トロフィーを母親に捧げたコイシェ監督*ゴヤ賞2018 ⑩2018年02月08日 12:55

               母親たちに感謝の言葉が捧げられたゴヤ賞の夕べ

   

23日の午後10時から翌日の午前2時近くに及ぶ受賞式、大騒ぎに飽きて途中で寝てしまった人も多かったでしょうか。視聴率はここ数年の最低ラインの19.9%、ダニ・ロビラが司会した前3回は23.1%、25.8%、24.7%と平均すれば24%を超えていたから、かなりの落ち込みといえます。司会者の力量だけでなくノミネートされた作品にもよるから一概に比較できないのは当然です。ネットの書き込みも批判が目立ったようです。かつて自らも受けた攻撃でくさっていたダニ・ロビラが「気にするほどのことはないよ」とツイートしていた。人の口には戸を立てられないからね。

   

        

      (スペイン映画アカデミー副会長、マリアノ・バロッソとノラ・ナバス)

 

★スペイン映画アカデミー会長空席で開催された第32回は、副会長の脚本家マリアノ・バロッソと女優のノラ・ナバスが取り仕切った。「もっと女性にチャンスを」と書かれた赤い扇子の波にうんざりした人も中にはいたはずです。個人的には現在のままでいいとは全く考えていないので、クオーター制の促進に反対ではありませんが、急ごしらえの硬直した制度には疑問をもたざるを得ません。何はともあれ一歩踏み出したことを祝福したい。しかし改革は「賢く緩やかに」、なぜなら急激な意識改革は成功しないからです。

   

     (真っ赤な扇子には「もっと女性にチャンスを」と書かれている)

   

★作品賞の予想は個人的には外れました。脚色賞はありかなと予想していましたが、まさかイサベル・コイシェの英語映画La librería(原題The Bookshop)が受賞するとは思いませんでした。興行成績の順位はパコ・プラサのホラー『エクリプス』に次ぐ2位だったのでしたが。作品賞と監督賞は連動しているから受賞は当然として、結果本作は大賞3個をゲットしました。これで監督自身のゴヤ賞は『あなたになら言える秘密のこと』に次ぐ2個目の監督賞、同作と『死ぬまでにしたい10のこと』を合わせて3個目の脚本賞、ドキュメンタリー賞2個、合計7個となりました。

    

         

        (大賞3個を受賞したLa libreríaの多過ぎるプロデューサー

 

★壇上にはイギリスからマドリード入りした、主演女優賞ノミネートのエミリー・モーティマーと助演男優賞ノミネートのビル・ナイの姿もありました。二人とも受賞は叶いませんでしたが、作品賞受賞には二人の好演、特にモーティマーの繊細ななかにも意志の強さを秘めた気品のある演技が無視できなかった。詳細は分かりませんが、2018年に劇場公開が決定しているようです。

    

       

          (ベスト・ドレッサーだったエミリー・モーティマー)

 

★スペインでは、母親への感謝が述べられるのが仕来り化しているスピーチも、栄誉賞以外は祖父母、子供、兄弟などは時間が掛かりすぎるとストップがかかるとか。監督のスピーチは「母親にお礼を言いたい、なぜかと言うと私は子供だったとき、家のことはほっぽり出してサボってばかりいた。それで父親に叱られてばかりいたのだが、母親が『本を読んでいるんだから、そのうち役に立つこともあるわよ』と取りなしてくれた」と。庇ってくれた母親ビクトリア・カスティーリョも会場にいたのでした。両親は本好きな子供だったイサベルに単行本だけでなく漫画雑誌も買ってくれた。さらに父親も母親も父方の祖母もシネマニアで、よくディズニーの映画を観に連れて行ってくれた。「最初の映画は『ピノキオ』で、ピノキオがクジラに飲み込まれると娘は泣きだして、私たちは映画館を出なければならなかったのよ」と母親。繊細な少女だったのだ。いわば映画に行くことはコイシェ一家のホビーだったわけです。

    

          

             (受賞スピーチをするコイシェ監督)

     

84歳になる母親はサラマンカ出身、仕事のためにバルセロナに移住、FECSAというカタルーニャの電力会社で働いていた父親フアン・コイシェと結婚した。つまり「私の両親は文化の重要性を信じていた労働者階級の人でした」。風変わりではあったが「娘はけっして問題児ではなく、知識欲が旺盛だっただけ」と母親。初聖体のプレゼントは、スーパー8ミリのカメラ、プレゼントとしては高価だったと思うが、シネマニア一家のコイシェ家らしい贈り物でした。

   

         

      (2個のトロフィーを手にした監督の母親ビクトリア・カスティーリョ)

 

★コイシェ監督の次回作は、「Elisa y Marcela」、1901年に結婚したスペイン最初のレスビアン夫婦の多難な人生が語られる。ガリシア出身のエリサ・サンチェス(マリオ・サンチェスとして)とマルセラ・ガルシアは共に教師同士、教区の主任司祭から拒絶されたのでイギリスで結婚した。ナルシソ・デ・ガブリエルの『Elisa y Marcela, Más allá de los hombres』(2010刊)の映画化のようです。キャストもナタリア・デ・モリナとマリア・バルベルデに決定、5月にガリシアとバルセロナでクランクインする。ネットフリックスです。

    

          

            (左からマルセラとエリサ、結婚式の写真)

 

「La librería」の紹介、コイシェ監督フィルモグラフィーは、コチラ⇒2018年1月7日