ハイロ・ブスタマンテの「Temblores」*サンセバスチャン映画祭2019 ⑫ ― 2019年08月19日 11:29
ホライズンズ・ラティノ第2弾――ハイロ・ブスタマンテの第2作目「Temblores」
★ハイロ・ブスタマンテは、第3作目「La Llorona」がコンペティション外ではあるが、ホライズンズ・ラティノ部門のクロージング作品に選ばれ、さらにベネチア映画祭2019の「ベニス・デイ」上映も決定しているなど脚光を浴びているグアテマラの監督。第2作となる「Temblores」は、既にベルリン映画祭2019「パノラマ」部門でワールド・プレミアされた。受賞には至らなかったが、テーマの一つがLGBT問題であることからテディー賞対象作品だった。グアテマラではホモセクシュアルは悪い性癖として根絶するための治療が必要と考えられている。テーマとしてはタブーの一つであると、監督はベルリンFFのインタビューに答えていた。
(監督を挟んでパブロとイサを演じた二人の主演者、ベルリンFFにて)
★本作はグアテマラ社会の階級格差、宗教問題、不寛容が語られているようで、デビュー作『火の山のマリア』とテーマが被さっている印象です。結婚して二人の子供に恵まれながら、ある男性を愛してしまったことから地獄を見ることになる敬虔な福音派の信者パブロの物語。ベルリンFF以降、マイアミ映画祭、ルクセンブルク市、グアダラハラ、シアトル、トゥールーズ・ラテンアメリカ、ミネアポリス・St. ポールほか、国際映画祭上映が続いているが、若干グアテマラ社会の分かりにくさがネックになっているのか目下のところ大賞受賞には至っていない。
「Temblores / Tremors」
製作:Tu Vas Voiir Productions / La Casa de Production / Memento Films Production /
Iris Productions / Arte France Cinéma
監督・脚本:ハイロ・ブスタマンテ
撮影:ルイス・アルマンド・アルテアガ
音楽:パスクアル・レイェス(オリジナル・ミュージック)
編集:セサル・ディアス、サンティアゴ・Otheguy
衣装デザイン:ベアトリス・ランタン
プロダクションマネージメント:マウリシオ・エスコバル
製作者:ジェラール・ラクロア、デ・ヘスス・ペラルタ、ニコラス・スティル、エドガルド・テネンバウム、他
データ:グアテマラ=フランス=ルクセンブルク、スペイン語、2019年、ドラマ、107分、フランス公開2019年5月1日、グアテマラ8月22日
映画祭・受賞歴:ベルリンFF2019 パノラマ部門、グアダラハラFFイベロアメリカ部門撮影賞(ルイス・アルマンド・アルテアガ)受賞、ミネアポリス・St. ポールFFイメージング・フィルムメーカー賞受賞、L.A.Outfest 演技賞(フアン・パブロ・オリスラガー)、マイアミFF、トゥールーズ・ラテンアメリカFF観客賞・Rail d’Oc 受賞、トランシルバニアFF、ワールド・シネマ・アムステルダムFF、サンセバスチャンFF ホライズンズ・ラティノ部門出品など多数。
キャスト:フアン・パブロ・オリスラガー Olyslager(パブロ)、マウリシオ・アルマス・セバドゥア(パブロの恋人フランシスコ)、ダイアン・バゼン(パブロの妻イサ)、マリア・テロン(ロサ)、サブリナ・デ・ラ・ホス(主任司祭)、ルイ・フラティ(司祭)、マグノリア・モラレス(クリスティナ)、セルヒオ・ルナ(サルバドル)、パブロ・アレナレス(アベル)、マラ・マルティネス(エバ)、他
ストーリー:40歳になるパブロは、2人の子供のよき父親でもあり、福音派の教義を忠実に守っている敬虔な信徒でもある。しかし、ある一人の男性に魅せられたことから、彼の伝統を重んじる完璧な人生は崩れ始め、感情は信仰も含めて苦境に立たされている。彼の家族と教会が彼の治療の必要性を決定すると、治療の抑圧が強まるにつれ、不寛容という地獄の苦痛に堪えることになる。まだLGBTに対する正しい知識がなく、治療が必要な病気と考えるグアテマラ社会での、敬虔な福音派の信徒という宗教問題を絡ませて、一変したパブロの人生が語られる。 (文責:管理人)
(教会で祈りを捧げるパブロ一家と信徒たち)
デビュー作『火の山のマリア』と同じスタッフで撮った「Temblores」
★カミングアウトしたことで人生が一変する男の悲劇が語られるようだが、グアテマラ社会の情報が少ないなか、国際映画祭で受賞しまくったデビュー作のようなサプライズには乏しいようだ。スタッフのメンバーは、プロデューサー以下、音楽(パスクアル・レイェス)、撮影監督(ルイス・アルマンド・アルテアガ)とも前作と同じメンバーです。編集者の一人セサル・ディアスは同じ部門にノミネートされている「Nuestras madres / Our Mothers」の監督、『火の山のマリア』に引き続いて参画している。グアテマラのような市場の小さい映画発達途上国では、スタッフは互いに協力し合わざるをえないのかもしれない。
★キャスト陣のうち、主人公パブロ役のフアン・パブロ・オリスラガーは、2004年、エリアス・ヒメネス・Trachtenbergの「La casa de enfrente」でデビュー、代表作は、同監督の「VIP:La otra casa」(07)、ライ・フィゲロアの「La bodega」(10)、「Toque de Queda」(11)、ホンジュラス映画、フアン・カルロス・ファンコニの「El Xendra」(12)に出演、ハイロ・ブスタマンテの3作目「La Llorona」にも出演している。各作品ともグアテマラ内戦、政権の汚職、刑務所が舞台だったりと重いテーマの作品ばかりです。パブロが愛するフランシスコ役のマウリシオ・アルマス・セバドゥアは映画初出演のようです。
(パブロとフランシスコ)
★パブロの妻を演じたダイアン・バゼンは本作でデビュー、前作でマリアの母親を演じて貫禄の演技をしたマリア・テロンがクレジットされている。彼女は「La Llorona」にも出演している。本作でデビューした主任司祭役のサブリナ・デ・ラ・ホスの演技を褒めている記事があったが、予告編からもその凄みのある演技が伝わってくる。彼女も「La Llorona」にクレジットされている。ホモセクシュアル矯正施設のような存在に驚きを禁じ得なかった。また2人の子役の演技も高評価です。IMDb情報では、他のキャストもほとんどが本作が映画デビューのようです。
(パブロの家族、妻イサと2人の子供)
(悪い性癖の治療を受けている患者たち、中央が主任司祭のサブリナ・デ・ラ・ホス)
★パブロとフランシスコのバックグラウンドが非常に異なっていること、二人が異なった信仰を持っていることなど、厳しい階級格差や信仰問題の存在が希薄な本邦での公開は難しいかもしれない。どちらかというと第3作目となる「La Llorona」のほうが期待できるのではないか。
*『火の山のマリア』の作品、監督キャリア&フィルモグラフィーは、コチラ⇒2015年08月28日
*『火の山のマリア』のLBFFの記事は、コチラ⇒2015年10月25日
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