サンセバスチャン映画祭*ホライズンズ・ラティノ全14作品 ⑤ ― 2015年08月25日 14:04
ブラジル映画を含めて全14作品が出揃いました
★8月4日にアップしたときには、パトリシオ・グスマンのドキュメンタリー“El botón de nácar”(チリ・西・仏)とサルバドル・デル・ソラルの“Magallanes”(ペルー・アルゼンチン・コロンビア・西)の2作だけでした。前者は10月に『真珠のボタン』の邦題で公開が決定しています。ベルリン、カンヌ、ベネチア、各国際映画祭の受賞作品に集中しており、ということはその折々に当ブログでご紹介しているわけです。今年のラテンビート上映作品はまだ3作しか分かっておりませんが、そのうちメキシコのダビ・パブロスの“Las elegidas”が選ばれ、『選ばれし少女たち』の邦題で上映が決定しています。柳の下の2匹目、3匹目の泥鰌を期待して一応全14作をアップしておきます。

*ホライズンズ・ラティノ*
1)“El club”パブロ・ラライン(チリ・仏・西)オープニング作品
*ベルリン映画祭審査員賞グランプリ受賞作品
*作品 & 監督紹介記事は、コチラ⇒2015年2月22日

2)“600 millas”ガブリエル・リプスタイン(メキシコ)
*ベルリン映画祭2015「パノラマ」部門で初監督作品賞受賞作品

3)“El abrazo de la serpiente”チロ・ゲーラ(コロンビア・アルゼンチン・ベネズエラ)
*カンヌ映画祭「監督週間」正式出品、作品賞受賞作品
*作品 & 監督紹介記事は、コチラ⇒2015年5月24日/5月27日

4)“El botón de
nácar” パトリシオ・グスマン(チリ・仏・西)ドキュメンタリー
*ベルリン映画祭2015銀熊脚本賞受賞作品。『真珠のボタン』10月10日公開、岩波ホール
*作品 & 監督紹介記事は、コチラ⇒2015年2月26日



7)“Las elegidas” ダビ・パブロス(メキシコ)
*カンヌ映画祭「ある視点」正式出品。『選ばれし少女たち』ラテンビート2015上映(10月)
*作品 & 監督紹介記事は、コチラ⇒2015年5月31日

8)“Ixcanul”ハイロ・ブスタマンテ(グアテマラ・仏)
*ベルリン映画祭2015「アルフレッド・バウアー賞」受賞作品
*作品 & 監督紹介記事は、コチラ⇒2015年2月26日


10)“La obra del siglo”カルロス・M・キンテラ(キューバ・アルゼンチン・独・スイス)
*ロッテルダム映画祭2015「タイガー賞」受賞作品


12)“Para Minha amada moeta”Al y Muritiba (ブラジル)
*サンセバスチャン映画祭2014「Cine en Construcción」参加作品

13)“Te prometo anarquia”フリオ・エルナンデス・コルドン(メキシコ・独)
*ロカルノ映画祭2015コンペティション正式出品

14)“La tierra y la
sombra”セサル・アウグスト・アセベド
(コロンビア・チリ・ブラジル・オランダ・仏)
*カンヌ映画祭「批評家週間」正式出品、カメラドール受賞作品
*作品 & 監督紹介記事は、コチラ⇒2015年5月19日/5月27日

★ブラジル映画を含めて未紹介作品4作については、時間が許せばアップしていきます。今回は取りあえずラインナップだけにいたしました。
サンセバスチャン映画祭2015*グアテマラ映画”Ixcanul” ⑥ ― 2015年08月28日 15:09
オール初出演のグアテマラ映画“Ixcanul”

★ハイロ・ブスタマンテがベルリン映画祭2015「アルフレッド・バウアー賞」(銀熊賞)を受賞したときにはデータが揃わず受賞のニュースだけをアップいたしました。受賞のお蔭か、その後グアダラハラ、カルタヘナ、香港、シドニー、台湾、カルロヴィ・ヴァリ、トゥールーズ、サント・ドミンゴ、スロバキア共和国アート・フィルム・フェス、スロベニア共和国マルタなど国際映画祭を旅して、やっとサンセバスチャンに舞い戻ってきました。というのも本作は本映画祭2014「Cine en Construccion」参加作品でした。ベルリン映画祭のアルフレッド・バウアー賞というのは新しい視点を示した作品に贈られる賞、昨年は大御所アラン・レネの遺作となってしまった『愛して飲んで歌って』が受賞したのでした。どうも何か賞を獲りそうな予感がいたします。
“Ixcanul”(英題“Ixcanul Volcano”)グアテマラ=フランス
製作:La Casa
de Producción(グアテマラ)/ Tu Vas Voir(フランス)
監督・脚本・製作者:ハイロ・ブスタマンテ
音楽:パスクアル・レジェス
撮影:ルイス・アルマンド・アルテアガ
編集:セサル・ディアス
美術・製作者:ピラール・ペレド(アルゼンチン人でフランスのTu Vas Voirのプロデューサー)
衣装デザイン:ソフィア・ランタン
メイクアップ&ヘアー:アイコ・サトウ
製作者:イネス・ノフエンテス(エグゼクティブ)、マリナ・ペラルタ(グアテマラ)、エドガルド・テネムバウム
データ:グアテマラ≂フランス、スペイン語・マヤCakchiquelカクチケル語、2015、93分、撮影地:パカヤ火山の裾野の村エル・パトロシニオ。サンセバチャン映画祭2014「Cine en Construccion」参加作品。8月22日エル・パトロシニオで先行上映後、グアテマラ公開8月27日、フランス11月25日
受賞歴:ベルリン映画祭2015「アルフレッド・バウアー賞」、トゥールーズ映画祭2015審査員賞と観客賞、カルタヘナ映画祭2015作品賞、ドミニカ共和国のサント・ドミンゴ映画祭2015初監督作品賞、スロベニア共和国のマルタ映画祭2015撮影賞、スロバキアのアート映画祭2015作品賞「青の天使賞」と助演女優賞(マリア・テロン)など受賞歴多数、目下更新中。
キャスト:マリア・メルセデス・コロイ(マリア)、マリア・テロン(マリアの母フアナ)、マヌエル・マヌエル・アントゥン(マヌエル)、フスト・ロレンソ(イグナシオ)、マルビン・コロイ(エル・ペペ)、映画はオール初出演

プロット:マヤ族カクチケルのマリアは17歳、グアテマラの活火山パカヤの山腹で両親と一緒に暮らしている。コーヒー農園で働いていたが、両親が農園主イグナシオとの結婚を取り結んだことで平穏が破られる。マリアはインディヘナとしての運命を変えたいと思っていたが、この結婚から逃れることはできない。妊娠という難問をかかえており、都会の病院は高額すぎて彼女を助けることができない。マリアは火山の反対側の新世界アメリカを夢見る若いコーヒー刈り取り人が彼女を置き去りにしたとき、改めて自分の世界と文化を発見する。しかし先住民の伝統や文化についての映画ではなく、ましてやフォークロアなどではない。後継者のいない富裕層の養子縁組のために生れるや連れ去られてしまう残忍なテーマ、先住民の女性たちが受ける理不尽な社会的差別、母と娘の内面の葛藤が語られるだろう。 (文責管理人)

(パカヤ火山を背にマリア役のマリア・メルセデス・コロイ、映画から)
トレビア:タイトルの‘Ixcanul’(イシカヌルか)はカクチケル語で「火山」という意味。グアテマラの公用語はスペイン語であるが、先住民マヤ族の言語は21種もあり、多言語国家でもある。そのうちカクチケル語の話者は約50万人いると言われ最も重要な言語の一つであり、メキシコにも話者は多い。本作の主人公に扮する2人のマリアのようにバイリンガルな人もいるが、スペイン語ができない人も多い。識字率が70%に満たない低さで、ラテンアメリカ諸国のうちでも最低の国に数えられている。それは前世紀後半グアテマラに吹き荒れた36年間に及ぶ内戦が深くかかわっている。1960年から始まり1996年に終結したが、死者約20万人、うち犠牲者の80%以上がマヤ族の武器を持たない性別を選ばない赤ん坊から老人まで、グアテマラ内戦が「ジェノサイドだった」と言われる所以である。内戦の後遺症は尾を引き、現在でも治安は悪く、真の平和は遠いと言われている。
★今年のベルリンは本作の他、チリのパブロ・ララインの“El
Culb”が審査員賞、同パトリシオ・グスマンの『真珠のボタン』の脚本賞と、ラテンアメリカのシネアストが評価された年であった。

(クロージングに出席した監督と民族衣装に身を包んだ二人のマリア、2015年2月14日)
*監督キャリア
& フィルモグラフィー*
★ハイロ・ブスタマンテJayro Bustamanteは、監督、脚本家、製作者。映画の舞台となったグアテマラのマヤ族カクチケルが住む地域で育った。現在37歳ということなので1978年ころの生れか。まさにグアテマラ内戦(1960~96)の中で生れ育った世代。パリやローマで映画製作を学び、多数の短編を製作、そのなかの“Cuando sea grande”(2011)が評価される。のち本作を撮るために故郷に戻ってきた。

(受賞のトロフィーを手にした監督、ベルリン映画祭にて)
メーキング:ブスタマンテ監督によると、「まず現地でワークショップを開催、彼らの生き方を自身の口から語ってもらうことにした。近距離からマヤの人々が現在置かれている状況を調査した。そうすることで、女性たちとの特別なコネクションができ、母親や祖母世代の慣習や仕来たりを学んでいった」という。グローバル化からはほど遠い、あまり知られていない日常的な日課が我々を待っているが、先住民文化についての映画ではない。「この映画が世界に受け入れやすくするための方針はとらなかった。また同世代の監督が陥りやすい民族的な悲惨さを描くのを避けた」とも語っている。必要なのは観客を魅了する人間ドラマを撮ること、それには互いの立場を尊敬しあうことでしょうね。
★まだカメラ経験のないアマチュアの出演者を探すのに奔走した。主人公マリアの母親を演じたマリア・テロンから「多くのリハーサルに時間をかけるのか、もしそうなら私はあなたを信頼しない」と質問された。勿論「ノー」と答えた。「監督することであなた方から多くのことを学びたい」。「分かったわ、そうであるなら、教えてあげましょう」とテロン。彼女は映画は初出演だが舞台女優の42歳、「映画に出てくる火山のようにエネルギュッシュな女性」と監督、スロバキアの映画祭で助演女優賞受賞した理由は、「物語の最初から最後まで緊張状態を維持した。母親役を言葉ではなく優しさと才覚で演じた」その演技力が評価された。

(マリア・テロン、ベルリン映画祭にて)
★製作者には、二人の女性プロヂューサーが初参加、グアテマラのLa Casa de Producción のマリナ・ペラルタ、この製作会社はブスタマンテ監督が設立した。もう一人はアルゼンチンのピラール・ペレド、フランスのTu Vas Voir に所属している。
『しあわせへのまわり道』本日公開*イサベル・コイシェ ― 2015年08月29日 17:29
コイシェとパトリシア・クラークソンがタッグを組んで「しあわせ探し」
★英語映画ですが、以前当ブログでご紹介したコイシェの新作と言いたいところですが、元新作です(笑)。コイシェは出身こそスペインですが、映画をアメリカで学んだせいか、アメリカやイギリスで仕事をしていることが多い。デビュー作“Demasiado viejo peara morir joven”(89)はスペイン語で撮りましたが、第2作“Cosas que nunca te dije”(1995、米≂西『あなたに言えなかったこと』ラテンビート2004上映)以来、ドキュメンタリー以外英語映画が殆どです。今春、本拠地をニューヨークはブルックリンに移して精力的に作品を発表しており、イザベル・コヘットと表記されていた頃がウソのようです。

★トロント映画祭2014「スペシャル・プレゼンテーション」部門上映がワールド・プレミア、コイシェ映画というより、クラークソン映画かもしれない。グレン・クローズが長年映画化に執念を燃やし、ロドリゴ・ガルシアが監督した『アルバート・ノッブス』(11)の関係に似ているかもしれない。ダルワーン役のベン・キングズレーは、ペネロペ・クスルと共演した『エレジー』(08)に出演して、コイシェ映画は経験済み。東京を舞台にした『ナイト・トーキョー・デイ』(09)で堪らず中途退席した方も、こちらは楽しめるのではないかな。個人的にはベルリン映画祭2015でオープニング上映された(初体験)ジュリエット・ビノシュ主演の“Nobody Wants the Night”の公開を待っていますが。
“Learning to drive” 米国 英語 2014
監督:イサベル・コイシェ
脚本・原作:サラ・ケルノチャン
撮影:マネル・ルイス
製作者:ダナ・フリードマン
キャスト:パトリシア・クラークソン(ウェンディ)、ベン・キングズレー(教官ダルワーン)、グレース・ガマー(娘ターシャ)、ジェイク・ウェバー(夫テッド)、サリター・チョウドリー(ジャスリーン)他
プロット:ウェンディはマンハッタンで活躍するベテラン書評家で、最近結婚生活が破綻してしまった。夫の浮気にも気づかなかった本の虫、いや仕事の虫。常に夫の車に頼っていたが、これからは自分で運転しなければならない。教習所の教官ダルワーンはシーク教徒で彼自身の結婚も暗雲が漂っていた。やがて二人の人生が交差し、予期しないかたちで転機が訪れる。人生も車も上手に運転するのは難しいという大人のラブロマンス。 (文責:管理人)

トレビア:「ニューヨーカー」誌に掲載されたサラ・ケルノチャンのエッセイの映画化。ケルノチャンはロバート・ゼメキスが監督した『ホワット・ライズ・ビニース』(2000)の原作者、ハリソン・フォードとミシェル・ファイファーが主演したサスペンス・スリラーでした。9・11以後、ニューヨークを舞台に映画を撮るのが夢だったという監督の夢が叶った。「大人のラブロマンス」には違いないが、9・11後アメリカに吹き荒れた人種的差別問題、21世紀の結婚のかたちなどが背景にある。映画では教習所教官ダーワンをシーク教徒のインド系アメリカ人に設定していますが、エッセイはフィリピン人のようです。ウェンディの娘を演じたグレース・ガマーはテレビでの仕事が多い。「女の40歳は90歳」と言われるハリウッドで、今なおバリバリの現役女優メリル・ストリープがお母さんです。

★最近の「エル・パイス」のインタビューで「どんな映画があなたを笑わせてくれる?」と訊かれて、「『ホームパーティ』のピーター・セラーズ、それにへとへとになるまで笑わせてくれたのが『ズーランダー』よ」と即答、後者は大勢の有名人がカメオ出演して話題になったコメディでした。ジュリエット・ビノシュ、ベン・キングズレー、ティム・ロビンスなど国際級の俳優を誘惑して映画を撮ってしまう監督は、スペインではコイシェぐらいでしょうか。
*最近のコイシェのフィルモグラフィー*(ドキュメンタリー、短編を除く)
2015“Nobody Wants
the Night”(西題“Nadie quiere
la noche”)
コチラ⇒2015年3月1日(ベルリン映画祭2015)
2014『しあわせへのまわり道』コチラ⇒2014年8月13日(トロント映画祭2014)
2013“Another Me”(西題“Mi otro yo”)コチラ⇒2014年7月27日
2013“Yesterday
Never Ends”
2009『ナイト・トーキョー・デイ』
2008『エレジー』
★IMDbにタイトルだけアップされているのが、新作“The Bookshop”です。“Nobody Wants the Night”の記事で触れたことですが、これは英国のペネロピ・フィッツジェラルドの“The Bookshop”(1978、“La libreria”)の映画化。現在これ以外にも2本執筆中で、その一つがダーウィンの玄孫を主人公にした脚本を英国出身の監督・脚本家マシュー・チャップマンと共同で執筆している。
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