”Relatos Salvajes”驚きの9個*ゴヤ賞2015ノミネーション ④2015年01月19日 11:14

              作品賞・監督賞含めて9個とは!

   

★“Relatos salvajes”(英題“Wild Tales”)は、スペイン映画でなくアルゼンチン≂スペイン合作のアルゼンチン映画だと思っていました。アカデミー賞外国語映画賞のアルゼンチン代表作品だったからね。従って「イベロアメリカ映画賞」には当然ノミネーションを予想していたし、受賞も太鼓判でした()。作品賞は製作会社が主としてアルモドバル兄弟の「エル・デセオ」だから分かるとして、監督賞には違和感があります。しかし、2014年のスペイン興行成績が第5位の400万ユーロ(約72万人)と貢献したから無視できないか。かつてマルセロ・ピニェイロの『瞳の奥の秘密』(2009)が同じケースとして記憶にありますが、オスカー賞外国語映画賞を受賞したんでした。

     


 

★大物監督が我も我もと押しかけ、新人監督のエントリーが珍しくなったカンヌ映画祭のコンペティションに選ばれたのが快進撃の始まりでした。アグスティン・アルモドバルが、「彼のような若い監督の作品がカンヌのコンペに持って来られたのは、神の恩恵かもしれない」と語っていたように、カンヌのコンペティションは新人を寄せつけなくなっている。アルゼンチンでは有名でも国際的には新人。エル・デセオの後押しがあったからでしょうか、プレス会見では、アルモドバル監督も最前列で「我が子」を見守っていましたからね。結局カンヌは無冠に終わりましたが波及効果は絶大でした。

  

     (アルモドバル兄弟に挟まれて、カンヌ映画祭2014授賞式にて)

 

★アカデミー賞2015の最終ノミネーションもやっと出揃い、本作もアルゼンチン代表作品として「外国語映画賞」5作品に踏み止まりました。現在は製作者も監督もロスに集合してプロモーションに大わらわですが、下馬評では受賞は難しい。投票には政治的なことも左右されるから、会員に会うことは重要なことで、クチコミはここでも有効です。アグスティン・アルモドバルは「多分『イーダ』が受賞するでしょうが、(受賞しなくても」決して不名誉なことではありません。ノミネーションだけでも素晴らしい」と語っています。オスカー賞にノミネートされるということはそういうことなんですね。当ブログでもカンヌ映画祭トロント映画祭オスカー賞プレセレクションと数回にわたって、スタッフ、キャスト、プロット、監督紹介をしてきました。それらと内容が重なる部分もありますがノミネーション9は以下の通りです。

 

作品賞El Deseo S.A.(西、アウグスティン& ペドロ・アルモドバル、エステル・ガルシア/

Kremer & Sigman Films(アルゼンチン、ウーゴ・シグマン)、
   他
Corner Producciones /
Televisión Federal (後援INCAA / ICAA 

監督賞オリジナル脚本賞:ダミアン・シフロン Szifron

主演男優賞:リカルド・ダリン(エピソード“Bombita”シモン役)

オリジナル作曲賞:グスタボ・サンタオラジャ

プロダクション賞エステル・ガルシアアナリア・カストロ・バルセッチ、他

編集賞:パブロ・バルビエリ・カレラ、ダミアン・シフロンSzifron

メイク&ヘアメイク賞 マリサ・アメンタ、ネストル・ブルゴス

イベロアメリカ映画賞:監督ダミアン・シフロン Szifron 

 

★なかで確実なのがイベロアメリカ映画賞、混戦が予想されるが「もしかしたら」がオリジナル作曲賞でしょうか。主演男優賞のリカルド・ダリンは『瞳の奥の秘密』でもノミネートされましたが、『プリズン211』と同じ年だったから不運でした。今回は主演といっても6話構成の1話だけの主人公だし、このカテゴリーは“La isla mínima”の主役2人のどちらかに決定しているようなものだから受賞できない。多分サンセバスチャン映画祭、フォルケ賞の男優賞を受賞したハビエル・グティエレスの手に渡るでしょう。アルゼンチンのアカデミー賞と言われる「スール賞」では、主演男優賞はリカルド・ダリンでなくオスカル・マルティネス、女優賞はエリカ・リバスが受賞しました。アルゼンチンでは814日に公開されてから10月までにチケットが約300万以上売れたということで、スピードは1997年、統計を公式に撮り始めてからでも異例の速さと報じています。(写真下:カンヌ映画祭に参加したときのもの)

   

作品賞、監督賞、主演男優、主演女優(エリカ・リバス)以下10部門を制覇した。因みに『瞳の奥の秘密』は13部門制覇でした。どこもここも一極集中は流行りです。

 

   (エリカ・リバス、アルモドバル、オスカル・マルティネス)

 

作品賞は、スペイン部門とラテンアメリカ部門に分かれていたフォルケ賞では受賞しましたが、ゴヤ賞はまず考えられない。“La isla minima”か『エル・ニーニョ』のどちらか。エル・デセオにアレルギー症状をおこす会員が結構多いから難しい()2005年の“Tiempo de valientes長編第2)以来9年ぶりの映画界復帰を説得したのは、アグスティン・アルモドバルでした。「じゃ、やりましょう」となるまでには紆余曲折があったようで、20133月に製作発表があったときには、既に上記の製作会社と配給ワーナー・ブラザーズが決まっているという幸運な出発でした。

 

         

    (アグスティン・アルモドバルとエステル・ガルシア フォルケ賞授賞式にて)

 

★しかし2013年のカンヌのメルカードに脚本を見せたときの反応は必ずしも良くなかった。コメディ、スリラー、ホラーとジャンルが多義に渡り分類が難しかったからのようです。「それは最初から怖れていたことで、自分たちの心配通りになった」とアグスティン。しかし各エピソードには自信があり、2014年のカンヌ本番の反応は期待以上だった。つまり「快進撃はカンヌで始まった」というわけです。各国どこでも社会的な問題を抱えており、その背後には暴力が潜んでいて、その暴力は熱伝導のように伝わっていくから、結果ジャンルの分類など観客には不必要だったというわけ。

 

 監督キャリア&フィルモグラフィー

ダミアン・シフロン Damián Szifron1975年ブエノスアイレス州のラモス・メヒア市生れ、脚本家、監督、エディター、プロデューサー(シフロンまたはジフロン?)。名前から分かるようにユダヤ系アルゼンチン人。父親が大の映画好きでその影響がある由。ユダヤ系の私立校Escuela Tecnica ORTでマスメディア学を専攻。その後、映画理論を学び、ブエノスアイレスの私立の映画大学(Fundacion Universidad del Cine FUC)で監督演出を学んでいる。1992年“El tren”で短編デビュー(短編多数)、1994年テレビ界に進出、TVドラ“Atorrantes”(199699)をプロデュースする。このとき知り合った女優マリア・マルルと結婚、2女の父親である。彼女は本作の「パステルナク」にイサベル役で出演している。長編は以下の通り:

 

2003年 El fondo del mar(“Bottom Sea” 長編1)ブラック・コメディ

2001年から脚本に取りかかり、マル・デル・プラタ国際映画祭で上映、イベロアメリカ部門の「銀のオンブー」賞、国際映画批評家連盟賞を受賞。サンセバスチャン映画祭で審査員特別メンション、トゥールーズ映画祭でフランス批評家賞など多数。アルゼンチンの「クラリン賞」では最優秀作品・脚本・監督を受賞している。

2005Tiempo de valientes On Probation 長編第2アクション・コメディ

本作がビアリッツ映画祭(ラテンアメリカ部門)で観客賞、マラガ映画祭(同)では主役2人のうちルイス・ルケが男優賞(銀賞)を受賞し、ペニスコラ・コメディ映画祭では、作品賞、監督賞、もう一人の主役ディエゴ・ペレッティが男優賞を受賞した。

 

         

        (カンヌでのツーショット、当時妊娠中、2ヵ月後に次女誕生)

 

2006年よりテレビ界で活躍、シリーズ物のTVドラでヒットを飛ばし、映画界復帰が待たれていた。残りのノミネーションは予想つきません。というわけで可能性が残されている「オリジナル作曲賞」のグスタボ・サンタオラジャの紹介だけしておきます。

 

★最初音楽担当は、『私の秘密の花』(1995)以降アルモドバル映画の全作を担当しているアルベルト・イグレシアスがアナウンスされていた。彼はゴヤ賞最多の受賞歴があり、ゴヤの胸像を10個もコレクションしている。オスカー賞にもフェルナンド・メイレレスの『ナイロビの蜂』でノミネートされている実力派。しかし何かの事情で変更になったか、蓋を開けたらサンタオラジャになっていた。出演者が変わるとか、時々こういうことはありますね。

 

  グスタボ・サンタオラジャ

★アメリカで活躍中だが、故郷ブエノスアイレスに戻って音楽を担当した。サンタオラジャによれば、ロック、ソウル、アフリカのリズム、ラテンアメリカのポピュラー音楽をミックスさせたとのこと。劇場公開になった映画の代表作は以下の通り:

 

2000年『アモーレス・ペロス』アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ

2003年『21グラム』アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ、

2004年『モーターサイクル・ダイアリーズ』ウォルター・サレス

2005年『ブロークバック・マウンテン』アン・リー、2006アカデミー作曲賞を受賞

2006年『バベル』アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ、2007アカデミー作曲賞を受賞

2010年『ビューティフル』アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ

2013年『8月の家族たち』ジョン・ウェルズ

 

    

(監督とサンタオラジャ)

 

関連記事管理人覚え

カンヌ映画祭:201451日/522

トロント映画祭:2014815

アカデミー賞プレセレクション:20141221

フォルケ賞受賞:2015114