『タパス』Tapas ①2013年09月08日 17:42

            ベテラン・コンビのシリアス・コメディ「Tapas」

  

 『タパス』“Tapas ①

監督・脚本:ホセ・コルバチョ/フアン・クルス

製作:カルロス・フェルナンデス/フリオ・フェルナンデス/モニカ・ロサ他

撮影:ギジェルモ・グラニジョ

音楽:パブロ・サラ

出演:アンヘル・デ・アンドレス(ロロ)/マリア・ガリアナ(コンチ)/エルビラ・ミンゲス(ラケル)/ルベン・オチャンディアノ(セサル)/アルベルト・デ・メンドサ(マリアノ)/ダリオ・パソ(オポ)/アルベルト・ジョ・リー(マオ)/アンパロ・モレノ(ロサリア)/ブランカ・アピラーネス(カルメン)/ピラール・アルカス(ルス)

特別出演:フェラン・アドリア(自身)/ロサリオ・パルド(カルメラ)/エドゥアルド・ブランコ(エドガルド)/アナ・バラチナ(アグエダ)/セシリア・ロッセット(スーパーの客)

製作年:2005

製作国:スペイン/アルゼンチン/メキシコ

ジャンル:コメディ/ドラマ

受賞歴:2006年ゴヤ賞新人監督賞、エルビラ・ミンゲス助演女優賞受賞

2005年マラガ映画祭作品賞(金のジャスミン)・女優賞(銀のジャスミン)受賞

2005年モントリオール映画祭脚本賞受賞 他多数

 

★日本では例年初夏に開催される「EUフィルムデーズ」(2008年)にスペイン代表作品として上映された。日本語・英語字幕付きだったので英語からの翻訳かもしれない。20138月セルバンテス文化センター土曜映画会上映&トークセッション(スペイン語字幕のみ)に登場した。

 

●ご注意ネタバレしています●

 

★舞台はコルバチョ監督が育ったバルセロナはオスピタレ市(Ciudad de L’Hospitalet)。同市の協力、二人の若者セサルとオポが働くスーパー「アランダ・スーパー」(Supermercado Aranda)、ロロのバル「バル・コメルシオ」(Bar Comercio)などの協力を得て撮影された。

 

プロット:バルセロナのとある庶民的なバルを舞台にコメディタッチで語られる5つのお話。バルの主人は空威張りの亭主関白、さすがの女房も愛想が尽きて出奔。やむなく見事な出来栄えのタパスをつくる中国人の料理人を雇うことにする。巧みな語り口、洒落た場面展開で庶民の笑いと涙の人生模様を描く。誰でも小さな秘密は持っている。切なくて悲しくて、ちょっぴり刺激的、それぞれ新しい道に踏み出していく。

 

     心をこめて作られたシリアス・コメディ

 

A: ご紹介したプロットは、映画祭用に作成された三つの宣伝文を若干調整したものです。文責はブログ管理者にあります。

B: かなりキツいテーマが盛り込まれていて、映画祭用の宣伝文「心温まる下町コメディー」がしっくりこないということですか。

A: 初っぱなからテーマに切り込むとズバリ≪愛と死≫ですからね。心をこめて作られていますが、用意周到に伏線が張られ奥が深くて一筋縄ではいかない内容です。

B: 21世紀初めのスペイン社会の縮図がまさに凝縮されている。

 

A: 5つのストーリーということから、本作の映画手法がアルトマンが生みの親と言われている群像劇であることが分かります。スペインでは合唱劇とかアンサンブル劇とか言ってます。主にバルセロナ派の監督が得意とする映画手法です。

B: ハリウッドの異端児といわれたロバート・アルトマンですね。2006年に亡くなりましたが、『MASH』(1970)『ナッシュビル』(1975)『ゴスフォード・パーク』(2001」など評価も高く、日本でもファンが多い。

 

A: スペインでは「ゴヤ賞2013予想と結果」でご紹介したセスク・ガイ(Cesc Gay 1967)がこの手法を得意としています。代表作“En la ciudad(2003 In the City)の舞台もバルセロナでした。年齢は二人の監督のほうが上ですが、監督としてのキャリアはセスク・ガイのほうが長く、彼の影響が感じられます。今年劇場公開されたホルヘ・コイラの『朝食、昼食、そして夕食』(2010)も同じ手法です。

B: 監督の高校時代の親友ルイス・トサールの即興的な演技が光った映画でした。コイラ監督は北のガリシア出身、それぞれテイストは違いますね。

 

A: セスク・ガイの柱も5本で、彼はフラッシュバックを多用するので構成が複雑です。本作にフラッシュバックはありませんが、両方とも念入りに計算されています。ガイは脚本に何ヵ月もかけ、アイディア、登場人物のタイプ、全般的なトーンと少しずつ固めていって完成させると言ってます。これは二人の共同監督にも当てはまることです。

B:『タパス』成功も脚本が決め手ですね。まず導入部に出会いサイトにしがみつく中年女性ラケルを登場させ、次に主役級のドーニャ・コンチが内面に溜めこんでいた怒りを爆発させます。

 

A: 車の中に閉じ込められキャンキャン鳴いてる小犬を通りすがりに見つけると、道に落ちていた金具を拾って思いきり窓をブチ割り小犬を出してやる。この小犬ペリートが重要≪ジンブツ≫、あるメタファーになっていることが次第に観客にも分かってくる。このペリートの動きから目を離すと主題がぼやけてしまいます。

B: ただの小犬ではないということですね。俳優犬が演じているとか。

A: 映画ではオス役ですが実際はメス。「Una Perrita ASIA」とクレジットにも出てくる。

 

B: コンチとドン・マリアノ夫婦が1本目。癌に罹り怯えながらお迎えを待つ苦しさに耐えられない。早く終りにしたいが一人で≪エンド≫できない。

A: タバコを禁じられているから肺癌という設定だと思う。妻に隠れてスパスパやる。死期が迫っているのに今更なんで禁煙なんだ、美味しい料理は体に良くないだと、いい加減にしてくれ。耐えながら自然死を待つか自分の意思を優先させるかが問われている。

 

B: 2本目が2年前に捨てたか捨てられたか一人身のラケル、噂好きな主婦たちにとって格好の獲物、缶詰や総菜を商うガルバンソ店をひとりで切り盛りしている。買い物が目的なのかイビリが目的なのか分からない主婦3人組が最も悪質でお品に欠ける登場人物。ドーニャ・コンチもここの常連客。

A: 年金暮らしのコンチと男ヒデリのラケルをチクチクやる。「ドーニャ・コンチ、どうやったら年金を上手に倹約できるの?」と主婦。「年金は食費とかペットには使わないよ。節約するには・・・」と言いよどむコンチ。何か節約術をしていることが暗示される。

B: つまりコンチの違法アルバイト()の伏線が敷かれるのですね。

 

A: 更に主婦連の一人カルメンの息子がセサル、ラケルとセサルの接着剤としても主婦連を登場させている。コンチが帰宅すると内職の仲介をしているオポがいて、内職の真相がすぐ判明する。セサルとオポは仕事仲間で3本目の柱となる。彼らの行きつけのバルの主人ロロとロサリア夫婦が本柱です。アンサンブル劇といってもやはり扇子のカナメ的な人物がいます。

B: コンチが内職の<職場>として使っているのがロロのバル()、あっという間に相関図を完成させている。コンチのペリート≪解放≫シーンに既にロロも登場していた。

A: そう、バルのシャッターを開けてるところが遠くに見えた。ウマいね。

 

B: 残る5本目が香港の有名レストランの料理人だったというマオ。マオの登場も鮮やかです。

A: 象は自分の死期を悟ると象の墓場を目指して最後の旅をする、というドキュメンタリーをテレビで見たドン・マリアノが飛び込みを決意してプラットホームに佇んでいる。決心がつかないうちに電車が滑り込んできてしまう。電車の中にマオが映りプラットホームのマリアノと偶然対峙する。このシーンにも意味があったことを観客はやがて知ることになります。

B: ドアはあちらとこちらの境界線、未来と過去と言い換えてもいい。

コメント

_ Marysol ― 2013年09月08日 23:57

アリババ女史の解説を読んで、いかに緻密に伏線が張りめぐらされているか分かりました。見るたびに発見がありそうですね。
一見コメディ調の群像劇のなかに「死」や「年金生活」といったシリアスなテーマを盛り込んでしまうところ、しかもキレイごとに描かないところがスペイン(カタルーニャというべき?)らしくて好きです。

_ アリ・ババ39 ― 2013年09月09日 11:27

Marysol さん

コメントありがとうございます。
「心温まる下町コメディー」では括れない内容ですね。
映画祭上映時の日本語字幕が見られたら、オポのセリフがどんなだったかと、ブログを書きながら思いました。

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