「ある視点」の記事は、コチラ⇒2015年5月31日

(中央が主役ソフィア役のナンシー・タラマンテス、映画から)
3)『Wolfpack』“The Wolfpack”(2015)監督クリスタル・モーゼル
ドキュメンタリー、伝記、米国、英語、90分

(アングロ6人兄弟と監督)
★これから追い追いアップされていくのでしょうが、全体像が発表されたら個別にぼちぼちご紹介していきます。
アメナバルの”Regression”が開幕上映*サンセバスチャン映画祭2015 ④ ― 2015年08月16日 11:48
「アメナバルが嫌いな映画祭があるかい?」とディレクター
★まあ、ないでしょうね(笑)。オープニング(9月18日)は大抵コンペティション外から選ばれますが、“Regresión”(西題)も同じコンペ外です。アメリカでは映画祭前の8月28日に公開予定、スペインは10月2日封切りがアナウンスされています。ドイツ10月1日、イギリスの10月9日と欧州各国で順次公開されます。

★今年初めに2015年公開される映画として既に記事をアップしており、キャスト、プロットなど基本データをご紹介しております。製作国は米国とスペイン、言語は英語、サンセバスチャンではスペイン語吹替え上映のようです(スペイン語の予告編あり)。製作国は米国とスペインですが、IMDbによるとスペイン、カナダとなっております。撮影がカナダのオンタリオ州ミシサガが中心だったせいかと思われます。また時代背景を1880年代とご紹介しておりますが、最近のエル・パイス紙やウィキィでは1990年代とあり、スリラーなのに肝心の内容まで錯綜しております(笑)。
*“Regression”の紹介記事は、コチラ⇒2015年1月3日

(エマ・ワトソンに演技指導をするアメナバル)
*劇場公開情報、岩波ホールで2作品一挙上映が決定*
★「ホライズンズ・ラティノ」部門でご紹介したパトリシオ・グスマンのドキュメンタリー“El botón de nácar ”(2014、チリ≂西≂仏)が、『真珠のボタン』の邦題で公開されることになりました。前作『光のノスタルジア』(2010、仏≂独≂チリ)と2本立て、前作は既に公開が決定しておりました。

(『光のノスタルジア』のポスター)
★新作『真珠のボタン』が、ベルリン映画祭2015で銀熊脚本賞を受賞した折りに作品並びに監督紹介をしております。前作は公開までに時間が掛かりましたが、評価の高かったチリのドキュメンタリーが10月10日から2作揃って公開の運びとなりました(11月20日まで)。地味なドキュメンタリーが一挙公開は珍しいケースかもしれません。公式サイトが立ちあがっております。一般1回券1500円、2回券は2800円と割引になります。
*ベルリン映画祭2015パトリシオ・グスマンの記事は、コチラ⇒2015年2月26日

アルモドバルの新作 ”Silencio” がクランクアップ ― 2015年08月18日 12:13
「アルモドバルが撮影してるってホント !? 」

★春5月にクランクイン、順調に撮影が終了したようです。撮影最終日の8月5日、マドリードのフェルナンドⅥストリートは、監督以下100名ほどからなるスタッフと野次馬で大騒ぎだったようです。俳優は主役のエンマ・スアレスとダリオ・グランディネッティの二人だけ。前もって現地には「映画撮影のため駐車禁止」の張り紙、ご近所の人はちょっと迷惑だが、知らずに通りかかった買い物客は「アルモドバルが撮影してるってホント?」「あの女優はエンマ・スアレスじゃないの」とびっくり。

(真夏にセーター姿のスアレスやグランディネッティと打ち合せする監督)
★昨今では街頭での撮影は、交通渋滞などで簡単に許可が下りないし、警備員の派遣など人手もお金も掛かるから敬遠されている。時代背景が現代なら走っている車種や通行人の服装など問題起きないが、本作のように1980年代から現代までと30年間に及ぶから、ブティックの経営者に「できたらショーウィンドーの洋服を80年代のに換えて頂けませんか」と頭を下げねばならない。役者も暑い盛りに毛糸のセーター姿ではラクではありません。
★本作が長編第20作目になる。未公開は多分デビュー作『ペピ・ルシ・ボン~』(ラテン・ビート2004上映)と『グロリアの憂鬱』(1984、DVD発売2004)だけだと思います。後者はカルメン・マウラが主役ということもあって10年後にDVD化されたが、予想外のタイトルで原題“Qué he hecho yo para merecer esto ?”と結びつかず発売に気づかなかった。民主化移行期後のスペインを切り取った、アルモドバルにとっても転機となる作品でした。80年代をテーマにすることが多く、新作もそこから始まる。「メロドラマではなく、ユーモアの入る隙もないシリアス・ドラマ」と監督。傾向としては外国語映画にも拘わらずアカデミー脚本賞を受賞した『トーク・トゥ・ハー』(2002)に近い印象を受けるのですが、期待していていいでしょうか。これにはダリオ・グランディネッティも出演してますね。音楽もアルベルト・イグレシアスと同じです。
★来年3月18日の公開を目指して撮影は順調に進んだようです。何しろ「カンヌ映画祭2016」(5月11日~22日)の正式出品が完成前から決まっており、上映日は5月18日、遅らすわけにはいきません(笑)。もう何年も前からカンヌに合わせて製作しており、サンセバスチャン映画祭との関わりでは『オール・アバウト・マイ・マザー』と『ボルベール』が国際映画批評家連盟賞を受賞しただけです。映画新情報として本作を記事にした3月には、まだIMDbにもロッシ・デ・パルマしか載っていませんでしたが、現在では下の写真にあるような顔ぶれが出演者です。

キャスト:エンマ・スアレス、アドリアナ・ウガルテ、ロッシ・デ・パルマ、インマ・クエスタ、ナタリエ・ポソ、ミシェル・ジェンナー、プリシラ・デルガド、スシ・サンチェス、ピラール・カストロ、ダニエル・グラオ、ホアキン・ノタリオ、ダリオ・グランディネッティ、他
★主役のフリエタをエンマ・スアレスとアドリアナ・ウガルテが演じます。ウガルテは海外連続ドラマ『情熱のシーラ』(NHK総合)のヒロイン役、日本のお茶の間に映画より先に登場しています。アルモドバルの「新ミューズ」というわけです。黒髪のシーラから金髪のフリエタに変身、髪型だけでなく、問題は演技、どんな化け方をするか楽しみです。
*エンマ・スアレスとアドリアナ・ウガルテの紹介は、コチラ⇒2015年4月5日

マリベル・ベルドゥ*アルゼンチン・コメディ ”Sin hijos” に出演 ― 2015年08月24日 12:35
子供嫌いが子持ちバツイチに恋をしたら?
★悲喜劇しかありません(笑)。アルゼンチンでは5月14日に公開するや話題沸騰、観客が映画館に押し寄せている。アリエル・ウィノグラード監督の第4作です。マリベル・ベルドゥはロマンチック・コメディ出演は初めてだそうですが、『ベルエポック』はコメディはコメディでもかなりシリアスだったからロマンチックとは言えないか。1970年マドリード生れ、もう44歳になる。子役時代を含めると30年という長い芸歴がある。子持ちバツイチを演じるのはディエゴ・ペレッティ、1963年ブエノスアイレス生れ、ルシア・プエンソの『ワコルダ』で少女リリスの父親を演じて既に日本登場の俳優です。そして大人二人をきりきり舞いさせる8歳の女の子になるのがグアダルーペ・マネント、かつての名子役ベルドゥが舌を巻くほどの達者な演技は、予告編でその片鱗が覗けます。そのおしゃま振りに彼女なくして大成功はなかったろうと感じさせる。

“Sin hijos”(“No Kids”)2015
製作:Patagonik
Film Group / MyS Producciones / Tornasol Films
後援INCAA / ICAA
監督:アリエル・ウィノグラード
脚本:マリアノ・ベラ(パブロ・ソラルスのアイディアによる)
音楽:ダリオ・エスケナジ
撮影:フェリックス・モンティ
編集:アレハンドロ・Brodersohn
データ:アルゼンチン=スペイン、スペイン語、ロマンチック・コメディ、90分、撮影地ブエノスアイレス、配給ブエナ・ビスタ、公開アルゼンチン5月14日、ウルグアイ7月9日、チリ7月30日、スペイン8月14日
キャスト:マリベル・ベルドゥ(ビッキー)、ディエゴ・ペレッティ(ガブリエル)、グアダルーペ・マネント(ソフィア)、マルティン・ピロヤンスキー、オラシオ・フォントバ、マリナ・ベラッティ、パブロ・ラゴ、他

プロット:ガブリエルは4年前に離婚したバツイチ、おまけに8歳になる娘ソフィアを育てている。彼は人生の時間とエネルギーを仕事と娘にそそぐのに精いっぱい、新しい恋などもっての外だ。父娘関係も上々だったのに、それなのに屈託のない自立した大人の女性、とびっきりの美人ビッキーが目の前に現れてしまった。プラトニックな恋のはずがあやしくなって。ビッキーの条件は唯一つ、「わたし子ども嫌いなの、あなた子どもいる?」「いいや、いないよ」。この瞬間からガブリエルの人生はとんでもないことに。ビッキーを失いたくない一心で可愛い我が子をひた隠しにする羽目になり、おもちゃ箱、子供服、家族写真を片付け、独身男性に大変身。はてさて新しい恋の行方は如何に・・・
★アルゼンチンの批評家の評価も高く、封切り1週間で88,634人の観客動員数は大出来です。「ウイノグラードの最も優れた映画というわけではないが」という但し書きつきながら、日刊紙「ナシオン」の批評家の受けも上々、「クラリン」紙も「監督はプロに徹し、笑いどころを押さえて、愛する二人のあいだを右往左往する男が直面する危機をある種のノスタルジーと優しさを込めて描いている」と評している。
*監督のキャリア&フィルモグラフィー*
★アリエル・ウイノグラード Ariel Winograd :1977年ブエノスアイレス生れ、名前から分かるようにユダヤ系アルゼンチン人、監督、脚本家、製作者、編集者。映画大学Universidad del Cineの監督科卒。1999年 “100% lana”で短編デビュー、4作の短編、ドキュメンタリー“Fanaticos”(2004)を撮り、2006年“Cara de queso-mi primer ghetto”で長編デビューを果たす。ある国に暮らすユダヤ系の若者たちの物語をテーマにしたもので、彼自身の人生が投影されている。
*第2作コメディ“Mi primera boda”(11)、本作にはダニエル・エレンドレールとナタリア・オレイロが主演、すべてにあれこれケチがつく結婚について語られている。プロデューサーで夫人のナタリエ・カビロンとの挙式の体験をベースに自身で脚本を書いた。第3作“Vino para robar”(13)、本作と続く。映画以外にMassacreやLos
Tipitosのバンドのプロモーション・ビデオを作成している。(写真下:第2作を撮ったころの監督)

*キャスト紹介*
★ディエゴ・ペレッティ Diego Ardo Peretti:1963年ブエノスアイレス市のバルバネラ生れ、俳優、精神科医。父はイタリア系移民、数学と物理の教師、母親はマドリード生れのスペイン移民。父親の勧めで大学では精神医学を学んだ変わり種。在学中は大学のIntransigente党で積極的に活動した(彼の世代は軍事独裁政権時代と重なる)。医学と並行して気晴らしのため演技の勉強を始める。卒業後病院勤務のかたわら舞台俳優としても活躍する。1993年単発のTVドラマ“Zona de riesgo”でデビュー、1995年、連続推理ドラマ“Poliladron”の「Trata」役が当り、1996年病院を退職する。30代の俳優デビューはかなりの遅咲きだが、以上のような理由による。以降舞台にテレビに、さらに映画にと八面六臂の活躍。

*映画デビューは、1997年セルヒオ・レナンの“El sueño de los héroes”、『人生スイッチ』で話題を呼んでいるダミアン・ジフロンの短編“Punto muerte”(98)、ダニエル・バロネ,の“Alma mía”(99)で銀のコンドル賞新人男優賞にノミネートされた。フアン・タラトゥトの話題作“No sos vos, soy yo”(04)でカタルーニャのラテンアメリカ映画祭で最優秀男優賞を受賞、クラリン賞(映画部門)でもノミネートされた。ジフロンの“Tiempo de valientes”(05)でペニスコラ・コメディ映画祭男優賞受賞、コンドル男優賞とクラリン男優賞ノミネートと受賞の道は遠かったが、2007年リカルド・ダリンの監督デビュー作“La señal”で念願の「銀のコンドル助演男優賞」を受賞、他に撮影賞、美術賞、衣装賞も受賞、自ら主演もしたダリンはノミネートに終わった。2013年“La reconstrucción”で初の「男優賞」を受賞した。他にハバナ映画祭でも男優賞に輝いた。未公開作品ばかりだが、出番は少なかったが『ワコルダ』(13、ラテンビート2013)に出演している。

(少女リリスの母親役ナタリア・オレイロと父親役のペレッティ)
★ソフィア役のグアダルーペ・マネントGuadalupeManentはテレビでゲスト出演しているようだが、映画は初出演。キャスティングにも立ち合ったペレッティによると、「抗いできない魅力があって、船の舵を切っているのは彼女だった」とか。ヒッチコックの名言を引き合いに出すまでもなく「子どもと動物と共演するな」ですね(笑)。

★マリベル・ベルドゥMaribel Verdúについては、ゴヤ賞2013の『ブランカニエベス』(パブロ・ベルヘル)やゴヤ賞2014の“15 años y un día”(グラシア・ケレヘタ)、同監督の“Felices 140”(15)の記事でご紹介していますが、大分前になるのでおさらいすると、1970年マドリード生れ、13歳でテレビ初出演、映画はモンチョ・アルメンダリスの“27 horas”(1986)でデビュー。出演本数は80本を超える。本数のわりにはノミネートばかりで賞に恵まれなかったが、2007年のG・ケレヘタの“Siete mesas de billar frances”(ゴヤ賞主演女優賞)やデル・トロの『パンズ・ラビリンス』(06、アリエル賞2007女優賞)あたりから注目されるようになった。日本公開の映画も多く、フェルナンド・トゥルエバの『ベルエポック』(92)、アルフォンソ・キュアロンの『天国の口、終りの楽園』(01)、アルゼンチンとの合作映画では、F・F・コッポラの『テトロ』(09、米≂伊、ラテンビート2010、公開2012)が挙げられる。
*“Felices 140”の記事は、コチラ⇒2015年1月7日
★今年、アイタナ・サンチェス≂ヒホンとフアン・ディエゴが受賞することになった「スペイン映画アカデミー金のメダル」を2008年に受賞しています。この年は受賞ラッシュの年で、マリベルにとっても忘れられない年ですが、既に38歳になっていたのでした。間もなくダビ・カノバスのスリラー“La punta del iceberg”(15)、アルゼンチン≂スペイン合作ヘラルド・オリバーレス“El faro de las orcas”(16)、G・ケレヘタのコメディ“Setenta veces siete”(17)と新作が目白押し、まだIMDbにはアップされておりませんが、パブロ・ベルヘルの新作“Abracadabra”がアナウンスされ、『ブランカニエベス』以来、ベルドゥと再びタッグを組むそうです。
*「スペイン映画アカデミー金のメダル」の記事は、コチラ⇒2015年8月1日
★スペインでは、「リカルド・ダリンが出演している映画は別として、アルゼンチン映画は意外と公開されない」とベルドゥ。そんなことはないと思うが、アルゼンチンでもスペイン映画は僅かしか公開されないそうです。「アルゼンチンは常に予期しないことが起きる変化している国、国民は絶えず危機にさらされているから、映画を作るテーマには事欠かない。もしやる気があるなら物語をたくさん生み出せる」とも。確かに生生流転の国ですね(笑)。隣国から気位は高いが実力が伴っていないと嫌われがちだが、ラテンアメリカでは映画先進国です。
最近のコメント