モントリオール映画祭2014*ノミネーション⑤ ― 2014年09月01日 15:22
★順序が逆になりましたが、ワールド・コンペティションには長編2本(メキシコ、ペルー)、短編3本(メキシコ)と、メキシコが目立つのが、今年のモントリオールです。審査員長セルジョ・カステリット、審査員の一人にアナ・トレント(スペイン)が参加しています。
ワールド・コンペティション部門
“Obediencia
perfecta”(Perfect
Obedience)メキシコ、ルイス・ウルキサ監督
製作:AstilleroFilms、Equipmente & Film Design
プロデューサー:ダニエル・ビルマン・リプステイン(代表作にカルロス・カレーラの『アマロ神父の罪』2002)、ルルデス・ガルシア、ヘオルヒナ・テラン他
監督・脚本:ルイス・ウルキサ(エルネスト・アルコセール著“Perversidad”からの着想)
撮影:セルゲイ ・サルディバル・タナカ(ロドリーゴ・プラの“Desierto adentro”2008)
音楽:アレハンドロ・Giacoman(カルロス・カレーラの“La mujer de Benjamin”1991)
編集:ホルヘ・マカヤ
キャスト:フアン・マヌエル・ベルナル(アンヘル・デ・ラ・クルス神父)、セバスチャン・アギーレ(少年期のフリアン/サクラメント・サントス)、アルフォンソ・エレーラ(成人サクラメント・サントス)、フアン・イグナシオ・アランダ(ガラビス神父)、ルイス・エルネスト・フランコ(ロブレス神父)、フアン・カルロス・コロモ、アレハンドロ・デ・オジャス、ダゴベルト・ガマ、クラウデッテ・マイジェ他

データ:メキシコ、スペイン語、2014、99分、撮影地:ベラクルスとメヒコ州(メキシコシティの北側にある州)、映倫区分:メキシコD-15(15歳以上)、メキシコ映画協会IMCINE(Instituto Mexicano de Cinematografia)の支援を受けた。メキシコ公開2014年5月1日(約800のコピーが製作された)
ストーリー:カトリックの神学生サクラメント・サントス(フリアン) は、新しく設立された修道会Los Cruzados de Cristo(キリストの十字軍)で教育をうけることになる。そこでは神学生に<完全なる服従>(Obediencia perfecta)が求められる。フリアンは設立者のアンヘル・デ・ラ・クルス神父を信頼し、アンヘル神父も彼を愛するようになる。教会内部で秘かに行われていた聖職者によるスキャンダラスな少年愛、長年にわたって事実を隠蔽しつづけたバチカン、人間が犯す暗部についてのフィルム。
「私も8年間神学生だった」
*ルイス・ウルキサ・モンドラゴン Luiz Urquiza Mondrasonは、メキシコの監督、本作が長編デビュー作ですが、プロデューサーやプロダクション・マネジャーのキャリアは長い。最新作としては、本作のプロデューサーの一人ルルデス・ガルシアと携わったアントニオ・セラーノ監督の“Morelos”(2012)、同監督の“Hidalgo-La historia jamás contada”(2010)などがある。本作を撮った理由として、「17年前にマルシアル・マシエルの未成年者性的虐待のニュースを知った。自分もかつて17歳までの8年間神学校で暮らした経験があり、知らないわけではなかったが、アルコセールの“Perversidad”を読んで映画化の準備を始めた」と動機の一つに挙げています。「以前からこのテーマで撮るアイデアは潜在的にあって、宗教者のおぞましい少年愛に警鐘を鳴らしたい」意図で製作した。
★21世紀に入ってから顕在化した聖職者による少年愛をバチカンも認めざるを得なくなった。本作はメキシコのプラネタ社から刊行されたエルネスト・アルコセールの“Perversidad”(2007、邪悪という意味)に着想を得て製作されたフィクション。タイトルは同書の “Obediencia perfecta” 章から採用された。アンヘル神父のモデルとなったマルシアル・マシエルMarcial Maciel(MM、ミチョアカン1920~フロリダ2008、)は、1951年にカトリック信徒団Legión de Cristo/Legionarios de Cristo(映画ではLos
Cruzados de Cristo)を設立した聖職者。

★教会内部で行われていた少年愛による性的虐待の告発状が、1990年代に既にバチカンに届けられていた。しかしMMの庇護者であった当時の教皇ヨハネ・パウロ二世(1978~2005)は事実を黙認した。かつてヨハネ・パウロ二世はMMの要請で3回(1979、1990、1993)メキシコを訪問している(メキシコが最初の訪問国)。しかしベネディクト十六世に変わった2006年5月、バチカンはMMの神学生の性的虐待と複数の子供の父子関係を認めて、「祈りと苦行」を公に行うことを禁じた(つまり退任)。国連の児童権利委員会もバチカンが黙認していたことを非難した。2008年1月30日、フロリダで失意と非難の嵐のなかで87歳の生涯を閉じた。死後の2009年、あるスペイン女性が父親はMMと明らかにし、翌年Legión de Cristoも未成年者性的虐待を認め、設立者MMとの関係を断ち切った。

マシエルの伝記映画ではない
★作家エルネスト・アルコセールは裏の取れた事実のみを執筆したと言明していますが、映画はあくまでフィクションです。素材はMMから採られていても、彼の伝記映画ではありません。教会内部で行われていた聖職者の少年愛は、教区民の信頼を裏切る行為のため論争を引き起こすテーマと言えます。カルロス・カレーラの『アマロ神父の罪』は、本国では上映中止になったことは記憶に新しい。映画では少年愛に止まらず複数の女性との関係、富と権力に執着した人間として描かれている。ウルキサ監督も「この映画は子供たちを性的に誘惑し、権力をほしいままにして財産を築いた司祭の物語、象徴的なケースがMMだった」と語っています。「センセーショナルなスキャンダルとして描きたくなかった。シネアストとしての興味は、少年たちの信頼につけ込んで、どのようにして彼らの愛を勝ち取ったのか」その過程にあると語っています。
沈黙の時ではない
★主人公のアンヘル・デ・ラ・クルス神父を演じたフアン・マヌエル・ベルナルは、「この物語はきちんと語る必要がある。やっと俎上にのせる時がやっと来た、黙っていられないことだよ」と語っています。「撮影に入る前に、少年愛をテーマにした映画は見たくなかった。代わりにフェリーニ、ロッセリーニ、パゾリーニなど、イタリアのクラシック映画をたくさん見て、それがとても参考になった」とも。更にMMの餌食になった犠牲者たちとも実際に会って話を聞いた。彼によれば、「時代背景は1960~70年代に設定されている。当時、神の国へ導く人として神父の占める位置は、家族の中でかなり大きかったと思う。そういう信頼を裏切って、複数の女性との間に子供までもうけており、権力と富に執着した、いわば二重生活を送っていた人物」。主人公アンヘル神父の「やったことはまったくひどい話だが、映画の中では複雑な主人公を裁くことはしていない」
★名誉枢機卿フアン・サンドバル・イニィゲスによると、「マシエルの行為についてはバチカン内にも強い非難の声があった。MMは精神病質者で統合失調症を患っている二重人格だった」と、2010年のインタビューに答えています。ちょっとやり切れない話です。
「とても怖かった」
★サクラメント・サントス役でデビューしたセバスチャン・アギーレ(14歳)は、「とても怖かった」と一言。監督によると、「テーマが分かると両親が出演を渋って難航した。結果約2000人の子供たちをオーデションで見た。美少年というだけではダメ、内面的なテーマを理解できる子供、更に両親も理解できることが必要だった」。撮影はボイコットを懸念して秘密裏に行われ、常にセバスチャンの両親を立ち合わせた。中には両親の立会いなしのシーンもあって、そのときは精神科医の応援を受けたということです。

(サクラメント・サントスとアンヘル神父)
★最初自分のできる限界を超えていると思ったが、「シナリオを読んで・・・そんなにどぎついとは思えなかった。自分を試してみたくなって・・・今では映画に出演した経験はとてもよかった」とセバスチャン。短編映画出演の経験はあるが、主役の長編は初めて、舞台出演もあるというから全くのズブの素人ではない。しかし既に20世紀中ごろのような神学校は珍しくなっているし、教会が家庭に占める位置も小さくなっているから、セバスチャンには全てが新しい体験、たくさんの出演者に囲まれて大型カメラの前に立つのは恐怖心を感じても当然です。
真実に近づく第一歩になるか?
★MMの告発状をバチカンに送ったLegionarios de Cristoの8人の元神父の一人ホセ・バルバのように今でもバチカンの責任を求め続けている人もいる反面、教会はかなりのダメージをうけるし、この映画に疑問を呈する人もいる。どの世界にも善と悪は存在する、この映画が真実に迫るとしても、すべての独身者が男色ではない。聖職者の妻帯を認めることが解決法になるのかどうかも含めて、今後論争は避けられない。
モントリオール映画祭2014*ノミネーション⑥ ― 2014年09月04日 12:00
★最後がペルー映画、サイコ・スリラーの要素をもつ政治サスペンス、ジャーナリストのリカルド・ウセダの“Muerte en el Pentagonito”に着想を得て製作された。共同監督の二人はともに本作がデビュー作。話題の焦点は、新人監督より主役を演じたベテラン俳優‘Cachin’ことカルロス・アルカンタラにあるようです。ショーマンとしてテレビ界で活躍しています。
ワールド・コンペティション部門(続き)
“Perro Guardián”(Guard
Dog)ペルー Bacha Caravedo &
Chinón Higashionna 監督
製作:Señor Z
製作者:マピ・ヒメネス/ロレナ・ウガルテチェ
監督:バチャ・カラベド/チノン・ヒガシオンナ
脚本:バチャ・カラベド
撮影:フェルガン・チャベス・フェレール
音楽:パウチ・ササキ
データ:ペルー、スペイン語、2014、ジャンル(スリラー、陰謀、犯罪)、ペルー内戦、パラミリタール(私設軍隊)、2012年ペルー文化省から企画賞として18万ドルが贈られた。モントリオール映画祭2014ワールド・コンペ正式出品(8月23日上映)、88分、ペルー公開2014年9月4日

キャスト:カルロス・アルカンタラ(シカリオのペロ)、レイナルド・アレナス(アポストル)、マイラ・ゴニィ(ミラグロス)、ラモン・ガルシア(パドリーノ)、ミゲル・イサ(メンディエタ)、フアン・マヌエル・オチョア(オルメーニョ)、ナンシー・カバグナリ、フリア・ルイス、サンドロ・カルデロン、オズワルド・ブラボ、ホセ・メディナ他
ストーリー:2001年リマ、反テロの闘争時代に人権侵害の廉で服役していた軍人と市民が、「軍人恩赦法」により釈放された。パラミリタール(私設軍隊)の元メンバーだったペロもその恩恵を受けた。今はある民兵軍組織のシカリオとして暗殺を請け負っている。部屋に閉じこもり上層部からの指令を実行するだけの日々を送っている。ある指令が「キリストの戦士」という教会に彼を導いていく。祈りと叫びのなかでカルトの指導者アポストルに出会うが、彼はペロの何かを嗅ぎつけているようだ。ペロはそこで出会ったミラグロスという娘に惹きつけられていく。任務をキャンセルしたペロは、教会に足しげく通い静かにミラグロスを見守っている。それまで冷酷なシカリオに徹していたペロも次第に任務を苦痛に思うようになっていった。暗殺には正当な根拠が必要ではないのか、彼の武器は神の剣に変わろうとしていた。

(ペロに扮したカルロス・アルカンタラ)
★ペルー内戦後のリマが舞台、ファースト・フィルム部門の“La hora azul”(アロンソ・クエトの同名小説の映画化)で触れましたように(⇒コチラ モントリオール映画祭④)、ペルーも長期間内戦に苦しみました。主人公ペロはパラミリタールという政府軍並みの軍事力を備えた私設軍隊のもとメンバー、恩赦で娑婆に戻っても結局彼にできるのはシカリオしかない。リマの工業地区のアパートの一室に閉じこもり機密の指令を待つ。
*「俺は背中にも目がある」と武器を通してしか自分を語れない男に扮するのがカルロス・アルカンタラ、ショーマンとしても人気があり、テレビ・インタビューでも若い二人の監督より彼に質問が集中しています。「前から映画化されたら演ってみたい役だった。願いが叶って嬉しい」と語るアルカンタラ、更に「主人公役でモントリオールに行けるのは、それだけで賞を貰ったようなもの。仕事に対する批評や意見が私の進むべき正しい道を教えてくれるから、それも受賞と同じです。ノミネーションされている作品が他に20作ほどあるけれど、男優賞を受賞することを夢見ている。もし叶ったら飛行機に乗ってすっ飛んで帰ってくるよ」とインタビューに語っています*。
(*既に発表になっており、中国のヤオ・アンリェンの手に渡ってしまいました)

(ピエロに扮したショーマンのアルカンタラ)
★「キリストの戦士」と呼ばれる教会の指導者アポストルは、<キリスト再来>のメッセージをもたらすために神から選ばれた一種の救世主と感じている。冷静沈着、堂々としてエネルギッシュに響く声は伝道者として申し分がない。あたかも忠実な戦士のごとく士気を鼓舞する。「暗殺者は疑問を持たずに発砲する。しかし正義の人はまず何故かと理由を知りたく思う」ものだ。もう一人の重要登場人物に扮するのがレイナルド・アレナス(レイナルドのスペルが1字違うが、訳すと『夜になるまえに』のキューバ作家と同名になってしまう)。1944年生れ、1984年、フェデリコ・ガルシア・ウルタドの“Tupac Amaru”で映画デビュー、ルイス・リョサの“Sniper”(1993、米国合作)のカシケ役で出演。リョサ監督はノーベル賞作家バルガス=リョサの従兄弟、彼の『ヤギの祝宴』を映画化した(2006、ラテンビート2006で上映)。


★パドリーノ、リマの中心街で小さなペルー料理店を経営し、ミラグロスを育てている。「キリストの戦士」のナンバー2、この組織を動かしている。必要あれば、しばしばアポストルの代理人を務めている。ラモン・ガルシアは、フランシスコ・ロンバルディの“La ciudad y
los perros”(1985)、ルイス・リョサ“Fire on the Amazon”(1993、ペルー≂米国)、アルベルト・ドゥラン“Alias ’La Gringo’”(1991、ペルー≂スペイン他)などに出演。

★メンディエタ、敵を圧倒する仕事のため今もペロと接触している。彼は武器を使わない書斎派の軍人、「恩赦は継続するだろうが、これはショーみたいなものだからほうっておくさ」。ミゲル・イサは、リマ出身、“La ciudad y los perros”がデビュー作、ミゲル・バレダ≂デルガドの “Y si te vi,
no me acuerdo”(YVムービー1999、ペルー≂独)、ダニエル・ロドリゲス“El
acuarelista”(2008)とファブリツィオ・アギーレ“Tarata”(2009)の2作では主役を演じている。タラタは中流階級以上が住んでいる通りの名前、内戦でテロリストの攻撃を受け崩壊していく家族の肖像が描かる。

★監督紹介:これがまだ詳細が分からない。バチャ・カラベド Bacha Caravedoは、監督・脚本家、短編“Papapa”(2000)と“Los herederos”(2005)を撮っている。チノン・ヒガシオンナChinón
Higashionnaは正真正銘のデビュー作、名前と風貌から類推して沖縄の東恩納出身の日系ペルー人のようです。

★音楽担当のパウチ・ササキ Pauchi Sasakiも日系ペルー人、28歳と若いヴァイオリニスト、ニューヨーク他海外で学んでいる。東京にも来日しているようです。予告編からですが、これがなかなかいい。

*既に授賞式(9月1日)があり、本ブログにアップした作品がグランプリを含めて3作も受賞しました。次回は少しお祝いをして、モントリオールは閉幕します。
モントリオール2014*受賞結果⑦ ― 2014年09月06日 11:20
モントリオール映画祭2014*受賞結果
★今年は日本映画も審査員特別グランプリに『ふしぎな岬の物語』、監督賞に呉美保(『そこのみにて光輝く』)が受賞するなどダブル・オメデタなモントリオールでした。

(左から、呉監督、吉永小百合、ウルキサ監督)
★さてスペイン語映画では、メキシコが賞を独り占めした感のあるモントリオールでしたが、現地はガエル・ガルシア・ベルナル離婚報道のほうが大きかったでしょうか。昨今では結婚も容易ではなくなりましたが、もっと大変なのは長続きさせることですね。
★ワールド・コンペティション部門
◎“Obediencia perfecta” ルイス・ウルキサがグランプリ&グラウベル・ローシャ賞のダブル受賞。監督自身も驚いたろうと思いますが、まさか、まさかの受賞でした。最優秀ラテンアメリカ映画に特化したグラウベル・ローシャ賞には一番近いかな、と予想していましたがグランプリとはね。審査委員長セルジョ・カステリット以下の審査員一同に感謝(笑)。作品紹介は最近アップしたばかりです。

(受賞を喜ぶルイス・ウルキサ監督)
★ファースト・フィルム部門
◎“González”クリスティアン・ディアス・パルドが金賞を受賞。
◎“Los bañistas”マックス・スニノが国際批評家連盟賞(FIPRESCI)を受賞。

(一番右側がマックス・スニノ監督)
両作品とも(⇒コチラ、モントリオール映画祭③)にアップ。
★今回ご紹介できなかったのがフォーカス・オン・ワールド・シネマ部門、観客賞受賞のマリア・リポルの“Rastres de sándal”(西≂インド)やダニエル・アギーレの“Investigación policial”など、スペイン語映画は10本ほどノミネートされていました。

(マリア・リポル監督)
★“Rastres
de sándal”の言語はカタルーニャ語と英語です。マリア・リポルは、“Utopía”が『ユートピア/未来を変えろ。』(2003)の邦題で公開、DVDも発売されています。当時人気絶頂だった『炎のレクイエム』のレオナルド・スバラグリアと『アナとオットー』のナイワ・ニムリが出演した映画です。受賞作はAsha Miró&Anna Soler Pontが共同執筆したカタルーニャ語の同名小説(2007年刊)の映画化のようです。子供のときインドで生き別れになってしまった姉妹、インドで有名になった女優の姉と養女となってバルセロナに住んでる妹の物語。ボンベイとバルセロナが舞台になり、姉にNandita Das(1969デリー生れ)、妹に“Elisa K”(2010)で主役のエリサを演じたアイナ・クロテットが扮しています。

(映画のワンシーンから)
サンセバスチャン映画祭2014*ノミネーション① ホライズンズ・ラティノ部門 ― 2014年09月09日 14:16
★目前に迫ってきた第62回サンセバスチャン国際映画祭(9月19日~27日)、5月20日に今年の映画祭ポスターがメディアに紹介されて以来、飛び飛びに発表されていたラインナップもどうやら出揃いました。オフィシャル・セレクション21本のうちコンペ外3本を除いた18作品で競います。うちスペイン語映画は6本と多く、スペインは合作を含めて4本、アルゼンチン、チリ各1本ずつです。現在開催中のトロント映画祭(9月4日~14日)と作品が重なります。オープニングはアメリカのアントワン・フークワの“The Equalizer”(コンペ外)、クロージングはフランスのエリック・トレダノ&オリヴィエ・ナカシュの“Samba”と、共にトロントの「ガラ・プレゼンテーション」上映作品です。スペイン語映画は仮に公開されたとしても来年後半以降になりますね。

★ラテンアメリカ映画は、別に「ホライズンズ・ラティノHorizontes Latinos」部門があって、そちらに流れる傾向があります。秋に開催される「ラテンビート映画祭」では、このセクションと「メイド・イン・スペイン」から選ばれることが多いので、「ホライズンズ・ラティノ」から。
*ホライズンズ・ラティノHorizontes Latinos*
★ポルトガル語圏のブラジルを含めたラテンアメリカ諸国の映画、他の映画祭(例えばカンヌ、ベルリンなど)上映作品並びに受賞歴があってもスペイン未公開作品に限る。審査委員にスペイン人はタッチしない(今年は女性3人が選ばれている)。受賞作品には35,000ユーロの賞金がつく。以上のような枠があります。
★今年はアルゼンチンが合作も含めて最多の7本、同ブラジル3本、同メキシコ、チリ、コロンビアが各2本ずつ、ウルグアイ1本、合計14作品です。ブラジル、メキシコ以外は資金的に単独製作が難しいので欧米との合作が多いのが目立ちます。
★審査委員長にブラジルのプロデューサー、サラ・シルベイラ、コロンビアの女優フアナ・アコスタ、メキシコの批評家・脚本家のヌリア・ビダルと女性3人が審査員です。
*委員長サラ・シルベイラは、1981年よりサンパウロ在住のブラジルで最も活躍しているプロデューサーの一人。2004年のサンセバスチャン映画祭の奨学金を貰って製作した“Cinema, Aspirinas e Urubus”が、翌年のカンヌ映画祭「ある視点」に出品、教育国民賞を受賞し、さらにオスカー賞2007のブラジル代表作品にも選ばれた。マルセロ・ゴメスの“Era una vez eu, Veronica”がサンセバスチャン2012の同セクションで審査員特別メンション賞を受賞するなど本映画祭との縁は深い。
*フアナ・アコスタは1976年カリの生れだがスペインのTVドラマの出演も多く、ダビ・トゥルエバの“Bienvenido a casa”、オリヴィエ・アサイヤスのサスペンス伝記『カルロス』などに出演している。
*ヌリア・ビダルは、1949年メキシコ生れ、シッチェス・ファンタジック映画祭(1994~97)、サンセバスチャン映画祭(1998~2006)の運営委員のメンバーだった。
★上映作品(ゴチック体は既に記事にした作品・青字はスペイン語ではないので割愛)
◎Gente de bien 仏≂コロンビア、フランコ・ロジィ
カンヌ映画祭2014「批評家週間」上映(⇒コチラ5月8日)


◎Jauja アルゼンチン≂米国≂メキシコ≂蘭≂仏≂デンマーク≂独 リサンドロ・アロンソ
カンヌ映画祭2014「ある視点」上映、国際批評家連盟賞受賞(⇒コチラ5月6日、5月27日)
カルロヴィ・ヴァリ映画祭正式出品
トロント映画祭2014「Wavelengths」部門上映。



◎Ciencias naturales(Natural Sciences) アルゼンチン≂仏、マティアス・ルッチェシ
ベルリン映画祭2014ベスト・フューチャー・フィルム賞受賞
ブエノスアイレス・インディペンデント・シネマ国際映画祭FEISAL賞受賞、他

◎Dos disparos(Two Shots Fired) アルゼンチン≂チリ=蘭=独 マルティン・Rejtman
ロカルノ映画祭正式出品
トロント映画祭2014「コンテンポラリー・ワールド・シネマ」部門出品

◎Gueros メキシコ、アロンソ・ルイス・パラシオス
ベルリン映画祭2014ベスト・ファースト・フューチャー賞受賞
トライベッカ映画祭2014ダミアン・ガルシアが最優秀撮影賞受賞 他
ラテンビート2014上映予定(10月)

◎Matar a un hombre(To Kill a Man) チリ≂仏、アレハンドロ・F・アルメンドラス
フライブルク映画祭2014ドン・キホーテ賞・特別審査員賞受賞
マイアミ映画祭2014マイアミ・フューチャー・シネマ批評家賞受賞
ロッテルダム映画祭2014 KNF賞受賞 他 ラテンビート2014上映予定(10月)

◎La princesa de Francia アルゼンチン、マティアス・ピニェイロ
ロカルノ映画祭2014正式出品
トロント映画祭2014「Wavelengths」部門上映

◎La Salada アルゼンチン≂西、フアン・マルティン・Hsu (初監督)
サンセバスチャン映画祭2013「En construccion」部門受賞作品
トロント映画祭2014「Discovery」部門上映

(左側が監督、サンセバスチャン2013「En
construccion」授賞式)
◎Casa grande ブラジル、フェリペ・バルボサ
◎Praia do fururo /
Future Beach ブラジル=独、Karim Ainouz
◎Ventos de agosto /
August Winds ブラジル、ガブリエル・マスカロ
★全作品を紹介するのは時間的に無理なので何作か個別にアップしていきます。トロント映画祭と重なる作品は、他のサイトでも検索しやすいので割愛するか。
サンセバスチャン映画祭2014*メイド・イン・スペイン② ― 2014年09月11日 21:33
★このセクションは、既にスペインで公開されたヒット作&話題作で賞には絡みません。今年はカンヌ映画祭、マラガ映画祭の受賞作など、ドキュメンタリー2本を含む11作品がエントリーされています。ということで映画祭上映、あるいは公開される確率の高い部門です。予想通り興行成績ナンバー1のエミリオ・マルティネス=ラサロの“Ocho apellidos vascos”が選ばれています。マラガ映画祭の2作、カンヌ映画祭のハイメ・ロサーレス、ナチョ・ビガロンドの新作(公開決定)など、クチコミ宣伝のお蔭だそうです。

*メイド・イン・スペイン部門*
★上映作品(ゴチック体は既に記事にした作品)
◎ 10.000KM スペイン カルロス・マルケス=マルセ(⇒マラガ映画祭4月4日・11日)
*マラガ映画祭2014*作品賞(金賞)ジャスミン賞受賞 他




◎ Artico スペイン ガブリエル・ベラスケス(監督・脚本)80分
脚本(カルロス・ウナムロ、マヌエル・ガルシア、ブランカ・トーレス)、
撮影(ダビ・アスカノ)
出演(ビクトル・ガルシア、フアンル・セビジャノ、デボラ・ボルヘス、ルシア・マルティネス)
*ベルリン映画祭2014「Generation子ども映画部門」スペシャル・メンション受賞

◎ Ciutat morta スペイン シャビエル・アルティガス&シャポ・オルテガ(貫禄・撮影)
120分
脚本(マリアナ・ウイドブロ、ヘスス・ロドリゲス)
*マラガ映画祭2014 最優秀ドキュメンタリー賞(銀賞)受賞

◎ The Food Guide To Lave(Amor en su punto) 西≂アイルランド≂仏 2013
ドミニク・アラリ(Harari)&テレサ・デ・ペレグリ(監督・脚本) 91分、 言語(英語)
脚本(Eugene O’Brien)、撮影(アンドレウ・レベス)
出演(リチャード・コイル、 レオノール・ワトリング他)
*愛と美食が交錯するロマンティック・コメディ、タイトルはミシュランの星の数を参考に食べ歩きするためのガイド・ブックから付けられた。
*ベルリン映画祭2014/ダブリン映画祭2014/マラガ映画祭2014 出品

◎ Sobre la Marxa スペイン ジョルディ・モラト(監督・脚本・撮影)、77分
撮影(ライア・リバス)
*マラガ映画祭2014 ドキュメンタリー部門出品

◎ Open Windows 西≂米国 ナチョ・ビガロンド(監督・脚本)スリラー、100分
撮影(Jon
D. Dominguez)、出演(イライジャ・ウッド、サーシャ・グレイ、ニル・マスケル他)
言語(西語・英語)
*『タイム・クライムス』(ラテンビート2008上映、DVD発売)の監督作品とあって、早々と公開が決定しています(邦題『ブラック・ハッカー』11月22日)。

◎ Stella cadente スペイン リュイス・ミニャロ(監督・脚本、デビュー作)105分
脚本(セルジ・ベルベル)、撮影(ジミー・Gimferrer)、言語(カタルーニャ語・西語)
出演(アレックス・ブレンデミュール、ロレンソ・バルドッチ、ローラ・ドゥエニャス、バルバラ・レーニー、フランセスク・ガリード他)
*ロッテルダム映画祭2014正式出品/カルロヴィ・ヴァリ映画祭2014出品

◎ Yo decido. El tren de la libertad スペイン TALDE-LANA / OBRA COLECTIVA /
ANTHOLOGY FILM 42分
脚本・撮影(OBRA COLECTIVA)
*妊娠中絶法改革反対の群像劇。

*マラガ映画祭の関連記事は、4月4日・7日・11日・13日にアップしています。
サンセバスチャン映画祭2014*オフィシャル・セレクション③ ― 2014年09月16日 14:12
★オフィシャル・セレクション21本のうちコンペ外3本を除いた18作品で競います。オープニングはアメリカのアントワン・フークワの“The Equalizer”(コンペ外)、クロージングはフランスのエリック・トレダノ&オリヴィエ・ナカシュの“Samba”です。両方ともトロント映画祭「ガラ・プレゼンテーション」と重なります。スペイン語映画は6本、スペインが合作を含めて4本、アルゼンチン、チリ各1本ずつ、他にスペインはコンペ外2作品がエントリーされています。
★審査員は委員長フェルナンド・ボバイラ以下8人で構成されています(例年は7人)。ウクライナの監督・製作者Oleg Sentsov は、クリミア危機の時のテロ行為を理由にFSBロシア連邦保安局によって自宅で逮捕(5月11日)、現在モスクワの刑務所に収監中だから実際には参加できない。ヨーロッパ映画アカデミーが彼をサポートしており、アニエスカ・オランダ、ケン・ローチ、マイク・リー、ペドロ・アルモドバルなどが署名した釈放要求の手紙をプーチンに送っている。ウクライナ紛争は映画祭運営にも影響が及んでいます。『TATSUMI タツミ』のエリック・クー監督、ベネズエラのマリアナ・ロンドン監督・プロデューサー(昨年の金貝賞受賞者)、女優ナスターシャ・キンスキー他。
★フェルナンド・ボバイラは、アメナバルのヒット作『アザーズ』『海を飛ぶ夢』、フリオ・メデムの『ルシアとセックス』、ホセ・ルイス・クエルダの『蝶の舌』などの製作を手掛けている。最近はマヌエル・マルティン・クエンカ『カニバル』、オスカル・サントス“Zipi y Zape y el Culb de la
Canica”などをサンセバスチャン映画祭にエントリーさせている。1963年カステジョン生れ。

(フェルナンド・ボバイラ審査委員長)
*銀貝賞として、監督賞/ 女優賞/ 男優賞 の3賞
*審査員賞として、撮影賞/ 脚本賞 の2賞
以上合計6賞の選出をする。基本的にはカンヌ映画祭と同じように「1作につき1賞」です。
*オフィシャル・セレクション*
◎
Aire
libre アナイー・ベルネリ (アルゼンチン)2014
脚本:アナイー・ベルネリ/ハビエル・バン・デ・Couter
プロット:ルシア(セレステ・シッド)とマヌエル(レオナルド・スバラグリア)の夫婦は、結婚、仕事、子ども、郊外に家を持つという夢にもがいていた。やがて別れが訪れ再会するも、もはや二人の夢は遠ざかっていた。
*トロント映画祭「コンテンポラリー・ワールド・シネマ」部門出品(9月4日上映)
アルゼンチン公開5月22日

◎
Autómata
/ Automata ガベ・イバニェス (ブルガリア≂スペイン)2014
脚本:ガベ・イバニェス、イゴール・レガレータ(Legarreta)他
出演:アントニオ・バンデラス(Jacq Vaucan)、Birgitte・ヨルト・ソーレンセン(レイチェル・Vaucan)、メラニー・グリフィス(デュプレ博士)、ディラン・マクダーモット、ロバート・フォースター他
プロット:近未来SFスリラー、Jacq Vaucanはサイバネティクス会社ROCの保険ディーラー、保安証書に違反してロボットを混乱させている一連の奇妙な事件を調査している。
*チューリッヒ映画祭(9月26日上映)、10月9日クウェート公開を皮きりに中国、米国など順次公開予定。言語:英語、撮影地:ブルガリアの首都ソフィア他、製作費:約1500万ドル。
*離婚前のバンデラスとグリフィスが出演している。

◎ La isla mínima アルベルト・ロドリゲス (スペイン)2014、105分
脚本:ラファエル・コボス/アルベルト・ロドリゲス
出演:ラウル・アレバロ(刑事ペドロ)、ハビエル・グティエレス(刑事フアン)、アントニオ・デ・ラ・トーレ(ロドリーゴ)、ネレア・バロス(ロシオ)、ヘスス・カストロ、ヘスス・カロッサ(キニ)、マノロ・ソロ(新聞記者)ほか。
プロット:1980年の、アンダルシア、グアダルキビール河沿いの低湿地帯で2人の少女が行方不明になる。この忘れられたような小村で起きた刑事事件を捜査するためマドリードの殺人課の2人の刑事が派遣される。思想の面で反体制的な2人は言わば左遷されたかたちである。過去の因習に縛られた小さなコミュニティで起きた殺人事件の真相が暴かれることになるだろう。

(グアダルキビール河の低湿地帯を走る2人の刑事ペドロとフアン)
*“7 Virgenes”(2005、『七人のバージン』の邦題でラテンビート上映)も本映画祭2005に正式出品、主演のフアン・ホセ・バジェスタが最優秀男優賞(銀貝賞)を受賞しています。
*今年後半の大ヒット作ダニエル・モンソンの“El Niño”(ラテンビート2014上映予定、後日アップします)の新人二枚目ヘスス・カストロ、“7 Virgenes”のヘスス・カロッサもクレジットされています。
*脚本執筆のラファエル・コボスは“7 Virgenes”、“Grupo 7”でも監督とタッグを組んでいます。
*撮影地:セビーリャ、スペイン公開9月26日
◎
Loreak(Flowers) ジョン・ガラーニョ& ホセ・マリ・ゴエナガ (スペイン)2014
脚本:アイトル・アレギAitor Arregi /ジョン・ガラーニョ/ホセ・マリ・ゴエナガ
製作者:アイトル・アレギ/Xabier Berzosa/フェルナンド・Larrendo
撮影:ハビエル・アギーレ、音楽:パスカル・Gaigne
*言語:バスク語、99分
*チューリッヒ映画祭(9月28日)/ロンドン映画祭(10月18日)
*ラテンビート2014(東京10月13日上映予定)の項で紹介します。

◎
Magical Girl カルロス・ベルムト (スペイン=フランス)2014
脚本・美術:カルロス・ベルムト、撮影:サンティアゴ・Racaj、編集:エンマ・トゥセル
製作:Aquí y Allí Films & Canal+España 1
出演:ホセ・サクリスタン(ダミアン)、バルバラ・レニー(バルバラ)、ルイス・ベルメホ(ルイス)、イスラエル・エレハルデ(アルフレッド)、ルシア・ポリャン(アリシア)、他
プロット:文学教師のルイスは失業中、彼の12歳になる娘アリシアは末期ガンで余命いくばくもない。アリシアの最後の願いは日本のアニメTVシリーズ『マジカル・ガールYukiko』の衣装を着ること、なんとか叶えてやりたい。その高価な衣装のためルイスは恐ろしい恐喝のネットに深く入り込むことになる。ダミアンとバルバラを巻き添えに、彼らの運命も永遠に変えてしまうだろう。

*カルロス・ベルムトの第2作、ミステリー。デビュー作は“Diamond flash”(2011)。1980年マドリード生れ、監督・脚本家・漫画家・プロデューサー。美術学校でイラストを学び、「エル・ムンド」のイラストレーターとして働く。2006年、最初のコミック“El banyan rojo”がバルセロナのコミック国際フェアで評価された。彼の漫画家としての才能と経験は本作にも活かされている。他に短編映画3作、コミック3作、2012年の“Cosmic
Dragon”は、鳥山明の『ドラゴンボール』のオマージュとして描かれたようです。

*本ブログお馴染みのホセ・サクリスタンの紹介は割愛。バルバラ・レニーは、「メイド・イン・スペイン」部門のリュイス・ミニャロの“Stella
cadente”に出演、アントニオ・チャバリアスの『フリア、よみがえりの少女』(“Dictado”2012)で日本初登場、今年のラテンビートで上映されるダニエル・モンソンの『エル・ニーニョ』で再登場いたします。古くはモンチョ・アルメンダリスの“Obaba”(2005)など、多くの監督からオファーを受けています。
*トロント映画祭(9月7日上映)/チューリッヒ映画祭(9月25日)、スペイン公開10月17日
◎
La voz en off(Voice Over) クリスチャン・ヒメネス (チリ≂フランス≂カナダ)2014
脚本:ダニエル・カストロ/クリスチャン・ヒメネス、撮影:インティ・ブリオネス/クリスチャン・ヒメネス、96分
出演:イングリッド・イセンセ Isensee(ソフィア)、マリア・シエバルドSiebald(アナ)、パウリナ・ガルシア(マティルデ)、マイテ・ネイラ(アリシア)、クリスチャン・カンポス(マヌエル)、他
プロット:最近離婚したばかりの美人のソフィアは35歳、2人の子どもを育てている。しかし人生は何もかも悪いほうへと転がっていく。父が母を残して出て行ってしまうかと思うと、姉がチリに戻ってきて彼女流のけんか腰でズカズカと割り込んでくる。ソフィアはベジタリアンだが、子どもたちは肉が食べたいと文句を言うし、更にはふとしたことから父親の不愉快な事実を知ってしまう。

*クリスチャン・ヒメネスの第3作、1975年チリのバルディビア生れ。デビュー作『見まちがう人たち』と第2作『Bonsai~盆栽』が東京国際映画祭2009・2011で上映され、2回ともゲスト出演のため来日しております。前作と同じ流れの作品のようですが、チリ「クール世代」の代表的な監督。『見まちがう人たち』がブラチスラヴァ(スロバキア)映画祭2009でエキュメニカル審査員スペシャル・メンション賞、ケーララ(インド)映画祭2010出品、『Bonsai~盆栽』はカンヌ映画祭2011「ある視点」出品、ハバナ映画祭2011国際批評家連盟賞受賞、マイアミ映画祭2012グランド審査員賞受賞他。

(『Bonsai~盆栽』上映で登壇したヒメネス監督、東京国際映画2011にて)
*イングリッド・イセンセ は、1974年チリのサンチャゴ生れ、『Bonsai~盆栽』に脇役で出演、今回主役ソフィアを射止めた。他にマリアリー・リバスの“Joven y alocada”(2012)に出演、本映画祭2012の「ホライズンズ・ラティーノ」部門の上映作品。今年短編“El Puente”で監督デビューした。
*ベテラン女優パウリナ・ガルシアは、セバスチャン・レリオの『グロリアの青春』(2013)の圧倒的な演技が記憶に新しい。国際的な賞を独り占め、昨年の本映画祭の審査員を務めました(⇒コチラ2013・9・12)。
*リオデジャネイロ映画祭2014、トロント映画祭「コンテンポラリー・ワールド・シネマ」部門出品(9月6日上映)、チューリッヒ映画祭2014(9月25日)、他
*コンペティション外*
◎ Lasa ETA Zabala / Lasa y Zabala パブロ・マロ (スペイン)

◎ Murieron por encima de sus posibilidades イサキ・ラクエスタ (スペイン)

★駆け足でご紹介してきましたが、コンペ外は間もなく開催される「ラテンビート2014」のラインナップの後に回します。
★「おめでとう」トロント映画祭2014でご紹介したイサベル・コイシェの“Learning to Drive”が、ピープルズ・チョイス賞次点に選ばれました。トロントFFはノン・コンペティションの映画祭でいわゆる観客賞にあたるピープルズ・チョイス賞が最高賞ですから、次点は大賞です。(⇒コチラ8月13日)
ラテンビート2014*ラインナップ ① ― 2014年09月17日 14:03
★今年は17本、日本映画とアレックス・デ・ラ・イグレシアの旧作『ビースト 獣の日』を除いた15本を順不同にアップしていきます。既に本ブログに登場した作品を列挙しますと:
1)解放者ボリバルLibertador アルベルト・アルベロ監督 2013 ベネズエラ≂スペイン 119分
*トロント国際映画祭2013 「ガラ・プレゼンテーション」 部門上映作品。監督以下のスタッフ、キャスト陣も紹介しております。昨年のラテンビート上映を期待してアップしたもの、1年待たされました。 ⇒2013・9・16

2)グエロス Gueros アロンソ・ルイス・パラシオス監督 2014 メキシコ 106分
*サンセバスチャン国際映画祭2014 「ホライズンズ・ラティノ」部門上映のコメディ作品。
⇒2014・9・9*

3)殺せ Matar a un hombre アレハンドロ・フェルナンデス・アルメンドラス監督 2014
チリ≂フランス 82分
*サンセバスチャン国際映画祭2014 「ホライズンズ・ラティノ」部門上映作品。
⇒2014・9・9*

4)Living
Is Easy with Eyes Closed /
Vivir es fácil con los ojos cerrados ダビ・トゥルエバ監督 2013 スペイン 105分
*ゴヤ賞2014の作品・監督・脚本・主演男優・新人女優・オリジナル作曲賞と主要6冠を独占した本映画祭の目玉。ただし新宿会場では上映されず梅田から、関東近辺の方は横浜会場で。飛び飛びに書きちらしているので再構成したものをシンガリにアップいたします。メインは作品並びに監督・キャスト陣の紹介をした1月30日です。 ⇒2014・1・21
/ 1・30
/ 2・6 /
2・13*

5)スガラムルディの魔女 Las brujas de Zugarramurdi アレックス・デ・ラ・イグレシア監督 2013 スペイン 114分
*ゴヤ賞ではノミネーションが主要賞から外れて大いに不満でしたが、公開確実と予想しました。映倫区分R-15で公開が決定、公式サイトも立ちあがっております。
*1月13日は助演女優賞受賞のテレレ・パベスの紹介、同15日は監督と編集賞受賞のパブロ・ブランコを紹介しております。 ⇒ 2014・1・13
/ 1・15
/ 2・13

6)トガリネズミの巣穴 Musarañas エステバン・ロエル&フアン・フェルナンド(フアンフェル)・アンドレス共同監督 2014 スペイン 95分
*トロント国際映画祭2014「バンガード」部門上映作品、二人の監督とも本作でデビュー、アレックス・デ・ラ・イグレシアがエグゼクティブ・プロデューサーということで話題になっているホラー・スリラー。 ⇒2014・8・13

7)メッシ Messi アレックス・デ・ラ・イグレシア監督 2014 スペイン≂アルゼンチン 93分
*サッカーボールを一度も蹴ったことがないというサッカー・オンチの監督が撮ったドキュメンタリーだが、マルク・バラゲルがメッシを演じた再現ドラマを含んでいる。ワールドカップ2014に合わせてブラジルで7月2日公開された。 ⇒2014・7・3

*印は簡単紹介なので書き加えるかもしれません。
★次回からは、話題作、個人的に見たい映画をご紹介していきます。ダニエル・モンソンの5年ぶりの新作『エル・二ーニョ』がエントリーされたのにはビックリ、スペインでも公開されたばかりで、話題沸騰です。ルイス・トサールの<マラマードレ>にしびれた方、エル・ニーニョに扮するイケメン新人ヘスス・カストロのアクションも大掛かりです。
ダニエル・モンソンの新作『エル・ニーニョ』*ラテンビート2014② ― 2014年09月20日 23:41
★今年、ハリケーン級の興行成績を上げている映画は、サンセバスチャン映画祭「メイド・イン・スペイン」で上映されるエミリオ・マルティネス・ラサロの“Ocho apellidos vascos”がぶっちぎりで1位だと思っていたのに、『エル・ニーニョ』が8月29日に封切られるや怪しくなってきた。日刊紙「エル・ムンド」電子版によると、週末3日間で300万人が見たという(スペインは金曜日が封切り日)。売上高285万ユーロを弾きだしたというが、これで計算合ってる? この勢いだとナンバー1になるのもそう遠くはない。夏休み最後の週末だからお財布に残っていたお金を残さず使っちゃおうと思ったのかも。
*“El Niño”*
製作:Telecinco Cinema / IkiruFilms /
Vaca Films 他
監督:ダニエル・モンソン
脚本:ホルヘ・ゲリカエチェバリア/ダニエル・モンソン
撮影:カルレス・グシ
音楽:ロケ・バーニョス
編集:クリスティナ・パストール
製作者:アルバロ・アウグスティン/ビクトリア・ボラス(IkiruFilms)、他多数

キャスト:ルイス・トサール(警察官ヘスス)、ヘスス・カストロ(エル・ニーニョ)、イアン・マクシェーン(エル・イングレス)、セルジ・ロペス(ビセンテ)、バルバラ・レニー(ヘススの相棒エバ)、ヘスス・カロッサ(エル・コンピ)、エドゥアルド・フェルナンデス(セルヒオ)、Saed Chatiby(ハリル)、ムサ・マースクリ(ラシッド)、マリアン・バチル(アミナ)、スタントマンも含めてその他大勢。
データ:2014、スペイン、スペイン語、アクション・スリラー、136分、撮影地(ジブラルタル海峡、モロッコのタンジール、スペインのアルヘシラス、タリファ、セウタ、アルメリアなど)

解説:麻薬取引に手を染めた命知らずの若者たちと、密売組織の操作に全力を注ぐ二人の警官。麻薬密売の巣窟と言われる危険なジブラルタル海峡を舞台に繰り広げられる、犯罪組織と警察の攻防を描く。『プリズン211』の主演ルイス・トサルと監督ダニエル・モンソンが再びタッグを組んだアクション&サスペンス。(ラテンビート公式サイトからの引用)
★こういうテーマ、ハリウッド映画や海外ドラマで飽きるほど見ているんじゃないかと思う。しかしまだ完成する前から、『プリズン211』のモンソンが5年ぶりに撮るというので、スタッフ並びにキャスト、撮影状況を含めてメディアが熱く報道していました。監督によれば、モデルは存在するが実話ではなくフィクションです。しかし20年前30年前の話ではなく、現在日常的に起こっている事柄を基礎データにして脚本が書かれたと分かれば話は別、見たくなります。
★『プリズン211』というのは、「スペイン映画祭2009」で『第211号監房』の邦題で上映された“Celda 211”(2009)のDVDタイトルです。細かいことを言えばプリズンではなく監房です。公開がアナウンスされながらDVD発売だけに終わった。ゴヤ賞2010では、作品・監督・脚色・男優賞他8部門を制したヒット作。声を潰し筋肉マンに変身して主役マラマードレを演じたトサールは、「やっと父親から俳優と認めてもらえた」と語った映画でした。製作費570万ドル、現在とは為替レートが違うから単純に比較できないが、スペインでの売上高は1300万ユーロに止まった。

プロット:エル・ニーニョは、英領ジブラルタルの国境沿いラ・リネア・デ・ラ・コンセプションに住んでいるモーターボートの修理工。ある夜、ダチのエル・コンピと出掛けたパーティの帰途、二人はムスリムの青年ハリルと出会った。彼の叔父ラシッドは麻薬密売のディーラーを生業にしている。エル・コンピに説得され、得意のモーターボートを駆使してブツをアフリカからスペインに運び込む「運び屋」を引き受ける。一方ベテラン警官のヘスス、その相棒エバは、ジブラルタルの密売組織を牛耳っているイギリス人麻薬密売人エル・イングレスの足跡を2年間ずっと追い続け包囲網を狭めていくが尻尾が掴めない。そんなとき若い二人の運び屋エル・ニーニョとエル・コンピが網に掛かってきた。 (文責:管理人)
*ジブラルタルはイギリスの海外領土、地中海の出入り口にある要衝の地ジブラルタル海峡を望む良港をもつため、軍事・商業上重要なところでイギリス軍が駐屯している。ザ・ロックと呼ばれる岩山が総面積のほぼ半分を占めている。エル・ニーニョが暮らすラ・リネア(・デ・ラ・コンセプション)はイギリス国境沿いの町、アンダルシア州に所属し人口約6万5000人。
★ダニエル・モンソン Daniel Monzón Jerez:1968年マジョルカ島のパルマ生れ、監督・脚本家・俳優。脚本家として出発した短編を撮らない珍しい監督。
*監督としてのフィルモグラフィー*
1)1999“El corazón del guerrero” 邦題『クイーン&ウォリアー』(アドベンチャー・ファンタジー)、2002年5月公開。
2)2002“El robo más grande jamás contado”(アントニオ・レシネス主演のコメディ)本作からホルヘ・ゲリカエチェバリアとタッグを組み現在に至る。
3)2006“The Kovak Box”(“La caja Kovak”西= 英合作、西語・英語・独語)、『イレイザー』の邦題でDVD化されたSFサスペンス、未公開。
4)2009“Celda 211”『プリズン211』DVD (映画祭タイトル『第211号監房』)未公開。
5)2014“El Nino”
*柳の下に泥鰌が2匹、関係者の笑いは止まらない。観客が楽しんでくれる映画作りをモットーにしているモンソン監督、今回もその言葉通りに推移しているようです。これといった大宣伝はしないのに多くの観客が見てくれるのは、「全て観客のクチコミのお蔭、本当に誇りに思っています」(監督談話)だそうです。“Ocho
apellidos vascos”同様成功の決め手はクチコミ、スペイン映画産業にとって、これほどの成功は異例の現象だという。アクション映画が大好きな若者をターゲットに製作されたが、観客層は老若男女と幅広く、「観客は笑うべきところで笑ってくれている」と監督。

(ダニエル・モンソン監督)
*『プリズン211』も「冷酷で、胡散臭く、限りなくダーク」だったが、幅広い観客層に受け入れられたが、本作はそれを超えている。それは「女性を感激させるエモーショナルなスリラーだから」だと監督は分析しています。更に映画に重厚さをもたらした理由として、ルイス・トサール、エドゥアルド・フェルナンデス、バルバラ・レニーなどのベテラン勢に加えて、新星ヘスス・カストロ(エル・ニーニョ)を上げています。エル・コンピに扮するヘスス・カロッサ、年若い運び屋を演じたこの二人の「ヘスス」の好演が成功に貢献しているとか。
*製作費約600万ユーロで撮られた。こんな額で完成できたのは「奇跡」とモンソン、「英語で撮るなら資金を出すという製作会社のオファーを断った」理由は、スペイン語に拘ったからだ。ここらへんが世代の違う『インポッシブル』のフアン・アントニオ・バヨナ(1975)との違いですね。過去に密売に携わった関係者にも取材して細部を固め、小道具の一つだったハシッシュ(大麻)の密輸品を押収するシーンでは治安警備隊の警官を動員してもらえた。ヘリコプターもホンモノ、3トンのランチもホンモノ、出動してくれた治安警備隊もホンモノだったようです。だからウソっぽくないのは当然です。勿論、共同執筆者のホルヘ・ゲリカエチェバリアの助けなしには完成できなかったという。

(エル・ニーニョが操縦するランチを追うホンモノの国家警察のヘリコプター)
★ホルヘ・ゲリカエチェバリア Jorge Guerricaechevarría:1964年アストゥリアスのアビレス生れ、脚本家。アレックス・デ・ラ・イグレシア(ゴヤ賞にノミネートされた『ビースト 獣の日』、『みんなの幸せ』、『オックスフォード殺人事件』他、ほぼ全作)、ペドロ・アルモドバルの『ライブ・フレッシュ』、モンソンの第2作から本作までを執筆している。

★ルイス・トサールは、『プリズン211』で紹介記事が既に書かれていますし、彼は単独できちんと紹介すべき役者なのでここでは割愛です。前作ではイシアル・ボジャインの『花嫁の来た村』や『テイク・マイ・アイズ』の印象を一変して、「こういうトサールを見たかった」ファンを喜ばせた。彼を語るとしたら『プリズン211』が一番相応しい。エル・イングレス役のイアン・マクシェーンはイギリス人、ラシッド役のムサ・マースクリはマルセーユ生れのフランス人と国際色も豊か、演技に文句のつけようがないエドゥアルド・フェルナンデス、バルバラ・レニー、セルジ・ロペスとそれぞれ危なげがない。

(ルイス・トサール右)
★新星ヘスス・カストロ Jesús Castro:1993年カディスのベへール・デ・ラ・フロンテラ生れの21歳、俳優。父親はカフェテリアを経営している。母親はヒターノ出身、弟と妹がいる。スカウト前はカディスの中央部に位置するラ・ハンダ La Janda の高等学校 Ciclo Formativo de Grado Medio で電子工学を学んでいた。ESO(中等義務教育12~16歳)資格がないと入れない。同時にディスコで働き、父親のカフェテリアでチューロを作って家族の経済を支えていたという孝行息子です。

*モンソンによると、なかなか主役が見つからずカディスの中学校、高等学校、ジムなどを駆けめぐって探したという。そんなとき1枚の写真に出会い、鋭い視線、その背後に覗く胡散臭さ、それは並はずれていたという。それがヘスス・カストロ、やあ、運命を感じます。それからランチの運転、水上バイクの運転、アクション・シーンの演技指導とシゴキが始まったということです。「彼のように現れるだけで部屋を照らすような俳優はそうザラにはいない」とモンソン。他にサンセバスチャン映画祭2014オフィシャル・セレクション正式出品のアルベルト・ロドリゲスのスリラー“La isla mínima”に出演している(コチラ⇒9月16日)。上映前なのでここらへんで。
★ラテンビート2014新宿バルト9上映日時(10月11日13:30/12日18:30の2回上映)
Flowers / Loreak *ラテンビート2014 ③ ― 2014年09月22日 22:29
★サンセバスチャン映画祭2014正式出品作品、ラテンビートでの紹介を予告していた映画です。二人の監督は共にバスク出身、最初にタッグを組んだ“80 egunean”(2010、バスク語)が国際的にも高い評価を受け、本作は共同監督第2作目、言語はバスク語なのでスペイン語字幕または英語字幕、いずれかの翻訳になると思います。サンセバスチャン上映は間もなくの9月22日です。
*Flowers
/ Loreak*
製作:Irusoin / Moriarti Produkzioak 他
監督:ジョン・ガラーニョ& ホセ・マリ・ゴエナガ
脚本:アイトル・アレギAitor Arregi /ジョン・ガラーニョ/ホセ・マリ・ゴエナガ
製作者:アイトル・アレギ/ハビエル・ベルソサ Berzosa/フェルナンド・ラレンドLarrendo
撮影:ハビエル・アギーレ
音楽:パスカル・Gaigne
データ:スペイン、2014、バスク語、99分 スペイン公開10月17日
チューリッヒ映画祭(9月28日)、ロンドン映画祭(10月18日)にエントリーされている。
キャスト:ナゴレ・アランブル(アネ)、イツィアル・アイツプル(テレ)、イツィアル・イトゥーニョ(ルルデス)、ジョセアン・ベンゴエチェア(ベニャト)、エゴイツ・ラサ(アンデル)、ジョックス・ベラサテギ(ヘスス)、アネ・ガバライン(ハイオネ)、他

解説:身体に不安を抱える中年女性アネのもとに、ある日、匿名の花束が届いた。以来花束は、毎週、同じ時間に届くが、贈り主はわからない。アネは謎の人物からの花束に密かなときめきを覚える。一方、ルルデスは口うるさい義母との関係に問題を抱えていた。心に傷を負った三人の女性の人生が、花束を軸につながっていく過程を、繊細なタッチで描いたヒューマン・ドラマ。
(ラテンビート公式サイトより引用)
★監督紹介
*ジョン・ガラーニョJon Garano :1974年サンセバスチャン生れ、監督、脚本家、製作者、編集者。2001年短編“Despedida”でデビュー、短編、ドキュメンタリー(TVを含む)多数、短編“Miramar Street”(2006)がサンディエゴ・ラティノ映画祭でCorazón賞を受賞。長編第1作“Perurena”(2010)のプロデューサーがホセ・マリ・ゴエナガ、彼とコラボして撮った第2作“80 egunean”(“80
Days”2010)が、サンセバスチャン映画祭2010の「サンセバスチャン賞」を受賞したほか、トゥールーズ・シネ・エスパニャ2011で観客賞、女優賞(イジアル・アイツプル、マリアスン・パゴアゴ)、脚本賞を受賞したほか、受賞多数。イジアル・アイツプルは第3作“Loreak”でテレを演じている。
*ホセ・マリ・ゴエナガ Jose Mari Goenaga:1976年バスクのギプスコア生れ、監督、脚本家、製作者、編集者。短編“Compartiendo Glenda”(2000)でデビュー、長編第1作“Supertramps”(2004)、第2作がジョン・ガラーニョとコラボした“80 egunean”、受賞歴は同じ。本作が3作目となる。

(左ジョン・ガラーニョと右ホセ・マリ・ゴエナガ)
プロット:平凡だったアネの人生に転機が訪れる。ある日、匿名の花束が家に贈り届けられ、それは毎週同じ曜日、それも同じ時刻に届けられる。やがて、その謎につつまれた花束は、ルルデスやテレの人生にも動揺を走らせることになる。彼女たちが大切にしていたある人の記憶に結びついていたからだ。忘れていたと思っていた優しい感情に満たされるが、夫婦の間には嫉妬や不信も生れてくる。結局、花束は花束でしかない。これはただの花束にしか過ぎないものが三人の女性の人生を変えてしまう物語です。 (文責:管理人)
★以上のような地味な展開だと役者が上手くないと退屈して見てられない。じっくり見る映画ですね。女性たちが幸せな人生を送っているわけではないだけに、届けられる花束の上品な美しさのコントラストに魅了される。日本の生け花とは違う美しさだ。コラボして撮った“80 egunean”も老境に入った二人の女性が主人公(二人の監督にとっては母親世代になる)。
★本作とテイストが似ているので、“80 egunean”を少しご紹介。少女だった遠い昔、親友だったアスンとマイテの二人はひょんなことから50年ぶりに邂逅する。アスンは農場をやっているフアン・マリと結婚するため田舎に引っ越して行き、両親と距離を置きたい娘は離婚を機にカリフォルニアに移り住んでいる。レズビアンのマイテはピアニストとして世界を飛び回ってキャリアを積んでいたが既に引退して故郷サンセバスチャンに戻ってきた。別々の人生を歩んだ二人も既に70歳、不思議な運命の糸に手繰り寄せられて再び遭遇する。この偶然の再会はアスンに微妙な変化をもたらすことになる、自分の結婚生活は果たして幸せだったのだろうか。マイテにサンタ・クララ島への旅を誘われると、アスンは自分探しの旅に出ることを決心する。

(アスンとマイテ)
★アスンにイジアル・アイツプル、マイテにマリアスン・パゴアゴが扮した。前述したようにトゥールーズ・シネ・エスパニャ2011で揃って女優賞を受賞した。パゴアゴはこれがデビュー作だという。年輪を重ねた知性豊かな二人の女性のナチュラルな演技が観客賞に繋がった。2作のキャスト陣はダブっていないようですが、アイツプルのほかアネ・ガバラインの名がクレジットされています。
★キャスト紹介
*ナゴレ・アランブル(アネ役)Nagore Aranmburu:バスクのギプスコア(アスペイティア)生れ。1998年TVドラマでデビュー、フェルナンド・フランコの“La herida”(2013、ゴヤ賞2014作品賞受賞他)に出演している。

*イツィアル・アイツプル(テレ役)Itziar Aizpuru:1939年生れ。2003年TVドラマでデビュー、前述の作品以外の代表作はオスカル・アイバルの“El Gran Vazquez”(2010)、TVドラマ、短編多数。
*イツィアル・イトゥーニョ(ルルデス役)Itziar Ituño:1975年バスクのビスカヤ生れ。Patxi Barkoの“El final de la noche”(2003)の地方紙のデザイナー役でデビュー、サンセバスチャン映画祭のオフィシャル・コンペティション外にエントリーされているパブロ・マロの“Lasa y Zabala”に出演している(コンペ外なので未紹介、1983年のETAのテロリズムがテーマ)。バスク語のTVドラマに出演。

*ラテンビート2014(東京バルト9:10月13日、1回上映予定)
『デリリオ 歓喜のサルサ』 *ラテンビート2014 ④ ― 2014年09月25日 15:07
チュス・グティエレスの『デリリオ 歓喜のサルサ』
★コロンビア映画ならカンヌ映画祭「批評家週間」ノミネーションのフランコ・ロジィの長編デビュー作“Gente de bien”と予想していましたが外れてしまいました(⇒2014・5・8に記事UP)。昨年はアンドレス・バイスの『暗殺者と呼ばれた男』『ある殺人者の記録』と2本上映されました。また以前セルバンテス文化センターで特別上映された(2月13日)リカルド・ガブリエリの『ラ・レクトーラ/読者』が、10月の土曜映画上映会で再上映されます(日本語字幕付)。前回も日本語字幕がアナウンスされていましたが結果は英語でしたので要確認です(⇒2014・2・19に記事UP)。では、サルサ・ショーのメッカ<デリリオ>へ、「ウノ・ドス・トレス・・・」、私たちも「シンコ・セイス・シエテ・・・」と、バモス・ア・バイラール。
*Ciudad Delirio*
監督:チュス・グティエレス
脚本:エレナ・マンリケ/チュス・グティエレス
音楽:タオ・グティエレス
撮影:ディエゴ・ヒメネス

キャスト:カロリナ・ラミレス(アンジー)、フリアン・ビリャグラン(ハビエル)、イングリッド・ルビオ(パロマ)、ホルヘ・エレーラ(バソ・デ・レイチェ)、ジョン・アレックス・カステリ、ミゲル・ラミロ、他
データ:コロンビア≂スペイン、スペイン語、コメディ、2014、100分、
撮影地:カリ/バジェ・デル・カウカ、公開:コロンビア4月11日、スペイン9月5日
*モントリオール映画祭2014(8月22日上映)、釜山映画祭2014(10月4日上映)、他
解説:スペイン人の医師ハビエルは、仕事で訪れたコロンビアのカリでサルサスクールのオーナーであるアンジーに心奪われる。彼女は世界で最も有名なサルサショー「デリリオ」のオーディションに挑むべく生徒たちと日夜練習に励んでいた。決して交わることのなかった二つの人生が再び交差したとき、誰もが踊る街が愛と情熱に染まる!振付は明和電機とのコラボ「ROBOT!」等、世界的に活躍するスペイン人コレオグラファー、ブランカ・リーが手掛けた。 (LB公式サイトから)
★コロンビアと言ったらパブロ・エスコバル率いる麻薬密売組織メデジン・カルテル、首領亡き後壊滅したメデジンにとって代わって台頭したカリ・カルテルをイメージするでしょうか。それはひと昔ふた昔のハナシ、今ではサルサ・ショーのメッカはサンチャゴ・デ・カリだと言うではありませんか。でもテロリストに土地を奪われコロンビアじゅうを放浪しつづけている国内難民500万人(ONUデータ、ケタ間違っていません)、更に裁判報告書によれば、2013年コロンビアで殺害された人は1万4000人に上ると聞けば、依然、暴力によって簡単に命を失う危険な国の一つであることに変わりありません。
★コロンビアは「エストラート」と言われる階級社会で、納めた税金の額でエストラート「1から6」までの階層がある。その数字は表向きで、実際は「10以上」に分断されているという。つまり「1」にも含まれない「0」があり、お金と権力を持つ一握りの「5~6」も、5-、5+、6-、6+と分かれていると言うわけです。サルサ・ショー観覧には「5~6」階層は以前ならバカにして行かなかったが、今では特別席を設えて見に来るという。「3以下0」はいわゆる平土間で見る。コロンビアで封切られた初日には、多くの観客が鑑賞を断念したという。「もう大騒ぎだったのよ、夜のチケットをゲットするのに昼間から行列しなければならなかったんだから」、過熱していることは本当のようです。
★本作は昨年のコロンビアへの旅から始まったとグティエレス監督、入念なリサーチをもとに物語は構成されている(2013年8月24日クランクイン)。内気で口数の少ないスペイン人医師ハビエルとサルサのダンサー兼振付師のコロンビア女性アンジーのロマンティック・コメディ(内気で口数の少ないスペイン男性もいるんですね)。しかしバックボーンには異なった二つの文化や価値観の違いを描くアカデミックな物語でもあるようです。それが監督の持ち味、以下の経歴をみれば頷けるはずです。

*監督キャリア&フィルモグラフィー*
*チュス・グティエレス Chus Gutiérrez (本名 María
Jesús Gutiérrez)は、1962年グラナダ生れ、監督、脚本家、女優。本名よりチュス・グティエレスで親しまれている。8歳のとき家族でマドリードに移転、1979年17歳のときロンドンに英語留学、帰国後映像の世界で働いていたが、1983年本格的に映画を学ぶためにニューヨークへ留学し、グローバル・ビレッジ研究センターの授業に出席、フレッド・バーニー・タイラーの指導のもと、スーパー8ミリで短編を撮る(“Porro on the Roof”1984、他2篇)、1985年、シティ・カレッジに入学、1986年、最初の16ミリ短編“Mery Go Roundo”を撮る。ニューヨク滞在中にはブランカ・リー、クリスティナ・エルナンデス、同じニューヨークでパーカッション、電子音楽、作曲を学んでいた弟タオ・グティエレスと一緒に音楽グループ“Xoxonees”を立ち上げるなどした。2007年には、CIMA(Asociacion de Mujeres de Cine y Medios Audiovisuales)の設立に尽力した。これは映画産業に携わる女性シネアストたちの平等と多様性を求める連合、現在300名以上の会員が参加している。

*1987年帰国、長編デビュー作となる“Sublet”(91)を撮る。まだ女優だけだったイシアル・ボリャインを主人公に、製作は昨年初来日したフェルナンド・トゥルエバ夫人のクリスティナ・ウエテが手掛けた。『ベルエポック』『チコとリタ』『ふたりのアトリエ』ほか、今年梅田会場から上映される義弟ダビ・トゥルエバの『Living Is Easy with Eyes
Closed』も当然製作しているベテラン・プロデューサー。カディスのアルカンセス映画祭1992金賞、バレンシア映画祭1993作品賞、1993シネマ・ライターズ・サークル賞(スペイン)、ゴヤ賞1993では新人監督賞にノミネートされた。イシアル・ボリャインもムルシア・スペイン・シネマ1993が、ベスト女優賞になる「フランシスコ・ラバル賞」を受賞した。
*第2作“Alma gitana”(96)は、プロのダンサーになるのが夢の若者がヒターノの女性と恋におちるストーリー、新作『デリリオ』と同じような二つの文化の衝突あるいは相違がテーマとして流れている。他に代表作として“El Calentito”(05)も高い評価を受けた。ベロニカ・サンチェスを主役にしたコメディ、モンテカルロ・コメディ映画祭2005で作品賞他受賞、マラガ映画祭2005ジャスミン賞ノミネート、トゥールーズ映画祭でタオ・グティエレスが作曲賞を受賞した。なお彼は姉の全作品にわたって音楽を担当している。

*バジャドリード映画祭審査員特別賞/カイロ映画祭2008作品賞「ゴールデン・ピラミッド賞」・国際批評家連盟賞を受賞/トゥールーズ映画祭脚本賞を受賞/グアダラハラ映画祭監督・脚本賞など受賞。ゴヤ賞2009ではオリジナル脚本賞にノミネートされた。

*キャスト紹介*
★カロリナ・ラミレス Carolina Ramírez は、1983年サンチャゴ・デ・カリ生れの31歳。最初舞踊家を志していたが、その才能にも拘わらず舞踊家としての必要条件不足で演技者に転向した。テレビ初出演は土曜と日曜の午前ちゅう放映の子供番組にレギュラー出演する。テレノベラ“La hija del mariachi”(2006~08)の成功で、テレノベラのヒロインになる。2010年、歴史上の殉教者Policarpa Salavarrieta 愛称ラ・ポーラに題材を取った“La Pola”が大成功、コロンビアで最も愛されるスターとなった。映画デビューは、“Soñar no cuesta nada”(06)、本作が第2作目、主役のアンジー役を射止めた。他に演劇にも出演と幅広く活躍中。
*アンジーには、コロンビアではもう伝説的なコレオグラファーになっているビビアナ・バルガスが投影されているようです。2005年ラスベガスで開催された「サルサ世界チャンピオン大会」や「ワールド・ラテン・ダンス・カップ」の優勝者、サルサ学校「Stilo y Sabor」のオーナー兼振付師です。『デリリオ』で描かれたようなレッスン風景は、ここがモデルの一つとか。街のクラブで踊られるサルサと違って、人生を変える目的でサルサを習いに来る、サルサ・ショー出演のためのダンス学校です。

★フリアン・ビリャグラン Fulian Villagran は、1973年カディス生れの41歳。ラテンビート2006上映のアルベルト・ロドリゲスの『7人のバージン』、同2007年のダニエル・サンチェス・アレバロの『漆黒のような深い青』で既にラテンビートに登場していますが、脇役なので印象に残らなかったかも。1997年のフランセスク・ベトリウの“La Duquesa Roja”で映画デビュー、チキ・カラバンテの“Carlos contra el mundo”(02)で初の主役、ムルシア映画祭2003で金賞の「フランシスコ・ラバル賞」を受賞、本作はほかに監督賞など受賞している。
*最近では、アルベルト・ロドリゲスの“Grupo 7”(12)でゴヤ賞 2013 助演男優賞受賞、シネマ・ライターズ・サークル賞 2013(スペイン)助演男優賞、スペイン俳優連盟賞 2013 助演男優賞を受賞している。他にフェリックス・ビスカレットの“Bajo las estrellas”(07)でゴヤ賞 2008 助演男優賞、シネマ・ライターズ・サークル賞2008 助演男優賞、スペイン俳優連盟賞にノミネートされている。
★内気で控えめな医師ハビエルは、医学会議に出向いたカリで、偶然出会ったアンジーと魅惑の一夜を過ごす。マドリードに戻ったが彼女が頭から離れず仕事が手につかない。カリで医師として働いている親友パロマを頼って、一定期間カリで仕事をしようと決心する。このパロマ役がイングリッド・ルビオ(1975年バルセロナ生れ)です。テレビで活躍中、その演技力、歌唱力、モダンバレエの実力がカルロス・サウラの目にとまり『タクシー』(96)で長編デビューしました。「スペイン映画祭1997」で来日しています。脇役だから簡単に紹介すると、他にマヌエル・ウエルガの『サルバドールの朝』(06、翌年公開)にも彼の妹役で出演しています。フランコ末期、最後のガローテ刑で処刑された実在のアナーキスト、プッチ・アンティックの伝記映画。その残酷性ゆえにバチカンからも非難声明が出されたという。

(左から、フリアン・ビリャグラン、監督、イングリッド・ルビオ)
★ラテンビート2014(新宿バルト9上映日時:10月11日18:30/13日21:00の2回)
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