アンドレス・ウッドの新作「Araña」*サンセバスチャン映画祭2019 ⑪ ― 2019年08月16日 12:43
ホライズンズ・ラティノ第1弾――チリの監督アンドレス・ウッドの新作
★アンドレス・ウッド久々の新作であること、ラテンビートLBFFとの深い関わりやキャストにメルセデス・モランやマリア・ベルベルデが出演ということで、チリ=アルゼンチン=ブラジル合作「Araña / Spider」の紹介から。チリの監督と言えば、『No』や『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』のパブロ・ララインが有名ですが、彼はデビュー作『トニー・マネロ』がカンヌ映画祭併催の「監督週間」にノミネートされたこともあって、カンヌFF出品が多い。他にベネチア映画祭やベルリン映画祭にも出品しており、今年も新作「Ema」はベネチアとトロントに出品された。
「Araña / Spider」
製作:Bossa Nova Films / Magma Cine / Wood Producciones
監督:アンドレス・ウッド
脚本:ギジェルモ・カルデロン
撮影:M.I. Littin-Menz
キャスティング:ロベルト・マトゥス
美術:ロドリゴ・バサエス
製作者:パトリシオ・ペレイラ(エグゼクティブ)、パウラ・コセンサ、アレハンドロ・ガルシア、他
データ:製作国チリ=アルゼンチン=ブラジル、スペイン語、2019年、スリラー、サンセバスチャン映画祭ホライズンズ・ラティノ部門出品、チリ公開2019年8月15日
キャスト:メルセデス・モラン(イネス)、マリア・バルベルデ(ヤング・イネス)、フェリペ・アルマス(イネスの夫フスト)、ガブリエル・ウルスア(ヤング・フスト)、マルセロ・アロンソ(イネスとフストの親友ヘラルド)、ペドロ・フォンテーヌ(ヤング・ヘラルド)、カイオ・ブラット(アントニオ)、マリア・ガルシア・オメグナ(ナディア)、マリオ・ホールトン(ホセ)、ハイメ・バデル(ドン・リカルド)、他
ストーリー:1970年代の初頭、イネス、夫のフスト、夫婦の親友ヘラルドの三人は、アジェンデ政権打倒を目論む過激な国粋主義を標榜する極右グループのメンバーだった。犯罪や陰謀が渦巻くなか、彼らは歴史の流れを変えようと或る政治的犯罪に手を染めていく。同時に危険で情熱的な三角関係にもつれ込み、裏切りにより彼らは永遠に袂を分かつことになる。40年という長いあいだ、復讐と強迫観念に捉われていたヘラルドは、青春時代の国家主義的な主義主張にかき立てられていた。一方イネスは、実業家として成功を収めていた。警察は、ヘラルドと自宅に保管してある書類をを監視しており、イネスはかつての政治的性的な過去や夫フストのことが明るみに出ることを避けようと最善を尽くすだろう。サルバドル・アジェンダ政権(1970年11月4日~1973年9月11日)打倒を目標に生まれたパラミリタール「祖国と自由」運動を掘り下げる。二人のイネスによって物語は語られる。 (文責:管理人)
(左から、青春時代の仲間、イネス、ヘラルド、フストの3人)
『マチュカ 僕らと革命』とは別の視点で撮った「Araña」
★アンドレス・ウッド(サンティアゴ・デ・チレ1965)は、監督、脚本家、製作者、SSIFF1997ニューディレクターズ部門に出品された「Histrias de fútbol」がデビュー作。カンヌFF「監督週間」出品の「Machuca」(04、『マチュカ 僕らと革命』)、「La buena vida」(08、『サンティアゴの光』LBFF2009、ゴヤ賞2009イスパノアメリカ映画賞)、「Violeta se fue a los cielos」(11、『ヴィオレータ、天国へ』LBFF)などが代表作。『サンティアゴの光』がLBFFで上映された折り来日している。監督としては『ヴィオレータ、天国へ』を最後に、現在は製作者としてTVシリーズに力を注いでおり、今回8年ぶりに『マチュカ』とは別の視点で「Araña」を撮った。
*アンドレス・ウッドのキャリア&フィルモグラフィーは、コチラ⇒2018年03月04日
(アンドレス・ウッド監督、2019年8月)
★「もう一つの9-11」と言われるのが1973年11月3日に勃発したチリの軍事クーデタである。如何にしてピノチェトがクーデタを成功させ、20年近くにも及ぶ独裁政権を維持できたのか考え続けているアンドレス・ウッドが、『マチュカ 僕らと革命』とは別の視点でチリの現代史を描いている。40年の時を隔てて、キャストは各々別の俳優が演じている。ヤング・イネスはスペイン女優マリア・バルベルデ(マドリード1987)、現代のイネスはアルゼンチンのベテラン女優メルセデス・モラン(サン・ルイス1955)が扮した。バルベルデは2003年、マヌエル・マルティン・クエンカの「La flaqueza del bolchevique」で銀幕デビュー、相手役のルイス・トサールと堂々わたり合って、いきなり翌年のゴヤ賞新人女優賞を受賞したシンデレラ・ガール。LBFF2014上映の『解放者ボリバル』、Netflixのマリア・リポル『やるなら今しかない』など、スペイン映画に止まらず、イタリア、イギリス、米国映画にも出演している。
*マリア・バルベルデのキャリア紹介は、コチラ⇒2015年07月14日
(チリ公開前夜祭に登場した二人のイネス、モランとバルベルデ、2019年8月14日)
★メルセデス・モランは、昨年のLBFFで上映されたアナ・カッツの『夢のフロリアノポリス』に主演、ルクレシア・マルテルの「サルタ三部作」の第1部『沼地という名の町』、第2部『ラ・ニーニャ・サンタ』の他、パブロ・ララインの『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』など、当ブログでは数回にわたってキャリア紹介をしています。リカルド・ダリンと共演することが多く、アルゼンチンではチョー有名な女優。
*メルセデス・モランの主なフィルモグラフィーは、コチラ⇒2018年09月21日
(過去の秘密が暴露されることを怖れるイネス、メルセデス・モラン)
★ヘラルド役のペドロ・フォンテーヌとマルセロ・アロンソはチリの俳優、ペドロ・フォンテーヌは2015年、マリア・エルビア・レイモンドの「Days of Cleo」でデビューした。プロデューサーとしてLBFF上映のクリストファー・マーレイの『盲目のキリスト』や、アレハンドロ・フェルナンデス・アルメンドラスの「Aqui no ha pasado nada」を手掛けている。マルセロ・アロンソはパブロ・ララインのデビュー作『トニー・マネロ』や「Post Mortem」の他、『ザ・クラブ』のガルシア神父や『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』などに出演している演技派で、本作主演の一人。他に「Princesita」などが代表作。TVシリーズ出演が多く、チリの有名どころが総出演している観のある人気犯罪ドラマ「Prófugos」(11&13)にも出演している。
(マリア・バルベルデとペドロ・フォンテーヌ)
(ポスターにも採用されたヘラルド役のマルセロ・アロンソ)
★フスト役のガブリエル・ウルスアとフェリペ・アルマスの二人もチリと、大方はチリの俳優が起用されている。ガブリエル・ウルスアは2010年、パスカル・クルムの「MP3: una pelicula de rock descargable」でデビュー、他にフアン・ギジェルモ・プラドのアクション・アドベンチャー「Puzzle negro」など。フェリペ・アルマス(サンティアゴ1957)は、主にTVシリーズに出演しているテレビ界の大物俳優。しかし目下自閉症の息子をほったらかしにしていたことで告発されており窮地に立たされている。他にドン・リカルド役のハイメ・バデル(バルパライソ1935)は、パブロ・ララインのほとんどの作品「Post Mortem」から『ザ・クラブ』『No』『ネルーダ~』などに顔を出している。
(ヤング・イネスのマリア・バルベルデ、ヤング・フストのガブリエル・ウルスア、
背後にグループ「PATRIA Y LIBERTAD 祖国と自由」のポスター)
(公開前夜祭でのフェリペ・アルマス)
★国家主義的な極右グループ「PATRIA Y LIBERTAD 祖国と自由」のリーダーらしきアントニオは、ブラジルのカイオ・ブラット(サンパウロ1980)が演じている。ナディアを演じたマリア・ガルシア・オメグナは美人女優として売り出し中だが、目下第一子を抱えており、夫君ゴンサロ・バレンスエラにエスコートされて前夜祭に参加、話題を集めていた。
(マリア・ガルシア・オメグナ、公開前夜祭にて)
◎関連記事(管理人覚え)
*『ザ・クラブ』の紹介記事は、コチラ⇒2015年10月18日
*『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』の紹介記事は、コチラ⇒2017年11月22日
*「Aqui no ha pasado nada」の紹介記事は、コチラ⇒2016年08月23日
*『盲目のキリスト』の紹介記事は、コチラ⇒2016年10月06日/10月21日
*追加情報:ラテンビート2019で『蜘蛛』の邦題で上映が決定しました。
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