アレックス・デ・ラ・イグレシアの新作*悲喜劇「Perfectos desconocidos」 ― 2017年12月17日 16:22
パオロ・ジェノベーゼの『おとなの事情』リメイク版
★イタリア映画『おとなの事情』(2016、日本公開2017年3月)は、イタリアのアカデミー賞ドナテッロ賞の作品・脚本賞受賞作品、興行成績約20億円をたたき出した話題作(邦題はmierdaというほどではありませんが、テーマとはズレているかも)。各国からリメイク版の要請があった中でアレックス・デ・ラ・イグレシアが権利を獲得、今回アナウンス通り12月1日にスペインで公開されました。スペイン版は同じ意味の「Perfectos desconocidos」(仮題「まったくの見知らぬ人」)です。多分こちらも日本公開が期待されますが、どんな邦題になるのでしょうか。今年『クローズド・バル』がスペインと同時に公開され、その折に本作についても簡単な紹介をいたしました。1年に長編2作というのは監督にとっても初めてのことではないか。
*「Perfectos desconocidos」の紹介記事は、コチラ⇒2017年2月26日

★大体プロットはオリジナル版と同じようですから、詳細は公開時にアップするとして、キャスト陣を含む簡単なデータだけご紹介しておきます。批評家の評価は概ねポジティブで、公開最初の土曜日にはチケット売り場に行列ができたということですから、観客の評判もまずまずなのかもしれません。12月13日ノミネーションの発表があった「ゴヤ賞2018」(授賞式2月3日)には『クローズド・バル』が録音部門に絡んでいるだけのようです。プレス会見では「観に来てください。そうすればその資金でまた次回作が撮れるから」とデ・ラ・イグレシア監督は相変わらず意欲的でした。

(行列をする観客たち、12月2日、マドリードで)
「Perfectos desconocidos」
製作:Telecinco Cinema / Nadie es perfecto / Pokeepie Films / Mediaset Espana /
Movistar+ 協賛:スペイン教育・文化・スポーツ省
監督・脚本:アレックス・デ・ラ・イグレシア
脚本:ホルヘ・ゲリカエチェバリア (リメイク:パオロ・ジェノベーゼ、他)
撮影:アンヘル・アモロス
音楽:ビクトル・レイェス
編集:ドミンゴ・ゴンサレス
製作者:エグゼクティブ・プロデューサー(カロリナ・バング、キコ・マルティネス、パロマ・モリナ)、プロデューサー(アルバロ・アウグスティン、Ghislain Barrois)
データ:スペイン、スペイン語、2017年、96分、ブラックコメディ、2017年11月28日マドリードでプレミア、一般公開12月1日
主要キャスト:
エドゥアルド・フェルナンデス(アルフォンソ、整形外科医)
ベレン・ルエダ(アルフォンソ妻エバ、臨床心理医)
エルネスト・アルテリオ(アントニオ、弁護士)
フアナ・アコスタ(アントニオ妻アナ、主婦?)
エドゥアルド・ノリエガ(エドゥアルド、タクシードライバー)
ダフネ・フェルナンデス(ブランカ、獣医)
ペポン・ニエト(ペペ、ギムナジウムの中学教師)
プロット:夏の月食の晩、お互い相手の人生を分かりあっていると思っている4つのカップルが、夕食を共にすることにした。ホストはアルフォンソとエバ、客人はアントニオ&アナ夫婦、新婚ホヤホヤのエドゥアルド&ブランカ、「新恋人ルシア」の都合がつかなく一人でやってきたペペの5人。宴もたけなわ、各自のスマートフォンをオープンにして遊ぶゲームをブランカが提案する。掛かってきたメールやメッセージは即座に声に出して読み上げねばならないというもの。一瞬しり込みする面々、しかし一人二人とスマホがテーブルに並んでいく。秘密など何もないはずの夫婦や友人間に次々に明らかになっていく知られたくない不都合な事柄、秘密が暴かれ丸裸になると人間どうなるか、プライバシーの喪失はアイデンティティの喪失につながるという怖ろしいオハナシ。ワンシチュエーション・コメディ。

(左から、ベレン・ルエダ、エドゥアルド・ノリエガ、フアナ・アコスタ、エルネスト・
アルテリオ、エドゥアルド・フェルナンデス、ダフネ・フェルナンデス、ペポン・ニエト)
プライバシーの喪失はアイデンティティの喪失を意味する
★オリジナル版『おとなの事情』とプロットはあまり変わっていない印象です。便利このうえないスマホもひとたび使い方を誤ると暴虐な武器になり、スマホが独裁者となって人間を支配するという本末転倒が起きる。痛くもない腹をさぐられ、信頼関係は崩れてしまう。プライバシーの喪失はアイデンティティの喪失を意味するがテーマでしょうか。
★デ・ラ・イグレシア(1965、ビルバオ)は2014年6月、女優カロリナ・バング(1985、テネリフェ)と20歳の年齢差を超えて結婚、約1年前の2016年に女の子フリアの父親となった。来年にはもう一人の女の子が生まれるそうです。カロリナ・バングはまだ4ヵ月とかでウエストを絞ったドレスにハイヒール姿で新作のプレゼンテーションに出席した。今作には出演はなくエグゼクティブ・プロデューサーを務めている。元ファッションモデルだけあって身長の高さは半端じゃない。ツーショットは常に頭半分ほど違う。女優復帰が待たれる。

(新作「Perfectos desconocidos」のプレゼンに現れた夫妻、11月29日マドリードにて)
★脚本は、前作『クローズド・バル』を手掛けたホルヘ・ゲリカエチェバリア、リメイク版がオリジナルを超えることは簡単ではないが、果たして今作は超えられるか、脚本家の料理の腕の見せどころです。現実には『おとなの事情』のように次々と事件が起こるとは思えないが、携帯のなかにデーモンが隠れていることは確かでしょう。掛けてくる相手は、まさかゲームをしているとは思わないから時と場合を選ばない。登場人物も観客も張り詰めた緊迫感でドキドキハラハラする。人の秘密は覗きたいものだが、かなり危険なゲーム、実際こんな悲喜劇にはならないはずだが、大昔から秘密をもつことは罪ではないし、曖昧にしておいたほうがベターなケースもあるでしょう。
★ホームパーティのホスト役エドゥアルド・フェルナンデスは、コメディは何本か出演しているがデ・ラ・イグレシア作品は意外や初めて、ホステス役のベレン・ルエダ、イネス・パリスの第4作「La noche que mi madre mató a mi padre」の辛口コメディに初挑戦、かなり話題をよんだ。コメディが気に入ったのか今度はデ・ラ・イグレシア作品に初挑戦した。パリス作品でも両人は夫婦役を演じていた。弁護士夫婦を演じたエルネスト・アルテリオとフアナ・アコスタは実際でも夫婦、ペポン・ニエトはデ・ラ・イグレシアの常連の一人、幾つになっても老けないエドゥアルド・ノリエガ、当ブログ初登場のダフネ・フェルナンデス、テレビの紹介番組に出まくって宣伝に努めている旬の女優。芸達者揃いで危なげないが、問題はチームワークでしょうか。

★ゴヤ賞2018には絡んでいないようですが、コメディはだいたい大賞候補には縁遠いようです。来年にはオリジナル版同様、大笑いさせてもらえるでしょうか。
*「La noche que mi madre mató a mi padre」の紹介記事は、コチラ⇒2016年4月25日
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