元気印のバルセロナの女性監督たち*カルラ・シモン、ロセル・アギラル・・・2017年07月10日 15:53

     カタルーニャに押しよせる魅惑的な新しい波―独立プロダクションの活躍

 

★どこの国にも当てはまるのが女性監督の圧倒的な少なさです。特にヨーロッパでも東欧では格差が顕著です。しかしカタルーニャではいささか様子が違うようです。というのも独立系プロダクションで映画作りをしている女性監督の活躍が目覚ましいのです。最近1か月間にカルラ・シモン1986)のVerano, 1993ロセル・アギラル1971)のBravaエレナ・マルティン1992)のJúlia ist の新作が次々に公開されることになり話題を呼んでいます。3人ともバルセロナ出身、先月末バルセロナのバルセロ・サンツ・ホテルで行われた鼎談の様子をエル・パイス紙が報じていました。この背景にはESCACで映画を学んでいる女性が40%を超えているという現実を見逃すわけにいきません。

  

  

(左から、カルラ・シモン、ロセル・アギラル、エレナ・マルティン、バルセロ・サンツにて)

 

ESCAC : Escuela Superior de Cinema i Audiovisuals de Catalunya カタルーニャ・シネマ・オーディオビジュアル高等学校。1993年バルセロナ大学の付属校としてバルセロナで設立、翌年開校した。現在は同州のタラサTarrasa(テラッサTerrassa)にあり、現校長はSergi Casamitjanaである。同校の卒業生には、当ブログでもお馴染みのフアン・アントニオ・バヨナ(『怪物はささやく』17)、キケ・マイジョ(『ザ・レイジ 果てしなき怒り』15)、マル・コル(『家族との3日間』09)、ハビエル・ルイス・カルデラレティシア・ドレラなどバルセロナ派の優れた監督を輩出している。

 

★同じバルセロナで仕事をしているが、シモンとアギラルは初顔合わせだった。それは年齢差の他に、映画を学んだ出身校の違いもありそうです。例えばシモンはバルセロナ自治大学オーディオビジュアル・コミュニケーション科を卒業後、映画はロンドン・フィルム・スクールで4年間学んでいる。アギラルがバルセロナ自治大学でジャーナリズムを学んでいるときは、ESCACはまだ設立前だった。マルティンはバルセロナのポンペウ・ファブラ大学(1990設立)を卒業、この公立大学で学ぶ女子学生数は74%に達しており、スペイン全体では51%と男子学生を逆転してしまっている。女性シネアストの活躍にはこのような裾野の広がりがあるようです。

 

      「ロンドンでの4年間が私を映画作りに駆り立てた」とカルラ・シモン

 

カルラ・シモン(バルセロナ1986)の監督、脚本家。Verano 1993(カタルーニャ語題 Estiu 1993)でデビュー、ベルリン映画祭2017ジェネレーション部門の第1回作品賞・国際審査員賞、マラガ映画祭2017では作品賞「金のビスナガ」とドゥニア・アジャソ賞を受賞した。この賞はガン闘病の末に2014年鬼籍入りしたドゥニア・アジャソ監督の功績を讃えて設けられた賞。第7回バルセロナD'Autor映画祭正式出品。他にブエノスアイレス・インディペンデント映画祭監督賞、イスタンブール映画祭審査員特別賞などを受賞している。選考母体が欧州議会の第11回ラックス賞のオフィシャル・セレクション10本にも選ばれています。プロットは紹介記事を読んでもらうとして、「両親がエイズで亡くなったため叔父さん夫婦と従妹と一緒に暮らさねばならなくなった6歳の少女の一夏の物語」です。観客にも批評家にも好感度バツグン、両方に評価されるのは、易しそうでいてなかなか難しいものです。主役の少女フリーダは監督自身に重なります。つまり監督のビオグラフィーがもとになっていて、6歳にしてはちょっとおませな少女像です。

 

       

      (養父を演じたダビ・ベルダゲルとフリーダ役のライア・アルティガス)

 

★ロンドンでの4年間が私を映画作りに駆り立てた。というのもロンドン時代に「内に抱いている、心を動かされる物語を語りたいと強く突き動かされた」からです。バルセロナに評判の高い独立プロダクションが本当に存在するかどうか具体的に答えるのは難しいが、「カタルーニャの女性監督の数がここにきて急に増えたことは確かなことです。要するにカギはこうしたいという意思表示や本当にやる気があるかどうかです。とても小さい世界ですから、お互いに刺激やエネルギーのやり取りがしやすい。ロンドンでは誰とも親しくしなかった。マル・コル監督やプロデューサーのバレリエ・デルピエレと交流し、結果彼女がプロモートしてくれた」。バレリエ・デルピエレは本作のエグゼクティブ・プロデューサーの一人です。 本作を支えてくれたスタッフの80%が女性だったことも明かしていた。  

 

        

          (ライア・アルティガスに演技指導をするシモン監督)

 

 Estiu 1993 とカルラ・シモンの紹介記事は、コチラ2017222327

 

     「マドリードよりバルセロナのほうが自由がある」とロセル・アギラル

 

ロセル・アギラル(バルセロナ1971)の監督、脚本家。Brava2017)は第2作、3人のうち一番年長のロセル・アギラルの Brava は、マラガ映画祭の記事で作品と監督のキャリアを紹介しております。新人とは言えませんが、国際的にも高い評価を受けたデビュー作 La mejor de mí 2007年と10年前になり、女性監督のおかれた地位の険しさを改めて感じさせられます。「第2作をクランクインさせるまで長くて曲がりくねった道を辿りましたが、撮りたい映画を作れるわけではありません。胎児を引っ張り出す助けをする助産婦さんのようなものです」と生みの苦しみをのぞかせた。それでも「マドリードは産業的だが、反対にバルセロナの独立プロダクションはより自由に伸び伸びと作らせてくれる」とカタルーニャのindieの柔軟さを語っていた。

 

  

         (ヒロインのライア・マルルを配したポスター)

 

★「20年前には、フェミニズムや男女平等について語ることは恥で、それは映画でさえ僅かでした。今日でも相変わらず男尊女卑が大手を振るっていますから、声を張り上げなければなりません」と。ESCAC内には「観客を置き去りにしない多くの独立プロダクションがあって、決まりきった事柄を回避する良い方法が得られます」とも。「私たちが望むのは現在の不均衡を是正して欲しいだけです。というのも私たちは男性が作るあまりに単純化された一方向性の世界観に馴らされてしまっているからです」と警鐘を鳴らしておりました。

 

 

             (ロセル・アギラル監督)

 

Brava とロセル・アギラルの紹介記事は、コチラ2017311

 

     「映画史は学ばなかった。学んだのは男性映画史だった」とエレナ・マルティン

 

エレナ・マルティン(バルセロナ1992Júlia ist2017)はデビュー作、マラガ映画祭2017ZonaZine部門の作品賞、監督賞を受賞している他、第7回バルセロナD'Autor映画祭に正式出品された。自ら主役ジュリア(フリア)を演じた自作自演のデビュー作。新世代の代表的監督の一人、映画と舞台、監督と女優と二足の草鞋を履いている。バルセロナのポンペウ・ファブラ大学UPFの学生時代に仲間4人と共同監督したLas amigas de Agata(15)でも主役のアガタに扮した。本作は「ポンペウ・ファブラ大学の最終学年に閃いた作品、公立大学のUPFにはESCACのような制作会社がないので常に資金不足、コストを下げるために、およそ持てるもの全てにについて議論し励ましあい、グループで作っている」とマルティン。彼女の仲間たちにとって「アメリカ映画、例えば『今日、キミに会えたら』(Like Crazy2011)を見ることはヒントになった。なぜなら若人たちの会話とか状況が似通っていたからです」と語っている。まだ経験不足でバルセロナの映画産業について語る立場にないが、「大学では映画史は学ばなかった。学んだのは男性映画史だった。コンペティションも男性優位、女性が作る映画は取るに足りないと遠ざけられる」とも語っている。

 

    

          (ヒロインのエレナ・マルティンを配したポスター

 

★当ブログ初登場作品、脚本はエレナ・マルティン、ポル・レバケマルタ・クルアニャスマリア・カステリビの共同執筆、撮影はポル・レバケ。キャストはエレナ・マルティン、オリオル・プイグラウラWeissmahrほか、90分、スペイン公開616日。プロット「ジュリアはバルセロナ建築大学の学生、深く考えたわけではないがベルリンにエラスムスに行こうと決心する。初めて家を離れるのも冒険なのだ。ところがベルリンでは、どんよりとして冷たい想像を超えた凍てつくような寒気という手痛い歓迎を受けてしまった。期待と現実の落差に立ち向かうことになるが、どう見ても新しい人生はバルセロナで考えていたようなものとはかけ離れ過ぎていた」。エラスムスに行くというのはEU域内を対象にした留学奨励制度を指していると思うが、あるいは世界各国に対象を広げたエラスムス・ムンドゥスかもしれない。

 

   

          (ジュリアを演じたエレナ・マルティン、映画から)

 

★意を尽くせませんでしたが鼎談のあらあらを総花的にご紹介いたしました。バルセロナはマドリードよりindie独立プロダクションで製作する監督が多く、その中にはイサキ・ラクエスタ&イサ・カンポ夫婦(La proxima piel マラガ映画祭16)、カルロス・マルケス=マルセ10.000 KMマラガ映画祭14)、マルク・クレウエトEl rey tuerto マラガ映画祭16)などもおり、当ブログでもご紹介しております。

 La proxima piel マラガ映画祭2016の紹介記事は、コチラ2016429

 10.000 KM マラガ映画祭2014の紹介記事は、コチラ2014411

 El rey tuerto マラガ映画祭2016の紹介記事は、コチラ201655

 

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