『モルタデロとフィレモン』のハビエル・フェセル*「Campeones」が大ヒット ― 2018年06月12日 16:24
主人公は知的障害をもつ10人のバスケットボール選手たち
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★『モルタデロとフィレモン』のハビエル・フェセルが、「Campeones」で長編コメディに戻ってきました。主人公は初出演の10人の知的障害者と、『マーシュランド』や「El autor」で、ゴヤ賞の主演男優賞を2回受賞したハビエル・グティエレス、本作の演技で3回目の受賞も夢ではない。4月6日の封切り以来、9週目にして興行成績1600万ユーロ、観客動員数は既に270万人を突破、今なお快進撃を続行中。この記録を超えるのは、2014年公開されたエミリオ・マルティネス=ラサロの大ヒット作「オーチョ・アペジードス・バスコス」だけということで、公開以来トップ3をキープしている。
「Campeones」(「Champions」)2018
製作:Morena Films / Movistar+ / Pelicula Pendelton)/ RTVE / ICO / ICAA (以上スペイン)
/ Realizaciones Sol S.A.(メキシコ)
監督:ハビエル・フェセル
脚本:ダビ・マルケス、ハビエル・フェセル
撮影:チェチュ・グラフ
編集:ロベルト・ボラド、ハビエル・フェセル
音楽:ラファエル・アルナウ、歌曲「Este es el momento」演奏Coque Malla
キャスティング:ホルヘ・ガレオン
美術:ハビエル・フェルナンデス
衣装デザイン:アナ・マルティネス・フェセル
メイクアップ&ヘアー:エリ・アダネス(チーフ)、ペドロ・ラウル・デ・ディエゴ(特殊メイク)、リュイス・ソリアノ(ヘアー)
製作者:ルイス・マンソ、アルバロ・ロンゴリア、ガブリエル・アリアス=サルガド
データ:製作国スペイン=メキシコ、スペイン語・不明言語、2018年、コメディ・ドラマ、124分&118分、製作資金約450万ユーロ、撮影地マドリード、ウエルバ、撮影期間;2017年4月10日~7月6日、配給元ユニバーサル・ピクチャー(スペイン)、公開マドリード限定4月3日、スペイン公開4月6日、メキシコ5月18日、フランス6月6日、ドイツ7月26日、他
キャスト:ハビエル・グティエレス(マルコ・モンテス)、フアン・マルガージョ(フリオ)、アテネア・マタ(マルコの妻ソニア)、ルイサ・ガバサ(マルコの母アンパロ)、ラウラ・バルバ(裁判官)、ダニエル・フレイレ(カラスコサ)、ルイス・ベルメホ(ソニアの同僚)、(他「ロス・アミーゴス」の選手として)セルヒオ・オルモ、フリオ・フェルナンデス、ヘスス・ラゴ、ホセ・デ・ルナ、グロリア・ラモス、フラン・フエンテス、ヘスス・ビダル、ステファン・ロペス、アルベルト・ニエト・フェランデス、ロベルト・チンチジャ、ほか決勝戦対戦チーム「ロス・エナノス」の選手多数、ハビエル・フェセルも新聞記者役で出演している。
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物語:マルコ・モンテスはスペイン・バスケット・ナショナルリーグのチームABCの副監督である。マナーが悪く横柄なことから他のコーチとは上手くいってない。プロとしてのキャリアも人間的にも多くの問題を抱えこんでお先真っ暗である。むしゃくしゃして飲酒運転、あげくの果てに事故ってしまい解雇されてしまった。裁判官は懲らしめの罰金として2年間の服役か、または90日間の奉仕活動「ロス・アミーゴス」という知的障害者のバスケットボール・チームの監督のどちらかを選択するよう言い渡した。後者を選んだマルコにとってこんな罰則は好みではなかったが、やがてこの奇妙なチームの面々から、学ぶべき事柄の多さに気づいていく。彼らの病気のイメージからは程遠い、率直で独立心の強い、肩ひじ張らずに生きていく姿に我が人生を見つめ直していく。
「フツウ」の定義、「幸せ」の定義、誰が決めるの?
★ハビエル・フェセルと言えば『モルタデロとフィレモン』(03)、古くからのファンなら『ミラクル・ぺティント』(98)、あるいは未公開ながらラテンビート上映の『カミーノ』(08)、短編ドキュメンタリー『ビンタと素晴らしきアイディア』(04)が、スペイン新進作家5人のオムニバス映画「En el mundo a cada rato」(邦題『世界でいつも・・・』ユニセフ制作)に採用され上映されました。『カミーノ』はゴヤ賞2009の作品・監督・脚本賞以下6冠制覇の話題作でした。ラテンビート上映時に来日、Q&Aでの飾らない人柄から多くのファンを獲得しました。1985年暮に14歳という短い生涯を閉じたアレクシア・ゴンサレス=バロスの実話にインスピレーションを受けて製作されたフィクションでしたが、家族が敬虔なオプス・デイの信者だったことから、後々訴訟問題に発展、監督は長らく長編から遠ざかっておりました。
★2014年アニメーション「Mortadelo y Filemon contra Jimmy el Cachondo」以外は、すべて短編(11作)で、うち「Bienvenidos」(28分)がアルカラ・デ・エナレス短編映画祭2015の観客賞を受賞、ほか国際映画祭での受賞が相次ぎました。もう長編ドラマは撮らないのかと気になっていたところでした。『カミーノ』から10年の歳月が流れた昨年11月に、監督がTV番組に宣伝を兼ねて出演、「3月公開」をアナウンスしました。ファンが心待ちにしていた結果が、この興行成績にストレートに出ているようです。コメディ「Campeones」は、上記したように目下快進撃を続けています。映画祭、DVD、あるいは公開を期待しても良さそうです。
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(新作をプレゼンするフェセル監督とグティエレス)
★予告編からも充分面白さが伝わってきますが、本作のテーマの一つが、「フツウ」の定義、「幸せ」の定義、障害を大いに楽しもうという視点が観客を虜にしている。エル・パイスによると、成功の秘密は3つあるという。一番目は、スペインで興行成績がよい映画は民放テレビ局がお膳立てした映画が多いが、本作は該当しない。二番目は、知名度のある俳優はマルコ・モンテス役のハビエル・グティエレス唯一人、それ以外は知的障害のあるアマチュアたち、三番目は、テーマの切り取り方、人間的にもコーチとしても、社会的信用が失墜したダメ男マルコが主人公、ハビエル・グティエレスの魅力が大きいようです。7歳以下は保護者同伴だが、なかには子供に分からないジョークもある由、しかし全く問題ではないそうで、子供たちは楽しんでいると家族連れは口を揃える。
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(チャンピオンの表彰台に立つ監督&選手一同)
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(ロス・アミーゴスの選手に演技を指示するフェセル監督)
★フェセル監督曰く「私たちはキャスト選定の段階で、実際の知的障害者を起用すべきか、あるいは役者に演じてもらうほうがよいか事前に決めていなかった。しかしオーディション初日に、彼らが発する誠実さと信頼性に出会ってしまった」ので彼らに出演依頼をしたようです。「私は根っからの楽観主義者なんだ、それに最初から登場人物たちの能力が観客と繋がっていると信仰のように確信していたんですよ」「私は若者たちのエモーショナルな知性や人生を大いに楽しんじゃおうという考え方に魅了された」「何が何だか分からない感情に満たされ泣いたり笑ったりしているうちに、幸せな2時間が過ぎてしまう」エトセトラ、ということです。笑う門には福来る、つかの間の幸せでも充分ですから浸りたい。
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(ハビエル・グティエレスと「ロス・アミーゴス」)
★まだ先の話ですが、2009年『カミーノ』を上映してくれたラテンビートが今年15周年を迎えるそうです。アグスティン・アルモドバルをゲストに開催された第1回、当初は「ヒスパニックビート」でした。2回目が開催されるかどうか危ぶみましたが、どっこい15年間続いているのでした。ということで今年の目玉に「チャンピオンズ」は打ってつけではないでしょうか。他に2018年興行成績トップ3の一つ、アレックス・デ・ラ・イグレシアのシリアス・コメディ「Perfectos desconocidos」もスクリーンで鑑賞したい。
*劇場公開映画*
◎ミシェル・フランコの「Las hijas de Abril」が『母という名の女』の邦題でスケジュールが決定しました。劇場は『父の秘密』や『ある終焉』を公開したユーロスペース、2018年6月16日(土)~です。カンヌ映画祭2017「ある視点」部門の審査員賞受賞作品。
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◎カルラ・シモンのデビュー作「Verano 1993」が『悲しみに、こんにちは』の邦題で、同じユーロスペースで7月下旬公開です(日時は未定)。以前ラテンビートで『夏、1993』として上映予定だった映画です。まったくの的外れとまで言わないが、どうしてこんな陳腐な邦題にしたのか理解に苦しむ。ゴヤ賞2018新人監督賞受賞作品。
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*「Perfectos desconocidos」の紹介記事は、コチラ⇒2017年12月17日
*「Las hijas de Abril」の紹介記事は、コチラ⇒2017年05月08日
*「El verano 1993」の主な紹介記事は、コチラ⇒2017年02月22日
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