ガボとカンヌ映画祭 ― 2014年04月29日 17:14
★『百年の孤独』刊行後「46年10カ月と12日後に87歳で旅立った」ガルシア・マルケスは、人生の半分以上を栄光の中で送ったことになります。1967年6月5日、初版8000部で始まった刊行は、現在世界で約6000~7000万部を数えるという驚異的な部数を誇っています。
★前回の「ガボと映画」のリストで述べたように、彼自身が受賞した作品はフェリペ・カサルスのEl año de la peste (1979、「ペストの年」)1作です。メキシコのアカデミー賞といわれるアリエル賞脚本賞を共同執筆者のフアン・アルトゥーロ・ブレナンと受賞しています。本作は作品賞(金賞)、監督賞(銀賞)を受賞した作品です。他にメキシコ・ジャーナリスト・シネマ賞も受賞しました。フェリペ・カサルスは既にCanoa がベルリン映画祭1975で特別審査員賞を受賞していましたが、まだ40代になったばかりの、しかしメキシコ社会の矛盾にシフトしている監督でした。だからEl
año de la peste で彼とタッグを組むのはテーマ的にぴったりでした。
*フェリペ・カサルス:1937年、ピレネー沿いのガタリー(仏)生れ。サンセバスチャン映画祭1985で Los motivos de Luz が銀貝賞、記憶に新しいのが ダミアン・アルカーサルがパンチョ・ビリャの忠実な部下チコグランデに扮したChicogrande(2010)が、アリエル賞作品賞・監督賞他8部門にノミネートされながら無冠に終わったことでした。
★マルケスはコロンビア時代に短編を撮っただけでしたが、長男ロドリーゴが父親の夢を果たしたことになります。カンヌ映画祭2000「ある視点」グランプリの『彼女を見ればわかること』、『愛する人』、『アルバート氏の人生』他が公開されています。
★作家がそのカンヌ映画祭の審査員になったのは、第35回目の1982年のこと、つまりノーベル文学賞受賞(1982年10月21日)の半年前のことでした。審査委員長はイタリアのジョルジョ・ストレーレル、他にシドニー・ルメット、ジャンジャック・アノー、ジュラルディン・チャップリンなど。マルケスはキューバのウンベルト・ソラスの大作 Cecilia (「セシリア」)を強く推薦しましたが、結果はコスタ・ガブラスの『ミッシング』とユルマズ・ギュネイの『路みち』がパルムドールを分け合いました。
(写真:デイシー・グラナドスとイマノル・アリアス、「セシリア」から)
*作家は憤懣やるかたなく執拗にキューバ作品を推しましたが、特にルメットとチャップリンが反対に回って論争したことは有名です。後者はミゲル・リッティンの『モンティエルの未亡人』(1979)に出演したばかりでした。それとこれとはベツが彼女の信条です。映画祭主催者にも直訴したというから、凄いエネルギーですね。しかしパルムドール選出は正しかったというのが、今日の定説です。ユルマズ・ギュネイは、クルド出身のトルコ人、小説家、俳優。彼の作品が反社会的という理由で投獄・出獄を繰り返し、本作も獄中から監督、仮出所中にパリに脱出、そこで完成させたといういわくつきの映画、ちょっと政治的な力学も感じられますが。『路』は1985年劇場公開されました。彼は1984年癌で亡命先のパリで死去。同じクルドのバフマン・ゴバディに私たちが出会う以前の出来事でした。
★次がノーベル賞受賞後の翌年のカンヌ、彼の『無垢なエレンディラと無情な祖母の信じがたい悲惨の物語』が『エレンディラ』(1983)としてルイ・ゲーラによって映画化されコンペに選ばれていました。「時の人」ノーベル賞作家もカンヌ入りしておりましたが、作品がどうやら気に入らなかったようで機嫌は良くなかった。この年のカンヌは大変な年で日本からも今村昌平の『楢山節考』と大島渚の『戦場のメリークリスマス』の2作、スペインからもエリセの『エル・スール』とサウラの『カルメン』が出品され、世界の話題作が覇を競っていました。
*当時の文化省映画総局長のピラール・ミローが現地入りしていたのは、『エル・スール』の製作者エリアス・ケレヘタとエリセの仲を修復するためでした。エリセの「まだ未完成」をケレヘタが聞き入れず強引にカンヌに出品したことで二人はもめていた。エリセはこの年のカンヌでは上映したくなかったのですね。ミローとしては散々な出来の『エレンディラ』の著者を慰めるべく夕食を共にしたいが、第一にすべきことはエリセを説得すること、それに肝心の長編を読んでいなかったらしく、ちぐはぐな会話になって・・・『エレンディラ』は受け入れられず、作家にとってこの年のカンヌも辛い思い出となりました。
*パルムドールは『楢山節考』、監督賞にタルコフスキーの『ノスタルジア』とブレッソンの『ラルジャン』、サウラは芸術貢献賞を受賞しました。たかがカンヌ、されどカンヌ、毎年話題提供は続いております。そう、もう5月はすぐそこ、カンヌの季節です。
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