第70回カンヌ映画祭2017*ノミネーション発表 ①2017年04月16日 16:43

           スペイン語映画は予想通りというかゼロでした!

 

    

 

★先週木曜日(現地時間13日)にコンペティション部門18作と「ある視点」部門のノミネーション発表がありました。「アルモドバルが審査委員長に決定」の記事をアップした折に、これが吉と出るか凶と出るか気になっておりましたが、コンペはゼロでした。最も期待していたパブロ・ベルヘルAbracadabraは落選、『ブランカニエベス』熱も覚めたようです。本作は大枠をご紹介していますがいずれアップいたします。気になるもう1作がカルロス・ベルムトQuién te cantaráです。カンヌに間に合ったものの残れず、『マジカル・ガール』のマジック効果もありませんでした。久々のナイワ・ニムリ、ナタリア・デ・モリーナ、インマ・クエバス、カルメ・エリアスなど演技派女優を揃えており、カンヌと関係なくご紹介したい作品です。

 

★今年のようにフランス(6作)と米国(5作)の作品をこれほど多くエントリーした年があったかどうか調べても意味がありませんが、なかには下馬評にもなかった作品が結構選ばれておりました。フランスは開催国ですから目を瞑るとして、映画大国とはいえ米国の5作は何か経済的力学が働いたのかと勘繰りたくなります。残るは韓国2作、以下イギリス、ハンガリー、日本、ドイツ、ロシアが各1作ずつです。まだ増えるのかもしれません。カンヌ常連のフランソワ・オゾン、ミヒャエル・ハネケ、ミシェル・アザナヴィシウス、ジャック・ドワイヨン、トット・ヘインズ、ソフィア・コッポラ、ファティ・アキン、韓国の二人はポン・ジュノとホン・サンス、日本の1作は河瀨直美の『光』でした。ということで当ブログでのコンペティションの作品紹介はしないですみます。

 

★節目の70回という重要な年に審査委員長に選ばれたのは「名誉なことですが、少し重荷です。この重要な仕事に身も心を捧げるつもりです」と語っていたペドロ・アルモドバル、どんな采配を振るのでしょうか。オスカー像をスペインにもたらした『オール・アバウト・マイ・マザー』は、カンヌ映画祭1999の監督賞受賞作品でした。すべてがカンヌから始まったのでした。以来カンヌに焦点を合わせて製作しており、重荷でも頑張ってもらいたい。「私に生き方を教えてくれたのは、学校でも教会でもなく映画館」と語っていた監督、スペイン国内では常に雑音が聞こえてきますが、スペイン・フィルモテカの名誉あるオープニング作品に彼の『欲望の法則』が選ばれました。スペインでカンヌの審査委員長になるのはアルモドバルが初めてです。

 

  

 (髪も髭も真っ白なアルモドバルとカルメン・マウラ、フィルモテカ開会式にて、20173月)

 

★今年のカンヌの顔は、イタリアの女優クラウディア・カルディナレ1938チュニジア)ですが、ポスターの評判がイマイチです。本人は「生き生きと踊っているのが気に入っている」ようですが、カメラマンの名前は誰も覚えていないとか。撮影は1959年、ローマの屋根の上で踊っているモノクロ写真。映画界入りしたばかりでルキノ・ビスコンティにもフェデリコ・フェリーニにも出会わなかった頃の写真です。イタリア映画はゼロですが、モニカ・ベルッチが今年はセレモニーに登場するようです。

 

★コンペティション外には、オスカー監督のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥCarne y arenaが突然アナウンスされました。ただし長編ではなく630秒の短編、身分証明書を持たずにメキシコから米国に渡ろうとする不法移民がテーマ、撮影はこちらもオスカー像のコレクター、いつものエマニュエル・ルベツキです。トランプ以後、国境の壁は厚くなる一方です。5月の連休に公開されるアルフォンソ・キュアロンの息ホナス・キュアロンの『ノー・エスケープ 自由への国境』と同テーマです。 

   

★「ある視点」のオープニング作品は、監督と俳優の二足の草鞋派マチュー・アマルリックBarbaraに決定しています。フランスの歌手のビオピックだそうです。英語映画でしたが『ある終焉』が公開されたメキシコのミシェル・フランコLas hijas de Abrilがエントリーされ、今度はスペイン語で撮りました。エンマ・スアレスやエルナン・メンドサ、イバン・コルテスが出演しています。他にアルゼンチンの二人の女性監督セシリア・アタンバレリア・ピバトLa novia del desiertoがデビュー作ながら選ばれました。アルゼンチン=チリ合作、『グロリアの青春』でブレークしたチリのパウリナ・ガルシアとアルゼンチンのクラウディオ・リッシがタッグを組んだようです。本作はカメラ・ドールの対象作品でもあり、結果が楽しみです。既にアルゼンチン映画アカデミーINCAA3月に開催した「オペラ・プリマ・コンクール」で受賞しております。なおカンヌだけを視野に入れて製作しているカルロス・レイガダスDonde nace la vidaは空振りでした。

 

   

  (クラウディオ・リッシを挟んで2人の監督、製作者、オペラ・プリマ・コンクールにて)

 

★「ある視点」には、ほかにローラン・カンテ、俳優のほうが有名かもしれないがセルジオ・カステリットFortunata黒沢清『散歩する侵略者』が選ばれています。ベテランと新人が競り合うことになります。70周年の特別上映としてデヴィッド・リンチの『ツイン・ピークス』(92)やジェーン・カンピオンの「Top of the Lake」(16、第2シーズン)が上映される予定です。テレドラが上映される時代になり感無量です。

 

★カンヌ映画祭と並行して開催される「監督週間」「批評家週間」のノミネーションは、映画祭事務局によると2週間以内に発表する由、受賞歴もあるサンティアゴ・ミトレ、ディエゴ・レルマン、ルクレシア・マルテルなどのアルゼンチン組が選ばれるかもしれません。

 

★映画祭は517日から28までと長い。開催前までにピックアップして、ご紹介していきます。


『インビジブル・ゲスト 悪魔の証明』*オリオル・パウロ2017年04月14日 15:15

   

            

★長編デビュー作『ロスト・ボディ』(12)に続くオリオル・パウロの第2『インビジブル・ゲスト 悪魔の証明』は、比較的知名度のあるベテランを起用しての密室殺人劇でした。原題Contratiempoの意味は「不慮の出来事、または災難」ですが、「シネ・エスパニョーラ2017では、英題のカタカナ起こしに今流行りの法律用語「悪魔の証明」を副題にしています。二転三転しながらも最後には証明されるのですが、本作も既に内容は紹介済みです。基本データを繰り返しておきますが、映画評論家と一般観客の評価が見事に乖離した作品だったと言えるかもしれません。 

     

         (ホセ・コロナドに演技指導をするオリオル・パウロ監督)

 

データ:製作国スペイン、スペイン語、2016106分、スリラー、撮影地バルセロナ自治州テラサTerrassa、ピレネー山地のVall de Núria映画祭歴:米国ファンタスティック・フェスト(2016923日)、ポートランド映画祭20172月、ベルグラード映画祭20173月、スペイン公開201716日、日本公開同325日、他IMDb評価7.8

 

キャスト:マリオ・カサス(実業家アドリアン・ドリア)、アナ・ワヘネル(弁護士グッドマン/エルビラ)、バルバラ・レニー(ドリアの愛人ラウラ・ビダル、写真家)、ホセ・コロナド(ダニエルの父トマス・ガリード)、フランセスク・オレリャ(ドリアの顧問弁護士フェリックス・レイバ)、パコ・トウス(運転手)、ダビ・セルバス(ブルーノ)、イニィゴ・ガステシ(ダニエル・ガリード)、マネル・ドゥエソ(ミラン刑事)、サン・ジェラモス(ソニア)、ブランカ・マルティネス(グッドマン弁護士)

 

          二転三転、先が読めなかったミステリー・ホラー

 

A: スリラーを集めた「シネ・エスパニョーラ2017」の他作品は、およそ予想した通りの結末を迎えますが、なかで本作は先が読めなかった。というのも筋運びの不自然さが後半にかけて増していったせいです。前作『ロスト・ボディ』より強引でしたから、前作を見ていた観客もあっけにとられたのではありませんか。

B: キャスト欄を注意深く読めば分かりますが、観客は普通、そこまで細かいところに目を通しません。特にキャスト欄に役柄を明記しません。何気ないセリフが伏線になっていましたが、それは結末近くになって分かることです。

A: パウロ監督は、製作者にメルセデス・ガメロ、ミケル・レハルサ、キャストにホセ・コロナドを起用した以外、前作とはがらりと変えてきました。本作ではお気に入りのコロナドを主役級の脇役に仕立てました。

 

  

       (突然失踪した息子を探す執念の父親ガリード、ホセ・コロナド)

 

B: 青年実業家ドリアのマリオ・カサス、いまや売れっ子俳優になって引っ張り凧です。若くして権力と金力を手にしたが頭脳明晰があだになる。いつもの動の演技ではなく静の演技を求められ難しかったのではないか。父親役はもしかして初めてか。

 

   

             (逃げ道を模索するアドリアン・ドリア、マリオ・カサス)

 

A: グッドマン弁護士のアナ・ワヘネル、脇役専門かと思っていた彼女の主役は珍しい。事件の経過より二人の対決場面がこの映画のクライマックスです。対決シーンはまるで舞台を見てるようなもので、舞台女優歴の長いワヘネルの独壇場でした。 

B: 二人はドリアの無実を証明するために対策を練るのですが、互いに嘘をつき合って駆け引きしているので、タイムリミットが目前なのに真実が見えてこない。

 

A: しかし次第に目的の食い違いが観客にも見えてくる。スリラー大好き人間を取り込むには、殺人、不運・偶然、復讐、大混乱は大きな武器になる。本作にはこれがてんこ盛り、右往左往させられたあげく、大騒ぎは不合理な結末を迎える。第一級のスリラーとは言えないのではないか。

 

B: いっぱい食わされたのを面白いとするか、それはないよ、バカにすんなとへそを曲げるか、どっちかになる。監督はヒッチコックの信奉者ということですが、二役ということで『めまい』(58)を想起した観客もいたのでは。

A: 『めまい』へのオマージュというブライアン・デ・パルマの『愛のメモリー』(76)、スペイン映画ファンならネタバレになるかもしれないが、フアン・アントニオ・バルデムの『恐怖の逢びき』(55)、クラシック映画の代表作ですね。脚本はただ複雑にすればいいというわけではなく、騙すにもある一定の論理性がないと納得しない観客が出てくる。それはともかくとしてワヘネルには何か賞を上げたい。

 

B: ドリアの愛人役バルバラ・レニーは相変わらず美しい。クローズアップのシーンにまだまだ耐えられる。ダブル不倫という設定で二人とも薬指に嵌めた指輪を気にしている。

A: アルゼンチン訛りを克服して、今やスペインを代表する女優に成長した。ゴヤ賞2017では、ネリー・レゲラのデビュー作「María (y los demás)」で主演女優賞にノミネートされましたが、アルモドバルの『ジュリエッタ』主役エンマ・スアレスに苦杯を喫した。

 

B: 『マジカル・ガール』で受賞したばかりですからもともと無理だった。3作とも酷い目にあう役ばかりでしたが、昨今の美人はいじめられ役を振られるのが流行なのかな。

A: ワヘネル同様舞台との掛け持ち派、モデルもこなし貪欲に取り組んでいる。最後になるが監督のオリオル・パウロ、期待が大きかっただけに専門家からは厳しい注文が相次いだ。背景に社会問題を取り込んではいるが尻切れトンボになっている。また俳優の演技がどんなに優れていても、ある程度専門家を納得させられないと賞レースに残れない。

B: 評論家と観客の好みが一致するのは滅多にないことですが、前者の評価が平均5つ星満点で1.5、対して後者が10点満点の7.8とかけ離れている。日本の観客には楽しんでもらえたでしょうか。

 

   

         (不運な死を遂げるラウラ・ビダル、バルバラ・レニー)

  

アナ・ワヘネルは、1962年カナリア諸島のラス・パルマス出身、セビーリャの演劇上級学校を出て舞台女優として出発、舞台と並行してテレビドラマに出演、映画デビューは2000年、アチェロ・マニャスのデビュー作El Bolaと遅かった。ラテンビートが始まっていたら絶対上映された映画でした。主人公のフアン・ホセ・バジェスタが子役ながらゴヤ賞新人男優賞を受賞した話題作でした。ベニト・サンブラノの『スリーピング・ボイス~沈黙の叫び~』(11)の看守役でゴヤ賞助演女優賞を受賞脇役に徹して出演本数多く日本登場も意外と早い。アルベルト・ロドリゲスの『7人のバージン』サンティアゴ・タベルネロの『色彩の中の人生』ラテンビート2006で上映され、翌年同映画祭のダニエル・サンチェス・アレバロの『漆黒のような深い青』で俳優組合助演女優賞を受賞している。他に『バードマン』でオスカーを3個もゲットしたアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの『ビューティフル』では、バルデム扮する主人公と同じ死者と会話ができる能力の持主になった本作『インビジブル・ゲスト 悪魔の証明』での弁護士役は迫力があり、舞台で培った演技力が活かされている。映画、舞台、テレビの三本立てで活躍している。

 

  

  (「無罪を勝ち取りたいなら真実を話せ」と迫るグッドマン弁護士、アナ・ワヘネル)

 

作品・監督の紹介は、コチラ2017217

ホセ・コロナド紹介記事は、コチラ2014320

バルバラ・レニー紹介記事は、コチラ2015327

  

『キリング・ファミリー 殺し合う一家』*アドリアン・カエタノ2017年04月09日 16:37

         

「シネ・エスパニョーラ2017で一番面白かったのがイスラエル・アドリアン・カエタノの本作でした。作品・監督紹介は大分前にアップ済みですが、一応基本データを繰り返すと、原題はEl otro hermano(仮題「もう一人の兄弟」)英題は「The Lost Brother」、原作カルロス・ブスケドの小説Bajo este sol tremendoの映画化、製作国アルゼンチン=ウルグアイ=スペイン=フランス合作アルゼンチン映画、言語スペイン語、2017年、スリラー、113分、マイアミ映画祭2017ワールド・プレミア、マラガ映画祭正式出品、アルゼンチン公開330日、日本公開325

 

    

キャスト:ダニエル・エンドレル(ハビエル・セタルティ)、レオナルド・スバラグリア(ドゥアルテ)、アンヘラ・モリーナ(モリーナ先妻マルタ)、アリアン・デベタック(ダニエル・モリナ)、パブロ・セドロン(屑鉄エンソ)、アレハンドラ・フレッチェネル(エバ)、マックス・ベルリネル、ビオレタ・ビダル(銀行出納係)、エラスモ・オリベラ(死体安置所職員)他

 

プロット:長らく音信の途絶えていた母親と弟の死を発端に闇の犯罪組織に否応なく巻き込まれていくセタルティの物語。セタルティは打ちのめされた日々を送っていた。仕事もなく、何の目的も持てず、テレビを見ながらマリファナを吸って引きこもっていた。そんなある日、見知らぬから母親と弟がアルゼンチン北部のラパチトで内縁の夫モリーナから猟銃で殺害されたという知らせがもたらされる。ブエノスアイレスからその寂れた町ラパチトに家族の遺体の埋葬と僅かだが掛けられていた生命保険金を受け取る旅に出発する。ラパチトではドゥアルテと名乗る顔役が彼を待ち受けていた。元軍人で家族殺害したモリナの友人であり遺言執行人もあるという。しかしこの謎めいた男の裏の顔は複雑に入り組んだ町の闇組織を牛耳るボス、誘拐ビジネスで生計を立てているモンスターであった。セタルティは保険金欲しさにずるずると予想もしなかったドゥアルテのワナにはまっていく。

 

        冷血漢が灼熱の太陽のもとで繰り返す悪のメタファーは何か?

 

A: 原題と邦題のタイトルがこれほどかけ離れているのも最近では珍しい。英題「The Lost Brother」のカタカナ起こしのほうがよほどぴったりしている。多義的な「lost」には「otro」の意味はありませんが内容的に優れたタイトルになっています。

B: 邦題は悪すぎ、「キリング・ファミリー」と副題の「殺し合う一家」のどこがどう違うのやら。アドリアン・カエタノ監督(モンテビデオ1969)が邦題を知ったら「?!」でしょうね。

 

A: タイトルは自由に付けていい決まりですが、作品の顔ですからただセンセショーナルだけではいただけない。邦題の悪口は言わない主義ですが、これは残念です。前回の『クローズド・バル~』同様メタファーが多く、アルゼンチン=サッカー王国、マラドーナ、メッシ、タンゴの豆知識だけでは映画のすごさは分かりにくい。少なくとも3万人の行方不明者を出したと言われる軍事独裁政権時代(197683)が背景にあることだけは押さえておきたい。

B: お金目当ての誘拐、地下室監禁、脅しの手口、性的虐待、ディオニソス症候群など、汚職まみれの残酷すぎるアルゼンチン社会のメタファーが分からないと、単なる平凡で陳腐な殺人ごっこにしか見えません。

 

    

      (新しい獲物セタルティの値踏みをするドゥアルテの下卑た笑い顔)

 

A: 小悪党ドゥアルテと行き当たりばったりの人生を送っているセタルティは同世代、生き方は違うように見えるが同じ穴の狢の似た者同士です。彼らは法が機能しなかった独裁政権時代の犠牲者あるいは継承者、いわゆる「道に迷った子供たち」を象徴しています。

B: 「くそったれ」しか学んでこなかった。大体40歳前後に設定されているようです。この世代はきちんとした教育を受けられず、悪事や憎しみを正当化し、裏切りやレイプは当たり前、愛を語ることなど人間のもろさだと思わされて育った特異な世代です。

 

A: 誘拐してきたエバを地下室に監禁して、自分の排泄物を処理するがごとくレイプする。このシーンはかつての独裁政権があちこちに散在していた強制収容所で行っていたことの再現ですね。ラパチトはチャコ州にある実在の町、原作者カルロス・ブスケド1970)はチャコ州の出身、この地方を熟知している。

B: 夏は日差しが強く、埃りの舞い上がる寂れた町でメタボ気味のセタルティは汗まみれになる。この猛暑もメタファーでしょうか。

 

A: 脚本を見せられ即座に出演を決めたダニエル・エンドレル(モンテビデオ1976、セタルティ役)が、アルゼンチン公開前のインタビューで「監督から体重を増やしてくれと頼まれた」と語っていた(笑)が、家族の埋葬は口実、保険金が目当てでやってきた意志の弱い男が次第に欲に釣られて深入りしていくプロセスが面白い。

B: 初対面からドゥアルテの危険な悪事に気づきながら、かけらだが良心は残っているのに、ずるずると深みにはまっていく。

 

 

  (左から、スバラグリア、監督、メタボが若干解消されたエンドレル、公開前の記者会見)

 

A: 早くブラジルで人生をやり直そうと未来が見えてきたのに弱さが勝つ。彼らのようなアウトサイダーは、民主化されても真面な労働力と見なされない。殺害者モリーナの息子ダニエルもきちんとした教育を受けていないから、ドゥアルテに不信を抱きながらも悪事に手を染めていく。関係を切りたくても、その後の人生設計が思い描けない。

B: 母マルタはスペインからの移住者、モリーナの先妻という設定でした。モリーナは内縁の妻と息子を殺害したあと自殺したことになっているが事実かどうか分からない。邪魔者になって消されたのかもしれない。息子ダニエルは父親の埋葬のさい、幼くして死んだ同名の兄がいたことを初めて知る。

 

A: もう一人の兄弟の存在ですね。長男のクリスチャン・ネームは父親と同じにする仕来りがある。長男は「お前が生まれる前に死んだので、同じ名前を付けた」と母親は説明する。墓碑銘には「19831987」とあり、次男ダニエルが1987年以降に生まれたことを観客は知る。

B: ハビエル・セタルティとダニエル・モリーナに血縁関係はなく異母兄弟でもない。セタルティの母親とモリーナは内縁関係だから法的にも義理の兄弟にはならないわけですね。

 

A: 母親と一緒に殺害された弟の存在をセタルティは知らなかったようで、この弟はモリーナが父親かもしれない。セタルティにももう一人の兄弟がいたことになる。ドゥアルテは「el otro haemano」というセリフを何回か口にした。原題のキイポイントです。ワーキング・タイトルは原作と同じでしたが、最終的に変更したのでした。

B: マルタ役にスペインの大女優アンヘラ・モリーナ(マドリード1955)を起用できたことを監督は幸運だったと語っています。

 

A: 映画の中で唯ひとり人間性をもち続けたいと思っている人間、運命に翻弄されながらも息子ダニエルの更生を願う母親、捨てられながらも元夫を埋葬するという、吐き気を催すような登場人物のなかでは稀有の存在でした。

B: 掃き溜めに鶴、冒頭から薄命が暗示されていた。ダニエル役のアリアン・デベタックは初めて見る俳優ですが、自分の生き方に確信がもてないことが狂暴性に直結するという悪循環を断ち切れない青年を好演していた。センチメンタルで動揺しやすい青年役でした。

 

   

     (長男が眠る墓に夫の遺灰を撒くマルタと息子ダニエル、映画から)

  

        父親のいない孤児たち、アンチヒーローしか登場しない映画

 

A: 軍隊では先輩モリーナから様々なことを教えてもらったという小悪党ドゥアルテを好演したのがレオナルド・スバラグリア(ブエノスアイレス1970)でした。イケメンを卒業してマラガ映画祭2017では、大賞のマラガ賞、本作で銀の男優賞を受賞した。

B: マラガ賞はリカルド・ダリンも貰っていないはず、快挙に近い。軽薄に聞こえる声、薄汚い表情、お喋りだが内容は空っぽ、全てはお金のため、愛など無用の長物、病的なほど残酷なアンチ・ヒーローを体現した。これで女性ファンを大分失いましたが、役者として一皮剥けました。

 

A: ご安心ください。マラガに現れたスバラグリアはにこやかなイケメン、エンドレルもメタボを若干解消してお腹は引っ込んでいました。アンヘラ・モリーナも皺こそ深くなりましたが相変わらず美しい。カエタノ監督は欠席したのか、プレス会見にも姿がなかった。

B: ヒーローが出てこないのがカエタノ作品の特徴ですが、本作のもう一つのカギは移動父親不在です。これはラテンアメリカ文学の特徴の一つですね。

 

    

     (左から、スバラグリア、モリーナ、エンドレル、マラガ映画祭にて)

 

A: ドゥアルテには父親どころか全く家族の姿が見えない。セタルティも故郷トゥクマンを出てからは家族は不在、ダニエルは母子家庭同然だった。さらに誘拐されたエバに夫はなく、つまり電話にボイスで出演するエバの息子にも父はいない。息子には母親を救い出したいという意思がない。セタルティはトゥクマンからブエノスアイレス、さらにラパチトに流れてくる。そして最終目的地はブラジルということでした。

B: 崩壊した家族は崩壊したアルゼンチンをシンボル化しており、かつてセタルティの家族が住んでいた家は、今や廃屋となっている。鉄屑のガラクタ・コレクターの弟の存在も不気味です。

A: ディオニソス症候群らしい弟の存在と、それを買い取る屑鉄商エンソのメタファーは何でしょうか。エンソを演じたパブロ・セドロン(マル・デル・プラタ1958)は、人気テレビドラマで活躍しているベテランのようです。精彩を欠くセタルティを手玉に取る、世故に長けた屑鉄商を飄々と演じていた。

 

      

       (屑鉄商エンソにガラクタの値段交渉をするぱっとしないセタルティ)

 

              

B: トラクターの売却代金を狙われ、ドゥアルテの餌食になるエバを演じたのは、アレハンドラ・フレッチェネルでした。

A 脇役に徹して映画とテレドラで活躍している。今回は猿ぐつわをされている役なのでセリフが少なく難しい役だったと語っている。目で演技ですから、ごまかしが効かない。独裁政権下で地下室に押し込められ犯された多くの犠牲者のメタファーです。パブロ・トラペロの『エル・クラン』15を思い出した観客もいたはずです。

B: あちらの時代背景もポスト軍事独裁時代でしたが、誘拐ビジネスの根は前の軍事独裁政にありました。アルゼンチンの負の遺産はナチス同様、現代でも生き延びています。

 

 

 (左から、エンドレル、監督、デベタック、フレッチェネル、公開前の講演会にて)

 

          フレーミングの取り方、カメラの位置

 

A: カエタノ監督は、いわゆるアルゼンチン・ニューシネマ世代に属している。画面の切り取り方やカメラの位置に拘っていることがよく分かる作品でした。「構図は成り行き任せにしなかった。大変苦労したがその甲斐はあった」と。

B: フレーミングに拘ったレオポルド・トーレ・ニルソン(192478)に捧げられている。

A: 日本では『天使の家』(57)と『MAFIA血の掟』(72)が公開されている。アルゼンチン映画史では避けて通れない監督、脚本家です。

 

   

  (州都レシステンシアの銀行窓口で生命保険料の支払いを待つドゥアルテとセタルティ)

 

B: 原作を損なわずに、しかしかなり自由に映画化したようですが。

A: 読者と観客の違いを考えたということですかね。いずれにしろ小説と映画は別作品です。

 

作品紹介とアドリアン・カエタノのキャリア紹介は、コチラ2017220

レオナルド・スバラグリアのキャリア紹介は、コチラ2017313

アンヘラ・モリーナのキャリア紹介は、コチラ2016728

ダニエル・エンドレルのキャリア紹介は、コチラ2017220

 

『クローズド・バル 街角の狙撃手と8人の標的』*デ・ラ・イグレシア2017年04月04日 21:03

         ドタバタ密室劇はメタファー満載のホラー・コメディ

 

 

            (監督も閉じ込められて出られません)

 

A: 「シネ・エスパニョーラ2017」という、スペイン語をちょっと齧っただけの人でも「?」なタイトルのミニ映画祭、タイトルこそヘンテコですが、スペイン語映画の最新話題作5を纏めて見られる貴重な映画祭でした。ラテンビートと違って字幕は英語版からで不満は残りますが、それを言ったらきりがないと割り切るしかありません。それでも作品それぞれに付いた長たらしい副題は蛇足だと言いたい。

B: スペイン語はまだまだマイナー言語、上映してもらえるだけで感謝したい、邦題になどイチャモンつけてる余裕がない(笑)。新作をこれだけまとめたラインナップはなかなか企画してもらえない。スリラー、アクション・コメディ好きは、そこそこ楽しめたのではないか。 

 

A: まずベルリン映画祭の特別招待作品(コンペティション外)でワールド・プレミアしたアレックス・デ・ラ・イグレシア『クローズド・バル 街角の狙撃手と8人の標的』、ベルリンで監督が「この映画のテーマは思考停止だ」と語っていたように、ドッキリ映画を装いながら、普通の人間が死の恐怖にさらされたらどうなるかを描いている。

B: 前半の15分ほどはシリアス・コメディ・タッチだが、それ以降は笑うに笑えない。登場人物たちは各自現状に不満を抱いているが、そう取りたてて悪人ではない。ところが本当のテキが分からないから、一人の「思考停止」が全員に伝染病のごとく広がってしまう。敵がバルの外にいるだけなのか中にもいるのか分からない。人間のエゴイズムもテーマの一つです。

 

A: スペイン人はチームプレイが得意ではない。デュマの『三銃士』の合言葉じゃないが、「万人は一人のために、一人は万人のために」とはいかない。疑心暗鬼も伝染病のように広がります。恐怖はカビのように増殖する。ちょうど1980年代のエイズ患者バッシングのように、ハグしあった親友同士も「見知らぬ人」と握手も拒んだ。

B: 現在のマドリードのバルが舞台ですが、スペインで過去に起こったこと、また未来に起こりうることでもあり、メタファーの取り方で面白さは変わってくる。

 

         「社会的問題を描くのが第一の目的ではないが・・・」 

 

A: 監督の生れ故郷バスクでは過去に起こったテロ事件、対する国民大衆の無関心などに思いを馳せた観客もいたと思いますね。当時大人たちは、銃声が聞こえてきても関わり合いになりたくないから聞こえなかったことにした。監督によれば「社会的問題を描くのが第一の目的ではないが、背景にそれなくして私の映画は成立しない」と語っている。

B: 一瞬にして無人となった繁華街の不気味さ、国家権力に烏合するメディアの情報操作、謎の狙撃者の狙いは何か、グロテスクを排除しないアレックスの映画手法を堪能できます。

 

A: 作品紹介でも触れたように**、アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』スティーヴン・キングの『ミスト』、またはブニュエルの『皆殺しの天使』からヒントを得ている。

B: いわゆる「クローズド・サークル」の代表作品ですね。

A: 特にブニュエル作品では知識階級に属する全員が思考停止になってしまう。知識など役に立たない。誰もいなくなってしまうのか、あるいは誰か残れるのか、チームプレイの不得手な人々の生き残りをかけた椅子取りゲームが後半の見所です。

 

B: スリラー劇ですからネタバレは御法度ですが、主役ブランカ・スアレスの下着姿にくぎ付けになっていると本質を見失います。今後どんな映画が公開されるか分かりませんが、少なくとも来年のゴヤ賞ノミネートは決まりだね。

A: 主役はマリオ・カサスではなさそうですね。際立っていたのがイスラエル役のハイメ・オルドーニェス、襤褸着のなかから現れる筋骨隆々にはびっくりしました。いつでも闘えるように肉体は鍛えておかねばなりませんし、見掛けで人を判断してはいけないという道徳教育の映画でもあります。 

 

  (サディスティックな監督に油まみれの下着姿にさせられたブランカ・スアレス)

 

B: 役に立つ教訓的なお話でもあります。アレックス映画ではお馴染みのセクン・デ・ラ・ロサの言い分には泣けてきます、使用人は常に辛くて弱い立場です。

A: 特に老いてますます盛んなテレレ・パベスのような強権的な雇い主の下で働くのは「一に辛抱、二に忍耐、三四が無くて、五に我慢」です。

 

B: 『グラン・ノーチェ! 最高の大晦日』につづいて出演のカルメン・マチ、頭の回転が速くてどんな役でもこなすカメレオン女優です。

A: エミリオ・アラゴンの『ペーパー・バード幸せの翼にのって』(10)がラテンビートで上映されたとき監督と一緒に来日、気軽に来場者との写真撮影にも応じていました。公開が確実なアルモドバル映画の常連さんでもあるから、ファンも多いほうかもしれない。本作はマラガ映画祭2017のオープニング作品でした。

 

    

  (セクン・デ・ラ・ロサ、マリオ・カサス、ハイメ・オルドーニェス、カルメン・マチ)

  

  *主な出演者紹介*

キャストブランカ・スアレス(客エレナ)、マリオ・カサス(客ナチョ)、セクン・デ・ラ・ロサ(バル店員サトゥル)、ハイメ・オルドーニェス(浮浪者イスラエル)、テレレ・パベス(バル店主アンパロ)、カルメン・マチ(客トリニ)、ホアキン・クリメント(客アンドレス)、アレハンドロ・アワダ(客セルヒオ)他

 

ベルリン映画祭のインタビュー記事は、コチラ2017226

**作品紹介の記事は、コチラ2017122

  

第32回グアダラハラ映画祭2017*結果発表2017年04月01日 17:30

      エベラルド・ゴンサレス、作品賞とドキュメンタリー賞のダブル受賞

 

    

★グアダラハラ映画祭 FICG については、作品賞を受賞しても公開されるチャンスがないこともあり、目についた受賞作品をピックアップするだけです。昨年は作品賞を受賞したコロンビアのフェリペ・ゲレーロOscuro animalをご紹介しました。コロンビアにはびこる暴力について、コロンビア内戦の犠牲者3人の女性に語らせました。今年のメキシコ映画部門は、エベラルド・ゴンサレスLa libertad del DiabloDevils Freedom)が最優秀作品賞とドキュメンタリー賞の2冠に輝き、マリア・セッコが撮影賞を受賞しました。フィクション部門とドキュメンタリー部門の両方にノミネーションされていたなど気づきませんでした。プレゼンターは今回栄誉賞受賞のメキシコの大女優オフェリア・メディナ、これは最高のプレゼンターだったでしょう。

 

  

     (オフェリア・メディナからトロフィーを手渡されるエベラルド・ゴンサレス)

 

 

★ベルリン映画祭2017「ベルリナーレ・スペシャル」部門で、アムネスティ・インターナショナル映画賞を受賞した折に少しご紹介いたしました。こちらはメキシコのいとも簡単に振るわれる「メキシコの暴力の現在」について、犠牲者、殺し屋、警察官、軍人などに語らせています。各自報復を避けるため覆面を被って登場しています。衝撃を受けたベルリンの観客は固まって身動きできなかったと報じられたドキュメンタリーです。おそらく公開は期待できないでしょう。

 

    

     (覆面を着用した証言者、映画から)

 

Oscuro animal」の紹介記事は、コチラ2016319

La libertad del Diablo」の紹介記事は、コチラ2017222

 

     イベロアメリカ作品賞はカルロス・レチュガの「Santa y Andrés」が受賞

 

カルロス・レチュガSanta y Andrésは、サンセバスチャン映画祭2016「ホライズンズ・ラティノ」部門に正式出品されたキューバ、コロンビア、フランスの合作。他に脚本賞とサンタ役のローラ・アモーレスが女優賞を受賞。1983年のキューバが舞台、体制に疑問をもち、山間に隠棲しているゲイ作家のアンドレス、彼を見張るために体制側から送り込まれた農婦のサンタ、いつしか二人の間に微妙な変化が起きてくる。本作の物語並びに監督紹介、当時のキューバについての記事をアップしています。このカテゴリーには、同じキューバのフェルナンド・ぺレスの「Ultimos días en La Habana」やアルゼンチンの『名誉市民』、スペインからはアレックス・デ・ラ・イグレシアの『クローズド・バル』もノミネートされておりました。

 

 

★女優賞のローラ・アモーレスはシンデレラ・ガール、本作のため監督が街中でスカウトした。必要な時にはいつも留守の神様も、時として運命的な出会いを用意しています。人生は捨てたものではありません。本作のような体制批判の映画は、ラウル・カストロ体制下のキューバ映画芸術産業庁ICAICでは歓迎されないが、サンセバスチャンやグアダラハラ映画祭は評価した。この落差をどう受け取るかがキューバ映画の今後を占うと思います。

 

 

            (サンタとアンドレス、映画から)

 

Santa y Andrés」の作品紹介記事は、コチラ2016827

 

★早くもカンヌの季節が巡ってきました。第70回カンヌ映画祭2017の正式ポスターが発表され、今年のカンヌの顔はイタリアの往年の大スターCCことクラウディア・カルディナーレ、コンペティション審査委員長はペドロ・アルモドバル、期間は517日~26日です。

 

    

   (踊って笑って生き生きしたフェリーニのミューズ、クラウディア・カルディナーレ)


アントニオ・バンデラスに「名誉金のビスナガ」*マラガ映画祭20172017年04月01日 10:11

            ジュネーブで心臓の外科手術を受けていた!

   

      

          (名誉金のビスナガ受賞、セルバンテス劇場、325日)

      

★俳優、監督、プロデューサー、マラガの名誉市民アントニオ・バンデラス「名誉金のビスナガ」が贈られた。真っ白の顎髭にびっくりしたファンもいたでしょうか。授賞式に先立って行われる恒例の記者会見は、彼の健康不安についての質問から始まった。「凄い痛みであったが、幸いにも大事に至らずダメージは残っていない・・・冠状動脈の中に3本のステント(人体の管状部分を広げる医療機器)を挿入する手術を受けた。ずっと以前から不整脈があったが、報道されているような大げさなことじゃないですよ」と。マラガに来る前の先週、手術の経過の検査のためジュネーブにいた由、病気とはうまく付き合っていくしかないでしょう。

 

        

        (プレス会見席上でのバンデラス、アルベニス映画館、325日)

 

★去る126日、ロンドン近郊サリーにある自宅でのトレーニング中、激しい心臓の痛みに襲われ病院に駆けつけたニュースは、日本の一部のメディアでも報道された。軽い心臓発作ということで入院することもなかったが、その後大事をとってジュネーブにある世界有数の心臓病病院で外科手術を受けていたことを明かした。 自身もそれほど深刻でないとツイートしていたから報道が間違っていたわけではないが、かなり重症だったようですね。授賞式にも間に合い現在は健康も回復して仕事に復帰できるということです。 現在のパートナーは、20歳年下のオランダの投資銀行家ニコール・ケンプルさん、あるパーティで知り合ったとか。 バンデラスは投資家としてのキャリアが長い。    

 

 

2年前からの新ガールフレンド、ニコール・ケンプルに付き添われて、スイスの病院前)

 

      「故郷で有名人でいるのは何はともあれ大変なことです」とバンデラス

 

★マラガは生れ故郷、ピカソの次くらいに有名、マラガ名誉市民、マラガ映画祭の初めからの資金提供者、大兄弟会連合の会員にしてセマナ・サンタのプレゴネロでもあるバンデラスが、第20回という節目に「名誉金のビスナガ」をもらうについて異存はないでしょう。今回事務局からの借金返済の申し出を断ったようです。返してもらうつもりはないし、マラガがあってこそ今の自分があるのだから、自分に対して借りなど何もないというわけです。「故郷では有名人もただの人」という格言はもじって、「故郷で有名人でいるのは何か大変なこと、心づかいに大いに感激しています」と語ったバンデラス。渡米直後のラテン・コミュニティーのこと、ハリウッドに到着したころのヒスパニック系の人間関係の複雑さ、さらに闘いについても語った。現在でも解消されていない、反対に強まっていると思える偏見、差別に晒されていたことは語らずとも分かります。

 

★恩師アルモドバル監督について、「とっても」も恩義を感じています。「仕事に関してはとても厳しく、凝り性で気難しい」と。なぜなら撮影は「豊かな想像力のせいで地獄にいるような状況」に変えてしまうからと語っていた。今後やりたいことは、再び監督に戻って3作目を撮りたいらしく、過去の2作品は多分、自分の経験不足もあって「あまりに未熟」だったとも。2作品とは、元妻メラニー・グリフィスを主人公にしたコメディCrazy in Alabama99『クレイジー・イン・アラバマ』ビデオ2001)、マーク・チャイルドレスの小説の映画化、翻訳書も出版されている。第2作目がスペイン語で撮ったEl camino de los inglesesは、200611月マラガでプレミアした後、サンダンスやベルリン映画祭2007に英題「Summer Rain」として出品され、同年ラテンビートでも『夏の雨』の邦題で上映されている。

 

         「ゲルニカ」制作中のピカソと同じ56歳になった!

 

カルロス・サウラの「ゲルニカ」出演について。まだIMDbもアップされていませんが、サウラは以前からパブロ・ピカソが「ゲルニカ」制作に打ち込んだ33日間を軸にした映画を企画していて、ピカソ役に同郷のバンデラス起用をアナウンスしていた。バンデラスによると、「まだ詳しいことは分からないが、新しい脚本の権利問題がクリアーできたと聞いている。カルロスの前の脚本には自分も関わっており、奥の深いエモーショナルなインパクトがあった。制作中のドン・パブロ・ピカソの年齢が56歳、自分も同じ年になり、映画を撮るには理想的な年齢に達した。今は最初の脚本が推敲されてクランクインされるのを待っています」ということです。どんなピカソが見られるのか、しかし今年中のクランクインはなかなか難しいかもしれない。

 

マラガ映画祭2017*結果発表2017年03月27日 16:16

       作品賞は「Verano 1993」と「Ultimos días en La Habana」が受賞

 

    

   (マラガ生れのポスター制作者ハビエル・カジェハとマラガ映画祭2017のポスター)

 

★マラガ映画祭2017の結果発表がありました。スペインとラテンアメリカの垣根が取り払われた最初のフェスティバルでしたが、結局のところ最優秀作品賞は両方から1作ずつ選ばれました。スペイン最優秀作品賞金のビスナガは、カルラ・シモンのデビュー作Verano 1993、イベロアメリカ最優秀作品賞金のビスナガは、キューバのフェルナンド・ぺレスUltimos días en La Habanaが受賞しました。副賞としてそれぞれに12.000ユーロの賞金が与えられます(昨年まではラテンアメリカの作品賞だけに与えられていたものです)。金賞は作品賞だけで、その他はすべて銀賞です。

 

 

  

 

★当日にアントニオ・バンデラスの「名誉金のビスナガ」の授与式も行われましたが、これは次回に回します。ガラに先だって昼間行われたプレス会見の席上、126日に心臓発作を起こして療養していたことを明かしました。大変だったようです。受賞スピーチを含めて別途アップします。

 

   

(プレス会見席上のアントニオ・バンデラス、325日)

 

受賞結果は以下の通り、審査員はご紹介済みですが再度アップしますと、審査委員長にエミリオ・マルティネス=ラサロ、以下パブロ・ベルヘル監督(1963年ビルバオ、『ブランカニエベス』)、マリア・ボトー(アルゼンチン出身のスペイン女優)、イバン・ヒロウド・ガラテ19942010までハバナ映画祭ディレクター)、エレナ・ルイス1997年バルセロナのカルドナ、編集者)、アレハンドラTrolles1974モンテビデオ、ウルグアイのプロデューサー)の6名です。国名表記なしはスペイン。


作品賞金のビスナガ(スペイン)
Verano 1993 カルラ・シモン 

監督&作品紹介は、コチラ2017222


作品賞金のビスナガ(イベロアメリカ)
Últimos días en La Habana  フェルナンド・ぺレス(キューバ)
その他、Gas Natural Fenosa観客賞(銀のビスナガ)を受賞

作品紹介は、コチラ201738


審査員特別賞(銀のビスナガ)

No sé decir adiós リノ・エスカレラ
その他、審査員スペシャル・メンションを受賞


監督賞(銀のビスナガ)
ビクトル・ガビリア  La mujer del animal (コロンビア)

女優賞(銀のビスナガ)
ナタリエ・ポサ  No sé decir adiós

男優賞(銀のビスナガ)

レオナルド・スバラグリア  El otro hermano(監督:アドリアン・カエタノ、アルゼンチン)
邦題『キリング・ファミリー 殺し合う一家』の紹介は、コチラ2017220
「シネ・エスパニョーラ」2週間限定公開中(325日~47日)


助演女優賞(銀のビスナガ)
ガブリエラ・ラモス  Últimos días en La Habana(監督:フェルナンド・ぺレス)

助演男優賞(銀のビスナガ)
フアン・ディエゴ  No sé decir adiós(監督:リノ・エスカレラ)


脚本賞(銀のビスナガ)
パブロ・レモンリノ・エスカレラ  No sé decir adiós(監督:リノ・エスカレラ)

音楽賞(銀のビスナガ)
パスカル・ゲイニュ  Plan de fuga(監督:イニャキ・ドロンソロ)

邦題『クリミナル・プラン 完全なる強奪計画』の紹介は、コチラ201734

「シネ・エスパニョーラ」2週間限定公開中(325日~47日)


撮影賞(デラックス銀のビスナガ)
Walter Carvalho Redemoinho(監督:ホセ・ルイス・ビリャマリン、ブラジル)

編集賞(銀のビスナガ)
エチエンヌ・ブサック La mujer del animal(監督:ビクトル・ガビリア、コロンビア)

ブサックはチロ・ゲーラの『彷徨える河』を手掛けている。

審査員スペシャル・メンション

 Selfie ビクトル・ガルシア・レオン .

その他、批評審査員特別賞(銀のビスナガ)を受賞。

 

★以上が長編コンペティションの受賞者。他にANEXOとして、受賞作品に協力した製作会社、テレビ局、関連機関、協力団体などに付属賞が与えられました。

EL OTRO HERMANO, イスラエル・アドリアン・カエタノ
Rizoma Films (アルゼンチン), Oriental Films (ウルグアイ), MOD Producciones (西) , Gloria Films ()

LA MUJER DEL ANIMAL, ビクトル・ガビリア
Polo a Tierra  Viga Producciones (コロンビア)

NO SÉ DECIR ADIÓS, リノ・エスカレラ
Lolita Films, Mediaevs, White Leaf Producciones (スペイン)

PLAN DE FUGA イニャキ・ドロンソロ
Atresmedia Cine, Runaway Films AIE, Lazona Films y Sonora Estudios (スペイン)

REDEMOINHO ホセ・ルイス・ビジャマリン
Vania Catani (ブラジル)

SELFIE ビクトル・ガルシア・レオン 
Apaches, Gonita, II Acto (スペイン)

ÚLTIMOS DÍAS EN LA HABANA フェルナンド・ぺレス
ICAIC (キューバ) & Wanda Visión (スペイン)

VERANO 1993 カルラ・シモン
Inicia Films, Avalon P.C., con el apoyo de Media, ICAA, ICEC, y la participación de TVE y TV3 (西)

★ドキュメンタリー部門の受賞者は以下の通り:

ドキュメンタリー賞(長編、銀のビスナガ)

La balada del Oppenheimaer Park フアン・マヌエル・セプルベダ(メキシコ)賞金8.000ユーロ

ドキュメンタリー3作目、ラテンビート2011マイケル・ロウの『うるう年の秘め事』の撮影監督を手掛けている。

 

監督賞(銀のビスナガ)

ダビ・アラティベル Converso(スペイン、61分)

ドキュメンタリー2作目、コンベルソはユダヤ教やイスラム教からキリスト教への改宗者をさし、教会オルガン、家族、調和についてのフィルム。デビュー作は2013年の「Oírse

 

審査員スペシャル・メンション

Al otro lado del muro パウ・オルティス(メキシコ、67分)

デビュー作、ホンジュラスからメキシコに移民してきた4人兄弟のドキュメンタリー。母親は10年の刑で収監中、幼い兄弟の面倒を見なければならない13歳のロシオと18歳のアレは、厳しい状況を打開するために米国行きを考えている。

 

観客賞(銀のビスナガ)

Donkeyoto チコ・ペレイラ(ドイツ、スペイン、イギリス、スペイン語、86分)

長編第2作目、マノロとロバのゴリオンは西部への旅を計画する。ロッテルダム映画祭2017128日)上映、サンフランシスコ映画祭2017415日)上映予定。

 

★短編(フィクション、ドキュメンタリー、アニメーション)その他は割愛します。受賞スピーチや時間切れでアップが間に合わなかった作品、例えば脚本賞・女優賞・助演男優賞を受賞したリノ・エスカレラの「No sé decir adiós」など、秋の映画祭を視野に入れて紹介するつもりです。

銀のビスナガ「シウダ・デル・パライソ」賞*マラガ映画祭20172017年03月25日 17:41

         ベテラン女優フィオレリャ・ファルトヤノが受賞

 

フィオレリャ・ファルトヤノFiorella Faltoyano(本名María Blanca Fiorella Renzi Gil)は、1949年マラガ生れ(父親はガジェゴ、後にビゴのパントン町長になった。母親はマドリード出身)、映画、テレビ、舞台女優。1967ペドロ・マリオ・エレーロのClub de solteros(仮題「独身クラブ」)で映画デビュー、つまり今年は映画との金婚式のお祝いというわけです。半世紀の出演本数は映画・テレドラ、舞台をひっくるめれば大変な本数になります。私生活では最初の結婚相手ホセ・ルイス・タファル・カランデ(製作者)との間に1男、2人の孫がいます(1983離婚)、現在のパートナーはフェルナンド・メンデス=レイテ(1944マドリード)、映画評論家、テレビドラマを手掛ける監督、一時期(196881)出身大学バジャドリードで映画理論と映画史の教鞭をとっていました。

 

 

 

(赤絨毯を踏むフェルナンド・メンデス=レイテとフィオレリャ・ファルトヤノ) 


★注目を集めた作品は、民主主義移行期に製作されたホセ・ルイス・ガルシのAsignatura pendiente1977、仮題「未合格科目」)のヒロイン役、ホセ・サクリスタンとタッグを組みました。ガルシのデビュー作であり、大ヒット作でもあった。ベッドでの大胆な下着姿が話題になりました。フランコ時代には好ましからざることとして検閲をうけ削除されるケースだったからです。長いキャリアをもちながら受賞歴が少ないのは、活躍時期にはゴヤ賞(1987年から)などもなく、1995年から映画を離れてテレビに軸足を変えたからと思います。スペイン映画芸術科学アカデミー(AACCE)が設立されたのは1986年、ということはAACCEが選考する「金のメダル」も同年から、さらに国民賞に映画部門が加わったのは1980年でした。サンセバスチャン映画祭は国際映画祭ですから、スペイン映画が受賞するのは1970年代は1作、80年代も1作でした。

 

  

   (ホセ・サクリスタンと下着姿のフィオレリャ、「Asignatura pendiente」から)

 

Asignatura pendiente」の5年後ガルシ監督は、『黄昏の恋』(82)で、初めてスペインにオスカー像をもたらしたのですが、それには出演しませんでした。ガルシはスペイン代表作品監督の常連となり、1994年のCanción de cunaが四度の代表作品に選ばれ、今度は主演女優にフィオレリャを抜擢しました。しかし残念ながら落選となりました。前年トゥルエバの『ベルエポック』が受賞したこともあり、元々可能性は少なかったのです。国内の受賞では、1995シネマ・ライターズ・サークル(スペイン)女優賞を受賞しました。これがノミネートは別として唯一の受賞、ですから今回の銀のビスナガ「シウダ・デル・パライソ」賞は朗報だったに違いありません。1995年エウヘニオ・マルティンの「La sal de la vida」が最後の長編映画となり、現在はシリーズのテレビドラマに出演しています。

 

   

         (ホセ・ルイス・ガルシの話題作「Canción de cuna」から)

 

★その他の主な出演映画、マリアノ・オソレスのコメディ・ミュージカルCristóbal Colón, de oficio...descubridor82)では、カトリック女王イサベルに扮した。カミロ・ホセ・セラの同名小説を映画化したマリオ・カムスの『蜂の巣』(ベルリン映画祭1983グランプリ受賞、「映画講座・スペイン新作映画」で上映)とDespués del sueño92)、ホセ・ルイス・クエルダのTocande fondo93)などがあげられる。2014年には、『Aprobé en septiembre』というタイトルの本をLa Esfera de los Liblosから刊行している。21日に授賞式がありました。

 

    

          (エッセイ『Aprobé en septiembre』の発売記念日から)

 

 

        (銀のビスナガ「シウダ・デル・パライソ」のガラ)

 

 

★序でにそのほかの特別賞ガラのうち、23日にクラウディア・リョサの「エロイ・デ・ラ・イグレシア」賞、24日にはフェルナンド・レオン・デ・アラノアの「レトロスペクティブ」賞も終了しました。残るはクロージングに行われるアントニオ・バンデラスの「名誉金のビスナガ」賞のみになりました。

 

 

                        (クラウディア・リョサ)

 

 

 (フェルナンド・レオン・デ・アラノア)


第20回マラガ映画祭が開幕*オープニングは『クローズド・バル』2017年03月21日 14:28

    最新のサプライズはアントニオ・バンデラスに「名誉金のビスナガ賞」授与

 

★特別賞のうち銀のビスナガ「シウダ・デル・パライソ」賞の紹介が残っておりますが(受賞者はマラゲーニャ女優フィオレリャ・ファルトヤノ)、もたもたしているうちに開幕してしまいました。1週間ほど前に「アントニオ・バンデラス名誉金のビスナガ賞授与」のニュースが飛び込んできました。レトロスペクティブ賞の他にこんな賞あったかしらね。バンデラスはマラガ出身、20代初めに故郷を後にしてからも、第1回映画祭からずっと名誉総裁みたいに本映画祭に尽力してきた。マラガ市の名士、名誉市民でもあるから誰も異存はない。ゴヤ賞2015の栄誉賞受賞のときほどは驚かないでしょう。メインディッシュの授賞式は閉会式とアナウンスされました。離婚後さっそくマラガに新居を購入するなど生れ故郷に軸足を移してきています。

バンデラスのキャリア紹介記事は、コチラ2014621

バンデラスのゴヤ賞栄誉賞の主な記事は、コチラ2014115

 

(バンデラス)

   

   

        マラガ映画祭はスペイン映画祭ではなくイベロアメリカ映画祭?

 

★大西洋を挟んでイベリア半島と中南米大陸が一つになったマラガ映画祭のオープニング作品は、コンペ外のアレックス・デ・ラ・イグレシア『クローズド・バル 街角の狙撃手と8人の標的』、監督以下スタッフやキャストが現地入りしてファンの期待に応えました(日本でも325日から2週間限定で公開されます)。今年からラテンアメリカ映画の質向上を願って、二つに分かれていたオフィシャル・セクションの垣根が取り払われました。正式出品23作のうち、コンペティションは17作、スペイン側が9作、ラテンアメリカ側が8作、コンペ外が6作です。

 

 

(左から、ハイメ・オルドーネス、セクン・デ・ラ・ロサ、監督、ブランカ・スアレス、

 カルメン・マチ、マリオ・カサス、マラガ映画祭2017にて)

  

★審査委員長にエミリオ・マルティネス=ラサロ、以下パブロ・ベルヘル監督(1963年ビルバオ、『ブランカニエベス』)、マリア・ボトー(アルゼンチン出身のスペイン女優)、イバン・ヒロウド・ガラテ19942010までハバナ映画祭ディレクター)、エレナ・ルイス1997年バルセロナのカルドナ、編集者)、アレハンドラTrolles1974モンテビデオ、ウルグアイのプロデューサー)の6名です。

 

★イスラエル・アドリアン・カエタノの『キリング・ファミリー 殺し合う一家』も上映されました。主役のレオナルド・スバラグリアのマラガ賞授与式も済んだようです(18日、上映は19日でした)。プレゼンターは母親で女優のロクサナ・ラドンがアルゼンチンからはるばる息子のために馳せつけました。他に「キリング・ファミリー」のダニエル・エンドレル、同じくオフィシャル・セクションにノミネートされているマルティン・オダラのスリラーNieves negraの面々も登壇して、涙、なみだの授賞式だったようです。エンドレルは監督でもあり、今回El candidatoがノミネーションされている。授賞式の行われるセルバンテス劇場はどうやらアルゼンチン一色だったようです。Nieves negra」の主役はリカルド・ダリンとスバラグリア、仲の悪い兄弟に扮する。マラガ賞受賞者は海沿いの遊歩道に記念碑を建ててもらえる。写真下は記念碑の前でカメラにおさまるスバラグリア。

 

   

           (左側が母親ロクサナ・ラドン、トロフィーを手に喜びのスバラグリア)

 

     

 (自身の記念碑の前で、レオナルド・スバラグリア)

 

★翌日19日は、シルヴィ・インベールのリカルド・フランコ賞授賞式、20日は『ベルエポック』が「金の映画」に選ばれたフェルナンド・トゥルエバの授賞式がありました。

 

      

                                                 (シルヴィ・インベール)

 

 

      (フェルナンド・トゥルエバ)


『ベルエポック』が「金の映画」受賞*マラガ映画祭20172017年03月19日 16:35

         フェルナンド・トゥルエバのオスカー受賞作『ベルエポック』

 

 

フェルナンド・トゥルエバのオスカー受賞作『ベルエポック』1992)が「金の映画」に選ばれました。昨年、『美しき虜』(98)の続編La reina de Españaが公開され、ベルリン映画祭2017のベルリナーレ・スペシャル部門で上映されこと、『ベルエポック』も第43回ベルリン映画祭の正式出品、そして節目の25周年にあたることも受賞理由かもしれない。昨年の「金の映画」は、前年20156月に鬼籍入りしたビセンテ・アランダに哀悼の意をこめて、彼の代表作『アマンテス/ 愛人』が受賞しているからです。

 

 

★『ベルエポック』は、ホセ・ルイス・ガルシの『黄昏の恋』以来10年ぶりに、スペインに2個目のオスカー像をもたらした。もはや古典映画入りしているが、その活力あふれた、魅力的な語り口で内戦勃発5年前の「ベルエポック」良き時代を語りながら、時として悲劇をも入り込ませている。シュルレアリスムでメランコリックでさえある。本作でトゥルエバは自身の自画像を描いたと評されたが、例えば美に対する厚い尊敬の念、人間の知恵、喜び、寛容さ、そして自由意志である。価値ある生き方とは何か、彼が考えている愛国心が何であるかを語った作品です。

 

  

 (オスカー像を手にした製作者アンドレス・ビセンテ・ゴメスとフェルナンド・トゥルエバ)

  

★長編第5作『目覚めの年』(86)で初めてコンビを組んだ、名脚本家ラファエル・アスコナは既に鬼籍入りしており、そのほかにもフェルナンド・フェルナン・ゴメス、アグスティン・ゴンサレスやチュス・ランプレアベなどの名優たちが旅立った。当時若さにあふれていた脱走兵ホルヘ・サンス、ペネロペ・クルス(四女)、アリアドナ・ヒル(次女)などは実人生では父親や母親になり、マリベル・ベルドゥ(三女)はドラマやコメディに出ずっぱり、ミリアム・ディアス・アロカ(長女)はテレドラ出演と、各自キャリアを積んでトゥルエバが予測した通りの活躍をしている。

 

        

       (美しい4人姉妹に囲まれて幸せいっぱいの脱走兵ホルヘ・サンス)

 

『ふたりのアトリエ~ある彫刻家とモデル』12)がラテンビート2013で上映されたとき初の来日を果たしている。2015年の国民賞(映画部門)受賞の折に紹介記事を書いております。ビリー・ワイルダーを映画の神様と尊敬して、オスカー受賞スピーチで「ミスター・ワイルダー、ありがとう」と述べ、後日「もしもし、こちらは神様です」とお茶目な神様からお祝いの電話をもらった。スペインではガルシア・ベルランガを師と仰ぎ、彼の「Plácido」(61)と『死刑執行人』(63)をスペイン映画2大傑作と語っている。ベルランガとトゥルエバの共通項は脚本家のラファエル・アスコナとタッグを組んだことでしょう。

 

★今年のベルリン映画祭のインタビューでも語っていたことですが、「大切なのは物語を語ること、自分にとって映画を作れることはそれぞれ奇跡に近いのです。それで感謝するのは、特に私のプロデューサー、クリスティナ・ウエテです。年がら年中彼女と格闘しています」。クリスティナ・ウエテとは監督夫人のこと、夫唱婦随の反対とか(笑)。

 

『ふたりのアトリエ~』のラテンビートQ&Aの記事は、コチラ20131031

国民賞(映画部門)受賞とフィルモグラフィーの記事は、コチラ2015717

La reina de España」の記事は、コチラ2016228