第35回ゴヤ賞ノミネーション発表*ゴヤ賞2021 ⑤ ― 2021年01月21日 10:24
予定通り28部門のノミネーション発表がありました

★去る1月18日、第35回ゴヤ賞2021ノミネーション発表がスペイン映画アカデミー本部でありました。マリアノ・バロッソ会長の挨拶に続いて、司会のアナ・ベレンとダニ・ロビラが登場、カテゴリー28部門を代わるがわる淡々と候補者を読み上げ、拍手は最後だけという静かなものでした。全員マスクは勿論のこと、机上に置いてある消毒液で手を消毒してから読み上げていました。

(左から、スペイン映画アカデミー書記長フェデリコ・ガラヤルデ・ニーニョ、
ダニ・ロビラ、アナ・ベレン、スペイン映画アカデミー会長マリアノ・バロッソ)
★多くの予想を覆したのが、作品賞以下13回も読み上げられたサルバドール・カルボの「Adú」でした。フォルケ賞はノミネーションに終わり、フェロス賞(2月8日発表)にいたってはノミネートさえありません。しかし公開されたことやNetflixで配信されていることなどが有利に働いたのかもしれません(日本語字幕はなく、スペイン語や英語などで鑑賞できます)。昨年の興行成績が桁外れのナンバーワンだったサンチャゴ・セグラの「Padre no hay más que uno 2」は、ついに最後まで一度も読み上げられることはありませんでした。長編アニメーションのノミネートは1作だけなので、ガラを待たずに受賞が決定、今までになかったのではないか。
★司会者のダニ・ロビラは、難しい癌を克服して初めて公衆の前に姿を現しました。元気そうでしたが不安を抱えての再出発ではないでしょうか。アナ・ベレンは抑制力のある声でしたが、いつもの笑顔は最後だけでした。ノミネーションの数については初出に挿入しています。本番のガラ会場はメインがマラガ、サブがバレンシアで、総合司会者はアントニオ・バンデラスとマリア・カサド、3月6日開催の予定、現在のコロナ時代ではあくまで予定です。

*第35回ゴヤ賞2021ノミネーション*
◎作品賞(5作ノミネーション)
Adú (ノミネーション13個) *

Ane (ノミネーション5個) *

La boda de Rosa (ノミネーション8個) *

Las niñas (ノミネーション9個) *

Sentimental (ノミネーション5個) *

◎監督賞
サルバドール・カルボ (Adú)
フアンマ・バホ・ウジョア (Baby) 2個 *

イシアル・ボリャイン (La boda de Rosa)
イサベル・コイシェ (Nieva en Benidorm) 2個 *

◎新人監督賞
ダビ・ペレス・サニュド (Adú)
ベルナベ・リコ (El inconveniente) 3個

ピラール・パロメロ (Las niñas)
ヌリア・ヒメネス(My Mexican Bretzel)『メキシカン・プレッツェル』なら国際FF、2個 *

◎オリジナル脚本賞
アレハンドロ・エルナンデス (Adú)
クラロ・ガルシア&ハビエル・フェセル(Historias lamentables)監督ハビエル・フェセル、3個

アリシア・ルナ&イシアル・ボリャイン (La boda de Rosa)
ピラール・パロメロ (Las niñas)
◎脚色賞
ダビ・ペレス・サニュド&マリナ・パレス (Ane)
ベルナルド・サンチェス&マルタ・リベルタ・カスティーリョ (Los europeos)
監督ビクトル・ガルシア・レオン 3個

ダビ・ガラン・ガリンド&フェルナンド・ナバロ(Origenes secretos)
監督ダビ・ガラン・ガリンド、『秘密の起源』Netflix 3個

セスク・ゲイ (Sentimental)
◎オリジナル作曲賞
ロケ・バニョス (Adú)
アランサス・カジェハ&マイテ・アロイタハウレギ(Akelarre)監督パブロ・アグエロ、9個 *

Bingen Mendizabal &コルド・ウリアルテ (Baby)
フェデリコ・フシド (El verano que vivimos) 監督カリオス・セデス、 3個

◎オリジナル歌曲賞
ロケ・バニョス& Cherif Badua (Adú)
アレハンドロ・サンス&アルフォンソ・ぺレス・アリアス (El verano que vivimos)
マリア・ロサレン (La boda de Rosa)
カルロス・ナヤ (Las niñas)
◎主演男優賞
マリオ・カサス (No matarás) 監督ダビ・ビクトリ、3個 *

ハビエル・カマラ (Sentimental)
エルネスト・アルテリオ (Un mundo noemal) 監督アチェロ・マニャス、1個 *

ダビ・ベルダゲル (Uno para todos) 監督ダビ・イルンダイン、1個 *

◎主演女優賞
アマイア・アベラスツリ (Akelarre)
パトリシア・ロペス・アルナイス (Ane)
キティ・マンベール (El inconveniente)
カンデラ・ペーニャ (La boda de Rosa)
◎助演男優賞
アルバロ・セルバンテス (Adú)
セルジ・ロペス (La boda de Rosa)
フアン・ディエゴ・ボトー (Los europeos)
アルベルト・サン・フアン (Sentimental)
◎助演女優賞
フアナ・アコスタ (El inconveniente)
ベロニカ・エチェギ (Explota explota) 監督ナチョ・アルバレス、 3個

ナタリエ・ポサ (La boda de Rosa)
ナタリア・デ・モリーナ (Las niñas)
◎新人男優賞
アダム・ヌルー (Adú)
チェマ・デル・バルコ (El plan) 監督ポロ・メナルゲス、2個 *

マティアス・ジャニックJanick (Historias lamentables)
フェルナンド・バルディビエルソ (No matarás)
◎新人女優賞
ホネ・ラスピウル (Ane)
パウラ・ウセロ (La boda de Rosa)
ミレナ・スミス (No matarás)
グリセルダ・シチリアニ (Sentimental)
◎ドキュメンタリー賞
Anatomía de un dandy (監督アルベルト・オルテガ&チャーリー・アルナイス) 1個

Cartas mojadas (監督パウラ・パラシオス) 1個

El año del descubrimiento (監督ルイス・ロペス・カラスコ) 2個

My Mexican Bretzel
◎プロダクション賞
アナ・パラ&ルイス・フェルナンデス・ラゴ (Adú)
グアダルーペ・バラゲル・トレリェスTrellez (Akelarre)
カルメン・マルティネス・ムニョス (Black Beach) 監督エステバン・クレスポ、6個 *

トニ・ノベリャ (Nieva en Benidorm)
◎撮影賞
セルジ・ビラノバ (Adú)
ハビエル・アギーレ (Akelarre)
アンヘル・アモロス (Black Beach)
ダニエラ・カヒアス (Las niñas)
◎編集賞
ハイメ・コリス (Adú)
フェルナンド・フランコ&ミゲル・ドブラド (Black Beach)
セルジ・ヒメネス (El año del descubrimiento)
ソフィ・エスクデ (Las niñas)
◎美術賞
セサル・マカロン(Adú)
ミケル・セラーノ (Akelarre)
モンセ・サンス (Black Beach)
モニカ・ベルヌイ (Las niñas)
◎衣装デザイン賞
ネレア・トリホスTorrijos (Akelarre)
クリスティナ・ロドリゲス (Explota explota)
アランチャ・エスケロ (Las niñas)
レナ・モッスム/モスンMossum (Los europeos)
◎メイク&ヘアー賞
エレナ・クエバス、マラ・コリャソ、セルヒオ・ロペス (Adú)
Beata Wotjowicz、リカルド・モリーナ (Akelarre)
ミル・カブレル、ベンハミン・ぺレス (Explota explota)
パウラ・クルス、ヘスス・ゲーラ、ナチョ・ディアス (Origenes secretos)
◎録音賞
エドゥアルド・エスキデ、ハマイカ・ルイス・ガルシア、他 (Adú)
ウルコ・ガライ、ホセフィナ・ロドリゲス、他 (Akelarre)
コケ・ラエラ、ナチョ・ロヨ=ビリャノバ、他 (Black Beach)
マル・ゴンサレス、フランセスコ・ルカレリィ、他 (El plan)
◎特殊効果賞
マリアノ・ガルシア・マルティ、アナ・ルビオ (Akelarre)
ラウル・ロマニリョス、ジャン=ルイ・ビリヤード (Black Beach)
ラウル・ロマニリョス、ミリアム・ピケル (Historias lamentables)
リュイス・リベラ・ホベ、ヘルムス・バーナートHelmuth Barnert (Origenes secretos)
◎アニメーション賞(異例の1作のみ)
La gallinas Túruleca (監督ビクトル・モニゴテ、Brown Films / Groriamundi Producciones他) *

◎イベロアメリカ映画賞
El agente topo(チリ)『老人スパイ』 監督マイテ・アルベルディ *

El olvido que seremos (コロンビア) 監督フェルナンド・トゥルエバ *

La llorona (グアテマラ)『ラ・ヨローナ伝説』 監督ハイロ・ブスタマンテ *

Ya no estoy aquí (メキシコ)2019、監督フェルナンド・フリアス・デ・ラ・パラ
『そして俺は、ここにいない』「I'm no longer here」で Netflix 配信 *

◎ヨーロッパ映画賞
Corpus Christi (原題「Boze Cialo」ポーランド) 監督ヤン・コマサ

El oficial y el espia (原題「J'accuse」フランス=イタリア) 監督ロマン・ポランスキー

El padre (The Father)(イギリス=フランス) 監督フローリアン・ゼレール

Falling (カナダ=イギリス) 監督ヴィゴ・モーテンセン *

◎短編映画賞
16 de decembro 監督アルバロ・ガゴ
A la cara 監督ハビエル・マルコ・リコ
Beef 監督イングリデ・サントス
Gastos incluidos 監督ハビエル・マシぺ
Lo efímero 監督ホルヘ・ムリ得る
◎短編ドキュメンタリー賞
Biografía del cadáver de una mujer 監督マベル・ロサノ
Paraíso en llamas 監督ホセ・アントニオ・エルゲタ
Paraíso 監督マテオ・カベサ
Sólo son peces 監督アナ・セルナ&パウラ・オラツ
◎短編アニメーション賞
Blue & Malone: Casos imposibles 監督アブラハム・ロペス・ゲレーロ
Homeless Home 監督アルベルト・バスケス
Metamorphosis 監督かリア・ペレイラ&フアンフラン・ハシント
Vuela 監督カリオス・ゴメス=ミラ・サグラド
(以上28部門、*は当ブログ紹介作品)
★ノミネーションの多寡では予想できないのが映画賞、例年なら2作品ぐらいに絞れるのですが、今回の作品賞は全く分かりません。投票権のある会員に若いシネアストが増えたこともあって予想が難しい。なかで主演女優賞はフォルケ賞を受賞した「Ane」のパトリシア・ロペス・アルナイス、または「La boda de Rosa」のカンデラ・ペーニャ、主演男優賞は同じく「Sentimental」のハビエル・カマラ、または「No matarás」のマリオ・カサスのどちらかを予想しています。長編ドキュメンタリーは、ルイス・ロペス・カラスコの「El año del descubrimiento」か、ヌリア・ヒメネスの「My Mexican Bretzel」のどちらか、後者はなら国際映画祭2020で『メキシカン・プレッツェル』の邦題で上映されました。
★サンチャゴ・セグラの新作コメディが無視されたほかに、グラシア・ケレヘタのコメディ「Invisibles」がノミネートされなかったことを意外に思う人がいたようです。主演のエンマ・スアレスとナタリエ・ポサはケレヘタとは初タッグ、もう一人のアドリアナ・オソレスという豪華キャスト、恋に見放され、美貌の衰えに不安を抱く3人の熟女がセリフの面白さで勝負している。他にペドロ・カサブランクやブランカ・ポルティールオもカメオ出演している。コロナ禍の初期3月公開は不利にはたらいたかもしれない。エル・ムンド紙の2020年ベスト20の第1位は「El año del descubrimiento」、意外や「Adú」は選外でしたが、選考母体によって評価は分かれます。
第26回フォルケ賞2021*結果発表&授賞式 ― 2021年01月17日 17:15
作品賞はピラール・パロメロのデビュー作「Las niñas」が受賞

★1月16日、第26回フォルケ賞2021の受賞結果が発表になりました。総合司会者はアイタナ・サンチェス=ヒホンとミゲル・アンヘル・ムニョスが担いました。教育・文化・スポーツ大臣ホセ・マヌエル・ロドリゲス・ウリベス、マドリード共同体副会長イグナシオ・アグアド、そしてEGEDAオーディオビジュアル著作権管理協会の会長エンリケ・セレソが出席した。ソーシャルディスタンスを守って座れない座席にはマークが入り、トロフィーもプレゼンターの手渡しでなく台座に置いてあるなど、やはり例年とは異なるガラとなったようです。

(司会者のアイタナ・サンチェス=ヒホンとミゲル・アンヘル・ムニョス)
★EGEDAが選考母体のフォルケ賞は、1990年代初頭のスペイン社会に青春期を送った少女たちを描いたピラール・パロメロのデビュー作「Las niñas」を最優秀作品賞に選んで閉幕しました。長編ドキュメンタリー映画賞には、同じく1992年のスペイン、特にムルシアに焦点を当てたルイス・ロペス・カラスコの「El año del descubrimiento」がトロフィーを手にしました。

(EGEDA会長エンリケ・セレソ)
★フォルケ賞は初めてTV作品を新設、もはや無視できないことを認識したようです。作品賞の他、TV男優・女優の2部門も新設、受賞者の幅が広がりました。TVシリーズ作品賞にフェリックス・ビスカレッド、オスカル・ペドラサの「Patria」、女優賞に「Ane」のパトリシア・ロペス・アルナイス、TV女優賞に「Patria」のエレナ・イルレタなど、バスク映画が評価された2021年ガラだった。
*第26回ホセ・マリア・フォルケ賞受賞結果*(○印ゴチック体が受賞)
◎作品賞(フィクション&アニメーション)副賞30,000ユーロ
Adú 製作Ikiru Films、ICAA 他 *
Akelarre 製作Sorcin Films 他 *
La boda de Rosa 製作Hally Production 他 *
○ Las niñas 製作Bteam Pictures / Inicia Films / Las Ninas Mujeres, A.I.E. 他 *

(製作者バレリー・デルピエール)

◎長編ドキュメンタリー映画賞 副賞6,000ユーロ
Antonio Machado, Los días azules 監督Laura Hojman ラウラ・ホイマン
Cartas mojadas 監督パウラ・パラシオス
El drogas 監督ナチョ・レウサ
○ El año del descubrimiento 監督ルイス・ロペス・カラスコ


◎短編映画賞 副賞3,000ユーロ
A la cara (13分) 監督ハビエル・マルコ・リコ
Yo (13分) 監督ベゴーニャ・アロステギ
○ Yalla (10分) 監督Carlo D'Ursi カルロ・ドゥルシ


◎TVシリーズ作品賞(新設)副賞6,000ユーロ
○ Antidisturbios (監督ロドリゴ・ソロゴジェン、ボルハ・ソレル)
La casa de papel 『ペーパー・ハウス』(監督ヘスス・コルメナル、アレックス・ロドリゴ)
Veneno (監督ハビエル・アンブロッシ、イサベル・トーレス、他)
Patria (監督フェリックス・ビスカレッド、オスカル・ペドラサ)

(ロドリゴ・ソロゴジェン)

◎男優賞 副賞3,000ユーロ
ダビ・ベルダゲル (Uno para todos) 監督ダビ・イルンダイン *
フアン・ディエゴ・ボトー(Los europeos)フランスとの合作、監督ビクトル・ガルシア・レオン
マリオ・カサス(No matarás)2019年、監督ダビ・ビクトリ
○ ハビエル・カマラ(Sentimental) 監督セスク・ゲイ

(今年最初の授賞式に出席できなかったハビエル・カマラ、映画から)

◎女優賞 副賞3,000ユーロ
アンドレア・ファンドス (Las niñas) 監督ピラール・パロメロ
カンデラ・ペーニャ (La boda de Rosa) 監督イシアル・ボリャイン
キティ・マンベール (El inconveniente) 監督ベルナベ・リコ
○ パトリシア・ロペス・アルナイス (Ane) 監督ダビ・ペレス・サニュド

(感激の晴れ舞台、パトリシア・ロペス・アルナイス)

◎TVシリーズ男優賞(新設) 副賞3,000ユーロ
アレックス・ガルシア(Antidisturbios) 監督ロドリゴ・ソロゴジェン、ボルハ・ソレル
ハビエル・カマラ(Vamos Juan) 監督ボルハ・コベアガ、ビクトル・ガルシア・レオン、他
ラウル・アレバロ(Antidisturbios)監督ロドリゴ・ソロゴジェン、ボルハ・ソレル
○ Hovik Keuchkerian(Antidisturbios) 監督ロドリゴ・ソロゴジェン、ボルハ・ソレル

(コロナの犠牲者に黙祷を捧げるよう呼びかけたホービック・ケウケリアン)


◎TVシリーズ女優賞(新設) 副賞3,000ユーロ
アネ・ガバライン (Patria)
ダニエラ・サンティアゴ (Veneno)
ビッキー・ルエンゴ (Antidisturbios)
○ エレナ・イルレタ (Patria)

(ライバルのアネ・ガバラインを制してトロフィーを手にしたエレナ・イルレタ)

El agente topo (チリ『老人スパイ』)監督マイテ・アルベルディ *
El olvido que seremos (コロンビア) 監督フェルナンド・トゥルエバ *
El robo del siglo (アルゼンチン) 監督アリエル・ウィノグラド
○ Nuevo Orden (メキシコ=フランス) 監督ミシェル・フランコ

(ベネチア映画祭銀獅子賞審査員大賞受賞作品「Nuevo Orden」アップ予定作品)

(銀獅子賞のトロフィーを手にしたミシェル・フランコ、ベネチア映画祭2020)
◎ Cine en Educación y Valores
Las niñas
La boda de Rosa
Adú
○ Uno para todos 監督ダビ・イルンダイン *

(トロフィーを手にダビ・イルンダイン)

(*印は当ブログで紹介している作品)
★優れた製作者に贈られるEGEDA金のメダルは、フェルナンド・コロモとベアトリス・デ・ラ・ガンダラが受賞した。キャリア&フィルモグラフィーは次回に。

(EGEDA金のメダルのフェルナンド・コロモとベアトリス・デ・ラ・ガンダラ)
★ミュージック・パートをパブロ・アルボランとパブロ・ロペスが担いました。

(パブロ・ロペス)
第8回フェロス賞2021*ノミネーション発表 ― 2021年01月13日 17:59
フェロス賞2021ノミネーション発表、最多は「La boda de Rosa」の9個

★2020年12月10日、第8回フェロス賞2021の19カテゴリーのノミネーション発表がありました。今回からドキュメンタリーと特別賞の2カテゴリーが新設されました。フェロス賞はゴヤ賞の前哨戦といわれながらもかなり違いがあります。作品賞がドラマ部門とコメディ部門に分かれ、各5作品がノミネートされるのでノミネート・チャンスが大きい。また撮影や衣装デザインがない代わり、予告編、ポスターの2カテゴリーがあるなどの特徴があります。作品賞(ドラマ&コメディ)は製作と監督名を載せました。TVシリーズ・ミニシリーズは鑑賞できる確率が低いこともあり、受賞結果のみをアップすることにしました。今年に限りオンライン上映のみの作品もカバーしたということです。コロナで世界が一変した2020年は忘れられない年になるでしょう。 授賞式は2月8日(月)、アルコベンダスにて開催されます。
*第8回フェロス賞2021ノミネーション*
◎作品賞(ドラマ部門)
Akelarre 製作Sorgin Films, A.I.E. 他 監督パブロ・アグエロ
Ane 製作Amania Films, Euskal Irrati Telebista, TVE 他 監督ダビ・ペレス・サニュド
El año del descubrimiento (ドキュメンタリー) 製作Lacima Producciones S.L. 他
監督ルイス・ロペス・カラスコ
Las niñas 製作Las Ninas Majicas, A.I.E. 他 監督ピラール・パロメロ
No matarás 製作Castelao Pictures, Filmax, RTVE 他 監督ダビ・ビクトリ
◎作品賞(コメディ部門)
La boda de Rosa 製作La Boda de Rosa La Pelicula, A.I.E. 他 監督イシアル・ボリャイン
Los europeos 製作Gonita, Apache Films, 他 監督ビクトル・ガルシア・レオン
Historias lamentable 製作Comunidad de Madrid, Crea SGR, ICAA, 他 監督ハビエル・フェセル
Orígenes secretos 製作In Post We Trust, La Chica de la Curva, RTVE 他
監督ダビ・ガラン・ガリンド 邦題『ヒーローの起源 アメコミ連続殺人事件』
Sentimental 製作Impossible Films, ICEC, TV3 他 監督セスク・ゲイ
◎監督賞
イシアル・ボリャイン(La boda de Rosa)
セスク・ゲイ(Sentimental)
ルイス・ロペス・カラスコ(El año del descubrimiento)
ピラール・パロメロ(Las niñas)
ダビ・ビクトリ(No matarás)
◎主演女優賞
アマイア・アベラストゥリ (Akelarre)
アンドレア・ファンドス (Las niñas)
パトリシア・ロペス・アルナイス (Ane)
キティ・マンベール (El inconveniente)
カンデラ・ペーニャ (La boda de Rosa)
◎主演男優賞
ラウル・アレバロ (Los europeos)
ハビエル・カマラ (Sentimental)
マリオ・カサス (No matarás)
ハビエル・グティエレス (Hogar)
ダビ・ベルダゲル (Uno para todos)
◎助演女優賞
フアナ・アコスタ (El inconveniente)
ベロニカ・エチェギ (Explota explota)
ナタリア・デ・モリーナ (Las niñas)
ナタリエ・ポサ (La boda de Rosa)
パウラ・ウセロ (La boda de Rosa)
◎助演男優賞
チェマ・デル・バルコ (El plan)
ラモン・バレア (La boda de Rosa)
フアン・ディエゴ・ボトー (Los europeos)
アレックス・ブレンデミュール (Akelarre)
セルジ・ロペス (La boda de Rosa)
アルベルト・サン・フアン (Sentimental)
◎脚本賞
マリナ・ペレス・プリド、ダビ・ペレス・サニュド (Ane)
ルイス・ロペス・カラスコ、ラウル・リアルテ (El año del descubrimiento)
イシアル・ボリャイン、アリシア・ルナ (La boda de Rosa)
ハビエル・フェセル、クラロ・ガルシア (Historias lamentable)
ピラール・パロメロ (Las niñas)
◎音楽賞
ロケ・バニョス (Adú)
マイテ・アロタハウレギ、アランサス・カジェハ (Akelarre)
コルド・ウリアルテ、Bingen Mendizabal (Baby)
ロケ・バニョス (Explota explota)
フェデリコ・フシド、アドリアン・フォルケス (No matarás)
◎予告編賞
マルタ・ロンガス、ラファ・マルティネス (Akelarre)
フアン・サンティアゴ (La boda de Rosa)
ミゲル・アンヘル・トルドゥ (Explota explota)
ハビエル・フェセル、ラファ・マルティネス (Historias lamentable)
マリナ・フランシスコ、フアン・ガブリエル・ガルシア・ロマン (Las niñas)
◎ポスターFlixOlé 賞
ナタリア・モンテス (Akelarre)
パブロ・ダビラ、エスピナル・ガブリエル (El arte de volver)
ダビ・デ・ラス・エラス (Los europeos)
アルフレッド・ボレス、ベルタ・ゴンサレス (La reina de los lagartos)
ジョルディ・ラバンダ (Rifikin’s Festival)米国、監督ウディ・アレン
◎ドキュメンタリー賞(新設)
A media voz (キューバ、2019 監督ハイディ・ハッサン、パトリシア・ぺレス・フェルナンデス
El año del descubrimiento 監督ルイス・ロペス・カラスコ
Courtroom 3H (『家庭裁判所 第3法廷』) 監督アントニオ・メンデス・エスパルサ
Dear Werner 監督パブロ・マケダ
El desafío: ETA (TVミニシリーズ) 監督Hugo Stuven

◎特別賞(新設)
Lúa vermella 監督ロイス・パティーニョ
Blanco en blanco (チリ、2019) 監督テオ・コート
My Mexican Bretzel 監督ヌリア・ヒメネス・ロラング
El plan 監督ポロ・メナルゲス
La reina de los lagartos 監督ブルニン・ペルセベス、ナンド・マルティネス、
フアン・ゴンサレス

★<TVシリーズ・ミニシリーズ>も、作品賞はドラマ部門、コメディ部門の2カテゴリー、主演女優賞、主演男優賞、助演女優賞、助演男優賞の計6カテゴリーありますが、ノミネートは割愛、受賞結果だけアップいたします。
★新設された2カテゴリーには小さくて分かりにくいですがポスターを入れました。またスペイン映画以外には国名を入れましたが、国際映画祭の受賞作から選ばれているようです。どんどん間口が拡がっていく傾向が顕著になってきました。
追加情報:授賞式の日程が3月2日に変更になりました。コロナに振り回される2021年です。
第26回ホセ・マリア・フォルケ賞2021*ノミネーション発表 ― 2021年01月10日 13:53
2021年からTVシリーズ部門 3カテゴリー増えて10カテゴリーに

★文化は不要不急か悩んで巣ごもりしていると、何をするにも億劫になり、出るのは溜息ばかり、心も自然と沈滞気味になっていきます。今年はゴヤ賞だけにしようと思っていましたが、TVシリーズの作品賞、男優&女優賞の3部門が新設されたこともあり、気を取り直してノミネーションからアップいたします。フォルケ賞はゴヤ賞とは視点も若干異なり、もともと映画の裏方に光を当てることが目的で始まった映画賞でした。従って最初は俳優賞などはなく、現在でも監督賞はありません。副賞として賞金が出るのも特色の一つです。授賞式は1月16日、場所は昨年サラゴサから戻ってきて開催されたIFEMAマドリード市庁舎のイベント会場です。コロナは怖いが経済効果の大きさを考えると無視できないということです。

*第26回ホセ・マリア・フォルケ賞ノミネーション*
◎作品賞(フィクション&アニメーション)副賞30,000ユーロ
Adú 製作 Ikiru Films / Un Mundo Prohibido,A.I.E. / ICAA 他 *

Akelarre 製作 Sorgin Films 他 *

La boda de Rosa 製作 Hally Production / La Boda de Rosa La Película、A.I.E. 他 *

Las niñas 製作 BTEAM Pictures / Las Niñas Majicas, A.I.E. 他 *

◎長編ドキュメンタリー映画賞 副賞6,000ユーロ
Antonio Machado, Los días azules 監督ラウラ・ホイマン 製作 Summer Films,A.I.E.

Cartas mojadas 監督パウラ・パラシオス 製作 Morada Films

El año del descubrimiento 監督ルイス・ロペス・カラスコ 製作Lacima Producciones,S.L.

El drogas 監督ナチョ・レウサ 製作 Narm Films

◎短編映画賞 副賞3,000ユーロ
A la cara (13分) 監督ハビエル・マルコ・リコ

Yalla (10分) 監督Carlo D'Ursi カルロ・ドゥルシ

Yo (13分) 監督ベゴーニャ・アロステギ

◎TVシリーズ作品賞(新設)副賞6,000ユーロ
Antidisturbios (監督ロドリゴ・ソロゴジェン、ボルハ・ソレル)

La casa de papel 『ペーパー・ハウス』(監督ヘスス・コルメナル、アレックス・ロドリゴ他)

Patria (監督フェリックス・ビスカレッド、オスカル・ペドラサ) *

Veneno (監督ハビエル・アンブロッシ、ハビエル・カルボ、イサベル・トーレス、他)

◎男優賞 副賞3,000ユーロ
ダビ・ベルダゲル (Uno para todos) 監督ダビ・イルンダイン *

ハビエル・カマラ(Sentimental) 監督セスク・ゲイ

フアン・ディエゴ・ボトー(Los europeos)フランスとの合作、監督ビクトル・ガルシア・レオン

マリオ・カサス(No matarás)2019年、監督ダビ・ビクトリ

◎女優賞 副賞3,000ユーロ
アンドレア・ファンドス (Las niñas) 監督ピラール・パロメロ

カンデラ・ペーニャ (La boda de Rosa) 監督イシアル・ボリャイン

キティ・マンベール (El inconveniente) 監督ベルナベ・リコ

パトリシア・ロペス・アルナイス (Ane) 監督ダビ・ペレス・サニュド

◎TVシリーズ男優賞(新設) 副賞3,000ユーロ
アレックス・ガルシア(Antidisturbios) 監督ロドリゴ・ソロゴジェン、ボルハ・ソレル

Hovik Keuchkerian (Antidisturbios)

ハビエル・カマラ(Vamos Juan) 監督ボルハ・コベアガ、ビクトル・ガルシア・レオン、他

ラウル・アレバロ(Antidisturbios)

◎TVシリーズ女優賞(新設) 副賞3,000ユーロ
アネ・ガバライン (Patria)

ダニエラ・サンティアゴ (Veneno)

エレナ・イルレタ (Patria)

ビッキー・ルエンゴ (Antidisturbios)

◎ラテンアメリカ映画賞 副賞6,000ユーロ
El agente topo (チリ『老人スパイ』)監督マイテ・アルベルディ *

El olvido que seremos (コロンビア) 監督フェルナンド・トゥルエバ *

El robo del siglo (アルゼンチン) 監督アリエル・ウィノグラド

Nuevo Orden (メキシコ=フランス) 監督ミシェル・フランコ

◎ Cine en Educacion y Valores
Las niñas
La boda de Rosa
Adú
Uno para todos *

(*印は当ブログで紹介している作品)
★以上10カテゴリー、栄誉賞ほか特別賞は授賞式でご紹介の予定。
ゴヤ賞栄誉賞2021はアンヘラ・モリーナ*ゴヤ賞2021 ④ ― 2021年01月08日 18:02
第35回ゴヤ賞2021の栄誉賞は女優アンヘラ・モリーナの手に

★2020年のマリソル(ペパ・フローレス)に続いて、今年も女性シネアストの手に渡ることになりました。映画に舞台にTVに意欲的なアンヘラ・モリーナ(マドリード1955)については、映画国民賞2016を受賞した折りにキャリア&フィルモグラフィーをご紹介しています。ゴヤ賞受賞はこの栄誉賞が初めてと聞くと驚きますが、主演女優賞3回、助演女優賞2回すべてがノミネーション止まりでした。1987年に始まったゴヤ賞以前に活躍のピークがあったためと思います。第1回授賞式には、当時の国王夫妻(フアン・カルロス国王、ソフィア王妃)が臨席して盛大に行われましたが、出席者したシネアストたちの多くが既に鬼籍入りしています。特に栄誉賞では、賞の性質から顕著です。
*アンヘラ・モリーナのキャリア&フィルモグラフィーの記事は、コチラ⇒2016年07月28日

(映画国民賞の授与式はサンセバスチャン映画祭が恒例、2016年9月16日)
★しかし栄誉賞の受賞者も次第に年齢が若くなったせいか元気な方が多く、以前は栄誉賞をもらうと「引退勧告されているようで嬉しくない」向きもあったようですが、昨今ではバリバリ現役が増えました。特に最近の女性受賞者は、アナ・ベレン(2017)、マリサ・パレデス(2018)など活躍中です。マリサ・パレデスもゴヤ栄誉賞が初のゴヤ賞でした。
★ブニュエル映画に出演した唯一人のスペイン女優がアンヘラ・モリーナでした。『欲望のあいまいな対象』(77)では、コンチータ役をキャロル・ブーケと競演し、俳優で歌手のアントニオ・モリーナの娘という血筋の他に、ルイス・ブニュエルに発見された女優という特権をもつ。ハイメ・チャバリ、ハイメ・デ・アルミリャン、ホセ・ルイス・ボラウ、グティエレス・アラゴン、ビガス・ルナ、ホセフィナ・モリーナ、リカルド・フランコ、アルモドバル、パブロ・ベルヘル、ラモン・サラサールなどのスペイン監督の他、リドリー・スコット、タヴィアーニ兄弟、ジュゼッペ・トルナトーレなど、スペイン語圏以外にも出演している。最近ではTVシリーズの出演が多そうだが、映画では出番は少なくても重要な役柄を担っている。
35回ゴヤ賞ノミネーション発表は1月11日
★最終ノミネーションは、間もなく1月11日(月曜日)に、アナ・ベレンとダニ・ロビラの総合司会で発表になります。アナ・ベレンは2017年の栄誉賞受賞者、ダニ・ロビラは2015年から3年連続でゴヤ賞の総合司会者を務めた。2020年3月にホジキンリンパ腫を告知、以来闘病中だったが無事復帰している。マラガ生れでマラガ親善大使でもあることも選ばれた理由の一つかもしれない。「Ocho apellidos vascos」で出会い2014年からパートナーだったクララ・ラゴとは、2019年5年間の関係を解消していた。闘病中の写真も公開していたが辛くてアップできない。早く元気なダニを見たい。
★ノミネーション発表が1月11日から1週間遅れの1月18日(月)11:00~と変更になっていました。コロナに振り回され続けています。
サンティアゴ・セグラのコメディがナンバーワン*スペイン映画の2020年 ― 2021年01月04日 15:09
スペインの映画館の興行成績72%ダウンの嘆き
★2020年年明けの1月2月は増加傾向にあった客足も、新型コロナウイルスが到着すると事態は一変する。自宅監禁状態では映画どころではない、ということで1年間の興行成績はトータルで72.%ダウン下落した。なかで気を吐いたのが、7月29日に封切りされたサンティアゴ・セグラの新作コメディ「Padre no hay más que uno 2:La llegada de la suegra」(「Father There is Only One 2」)で、観客動員数2.317,888人、12,938,628ユーロ、第2位のサム・メンデス『1917 命をかけた伝令』は、1,573,320人、9,661,458ユーロ、第92回アカデミー賞の話題をさらったポン・ジュノの『パラサイト 半地下の家族』は、987,089人、6,044,369ユーロで第7位、これもコメディですが笑いの質が違うようです。
*サンティアゴ・セグラの新作コメディの記事は、コチラ⇒2020年09月12日

★「Padre no hay más que uno 2」は2019年に公開された「Padre no hay más que uno」の続編で、コメディ好きの観客には続編が待たれていたから、ある程度は想定内のことでした。「トレンテ」のようにシリーズ化されるのかどうか分かりませんが、巣ごもりでイライラしていた向きには格好の清涼剤でした。子供と犬が活躍するコメディはヒット率が高い。セグラは12歳を頭に4歳までのこましゃくれた5人姉弟の父親ハビエルに扮する。サンセバスチャン映画祭2020メイド・イン・スペイン部門でも上映された。「映画館を潰したくなかった」と監督、同感です。

(自作自演のサンティアゴ・セグラと子役たち、映画から)
★スペイン映画の第2位は、サルバドール・カルボの「Adú」で、ポン・ジュノを抜いて第5位と健闘した。1,088,469人、6,371,655ユーロ、セグラ・コメディの半分にも満たなかったが、サハラ以南の難民問題というテーマで勝負している。カルボ監督は、デビュー作『1898:スペイン領フィリピン最後の日』(16、Netflix)で当ブログに登場させています。同じルイス・トサールとアルバロ・セルバンテスをキャスティング、スタッフも音楽をロケ・バニョス、編集をハイメ・コリスなどとタッグを組んでいます。本作はフォルケ賞2021の作品賞にノミネートされています。

★こちらも西アフリカに位置するベナン共和国生れ、当時6歳だった男の子ムスタファ・ウマルがタイトルのアドゥ役で主演しています。本作もNetflixが一枚噛んでおり、データベースでは各国一斉に配信開始(6月30日)され、日本も含まれていますが検索できません。いずれにしろゴヤ賞最終ノミネートに残るのは間違いないと予想しますので、アップ予定作品の一つです。
追記:「Adú」はスペイン語、ほか英語の字幕入りで配信されておりました。
新年のご挨拶*ゴヤ賞2021のガラはマラガとバレンシアで開催 ③ ― 2021年01月01日 18:21
今年のゴヤ賞は2都市で開催、ベルランガ生誕100周年の<ベルランガ年>

★コロナに振り回された2020年、映画の観方も激変しました。それでも人生は続くわけで細々でも関わっていきたいと思っています。例年ならゴヤ賞ノミネートも終わり候補作品の紹介で出発しておりましたが、2021年は目下のところノミネーション発表もありません。今年に限りオンライン上映作品も対象になるそうです。どのように振り分けるのか分かりませんが、人の移動を抑える作戦なのか、ガラ会場もメインのマラガ市、サブのバレンシア市と2ヵ所に分散、セレモニーはレッド・カーペットを制限した異例の年になりそうです。

(バレンシア副市長サンドラ・ゴメスとスペイン映画アカデミー会長マリアノ・バロッソ)
★昨年12月28日、スペイン映画アカデミー会長マリアノ・バロッソとバレンシア副市長サンドラ・ゴメス同席にて、以下のことが発表になりました。開催日は以前発表になっていた2月27日(土)から1週間遅れの3月6日に変更になりました。総合司会者はマラガ会場(テアトロ・ソーホー・デ・マラガ)ではマラガ名誉市民でもあるアントニオ・バンデラスとバルセロナ出身のTVアカデミー会長マリア・カサドのご両人と変わらず、少なくともバレンシアとマドリードの2ヵ所に接続して式典を催すようです。

(アントニオ・バンデラスとマリア・カサド)
★映画アカデミーとバレンシア自治政府及び県議会とのコラボは、今年がスペインで最も愛された映画監督と言われるルイス・ガルシア・ベルランガ生誕100周年という <ベルランガ年> によるものです。コロナ禍以前から今年盛大なフィエスタが予定されておりました。トゥリア河口に位置するバレンシア市は、芸術学問の文化都市として知られています。輝かしい功績を残したバレンシアっ子のなかでも、ベルランガは飛びぬけた人気があり郷土の誇りなのです。というわけで映画アカデミーとバレンシア自治政府が2021年と2022年のゴヤ賞をコラボすることになった。ゴメス副市長とバロッソ会長の最初の正式会議がもたれメディアに大枠がアナウンスされた。

(ルイス・ガルシア・ベルランガ)
★バロッソとチームは、イベントを催す会場パラウ・デ・レ・アルテスの設備確認を済ませた由、アカデミーの制作チームとバンデラス側の監督アシスタントが、レイアウトの準備のためオーディトリアムの下見に訪れたことも明らかになった。バロッソ会長はレッド・カーペットは制限されるも、「驚き」を保証した。ゴメス副市長もゴヤ賞2021のガラが「ベルランガ年のスタートの合図になる」と明言、さてどんな授賞式になるのか、寝て待つことにいたします。
★ノミネーション候補作品は発表になっていますが、何しろ数が多すぎます。最終候補の発表も間もなくでしょうから、こちらも待つことにします。当ブログで紹介した作品、特にイベロアメリカ映画賞には、コロンビア代表作品「El olvido que seremos」(フェルナンド・トゥルエバ)、マイテ・アルベルディ『老人スパイ』(チリ)、ハイロ・ブスタマンテ『ラ・ヨローナ伝説』(グアテマラ)、その他、ピラール・パルメロ「Las niñas」、アントニオ・メンデス・エスパルサ『家庭裁判所 第3法廷』、エステバン・クレスポ「Black Beach」、パウラ・コンス「La isla de las mentiras」などが目に付きました。
*ゴヤ賞2021の総合司会者の記事は、コチラ⇒2020年07月03日
*ベルランガ年の記事は、コチラ⇒2020年06月21日
フーベルト・ザウパーの新作 『エピセントロ』 鑑賞記*ラテンビート2020 ⑰ ― 2020年12月26日 18:33
カリブに浮かぶ赤い島キューバ、実在しない<ユートピア>

★ラテンビート2020の鑑賞記もフーベルト・ザウパーの『エピセントロ~ヴォイス・フロム・ハバナ』で最終回になりました。大分時間が経って記憶が曖昧になってしまいましたが、サンダンス映画祭2020ワールド・シネマ・ドキュメンタリー部門審査員大賞受賞作品、オスカー賞にノミネートされた『ダーウィンの悪夢』(04)の監督みずからがカメラを片手にハバナの街をめぐり歩いた新作ということでアップすることにしました。サンダンス映画祭2014で特別審査員賞を受賞した、南スーダン独立をテーマにした前作「We Come As Friends」と精神的な繋がりがあるのかどうか、即興とカメラ使用を組み合わせて真実を明らかにするシネマ・ヴェリテに忠実だったのかどうか。スペイン植民地支配の終焉と同時に始まったアメリカ帝国主義とプロパガンダとしての映画の誕生を絡ませて <カリブに浮かぶ赤い島> の今日が語られている。

『エピセントロ~ヴォイス・フロム・ハバナ』(原題「Epicentro」)2020
製作:Groupe Deux / KGP Kranzelbinder Gabriele Production / Little Magnet Films
監督・脚本・撮影・編集・ナレーション:フーベルト・ザウパー
編集:(共)Yves Deachamps
音楽:ズュザァンナ・ヴァルコニイ Zsuzsanna Varkonyi、マクシミリアン・ターンブル
プロダクション・マネージメント:パオロ・カラミタ(マネージャー)、その他多数
美術:フアン・パドロン(アニメーション)
製作者:マーティン・マルケ、ダニエル・マルケ、ガブリエレ・クランツェルビンダー、バルバラ・ピヒラー、パオロ・カラミタ、(エグゼクティブ)ダン・コーガン、他多数

(左から、パオロ・カラミタ、マーティン・マルケ、フーベルト・ザウパー監督、
ガブリエレ・クランツェルビンダー、サンダンス映画祭にて、2020年1月24日)
データ:製作国オーストリア=フランス=米国、2020年、スペイン語・英語、ドキュメンタリー、108分、撮影地ハバナ、公開フランス2020年8月19日、米国8月26日
映画祭・受賞歴:サンダンス映画祭2020ワールド・シネマ・ドキュメンタリー部門審査員大賞受賞、コペンハーゲン・ドキュメンタリーFF、レイキャビックFF、モスクワFF、バジャドリードFF、オーストリア・ビエンナーレFF、(ベラルーシュ)ミンスクFF、アムステルダム・ドキュメンタリーFF、他
出演者:ウナ・カステーリョ・チャップリン、フアン・パドロン、クラリタ・サンチェス、キレニア・サンチェス、ハンス・ヘルムート・ルードヴィヒ、トニー・メネンデス、グラント・ラッセル・ケネディ、アルフォンソ・ハリスJr.、その他「小さい先駆者」と呼ばれた子供たち
解説:オスカー賞ノミネート監督フーベルト・ザウパーの最新ドキュメンタリー。サンダンス映画祭の勝利者は、1898年2月にハバナ湾でアメリカ海軍の戦艦メイン号が爆発沈没した100年後の<ユートピア>キューバの隠喩に富んだポートレートを撮った。1898年はアメリカ大陸におけるスペイン植民地支配の終焉とアメリカ帝国主義時代の始まりの年であったが、それはまたプロパガンダの道具としての映画が誕生した時代でもあった。監督はハバナの人々、特に彼が「小さい先駆者」と呼んだ子供たちと一緒に約1世紀に及ぶ介入主義と神話づくりを探求する。ハバナの海岸に打ち寄せる巨大な波は、危機的な気候変動とキューバ固有の文化を沈めようとする観光政策を象徴しているのだろうか。 (文責:管理人)
*本作に登場したフィルム、順不同*
『月世界旅行』(14分)ジョルジュ・メリエスによる世界初のSF映画、1902年
「Elpidio Valdés contra el águila y el león」(78分、アニメ)フアン・パドロン、1996年
『独裁者』チャールズ・チャップリン、1940年、リニューアル版1968年
『黄金狂時代』同上、1942年のサウンド版、リニューアル版1969年
「Soy Cuba」(140分)ミハエル・カラトーゾフ、1964年、『怒りのキューバ』DVD、2006年発売
「Earth at Night」NASA、2019年
「We Come As Friends」フーベルト・ザウパー、ドキュメンタリー、2014年
*献 辞*
〇マルセリーヌ・ロリダン=イヴェンス(1928~パリ2018年9月)フランス女優、映画監督。ジャン・ルーシュ&エドガール・モランのドキュメンタリー『ある夏の記録』(61)のインタビュアー役で出演した。オランダ出身だがフランスでドキュメンタリー作家として活躍したヨリス・イヴェンスと一時期結婚しており、共同監督で作品を送り出している。
〇エウヘニオ・ポルゴブスキ(1977~2017)メキシコ出身のドキュメンタリー監督、プロデューサー。
マレコン通りに打ち上げる巨大な波、外国人にはパラダイス
A: 『エピセントロ』はキューバ、より正確には現在のハバナを舞台にしたドキュメンタリー。上述したように、1898年を起点にして、スペイン植民地支配の終焉、即アメリカ帝国主義の開始と映画誕生を絡ませている。マレコンの防波堤を乗り越えて海岸通りに打ち上げる巨大な波は、ハバナを飲み込もうとしている。世界規模で地球を破壊しようとしている気候変動ともとれるが、キューバ固有の文化を飲み込もうとする欧米からやってくる、醜悪な金持ち観光客を象徴しているかのようです。
B: 床屋で髪を切ってもらっている男の子を群がってカメラにおさめるツアー客、カメラを何台もぶら下げたドイツ人観光客は、モデル料をせがむ子供にボールペンを渡す。それを撮影するザウパーに「お金はやらない、高級なペンだよ」と言い訳する。
A: モデル料にペンを渡された子供の視線、髪を切ってもらっていた男の子が観光客に向けた鋭い批判的な視線にぎくりとします。
B: 子供たちの「ぼくは見世物パンダではありません」という厳しい表情に胸が痛む。

(男の子にカメラをむける観光客たち、それを活写するザウパーのカメラ)

(モデル料として子供にペンを渡した観光客)
A: 世界の観光地巡りには飽きあきした、もはや労働とは無縁になった裕福な人々が、カリブ海に浮かぶ最後の共産主義国キューバを優越感を満たすために訪れてくる。
B: 沈没しかかっているキューバ丸を救うには、彼らが落としていくドルは掛け替えのない命だ。上から目線の観光客受け入れも背に腹は代えられない。ザウパーが「小さい予言者/先駆者たち」と呼んだ子供でさえ「私たちを見下している」と怒っている。カメラの被写体になった子供たちは、反対に観光客を観察している。
A: スクリーンで最も存在感を示した「ビヨンセのような」スターになりたい女の子は、1902年に米国の内政干渉を認めた屈辱的なプラット修正条項について滔々とまくしたてる。恐れ入谷の鬼子母神、教育も映画同様一種のプロパガンダと実感するが、確かにキューバ独立のために米国が内政干渉する権利を認めたわけですから、本質的に矛盾している。
B: 女の子は小学校高学年くらいに見えた。憧れているビヨンセがアメリカ人なのはいささか皮肉、よく知らないがフランスで女優になりたい、知識がアンバランスです。多分自分たちに好意的なザウパーがフランスから来たからだろうね。

(ビヨンセのようなスターになるのが夢と語る女の子)
A: 監督は反ユートピアを形成している奴隷貿易、植民地化、外国の内政干渉などをテーマに製作しているが、親カストロの宣伝には挑戦しません。
B: しかし迂回しながらも巧みに観客を操作誘導できることを知っている。
A: 移民を受け入れないトランプをいくら批判しても、アメリカは痛くも痒くもありません。アメリカに表現の自由はあっても国民の声など聞いていないから、不自由のキューバと同じじゃないか。いいえ、それは同じではありません。
B: 海外の観光客にキューバ案内をする女性は、「キューバの悪口を言うと殺される」と笑いに紛らわすが、半分ホンネでしょう。セックス目当ての観光客が「黒いペニスに目がない」のは、女性に限らず男性も変わりません。興味本位で来島すると批判しますが、観光とは散財して気晴らしすることなのです。
A: 高尚な理由でハバナを訪れる人もいるとは思いますが多くはない。女性ガイドは、排気ガスを撒き散らしながら走るハバナ観光の目玉クラシックカーに同乗して「女優気分が味わえる」とご満悦、しかし近所の人に見られたら「これは事になる」と。
B: プータ扱いされることを覚悟しないといけない。スクリーンでこのクラシックカーを見て、カッコいいと憧れた観客が多分いたでしょうが、ここハバナは外国人にはパラダイスなのです。

(クラシックカーに同乗してご満悦な女性ガイド)
A: ザウパーが宿にしていたらしいグランホテル・マンサナを見れば納得する。2017年にドイツのホテルチェーン、ケンピンスキーが内部を全面改装して開業した5階建ての豪華ホテル、屋上プールからは旧市街が一望できる。
B: 女の子が兄と一緒にザウパーの子供に成りすましてドアマンを騙して通過する。屋上プールでは水が冷たくて女の子はおもらしをしてしまう。共犯者ザウパーにケーキは1個「たったの10ドルだからお替りするかい?」と聞かれ、二人揃ってハトが豆鉄砲を食ったような顔をした。

(女の子がおもらしをしてしまった屋上プールから旧国会議事堂カピトリオが見える)
A: 母親の賃金が1日1500ペソ約4ドルだから、空恐ろしくてお替りなどできない。この暴力的な経済格差に慄然とするが、監督は兄妹のギョッとした顔を見事に切り取っていた。
プロパガンダの道具として誕生した映画、シネマ・ヴァリテ
B: 監督は「映画は魔法、人間を騙すのは簡単」と語ります。
A: 1898年2月、ハバナ湾でアメリカ海軍の戦艦メイン号が撃沈する。アメリカを戦争に巻き込みたいイエロー・ジャーナリズムは宗主国スペインを犯人と捏造する。しかし爆発の正確な原因は、1世紀以上たった今日でも議論されつづけている謎なのです。
B: 「メイン号を忘れるな」の合言葉でアメリカ人を戦争支持に駆り立てる。ピオネールの子供たちや観客が見ているメイン号撃沈の映像は、浴槽に浮かべた模型のボートとハマキの煙を使って撮影された。
A: シネマ・ヴァリテ(映画・真実)はドキュメンタリーの手法の一つ、手動カメラや同時録音によって取材対象者に「真実」を語らせる形式のことですが、カメラの存在をあえて見る人に意識させる。このスタイルを継承するザウパーは、シネマ・ヴァリテのアイコンであるジャン・ルーシュに忠実だったでしょうか。
B: 本作をマルセリーヌ・ロリダン=イヴェンスに捧げていますが、『ある夏の記録』に比べると撮影対象に選ばれた人数が少なすぎますし、2週間の予定で訪れたというドイツ人のタンゴ・ダンサーなどを筆頭に、やたら観光客が目についた。これではハバナの住民から真実を引き出すことができたかどうか。もっとも隣組の密告制度が健在しているからハバナ市民の声を拾うのは困難か。

(取材撮影中のフーベルト・ザウパー)
A: <真実>というものがあるとしての話ですが、例の女の子と母親役を演じたウナ・チャップリンの口論シーンなどやらせの印象を受けました。「騙せればあなたの勝ち」とウナは娘役の能力を評価していましたが。
B: ウナの立ち位置がよく分からないのも不満、演技者なのか、取材対象者なのか、はたまたスタッフなのか。祖父チャールズ・チャップリンの永遠の名作『独裁者』や『黄金狂時代』を挿入するためなのか、ドキュメンタリーとしては作りすぎの印象。

(チャーリーの孫娘ウナ・カステーリョ・チャップリン)
A: 子供たちと一緒に『独裁者』を見ていたウナを独裁者(を演じていた俳優)の孫娘だと説明すると、「えっ、ヒトラーの孫なの」と勘違いして驚くシーンは笑いを誘った。
B: 私たちがメディアや映画で見聞きするキューバの現状とあまり違わないシーンが多かったように思うが、このくだりは面白かった。街頭で「グアンタナメラ」を陽気に歌っていた二人組は「飲んで踊れればハッピー」と屈託なさそうだったが、果たしてホンネだったでしょうか。

(「民主主義は悪臭がする」映画『独裁者』から)
A: 監督が最後に「ウナ、ここはどこ?」と質問すると「パラダイス」とウナ、それではもしかしたらウナは観光客なのか。自由の旗 <星条旗>、ルーズベルトという名前の建物、かつてはコカ・コーラの砂糖を精製していた砂糖工場、農民が牽く馬車、観光客に反感をもちながら乗せるクラシックカーの運転手、観光客を満載したハバナ・バスツアー、アメリカが租借しているグアンタナモ海軍基地、矛盾をはらんだ赤い島は依然としてエピセントロ震源地であり続けると、ザウパーは考えているようです。

(ドイツ人観光客を乗せたハバナ・バスツアー)
★今回で管理人のラテンビート2020を終わりにします。オンライン上映でプラスな面もありましたが、映画は映画館という考えに変わりありません。しかしコロナの時代は「コロナ・ゼロ」にはならず当分続く、映画の見かたも変わらずをえません。
アイ・ウェイウェイの『ビボス』 鑑賞記*ラテンビート2020 ⑯ ― 2020年12月21日 12:33
政府を信用しない国民、加害者が罰せられない国メキシコ

★オンライン上映は終わってしまいましたが、滑り込みで鑑賞できた『ビボス~奪われた未来~』は、2014年9月26日の夜、メキシコ南西部ゲレロ州イグアラ市で起きたアヨツィナパ教員養成学校の学生43名の集団失踪事件をめぐるドキュメンタリーです。監督は自身も中国政府から北京の自宅監禁を余儀なくされた経験をもつ、現代美術家、社会評論家、人権活動家としても有名なアイ・ウェイウェイ、本作は、パコ・イグナシオ・タイボ二世が2019年に撮った『アヨツィナパの43人』(19、2部構成、Netflix配信)と同じ事件をテーマにしていますが、若干方向性が異なります。合わせてご覧になると理解しやすい。本作はサンダンス映画祭2020でプレミアされました。

(アイ・ウェイウェイ監督)
『ビボス~奪われた未来~』(原題「Vivos」)
製作:AWW Germany / No Ficción
監督:アイ・ウェイウェイ
撮影:アイ・ウェイウェイ、エルネスト・パルド、カルロス・ロッシーニ、ブルノ・サンタマリア・ラソ、マ・ヤン
音楽:Jens Bjorn Kjaer
編集:Niels Pagh Andersen
プロダクション・マネージメント:ラウラ・ベロン、エンリケ・Chuck
製作者:アイ・ウェイウェイ、(ユニット)エルネスト・パルド、(顧問)マリア・ルイサ・アギラール・ロドリゲス、(共同)ダニエラ・アラトーレ、エレナ・フォルテス、(ライン)エンリケ・Chuck、フリーダ・マセイラ
データ:製作国ドイツ=メキシコ、2020年、言語スペイン語・英語、ドキュメンタリー、112分、撮影期間2018年3月~2019年3月、配給Cinephil
映画祭・受賞歴:サンダンス映画祭ドキュメンタリー・プレミア部門、ベルゲン映画祭(ノルウェー)、コペンハーゲン・ドキュメンタリー映画祭(CPH:DOX)、ミュンヘン・ドキュメンタリー映画祭、他ノミネーション、ラテンビート・オンライン上映
失踪者家族の証言者:一人息子マウリシオ(・オルテガ・バレリオ)の父親、(生存者、脳死)アルド(・グティエレス・ソラノ)の両親・兄弟、ドリアン&ホルヘ・ルイス(・ゴンサレス・パラル)兄弟の両親・祖母、クリスティアンの父親・祖母・姉妹、(死亡者)教師フリオ(・セサル・モンドラゴン)の妻、その他名前が伏せてある家族多数、生存者エンリケ・ガルシア(仮名?)
★失踪者に顔をもたせるため、分かる範囲で実名を入れました。
重要協力者:
フランシスコ・コックス(米州人権委員会のGIEI*メンバー、チリ出身の弁護士)*
テモリス・グレコ(ジャーナリスト、”The Historic Lie”の著者)
ケイト・ドリル(国家安全保障文書館のラテンアメリカ政策シニア・アナリスト、米国人)
ジョン・ギブラー(ジャーナリスト、”That They Would Kill us”他の著者)*
ヒメナ・アンティロン・ナイリス(心理学者、アヨツィナパに関する心理学的なリポートの著者)
エルネスト・ロペス・P・バルガス(人権・都市治安プログラムNPO代表者、メキシコ人)
*印はNetflix配信の『アヨツィナパの43人』にも出演している人。
*GIEIはGrupo Interdisciplinario de Experto y Experto Independientes、米州人権委員会がアヨツィナパ事件の失踪者43名を捜索するための技術的支援を目的とした第三者委員会専門家グループ。フランシスコ・コックスを含めて、チリ、コロンビア(2名)、グアテマラ、スペイン出身の弁護士、判事、医学者5名の専門家で構成されていた。

(アヨツィナパの住民に調査打切り報告をするGIEIメンバー、左から2人目がコックス弁護士)
解説:2014年9月26日の21時30分、ゲレロ州イグアラ市でアヨツィナパ教員養成学校の活動家学生を乗せた5台の長距離バスを警察が襲撃した。5人が死亡、数十人が負傷、43名が行方不明者となった。学生たちは1968年10月2日に起きたトラテルロコ大虐殺事件の学生弾圧追悼デモに参加するためメキシコシティに向かう途中であった。数日前からバス数台をチャーターして参加するのが恒例だった。先住民の多くが通うこの教員養成学校は、歴史的にも連邦政府、地方自治体の抑圧の対象となっており、この強制失踪事件はイグアラ市、地元警察、連邦検察庁、陸軍、麻薬カルテル「ゲレロス・ウニドス」やペーニャ・ニエト大統領を頂点にした国家権力が結束して、捏造と隠蔽を繰り返した国家的犯罪です。上記の『アヨツィナパの43人』は事件の背景並びに経緯を時系列的に追って製作されておりますが、本作は事件4年後の行方不明者や死亡者の家族、重篤な負傷者ほか生存者の怒りと悲しみに寄り添って製作されています。 (文責:管理人)
「歴史的真実」とは何か、「あったことはなかったことにできない」
A: アイ・ウェイウェイ監督の過去の『ヒューマン・フロー 大地漂流』(17)をご覧になった方は、23ヵ国40ヵ所の悲惨な難民キャンプ地を巡ったドキュメンタリーながら、その映像美に心打たれたのではないでしょうか。新作も同じ印象をもちますが、何故バスが襲撃され、かくも多くの学生が強制的に失踪者になったか、事件の前段階の知識がないと分かりにくのではないか。
B: 『アヨツィナパの43人』を見ていたり、6年前世界に衝撃を与えたニュースを多少とも聞きかじっていないと、冒頭に流れたテロップだけでは事件の全体像はつかめない。

(2019年に公開された『ヒューマン・フロー 大地漂流』のポスター)
A: 9月26日の夜9時30分ごろ最初の発砲があり翌朝にかけて何回か繰り返された。死亡者は全体では8名、その内訳は5名が学校関係者、そのほかサッカーの試合が終り帰途についていたチームのバスが間違われて発砲を受け、選手、バス運転手、たまたまタクシーに乗っていた民間女性の3人が巻き込まれて犠牲になった。
B: 43名というのも正確には、麻薬カルテルによってゴミ集積所コクラで焼却された灰の中に入っていた1名を含めている。死者の数はウィキペディアでもスペイン語版、英語版、日本語版とも錯綜していて、どれが正確なのか迷います。
A: 後にオーストリアのインスブルック大学に DNA 鑑定を依頼して判明したことなので、最初の43名をスローガンとして踏襲している。学生アレクサンデル・モラ・ベナンシオの家族が納得しないこともありますが、そもそも43人を一晩で焼却することは不可能という専門家の指摘を政府は黙殺している。
B: 高温になるゴミ焼却炉ではない、灰にするには最も不向きな森の中では、60時間という長時間、薪にしろ古タイヤにしろ膨大な量が必要ということ、しかも当夜は一晩中土砂降りだった。ある父親は「にわとり1羽でも灰にするのは簡単ではない」と証言していた。ひらたく言えば「バカにするな」ということです。
A: 国の公式発表は「警察が学生43人を地元の麻薬組織に引き渡し、組織が彼らを殺害、遺体は森の中で焼いて近くの川に遺棄した」と断定、連邦検察庁はこれを「歴史的真実」(la verdad histórica)と宣言した。拷問の末に無実の罪を着せられた人々も言わば被害者です。
B: 政府も最初は本当のところを把握していなかったのではないか、といわれていますね。
A: しかし、どうしてこんな稚拙な嘘をついたのか気がしれないが、灰になってしまうとDNA鑑定が難しいからでしょう。袋詰めにして近くのサンフアン川に流した。その袋に入っていた骨が一致したのは「歴史的真実だから、43人は焼却された」と、あくまで当局は主張する。
B: とにかくできるだけ早く終止符を打って「あったことをなかったことにしたい」焦りが見え見えです。政権の中枢に批判が波及しないよう隠蔽工作に奔走した。
A: 責任逃れをしたい州警察や連邦検察庁の誤算は、教養のない先住民を騙すのは簡単と勘違いしたことです。時間が経てば泣き寝入りするだろうと捏造を繰り返したことが、家族だけでなく多くの国民の怒りに火をつけた。
B: 家族たちの強い絆や諦めないパワーに押されて後手後手に回ってしまった。1989年、米国のCIAをお手本にして設立されたメキシコ国家安全調査局 CISENもグルになって指揮したと言われていますが、お粗末です。
A: 内務省に所属している情報機関ですが、バス襲撃に第27歩兵大隊が関与していたことを掴んでいたからではないでしょうか。メキシコ陸軍となるとこれは大ごとですから。学生たちの携帯電話の発信地が陸軍基地からだったことが、電話会社の追跡で確認されている。
B: バスを降ろされ連行されていった所が軍基地だったことを意味している。
A: 軍部には国家機密保持のため、外部からの調査を拒否する権利があって踏み込めないことが、調査の壁になった。この拒否権が米州人権委員会の GIEI が調査打ち切りを決定した大きな要因でした。
B: 本作でもメンバーの1人フランシスコ・コックス弁護士が語っていました。『アヨツィナパの43人』のなかで、調査打ち切りの報告集会の席上、家族から「帰らないでください!」という悲痛な叫び声に涙が隠せなかったと語っていました。GIEI は行方不明者家族にとって、いわば最後の砦だった。
「乗ってはいけないバスに乗ってしまった」アヨツィナパの学生たち
A: 学生たちの乗った長距離バス5台は、正規にバス会社と契約していたわけではなく、いわばハイジャックした。その中にはイグアラからシカゴに運ぶ麻薬カルテルのヘロインが多量積み込まれていたバスがあった。だから学生たちが乗った時点からずっと追跡されていたようです。
B: 5台のうち襲撃された2台から犠牲者が出た。学生たちはバスではなく霊柩車という「乗ってはいけないバスに乗ってしまった」と言われる所以です。
A: 最初の犠牲者はフリオとして登場していた引率教師、「仲間をおいて逃げられない」と妻に携帯で電話、夫の最後の言葉は「娘のことをよろしく頼む」だった。その女の子は3~4歳に見えたから当時は赤ちゃんだったでしょう。屈託なさそうな娘さんを見るのが辛いシーンでした。
B: 最初の証言者、一人息子マウリシオの父親は「息子の夢をよくみます。4年の時が経ちましたが、心は止まったまま」と物静かに語る。

(マウリシオ・オルテガ・バレリオの父親)
A: 夫が失踪してアメリカに働きに行き1日15時間も働きづめだった母親に「必ず恩返しするから」と語っていた息子、母親は彼の無事を信じて今では家族会のリーダー役を務めている。他のグループとの共闘を示唆したのが、心理学者のヒメナ・ナイリス、本事件に関するインパクトのある著書がある。トラテルロコ大虐殺事件当時ラテンアメリカ政策担当者だったケイト・ドイル(現国家安全保障文書館シニア・アナリスト)やジャーナリストなど、抵抗の運動を応援する識者に支えられている。
B: 2人の息子ドリアンとホルヘ・ルイスが行方不明になっている父親は、妻は「体調を崩して病気になっている」と。ある家族の「犯人が政府でないなら死体は見つかる。なぜなら麻薬カルテルが犯人なら死体は放置したままにするからだ」という指摘は的を射る。

(強制失踪者のリーダーとして活動する母親)
A: カルテルなら灰にして川に流すような面倒な手間暇をかけない。フェルナンダ・バラデスの『息子の面影』にあったように遺体は見つかる。あの映画の燃え上がる炎のシーンは、アヨツィナパ事件の遺体がコクラで焼却されたというニュースに着想を得ているとバラデス監督は語っている。『息子の面影』はこの事件とリンクしています。
アヨツィナパ事件はペーニャ・ニエト政権最大の汚点
B: 本作では行方不明の学生たちは、写真のみに存在している。監督は第三者の視点をできるだけ排除して家族の悲しみと怒りに寄り添うことにしている。そのため監督を含めて5人のカメラマンが現地入りしている。難を逃れた生存者の証言は多くない。
A: 負傷者の1人は「正義と権利を求めると弾圧される」と語っており、なかで脳死状態のアルド・グティエレス・ソラノの家族は、院内感染を怖れて息子を引き取るため自宅を新築した。母親は「何年後か分からないが息子が目覚めるときを待っている」と。

(行方不明者の拡大写真を手にメキシコシティで怒りのデモ行進をする家族たち)
B: デモ行進中に「ペーニャ・ニエトはくそったれ」とシュプレヒコールされていた前大統領、任期中(2012~18)の最大の汚点と称されるのがアヨツィナパ事件です。
A: 2006年から始まった麻薬戦争で、25万人以上が殺害、4万人が行方不明となっているメキシコで、彼らと<アヨチィナポ/教養のない人>と陰で差別されている「アヨツィナパの43人」の違いは何か。それは固い絆で結束して、行方不明者を可視化したことだと思います。


(写真を手にした行方不明者の家族たち)
B: 階級間格差や地域間格差はどこでも見られることですが、その他にメキシコは人種間格差を抱えている。ハンスト、座り込み、人間の鎖などは、権力者の目に入らないが、国民の目には入った。政府の繰り返される捏造に家族は苦しめられたが屈しなかった。そのことが多くの国民の賛同を得たのではないか。
A: アヨツィナパ事件の真実と正義を解決すると強調していた現大統領ロペス・オブラドールは、当選3日目に連邦裁判所の判決に従って「真実と正義委員会」を設立した。アレハンドロ・エンシナスを長とするこの委員会には、学生の家族、市民団体の代表者が含まれている。
B: これとは別に国家検察庁(FGR)は、検察チームが率いる行方不明者捜索に焦点を絞った特別部隊も設立して、少しずつながら進展がみられるようになった。ドキュメンタリーの撮影は2018年3月からの1年間ですから、当然触れられない。
A: 重要な進歩が見られるようになったのは、2020年3月、事件に関わった政府高官、軍人を司法妨害で逮捕、5名中4名が現在も拘束されている。6月には麻薬カルテルのゲレロス・ウニドスの指導者、46名に及ぶ自治体職員も逮捕され、捜査は進んでいる。
B: しかし当時、事件の証拠隠滅、犯罪現場の変更、拷問に関与したと言われる司法長官トマス・セロンには捜査の手が及んでいない。現在逃亡中のイスラエル政府に引き渡しを要請している。しっぽ切りにならないことを祈りたい。
A: 家族の諦めない団結が、43人のみならず行方不明者全体の捜索に寄与している。行方不明者4万人と先述しましたが、国家捜索委員会(CNB)のリストによると、2006年以降2020年7月までの総数は73,000人と倍近い。この数は近年増加傾向にあるということですが、危機が国内のより広範な地域にわたっていることを物語っている。その原因解明も検証しなければならない。
B: それには予算が必要、この圧倒的な数に対処するには増やした予算では足りないでしょう。アメリカに運び込まれるコカインの90%は、コロンビアからメキシコを経由している。強大な隣国アメリカに最も近い国メキシコの悲劇です。
A: 捜査の進展は、学生の家族を筆頭に、家族を支える組織、特別検察官オマル・ゴメス、真実と正義委員会などの努力によります。ドキュメンタリーその後に触れたのは、まだ緒に就いたばかりとはいえ、少しだが光が射してきたことを述べたかったからです。
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ベネズエラ』 鑑賞記*ラテンビート2020 ⑮ ― 2020年12月15日 10:49
アナベル・ロドリゲスの長編ドキュメンタリー

★アナベル・ロドリゲス・リオス(カラカス1976)の長編ドキュメンタリー『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ベネズエラ』(20)は、チャベス大統領亡き後、政情不安が続くベネズエラ北西部ソリア州のマラカイボ湖に浮かぶ消えゆくコミュニティ、コンゴ・ミラドール村が舞台です。作品・監督キャリア&フィルモグラフィー紹介済みですが、以下に鑑賞後に分かった出演者などを補足して再構成したデータをアップしておきます。
*『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ベネズエラ』紹介記事は、コチラ⇒2020年10月17日
データ:製作国ベネズエラ=イギリス=ブラジル=オーストリア、言語スペイン語・英語、ドキュメンタリー、99分、撮影2013年~18年、撮影地コンゴ・ミラドール、州都マラカイボ、他
重要関係者:タマラ・ビジャスミル(コンゴ・ミラドール地区代表者、チャベス派支持者)
ルイス・ギジェルモ・カマリジョ(コンゴの住民、元クラブ歌手・ギター演奏)
特別出演者:ナタリア・サンチェス(ナタリ、小学校教師)とその家族、セルヒオ・サンチェス、リカルド・サンチェス、エディン・エルナンデス(コンゴ地区の警察官)、フランシスカ・エルナンデス(教育委員会職員)、ビクトル・ナバロ・ピニェロ、ジョアニー・ナバロ、フィデリア・ロサ・ビジャスミル、ルイス・ダビ・ソト・ビジャスミル(エル・カティレ)、他
解説:カタトゥンボの<無音>の稲妻が出る南米最大の塩湖マラカイボ南部、コンゴ・ミラドールと呼ばれる水に浮かぶ村がある。ベネズエラを変貌させた大油田が横たわっている。基礎杭の上に建てた家で暮らす貧しい村である。当面、村民は近づく議会選挙の準備に追われている。村のチャビスタ支持者の代表タマラは、できるだけ多くの投票用紙を集めるために奔走している。野党を支持する小学校教師ナタリにとって、タマラと政治的に対立することは職を失う恐れがあった。一方、村民は気候変動による自然現象や湖に堆積する汚泥がもたらす不衛生や沈降に脅かされており、村を離れる漁師たちが後を絶たない。汚職や環境汚染、政治的荒廃をどうやって生き延び、<自分自身の存在>を救済すればいいのだろうか。

(ベネズエラ北西部スリア州にある塩湖マラカイボ)
政情不安を極めるベネズエラの子供たちに未来はあるのか?
A: 永遠に大統領でいたかったベネズエラ統一社会党のウーゴ・チャベスが、2013年4月に死去した。その後継者が元労働組合の書記長だったマドゥロだった。タマラ・ビジャスミルが支持するいわゆるチャビスタ派、対する野党は反チャベス派選挙連合の民主統一会議、小学校教師のナタリア・サンチェスが支持している。
B: 近づく議会選挙の投票日が2015年12月6日、その前後が前半の中心でした。タマラが村民の買収に躍起になっていることから、統一社会党の劣勢がはっきりする。
A: 1票の値段は2000~3000ボリバル、4000と言われて迷う人、食料品をちゃっかり貰いながらも今回は反対派に投票すると説得に応じない女性、コンゴ村を出ていくので投票しないという男性、結果は統一社会党55議席、反対派112議席とチャビスタの惨敗に終わった。
B: マラカイボ市長からは1票2000ボリバルが届いていた。「チャベス派に入れないなら、棄権して」と選挙妨害を躊躇しないタマラの説得も空振りに終わった。「社会主義くたばれ!」と祝杯をあげる反対派の住民の喜びも一晩だけ、マラカイボ湖の汚泥を攫う浚渫船はやってこなかった。急速に中央からは忘れられた村になっていく。

(チャベスの写真や人形に囲まれたタマラの家、写真にキスしない人は我が家に入れない)
A: 買収工作は隠れてやると思っていたから、タマラのようにあっけらかんと、カメラに堂々とおさまるとは驚きです。チャベスにぞっこんの彼女は死んでも忠誠を誓っている。「マドゥロではなくチャベスに投票している」と説明する。
B: 買収=悪という概念はなく、私腹を肥やしているがコンゴ村のために全力を尽くしている。最初は自己中心的、肉の塊のような体形と押しの強さに辟易したが、だんだん憎めなくなってきた。監督が<盲目的信仰>と評した人物の一人かもしれない。
A: 1998年の大統領選挙でチャベスがやったことも踏襲しているだけです。将来が見通せない村を捨てていく村民を非難できない。かつては700人いた村民も常住しているのは30所帯、湖底は虫やネズミの死骸で10年前より1メートル50センチも浅くなった。浚渫工事は選挙用の空手形、そもそもやる気などなかった。溜まった汚泥で漁業もできない、衛生環境も悪く、教育も受けられない。こうナイナイ尽くしでは村を出るのが現実的です。

(マラカイボ湖に基礎杭を打って建てられた家に暮らすコンゴ・ミラドールの住民)
B: 国民も政府を信用しておらず、約束は反故になることを知っている。1年後、結局ナタリの家族も「泥とヘビしかいない」村を出ていく。生徒がいなくなった学校に教師は不要だ。屋根が半分無くなり雨漏りのする朽ち果てた校舎の扉を閉めるナタリ、基礎杭から家を切り離し、ゆらゆらと湖を漂いながら向かう先は何処なのだろう。タマラとは違う考えでコンゴを愛していたナタリ、汚職まみれの無能な為政者を頂く国家に勝者なく、非情な現実があるだけです。

(タマラと対立する小学校教師ナタリ)
A: 2017年3月29日、最高裁が議会の立法権を掌握すると決定、選挙から17ヵ月後、マドゥロは制憲議会の設置を指示、選挙で過半数を得た野党から国会を奪還した。
B: どういうことか理解に苦しみますが、これが現実です。2020年段階で約300万人が難民という記事もあり、桁が間違っていると思いたいです。隣国コロンビア自身も難民を抱えているから、コロナ禍でどうなっているのだろうか。
尊厳を取り戻す方法があるという盲信に支えられていると語る監督
A: 重要関係者欄にタマラの名前がクレジットされていたが、タマラなくして本作は撮れなかったろう。もう一人がギターの弾き語りをしていたカマリジョ、恋人が去っていく悲しみと次々に故郷をを後にする村民を重ねている。プロの歌手だった若い頃を懐かしむ。今は小鳥を友人に一人暮らし「鳥に守られて生きている」と語る。
B: 本作の進行役を果たしており、陸に打ち上げられた外輪船のある森に案内してくれる。こんな大きな船がと驚いたが、以前はマラカイボ湖に流れ込むカタトゥンボ川まで航行していたと語る。

(陸に打ち上げられた外輪船の説明をするカマリジョ)
A: タマラも買収する村民がいなくなり、マラカイボ市長から届いていたお金も届かないのか、現金が無くなったら売ると語っていたブタを売却する。
B: コンゴを出ていかないのは、タマラとカマリジョだけかもしれない。
A: 1918年の大油田の発見以来、腐敗と汚職、地球規模の気候変動ともあいまって、政治的腐敗が価値を生み出している。監督は「この映画を撮ることで学んだのは苦痛です。しかし政治的腐敗が価値を生み出すことに気づかせてもくれた。国の再建において私たちに大きな影響を与えています。理由はさまざまですが、何百万もの国民が国を出てしまいましたが、尊厳を取り戻す方法があるという盲信に支えられています」と、マラガ映画祭のインタビューで語っていた。
B: 監督自身も治安悪化と経済的困難で家族とベネズエラを離れ、現在はウィーンに移住しています。本作が5年もかかった理由の一つです。いつの日か戻れる日は来るのでしょうか。

(アナベル・ロドリゲス・リオス監督、マラガ映画祭2020年8月)
A: 本作でも冒頭ほかで登場した、字幕で<静かな雷>とあった、マラカイボ湖の超常現象「カタトゥンボの無音の稲妻」の謎については、前回の記事で触れています。観光資源の一つだそうです。またカマリジョが「破滅の夜がやって来た~」と歌っていた“La Noche de Tu Partida”は、ベネズエラの作曲家オズラルド・オロペサ(1939~98)の代表作の一つです。エンディングで歌っていたのは、同じくベネズエラの歌手エンリケ・リバスでした。

(原因が解明されていないカタトゥンボの<無音>の稲妻)
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