ダニエル・モンソンの新作『エル・ニーニョ』*ラテンビート2014② ― 2014年09月20日 23:41
★今年、ハリケーン級の興行成績を上げている映画は、サンセバスチャン映画祭「メイド・イン・スペイン」で上映されるエミリオ・マルティネス・ラサロの“Ocho apellidos vascos”がぶっちぎりで1位だと思っていたのに、『エル・ニーニョ』が8月29日に封切られるや怪しくなってきた。日刊紙「エル・ムンド」電子版によると、週末3日間で300万人が見たという(スペインは金曜日が封切り日)。売上高285万ユーロを弾きだしたというが、これで計算合ってる? この勢いだとナンバー1になるのもそう遠くはない。夏休み最後の週末だからお財布に残っていたお金を残さず使っちゃおうと思ったのかも。
*“El Niño”*
製作:Telecinco Cinema / IkiruFilms /
Vaca Films 他
監督:ダニエル・モンソン
脚本:ホルヘ・ゲリカエチェバリア/ダニエル・モンソン
撮影:カルレス・グシ
音楽:ロケ・バーニョス
編集:クリスティナ・パストール
製作者:アルバロ・アウグスティン/ビクトリア・ボラス(IkiruFilms)、他多数
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キャスト:ルイス・トサール(警察官ヘスス)、ヘスス・カストロ(エル・ニーニョ)、イアン・マクシェーン(エル・イングレス)、セルジ・ロペス(ビセンテ)、バルバラ・レニー(ヘススの相棒エバ)、ヘスス・カロッサ(エル・コンピ)、エドゥアルド・フェルナンデス(セルヒオ)、Saed Chatiby(ハリル)、ムサ・マースクリ(ラシッド)、マリアン・バチル(アミナ)、スタントマンも含めてその他大勢。
データ:2014、スペイン、スペイン語、アクション・スリラー、136分、撮影地(ジブラルタル海峡、モロッコのタンジール、スペインのアルヘシラス、タリファ、セウタ、アルメリアなど)
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解説:麻薬取引に手を染めた命知らずの若者たちと、密売組織の操作に全力を注ぐ二人の警官。麻薬密売の巣窟と言われる危険なジブラルタル海峡を舞台に繰り広げられる、犯罪組織と警察の攻防を描く。『プリズン211』の主演ルイス・トサルと監督ダニエル・モンソンが再びタッグを組んだアクション&サスペンス。(ラテンビート公式サイトからの引用)
★こういうテーマ、ハリウッド映画や海外ドラマで飽きるほど見ているんじゃないかと思う。しかしまだ完成する前から、『プリズン211』のモンソンが5年ぶりに撮るというので、スタッフ並びにキャスト、撮影状況を含めてメディアが熱く報道していました。監督によれば、モデルは存在するが実話ではなくフィクションです。しかし20年前30年前の話ではなく、現在日常的に起こっている事柄を基礎データにして脚本が書かれたと分かれば話は別、見たくなります。
★『プリズン211』というのは、「スペイン映画祭2009」で『第211号監房』の邦題で上映された“Celda 211”(2009)のDVDタイトルです。細かいことを言えばプリズンではなく監房です。公開がアナウンスされながらDVD発売だけに終わった。ゴヤ賞2010では、作品・監督・脚色・男優賞他8部門を制したヒット作。声を潰し筋肉マンに変身して主役マラマードレを演じたトサールは、「やっと父親から俳優と認めてもらえた」と語った映画でした。製作費570万ドル、現在とは為替レートが違うから単純に比較できないが、スペインでの売上高は1300万ユーロに止まった。
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プロット:エル・ニーニョは、英領ジブラルタルの国境沿いラ・リネア・デ・ラ・コンセプションに住んでいるモーターボートの修理工。ある夜、ダチのエル・コンピと出掛けたパーティの帰途、二人はムスリムの青年ハリルと出会った。彼の叔父ラシッドは麻薬密売のディーラーを生業にしている。エル・コンピに説得され、得意のモーターボートを駆使してブツをアフリカからスペインに運び込む「運び屋」を引き受ける。一方ベテラン警官のヘスス、その相棒エバは、ジブラルタルの密売組織を牛耳っているイギリス人麻薬密売人エル・イングレスの足跡を2年間ずっと追い続け包囲網を狭めていくが尻尾が掴めない。そんなとき若い二人の運び屋エル・ニーニョとエル・コンピが網に掛かってきた。 (文責:管理人)
*ジブラルタルはイギリスの海外領土、地中海の出入り口にある要衝の地ジブラルタル海峡を望む良港をもつため、軍事・商業上重要なところでイギリス軍が駐屯している。ザ・ロックと呼ばれる岩山が総面積のほぼ半分を占めている。エル・ニーニョが暮らすラ・リネア(・デ・ラ・コンセプション)はイギリス国境沿いの町、アンダルシア州に所属し人口約6万5000人。
★ダニエル・モンソン Daniel Monzón Jerez:1968年マジョルカ島のパルマ生れ、監督・脚本家・俳優。脚本家として出発した短編を撮らない珍しい監督。
*監督としてのフィルモグラフィー*
1)1999“El corazón del guerrero” 邦題『クイーン&ウォリアー』(アドベンチャー・ファンタジー)、2002年5月公開。
2)2002“El robo más grande jamás contado”(アントニオ・レシネス主演のコメディ)本作からホルヘ・ゲリカエチェバリアとタッグを組み現在に至る。
3)2006“The Kovak Box”(“La caja Kovak”西= 英合作、西語・英語・独語)、『イレイザー』の邦題でDVD化されたSFサスペンス、未公開。
4)2009“Celda 211”『プリズン211』DVD (映画祭タイトル『第211号監房』)未公開。
5)2014“El Nino”
*柳の下に泥鰌が2匹、関係者の笑いは止まらない。観客が楽しんでくれる映画作りをモットーにしているモンソン監督、今回もその言葉通りに推移しているようです。これといった大宣伝はしないのに多くの観客が見てくれるのは、「全て観客のクチコミのお蔭、本当に誇りに思っています」(監督談話)だそうです。“Ocho
apellidos vascos”同様成功の決め手はクチコミ、スペイン映画産業にとって、これほどの成功は異例の現象だという。アクション映画が大好きな若者をターゲットに製作されたが、観客層は老若男女と幅広く、「観客は笑うべきところで笑ってくれている」と監督。
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(ダニエル・モンソン監督)
*『プリズン211』も「冷酷で、胡散臭く、限りなくダーク」だったが、幅広い観客層に受け入れられたが、本作はそれを超えている。それは「女性を感激させるエモーショナルなスリラーだから」だと監督は分析しています。更に映画に重厚さをもたらした理由として、ルイス・トサール、エドゥアルド・フェルナンデス、バルバラ・レニーなどのベテラン勢に加えて、新星ヘスス・カストロ(エル・ニーニョ)を上げています。エル・コンピに扮するヘスス・カロッサ、年若い運び屋を演じたこの二人の「ヘスス」の好演が成功に貢献しているとか。
*製作費約600万ユーロで撮られた。こんな額で完成できたのは「奇跡」とモンソン、「英語で撮るなら資金を出すという製作会社のオファーを断った」理由は、スペイン語に拘ったからだ。ここらへんが世代の違う『インポッシブル』のフアン・アントニオ・バヨナ(1975)との違いですね。過去に密売に携わった関係者にも取材して細部を固め、小道具の一つだったハシッシュ(大麻)の密輸品を押収するシーンでは治安警備隊の警官を動員してもらえた。ヘリコプターもホンモノ、3トンのランチもホンモノ、出動してくれた治安警備隊もホンモノだったようです。だからウソっぽくないのは当然です。勿論、共同執筆者のホルヘ・ゲリカエチェバリアの助けなしには完成できなかったという。
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(エル・ニーニョが操縦するランチを追うホンモノの国家警察のヘリコプター)
★ホルヘ・ゲリカエチェバリア Jorge Guerricaechevarría:1964年アストゥリアスのアビレス生れ、脚本家。アレックス・デ・ラ・イグレシア(ゴヤ賞にノミネートされた『ビースト 獣の日』、『みんなの幸せ』、『オックスフォード殺人事件』他、ほぼ全作)、ペドロ・アルモドバルの『ライブ・フレッシュ』、モンソンの第2作から本作までを執筆している。
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★ルイス・トサールは、『プリズン211』で紹介記事が既に書かれていますし、彼は単独できちんと紹介すべき役者なのでここでは割愛です。前作ではイシアル・ボジャインの『花嫁の来た村』や『テイク・マイ・アイズ』の印象を一変して、「こういうトサールを見たかった」ファンを喜ばせた。彼を語るとしたら『プリズン211』が一番相応しい。エル・イングレス役のイアン・マクシェーンはイギリス人、ラシッド役のムサ・マースクリはマルセーユ生れのフランス人と国際色も豊か、演技に文句のつけようがないエドゥアルド・フェルナンデス、バルバラ・レニー、セルジ・ロペスとそれぞれ危なげがない。
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(ルイス・トサール右)
★新星ヘスス・カストロ Jesús Castro:1993年カディスのベへール・デ・ラ・フロンテラ生れの21歳、俳優。父親はカフェテリアを経営している。母親はヒターノ出身、弟と妹がいる。スカウト前はカディスの中央部に位置するラ・ハンダ La Janda の高等学校 Ciclo Formativo de Grado Medio で電子工学を学んでいた。ESO(中等義務教育12~16歳)資格がないと入れない。同時にディスコで働き、父親のカフェテリアでチューロを作って家族の経済を支えていたという孝行息子です。
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*モンソンによると、なかなか主役が見つからずカディスの中学校、高等学校、ジムなどを駆けめぐって探したという。そんなとき1枚の写真に出会い、鋭い視線、その背後に覗く胡散臭さ、それは並はずれていたという。それがヘスス・カストロ、やあ、運命を感じます。それからランチの運転、水上バイクの運転、アクション・シーンの演技指導とシゴキが始まったということです。「彼のように現れるだけで部屋を照らすような俳優はそうザラにはいない」とモンソン。他にサンセバスチャン映画祭2014オフィシャル・セレクション正式出品のアルベルト・ロドリゲスのスリラー“La isla mínima”に出演している(コチラ⇒9月16日)。上映前なのでここらへんで。
★ラテンビート2014新宿バルト9上映日時(10月11日13:30/12日18:30の2回上映)
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