<続>ホライズンズ・ラティノ部門*サンセバスチャン映画祭2020 ⑧ ― 2020年09月09日 17:28
★ホライズンズ・ラティノ部門の残り4作のラインナップ、女性シネアストの活躍が目につきました。既に他の先行映画祭でプレミアされています。
◎ Selva trágica (Tragic Jungle)メキシコ=フランス=コロンビア 2020年
監督:ユレネ・オライソラ、脚本:ルベン・イマス、ユレネ・オライソラ、撮影:ソフィア・Oggioni、音楽:アレハンドロ・オタオラ、編集:ルベン・イマス、ユレネ・オライソラ、イスラエル・カルデナス、他
映画祭・受賞歴:ベネチア映画祭オリゾンティ部門、サンセバスチャン映画祭ホライズンズ・ラティノ部門正式出品
データ:ユレネ・オライソラ(メキシコシティ1983)の長編第3作目、ドキュメンタリーで出発評価を得る。他にルベン・イマスとの共同作品がある。ドラマ、96分、スペイン語、マヤ語、英語
キャスト:インディラ・ルビエ・アンドレウィン(アグネス)、ヒルベルト・バラサ(アウセンシオ)、Dale Carley(カシーケ)、ラサロ・ガビノ・ロドリゲス(エル・カイマン)、他
ストーリー:1920年、メキシコとベリーズの国境地帯、マヤのジャングルの奥深く、そこには法は存在せず神話が支配していた。ゴム栽培で働くメキシコの労働者たちは、ベリーズのミステリアスな美貌のアグネスに魅了されていた。彼女の存在が男たちの性的興奮、幻想、欲望を掻き立てていた。新しい生命力に溢れた彼らは、ジャングルの中心から見張っている伝説のXtabayを目覚めさせたことにも気づかずに運命と向き合うことになる。

◎ Sin señas particulares (Identifying Features)メキシコ=スペイン
監督:フェルナンダ・バラデス、脚本:フェルナンダ・バラデス、アストリッド・ロンデロ、撮影:クラウディア・べセリル・ブロス、編集:フェルナンダ・バラデス、アストリッド・ロンデロ、スーザン・コルダ、音楽:クラリス・ジェンセン
データ:フェルナンダ・バラデス(グアナフアト1981)は監督、脚本家、製作者、編集者、長編デビュー作、ドラマ、99分
映画祭・映画賞:SSIFF2019シネ・エン・コンストルクシオン36の受賞作、サンダンス映画祭2020ワールド・シネマ部門観客賞&審査員特別脚本賞受賞、他
キャスト:メルセデス・エルナンデス(マグダレナ)、ダビ・イジェスカス(ミゲル)、フアン・ヘスス・バレラ(ヘスス)、アナ・ラウラ・ロドリゲス、ラウラ・エレナ・イバラ、他
ストーリー:マグダレナは合衆国との国境沿いで行方不明になった息子を探すための旅に出る。マグダレナのメキシコの荒涼とした風景をめぐる道のりで、最近アメリカから退去を余儀なくされたという青年ミゲルに出会う。二人は連れ立って、マグダレナは息子を、ミゲルは失踪した母親を探す。二人の被害者は加害者たちが猛威を振るう不法地帯を一緒にさまよう。
追加情報:『息子の面影』の邦題で、ラテンビート2020の上映が決定。



◎ Todos os mortos (All The Dead Ones)ブラジル=フランス、2020
監督・脚本:カエタノ・ゴタルゴ、マルコ・デュトラ、撮影:Helena Louvarto、編集:カエタノ・ゴタルゴ、マルコ・デュトラ、ジュリアナ・ホジャス、Gui Braz
データ:カエタノ・ゴタルゴ(ビラ・ベルア1981)、マルコ・デュトラ(サンパウロ1980)、言語ポルトガル、ドラマ、120分、公開予定ブラジル、フランス
映画祭・受賞歴:ベルリン映画祭2020コンペティション部門正式出品、リスボン・インデーズ映画祭銀賞受賞、グラマド映画祭(ブラジル)ノミネート、サンセバスチャン映画祭ホライズンズ・ラティノ部門ノミネート
キャスト:カロリナ・ビアンチ(アナ・ソアレス)、Mawusi Tulani(イナ・ナシメント)、クラリッサ・キステ(マリア・ソアレス)、タイア・ぺレス(アナの母イサベル)、Rogerio Brito(アントニオ)、Agyel Augusto(イナの息子)、他
ストーリー:1899年サンパウロ、奴隷制が廃止されてから数十年経つ。町は急速に発展している。以前は領地と奴隷を所有していたソアレス一家の3人の女性がサンパウロに戻ってきたばかりである。最後の使用人が亡くなると、ブラジルの急激な変化に順応していけない。一方ソアレス農場で奴隷として働いていたナシメント一家は、自由の身にはなったが黒人の居場所がない社会に向き合っている。ブラジルの過去と現在の中で、すべての人々が生きる残るために闘っている。

(主演者5人を配したポスター)

(アナ役のカロリナ・ビアンチ)

(マリア役のクラリッサ・キステと母イサベル役のタイア・ぺレス)
◎ Visión nocturna(Night Shot)チリ 2019
監督・撮影:カロリナ・モスコソ、脚本:カロリナ・モスコソ、マリア・パス・ゴンサレス、編集:フアン・エドゥアルド・ムリーリョ、音楽:カミラ・モレノ
データ:カロリナ・モスコソ(サンティアゴ1986)は監督、編集者、チリ大学、バルセロナのポンペウ・ファブラ大学で映画を学ぶ。ドキュメンタリー、80分、本作が長編デビュー作。
映画祭・受賞歴:バルディビア映画祭2019(10月)特別審査員賞、FIDマルセーユ映画祭2020(7月)インターナショナル部門グランプリ受賞、サンセバスチャン映画祭ホライズンズ・ラティノ部門正式出品
ストーリー:8歳のときサンティアゴ近郊の海辺で襲われた、若いシネアストが性暴力を受けた被害者の疵と沈黙について物語る。被害者は自分を責め、恥ずかしさのため沈黙する。実際にレイプとは一体何か、被害者に寄り添うにはどうしたらよいか、そして何時終わるのか、友情と援助、柔軟で親密さに溢れたドキュメンタリー。



★金貝賞を競うコンペティション部門のクロージング作品にフェルナンド・トゥルエバ監督の「El olvido que seremos」(Forgotten We'll Be)が選ばれました。本作は最初のエントリーには含まれていなかった作品です。カンヌ映画祭2020にコロンビア映画としてノミネートされたものですが、結局カンヌは開催されませんでしたから想定内の決定と思われます。詳細についてはアップ済みです。
*「El olvido que seremos」の内容紹介は、コチラ⇒2020年06月14日

ホライズンズ・ラティノ部門9作品*サンセバスチャン映画祭2020 ⑦ ― 2020年09月07日 16:37
ホライズンズ・ラティノのオープニングはアルゼンチン映画「El prófugo」

★ホライズンズ・ラティノ部門は、長編映画のデビュー作あるいは第2作までの作品が対象です。従って情報が少なく予告編も未完成が含まれ、紹介するには情報不足が多い。特に今回は新型コロナウイリス感染者拡大もあって、なんとか滑り込みセーフで開催されたベルリン映画祭でプレミアされたものが目立っており、急ごしらえの感が否めない。ラテンアメリカ諸国といっても、今回は21ヵ国のうちアルゼンチン、チリ、メキシコに集中した9作品が選ばれている。取りあえず2回に分けてアップいたします。
*ホライズンズ・ラティノ部門*
◎ El prófugo(The Intruder) アルゼンチン=メキシコ
監督・脚本:ナタリア・メタ、撮影:バルバラ・アルバレス、編集:エリアネ・カッツ
データ:2020年、サイコ・スリラー、90分
映画祭・受賞歴:ベルリン映画祭2020コンペティション部門上映
キャスト:エリカ・リバス(イネス)、ナウエル・ぺレス・ビスカヤート(アルベルト)、セシリア・ロス(母マルタ)、ダニエル・エレンデル(レオポルド)、他
ストーリー:イネスは夢想好きな歌手だが映画の吹替をして働いている。楽園のような休暇のあいだ、立ち直れないほどのトラウマを抱えて苦しんでいる。それ以来、夢についてのトラブルを抱えている。容易に目が覚められない真に迫った悪夢を体験する。
*作品&監督キャリア紹介はベルリンFF2020、コチラ⇒2020年02月27日

◎ Edición ilimitada(Unlimited Edition) アルゼンチン
監督:エドガルド・コサリンスキー、サンティアゴ・ロサ、
ビルヒニア・コシン、ロミナ・パウラ
解説:4人の作家、俳優、監督、劇作家などが映画で出会う。この多様性に富んだ仕事に関わる監督の4つの短編、4つの物語、4人の登場人物(男女2名ずつ)で構成されている。作品の内容は情報が入手できず分かりませんが、4人の顔ぶれだけで興味がもたれる。出身は別として現在はアルゼンチンで活動している。エドガルド・コサリンスキー(1939)もサンティアゴ・ロサ(1971)もベテラン級、ビルヒニア・コシン(カラカス1973)は5歳でアルゼンチンに移住して両方の国籍を持っている作家、映画デビューかもしれない。ロミナ・パウラは(1979)はサンセバスチャン映画祭2019のホライズンズ・ラティノ賞を受賞している。年齢からしても4人の組み合わせがユニークです。
*サンティアゴ・ロサのキャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2019年02月19日
*ロミナ・パウラのキャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2019年09月10日
◎ La Verónica チリ
監督:レオナルド・メデル、エグゼクティブプロデューサー:フアン・パブロ・フェルナンデス
キャスト:マリアナ・ディ・ジロラモ(ベロニカ)、アントニア・Giesen、アリエル・マテルナ(ハビエル)、ホセフィナ・モンタネ、他
ストーリー:ベロニカはソーシャル・ネットワーク上の人気モデル、サッカー界の国際的なスター選手と結婚したが、10年前に起きた長女殺害の捜査のなかで第一容疑者であることが分かって窮地に陥る。捜査の圧力に晒され、夫婦関係も危機に見舞われていき、最近生まれた娘アマンダに嫉妬を感じるようになる。

(マリアナ・ディ・ジロラモ扮するベロニカ、映画から)
◎ Las Mil y Una(One in a Thousand)アルゼンチン=ドイツ、2020、120分
監督・脚本:クラリッサ・ナバス(長編2作目)
映画祭・受賞歴:ベルリン映画祭2020パノラマ部門上映、チョンジュ映画祭作品賞受賞、グアダラハラ映画祭、サンセバスチャン映画祭ホライズンズ・ラティノ部門など
キャスト:ソフィア・カブレラ(イリス)、アナ・カロリナ・ガルシア(レナタ)、マウリシオ・ビラ(ダリオ)、ルイス・モリナ(アレ)、他
ストーリー:イリスは複雑な過去をもつレナタと知り合ったとき、たちまち彼女の虜になった。恐怖を乗り越え、初恋を体験するための不安に直面しなければならないだろう。物語は敵意に張り巡らされているものの優しさに溢れている。うわさ話が時には武器にもなり変わるだろう。LGBTQIAがテーマの一つ。

◎ Mamá, Mamá, Mamá(Mum, Mum, Mum)アルゼンチン、2020、65分
監督・脚本:ソル・ベルエソ・ピチョン=リビエレ、製作者:フロレンシア・デ・ムヒカ、エグゼクティブ:ラウラ・タブロン、撮影:レベッカ・シケイラ
映画祭・受賞歴:ベルリン映画祭2020ジェネレーション部門
キャスト:アグスティナ・ミルスタイン、マティルデ・クレイメル・チアブランド、シウマラ・カステーリョ、Chloe Cherchyk、カミラ・ソレッツィ、他
ストーリー:うだるような夏のある朝、一人の少女が自宅のプールで溺れて死んでしまう。彼女の体は母親が見つけるまでそのままにされている。母親はもう一人の娘クレオを部屋に何時間も一人にしておく。しばらくするとクレオの伯母が従姉妹3人を連れてやってくる。それぞれの少女たちは秘密のサインや儀式を共有し、特殊なミクロの宇宙に没入していく。

(映画から)
アイトル・ガビロンドの「Patria」*サンセバスチャン映画祭2020 ⑥ ― 2020年08月12日 15:00
特別上映はアイトル・ガビロンドのTVミニシリーズ「Patria」

★セクション・オフィシアル部門で特別上映される「Patria」は、全8話で構成されたTVミニシリーズ作品、アイトル・ガビロンドがフェルナンド・アランブラの同名小説を脚色した。監督はオスカル・ペドラサとフェリックス・ビスカレトが4話ずつ手掛けている。新型コロナウイリスが猛威を振るう以前の2019年夏から撮影に入り、HBO(Home Box Office 米国の有料ケーブルテレビ放送局)を介して2020年5月17日から放映されているようですが、今回スクリーンに登場することになった。1発の銃弾によって分断されたバスクの2つの家族の目を通して、ETAのテロリスト・グループの30年間にわたる歴史が語られる。

(原作者フェルナンド・アランブラと原作)
「Patria」スペイン、2020、TVミニシリーズ(全8話)
製作:HBO España / Alea Media / Mediaset España
監督:アイトル・ガビロンド(立案)、オスカル・ペドラサ、フェリックス・ビスカレト
脚本:アイトル・ガビロンド、(原作)フェルナンド・アランブラ
撮影:アルバロ・グティエレス、ディエゴ・ドゥセエル
音楽:フェルナンド・ベラスケス
編集:アルベルト・デル・カンポ、ビクトリア・ラメルス
製作者:パトリシア・ニエト、ダビ・オカーニャ、テデイ・ビリャルバ、アイトル・ガビロンド
キャスト:エレナ・イルレタ(ビトリ)、アネ・ガバライン(ミレン)、ロレト・マウレオン(ミレンの娘アランチャ)、スサナ・アバイトゥア(ネレア)、ミケル・ラスクライン(ミレンの夫ジョシィアン)、ホセ・ラモン・ソロイス(ビトリの夫チャト)、エネコ・サガルドイ(ミレンの息子ゴルカ)、ジョン・オリバレス(ミレンの息子ホセ・マリ)、イニィゴ・アランバリ(シャビエル)、他多数
ストーリー:2011年、ETAの戦闘中止のニュースが流れた日、ビトリは夫チャトの墓に報告に行った。テロリストに殺害された夫と人生を共にした生れ故郷へ戻ろうと決心する。しかしビトリの帰郷は町の見せかけの静穏をかき乱すことになる。特に親友だった隣人のミレンには複雑な思いがあった。ミレンはビトリの夫を殺害した廉で収監されているホセ・マリの母親だったからだ。二人の女性の間に何があったのか、何が彼女たちの子供や夫たちの人生を損なったのか。一発の銃弾で分断された二つの家族に横たわるクレーター、忘却の不可能性、許しの必要性を私たちに問いかける。
★アイトル・ガビロンド(サンセバスティアン1972)は、脚本家、TV製作者、オーディオビジュアル・フィクションの企画立案者としてスペインでは抜きんでた存在である。特に本邦でもNetflixで配信されているTVシリーズ『麻薬王の後継者』(18「Vivir sin permiso」)は、その代表的な成功作。アルツハイマーになった麻薬王ネモ・バンデイラにホセ・コロナド、彼の右腕に演技派のルイス・サエラ、人気上昇中のアレックス・ゴンサレス、レオノル・ワトリングなどを配した大掛りなシリーズ。「原作を読みはじめたときは霧雨を浴びたようだったが、だんだん雨脚が強くなり最後にはずぶ濡れになった」と、その原作の魅力を形容している。「暴力と共に生きていた時代があったことを、次の世代に橋渡し、未来に向けての一つの旅」とも語っている。

(二人の主役に挟まれて、両手に花のアイトル・ガビロンド)
★フェリックス・ビスカレト(パンプローナ1975)は、監督、脚本家、製作者。スペイン映画祭2019(インスティトゥト・セルバンテス東京主催)で上映された『サウラ家の人々』(17「Saura(s)」)を監督している。監督キャリアは以下に紹介しています。
*『サウラ家の人々』の作品&監督紹介は、コチラ⇒2017年11月11日
★キャストは、姉妹のように仲良しだったという主役の一人ビトリ役のエレナ・イルレタ(サンセバスティアン1955)は、イシアル・ボリャインの『花嫁のきた村』や『テイク・マイ・アイズ』ほかに出演している。もう一人の主役ミレン役のアネ・ガバライン(サンセバスティアン1963)は、ジョン・ガラーニョ&ホセ・マリ・ゴエナガの『フラワーズ』、古くはアレックス・デ・ラ・イグレシアの『13みんなのしあわせ』や『マカロニ・ウエスタン800発の銃弾』、当ブログでご紹介した本作と同じバスクを舞台にしたアナ・ムルガレンの「La higuera de los bastardos」などに出演しているベテラン。
*「La higuera de los bastardos」の作品紹介は、コチラ⇒2017年12月03日

(ビトリ役エレナ・イルレタとミレン役のアネ・ガバライン)
★ミレンの息子ゴルカ役のエネコ・サガルドイは、ジョン・ガラーニョ&アイトル・アレギの『アルツォの巨人』(17「Handia」)で巨人役になった俳優。ビトリの夫チャトに扮したホセ・ラモン・ソロイス、ミレンの夫ジョシィアンのミケル・ラスクラインの二人は、『フラワーズ』に揃って出演している。バスク語話者は限られているから、結局同じ俳優が出演することになっている。

(サンセバスティアンに勢揃いしたスタッフと出演者たち、中央がアイトル・ガビロンド)
メンデス・エスパルサの初ドキュメンタリー*サンセバスチャン映画祭2020⑤ ― 2020年08月05日 16:05
長編3作目「Courtroom 3H」 はノンフィクション

(法廷に入って撮影中のメンデス・エスパルサ監督)
★ アントニオ・メンデス・エスパルサ(マドリード1976)の「Courtroom 3H」(「Sala del Juzgado 3H」)は、長編第3作目です。デビュー作「Aquí y allá」(邦題『ヒア・アンド・ゼア』12)、第2作目の「Life and Nothing More」(『ライフ・アンド・ナッシング・モア』英語)が2017年と5年間もかかった。東京国際映画祭2017に来日した折り、「今度は5年間も開けないで撮りたい」と語っていたが、どうやらその通りになった。デビュー作はカンヌ映画祭と併催される「批評家週間」でグランプリを取り、続くサンセバスチャン映画祭ホライズンズ・ラティノ部門にノミネート、2作目はサンセバスチャン映画祭で金貝賞を競い、国際批評家連盟賞FIPRESCIとスピリット賞の一つジョン・カサヴェテス賞を受賞した。今回の新作は2度目のセクション・オフィシアルのノミネート、本映画祭とは相性がいい。
*『ライフ・アンド・ナッシング・モア』と『ヒア・アンド・ゼア』の作品紹介は、
◎セクション・オフィシアル部門◎
②「Courtroom 3H」(「Sala del Juzgado 3H」)スペイン=米国 ドキュメンター、115分
監督・脚本:アントニオ・メンデス・エスパルサ
撮影:バルブ・バラショユ、サンティアゴ・オビエド
編集:サンティアゴ・オビエド、アントニオ・メンデス・エスパルサ
音楽:N/A N/A
録音:ルイス・アルグェリェス、ナチョ・ロジョ=ビリャノバ
特殊効果:カルメン・ライザック
視覚効果:カジェタノ・マルティン
製作:9AM MEDIA LAB / AQUI Y ALLI FILMS
言語:英語、スペイン語
製作者:ペドロ・エルナンデス・サントス、アルバロ・ポルタネット・エルナンデス、アマデオ・エルナンデス・ブエノ(以上 AQUI Y ALLI FILMS)、(エグゼクティブ)レベッカ・ビリャール・ロドリゲス、アナ・カスタニョーサ(以上 9AM MEDIA LAB)、アンドレア・モヤ・アカソ、(ラインプロデューサー)マリア・ベルトラン、Yalan Hu、他アシスタントプロデューサー

ストーリー:フロリダの州レオン県タラハシーにある統合家庭裁判所、未成年者に関する事件を解決するために設けられた裁判所を舞台にしたドキュメンタリー。主に親子関係の事件を扱う米国唯一の裁判所である。この裁判所の目的は、できるだけ迅速に信頼できるやり方で、こじれた家族をもとに戻すことである。この映画は、米国の作家で公民権運動家でもあったジェイムズ・ボールドウィンの「もしこの国でどのように不正を裁くか、あなたが本当に知りたいと望むなら、保護されていない人々に寄り添って、証言者の声に耳を傾けなさい」という言葉に触発されて作られた。

★前作と同じようにフィクションとドキュメンタリーをミックスさせているようです。監督はマドリード出身だが、現在フロリダのタラハシー市に在住、フロリダ国立大学で教鞭をとっている。
追加情報:『家庭裁判所 第3H 法廷』の邦題で、ラテンビート2020の上映が決定。
金貝賞を競うスペイン映画は2作*サンセバスチャン映画祭2020 ④ ― 2020年08月02日 12:49
セクション・オフィシアルにパブロ・アグエロ

(セクション・オフィシアルのポスター)
★7月30日、コンペティション部門、コンペティション外ほか、ニューディレクターズ部門、サバルテギ-タバカレラ部門などがアナウンスされました。スペイン映画はコンペにパブロ・アグエロの「Akelarre」とアントニオ・メンデス・エスパルサの「Courtroom 3H」(「Sala del Juzgado 3H」)の2作が金貝賞を競うことになりました。他にアウト・コンペティションには、ロドリゴ・ソロゴジェンのTVシリーズ「Antidisturbios」(全6話のうち2話)、特別上映作品としてアイトル・ガビロンドの「Patria」がエントリーされた。コンペ外のウディ・アレンの新作「Rifkin's Festival」はオープニング作品です(アップ済み)。
◎セクション・オフィシアル◎

①「Akelarre」 (スペイン=フランス=アルゼンチン)2020
製作:Sorgin Films / Kowalski Films / Lamia Producciones
監督:パブロ・アグエロ
脚本:パブロ・アグエロ、Katall Guillou
撮影:ハビエル・アギーレ
音楽:マイテ・アロタハウレギ、アランサス・カジェハ
編集:テレサ・フォント
録音:ウルコ・ガライ、ホセフィナ・ロドリゲス
特殊効果:マリアノ・ガルシア、アナ・ルビオ、他
製作者:フレド・プレメル、グアダルーペ・バラゲル・Trellez、(エグゼクティブ)コルド・スアスア、他
データ:製作国スペイン、フランス、アルゼンチン、言語スペイン語・バスク語、2020年、スリラー・ドラマ、90分、撮影地ナバラ州レサカ、公開予定スペイン10月2日、フランス2021年3月24日
映画祭・受賞歴:サンセバスチャン映画祭2020セクション・オフィシアル
*パブロ・アグエロ(メンドサ1977)は、本映画祭2009ニューディレクターズ部門に「77 Doronship」で登場、同2015セクション・オフィシアルに「Eva no duerme」、当ブログではノミネート紹介だけでしたが、ガエル・ガルシア・ベルナルやイマノル・アリアスなどが出演していて、今回の「Akelarre」と同じくアルゼンチン西仏合作でした。アルゼンチンのメンドサ出身だがスペインやフランスとの合作が多く、バスクに軸足をおいている監督です。今回のノミネート作品も17世紀のバスクを舞台にした魔術による裁判のプロセスに着想を得た歴史ドラマで、長編第5作めになる。

(パブロ・アグエロ監督)
キャスト:アレックス・ブレンデミュール(ロステギ裁判官)、アマイア・アベラスツリ(アナ)、ジョネ・ラスピウル(マイデル)、ガラシ・ウルコラ、ダニエル・ファネゴ、ダニエル・チャモロ、他多数
ストーリー:1609年バスク、この地方の男たちは海に出かけてしまっている。アナは村の娘たちと一緒に森で行われるフィエスタに出かけていく。この地方にはびこる魔術による裁判を浄化するよう国王フェリペ3世に依頼された裁判官ロステギは、彼女たちを逮捕して魔術を告発する。彼は魔術の儀式アケラーレについて知る必要があるだろうと決心、おそらく悪魔が操っているにちがいないと調査に着手する。17世紀初頭の為政者による、一つの考え方、一つの言語、一つの宗教を強制することを願った魔女狩り裁判、地方文化の否定が語られる。

(撮影中の魅力的な魔女たち)
★ペドロ・オレアが1984年に撮った同名の映画「Akelarre」の舞台は、バスク州の隣りナバラ州でした。ナバラもアケラーレが行われていた。アレックス・デ・ラ・イグレシアの『スガラムルディの魔女』(13)の舞台もナバラ州の小村スガラムルディ、親子三代にわたる魔女軍団の物語。
*『スガラムルディの魔女』の作品紹介は、コチラ⇒2014年10月12日
★アントニオ・メンデス・エスパルサの「Courtroom 3H」(「Sala del Juzgado 3H」)は次回にします。
ウィレム・デフォーが映画祭の顔に*サンセバスチャン映画祭2020 ③ ― 2020年07月24日 10:14
第68回サンセバスチャン映画祭のポスターが発表になりました

(ウィレム・デフォーをあしらった映画祭ポスター)
★去る7月17日、第68回サンセバスチャン映画祭の顔にアメリカの俳優ウィレム・デフォー(ウィスコンシン州1955)が選ばれました。カンヌ映画祭のように、映画祭の顔を決めるようになったのは、2018年のイザベル・ユペールからで、昨2019年はペネロペ・クルスと女優が続きました。ポスターの制作者は、ニューヨークを拠点に活躍する写真家マーティン・ショレールです。有名無名を問わない肖像写真を得意としているということです。今回のポスターは意表をついた素敵な出来上がりです。
★ウィレム・デフォーは、2005年、本映画祭の栄誉賞ドノスティア賞受賞者です。本国アメリカではアカデミー賞はノミネートだけです。『プラトーン』(86)アカデミー賞助演男優賞ノミネート、『シャドウ・オブ・ヴァンパイア』(00)、『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』(17)、いずれも同じノミネートです。2018年『永遠の門 ゴッホの見た未来』(18)でゴッホを演じ、ベネチア映画祭2018の最優秀男優賞を受賞、しかしアカデミー賞主演男優賞もゴールデン・グローブ賞もノミネートに終わりました。

(ドノスティア賞の栄誉賞受賞、サンセバスチャン映画祭2005授賞式にて)

(ベネチア映画祭2018、ゴッホ役で最優秀男優賞)
★他にもカテゴリーごとのポスターが発表になっています。新型コロナ・ウイリスの感染者拡大で、当然のことながら各映画祭は盛り上がりに欠けています。今年は当ブログもお休み状態、落穂拾いでお茶を濁すことになりそうです。

(小さくてよく分からない、各カテゴリーのポスター一覧)
ヴィゴ・モーテンセンにドノスティア栄誉賞*サンセバスチャン映画祭2020 ② ― 2020年07月08日 16:57
ヴィゴ・モーテンセンにドノスティア栄誉賞の発表

★去る6月22日、第68回サンセバスチャン映画祭2020(9月18日~26日)の栄誉賞ドノスティア賞の発表がありました。開催自体を危惧してアップしないでおきましたが、どうやら動き出しました。栄誉賞受書者は、最近では複数(2人か3人)が多いので、もう一人くらい選ばれるのではないでしょうか。アメリカの俳優ヴィゴ・モーテンセンは、ピーター・ジャクソンの『ロード・オブ・ザ・リング』三部作(01~03)のアラゴルン役で多くのファンを獲得しました。アメリカ映画は日本語版ウイキペディアに詳しいので紹介要りませんので、スペイン語映画を中心にアップいたします。当ブログではリサンドロ・アロンソの『約束の地』(14)の劇場公開に合わせて作品&キャリアを紹介しております。
*『約束の地』の記事は、コチラ⇒2015年07月01日

(リサンドロ・アロンソの『約束の地』の原題「Jauja」から)
★本映画祭で初監督作品「Falling」(カナダ=イギリス合作)が上映されます。サンダンス映画祭2020のクロージング作品、カンヌ映画祭2020のコンペティションにも選ばれました。ベテランのランス・ヘンリクセンと彼自身が親子を演じたほか、脚本も自ら執筆した。父と息子の確執、受け入れ、許しが語られるようです。10月2日スペイン公開も予定されています。


(監督デビュー作「Falling」で親子を演じた、ランス・ヘンリクセンとヴィゴ)
★ヴィゴ・モーテンセン、1958年ニューヨークのマンハッタン生れ、俳優、脚本家、詩人、写真家、画家、ミュージシャン、出版社パーシヴァル・プレス(Perseval Presse2002年設立)経営者、今年「Falling」で監督デビューも果たした。父親はデンマーク人の農業経営者、母親は米国人(ヴィゴ11歳のとき離婚、共同親権)、父親の仕事の関係で特に幼少年期にはベネズエラ、アルゼンチンで育ったことからスペイン語が堪能、父親の母語デンマーク語、加えて母親がノルウェー語ができたのでノルウェー語、ほかスウェーデン語、フランス語、イタリア語もできる。

★1985年、ピーター・ウィアーの『刑事ジョン・ブック/目撃者』のアーミッシュ役でスクリーンに本格デビューした。米アカデミー賞主演男優賞ノミネート3回、デヴィッド・クローネンバーグの『イースタン・プロミス』(07)、マット・ロスの『はじまりへの旅』(16)、ピーター・ファレリーの『グリーンブック』(18)がある。クローネンバーグとは『ヒストリー・オブ・バイオレンス』(05)や『危険なメソッド』(11)でもタッグを組んでいる。

(クローネンバーグの『イースタン・プロミス』から)
★スペイン語映画ではアグスティン・ディアス・ヤネスの『アラトリステ』(06)のディエゴ・アラトリステ役、アルゼンチン映画では、双子の兄弟を演じたアナ・ピターバーグの『偽りの人生』(12)、上記のリサンドロ・アロンソの『約束の地』(14、アルゼンチン、デンマーク合作)のグンナー・ディネセン大尉役など。


(ディエゴ・アラトリステ役のヴィゴ・モーテンセン)
★他にショーン・ペーンの初監督作品『インディアン・ランナー』(91)、ブライアン・デ・パルマ『カリートの道』(93)、ジェーン・カンピオン『ある貴婦人の肖像』(96)、リドリー・スコットの『G.I. ジェーン』(97)、エド・ハリスの監督2作目となるウエスタン『アパルーサの決闘』(08)、コーマック・マッカーシーのベストセラー小説をジョン・ヒルコートが映画化した『ザ・ロード』(09)、ブラジル仏合作のウォルター・サレスの『オン・ザ・ロード』(12)、アルベール・カミュの短編の映画化、監督のダヴィド・オールホッフェンが、ヴィゴを念頭において台本を執筆したという『涙するまで、生きる』(14)などなど数えきれない。モーテンセンのような経歴の持主はそうザラにはいないのではないか。

(フランス映画『涙するまで、生きる』のポスター)
★私生活では、12年前から『アラトリステ』で共演したアリアドナ・ヒルとマドリードのダウンタウンに在住している。現在のパートナーに映画同様永遠の愛を捧げているとか。お互い再婚同士、当時アリアドナはダビ・トゥルエバと結婚しており2人の子供もいた。ヴィゴの一人息子ヘンリーはドキュメンタリー作家。またサッカー・ファンでもあり、『約束の地』の脚本家で詩人のファビアン・カサスとクラブチーム「サンロレンソ・デ・アルマグロ」の熱狂的なサポーターである。カサスの詩集を自分が経営するパーシヴァル・プレスから出版したのが縁ということです。

(ヴィゴの息子ヘンリー、ヴィゴ・モーテンセン、アリアドナ・ヒル、
『グリーンブック』で主演男優賞にノミネートされた米アカデミー賞2019の授賞式)
ウディ・アレンの新作で開幕*サンセバスチャン映画祭2020 ① ― 2020年07月06日 09:17
ウディ・アレンの新作はロマンティック・コメディ「Rifkin's Festival」

★ヴィゴ・モーテンセンのドノスティア賞栄誉賞受賞のニュースを読んでも、ウディ・アレンの新作「Rifkin's Festival」がオープニング作品に選ばれたニュースを読んでも、本当にやれるのかなぁと半信半疑でしたが、セクション・オフィシアル作品の発表に至っては、さすがに重い腰を上げざるを得なくなった。日本からも河瀨直美の『朝が来る』(10月23日公開)と秋田県出身の新人監督佐藤快磨(さとう たくま)の『泣く子はいねぇが』(11月20日公開)の2作が選ばれている。『朝が来る』は中止になったカンヌ映画祭の流れで選ばれると思っていました。『泣く子はいねぇが』は、ドノスティア栄誉賞受賞者の是枝監督が一枚噛んでいるようなのでその線かもしれない。まだ6作だけなので全容はもう少し待たねばならない。

(前列左から、ウディ・アレン、製作者ジャウマ・ロウレス、
後列セルジ・ロペス、ジーナ・ガーション、エレナ・アナヤ、ウォーレス・ショーン)
★第68回サンセバスチャン映画祭のオープニング作品「Rifkin's Festival」は、アメリカ、スペイン、イタリア合作映画。映画よりウディ・アレン自身の性的スキャンダルが先行しているようだ。サンセバスチャン映画祭に訪れたアメリカ人(ジーナ・ガーション)、映画祭に参加したフランス人監督(ルイ・ガレル)に、スペインからエレナ・アナヤやセルジ・ロペスを絡ませたロマンティックコメディのようです。昨年夏のバスク自治州ギプスコア県のサンセバスチャンでの撮影は大掛りなもので、撮影は『地獄の黙示録』や『ラストエンペラー』などでオスカー像を受賞しているヴィットリオ・ストラーロが手掛けている。サンセバスチャン映画祭上映を視野に入れているのはバレバレですね。ただしコンペティション外上映で金貝賞には絡みません。他にウディ・アレン映画でお馴染みのウォーレス・ショーン、クリストフ・ヴァルツなどが共演、メディアプロのCEOジャウマ・ロウレスがプロデュースしている。

(ジーナ・ガーションとルイ・ガレル)

(エレナ・アナヤとウォーレス・ショーン)

(撮影中のクリストフ・ヴァルツ)
★日本では、#MeToo運動の煽りかコロナのせいか、公開が危ぶまれていたロマンティックコメディ『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』(19)が公開されたばかりです。本作の撮影監督もヴィットリオ・ストラーロ、彼も80代入りしたはずです。老いてますます盛んなお二人です。

(ウディ・アレンとヴィットリオ・ストラーロ)
追加情報:『サン・セバスチャンへ、ようこそ』の邦題で、2024年1月19日公開が決定されました。公開まで3年以上もかかりました。
フェルナンド・トゥルエバの「El olvido que seremos」*カンヌ映画祭 ― 2020年06月14日 17:23
コロンビアの作家エクトル・アバド・ファシオリンセの同名小説の映画化

★第73回カンヌ映画祭2020は例年のような形での開催を断念した。マクロン大統領の「7月19日まで1000人以上のイベントは禁止」というお達しではどうにもならない。6月3日、一応オフィシャル・セレクション以下のノミネーションが発表になりました。開催できない場合は、ベネチア、トロント、サンセバスチャンなど各映画祭とのコラボでカンヌ公式映画として上映されることになりました。それでカンヌでのワールドプレミアに拘っている監督たちは来年持ち越しを選択したようです。赤絨毯も、スクリーン上映も、拍手喝采もないカンヌ映画祭となりました。
★フェルナンド・トゥルエバの「El olvido que seremos」(「Forgotten We'll Be」)は、コロンビアのカラコルTVが製作したコロンビア=スペイン合作映画、コロンビアはアンティオキアの作家エクトル・アバド・ファシオリンセのノンフィクション小説「El olvido que seremos」(プラネタ社2005年11月刊)の映画化です。作家の父親エクトル・アバド・ゴメス(1921~87)の生と死を描いた伝記映画です。医師でアンティオキアのみならずコロンビアの人権擁護に尽力していた父親は、1987年メデジンの中心街で私設軍隊パラミリタールの凶弾に倒れた。1980年代は半世紀ものあいだコロンビアを吹き荒れた内戦がもっとも激化した時代でした。アバド家は子だくさんだったが作家はただ一人の男の子で、父親が暗殺されたときは29歳になっていた。

(主人公ハビエル・カマラを配した「El olvido que seremos」のポスター)
アバド家の痛み、コロンビアの痛みが語られる
★エクトル・アバド・ファシオリンセ(メデジン1958)の原作は、2005年11月に出版されると年内に3版まで増刷され、コロンビア国内だけでも20万部が売れたベストセラーです。先ずスペインでは翌年 Seix Barral から出版、メキシコでも出版された他、独語、伊語、仏語、英語、蘭語、ポルトガル語、アラビア語の翻訳書が出ている。21世紀に書かれた小説ベスト100に、コロンビアでは唯一本作が選ばれている。ポルトガルの Casa da América Latina から文学賞、アメリカのラテンアメリカの作品に贈られるWOLA-Duke Book 賞などを受賞している。

(アバド・ファシオリンセの小説の表紙)

(父と息子)
★タイトルの「El olvido que seremos」は、ボルヘスのソネット ”Aqui, hoy” の冒頭の1行目「Ya somos el olvido que seremos」から採られた。父親が凶弾に倒れたとき着ていた背広のポケットに入っていた。あまり知られていない出版社から友人知人に贈る詩集として300部限定で出版されたため公式には未発表だった。そのため小説がベストセラーになると真偽のほどが論争となり、作家の捏造説まで飛びだした。調査の結果本物と判明したのだが、スリルに満ちた経緯の詳細はいずれすることにして、目下は映画とかけ離れるので割愛です。

(ボルヘスのソネット ”Aqui, hoy” のページ)
★コロンビアの作家とスペインの監督の出会いは、カラコルCaracol TVの会長ゴンサロ・コルドバが仲人した。スペイン語で書かれた小説を映画化するにつき、先ず頭に浮かんだ監督は「オスカー監督であるフェルナンド・トゥルエバだった」とコルドバ会長。主役エクトル・アバド・ゴメスにスペインのハビエル・カマラを起用することは、作家のたっての希望だった。「父親の面影に似ていたから」だそうです。映画化が夢でもあり悪夢でもあったと語る作家は、出来上がった脚本を読むのが怖かったと告白している。手掛けたのは監督の実弟ダビ・トゥルエバ、名脚本家にして『「ぼくたちの戦争」を探して』の監督です。

(作家エクトル・アバド・ファシオリンセと監督フェルナンド・トゥルエバ)
★最初トゥルエバ監督はこのミッションは不可能に思えたと語る。その一つは「小説は個人的に親密な記憶だが、映画にそれを持ち込むのは困難だからです」と。しかし「二つ目のこれが重要なのだが、良い本に直面すると臆病になるからだった」と苦笑する。カラコルTVの副会長でもある製作者ダゴ・ガルシアの説得に負けて引き受けたということです。スペイン側は脚本、正確には脚色にダビ・トゥルエバ、主役にハビエル・カマラ、編集にトゥルエバ一家の映画の多くを手掛けているマルタ・ベラスコの布陣で臨むことになった。キャスト陣はハビエル以外はコロンビアの俳優から選ばれた。

(撮影中の監督とハビエル・カマラ)
★作家の娘で映画監督でもあるダニエラ・アバト、アイダ・モラレス、パトリシア・タマヨ(作家の母親セシリア・ファシオリンセ役)、フアン・パブロ・ウレゴがクレジットされている。母親も人権活動家として夫を支えていたエネルギー溢れた魅力的な女性だったということです。当ブログ初登場のダニエラ・アバドは作家の娘、主人公の孫娘に当たり、映画は彼女の視点で進行するようです。今回は女優出演だが、祖父暗殺をめぐるアバド家の証言を集めたドキュメンター「Carta a una sombra」(15)は、マコンド賞にノミネートされ、続くドキュメンタリー「The Smiling Lombana」(18)は、マコンド賞受賞、トゥールーズ映画祭ラテンアメリカ2019で観客賞を受賞している。バルセロナで映画は学んだということです。

(父エクトル・アバド・ファシオリンセと語り合うダニエラ・アバド、2015年)
★スタッフ陣も編集以外はコロンビア側が担当、撮影監督はセルヒオ・イバン・カスターニョ、撮影地は家族が暮らしていたメデジン、首都ボゴタを中心に、イタリアのトリノ(作家は私立のボリバリアーナ司教大学で学んだ後、トリノ大学でも学んでいる)、マドリードなどで行われた。モノクロとカラー、136分と長めです。音楽をクシシュトフ・キェシロフスキの『ふたりのベロニカ』や「トリコロール愛の三部作」を手掛けたポーランドの作曲家ズビグニエフ・プレイスネルが担当することで話題を呼んでいた。彼はトゥルエバの「La reina de España」(16)の音楽監督だった。プロダクション・マネージメントはイタリアのマルコ・ミラニ(『ワンダーウーマン』)と、コロンビア映画にしては国際色豊かです。
★本作はまだ新型コロナが対岸の火事であった2月1日、カルタヘナで毎年1月下旬に4日間行われるヘイ・フェスティバルHay Festival Cartagenaという文学祭で、作家と監督が出席しての講演イベントがありました。もともとは1988年、ウェールズ・ポーイスの古書店街が軒を連ねるヘイ・オン・ワイで始まったフェスティバルが世界各地に広がった。コロンビアではカルタヘナ、スペインはアルハンブラ宮殿で開催されている。現在は文学講演、サイン会、書籍販売の他、音楽や女性問題などのイベントに発展している。YouTubeを覗いたら150名の招待者のなかにマリベル・ベルドゥとか、作家のハビエル・セルカスも出席していました。下の写真は映画の宣伝も兼ねた講演会に出席した両人。フェスティバル期間中にトゥルエバの『美しき虜』が上映されていた。

(アバド・ファシオリンセとトゥルエバ監督、2月1日、アドルフォ・メヒア劇場)
★現在の中南米諸国のコロナ感染状況は、コロンビアを含めてレベル3(渡航は止めてください)だから滑り込みセーフのフェスティバルでした。スペインも渡航中止対象国ですから、サンセバスチャン映画祭(9月18日~26日)が予定通り開催できるかどうか分かりません。開催された場合はカンヌ映画祭公式セレクション作品としてワールド・プレミアされる可能性が高いと予想しています。
追加情報:英題でラテンビート2020のオープニング作品に選ばれました。
追加情報:『あなたと過ごした日に』の邦題で2022年7月劇場公開されました。
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