第86回アカデミー賞2014*エステバン・クレスポ2014年03月04日 16:05

                 86回アカデミー賞2014*エステバン・クレスポ

  

★昨年の秋から話題提供の米国アカデミー賞授賞式がやっと終わりました。下馬評通り何のサプライズもなかった印象です。『ゼロ・グラビティ』の7個は貰いすぎですかね。しかし、これは何作か見た3Dの中では出色のできばえでした。

 


★短編映画賞部門にエステバン・クレスポAquel no era yoThat Wasn’t me201225分)が、唯一最終候補5作に残っていたのでしたが、こちらは本命視されていたデンマークのAnders Walter 監督の手に渡りました。短編としてはスペイン初ノミネートだったようです。「ペネロペ・クルスがプレゼンターとして登壇したら」と期待を寄せていたスペイン・マスコミも残念でした。このジョークは、オスカー受賞の『オール・アバウト・マイ・マザー』のプレゼンターがペネロペとバンデラスだったからです。二人が現れた瞬間、アルモドバルもファンも受賞を確信しましたから。

 

★エステバン・クレスポ Esteban Crespo García1971年マドリード生れ、監督・脚本家・製作者。

2005年のSiempre quise trabajar en una fabricaでデビュー以来一貫して短編映画を撮りつづけている。第1作がバルセロナ短編賞、第2Amar05)がポルトガル短編映画賞、第4Lala09)が翌年ゴヤ賞にノミネート、第5Nadie tiene la culpa11)がモントリオール映画祭審査員賞受賞、第6作目となる本作でハリウッドの晴れの舞台に立つことになりました。

 


Aquel no era yoは、2012年のマラガ映画祭短編映画賞・監督賞受賞、主人公の少年兵士フアンホになったグスタボ・サルメロンも主演男優賞を受賞した。2013年ゴヤ賞受賞作品。アフリカの少年兵士たちに襲いかかる悲劇の物語、クレスポによると、現在25万人以上の子供たちがオモチャの代わりに武器を持たされているという。数えきれないNGOの協力を得て出来た作品であるが、鑑賞したアムネスティ・インターナショナルや学校の巡回上映会で見た子供たちを惹きつけているという。「ここ(スペイン)で生れていたら、友達とサッカーのボールを蹴って遊んでいたはず」と監督。オスカー像を持って来られなかったけれど、スペインにはこんな映画を撮っている監督もおりますと紹介したかった。

 

『無垢なる聖者』 マリオ・カムス①2014年03月10日 18:19

★かれこれ30年前の映画になりますが、古さを感じさせません。多分「私の20世紀スペイン映画ベスト50」を選ぶとしたら迷わず入れます。今回アップする気になったのは、2月のセルバンテス文化センター土曜映画会で上映されたこと(英語字幕入りとあったが無かった)、テレレ・パベスがゴヤ賞助演女優賞を貰った際にもっと紹介したかったが断念したことが頭にあったからでした。本作のレグラ役は彼女の持ち味を生かした、まさに適役と言えます。

 

   Los santos inocentesThe Holy Innocents

製作:フリアン・マテオス

監督・脚本:マリオ・カムス

脚本:アントニオ・ラレタ、マヌエル・マトヒ  

原作:ミゲル・デリーベス(1881年刊の同名小説)

撮影:ハンス・ブルマン

音楽:アントン・ガルシア・アブリル

 

キャスト:アルフレッド・ランダ(パコ‘エル・バホ’)、テレレ・パベス(パコの妻レグラ)、フランシスコ・ラバル(アサリーアス、レグラの兄)、ベレン・バリェステロス(長女ニエベス)、フアン・サンチェス(長男キルセ)スサナ・サンチェス(次女ラ・ニーニャ・チカ、チャリート)、アグスティン・ゴンサレス(ドン・ペドロ)、アガタ・リス(ペドロの妻ドニャ・プリータ)、フアン・ディエゴ(セリョリート、イバン)、マリー・カリーリョ(侯爵夫人)、ホセ・グアルディオラ(ハラのセリョリート)、マヌエル・サルソ(ドン・マヌエル外科医)、ぺピン・サルバドール(司教)他 

 

データ:製作国スペイン・スペイン語 1984年 ドラマ 107分 撮影地(エストレマドゥラ州のアルブルケルケ、バダホス、サフラなど) スペイン19844月公開 日本19865月公開

受賞歴:カンヌ映画祭1984ベスト男優賞にフランシスコ・ラバルとアルフレッド・ランダが受賞、エキュメニカル審査員スペシャル・メンション賞をマリオ・カムスが受賞。ほかシネマ・ライターズ・サークル賞(西)作品賞受賞など。

 


プロット:パコとレグラの夫婦はニエベス、キルセ、チャリートの子供3人と、ポルトガルの国境いエストレマドゥラの大地主の小作農として、慎ましく、不平も言わず従順に働いていた。末っ子は精神に障害があり寝たきりの天使だった。夫婦の唯一の願いは、自分たちのような惨めな境遇から抜け出せるよう残る二人の子供たちに教育を受けさせること、そのためならどんな屈辱にも耐えようと思っていた。そこへ近くの荘園から年ボケを理由に暇を出されたレグラの兄アサリーアスが転がり込んできた。彼も幼児のように無心なイノセントの人であった。彼の唯一の楽しみはキルセが見つけてきたコクマルガラスのヒナを育てること、「ミラーナ・ボニータ」(可愛いコトリ)と可愛がっている。

雇い主ドン・ペドロ夫妻に子供はなく、妻プリータは侯爵家の狩猟狂のイバンと不倫の仲である。大土地所有者の侯爵家をヒエラルキーの頂点にして、上の階級が一方的に命令し、下の階級がそれに黙々と従う。ここエストレマドゥラでは、1960年代初頭にも拘わらず未だに古びた封建制度が脈打っており、人間性の喪失を引き起こす社会的不平等がまかり通っている。ある日のこと、イバンが癇癪紛れに<ミラーナ・ボニータ>を撃ち殺したことから、突然思いもよらぬ悲劇が起きてしまう。(文責:管理人)

 

     1984年、第1回東京スペイン映画祭開催の興奮

 

: この映画祭はかれこれ30年前に開催され、ポスト・フランコ時代の新作10が上映されました。正確には1117日~30日まで渋谷東急名画座、なかで『無垢なる聖者』が一番新しい映画でした。

: ゴヤ賞栄誉賞受賞のハイメ・デ・アルミニャン紹介記事に少し触れていた映画祭ですね。彼の『エル・ニド』(1980)が上映されたとありました。

: 映画祭邦題は『巣』でしたが、87年公開時に『エル・ニド』と改題されました。『無垢なる聖者』

はそのままの邦題で公開され、勿論とっくの昔に廃盤になっておりますがビデオも制作されたのです。

 

: セルバンテス文化センターでは、カタカナ起しの『ロス・サントス・イノセンテス』として紹介されていたので非公開と思っていた人が多いのではありませんか。今月上映されているサウラの『歌姫カルメーラ』は公開時の邦題になっていて、字幕英語入りとあり混乱します。

: プロが作成している冊子ではありませんし、英語字幕もあるかどうか()。今回本作をご紹介するにあたり日本語のデータベースを検索しましたが、本映画祭で作成されたカタログの間違いも含めて踏襲されておりました。例えば、侯爵夫人Marquesa公爵夫人Duquesaとなっていたのは少し問題かな。格式が大きく違いますし、Marquésは「辺境の地を支配する貴族」が原義ですから、公爵のはずがありません。

: 時代はかなり前になりますが、宮廷画家ゴヤのパトロンだったアルバ公爵夫人は、時の王妃マリア・ルイサと軽薄な張り合いをしたほどの女性、その権力は絶大でハンパじゃありませんでした。もともと公爵はヨーロッパでは公国の君主でした。

 

: 映画祭に話を戻すと、正式には「第1回」は付いておりません。1989年に再びスペイン映画祭が開催されたので区別する必要から84年を「第1回」、89年を「第2回」としたのです。1984年にはこの映画祭の前に「スペイン映画の史的展望<19511977>」という映画祭が京橋の国立フィルムセンターで開催されていたんです。これは画期的な企画でまさに日本での「スペイン映画元年」と言っても何処からも文句は出ません。フランコ時代の映画23が纏まって上映されたのです。それも全作英語スーパー付きのニュープリントだったそうです。しかしこの映画祭については別個に紹介する必要があり、別の機会に譲りたいと思います。

 

: つまり第1回スペイン映画祭上映作品は、ポスト・フランコ時代の10作、残り8作にはどんなものがありますか。

: 例えば公開作品でいうと、先の2作と『エル・スール』(エリセ)、『血の婚礼』(サウラ)を含めて4本、公開にならなかったほうに力作があるので羅列すると、『パスクアル・ドゥアルテ』(リカルド・フランコ)、『クエンカ事件』(ピラール・ミロー)、『庭の悪魔』(マヌエル・グティエレス・アラゴン)、『黄昏の恋』(ホセ・ルイス・ガルシ)、『夢を追って』(フェルナンド・コロモ)、『ミケルの死』(イマノル・ウリベ)の6本です。『クエンカ事件』のピラール・ミローは、治安警備隊の残酷な拷問シーンを描いたことで1カ月ほど収監される事態になった話題作。また『黄昏の恋』はスペイン映画として初のオスカー受賞(1983)作品、いずれ粒ぞろいの11本をご紹介する機会を持てたらと考えています。

 

: 80年代前半のスペイン映画界の勢いが感じられますし、その後の各監督の活躍を考えると凄いラインナップ、スペイン映画史に残る作品ばかりです。やはり未公開作品には一種の共通項があり、公開は無理だったろうという印象を受けます。

 

     小説では子供が4人だった

 

: さて『無垢なる聖者』は、かなり忠実に映画化しているということですが、小説ではキルセとチャリートのあいだにロヘリオという男の子がいる。6章立てで、1章アサリーアス、2章パコ、エル・バホ、3章ラ・ミラーナ、4章狩猟助手(El secretario)、5章パコの怪我(El accidente)、6章犯罪(El crimen)です。第4章で初めてイバンが登場します。

: 映画は、ニエベス、キルセ、パコ<エル・バホ>、アサリーアスの順、その度にフラッシュバックがあるから4回行ったり来たりして、ちょっと戸惑うでしょうか。テーマはそのままに映画的な再構成をしたということですね。

 


:  映画は冒頭にアサリーアスの象徴的な映像が映し出され、それからクレジットが出てくるという当時としては洒落た導入の仕方です。物語はキルセが兵役を終えてサフラの駅に仲間と降り立つシーンから始まる。今はサフラの工場で働いているニエベスに帰郷のメモを書いて、つまり字が書けるようになっている、二人はサフラで会う。フラッシュバックの期間が短いですが服装や物腰から混乱することはないと思います。

 

: シネ・トークで「この映画の時代はいつごろですか」と質問がありました。まさか60年代とは思わなかったでしょう。小説では時代とか場所とかは特定していないとか。

: ただ第2回バチカン公会議が出てきて、これが1962年から65年にかけてあったので60年代初頭と分かるようです。場所はポルトガル国境沿いの南部地方、風景描写からエストレマドゥラと特定できるようです。20年前とはいえ場所を特定したくなかったのかもしれません。映画でははっきり地名が鉄道の駅舎があるサフラ、他にサフラに近いビリャフランカやアルメンドラレホなどが出てきます。

 

: 日本では敗戦により農地開放が行われ大土地所有制は解体されましたが、スペインでは60年代にもあのような大荘園が存続していたとは驚きです。

: 侯爵夫人が2階バルコニーに出てきて、使用人たちの「侯爵夫人、万歳!」の祝福を受けるちょっと信じられないシーンが出てきます。

: 夫人が手を挙げて応えるしぐさは、国民の歓呼に応えるフランコ将軍に似ていて皮肉っぽいシーンです。

 


: このカサ・グランデと呼ばれる大邸宅は、お祭りや狩猟の季節にだけ使用される。今回はハラのセニョリートの聖体拝領を侯爵家の礼拝堂で執り行うのが主目的なのか、司教のほかオルガン奏者もやってくる。それで使用人の女房たち総出の大掃除やら使用する銀食器磨きとなる。

: 狩猟しか興味のないイバンに「あんな辛気臭い宗教曲を聞かされると頭痛がしてくる」と言わせている()

: 支配者側は自分たちに有利にはたらく教会権力は歓迎だが、一面ウンザリもしていたんですね。

: 礼拝堂といっても教会並みの豪華さで、当時の大土地所有者の「金力」には驚きます。

 

: お金は唸るほどあった、何しろ搾れるだけ搾っているのですから。荘園で働く小作人を一列に並べさせ、一人ひとり近況を聞いて小銭を渡し、お互いの上下関係を更にはっきりさせている。

: にこやかに応対する侯爵夫人の「見せかけの温情」も皮肉っぽいですが、将来領主となるだろうハラのセニョリートからもオダチンが渡される。一種の「帝王学」ですが子供から小銭を恵まれるなんて屈辱的です。

 

: 司教はたらふく食べているからだいたいまるまる肥っている。庶民が何とか三度の食事ができるようになったのが1950年代に入ってからと言われていますが、映画ではとてもそのようには見えない。

: スペインで最も貧しい土地がここエストレマドゥラです。

: ブニュエルのドキュメンタリー『糧なき土地 ラス・ウルデス』(1932Las Hurdes, tierra sin pan)ほどじゃありませんけど。ラス・ウルデスはエストレマドゥラの最北端カセレス県に位置し、現在でも平均所得が最も低いところです。ブニュエルはこのドキュメンタリーのイザコザでスペインに居られなくなり亡命を余儀なくされる。フランコ以前の映画、スペインが「ピレネーの向こうはアフリカ」と言われた時代でした。(続く)

 

 

『無垢なる聖者』 マリオ・カムス②2014年03月11日 13:59

                  カンヌをうならせたラバルとランダのデュオ

 

: フランシスコ・ラバルトとアルフレッド・ランダが「カンヌ映画祭1984」で、主演男優賞を揃って受賞した。カムス監督もエキュメニカル審査員スペシャル・メンションを受賞しました。

: まだ最高賞はパルムドールではなくて(1990年から)、グランプリと言われていた。これがヴィム・ヴェンダースの『パリ、テキサス』、監督賞が『田舎の日曜日』のベルトラン・タヴェルニエ、国際批評家連盟賞にテオ・アンゲロプロスの『シテール島への船出』などが受賞した凄い年でした。

 

: 価値ある受賞ですが、ランダもイバンの狩りのお供で「狩猟犬」の演技までやらされるとは思わなかった()

 アルフレッド・ランダは製作者のフリアン・マテオスから「パコは君がやれ」と言われ、どんな役かシナリオも読まずに「ハイ」と即答した。パコになりきるためエストレマドゥラ訛りのアクセント練習をしたが、結局そんなことは些細なことになったと。役作りに熱心なタイプですが、自然体がいいということですかね。

: 彼は牛追い祭で有名なパンプローナ(ナバラ州、1933)生れ、マジメだから必要と考えたんでしょ。

: サンセバスチャンで法律を学んだ後、マドリードに出て舞台に立ったり、吹替え声優の仕事をしたりした。映画デビューは1962年のホセ・マリア・フォルケのAtraco a las tres、この映画はスパニッシュ・コメディの成功作の一つ、翌年ガルシア・ベルランガの代表作El verdugo(仮題「死刑執行人」)に墓掘り人役で出演するなど、役者として幸運な滑り出しをしています。

 

: ホセ・ルイス・クエルダの『にぎやかな森』(1987)では主役を演じています。

: 3桁になる本数の映画に出演していますが主役が多い。当時コメディアンとして彼ほど貴重な存在はなかったということでしょうか。「第2回スペイン映画祭1989」の上映作品、同じ邦題で1990年に公開されました。同年公開されたアルモドバルの『欲望の法則』(1987)もこの映画祭の上映作品です。

 

 


: さて、パコは子供たちを学校に行かせたい。折りも折りドン・ペドロから「長くよく働いてくれたから」と母屋のある荘園の守衛に抜擢される。

: 藁ぶきのローソクの家から電気のつく家に引っ越せることになり、あそこなら子供たちを学校に行かせられる。特に賢いニエベスを早く学ばせたい。ところがドン・ペドロはニエベスを女中として使いたい。パコ夫婦の望みは雇い主の一言であえなく絶たれてしまう。

: 60年代当時、辺境の地では親の世代が無識字なのは分かるとして、子の世代もろくすっぽ教育を受けてない。日本では中学卒業で仕事につくのは、もはや少数派、東京五輪開催が1964年と考えると、その段差に絶句する。もう一人の受賞者フランシスコ・ラバルの「ミラーナ・ボニータ」が耳から離れません。

 

: キャスティングに難航したのが、このアサリーアスとレグラの兄妹役と言われています。フランシスコ・ラバルはブニュエルに可愛がられていたようで、「おじさん、おじさん」と呼んでいたとか。『ナサリン』(1958)、メキシコからヨーロッパに回帰した第1作品『ビリディアナ』(1961)、『昼顔』(66)などに出演、ブニュエル映画に出演した数少ないスペイン俳優です。

: ブニュエルは1984年には既に鬼籍入り(83729日)、生きていたら「おじさん」も喜んでくれたことでしょう。ゴヤ賞が始まっていれば二人とも主演男優賞受賞間違いなしでした。

 

: ラバルは1926年ムルシア生れ、アサリーアスは60歳ぐらいの設定ですから、だいたい同年齢を演じたことになります。内戦が勃発したとき10歳、両親とマドリードに移住、内戦終結後の1939年に早くも家計を助けるため働きだしています。昼間働き夜間中学で学んだ苦学の人でもあった。映画界に入ったきっかけは、内戦後に設立された映画スタジオ「チャマルティン」の電気技師のアシスタントをしていたとき、ラファエル・ヒル監督の目に留まってLa pródiga1946)に出演したからでした。晩年の彼からは想像もできない凄い美青年でした(写真参照)。

 


: 内戦を生き延び、フランコ時代を生き延び、生涯でエキストラやテレドラを含めると200本を超す作品に出演しています。

: ランダと同じく、彼については切り売りみたいな紹介はしたくないので、ゴヤのボルドーでの最晩年を描いたサウラのGoya en Burdeos1999未公開、仮題「ボルドーのゴヤ」)の紹介を予定しているので、そちらに回したい。

: ゴヤ賞2000で涙の主演男優賞を初めて受賞した作品、マルベル・ベルドゥがアルバ公爵夫人になった。翌年死去したので、数あるゴヤ賞授賞式でも思い出深いものがあります。

: 何はともあれブニュエル、サウラ、アルモドバル、イタリアのミケランジェロ・アントニオーニやルキノ・ヴィスコンティ、フランスのクロード・シャブロル、ブラジルのグラウベル・ローシャなどに起用された。彼ほど国際的な活躍をしたスペイン俳優を私は知りません。

 

: 忘れてならないのが、カムス監督の『蜂の巣』(1982)出演、翌年ベルリン映画祭で金熊賞を受賞した折りには、日本では「マリオ・カミュ、蜜蜂の巣箱」と紹介されたそうですね。

: カミロ・ホセ・セラの同名小説、ノーベル賞受賞は1989年、まだ受賞前だったから仕方ありません。作家本人もカメオ出演しています。前出のリカルド・フランコの『パスクアル・ドゥアルテ』も、セラの『パスクアル・ドゥアルテの家族』の映画化でした。この映画祭にはフランコ監督も来日しています。映画をスクリーンで見る機会はなさそうですが、両方とも翻訳書が出ていますから、まずそちらから。

 

                    テレレ・パベスの≪目の演技≫に涙

 

: また脱線しました。ラバルは一応おしまいにして、レグラ役のテレレ・パベスに行きましょう。彼女はスペインでは押しも押されもせぬ現役大女優ですが、『無垢なる聖者』のレグラ役は正にハマリ役と言っていいですね。

: 日本では、ヘラルド・ベラのLa Celestina1996)の娼館の主セレスティーナ役が有名。人気爆発のペネロペ・クルスが出演したせいか、未公開ながら『情熱の処女~スペインの宝石』の邦題でビデオ&DVDが発売された。

 

B: ペネロペ以外も当時の旬の人気俳優をズラリと揃えた目の保養になる映画でした。パベスはこの老売春斡旋者役でサン・ジョルディ女優賞とスペイン俳優連盟女優賞を受賞しました。

: ゴヤ賞にはマリベル・ベルドゥがノミネートされ、彼女は候補者にもならなかった。やっと今年アレックス・デ・ラ・イグレシアのLas brujas de Zugarramurdi で「五度目」の正直、念願のゴヤ賞を初ゲットした。既にゴヤ賞2014助演女優賞欄で少し紹介しておりますが、ちょっと追加いたします。1939年ビルバオ生れの74歳、本名はテレサ・マルタ・ルイス・ペネーリャ、生れこそビルバオですが育ったのはマドリード。

 

: 彼女の一族はスペインでは芸術家一家として有名です。

: 祖父が作曲家のマヌエル・ペネーリャ・モレノ、政治家の父親ラモン・ルイス・アロンソと母親マグダレナ・ペネーリャ・シルバの三女、長女がエンマ・ぺネーリャ(1930)、次女がエリサ・ルイス・ぺネーリャ(芸名エリサ・モンテス1936)、テレシータ・シルバが叔母で、エンマ・オソレスは姪にあたる。

: 系図を作成しないと()。要するに親戚一同女性陣は女優なんですね。エンマ・ぺネーリャは、ガルシア・ベルランガのEl verdugo1963)で処刑人の娘を演じた女優さんです。

 

: パベスの映画デビューは12歳、そのガルシア・ベルランガが撮ったNovio a la vista1953、仮題「一見、恋人」)でした。苗字パベスは、母方の祖母エンマ・シルバ・パベスを継いだそうです。それぞれ一族が名前で混乱しないよう区別するための工夫とか。

: アレックス・デ・ラ・イグレシアがゴヤ監督賞を受賞した『ビースト、獣の日』(1995)の他、『みんなのしあわせ』(2000、ゴヤ助演ノミネート)、『800発の銃弾』(2002)、『気狂いピエロの決闘』(2010、ゴヤ助演ノミネート)などにも出演しています。

 

: 女性にしては体形ががっしりして声がかすれていることで損をしています。製作側からは性格も自尊心が高く気難しく扱いにくい「うるさ型の女優」と敬遠されがちです。

: 映画でもドン・ペドロが夫のパコより妻のレグラに一目置いて気を使って怖がっていた。

      


: しかしデ・ラ・イグレシアに言わせると、頭が良くて演技力はバツグンと太鼓判。本作でも一旦帰郷したキルセがマドリードに去るシーン、だんだん小さくなっていく息子の背中を夫婦は無言で見送る。「どうぞ泣いて下さい」という映画じゃないのに、ここにくると必ず涙腺がゆるんでしまう。二人のベテラン勢の目の演技には降参です。キルセが光に向かって旅立つテーマ的に重要なシーンでもあった。

: フランコ時代の目に見えない変化を捉えたシーンです。

: デ・ラ・イグレシアは、あまり知られていないことだが人を「笑わせる才能」に富んでいるとも言ってます。二人は性格が似ているのかもしれません。新作Las brujas de Zugarramurdiではカルメン・マウラともども魔女役に扮する由、今年もっとも公開が待たれる映画です。

 

            描きたかったのは「人間、風土、パッション」

 

: 支配階級・金持ち・悪人VS下層階級・貧乏人・善人、など二項対立の描き方がプロトタイプという印象があります。

: 強者と弱者の描き方ですね。しかし最後に強者は死をもって敗北する。強いから生き残れるわけではない。「吊るされる」に値する強者のエゴイズムを描かなければ、観客は納得して映画館を出られませんよ()

: 散見する「社会の底辺に生きる人々を描いた作品」という紹介の仕方はどうでしょうか。

: 「底辺とは何ぞや」、定義は難しい。この役をやることでフアン・ディエゴは観客から憎まれたそうですから、役者冥利に尽きるというものです。

 

: イバンに女房を寝取られそうなドン・ペドロは、退屈のせいで頭痛持ちの妻プリータを陰では「女狐」と吐き捨てている。

: ドン・ペドロは、イバンの妻が一緒に来なかったことで余計に不安がつのっている。イバンの家庭も崩壊しているのですね。大地主とはいえ侯爵家のイバンには勝てない、女房を叩くこともできない、フラストレーションの固まりになって二人を憎んでいる。

 

: この悲劇的な物語の核は、敵対する、憎み合っている二つの世界が隣り合って存在していること、アサリーアスのパッションとイバンのパッションが異なっていることです。

: スペインの「パッション」には、大きく分けて情熱と受難という二つの意味があり、多分両方の意味を含ませていると思います。デリーベスはこの小説の構想は「人間、風土、そしてパッション」を描くことから生れたと語っています。

 

: 一貫してリアリズムで進行しますが、センチメンタリズムとは無縁です。

: アサリーアスもイバンも二つの世界のシンボルとして登場している。アサリーアスは侯爵家の娘ミリアムに「ミラーナ・ボニータ」が可愛いから見せたい。うなり声を上げるラ・ニーニャ・チカも「ミラーナ・ボニータ」だから見せたいのですが、それはミリアムの世界では理解できない。

 

: 象徴的なのは、ぐずっている少女をアサリーアスが抱くと静かになる。無垢なる二人はテレパシーで繋がっている。それでアサリーアスのシラミが少女にたかって、レグラはシラミ取りをする羽目になる。

: リリシズムが全編を横溢するなかで、笑いを誘う数少ないシーンです。キルセが兵役についている間に一人は「天使のような死に顔」で旅立ってしまい、もう一人も町の精神病院に入れられてしまう。ここで暮らすのはパコ夫婦だけになる。

: 荘園の守衛を解雇され、倒壊しそうな元の藁ぶきの家に戻っている。

: 映画は何も語りませんが、このような重要な変化を見過ごすとテーマを見失ってしまう。ここ辺境の地を流れる地下水も少しずつ変化している。「社会の底辺に生きる人々を描いた」作品ではあるが、それを描くことが主題ではないということです。

 

: アントン・ガルシア・アブリルの音楽もフォルクローレを取り込んだ個性的なもの、あの「アサリーアスのテーマ」が流れてくると不安になってくる。

: 効果的に挿入されています。『無垢なる聖者』というと、このギーギーと「ミラーナ・ボニータ」を思い出してしまいます。

 

: 撮影のハンス・ブルマンの美しい風景描写、巧みなロングショットとクローズアップ、きらびやかさと薄暗さの場面展開も印象的でした。

: 光(純白)と闇(漆黒)の切り替えですね。ブルマンは1937生れで、カムス監督と同世代。カムスとのタッグは1973年のLa leyenda del alcalde de Zalamea以来10作ぐらいあり、勿論『蜂の巣』も、ゴヤ賞ノミネートのLa rusa1987)、最新作といっても2007年だがEl prado de las estrellasも撮っている。カムスは引退しても、ブルマンはペースこそスローダウンしているが現役です。

B: アメナバルの『テシス』や『オープン・ユア・アイズ』も彼が撮っている。スペインだけでなくキューバのトマス・グティエレス・アレアの遺作「グアンタナメラ」、フアン・カルロス・タビオの『バスを待ちながら』やEl cuerno de la abundanciaなども手掛け、凄い仕事量です。

 

: さてシンガリは監督紹介、1935年サンタンデール生れのカンタブリアっ子。最初法学を専攻していたが映画に方向転換、1956年に国立映画研究所に入学、第1El borracho1962)は卒業制作として撮った短編です。まず脚本家として出発、カルロス・サウラの『ならず者』(1959)の共同執筆者の一人。またアルゼンチンのアドルフォ・アリスタラインの『ローマ』(2004)、ピラール・ミローの“Beltenebros”(1991)なども手掛けています。

 


: マリオ・カムスといったら文芸路線の監督というイメージが強い。やはり国際的に認められた『蜂の巣』と『無垢なる聖者』に尽きるのかな。

: そんな。文芸路線の監督には違いありませんが。テレビ・シリーズも数多く手掛けており、なかでペレス・ガルドスの小説の映画化『フォルトゥナータとハシンタ』は、1981年にTVシリーズに与えられるテレビ・パフォーマンス金賞を受賞した。フォルトゥナータに扮したアナ・ベレンもベスト女優賞を受賞しています。2007年を最後に撮っていないせいか、2011年に75歳でゴヤ栄誉賞を受賞してしまった。

 

    カムスの代表作品&受賞歴

1964  Young Sánchez マル・デル・プラタ映画祭1964スペシャル・メンション賞受賞。イグナシオ・アルデコアの小説の映画化

1968 Volver a vivir  商業的に成功した映画

1970  La cólera del viento 商業的に成功した映画

1972 La leyenda del alcalde de Zalamea ロペ・デ・ベガの小説の映画化

1975 La joven casada  商業的に成功した映画

1975  Los pájaros de Baden- Barden イグナシオ・アルデコアの小説の映画化

1978  Los días del pasado 

1982 La colmena 省略

1984 Los santos inocentes 省略

1985  La vieja música 

1987  La casa de Bernarda Alba ガルシア・ロルカの小説の映画化

1987  La rusa  ゴヤ賞1988でハンス・ブルマンが撮影監督賞にノミネート

1992  Después del sueño 

1993 Sombras en una batalla  ゴヤ賞1994オリジナル脚本賞受賞/シネマ・ライターズ・サークル作品賞・脚本賞受賞、カルメン・マウラが主演女優賞ノミネート、ETAのテロを扱った映画

1996  Adosados モントリオール映画祭FIPRESCI賞受賞/シカゴ映画祭脚本賞受賞

1997  El color de las nubes  サンセバスチャン映画祭OCIC賞受賞

2002  La playa de los galgos 

2007 El prado de las estrellas シネマ・ライターズ・サークル賞2009、監督賞及びオリジナル脚本賞ノミネート

★ノミネーション及び脚本賞は多数につき省略しているケースがあります。

 

ハイビジョン化されたスペイン映画&イタリア映画300本2014年03月13日 15:25

★高解像度(ハイビジョン)されたスペイン&イタリアの主にクラシック映画が毎月1012本のペースで発売されることになりました。最終的には300の予定とか。2年半ぐらい掛かりますね。かなり悲惨な状態にある作品もあり厳しい作業のようです。

 

★価格は作品によって異なり、ブルーレイが1418ユーロDVD9.9511.95ユーロです。初回3月発売12作品リストは以下の通り(国名表示がないものはスペイン)

『ベルエポック』(1992)フェルナンド・トゥルエバ

2 『マタドール』(1986)ペドロ・アルモドバル

3 El último cuplé1957)フアン・デ・オルドゥーニャ、サラ・モンティエル主演のヒット作

4    Gringo1963西伊合作)リカルド・ブラスコ、ジャンルはウエスタン

5    Historias de la radio1955)ホセ・ルイス・サエンス・デ・エレディア

6    La Lola se va a los puertos1947)フアン・デ・オルドゥーニャ、ジャンルはミュージカル

7    La violetera1958)ルイス・セサル・アマドリ、サラ・モンティエル主演、ミュージカル

8    Le llamaban Trinidad1970伊)エンゾ・バルボニ、ジャンルはウエスタン

9    Las 13 rosas2008)エミリオ・マルティネス・ラサロ

10   Plácido1961ルイス・ガルシア・ベルランガ、ジャンルはブラック・コメディ

11  『汚れなき悪戯』(1954)ラディスラオ・バフダ

12  『自転車泥棒』(1948伊)ヴィットリオ・デ・シーカ

 


★お目当ての映画がありましたでしょうか。2000年以降に製作された作品も混じっておりますが、フアン・デ・オルドゥーニャ、ラディスラオ・バフダやルイス・ガルシア・ベルランガのような古典が主流のようです。また、デ・シーカの『自転車泥棒』のように粒子は悪くてもしばしばテレビで放映されている作品も選ばれています。(写真はLa Lola se va a los puertos のポスター)

 

★画像に「雨が降っている」のも当時が偲ばれて趣があるかかもしれません。まずオリジナル板の保存が大切で、修復はそれからだという意見もあるでしょう。絵画の修復画家のように技術だけでなく芸術としての映画の重要性を理解している人が携わるべきで、ただ画像が鮮明になっただけでは戴けません。フィルムの荒い粒子の修復だけでなく、光の入れ方、濃淡も考慮されなくてはならない。しかし音声も復元されるので、ノイズの入っていないかつてのスターたちの歌声が聴けるのは収穫です。フランコ時代には厳しい検閲を通過させるためミュージカル仕立てが多かった。

 


★「すごい美声だった」という話しか聞かされていない若い人、外国人には朗報、そのなかにフローリアン・レイのミュージカルCarmen la de riana1938「トリアナのカルメン」仮題)があり、往年の大女優インペリオ・アルヘンティーナ(19102003)がカルメンになったのでした。ブエノスアイレスで生れたので付けられた芸名。
(写真は修復されたホセ役のラファエル・リベリェス)。

 


ルイス・ガルシア・ベルランガ(19212010)は、スペインで一番愛された監督でありながら日本では映画祭上映のみ、公開ゼロという稀有な存在。第1回発売にPlácido(「プラシド」仮題)が選ばれたのは嬉しい。オリジナルのネガから修復された“Calabucu”(1956「カラブッチ」仮題)も発売予定のようです。(写真はプラシド役のカスト・センドラ“カッセン”)。

 


★サラ・モンティエル(19282013)は、インペリオ・アルヘンティーナの次の世代の大スター、昨年鬼籍入りしたときはテレビで大特集が企画されたほどでした。
(写真はLa violetera のサラ・モンティエル)


★アルモドバルの『バッド・エデュケーション』のなかで、まだ少年だったイグナシオとエンリケがサラ・モンティエルの出演した映画を見に行くシーンがありました。多分オマージュとして挿入したのでしょうね。今回の『マタドール』とデビュー作Pepi, Luci, Bom y otras chicas del montón 1980)だけエル・デセオの製作ではない。
(写真は『マタドール』撮影中のアルモドバル、エバ・コボ、チュス・ランプレアベ)

  

バヨナ監督『インポッシブル』の次回作は『怪物はささやく』に決定2014年03月17日 00:24

フアン・アントニオ・バヨナの次回作は、ベストセラー作家パトリック・ネスの小説A Monster CallsUn monstruo viene a verme)の映画化に決定しました。癌で夭折したシヴォーン・ダウドの原案をパトリック・ネスとイラストレーターのジム・ケイが完成させたもの。原作は既に『怪物はささやく』の邦題で、児童図書出版社から刊行されております(2011あすなろ書房)。まだキャストはアナウンスされておりませんが、今秋にはクランクインということですからいずれ発表されるでしょう。言語は残念ながら英語です。国際派の俳優を起用ということですが、スタッフは以前と同じ仲間で構成、製作者はアパッチ・エンターテインメントのベレン・アティエンサ、まずイギリスで撮影、後にスペインでも撮るということです。2016年秋公開を目指しており、配給会社はスペインではユニバーサル・ピクチャー、アメリカはフォーカスとライオンズゲイトなど。公開が期待できそうですが、邦題がこの通りになるかどうか、一応翻訳書に合わせておきます。

 


原作のストーリー イチイの大木の怪物と13歳のコナー少年のファンタジー・ドラマ。両親は離婚して父親はアメリカで新しい家族と暮らしている。少年は癌と闘っている母親と一緒に暮らしており、学校ではイジメに合って孤立している。ある夜、怪物が少年の家にやってきて、「私が先に三つの物語を語ります。それが終わったら君が四つめを語りなさい。その物語は君が心に閉じ込めている真実の物語でなければならない。なぜなら君は語るために私を呼んだのだから」と。

 

  

★辛い現実から逃避して心を閉ざしている少年が、真実の物語を語ることができるのか。バヨナがこのファンタジーをどのように映画化するのか大変興味があります。「この小説を読んだとき、映画にしてくれ、と本が自分を呼んでいるように感じた」と監督。また自分にとって『怪物はささやく』は、現実世界に立ち向かうのにファンタジーは必要だと教えてくれたエモーショナルな物語でもあると。第1作『永遠のこどもたち』、第2作『インポッシブル』、ともに母と子をテーマにしており、これで「母子三部作」は終りにするつもりだとも語っています。

 

    
(『インポッシブル』 撮影中のバヨナ監督)

★第2作『インポッシブル』は歴史に残る興行成績を上げ、危機に瀕しているスペイン映画界の救世主となりました。キャストにナオミ・ワッツやユアン・マクレガーなど大物ハリウッド・スターを起用できたことも成功の一つだった。今回も国際派の俳優から選ばれる可能性が高く、まもなく発表されるようです。イメージ的には、スパイク・ジョーンズが2009年に実写で撮った『かいじゅうたちのいるところ』(日本公開2010)に近いのだろうか。最近亡くなったモーリス・センダックのベストセラー絵本Where the wild things areの映画化、1963年の刊行以来、全世界でトータル2000万部以上、日本でも神宮輝夫の名訳でミリオンセラーですね。読んだときに大人になっていた人、子供のときに大人に読んでもらった人、みんなドキドキワクワクした絵本です。

 

★バヨナは、ブラッド・ピットが主演したゾンビ映画『ワールド・ウォー Z』(Guerra mundial Z)の続編を撮ることが決まっておりましたが(既に二人は顔合わせをしている)、これは第4作にまわるようです。日本でも昨年6月に劇場公開された第1作は、ブラビの数多くのヒット作の中でも最大だったとか。悪口も聞こえてきた割には興行収入が何百億円とか信じられない数字、桁が違うのではないかと思ってしまいます。『怪物はささやく』も製作費2500万ユーロをつぎ込むそうで、失敗は許されないか。若くして映画部門での「国民賞」を戴き順風満帆です。「へえ、あの人スペイン人だったの」などと、スペイン人は海外で仕事をする人の足を引っ張りがち、度量を大きく持ちたいものです。

 

第1回イベロアメリカ・プラチナ賞ノミネーション発表2014年03月18日 21:39

220日にご案内した「第1回イベロアメリカ・プラチナ賞」の続報です。予定通り313日にノミネーション発表がありました。主に当ブログに登場した作品、新たに設けられた「ルイス・ブニュエル賞」などを追加いたします。

 


    *ノミネーションされた代表的作品

○“Vivir es fácil con los ojos cerrados”ダビ・トゥルエバ、2013西、
作品・監督・脚本・
男優
4

○“Las brujas de Zugarramurdi”アレックス・デ・ラ・イグレシア、2013西、作品賞

○“La gran familia española”ダニエル・サンチェス・アレバロ、2013西、作品賞

○“Caníbal”マヌエル・マルティン・クエンカ、2013西、男優賞

○“La herida”フェルナンド・フランコ、2013西、女優賞

 

○『グロリアの青春』セバスティアン・レリオ、2013チリ=西、作品・監督・脚本・女優4

○『ワコルダ』ルシア・プエンソ、2013アルゼンチン=ス西、作品・監督・脚本・女優4

○『エリ』アマ・エスカランテ 2013メキシコ、作品賞

○『暗殺者と呼ばれた男』アンドレス・バイス、2013コロンビア=アルゼンチン 作品賞

○“No se aceptan devoluciones エウヘニオ・デルベス、2013メキシコ、男優賞(監督が主演)

○“El limpiador”アドリアン・サバ、2012ペルー、男優賞ビクトル・プラダ

○“Tesis sobre un omicidio”エルナン・ゴールドフリード、2013アルゼンチン­=西、男優賞(リカルド・ダリン)

○“La jaura de oro”ディエゴ・ケマダ・ディエス、2013メキシコ、作品女優賞カレン・マルティネス

○“Quién manda?ロニー・カスティーリョ、 2013ドミニカ共和国、女優賞Nashia Bogaert

○“La película de Ana”ダニエル・ディアス・トーレス、2013キューバ、女優賞ラウラ・デ・ラ・ウス

 

★めぼしいところは以上です。作品賞ノミネートは5作品、男優・女優賞は各5名とアナウンスされていましたが、何回数えても作品賞8個、女優賞も6人です()。多分1回ということで絞りきれなかったのでしょう。満遍なく選ばれています。

 

ハビエル・ルイス・カルデラの“3 bodas de más”が落選、インマ・クエスタの熱演は残念でした。

El limpiador”は、サンセバスチャン映画祭2012の新人監督部門で上映された作品。現代のペルー社会を寓話として描いた作品で、こういう映画を拾ってくれたのは個人的に嬉しい。写真は殺人現場や死体を処理する清掃人に扮したビクトル・プラダ。

 


No se aceptan devoluciones”はメキシカン・コメディ、予告編を見るかぎり面白そうです。

Tesis sobre un omicidioスペインからアルベルト・アマンが参加したスリラー。

Quién manda?”、ドミニカ共和国の映画は珍しい。ジャンルはコメディ。

 


La película de Ana”はダニエル・ディアス・トーレスの遺作、昨年9月ハバナで死去(享年64歳)。

なお初登場者の人名は明記しました。

 

★「ルイス・ブニュエル賞」は、イベロアメリカ・プラチナ賞の発展になるよう設けられた。EGEDAFIPCAが選考にあたる。EGEDAの代表者エンリケ・セレソによると、「対象はイベロアメリカ映画から選ばれる。年間700本の映画が製作されているが、優れた質の高い作品なのに、残念ながら世界に広まらず見過ごされてしまっている」のを是正したいようです。

EGEDAEntidad de Gestión de Derechos de los Productores Audiovisuales

FIPCAFederación Iberoamericana de Productores Cinematográficos y Audiovisuales


ホセ・コロナド、ルイス・マリアスの新作”Fuego”出演2014年03月20日 17:17

★ネストルF. デニスのデビュー作Crisisを撮影中と思っていたら、2015年公開予定のFuegoの撮影も開始されるようで、先日ビルバオでルイス・マリアス監督以下出演者一同揃ってのお披露目がありました。(写真:中央が挨拶をするコロナド、真後ろがマリアス監督、左から2人目がアイダのようです)

 

11年前にETAのテロリストに妻を殺害され、娘は両脚切断という悲劇に見舞われた警察官の復讐劇。この警察官カルロスにコロナド、娘アルバにアイダ・ホルチ、テロリストの妻オイアナOhianaにレイレ・ベロカル、その息子アリツァAritzGorka Zufiaurreという布陣です。

 

★脚本も手がけるマリアス監督によると、「テロの暴力で犠牲になった側とテロ行為をした側を交錯させて物語を進行させたい」。テロを受けた側の苦しみと心理的葛藤、テロで解決しようとした側の政治的理由の複雑さ、その両面を描きたいということです。「登場人物はそれぞれ社会観、政治信条、イデオロギーが異なっており、各々の過去とその傷を抱えている。物語のベースはそれに対峙する人々の未来を描きたい」とも語っています。「テロリストに法の裁きを受けさせたい」という主人公カルロスの考えはタテマエでしかない。自分の妻と娘が味わった苦しみを「テロリストの妻と息子にも同じように与えたい」がホンネである。ただの復讐劇ではないようです。

 

★ストーリーは、復讐仕立てのスリラーとして始まるが、だんだん悲しみの感情とパッションの物語に変わっていく。「プロジェクトは最初からよく考慮され合格点だ。ETAのテロを終わらせ平和と共生を目的に設置された事務局(Secretaria de Paz y Convivencia)も、将来の共生に役立つと喜んでくれている。幸いにテロは終息しつつあるように思える」と監督。

 

★コロナドのスピーチ:私たちは小さな宝石を手にしている。この映画は大胆で非情なストーリーだが、幸運なことに今日、語ることができるようになった。感受性を傷つけないようにしたいが、やはり現れてしまうだろう。しかしそれが重要なのだ。・・・私たちはこのプロジェクトを完成させたいと願っており、絶対できると信じている。多分上手くいくでしょうし、数ヵ月後にはその成果をお見せできると期待しています。

 

★ビルバオ観光局の市議会議員によると、Fuegoの撮影が順調に運ぶようバスクのプロフェッショナルな技術者&アーティストの提供を明確にしており、バスク自治州も本腰を入れての協力体制を組んだようです。来年のサンセバスチャン映画祭が楽しみです。

 

ルイス・マリアス Luis Marias Amando:脚本家・監督・俳優・プロデューサー。脚本家として出発、映画&テレビの脚本多数。なかでホセ・アンヘル・マニャスの同名小説を映画化したサルバドール・ガルシア・ルイスのMensaka1998)の脚色が評価された。監督デビュー作はX2002)とかなり前の作品、Fuegoが第2作になります。TVミニシリーズGernika bajo las bombas2エピソード2012)は、その年のサンセバスチャン映画祭で上映されました。1937426日のゲルニカ爆弾投下をテーマにしたドラマ。(写真下:TVミニシリーズ「ゲルニカ」の出演者、中央がマリアス監督)

 


1Xにはエンリケ・ウルビスの『貸し金庫507』(2002「バスク映画祭2003」で上映)でコロナドと共演したアントニオ・レシネスが主役を演じています。そんな繋がりで出演したのかもしれない。ウルビスは昨年『悪人に平穏なし』で登場、日本でも認知度の高い監督になりました。
(写真:『貸し金庫507』(La caja 507)のジャケ写、手前がレシネス、後方がコロナド)

 


ホセ・コロナド José Coronado は、1957年マドリード生れ。つまりフランコ時代の教育を受けて育ったマドリッ子ということです。父親がエンジニアで比較的裕福な家庭環境で育った。大学では最初法学を4年間学んだが卒業できず、次に医学を志すもこれまた2年で挫折した。本人によれば大学を諦めて旅行会社、レストラン、モデル、トランプのギャンブラーなどを転々、要するにプータローをしていたのでしょう。フランコ没後(1975)から約5年間の民主主義移行期というのは何でもアリの混乱期でもあったわけです。

 


賭博師と聞いてエンリケ・ウルビスのLa vida mancha2003)を思い浮かべた人は相当なコロナド・ファンです。半分は地で演っていたのね。映画の世界に入ったきっかけは、「ウィスキーのテレビ・コマーシャルのモデルに誘われ、マジョルカで撮影すると言うし、出演料が破格だったので引き受けた」そうです()。その後30歳になる直前に演技の勉強を始め、キム・デンサラットの第1作“Waka-Waka”(1987)で映画デビューを果たしました。今回どんな映画か検索したら、なんとナント『スパニッシュ・コネクション』という邦題でビデオが発売されているのでした(1989)。それもこれ1作しか撮っていない監督なのでした。

 

ゴヤ賞主演男優賞受賞の『悪人に平穏なし』、『ラスト・デイズ』、『ロスト・ボディ』**など、昨年は3作も公開されました。今回は助監督も務める由、既に50歳も半ばを過ぎて貫禄充分、新作に期待したい。

アレックス&ダビ・パストール兄弟の『ラスト・デイズ』は、「ガウディ賞ノミネーション発表」(2014・1・9)でご紹介済み、**オリオル・パウロの『ロスト・ボディ』は「シッチェス映画祭*ファンタスティック・セレクション2013」で上映されました。これは『悪人に平穏なし』も受賞した「銀のフィルム賞」受賞作品です。

エンリケ・ウルビス『貸し金庫507』2014年03月25日 13:53

          エンリケ・ウルビスの原点、『貸し金庫507』

★これは、以前カビナCabinaさんがUPした『貸し金庫507』(2011611)にコメントしたものを、新データを加えて再構成した改訂版です。2002年と一昔前の映画ですが、ゴヤ賞、トゥリア賞などで高い評価を受け、「バスク映画祭2003」(6月)で上映された作品です(未公開)。現在では、エンリケ・ウルビスと言えば『悪人に平穏なし』、ホセ・コロナドと言えば『悪人に平穏なし』ですが、『貸し金庫507』こそ二人の原点だと思います。コロナドが親友 ルイス・マリアスの新作Fuegos に出演というニュースに接して急遽アップいたします。

 


La caja 507Box 507

製作:フェルナンド・ボバイラ、グスタボ・フェラーダ他

監督・脚本:エンリケ・ウルビス

脚本:ミシェル・ガスタンビデ(共同執筆)

撮影:カルレス・グシ

音楽:マリオ・デ・ベニト

データ:スペイン・スペイン語 2002 スリラー・アクション 

ロケ地:アルヘシラス、カディス 製作費:約300万ユーロ

受賞歴:ゴヤ賞2003編集賞(アンヘル・エルナンデス、ソイドZoido)、プロダクション賞(フェルナンド・ビクトリア・デ・レセア)、サン・ジョルディ賞03作品賞(エンリケ・ウルビス)、トゥリア賞03スペシャル賞(E.ウルビス)、ベスト男優賞(ホセ・コロナド)。コニャック推理映画フェスティバル03(フランス)観客賞・批評家賞他(エンリケ・ウルビス)など。

 

キャスト:アントニオ・レシネス(バンコソル支店長モデスト・パルド)、ミリアム・モンティリャ(妻アンヘラ)、ダフネ・フェルナンデス(娘マリア)、ホセ・コロナド(元警察署長ラファエル・マサス)、ゴヤ・トレド(ラファエルの愛人モニカ・ベガ)、ルチアノ・フェデリコ(イタリア・マフィアのマルセロ)、サンチョ・グラシア(消防署長サントス・ギフエロ)、イスマエル・マルティネス(「エウロパ・スル」紙記者ハビエル・ランダ)、エクトル・コロメ(同紙編集長)、エンリケ・マルティネス(チンピラのピチン・リベラ)、パコ・カンブレス(前市長・土地開発会社社長ヘラルド・デ・ラ・オス)他多数

 

プロット:バンコソルの支店長モデストは、強盗団に押し入られ銀行の貸し金庫室に閉じ込められてしまう。そこで7年前、キャンプ地で焼け死んだ娘マリアの関係書類を偶然発見する。火災による事故と片づけられた死が、実は何者かによって殺害されたことを知ったモデストは、娘の死の真相に迫る火事の原因追及に着手する。一方、貸し金庫507に書類を預けていた「男」も、命を賭けて消えた書類の行方を追っていた。モデストと妻アンヘラは、裏で糸を引く大物マフィアが絡んだ汚職事件に次第に巻き込まれていく。

 

エンリケ・ウルビス Enrique Urbizu Jáuregui1962年ビルバオ生れ。監督、脚本家。バスク大学情報科学(広告分野)の学士号を取得している。200612月、スペイン映画アカデミー副会長に就任(会長はアンヘレス・ゴンサレス­≂シンデ)。現在、マドリードのカルロスⅢ世大学にてジャーナリズムとオーディオビジュアル情報学部教官。

 


父親は商業科教授と映画とは別世界の人、遺伝性の病気をもっていて健康状態が良くなかった。母親、姉2人、母方の祖母と三世代の女系家族。大きくなるまで同室だった祖母ライムンダ・パウラに可愛がられた、「三文安でない」おばあちゃんっ子。フランコ時代ながら唯一人の男子として寵愛をうけて育った。La Salle高校に入学、ここで8ミリで映画を撮る映画仲間に出会う。その一人がルイス・マリアスである(ホセ・コロナド主演で長編第2Fuegoをアナウンスした監督)。15歳ごろから短編を撮りはじめた早熟な少年は大変な読書家でコミック少年でもあったが、彼の核を培ったのは子供時代に読んだファンタジーであったと語っている。ロバート・L・スティーヴンソンの『ジキルとハイド』、ダシール・ハメットの犯罪小説『マルタの鷹』などを愛読した。

反戦主義の家庭だったせいか、フランコの死をBBCインターナショナルのニュースで知ると、「やれやれ、終わった」と家族は思ったそうです。独裁者がいなくなったことで政治活動を止めることもできたし、映画が「フランコ神話」信仰から自分を救ってくれたとも語っています。

 

代表作品の紹介

1987Tu novia está loca”コメディ、脚本ルイス・マリアス

1991Todo por la pasta”スリラー、脚本ルイス・マリアス

1994Cómo ser infeliz y disfrutarlo コメディ、脚本ホセ・ルイス・ガルシア・サンチェス

1995Cachito スリラー仕立てのロードムービー、ペレス・レベルテの同名小説の映画化

1995Cuernos de mujer”コメディ、脚本マヌエル・グティエレス・アラゴン

2002La caja 507”省略

2003La vida mancha”スリラー、ホセ・コロナド主演、脚本Michel Gaztambide

2011No habrá paz para los malvados”スリラー、『悪人に平穏なし』2013公開、ホセ・コロナド主演

 

Cómo ser infeliz y disfrutarloCuernos de mujer2作は、カルメン・リコ=ゴドイの数冊の本を題材にしている。またロマン・ポランスキーがペレス・レベルテの『呪いのデュマ倶楽部』を映画化した『ナインスゲート』(1999、仏西米)を共同で脚色している。第3作目より大物製作者アンドレス・ビセンテ・ゴメスの援助を受けられるようになったことが大きい。La vida manchaはヘラルド・エレーロがプロデュースと確実に幅を広げている。

 

                   ウルビスのデビュー作はコメディ

 

A ウルビスを含めてバスクの同世代の監督たち、フリオ・メデムやアレックス・デ・ラ・イグレシア、フアンマ・バホ・ウリョアに比べて出遅れ感がありましたから、ミニ映画祭とはいえ『貸し金庫507』がバスク映画祭で上映されたことはラッキーでした。

B 時代を反映した土地投機と警察汚職が絡んだ本格派スリラー物ですが、キャリアを見るとコメディでデビューしたんですね。

 

A ウルビスはコメディとスリラーの二つの路線を撮っており、25歳で撮ったデビュー作Tu novia está loca(仮題「君のカノジョはクレージー」)は、ヨーロッパ風のコメディとはちょっと毛色の違ったドタバタ、1930年代後半のハリウッド喜劇がベースにあります。例えば、ジョージ・キューカーの『フィラデルフィア物語』(1940)、ハワード・ホークスの赤ちゃん教育』(1938)など。ケーリー・グラントとキャサリン・ヘップバーンのコンビで大いに笑わせてくれた女性上位が巻き起こすスクリューボール・コメディ。1980年代にバスクで製作された映画35本のうちコメディはこれ1本しかない。それがコメディにした理由の一つだそうです。スペイン文化省の資金援助があった。

 

B バスク自治州からの援助ではなかった。ユーモアに乏しいのが特徴みたいなバスク映画のなかで、ここでは観客がよく笑う。笑わせてやろうと意気込んでいるところもありますが白けさせない。

A クラシック映画の遺産をきちんと受け継ぎ、その時代性をうまく調和させているからです。キャストの面々、アントニオ・レシネス、アナ・グラシア、サンティアゴ・ラモス、長編デビューのマリア・バランコにマリサ・パレデスにはびっくりするでしょう。

 

B 次がスリラーのTodo por la pastaです。

A ここの‘pasta’は「お金」のことで、大金強奪の実行犯はチンピラだが、裏で糸を引く真犯人は悪徳警察官という構図、警察汚職という今日的テーマは『貸し金庫507』にも流れ込んでいます。

 

B 『貸し金庫507』も同じですが、顔が覚えられないうちに登場人物がバタバタ消えてしまう()。両作に出演しているのがアントニオ・レシネスCómo ser infeliz y disfrutarloにもカルメン・マウラと共演している。

A しぶとく優しく、カメレオン俳優とはこの人のためにできた言葉。第1作目につづいてヒロインを演じたのが危ういお色気とアタマの切れを兼ね備えたマリア・バランコ、ここでの成功がアルモドバルの目にとまって『神経衰弱ぎりぎりの女たち』(1988)出演に繋がった。当時、バスク映画界のボス的存在、『時間切れの愛』(1994)でブレイクしたイマノル・ウリベの奥さんだった(19822004)。そしてこの2作の脚本を手掛けたのが昔からの仲間ルイス・マリアス、第1作には俳優として出演もしてくれた。

 

B 本作に移ると、元警察署長ラファエル役のホセ・コロナドが初めてウルビス作品に登場した。モデストとラファエルがいつ対決するのか固唾をのんで待ちますが、最後まで直接には接触しない。脚本がよくできている。

A モデストという男性名は、謙虚、慎み深い聖モデストから付けられた。ホームドラマ風の出だしと終り方なのに先が読めない。鮮やかなプロット展開に感心しました。各紙がこぞって、「高レベルのスリラー、優れたプロット、ここ数年スペインでは見られなかったスリラー」と絶賛した。結果はゴヤ賞を含めて前述のとおりです。


B モデストの妻に瀕死の重傷を負わせ、彼を金庫室に閉じ込めた実行犯逮捕が映画の主題でないというのも異色なら、二人の男の目的がそれぞれ別というのも面白い。

A スペインのスリラーとしては異色ずくめです。一口に群集劇といってもこれほど多数の人物を泳がせるのは大変、これだけ盛大に人が死ぬのでは観客だって目が離せない。意識不明になった奥さんはどうなるのか、幸せに見放されたようなラファエルのアル中の愛人はどうなるのか、とそっちも気になるし。

B アクションはハリウッド的ですが、プロットは違う。コミック少年だったというのも時代を感じさせます。

A 大変な読書家、ロバート・スティーヴンソン、レイモンド・チャンドラー、ダシール・ハメットと英米の古典的ハードボイルドの作品が愛読書だそうです。日本でも翻訳書が出ているジム・トンプスンやチェスター・ハイムズのようなアメリカの推理小説もかなり若いときから読んでいる。トンプスンのThe criminal(1953)の映画化が夢だったらしく、後に具体化の話もあったが製作側との調整がつかず頓挫してしまった。

 

B トンプスンは生前認められなかった作家だが、「10年後には有名になる」と遺言して亡くなった。ハイムズはアフロ系アメリカ人、強盗罪で≪塀の中≫の経験者という変り者()1953年よりフランスやスペインで晩年を送った。

A 古典的手法と現代をうまく噛みあわせて映画を作っている。現実に軸足をおいて脚本作りをするので、新聞の切り抜きは欠かせない作業だと語っています。当時土地開発をめぐる汚職事件や放火による森林火災が珍しくなかった。要するにスペインにはこんな≪ロクデナシ≫というかウジ虫が、地域を特定するまでもなくごまんといたということです。

 

B: 製作者のフェルナンド・ボバイラは、『マルティナの住む街』などダニエル・サンチェス・アレバロの映画を製作しています。

A: アメナバルの『アザーズ』『オープン・ユア・アイズ』『海を飛ぶ夢』、『アレキサンドリア』もそうですし、ウリベの『キャロルの初恋』、ホセ・ルイス・クエルダの『蝶の舌』、アレックス・デ・ラ・イグレシアの『ペルディータ・ドゥランゴ』、フリオ・メデムの『アナとオットー』『ルシアとSEX』、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの『ビューティフル』などなど、公開作品の数では一番多いかもしれない(製作年省略)。

 

B レシネスとコロナドの演技を褒める人は多いと思うが、撮影監督カルレス・グシもよかった。

A 彼ははウルビスの第1作と2作、第3La vida mancha、ほかにフリオ・メデムの『バカス』(1992)、デ・ラ・イグレシア『ハイル・ミュタンテ!電撃XX作戦』(1992)、イシアル・ボリャイン『テイク・マイ・アイズ』(2003)、ダニエル・モンソンの『プリズン211(2009)も撮っている実力派。

 

B 脚本の共同執筆者ミシェル・ガスタンビデはどういう人ですか。

A 1958年プロヴァンス地方のヴォークリューズ生れ。詩人、映画脚本家、脚本の教師、監督と多才。先ほどのメデムの『バカス』に共同執筆、未公開ですがNHKBS2で放映された。

B La vida mancha、『悪人に平穏なし』もそうです。

 

A 最初から脚本家を目指していたわけではないらしく、脚本家は画家や作家のような芸術家だとは思っていないと語っています。フェリーニの脚本を買ってきて勉強したとも。共同執筆のやり方は相手によるが、例えばメデムやウルビスの時は交替で休みをとりながら書きすすめた。やはり『バカス』や『貸し金庫507』はコマーシャル・ベースに乗った成功作だから印象深いと語っています。

 

       話題をよんだコロナドの髪型

 

B コロナドの髪型はかなり話題になった。

A アルゼンチン代表にもなったサッカー選手エクトル・ラウル・クペルに体形までそっくり。選手としては「ウラカン」が最後のチーム、現役引退後は「マジョルカ」の監督になったからスペイン人にはお馴染み。コロナドは角刈りにするため一旦丸坊主になって生えてくるのを待って調髪した。公開したときには、クペル監督はイタリアのセリエA「インテル」に移ってしまっていた。

 

  
 (写真は聖モデストのレシネスと角刈りのコロナド)

B 次回作で主役を演じたLa vida manchaも角刈りなのは、本人も気に入っていたということか。またロケ地が南アンダルシアのアルヘシラスやカディスということですが、どこの都市と分からないようにしている。

A 当時、実際に起きていた地方政治家を巻き込んだ土地投機と警察の癒着が背景にあるので、わざと分からないようにしたということです。舞台をアンダルシア南部のコスタ・デル・ソルとしただけにとどめた。パコ・カンブレスが扮したヘラルド・デ・ラ・オス前市長は、マルベリャ市長ヘスス・ヒルがモデルとも噂された。

 

B ロゴマークを変えてるが「バンコソル」は、実在の銀行とか。登場人物が多すぎて名前と役柄が一致しません。

A 主要な登場人物さえ押さえれば楽しめます。サントス・ギフエロ消防署長のサンチョ・グラシアは、デ・ラ・イグレシアの『800発の銃弾』にウエスタン・ショーの座長役で出ていたベテラン、他に同監督『みんなのしあわせ』(2000)や『ベビー・ルーム』(2006)、『気狂いピエロの決闘』(2010)、カルロス・カレラの『アマロ神父の罪』(2003)にも顔をだしていましたが、2012年肺癌で亡くなりました。

 

B 娼館のチンピラ役ピチン・リベラを演じたエンリケ・マルティネスも『800発の銃弾』に出演、「ショーで馬に引きずられる危険な役だったのでスタントマンがやり、自分は見ていただけ」ととぼけている。

A モデストの娘マリアに扮したダフネ・フェルナンデス1985年マドリード生れ。サウラの『パハリーコ-小鳥-』(1997、スペイン映画祭‘98上映)、『ゴヤ』(1999DVD)に出演しています。テレビやモデルとしても活躍。モニカ役のゴヤ・トレドは『ヌード狂時代/S指定』(2008、ラテンビート2009上映)やゴンサレス・イニャリトゥの『アモーレス・ぺロス』(2000)第2部の売れっ子モデルを演じていた女優。

 

 

写真は妻アンヘラを見舞うモデスト)

B  モデストの妻役ミリアム・モンティリャは、ずいぶん痛い目にあいました。

A  主にテレビ・ドラマで活躍、本作で映画デビュー、他にガルシア・ケレヘタのHéctor2004)に脇役で出演しています。活躍の場はもっぱらテレドラです。以下は蛇足ですが、Héctorは監督や主演のアドリアナ・オソレスがシネマ・ライターズ・サークル賞、マラガ映画祭では、監督が金のジャスミン賞、オソレスが銀賞を賞受した話題作でした。

 

バスク フィルム フェスティバル2003(正式名)

  (開催2003年65日~8日、旧称ヴァージンシネマズ六本木ヒルズにて)

○『貸し金庫507』エンリケ・ウルビス、1962年ビルバオ生れ。

○『800ビュレット』アレックス・デ・ラ・イグレシア、1965年ビルバオ生れ。本映画祭に来日(『マカロニ・ウエスタン800発の銃弾』として2005年公開)

○『ルシアとSEX』フリオ・メデム、1958年サンセバスチャン生れ。(同タイトルで2004DVD)

○『月曜日にひなたぼっこ』フェルナンド・レオン、1968年マドリード生れ。

○『トレモリノス73』パブロ・ベルヘル、1963年ビルバオ生れ。

  (第2作『ブランカニエベス』が2013年公開)

○『殺人依存症主婦』ハビエル・レボーリョ、1960年ビルバオ生れ。

○『エクスタシー』特別上映(Arrebato1979)、イバン・スエルタ、1943年生れ(2009年没)

○『ブルガリアの愛人』(Los novios búlgaros2003)、エロイ・デ・ラ・イグレシア、1944年ギプスコア生れ(2006年没)

 

★他に短編映画が上映されました。イバン・スエルタとエロイ・デ・ラ・イグレシアは鬼籍入りしています。『エクスタシー』をご覧になった方は本当にラッキーでした。またエロイ・デ・ラ・イグレシアはドラッグ依存症をやっと克服して復帰できたのに癌に倒れてしまい、この『ブルガリアの愛人』が遺作になってしまいました。フェルナンド・レオンはバスク生れではありませんが、母親がバスク出身、父親がソリアの人ということで仲間入りしたようです。バスク映画界を牽引しているイマノル・ウリベ、若手のフアンマ・バホ・ウリョアが洩れていますが、主だった監督たちを網羅しています。

 

★デ・ラ・イグレシアを筆頭に最近の彼らの活躍を知るにつけ、この映画祭がどんなに画期的だったかが分かります。彼の最新作“Las brujas de Zugarramurdi”2013)と前作“La chispa de la vida”2011)の201411月公開が決定したようです。

エミリオ・マルティネス=ラサロのコメディが大ヒット2014年03月27日 15:26

★ルイス・マリアスの新作FuegoのクランクインをUPしましたが、スペインではエミリオ・マルティネス=ラサロの新作Ocho apellidos vascos2014)が314日に320館で封切りされるや長蛇の列、第1週で観客動員数40万人を超え、興行成績も272万ユーロ、10日間統計では890万ユーロと破竹の勢いです。これを凌駕するのはバヨナの『インポッシブル』だけという快挙。こちらを追い抜くのは至難の業、なにしろ第1週目135万人、第11週目580万人、消費税増税前の計算でも売上高4050万ユーロでしたから。ハリウッド映画を含めても『アバター』が超えるだけです。

 


Fuegoと違って、同じバスコ物でもこちらはロマンチックなコメディ。長引く不況と失業に国民はウンザリ、「政治的メッセージが強いテーマに飽きてしまった」とマルティネス=ラサロ監督。そんな社会現象にぴったり合ったのかもしれない。コメディ監督と言われておりますが、“La voz de su amo”(2001)のテーマはETAを扱っており、2007年のLas 13 rosasはスペイン内戦後にフランコ政権によって銃殺された13人の若い女性の物語です。前にスペイン・イタリア映画300本をハイビジョン化して販売するニュースをUP致しましたが、これは3月発売の中に含まれています。

 

エミリオ・マルティネス=ラサロは、1945年マドリード生れ、監督・脚本家・俳優・製作者。第28回ベルリン映画祭1978Las palabras de Max(同年)が金熊賞を受賞しています。この年のベルリン映画祭はスペイン特集、本映画祭に貢献したスペイン映画3本に与えられました。長編第2作目で国際デビューという幸運を手にしました。

 


★日本では、彼の作品は多分未公開だと思いますが、日本スペイン協会創立
40周年記念「スペイン映画祭1997」で、コメディLos peores años de nuestra vida1994)が『わが生涯最悪の年』の邦題で上映された他、10年後の同50周年記念でLos 2 lados de la cama2005)が『ベッドサイド物語』として上映されました。これは大当たりをとったEl otro lado de la cama2002)の続編みたいな映画です。この作品の成功でコメディ作家として位置づけられたんだと思います。(写真はマルティネス=ラサロ監督)

 

どんなお話かというと、セビリャっ子のラファ(ダニ・ロビラ)は、生れてこのかたアンダルシアを出たことがない。しかしセビリャで出会ったバスク娘アマイア(クララ・ラゴ)にぞっこん、周囲の反対を押し切ってバスク愛国主義者の中心地に向けて出発する。ラファにはカセレス出身の中年女性メルチェ(カルメン・マチ)という知人がいた。かつてメルチェはバスク男に惚れこんで後を追いアチラで暮らしている。今は連れ合いを亡くして一人身、ラファの頼りになるだろう。漁師をしているアマイアの父親コルド(カラ・エレハルデ)は人間嫌いで、この土地のすべてが気に入らない。果たしてコルドはアンダルシアからやって来た娘のボーイフレンドを受け入れられるだろうか。(写真はクララ・ラゴとカラ・エレハルデ)

 


★それぞれ独特の文化をもつアンダルシアとバスク、そのあまりにも大きな相違、いわゆるカルチャー・ショックを描いている。南スペインの視点で北スペインを眺めるとどう映るか、またその逆もあり。異なる文化を互いに理解することの困難さ、例えば「バスク祖国と自由ETA」のテロの正当さ、シエスタなんぞして働かないアンダルシア人(北が南を食べさせている)、歴然とある北と南の経済格差はスペイン国内の南北問題でもある。描き方がいささかステレオタイプ的であっても、観客は自分にも当てはまるから切ないですね。こういう誤解は何もスペインに限ったことではなく万国共通の問題でしょう。

 

ダニ・ロビラは、1980年マラガ生れ。コメディアン・俳優。グラナダ大学の身体スポーツ科学卒業、2008年デビュー、独り芝居の役者としてテレビで活躍、本作で映画デビューした。クララ・ラゴは第1回ラテンビート2004で上映されたイマノル・ウリベの『キャロルの初恋』で来日している。他にオスカル・サントス『命の相続人』、ダニエル・サンチェス・アレバロ『マルティナの住む街』、アンドレス・バイス『ヒドゥン・フェイス』など、結構紹介されている。カルメン・マチも第7回ラテンビート上映の『ペーパー・バード』でエミリオ・アラゴンと来日している。ゴヤ賞授賞式の総合司会をするほどの実力者、人気TVドラマシリーズAidaのヒロインとしてスペインでは知らない人がいないくらい有名。最後がカラ・エレハルデ、フリオ・メデムの『赤いリス』、デ・ラ・イグレシア『ハイルミュタンテ!電撃XX作戦』、ウリベ『時間切れの愛』、ジャウマ・バラゲロ『ネイムレス』、イシアル・ボジャイン『雨さえも~ボリビアの熱い一日』の劇中劇でコロンブスを演じ、ゴヤ賞2011助演男優賞を受賞した。

(写真はダニ・ロビラ)

 


★キャスト陣は申し分ありません。公開を期待したいところですが映画祭上映でもいい。そんなに面白い映画なら公開できるかと言えばそう簡単にはいかない。IMDbの言語はスペイン語だけになっていますが、バスク語も混じっているのではないかと思う。まだスペインで封切られたばかりで英題もアップされておりません。

 


★脚本を執筆したのが写真のお二人、ボルハ・コベアガ(右)とディエゴ・サン・ホセです(スペイン封切り2日前、312日マドリードにて)。コベアガは1977年サンセバスチャン生れ、監督・脚本家、2009年のPagafantasでゴヤ新人監督賞とオリジナル脚本賞にノミネートされた。この脚本の共同執筆者がサン・ホセ、二人はマラガ映画祭で銀のジャスミン賞を揃って受賞した。サン・ホセは1978年ギプスコア県イルン生れ、脚本家・俳優。