映画国民賞2014は脚本家ローラ・サルバドール2014年07月24日 16:20

★まず、映画国民賞 Premio Nacional de Cinematografiaというのは1980年に始まった賞です。国民賞は他に文学賞や美術賞、科学賞いろいろあるようです。選出するのは日本の文部科学省にあたる文化教育スポーツ省と映画部門ではICAAInstituto de la Cinematografia y de las Artes Audiovisuales)です。副賞は3万ユーロと少額ですが、1年に1人ですからゴヤ賞とは比較にならない「狭き門」、かなりの栄誉賞です。一時期(1988794)は2人でしたが、今は1人に戻っています。特に映画部門は監督・俳優・製作者・音楽家・脚本家と多方面にわたるから、文学のように1人というわけにいかない。大体前年に活躍したシネアストから選ばれます。例年7月に発表になり、授賞式は9月のサンセバスティアン映画祭です。

 


★今年の受賞者、ロラ・サルバドール Dolores(Lola) Salvador Maldonadoは、1938年バルセロナ生れの脚本家、劇作家、プロデューサー。ラジオの脚本家として出発(1962)、テレビ・シリーズ(1973~)、演劇、映画(1980~)と幅広い活躍が認められた。脚本家が選ばれるのは珍しく、1982年の故ラファエル・アスコナ以来というから地味な分野です。監督が脚本家を兼ねていることがその一因かもしれない。テレビ・シリーズは『セサミ・ストリート』(1979)のスペイン語版を手掛けた。演劇の代表作はテネシー・ウィリアムズの『熱いトタン屋根の猫』(1984)、ヘンリック・イプセンの『幽霊』(1993)などクラシック作品を翻案した。執筆以外に教師として若いシネアストの指導に当たっている。

 

   代表的フィルモグラフィー(ライター)

1980 El crimen de Cuenca クエンカ事件 監督ピラール・ミロー

1983 Bearn o la sala de las muñecas 「ベアルン」** 監督ハイメ・チャバリ

1984 Las bicicletas son para el vsrano 「自転車は夏」** 監督ハイメ・チャバリ

1984 El jardín secreto 「秘密の庭」 監督:カルロス・スアレス

2001 Manolito Gafotas en ! Mola ser jefe ! 「メガネのマノリート」 監督:Joan Potau

2001 Salvajes 「教養のない人々」 監督:カルロス・モリネロ

2008 Titón, de la Habana a Guantanamera 「ティトン」 監督:ミルタ・イバラ

 

★比較的高評価の作品を選びました。脚本は単独より監督や原作者との共同執筆が多い、上記もすべて共同です。は「第1回スペイン映画祭1984」の邦題、**は乾英一郎の『スペイン映画史』により、その他は一応仮題を付けました。

 

   

 (「自転車は夏」より、右ガビノ・ディエゴ)

 

★フランコ時代からという経歴から、厳しい事前検閲と戦ってきた世代といえます。特にクエンカ事件は、フランコ没後の民主主義移行期の作品にも拘わらず、ミロー監督が事情聴取のために拘留されるという一大スキャンダルとなりました。1913年クエンカで起きた冤罪事件がテーマ、治安警備隊が自白を強要するために行った凄惨な拷問シーンが理由でした。「ベルリン映画祭1980」の正式出品ということもあって、検閲廃止が名ばかりであったことが内外に知れ渡ってしまうという汚点を残してしまった。サルバドールは「フランコ残党のこれが最後のあがきだったのよ」と語っています。粒揃いだった「第1回スペイン映画祭1984」の上映作品は、その後『エル・スール』のように公開された作品が多かったのですが、本作は映画祭上映だけで終わりました。

 

     

     (クエンカ事件』より、爪を剥がすシーンは序の口、もっと凄惨なシーンがある)

 

★受賞歴は、「ゴヤ賞2002」にSalvajesで監督以下4名が「最優秀脚色賞」を受賞、2011年、内閣府より芸術功労者に与えられる「Medalla de Oro金のメダル」を受賞しています。脚本家という仕事が世間的にどんな職業か知られていない不満はあるようですが、「今は文句を言う時ではなく、とにかく受賞は素晴らしい」という辛口談話を出しました。自分にも他人にも厳しい人のようです。

 

1回受賞者はカルロス・サウラ

★因みに過去に、どんなシネアストが選ばれているかというと、第1回がカルロス・サウラ→故ルイス・ガルシア・ベルランガ→故アスコナ→故パブロ・ゴンサレス・デル・アモ→故パコ・ラバルマリオ・カムス・・・の順。やはり監督が多い。最初の俳優受賞者パコ・ラバルは依然アップした『無垢なる聖者』の演技が認められて受賞したのでした。大分鬼籍入りしてます。

 

★運不運があるのは何の賞でも同じ、大物監督アントニオ・バルデムは受賞できないまま旅立ったが、代わりに甥のオスカー俳優ハビエル・バルデムが『ノーカントリー』の国際的な活躍で2008年受賞しました。若くても貰えます。例えば、イマノル・ウリベの『時間切れの愛』でカルメロ・ゴメス2009、昨年は『インポッシブル』のフアン・アントニオ・バヨナが泥船だったスペイン映画界の救世主として受賞、おなじ救世主でも政府やICAAに批判的なサンチャゴ・セグラはまだ声が掛からない(笑)。でもペドロ・アルモドバル1990年受賞しています、何しろヒット作を飛ばしていたから無視できなかった。それにまだテキも少なかった。

 

上記以外の当ブログに登場してもらった受賞者には、故エリアス・ケレヘタ1987カルメン・マウラ1988、故ホセ・マリア・フォルケ1994マリサ・パレデス1996モンチョ・アルメンダリス1998、メルセデス・サンピエトロ2003マリベル・ベルドゥ2009アレックス・デ・ラ・イグレシ2010アグスティ・ビリャロンガ2011、音楽家ではホセ・ニエト2000アルベルト・イグレシアス2007、撮影監督ではハビエル・アギレサロベ2008など、男性優位です。

 

★現在の ICAA の役員は、スサナ・デ・ラ・シエラ会長以下、アナ・アミゴ、エンリケ・ウルビス、ジョアン・アントニ・ゴンサレス、バヨナ、マリア・デル・マル・コル、ホセ・マリア・モラレス、マリエラ・ベスイエブスキーの8名(会長は発表直後の718日に辞職した)。