パノラマ部門にチリとアルゼンチン映画*ベルリン映画祭2018 ④ ― 2018年02月25日 17:46
アルゼンチンからサンティアゴ・ロサの「Malambo, el hombre bueno」

★アルゼンチンからはサンティアゴ・ロサの「Malambo, el hombre bueno」(「Malambo, the Good Man」)が単独でノミネートされている。「Malamboマランボ」というのはアルゼンチン伝統の男性だけのフォルクローレ、発祥はガウチョのタップ・ダンス、従ってすべてではないがガウチョの衣装とブーツを着て踊り、毎年チャンピオンを選ぶマランボ大会が開催されている。本作はドキュメンタリーの手法で撮っているがドラマです。主役のマランボ・ダンサーにガスパル・ホフレJofreが初出演する。監督のサンティアゴ・ロサは、1971年アルゼンチンのコルドバ生れ、過去には「Extraño」(03、ロッテルダム映画祭タイガー賞他)、「Los labios」(10、BAFICI映画祭監督賞、カンヌ映画祭「ある視点」出品)、「La Paz」(13、BAFICI映画祭作品賞)などのほか受賞歴多数のベテラン監督。ベルリナーレでは2月16日上映されました。

(サンティアゴ・ロサ監督)
チリからマルティン・ロドリゲス・レドンドのデビュー作「Marilyn」

★ご紹介したいのはマルティン・ロドリゲス・レドンド(1979)のデビュー作「Marilyn」(17、アルゼンチンとの合作)、前回のベルリナーレでは、チリの『ナチュラルウーマン』(セバスティアン・レリオ、2月24日公開)が気を吐きましたが、今回はコンペティションにノミネーションがなく、パノラマにも本作のみです。初監督作品賞、テディー賞対象作品です。監督については詳細が入手できていませんが、ブエノスアイレスにある映画研究センターCIC(El Centro de Investigación Cinematográfica)で映画製作を学んだアルゼンチンの監督のようです。脚本がINCAAのオペラ・プリマ賞を受賞、共同製作イベルメディアの援助、2014年サンセバスチャン映画基金、2013年メキシコのオアハカ脚本ラボ、その他の資金で製作された。2016年の短編「Las liebres」が、BAFICI映画祭、ハバナ映画祭、BFI Flare ロンドンLGBT映画祭で上映されている。

(マルティン・ロドリゲス・レドンド監督)
データ:製作国チリ=アルゼンチン、スペイン語、2017年、実話、90分。
製作:Quijote Films(チリ)、Maravillacine(アルゼンチン)
監督:マルティン・ロドリゲス・レドンド
脚本:マルティン・ロドリゲス・レドンド、マリアナ・ドカンポ
編集:フェリペ・ガルベス
撮影:ギジェルモ・サポスニク
キャスト:ヴァルター(ウォールター)・ロドリゲス(マルコス、綽名マリリン)、カタリナ・サアベドラ(母オルガ)、ヘルマン・デ・シルバ(父カルロス)、イグナシオ・ヒメネス(兄カルリート)、ほか
物語:高校を優秀な成績で卒業した青年マルコは地方の農場で暮らす両親と兄のもとに帰ってくる。兄カルリートは牛の乳しぼりやパトロンが盗んできた牧牛の世話をしており、母オルガは婦人服仕立てで得たわずかなお金を暮らしにあてていた。父カルロスが亡くなると、さらに困難の日々が待っていた。ある同性愛者の集まりで自身のホモセクシュアルに目覚める。マルコスは農園の仕事が好きになれず、隠れて化粧をしたり女装をすることで息をついていた。この内気な若者も仲間からマリリンと呼ばれるようになる。カーニバルの季節がやってくると、踊りのステップを踏むことで自身の体を解き放ち喜びに酔いしれる。世間の冷たい目の中で窮地に立たされるマルコス、苦痛を和らげてくれる若者とのつかの間の愛の行方は・・・小さな村社会の差別と不寛容が語られる。

(カーニバルで自身を解き放つマルコス=マリリン、映画から)

(恋人とマルコス、映画から)
★実話に基づいているそうです。「チリ社会は保守的な人が多い。都会では年々LGBT(レスビアン・ゲイ・両性愛・性転換)に対する理解が得られるようになったが、地方では差別や不寛容に晒されている」とチリのプロデューサーのジャンカルロ・ナッシ。母オルガを演じたカタリナ・サアベドラは、セバスティアン・シルバの「La nana」(2009『家政婦ラケルの反乱』)で異才を放った女優。このシルバ監督も同性愛者で、不寛容なチリを嫌って脱出、現在はブルックリンでパートナーと暮らして英語で映画製作をしている。才能流出の一人です。
★セバスチャン・レリオの『ナチュラルウーマン』のテーマもLGBT、今回コンペティション部門にノミネートされたパラグアイのマルセロ・マルティネシの「Las herederas」もLGBTでした。こちらは評価も高く、観客の受けもまずまずだった。監督以下スタッフ、主演女優3人もプレス会見に臨み、各自パラグアイ社会の女性蔑視、性差別の風潮を吐露していました。初参加のパラグアイ映画に勝利の女神が微笑むことを祈りたい。いよいよ今夜受賞結果が発表になり、ベルリナーレ2018も終幕します。

(女優賞に絡めるか、アナ・ブルンとアナ・イヴァノヴァ、「Las herederas」から)
★フォーラム部門にノミネートされたチリのアニメーション、クリストバル・レオン&ホアキン・コシーニャの「La casa lobo」(「The Wolf House」2月22日上映)が評判になっています。おとぎ話に見せかけているが、実はピノチェト時代にナチスと手を組んで作った、宗教を隠れ蓑にした拷問施設コロニア・ディグニダが背景にあるようです。賞に絡んだらアップしたいアニメーションです。
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