チリ映画『そこから泳いで、私の方へ』鑑賞記*SSIFF2025 ㉑ ― 2025年10月24日 15:33
ドミンガ・ソトマヨールの新作「Limpia」のストリーミング配信始まる

★第73回サンセバスチャン映画祭オリソンテス・ラティノス部門オープニング作品「Limpia」が、予告通り『そこから泳いで、私の方へ』の邦題で配信が始まりました。ドミンガ・ソトマヨールの第4作め、良し悪し、白黒がはっきりする映画を好む人には不向きです。伏線やメタファー、謎解きがお好きな方にはお奨めします。以前、簡単ですが監督のキャリア&フィルモグラフィーとして、デビュー作『木曜から日曜まで』と、第2作め「Mar」の紹介記事をアップしています。新作はサンセバスチャン映画祭オリソンテス・ラティノス部門のオープニング作品です。映画祭には監督以下、主役のマリア・パス・グランジャン、製作者のフアン・デ・ディオス・ラライン、ロシオ・ハドゥエ、脚本家ガブリエラ・ララルデ、子役の演技指導者マリア・ラウレ・バーチなど大勢が参加した。

(ドミンガ・ソトマヨール、SSIFF2025、フォトコール)
*『そこから泳いで、私の方へ』の作品紹介は、コチラ⇒2025年09月16日
*『木曜から日曜まで』と「Mar」の紹介記事は、コチラ⇒2015年03月04日

(左から、ロシオ・ハドゥエ、ガブリエラ・ララルデ、ソトマヨール監督、
マリア・パス、マリア・ラウレ・バーチ、フアン・デ・ディオス・ラライン、SSIFF25)
★作品紹介でも書きましたように、アリア・トラブッコ・セランの2022年に刊行されたベストセラー小説 ”Limpia” にインスパイアされて映像化されました。小説と映画の構造の大きな違いは、小説が6歳の少女フリアの悲劇から始まっていることです。チリの階級社会を背景に「見えない存在である」家政婦エステラと両親から「見捨てられている」と思っているフリアの孤立と依存、親密で不穏な世界が語られます。基本データとして、キャストとストーリーを再録しておきます。


(小説の表紙と原作者アリア・トラブッコ・セラン)
キャスト:マリア・パス・グランジャン(グランジーン、家政婦エステラ)、ロサ・プガ・ヴィッティニ(フリア)、イグナシア・バエサ・イダルゴ(フリアの母マラ)、ベンハミン・ウェストフォール(父クリストバル)、ロドリゴ・パラシオス(カルロス)、オティリオ・カストロ(警備員イバン)、マリア・トーレス(エステルの母親)、他多数
ストーリー:チリ南部チロエ出身のエステラは、首都サンティアゴの裕福な家族のメイドとして働くため家族を残してやってきた。エステラは家事労働のほか乳母として6歳のフリアを昼夜を問わず世話しなければならない。二人の絆が強まるにつれ、関係は複雑になり、依存しあう秘密の世界を築くことになる。エステラの孤独はやがて避けられない結果を招くことになるだろう。現代のチリ社会の階級社会、文化と社会システムの暗い大きな傷のメタファーが語られる。
「他人のために生きる人」と「自分のために生きる人」の相克
A: アリア・トラブッコ・セランの原作 ”Limpia” にインスパイアされた映画ですが、サンセバスチャン映画祭でのプレス会見によると、そもそもの始りはラライン兄弟の制作会社「Fabula ファブラ」からの働きかけであった。ソトマヨール監督は未読だったらしく「小説を読んで、小説に隠されているものが私の映画に合うかどうか判断したい」と返事した。
B: 気に入って映像化を決心したが、小説を脚色して映画化するつもりはなかった。
A: 小説と映画はそもそも別の形式のものだから、最初にストーリーの大幅な変更を原作者にも伝えたという。監督は「ファブラ」に先ず共同脚本家が必要だと話し、その結果、ガブリエラ・ララルデと共同で執筆することになった。アナイ・ベルネリの「Elena sabe」(TVドラマ、23、Netflix『エレナは知っている』)や、SSIFF2024オリソンテス・ラティノス部門ノミネートの「El aroma del pasto recién cortado」をセリナ・ムルガ監督と執筆している。
B: 監督は今まで自身のオリジナル脚本で撮っていたので、共同執筆は初めてのようです。
A: 小説のエステラは、既にこのブルジョア階級の家庭で7年間の人生を送っていて、小説は映画とは反対に「フリアの悲劇」から始まっている。
B: 雇用主は自分たちに子供が生まれるので〈nana ナナ〉としてエステラを雇ったように推測します。
A: チリと言わず南米全般に言えることですが、〈nana〉という職業は、家事労働者としてのメイドと四六時中子供の世話をしなければならない乳母を兼ねている。時代によって仕事の内容は少しずつ変化しているようですが、ナナは映画でも垣間見られるように自由度が少なく、自分が属していない世界に閉じ込められている。
B: 主に地方出身の貧しい家庭の女性たちが担っている。エステラも故郷に一人暮らしの母親を残して出稼ぎに来ている。その母親の怪我の手術にも帰郷できないで苛々している。帰られては困る雇用主夫婦の上から目線の尤もらしい言い分にナナの置かれている厳しさが分かります。
A: 従って「他人のために生きる人」であるエステラと、「自分のために生きる人」たちである夫婦の対立の物語でもある。他人の家庭に入り込むわけだから、当然秘密を知ることになるが、「守秘義務」を契約させられている。
B: フリアの母親であるイグナシア・バエサ扮するキャリアウーマンのマラは、学歴のないエステラを見下している。実家の母親の大したことのない病気でも帰ることができた。

(マラ、フリア、エステラ)
似た者同士のエステラとフリア、ボスはフリア
A: 夫婦の邸宅は「保護された居住区」にあり、入り口では警備員が目を光らせている。城壁や電気柵で囲まれているわけではないから侵入しようと思えば可能です。
B: 実際、劇中でも強盗事件が挿入されていた。アルゼンチンやメキシコの映画に出てくるブルジョア階級の居住区は、もっと厳重にテロや強盗を遮断していた。
A: マルセロ・ピニェイロのサスペンス『木曜日の未亡人』(09)では居住区は高い城壁で囲まれていたし、ロカルノ映画祭2008で金豹賞を受賞したエンリケ・リベロの『パルケ・ヴィア』では、上流階級の邸宅は高い石塀の上に電気を流した鉄条網が張り巡らされていた。主人公はこの邸宅を一人で守る警備員でナナと同じように「自分が属していない世界」に閉じ込められていた。
B: 唐突な結末に衝撃を受けた『パルケ・ヴィア』と同じく、本作の結末に戸惑った人が多いと思う。
A: ドラマは不穏な雰囲気ながらゆっくりしたペースで進み、最後の数分で急展開、唐突に終わる。巧みに張られた伏線を見落とさなければ、ある程度予測できますが唐突です。エステラとフリアが属している階級格差がテーマの一つですが、監督はチリの上流階級を批判する映画を作ることに興味がない。つまり二人の権力構造、依存、絆と孤立という複雑な人間関係に焦点を合わせている。
B: エステラを演じたマリア・パス・グランジャンは、プレス会見にも監督と同席してチリの女性たちが置かれている現状を語っていた。彼女の母親は子供の学費のために働いていたというから監督とは別の階級のようです。チリには仕事を持つ母親をフォローする制度はないとも語っている。
A: 達者な演技でエステラと対峙したフリア役のロサ・プガ・ヴィッティニを、どうやって探したのか。
難しい役柄だからキャスティングには苦労したそうです。「ファブラ」が行った公開オーディションで沢山の少女に会ったが見つからず、結局監督の母親の友人のお孫さんロシータに決まった。監督のお母さんは女優だそうで、彼女の映画のキャスティングは「ほぼ母親です」と語っている。父親も俳優、フィルム編集者、助監督とシネアスト一家です。

(マリア・パスとソトマヨール監督、SSIFF2025、フォトコール)
B: 劇中のマリア・パスとロシータは息があって、特にロシータが時折り見せる大人のような複雑な表情に驚いた。
A: 監督も「背の高い少女と背の低い少女二人」の演技を賞賛している。背の高い少女マリア・パスも「とても若くて才能のある女優との共演は勉強になった」と、若いライバルを褒めている。
B: 親密だが常に不穏な空気が漂っている。二人は秘密を共有し、エステラは雇用主に、フリアは両親に尤もらしい嘘でガードしている。
A: エステラは「見えない存在」で、当然「不満を抱えている」が、一方フリアも両親から「見捨てられている」と思って「不安を抱えている」少女、二人は似た者同士ということになるが、あくまでも上位者はフリアである。プレス会見でマリア・パスは、エステラは「毎日上司のもとで上司の世話をしている。友好関係にあるが、フリアがボスであることに変わりない。彼女を世話することで給料を貰っている。少女が助けを必要としているのは、両親に置き去りにされているから」とナナと少女の関係を分析している。


(秘密を共有しているエステラとフリア)
B: エステラも複雑な人物だが、フリアはもっと複雑な子供、他の子供と遊べない、大人であるエステラといるほうがいい。お隣りからピザパーティの誘いを受けても断る、他の子供は煩いだけ。
A: だからエステラに予期せぬボーイフレンドが現れると不安になり嫉妬する。このカルロスの登場はドラマに不穏な空気を呼び込んできます。
カルロスとダドゥの登場――「恋に落ちない」お守りの神通力
B: ロドリゴ・パラシオス演じるカルロスというボーイフレンドができると、二人の関係に微妙な亀裂が走るようになる。さらにカルロスにまとわりつくダドゥという野良犬のおまけつき。
A: エステラは恋に落ちては仕事が続けられないから、「恋に落ちないお守り」を持っている。彼女の仕送りで辛うじて生きている母親のために仕事を失うわけにいかない。しかし神通力が衰えたのか偶然カルロスに出会ってしまう。ダドゥも重要な登場人物の一人というか一匹です。二人の登場で、ゆったりしたストーリーが動き出す。

(カルロスとエステラ)
B: ナナは了解なしに勝手に他人を自室に入れることはできない。ましてや野良犬などもってのほか、エステラはナナの基本を少しずつ逸脱していく。
A: ダドゥの事故死がきっかけでドラマは破局に向かうわけですが、〈死〉は常に見え隠れしていた。例えば、小児外科医らしい父親クリストバルの患者の少女がオペの甲斐なく死亡する、エステラの母親、ダドゥなど。
B: 母親の死でエステラの我慢が爆発する。エステラの帰郷が分かるとフリアは動揺する。
A: 少女はエステラと共有していた秘密を母親マラに漏らす。母親が亡くなってエステラもこの家でナナを続ける理由がなくなり妥協しない。マラもクリストバルもナナは必要だが、エステラでなくてもいい。

(撮影監督バルバラ・アルバレスが手掛けた映像美)
B: 映画だけにあるのがポピュラーソング、フリアが恋の歌を歌っている。
A: エステラが聴いている歌を意味も分からず覚えて歌っている。上流階級はクラシック一辺倒でポピュラーソングなど論外、両親は勿論知らない。監督はカミラ・モレノのミュージックビデオを制作しているプロ、ポピュラーソングが大好きで挿入したようです。
B: エステラの孤独や優しさが分かる仕掛けでもあるようです。
チリ映画の展望――映画製作センターの設立
A: 監督が映画を学んでいた頃は、チリの人はチリ映画など誰も見なかったという。映画製作センター CCC が創設され、そこで作られた映画が注目されるようになり観客も増えてきている。1年に100作くらい製作され、なかで上映の可能性がなくても若い女性監督やプロデューサーが輩出してきているという。そうなると観客の目も肥えてくる。
B:「ファブラ」の存在が大きいですね。本祭でもメキシコより話題作が多く、チリ映画はディエゴ・セスペデスの「La misteriosa mirada del flamenco」と、未紹介でしたがナイラ・イリッチ・ガルシアの「Cuerpo Celeste」の3作がノミネートされていた。
A: しかし政治的しめつけは変わりなく戦々恐々としてるのが現状のようです。国家が文化にお金を払いたくないのは万国共通、監督も「チリで映画を作るのは、実のところ波瀾の連続」と語っている。
B: 差別と不寛容の国と揶揄されるチリ、今後も才能流失は避けられません。
★参考作品
*セリナ・ムルガの「El aroma del pasto recién cortado」は、コチラ⇒2024年08月20日
*セバスティアン・シルバの『家政婦ラケルの反乱』は、コチラ⇒2013年09月27日
開幕作品はドミンガ・ソトマヨールの「Limpia」*SSIFF2025 ⑫ ― 2025年09月16日 19:02
オリソンテス・ラティノス開幕作品――ドミンガ・ソトマヨールの「Limpia」

★第73回SSIFF 2025オリソンテス・ラティノス部門オープニング作品は、チリのドミンガ・ソトマヨールの「Limpia」、久しぶりの登場です。デビュー作『木曜から日曜まで』が東京国際映画祭2012ワールド・シネマで上映されています。既に英語題「Swim to Me」から採った『そこから泳いで、私の方へ』という邦題で10月10日からNetflix 配信が決定しています。ラライン兄弟の制作会社「Fabulaファブラ」が製作しています。アリア・トラブッコ・セランの同名ベストセラー小説の映画化、作家自身も脚本に参加しているようです。アリア・トラブッコは、マイテ・アルベルディ監督の『イン・ハー・プレイス』(原題「El lugar de la otra」)の原作者、チリの人気作家です。新作は現代のチリの文化と社会システムに対する批判がテーマの一つかと想像します。詳細は Netflix 配信後を予定しており、今回はデータ、キャスト、ストーリーを簡単にアップいたします。
*『木曜から日曜まで』の紹介記事は、コチラ⇒2015年03月04日
*『イン・ハー・プレイス』の紹介記事は、コチラ⇒2024年10月19日


(表紙とアリア・トラブッコ)
「Limpia」
製作:Fabula
監督:ドミンガ・ソトマヨール
脚本:ガブリエラ・ララルデ、ドミンガ・ソトマヨール、(原作)アリア・トラブッコ・セラン
撮影:バルバラ・アルバレス
編集:フェデリコ・Rotstein
美術:アゴスティナ・デ・フランセスコ
録音:レアンドロ・デ・ロレド、ナウエル・パレンケ、他
音楽:カルロス・カベサス
衣装デザイン:クリスティアン・ゴメス、フリオ・ムニサガ
製作者:ロシオ・ハドゥエ、フアン・デ・ディオス・ラライン、パブロ・ラライン、(エグゼクティブ)ソフィア・カステルス
データ:製作国チリ、2025年、スペイン語、心理スリラー、97分、Netflix 配信(2025年10月10日、邦題『そこから泳いで、私の方へ』)
映画祭・受賞歴:サンセバスチャン映画祭2025「オリソンテス・ラティノス」部門オープニング作品(9月19日上映)
キャスト:マリア・パス・グランジャン(エステラ)、ロサ・プガ・ヴィッティニ(フリア)、イグナシア・バエサ・イダルゴ(マラ)、ベンハミン・ウェストフォール(クリストバル)、ロドリゴ・パラシオス(カルロス)、他多数
ストーリー:チリ南部のチロエ出身のエステラは、裕福な家庭のメイドとして働くため家族を残して首都サンティアゴへ旅立つ。家事労働のほかに昼夜を問わず世話をしなければならない6歳の娘フリアとの複雑な関係は、二人の絆が強くなるにつれて、避けられない結果に導かれる依存しあう秘密の世界を築くことになる。現代のチリの文化と社会システムの暗い大きな傷のメタファーが語られる。
★監督、スタッフ、キャスト紹介は、Netflix 鑑賞後に纏めてアップしますが、撮影監督がデビュー作『木曜から日曜まで』と同じバルバラ・アルバレス、少女の目線にこだわる巧みなカメラワークも楽しみです。



ディエゴ・セスペデスのデビュー作が「ある視点賞」受賞*カンヌ映画祭2025 ― 2025年06月01日 17:05
デビュー作「La misteriosa mirada del flamenco」が「ある視点賞」の快挙

★今年のカンヌ映画祭「ある視点」はラテンアメリカにとって大収穫の年でした。チリの若干30歳のディエゴ・セスペデスの「La misteriosa mirada del flamenco」が最高賞の作品賞(副賞30.000ユーロ)、2席に当たる審査員賞にコロンビアのシモン・メサ・ソトの「Un poeta」が受賞しました。このブログも既に十年を超えましたが、記憶を辿るかぎり初めてのことです。両作とも作品紹介記事をアップしておりますが、カンヌでのプレス会見記事から、詳細が分かるにつれ間違いも見つかる半面、疑問も解消されました。カンヌはほとんどがワールドプレミアなので情報に混乱があるからです。今回はセスペデスの作品賞受賞に絞ってアップいたします。
*作品紹介とセスペデス監督キャリア紹介記事は、コチラ⇒2025年05月12日

(参加したスタッフ&キャスト一同、レッドカーペットにて)
★受賞理由は、映画は「セスペデス監督の並外れた独創性や過酷さと感性に溢れています。世界レベルでのエイズの危機を語るのに、人間性の不在を描き、スクリーンに現れる登場人物を見ると、私たちの心は幸せに満たされます。生々しく力のある作品なのですが、楽しみにも溢れ、エネルギーを備えています」と、審査委員長モリー・マニング・ウォーカー(イギリスの監督、脚本家、撮影監督、『ハウ・トゥ・ハヴ・セックス』で2023年のグランプリ受賞者)が称賛しました。

(プレゼンターは審査員の一人アルゼンチンの俳優ナウエル・ぺレス・ビスカヤート)

(受賞スピーチをするセスペデス監督、リディア役のタマラ・コルテス、
ラ・フラメンコ役のマティアス・カタラン)
★監督を支えつづける製作者のジャンカルロ・ナシは「1000作を超える応募作から選ばれただけでなく受賞できたのは、ロッテリア(宝くじ)に当たったようなものです。国境を行き来すること数年がかりでした。ディエゴには転機になる作品、受賞はご褒美です」とコメント。軍事独裁政権を20年近く守ってきた不寛容なお国柄ゆえ、諸手を上げては喜べないでしょう。一部の人々にとっては不愉快で不都合な映画であり、カンヌなど「どこの国のお祭りですか」ですから。

(左から、パウラ・ディナマルカ、タマラ・コルテス、マティアス・カタラン、監督、
ペドロ・ムニョス、フランシスコ・ディアス、5月16日、フォトコール)
★他の人々と同じように愛し合ってどうしていけないのか、と立腹している人々と作った映画、監督がカンヌで語ったところによると、「私が生まれたころ、両親はサンティアゴの郊外でヘアサロンを経営していました。ところが働いていたゲイの美容師全員がエイズで亡くなってしまいました。そのことが母親に深く影響し、この病気に対して大きな恐怖心を抱くようになりました。私はエイズが恐ろしいという考えをもって育ったのです。しかし、大きくなるにつれ自分がゲイであると理解するようになると、世界が広がり始めました。私が輝く存在と見なす反体制派の人々に出会ったことが、私の視点を変えました。それがこの映画の最も重要な側面の一つだと思います。血縁はないが愛のある家族の創造を通じて、これらの人々がどのように生き延び、どのように生き残るために互いを助け合ったかを描くということです」と。

(セスペデス監督)
★一番の不安は、主人公リディアを演じるのが、11歳の女の子(タマラ・コルテス)ということだったそうです。しかし彼女は「樫の木のように強く、熱心で、安定して」おり、何度もテイクを撮らなければならない複雑なシーンでも1度で完璧に演じた。タマラの才能、技術にはとても感動したとも語った。クィアのコミュニティを統べる女族長のようなママ・ボア役のパウラ・ディナマルカはほぼアマチュアでしたが、知人のトランスジェンダーの女性に触発されてキャラクターを作り上げた。パウラの顔、自然な存在感、怒り、そして愛が「映画の本質を秘めた小瓶を満たしている」と絶賛している。悲劇を背負うには幼すぎるが、悲しんでばかりいるには成熟しすぎてしまった少女に、生き残るだけでなく抵抗することも教えた登場人物です。

(将来を思案する12歳の少女リディア、フレームから)
★ラ・フラメンコ役のマティアス・カタランは魅力的なプロフェショナルの俳優、主役を演じるのは今作が初めて、「彼はこのキャラクターに全てを捧げた」と監督、フアン・フランシスコ・オレアの「Oro Amargo」(24)、他TVシリーズ出演。ラ・フラメンコの恋人ヨバニを演じたペドロ・ムニョスもプロの俳優、「目と体を通して表現できる能力をもっており、信じられないほど強力」と監督。チリでは才能がありながらチャンスが与えられない演技者が多いとも述べている。ムニョスはグスタボ・メサの演劇学校「Imagen」で演技を学んだ後、2013年にチリのラス・アメリカス大学で舞台芸術の学位を取得、振付家でもある。チリの劇団「Ia re-sentida」の創設メンバーで、ヨーロッパ、ラテンアメリカ、アジアなど国際的に活躍している。

(マティアス・カタラン、セスペデス監督、製作者ジャンカルロ・ナシ)
★ストーリーをアップしながら違和感のあった一つが、子供のリディアがどうして謎の病気をナビゲートするのかという疑問でした。ネタバレになりますが、ラ・フラメンコは恋人ヨバニの暴力で命を落としてしまう。全くの孤児になってしまった自身を守るため、恐怖や偏見、華やかな衣装の重みで崩壊しつつあるクィアのコミュニティを調べ始めるようです。予告編に現れるリディアは大人びていて12歳とは思えない。本作は寓話的なミステリーであるだけでなく、エイズ危機の解説、クィアの恐怖と欲望、社会的な圧力のもとでの愛の歪曲についてが語られるようです。
セバスティアン・レリオの新作「La Ola」カンヌプレミアに*カンヌ映画祭2025 ― 2025年05月21日 17:11
チリの政治的ミュージカル「La Ola」がカンヌ・プレミア部門で上映決定

★アカデミー賞2018国際長編映画賞を受賞した『ナチュラルウーマン』の監督セバスティアン・レリオの新作ミュージカル「La Ola / The Wave」が、カンヌ・プレミア部門にノミネートされました。ラライン兄弟の制作会社「ファブラ」が手掛けています。2018年にチリを席巻した女性に対する暴力に抗議する大衆デモにインスパイアされて製作されたミュージカル。音楽映画とは縁遠い印象のチリで生まれたことが興味深いですが、レリオはミュージックビデオを多数手がけています。この大衆デモはチリのフェミニスト運動を刺激し、女性の権利に関する憲法改正に繋がった。監督は「スペクタルと政治をミックスさせ、私たちが生きている政治的な不協和音を反映させようと、歌、ダンス、パフォーマンスを使って私たち全員に影響を与える緊急の問題を語るなど、ミュージカルというジャンル内で独自の働き方を見つけた。100人を超えるチリの若手アーティストを紹介できたことを誇りに思う」と「バラエティ」誌に語っている。主人公フリアに新星ダニエラ・ロペスを起用した。

(撮影中のセバスティアン・レリオ監督)
「La Ola / The Wave」
製作:Fabula / Fremantle / Participante
監督:セバスティアン・レリオ
脚本:ホセフィナ・フェルナンデス、マヌエラ・インファンテ、セバスティアン・レリオ、パロマ・サラス
音楽:アニタ(アナ)・ティジュー、カミラ・モレノ、ハビエラ・パラ、マシュー・ハーバート
撮影:ベンハミン・エチャサレタ
美術:タチアナ・モーレン
キャスティング:エドゥアルド・パシェコ
特殊効果:フアン・フランシスコ・ロサス、オスカル・リオス・キロス
製作者:フアン・デ・ディオス・ラライン、パブロ・ラライン、ロシオ・ハドゥエ、セバスティアン・レリオ、(エグゼクティブ)ロベルト・ケッセル
データ:製作国チリ=米国、2025年、スペイン語、ミュージカル・ドラマ、129分、撮影地サンティアゴ、期間9週間、配給 FilmNation Entertainment
映画祭・受賞歴:カンヌ映画祭2025カンヌ・プレミア部門正式出品(2025年5月16日)
キャスト:ダニエラ・ロペス(フリア)、アンパロ・ノゲラ、ネストル・カンティジャーナ、タマラ・アコスタ(秘書)、スサナ・イダルゴ(ピエダッド)、アマリア・カッサイ、フロレンシア・ベルナル(レオ)、レナータ・ゴンサレス・スプラリャ、エンツォ・フェラーダ・ロサティ、アブリル・アウロラ、ルカス・サエス・コリンズ、ロラ・ブラボ、パウリナ・コルテス、ティアレ・ルス、他チリのミュージシャン多数
ストーリー:ひたむきな音楽学生であるフリアは、大学のキャンパスで盛り上がっているフェミニスト運動に参加します。多くの仲間が受けている女性への嫌がらせや虐待に抗議しようと立ち上がったグループの取りくみに賛同しているからです。抗議デモの興奮の渦のなか、フリアは友人たちと踊ったり歌ったりすることで自分自身が受けた虐待の経験を振り返ります。彼女は思いきって自分の物語を共にしようとしているなかで、思いがけず抵抗する社会で変化を求める運動の中心人物になっていることに気づきます。


(フリア役の新人ダニエラ・ロペス)
★監督紹介:セバスティアン・レリオ、1974年アルゼンチンのメンドサ生れ、2歳のとき母親の故国チリに移住、父親はアルゼンチン人だが彼の国籍はチリ。監督、脚本家、製作者、フィルム編集者。既に『ナチュラルウーマン』(17,原題「Una mujer fantástica」)や、19世紀の飢饉で荒廃したアイルランドを舞台にしたミステリー『聖なる証 あかし』(22、原題「The Wonder」)でキャリア&フィルモグラフィーは紹介しています。
*『ナチュラルウーマン』の主な作品&監督キャリア紹介記事は、コチラ⇒2018年03月16日
*『聖なる証』の作品&監督キャリア紹介記事は、コチラ⇒2022年12月05日
*『聖なる証』の紹介記事は、コチラ⇒2022年08月06日

(ダニエラ・ベガを配したスペイン語版ポスター)
★長編デビュー作「La Sagrada Familia」は養父の苗字カンポスでクレジットされている。サンセバスチャン映画祭2005でプレミアされ、その後、国際映画祭巡りをして国内外の受賞歴多数。ラテンビート映画祭2006で『聖家族』の邦題で上映された。本作の主人公は新作「La Ola」に出演しているネストル・カンティジャーナである。2作目が「Navidad」(カンヌ映画祭2009)、3作目「El año del tígre」(11)、4作目が国際的に多くの観客の共感を呼んだ「Gloria」(13)で、主演のパウリナ・ガルシアがベルリン映画祭で主演女優賞を受賞し、『グロリアの青春』の邦題で公開された。本作はジュリアン・ムーアをヒロインに2018年、米国で「Gloria Bell」としてリメイクされ、『グロリア 永遠の青春』として公開された。他に2017年、正統派ユダヤ教のコミュニティを舞台にした二人のレスビアンの信仰と性を描いた「Disobedience」(邦題『ロニートとエスティ 彼女たちの選択』)、チリにオスカー像を運んできた『ナチュラルウーマン』、前作『聖なる証』、9作目となる「La Ola」となる。チリ映画としては字幕入りで観ることのできた幸運な監督の一人です。

(オスカー像を手にしたセバスティアン・レリオ)
★共同脚本家のマヌエラ・インファンテは、「私が大学の教師をしていたとき、約100人くらいの女子学生が本館を包囲しました。私は彼女たちから多くのことを学んだのです。そのときの経験を実際に取り入れました。フェミニストの蜂起の後に何が起こるかは、この映画の基礎の一部です」と回想している。レリオは「ポスト#MeToo 時代の相互合意、個人または集団の声の政治的可能性について話すというアイデアに魅了されている」。世界を変えることを決意した仮面の女性のバンドが酔わせる力を通じて、変化の緊急性と現状との衝突を探求している。
★ミュージシャン紹介:アニタ(アナ)・ティジューは、フランスのリール生れ(1977)、作曲家、ミュージシャン、俳優、ラテン・グラミー賞、TVシリーズ「La Jauría」(全16話、19~22)に女優としてエピソード5話に出演している。ハビエラ・パラは、ララインの『NO ノー』(12)、ゴンサロ・フスティニアノの「B-Happy」(03)を手掛けている。カミラ・モレノは「ファブラ」が最初にプロデュースしたTVシリーズ「Prófugos」(「逃亡者」26話、11~13)、ビデオクリップ「Camila Moreno: Millones」(09)作曲家、女優でもある。そして『ナチュラルウーマン』や『聖なる証』のマシュー・ハーバートが統率している。
★スタッフ紹介:パブロ & フアン・デ・ディオス・ラライン兄弟が2004年に設立した「ファブラ」は、世界的な制作、配給事業を展開しているフリーマントルとファーストルックと契約を結び、チリだけでなく資金不足に苦しんでいるラテンアメリカ諸国のシネアストたちに資金提供をして、ラテンアメリカで最も映画を量産している制作会社です。パブロ・ララインの監督キャリア&フィルモグラフィーについては度々アップしているので割愛します。今回は製作者としてどんな作品を手掛けているか紹介したい。チリは右も左も上流階級は保守的と揶揄されるお国柄ですが、ラライン家は上流階級に属し、チリでは知らない人はいないと言われる政治家一家です。若いシネアスト育成にも資金援助を惜しまないのは褒めてもいい。

(『グロリアの青春』主演のパウリナ・ガルシア)
★自作以外に手掛けた映画は、セバスティアン・レリオの『ナチュラルウーマン』以下、「El año del tígre」、『グロリアの青春』、『グロリア 永遠の青春』、オスカル・ゴドイの「Ulises」(11)、マリアリー・リバスの「Joven y alocada」(12、『ダニエラ 17歳の本能』DVD)、チリの不寛容に見切りをつけてアメリカに移住してしまったセバスティアン・シルバの「Crystal Fairy y el cactus mágico」(13、『クリスタル・フェアリー』ラテンビート)、「Nasty Baby」(15)、セバスティアン・セプルべダの「Las Niñas Quispe」(13)は、ベネチア映画祭2013の「批評家週間」でプレミアされ、撮影監督のインティ・プリオネスが撮影賞を受賞するなど受賞歴多数。1974年にチリの高地で羊飼いをして暮らす三姉妹に起きた悲劇的な実話に基づいている。

(セバスティアン・シルバの『クリスタル・フェアリー』)
★『83歳のやさしいスパイ』でブレイクしたマイテ・アルベルディのドキュメンタリー「La memoria infinita」(23、『エターナルメモリー』)、続く彼女のフィクション第1作「El lugar de la otra」(24、『イン・ハー・プレイス』)、アクションものでは、アレクサンダー・ウィットの「Sayen: La ruta seca」(23、『サイエン 死の砂漠』)、「Sayen: La cazadora」(24、『サイエン 最後の戦い』)、2020年の新型コロナウイルス感染で身動きできなくなっていたときに手掛けた短編コレクション『HOMEMADE ホームメード』、ガスパル・アンティーリョの「Nadie sabe que estoy aqui」(『誰も知らない僕の歌』)をトライベッカ映画祭2020(オンライン上映)でデビューさせたことなどは、あまり知られていないと思います。アンティーリョはニュー・ナラティブ部門の監督賞を受賞しています。共同脚本家のホセフィナ・フェルナンデスが脚本を監督と共同執筆している他、「ファブラ」のTVシリーズを手掛けている。「ホームメード」にはレリオも参加しています。『エターナルメモリー』、『イン・ハー・プレイス』は、紹介記事をアップしています。
*『HOMEMADE ホームメード』の紹介記事は、コチラ⇒2020年07月12日
*「Nadie sabe que estoy aqui」の作品紹介は、コチラ⇒2020年05月11日

(マイテ・アルベルディの『イン・ハー・プレイス』)
★2020年代から量産しているのがTVシリーズ、アントニア・セヘルスやダニエラ・ベガを主軸「La Jauría」(16話、19~22)、メキシコの「Señorita 89」(全8話、22~24)は、ミス・メキシコ・コンテストを巡るドラマ、「42 Días en la Oscuridad」(6話、22,『暗闇の42日間』)には、アンパロ・ノゲラ、ネストル・カンティジャーナが味のある演技をしている。2015年のFIFA 汚職スキャンダルの根底にある実際の陰謀を探るコメディ「El Presidente」(16話、20~22、『腐敗のゲーム~エル・プレシデンテ』)、カリスマ的なスケーターである若い強盗の犯罪ドラマ「Baby Bandito」(8話、24、『ベビー・バンディートの信じられない話』)などがある。
★最新作はメキシコの「Familia de medianoche」(10話、24、『ミッドナイト・ファミリー 真夜中の救急隊』)は毀誉褒貶で、くだらないアメリカ製の医療ドラマよりよほど優れていると高評価の半面、インスパイアされたルーク・ローレンツェンのドキュメンタリー「Midnight Family」(19、『ミッドナイト・ファミリー』)を1作見るだけで充分という評もある。このドキュメンタリーは国際映画祭のドキュメンタリー部門を制覇している。ドキュメンタリーとTVシリーズを比較しても始まらないが、TVシリーズのだらだら引き伸ばしが癇に障る人にはお奨めできない。
★「ファブラ」の紹介が長くなりましたが、チリと言わずラテンアメリカで最も重要な制作会社です。ラライン兄弟とセバスティアン・レリオの共通項は〈威厳をもった不服従〉とでも言っておきましょうか。ラライン監督は、「El Conde」(23、『伯爵』)に続いて、世紀の歌姫マリア・カラスの晩年を描いた「Maria」がベネチア映画祭2024にノミネートされた。Netflix 作品だが日本語版はないようです。「9.11」以後のアメリカが舞台の新作「The True American」(英語)がアナウンスされている。

(パブロ&フアン・デ・ディオス・ラライン兄弟)
ディエゴ・セスペデスのデビュー作が「ある視点」に*カンヌ映画祭2025 ― 2025年05月12日 11:23
ディエゴ・セスペデスのデビュー作「La misteriosa mirada del flamenco」

★今年のカンヌ映画祭「ある視点」には、チリの若手監督ディエゴ・セスペデスの「La misteriosa mirada del flamenco」と、コロンビアのシモン・メサ・ソトの「Un poeta」がノミネートされました。セスペデスはカンヌ映画祭2018短編部門で上映された「El verano del león eléctrico」(22分)でシネフォンダシオン賞を受賞しています。後者のメサ・ソト監督は、2021年カンヌ映画祭併催の「批評家週間」に「Amparo」がノミネートされ、サンセバスチャン映画祭「オリソンテス・ラティノス」部門でも上映された。その節、作品並びに監督キャリア&フィルモグラフィーを紹介しているので、まずディエゴ・セスペデスからアップしたい。
*セスペデスのシネフォンダシオン賞の記事は、コチラ⇒2018年05月20日
*「Amparo」の紹介記事は、コチラ⇒2021年08月23日
「La misteriosa mirada del flamenco / The Mysterious Gaze of the Flamingo」
製作:Quijote Films(チリ)/ Les Valseurs(仏)/ Weydemann Bros. GMBH(独)/
Irusoin(西)/ Wrong Men(ベルギー)
監督・脚本:ディエゴ・セスペデス
音楽:フロレンシア・ディ・コンシリオ
撮影:アンジェロ・ファッチーニ
衣装デザイン:パウ・アウリ
メイクアップ:アンドレア・ディアス、フランシスカ・マルケス
プロダクションマネージャー:カミロ・イニゲス
製作者:ジャンカルロ・ナシ、ジャスティン・ペックパーティ、(共同)ブノワ・ローラン、アンデル・サガルドイ、ヨナス&ヤコブ・ヴェイデマン、シャビエル・ベルソサ、他共同製作者
データ:製作国チリ=フランス=ドイツ=スペイン=ベルギー、2025年、スペイン語、コメディ・ドラマ、104分、撮影地チリのサンティアゴ、アタカマ砂漠、クランクイン2024年5月20日
映画祭・受賞歴:第78回カンヌ映画祭2025「ある視点」正式出品、カメラドールにノミネート、最高賞の作品賞を受賞。
キャスト:タマラ・コルテス(リディア12歳)、マティアス・カタラン(ラ・フラメンコ)、パウラ・ディナマルカ(ママ・ボア)、ペドロ・ムニョス(ヨバニ)クラウディア・カベサス、ルイス・デュボ、他
ストーリー:1980年代初頭のチリの砂漠、12歳になるリディアは荒れ果てた小さな鉱山の町で、愛情あふれたクィアの家族に見守られて暮らしています。しかし謎めいた未知の病気が町に蔓延し始めます。ある男性が別の男性に恋をすると一瞥しただけで感染するという噂です。リディアの優しくて母親のような兄アレショや彼のゲイの友人たちは、保菌者として町の恐怖の標的になります。リディアは憎しみと不寛容に悩まされた世界で、かけがえのない家族を守るためにホモフォビア俗説の探求に乗り出します。家族は彼女の唯一の避難所だからです。

(リディア役のタマラ・コルテス)
30年前のチリで起きた不寛容なバイオレンスを描く現代の神話
★未知の病気がかつて世界中を震撼させたHIVエイズであることが分かります。ハグなどもってのほか、握手しただけで感染すると怖れられました。無知がはびこり死亡率が100%と噂され、感染者への心的暴力が許された時代でした。チリのケースで言うと、保菌者への暴力が未だ顕著でなかったころに子供たちが学校で質問した。その答えの多くが無知からくるもので伝達の方法に問題があった。それで子供の視点を取り入れてストーリーにレアリティをもたせ、共感が得られるのではと考えた、とコメントしている。映画ではリディアの友達が出演している。チリでは長い軍事独裁政権の負の遺産が沈殿しており、現在でも多くの頭脳流失をもたらしている。

(「視線で感染するとでもいうの」と詰め寄るクィアの友人)

(感染しないよう目隠ししている?)
★監督紹介:ディエゴ・セスペデス、1995年サンティアゴ・デ・チリ生れ、監督、脚本家、撮影監督。チリ大学で映画を学ぶ。アンドレア・カスティーリョの「Non Castus」(22分、ロカルノ映画祭2016スペシャル・メンション受賞)と「Bilateral」(16分、SANFIC 2017出品)の撮影を手掛ける。2018年まだ大学在学中に撮った短編「El verano del león eléctrico / The Summer of the Electric Lion」(22分)がカンヌ映画祭シネフォンダシオン賞、サンセバスチャン映画祭パナビジョン賞、モロディスト・キエフ映画祭2019学生映画部門審査員特別賞を受賞する。サンダンス映画祭2019、ビアリッツ映画祭にもノミネートされた。2022年、フランスとの合作短編「Las criaturas que se derriten bajo el sol / The Melting Creatures」(17分)は、カンヌ映画祭、トロント映画祭に出品された。製作をジャンカルロ・ナシとジャスティン・ペックパーティが手掛けている。

(ディエゴ・セスペデス監督)

(短編デビュー作「El verano del león eléctrico」の英語版ポスター)
★本作制作の経緯は、2019年にセスペデスがシネフォンダシオン・レジデンスに参加して製作の土台を練る。翌年のサンセバスチャン映画祭の期間中、イクスミラ・ベリアクにも参加、トリノ・フィルムラボでTFL プロダクション賞を受賞、副賞として50.000ユーロの製作助成金を受け取ることができた。翌年のサンダンス・インスティテュートの製作者サミットに参加、フランスの制作会社「Les Valseurs」 の協力が報じられ、2024年にはドイツの制作会社「Weydemann Bros. ヴェイデマン・ブラザーズ・フィルム」の共同製作が決まった。初めにシネフォンダシオン・レジデンスありきでした。どこの映画祭も一度受賞すると、後々も面倒をみてくれるようです。多分イクスミラ・ベリアクにも参加しているのでサンセバスチャン映画祭にもノミネートされる可能性が高くなっている。
★キャストのうち、パウラ・ディナマルカは「Las criaturas que se derriten bajo el sol」に、ルイス・デュボは「El verano del león eléctrico」に出演している。最初のシナリオと完成版には結構違いがあり、例えばリディアの年齢も7歳から12歳までと幅がある。まだ正確な情報が入手できていないので、追い追い追加訂正していく予定です。
追加情報:5月23日、カンヌ映画祭「ある視点」部門の最高賞である作品賞を受賞しました。
審査員特別賞受賞作ベレン・フネス「Los Tortuga」*マラガ映画祭2025 ⑪ ― 2025年04月25日 13:23
ベレン・フネスの第2作「Los Tortuga」が4冠の快挙

★ベレン・フネスの2作め「Los Tortuga」は、審査員特別賞、監督賞、脚本賞(共同執筆マルサル・セブリアン)、SIGNIS(カトリック・メディア協議会賞)の4冠を受賞しました。長編デビュー作「La hija de un ladrón」はサンセバスチャン映画祭2019のセクション・オフィシアルにノミネート、主演のグレタ・フェルナンデスが女優賞を受賞しました。ゴヤ賞2020新人監督賞を受賞した折、作品紹介もキャリア&フィルモグラフィーも簡単に紹介しただけでしたので、脚本共同執筆者のマルサル・セブリアンも含めてアップいたします。
*ベレン・フネスのキャリア紹介は、コチラ⇒2019年12月24日
*マラガ映画祭2025授賞式の記事は、コチラ⇒2025年03月28日
「Los Tortuga / The Exiles」
製作:Oberon Media / La Claqueta PC / La Cruda Realidad / Los Tortuga La Plícula /
Quijote Films
協賛 3Cat / Cenal Sur Radio y Televisión / Canal Sur Televisión / ICEC /
ICAA / RTVE / TV3、他
監督:ベレン・フネス
脚本:ベレン・フネス、マルサル・セブリアン
撮影:ディエゴ・カベサス
音楽:パロマ・ペニャルビア
編集:セルヒオ・ヒメネス-AMAE
美術:パウラ・エスプニー
キャスティング:クリスティナ・ペレス、イレネ・ロケ、マリチュ・サンス
衣装デザイン:ルルデス・フエンテス
メイクアップ&ヘアー:サラ・カセレス
製作者:オルモ・フィゲレド・ゴンサレス=ケベド(La Claqueta)、アントニオ・チャバリアス(Oberon Media)、マヌエル・H・マルティン、アンヘルス・マスクランズ、ジャンカルロ・ナシ(Quijote Films)、カルロス・ロサド・シボン、(エグゼクティブ)アルバ・ボッシュ・デュラン、サラ・ゴメス(La Claqueta)、(アソシエイトプロデューサー)マルサル・セブリアン
データ:製作国スペイン=チリ、2024年、スペイン語・カタルーニャ語、ドラマ、109分、撮影地バルセロナとハエン県、販売 Film Factory Entertainment、配給(スペイン)A Contracorriente Films、公開スペイン2024年11月15日
映画祭・受賞歴:トロント映画祭2024セクション・センターピースでプレミア、テッサロニキ映画祭 Meet the Neighbors コンペティション、女優賞(アントニア・セヘルス)、スペシャル・メンション(エルビラ・ララ)、マル・デル・プラタ映画祭、以下2025年、パームスプリングス映画祭、ヨーテボリ映画祭、マラガ映画祭(上記)、クリーブランド映画祭新人監督部門コンペティション、マイアミ映画祭ナイト・マリンバス賞受賞
キャスト:アントニア・セヘルス(デリア)、エルビラ・ララ(娘アナベル)、マメン・カマチョ(イネス)、ペドロ・ロメロ、ロレナ・アセイトゥノ、メルセデス・トレダノ、セルヒオ・ジェルペス、ビアンカ・コバックス(Iuliana)、セバスティアン・アロ(ホセ)、ノラ・サラ=パタウ、ギレム・バルボサ、パディ・パディリャ(郵便配達員)、ジョルディ・ぺレス(ハビ)、ペドロ・カステリャノ、他
ストーリー:夫フリアンが亡くなってから、デリアとアナベル母娘は彼のいない人生に向き合っています。経済的困窮から立ち退きの脅威に晒されています。ハエンのオリーブ畑とバルセロナの街並みを舞台に、母娘は異なった方法で喪に服していますが、愛と痛み、優しさと辛さのバランスを取りながら、自分たちの不確実な将来の再建に立ち向かおうとしています。

(フレームから)
★監督紹介:ベレン・フネス、1984年バルセロナのリポレト生れ、監督、脚本家。2008年、バルセロナ大学に付属しているESCAC(カタルーニャ映画視聴覚上級学校)のコミュニケーションと監督の学位を取得、その後キューバに渡りEICTV(映画テレビジョン国際学校)の修士コースで学んだ。2015年短編「Sara a la fuga」で監督デビュー、マラガ映画祭の銀のビスナガ短編賞と監督賞を受賞した。2017年短編2作目「La inútil」(17分)がメディナ映画祭脚本賞をマルサル・セブリアンと受賞、ガウディ賞短編部門にノミネート、2018年トロント映画祭のタレントラボに選ばれ、長編デビュー作の脚本を執筆する。翌年サンセバスチャン映画祭2019セクション・オフィシアルに「La hija de un ladrón」のタイトルでノミネートされた。本作は短編「Sara a la fuga」がベースになっている。主演のグレタ・フェルナンデスが女優賞を受賞した他、トゥールーズ・シネスパニャ脚本賞、翌年のガウディ賞では非カタルーニャ語映画賞・監督賞・脚本賞の3冠、ゴヤ賞新人監督賞を受賞した。バジャドリード映画祭2019で女性監督に贈られるドゥニア・アヤソ賞も受賞している。新作「Los Tortuga」が長編第2作になる。

ビュー作「La hija de un ladrón」のポスター)

(新人監督賞を受賞したベレン・フネス、ゴヤ賞2020ガラ)
★脚本家紹介:マルサル・セブリアン、1983年バルセロナ生れ、脚本家、脚本アナリスト、製作者、俳優、バルセロナ大学の教師。23歳という年齢でESCACの脚本特別コースで学んだという遅咲きの脚本家。ベレン・フネスの全4作の脚本を共同執筆している他、2012年マルティ・サンスのドキュメンタリー「L’estigma?」(スペイン=イスラエル)、2019年ラファ・デ・ロス・アルコスの短編「Todo el mundo se parece de lejos」(15分)にそれぞれ監督と共同執筆している。受賞歴はベレン・フネスと同じです。俳優としてリリアナ・トーレスのコメディ「Family Tour」(13)に出演している。2025年4月、GAC(カタルーニャ脚本家連合)の総会で新会長に選出されました。


(マルサル・セブリアンとベレン・フネス、ガウディ賞2020ガラ)
★キャスト紹介:アントニア・セヘルス、1972年サンティアゴ生れ、映画、舞台、TV女優。父は産婦人科医のフェルナンド・セヘルス、母は仏教徒でアドベンチャー・カメラマンのモニカ・オポルト。セント・ジョージ学校で学び、その後グスタボ・メサ演劇学校(現テアトル・イメージ)で演技を学んだ。チリ国営テレビでテレノベラ(連続テレビ小説)に出演、キャリアを積んだ。1995年、クリスティン・ルカスの「En tu casa a las ocho」のアントニエタ役で映画デビューする。その後の活躍は以下のフィルモグラフィーの通りです。2006年にパブロ・ララインと出遭い、彼の代表作「ピノチェト政権三部作」(『トニー・マネロ』『ポスト・モーテム』『No』)、『ザ・クラブ』では映画の鍵を握る訳ありシスター・モニカ役で存在感を示した。私事に触れると、ララインとは長女誕生の2008年正式に結婚、2011年に長男誕生するも2014年離婚している。しかし離婚後もララインのスペイン語映画のほぼ全作に出演している。映画祭上映、公開、ネット配信など字幕入りで見ることができた。

(G.G.ベルナルとタッグを組んだ『No』のフレームから)

(チリの名優が共演した『ザ・クラブ』のフレームから)
★もう一人の重要な監督マティアス・ビセとは、ラライン映画より先の長編デビュー作「Sábado」(03)に起用された。たった65分間の映画でしたがマンハイム・ハイデルブルク映画祭でファスビンダー記念特別賞、FIPRESCI賞、チリのアルタソル賞を受賞した問題作、セヘルスは妊婦役に扮した。その後も度々オファーを受け出演している。2022年に主演した「El castigo」では、旅行中に行方不明になった子供の母親に扮し、その複雑な母性の危うさや揺らぎを見事に演じて多数の受賞に輝いた。


(マラガ映画祭2023セクション・オフィシアルにノミネートされた「El castigo」)
★ラライン映画では、監督お気に入りのアルフレッド・カストロとタッグを組むことが当然多いわけだが、他の監督、例えばマルセラ・サイドがカンヌ映画併催の「批評家週間」にノミネートされた「Los perros」(17)でも、軍事独裁政権下で体制側に与していた過去を引きずるセレブ階級の女性を演じている。ほか女性監督のドミンガ・ソトマヨールの「Tarde para morir joven」、マヌエラ・マルテッリの『1976』などが挙げられる。

(共演したカストロとセヘルス、「Los perros」から)
★少女時代から女優になることが夢だった由、「声がよかったが歌手になるには無理があった。趣味は料理、魚は食べるベジタリアン、多様性に欠けているからテレビは見ません、後ろめたい娯楽はサウナ」だそうです。スペイン語版ウイキペディアによると、ララインと出会う前のパートナーは舞台俳優のリカルド・フェルナンデス(2001~04)、ララインと別れてからはミュージシャンのGepe(ダニエル・アレハンドロ・リベロス・セプルべダ、2015~17)とある。
★演劇では、アリエル・ドルフマンの戯曲『死と乙女』でアルタソル賞2012女優賞、TVシリーズでは、「Secretos en el jardín」(2013~14、90話)でアルタソル賞2014女優賞、「La jauría」(2019~22、全16話)でプロドゥ賞2020、カレウチェ賞2021主演女優賞に各ノミネートされた。カレウチェCaleuche賞は2015年から始まったチリ俳優組合が選考母体の賞、「変容する人」に与えられる。セヘルスは『ザ・クラブ』で2016年助演女優賞を受賞している。
◎主なフィルモグラフィー(監督名、主な受賞歴、なお短編・テレノベラ・TV は割愛)
1995「En tu casa a las ocho」クリスティン・ルカス
2003「Sábado」マティアス・ビセ
2007「Pecados」マルティン・ロドリゲス
2008「Tony Manero」『トニー・マネロ』パブロ・ラライン「ピノチェト三部作」の1、
テレビプロデューサー役
2010「Post Mortem」『ポスト・モーテム』同「ピノチェト三部作」の2、主役
ハバナFF 2010女優賞・アントファガスタFF 女優賞、アルタソル賞ノミネート
2010「La vida de los peces」マティアス・ビセ 助演
ペドロ・シエナ賞2011助演女優賞ノミネート
2012「No」『Noノー』「ピノチェト三部作」の3、G.G.ベルナルの元妻の反体制活動家役
2015「El club」『ザ・クラブ』パブロ・ラライン 助演
シカゴFF 2015俳優賞・カレウチェ賞2016助演女優賞・ペドロ・シエナ賞2016
イベロアメリカ・プラチナ賞2016助演女優賞ノミネート多数
2015「La memoria del agua」マティアス・ビセ 脇役
2017「Una mujer fantastica」『ナチュラルウーマン』セバスティアン・レリオ
レストラン店主役
2017「Los perros」マルセラ・サイド 主役
ストックホルムFF 2017女優賞・アルトゥラスFF 2018主演女優賞、ノミネート多数
2017「Neruda」『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』パブロ・ラライン、端役
2018「Tarde para morir joven」ドミンガ・ソトマヨール 脇役
2021「Mensajes privados」マティアス・ビセ
2022「1976」『1976』マヌエラ・マルテッリ 脇役
2022「El castigo」マティアス・ビセ 主役
タリン・ブラックナイツ2022女優賞・ペドロ・シエナ賞2022、以下シアトル、
トリエステ、ブエノスアイレス、リマ各映画祭2023女優賞、北京FF 2024女優賞
2023「El conde」『伯爵』パブロ・ラライン 脇役
イベロアメリカ・プラチナ賞2024助演女優賞ノミネート
2024「Los domingos mueren mas personas」(アルゼンチン)アイール・サイド、脇役
2024「Los Tortuga」(スペイン合作)ベレン・フネス、主役
◎当ブログ関連記事
*『ザ・クラブ』の紹介記事は、コチラ⇒2015年10月18日
*「Los perros」の紹介記事は、コチラ⇒2017年05月01日
*『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』の紹介記事は、コチラ⇒2017年11月22日
*「Mensajes privados」の紹介記事は、コチラ⇒2022年03月14日
*『1976』の紹介記事は、コチラ⇒2022年09月13日
*「El castigo」の紹介記事は、コチラ⇒2023年03月03日
*「Los domingos mueren mas personas」の紹介記事は、コチラ⇒2024年08月29日
★カンヌ映画祭2025コンペティション部門&「ある視点」、カンヌFF併催の「監督週間」&「批評家週間」などのノミネーション発表があり、全体像が見えてきました。スペインからはコンペティション部門にオリベル・ラシェ*の3作目「Sirat」とカルラ・シモンの3作目「Romeria」の2作がノミネートされました。また「ある視点」部門にディエゴ・セスペデスの「La misteriosa mirada del flamennco」、コロンビアのシモン・メサ・ソトのコメディ「Un poeta」など、今年は珍しく4 作もノミネートされました。順次作品紹介を予定しています。
*オリベル・ラシェ Oliver Raxe は、相変わらずオリヴィエ・ラセ、オリバー・ラクセと表記が定まりませんが、前作『ファイアー・ウィル・カム』で来日した折に確認したところ、ガリシア語読みのオリベル・ラシェが最も近いということでしたので、当ブログでは前作以後こちらに統一しています。
イベロアメリカ金のビスナガ「El ladrón de perros」*マラガ映画祭2025 ⑩ ― 2025年04月18日 16:28
イベロアメリカ映画部門の金のビスナガ受賞作「El ladrón de perros」

★もう一つの金のビスナガ作品賞に選ばれたビンコ・トミシックの「El ladrón de perros / The Dog Thief」は、2024年6月開催のトライベッカ映画祭でプレミアされるや、グアダラハラ、ミュンヘン、AFIラテンアメリカ、リオデジャネイロ、トルコのアンタルヤ・ゴールデン・オレンジ、インド、マル・デル・プラタ各映画祭、翌年にはスウェーデンのヨーテボリ、そしてマラガにやってきた。共同監督での長編はあるが本作がソロデビュー作品である。監督紹介は後述しますが、まずは作品紹介から。
*マラガ映画祭2025授賞式の記事は、コチラ⇒2025年03月28日
「El ladrón de perros / The Dog Thief」
製作:Color Monster / Zafiro Cinema / Calamar Cine / Easy Riders Films
監督:ビンコ・トミシック
脚本:ビンコ・トミシック、サム・ハイライ
撮影:セルヒオ・アームストロング
音楽:ウィサム・ホジェイ
編集:ウルスラ・バルバ・ホプフナー
製作者:アルバロ・マンサノ・サンブラナ、エダー・カンポス、マティアス・デ・ブルギニョンBourguignon、ガブリエラ・マイレ、(エグゼクティブ)ナディア・トゥリンチェフ、フランチェスカ・ノイア・ファン・デル・シュタイ、ほか
データ:製作国ボリビア=チリ=メキシコ=フランス=イタリア、2024年、スペイン語、ドラマ、90分、撮影ボリビアのラパス、配給販売 Luxbox、公開チリ2024年8月、ボリビア同年10月、他
映画祭・受賞歴:トライベッカ映画祭2024ワールドプレミア、グアダラハラ映画祭イベロアメリカ部門(アルフレッド・カストロが生涯功労賞、フランクリン・アロがメンション受賞)、ミュンヘン映画祭シネビジョン・コンペ、AFIラテンアメリカ映画祭、リオデジャネイロ映画祭、アンタルヤ・ゴールデン・オレンジ映画祭(フランクリン・アロ主演男優賞)、インド映画祭、マル・デル・プラタ映画祭、ケララ映画祭、以下2025年、ヨーテボリ映画祭、マラガ映画祭イベロアメリカ映画(金のビスナガ作品賞)、マイアミ映画祭(マリンバス賞ノミネート)、モスクワ映画祭、フォルケ賞2024ラテンアメリカ映画部門ノミネート、イベロアメリカ・プラチナ賞2025オペラ・プリマ賞&価値ある映画と教育プラチナ賞ノミネート、第20回サンティアゴ映画祭SANFIC(フランクリン・アロ男優賞)、ハバナ映画祭脚本賞、リマ映画祭審査員特別賞、プンタ・デル・エステ映画祭(ウルグアイ)監督賞受賞、他

(監督も出席したボリビア公開イベント、2024年10月15日)
キャスト:アルフレッド・カストロ(セニョール・ノボア)、フランクリン・アロ・ワスコ(マルティン)、テレサ・ルイス(セニョリータ・アンドレア)、マリア・ルケ(グラディス)、フリオ・セサル・アルタミラノ(ソンブラス)、ニノン・ダバロス(アンブロシア夫人)、クレベル・アロ(モネダス)、他
ストーリー:15歳の孤児マルティンは首都ラパスの広場で靴磨きをして働いている。先住民であることを隠すため毛糸の帽子を被っている。差別されないためである。亡くなった母親の友人グラディスの家で暮らしている。彼の上得意であるセニョール・ノボアは独り身の洋服仕立屋で、美しいジャーマンシェパードが唯一の友である。マルティンは彼を父親ではないかと思いはじめている。マルティンは彼に近づくため予想もしない行動に出る。

(ジャーマンシェパードを連れて靴磨きに来るセニョール・ノボア)

(セニョール・ノボアとマルティン)

(ジャーマンシェパードとマルティン)
★監督紹介:ビンコ・トミシック・サリナス、チリの監督、脚本家、製作者。2014年、初短編「Durmiente」(アルゼンチン、16分)が、フィクナム、グアダラハラ、カリ、サンパウロ、バンクーバー、各映画祭に出品される。同年制作会社「Calamar Cine」を設立、2016年、フランシスコ・エビアと共同監督した「El fumigador / Cockroach」(チリ=アルゼンチン、80分)が、第20回PÖFFタリン・ブラックナイツでプレミアされ、サンティアゴ映画祭SANFIC 2016で「ベスト・ナショナル・フィルム」を受賞する。2018年、短編「Aicha」(アルゼンチン=ボリビア=チリ、11分)は、ビアリッツ、グアダラハラ、シカゴ、ロカルノアカデミー2019で上映される。2024年「El ladrón de perros」で長編ソロデビューを果たした。本作はカンヌのシネフォンダシオン・レジデンシアとベネチアのビエンナーレ・カレッジ・シネマによって企画されました。短編は英語字幕入りで見ることができます。

(監督とフランクリン・アロ、グアダラハラ映画祭2024)

(「El fumigador / Cockroach」)
★キャスト紹介:ボリビアのラパスを舞台に監督と同胞である受賞歴を誇るアルフレッド・カストロとオーディションで起用されたボリビアのフランクリン・アロを軸に展開します。カストロはチリを離れてスペインの国籍を取り二重国籍(キャリア紹介は以下)。アロは12歳のときから実際に靴磨きをして働いていた。先住民は学校で差別される。何とか自分の人生を変えたいと考えていたときオーディションが開催されることを聞いて応募した。今は靴磨きを恥じていないし誇りを持つことができたが変えるのは簡単ではないと、マラガ映画祭のインタビューに答えていた。
*アルフレッド・カストロのキャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2024年05月23日

(フランクリン・アロ)

(時々学校にも行くマルティン)
★脇を固めるのはメキシコの女優テレサ・ルイス(ナタリア・ベルスタインの『ざわめき』)、マリア・ルケ(マテオ・ヒルの『ブラックソーン』)、アンブロシア夫人を演じるのはボリビアの女優ニノン・ダバロス、そのほかは本作でデビューしている。アルフレッド・カストロとテレサ・ルイスは、キャリア紹介をしています。
*テレサ・ルイスのキャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2023年01月28日
★スタッフ紹介:撮影監督のセルヒオ・アームストロングは、チリのパブロ・ララインのピノチェト三部作(08~12)(『トニー・マネロ』、『ポスト・モーテム』、『ノー No』)ほか、『ザ・クラブ』(15)、『ネルーダ大いなる愛の逃亡者』(16、ペドロ・シエナ賞)、『エマ、愛の罠』(19)などララインの代表作を手掛けている。また金獅子賞をラテンアメリカに初めてもたらしたロレンソ・ビガスとタッグを組んだ『彼方から/フロム・アファー』(15)、ベネズエラ出身だがメキシコに移住して撮った『箱』(21)などを手掛けている。他にチリを脱出してアメリカで製作しているセバスティアン・シルバやマイテ・アルベルディの『イン・ハー・プレイス』(24)も撮っている。
★音楽監督ウィサム・ホジェイは、レバノン出身だがフランスを拠点に活動している映画音楽の作曲家。カミラ・ベルトランのスリラー「Mi bestia」(24、コロンビア=フランス)を担当、映画はシッチェス映画祭イベロアメリカ映画賞を受賞している。製作者のアルバロ・マンサノ・サンブラナは、「映画はラテンアメリカの、またはボリビアの現実を反映している。資金不足で映画製作は難しいが、この映画の成功で力を得た」とマラガで語っている。

(アルバロ・マンサノとフランクリン・アロ、マラガ映画祭2025、プレス会見にて)
セクション・オフィシアル(イベロアメリカ映画)*マラガ映画祭2025 ⑤ ― 2025年03月23日 21:20
チリのビンコ・トミシックの「El ladrón de perros」が金のビスナガ受賞
★作品紹介が終わらないうちに受賞作が発表になってしまいました。作品賞「金のビスナガ」は、イベロアメリカ映画賞がビンコ・トミシックの単独監督デビュー作「El ladrón de perros」、スペイン映画賞はエバ・リベルタードの「Sorda」、本作は観客賞もゲットしました。他、ベレン・フネスの「Los tortuga」が銀のビスナガ審査員特別賞と脚本賞、ヘラルド・オムスの「Molt lluny」が銀のビスナガ批評家審査員特別賞を受賞しました。全受賞作は授賞式を含めて後日アップ予定。
*セクション・オフィシアル(イベロアメリカ映画)*
1)「Culpable cero」アルゼンチン=スペイン、2024年、110分、コメディドラマ
監督:ヴァレリア・ベルトゥチェリ(ブエノスアイレスのサンニコラス1969、長編2作目)、舞台女優としてスタートを切る。TVや映画に出演、2018年「La reina del miedo」で監督デビュー、サンダンス映画祭女優賞を受賞する。モラ・エリサルデ(デビュー作)、ブエノスアイレス大学で映像&音響デザインを専攻卒業する。2012年広告編集者としてキャリアを切り、TVシリーズの編集(「Morko y Mali」)やビデオクリップを制作する。2018年、宣伝広告と並行して映画プロジェクトの監督や脚本も手掛けている。
*ベルトゥチェリ監督キャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2018年04月10日
脚本:ヴァレリア・ベルトゥチェリ、モラ・エリサルデ、マレナ・ピチョト
製作:Pampa Films / Gloriamundi Producciones
キャスト:ヴァレリア・ベルトゥチェリ(ベルタ・ミュラー)、セシリア・ロス(カローラ)、ユスティナ・ブストス(マルタ)、ガイア・ガリバルディ(オリビア)、マルティン・ガラバル(ラミロ)、メイ・スカポラ(グレース)、マラ・ベステッリ(サンドラ)、ルシア・マシエル(グアダ)他

(左からヴァレリア・ベルトゥチェリ、モラ・エリサルデ、2025年03月18日)

2)「El diablo en el camino」メキシコ=フランス、2024年、108分
監督・脚本:カルロス・アルメリャ(メキシコシティ、長編3作目)、イギリスの映画学校(CCC)とロンドン映画学校で学ぶ。短編「Tierra y pan」がベネチア映画祭2008短編部門の金獅子賞を受賞、そのほか受賞歴多数。ドキュメンタリー「Toro negro」は共同監督だが、サンセバスチャン映画祭2005でオリソンテス賞、ハバナ映画祭サンゴ賞を受賞、モレリア映画祭でも上映された。長編デビュー作「En la estancia」(15)はロッテルダム映画祭でプレミアされ、グラマドやサンディエゴなど国際映画祭で受賞している。2作目「Animo juventud !」(20)はモレリアFF、釜山青少年映画祭にノミネートされた。TVシリーズ多数。
製作:CIMA / B Positivo Producciones / Tita B Producciones / Zensky Cine /The42Films 他
キャスト:ルイス・アルベルティ(フアン)、マイラ・バタジャ(イサベル)、アケツァリー・ベラステギ Aketzaly Verastegui、リカルド・ウスカンガ、オスワルド・サンチェス、ロベルト・オロペサ、他


3)「El ladrón de perros / The Dog Thief」ボリビア=チリ=メキシコ=仏=伊、2024年、
90分、トライベッカ映画祭2024上映
監督・脚本:ビンコ・トミシック・サリナス(サンティアゴ・デ・チリ1987、長編単独デビュー作)、監督、脚本家、製作者。2014年、制作会社 Calamar Cine を設立。フランシスコ・エビアとの共同監督作品「El fumigador」(16)が、PÖFFタリン・ブラックナイツでプレミア上映され、SANFIC 2016 でナショナルフィルム賞を受賞した。カンヌ映画祭シネフォンダシオンとベネチア・ビエンナーレ・カレッジ・シネマ・プログラムで企画された。マラガ映画祭2025イベロアメリカ映画賞金のビスナガ受賞。
製作:Color Monster / Zafiro Cinema / Calamar Cine
キャスト:アルフレッド・カストロ(セニョール・ノボア)、フランクリン・アロ(マルティン)、テレサ・ルイス(セニョリータ・アンドレア)、マリア・ルケ(グラディス)、フリオ・セサル・アルタミラノ(ソンブラス)、ニノン・ダバロス(セニョーラ・アンブロシア)


4)「Nunca fui a Disney」アルゼンチン、2024年、74分
監督:マティルデ・トゥテ・ヴィサニ(ブエノスアイレス1989、デビュー作)、ブエノスアイレス大学の映像&音響デザイナーとしての学位を得る。監督、脚本家、フィルム編集者。2017年「Rosa」で短編デビュー、長編第1作である「Nunca fui a Disney」は第25回BAFICI(ブエノスアイレス国際インディペンデントFF)で監督賞を受賞している。第2作の準備中。
脚本:マティルデ・トゥテ・ヴィサニ、アグスティナ・マルケス・メルリン
キャスト:ルシア・マルティネス・ラグ(ルシア)、アレハンドラ・ボルヘス、アルマ・フロレス、フランシスコ・アンテロ、ヘレミアス・サラテ、ルシアナ・ロメロ、ヤミラ・アスクアガ


5)「Perros」ウルグアイ=アルゼンチン、2025年、102分
監督・脚本:ヘラルド・ミヌッティ(デビュー作)、社会コミュニケーションを専攻、10年間ジャーナリストだった。2013年ウルグアイ文化教育省の奨学金を得て映画を学んでいる。短編「Hogar」(18)は、ビアリッツ・ラテンアメリカ映画祭で審査員特別メンションを受賞、グアダラハラ映画祭コンペティション部門にノミネートされている。長編デビュー作は、
製作:Cinevinay / Cimarrón(The Mediapro Studio)
キャスト:ネストル・グツィーニ、マルセロ・スビオット、マリア・エレナ・ぺレス、ノエリア・カンポ、ロベルト・スアレス、カタリナ・アリジャガ、マヌエル・タテ、ソレダード・ペラヨ


6)「Sugar Island」ドミニカ共和国=スペイン、2024年、90分、ドキュメンタリー
テッサロニキ映画祭2024 WIFT 賞、ベネチア映画祭ヤング審査員賞ほか受賞、
マラガ映画祭2025銀のビスナガ撮影賞(アルバン・プラド)受賞
監督:ジョアンヌ(ヨハンヌ)・ゴメス・テレロ(ドミニカ共和国1985、ドキュメンタリー3作目)、ドキュメンタリー監督、脚本家、製作者、キューバの国際映画テレビ学校 EICTV の講座のコーディネーター。カタルーニャ映画視聴覚上級学校ESCACで映画配給修士課程卒業。短編ドキュメンタリー「Bajo las carpas」(14、52分)で監督デビュー、2016年「Caribbean Fantasy」を発表している。
脚本:ジョアンヌ・ゴメス・テレロ、マリア・アベニア
製作:Tinglado Film / Guasábara Cine
キャスト:イェリダ・ディアス Yelida Diaz、フランシス・クルス、フアン・マリア・アルモンテ、ルス・エメテリオ、ヘネシス・ピニェイロ、ディオゲネス・メディナ


7)「Violentas mariposas」メキシコ、2024年、101分、モレリア映画祭2024、
メキシコ公開2024年10月
監督・脚本:アドルフォ・ダビラ(長編デビュー作)、監督、脚本家、製作者、メキシコシティのメトロポリタン自治大学 UAM でデザインを専攻した後、フルブライト奨学金を得て、ワシントンのアメリカン大学で映画を学び、ニューメキシコのサンタフェにある人類学フィルムセンターでも学んでいるなど多才。広告映画、ドキュメンタリー、ミュージックビデオ、短編5作を撮っており、現在長編2作目が進行中。
製作:Neural / Mandarina Cine
キャスト:ディアナ・ラウラ DI(エバ)、アレハンドロ・ポーター(ビクトル)、ノルマ・パブロ(テレ)、ソフィー・アレクサンダー・カッツ(ロラ)、ジェルマン・ブラッコ(マテオ)、レオナルド・アロンソ(ラウル)、フアン・ルイス・メディナ(ムニェコ)、ヤヨ・ビジェガス(レオン)、他


マイテ・アルベルディの『イン・ハー・プレイス』*ネットフリックスで鑑賞 ― 2024年10月19日 14:45
アルベルディの初ドラマ『イン・ハー・プレイス』のテーマは居場所探し

★マイテ・アルベルディの『イン・ハー・プレイス』(仮題「他人の家」)を期待して鑑賞しました。第97回アカデミー賞とゴヤ賞2025のチリ代表作品に選ばれたということ、1950年代に実際に起きた作家マリア・カロリナ・ヘールの動機が明らかでない犯罪にインスパイアされたということなどからでした。しかしドキュメンタリー『83歳のやさしいスパイ』(20)ほど楽しめなかった。というのも肝心の恋人殺害の動機の分析は語られず、その理由は次第に分かってくるのだが、実在しない架空の登場人物たちが右往左往する。要するに殺人犯である作家の複雑な心理解明がテーマでなく、社会的弱者である裁判所の女性書記メルセデスの居場所探しの話なのでした。メルセデスは当時のチリの男性社会から無視されている多くの女性の代弁者の一人、監督は70年後の現在でも「状況はそれほど変わっていないじゃないか」と主張している。従って映画はメルセデスの視点で進行する。サンセバスチャン映画祭のコンペティションでプレミアされた折に作品紹介をしておりますが、便宜上キャスト紹介とストーリーをアップします。

(マイテ・アルベルディ、サンセバスチャン映画祭2024のフォトコール)
キャスト紹介:エリサ・スルエタ(メルセデス)、フランシスカ・ルーウィン(ペンネーム、マリア・カロリナ・ヘール/実名ヘオルヒナ・シルバ・ヒメネス)、マルシアル・タグレ(アリロ判事)、パブロ・マカヤ(夫エフライン)、ガブリエル・ウルスア(書記ドミンゴ)、ニコラス・サアベドラ(被害者ロベルト・プマリノ・バレンスエラ)、クリスティアン・カルバハル(弁護士コンチャ)、パブロ・シュヴァルツ(被害者弁護士モンテロ)、ネストル・カンテリャノ(作家の友人ルネ)、ロサリオ・バハモンデス(ロサ・ヘネケオ・サーベドラ)、ほか証言者多数
ストーリー:1955年4月14日の午後、サンティアゴ市の豪華ホテル・クリヨンのカフェで、作家マリア・カロリナ・ヘールがベルギー製リボルバーで恋人ロベルト・プマリノ・バレンスエラに5発の銃弾を浴びせて殺害した。この事件を担当することになった裁判所の内気な書記官メルセデスは、判事から容疑者のサポートを命じられる。作家のアパートを訪れたメルセデスは、そこに自由のオアシスを見つけると、自分の理不尽な人生、アイデンティティ、社会における女性の地位の低さに疑問を抱くようになる。実際に起きた殺人事件にインスパイアされてドラマ化された。

(被害者と容疑者になる前のシーンから)
マリア・カロリナ・ヘール事件はドラマの背景
A: 作品紹介で述べたように本作は、アリア・トラブッコ・セランの著作 “Las homicidas” 、英語題 “When Women Kill” にインスパイアされて映画化されたフィクションです。20世紀にチリ女性によって犯された象徴的な4つの殺人事件が分析考察されており、その一つが本作に登場する作家マリア・カロリナ・ヘールの殺人事件です。
B: フランシスカ・ルーウィンが演じたマリア・カロリナ・ヘールはペンネームで、実名はヘオルヒナ・シルバ・ヒメネス、劇中でもシーンによって使い分けされている。

(マリア・カロリナ・ヘールことヘオルヒナ・シルバ・ヒメネス)

(劇中小道具として使用される銀のブレスレットをした作家)
A: 事件前に数冊の小説*を上梓している他、1949年に女性が手掛けるのは初めていう “Siete escritoras chilenas”(仮題「7人のチリの女性作家」)という文芸評論を出版しており、彼女が徹底して作品を読みこんだことが実証された。7人のなかにはノーベル文学賞を受賞したガブリエラ・ミストラル、映画にも恋人射殺事件をおこした作家として登場するマリア・ルイサ・ボンバル、ほかに親交のあったアマンダ・ラバルカ、マリア・モンベルなどが含まれている。有名な作家の作品でも批判的に読むことの重要性を指摘しているそうです。

(射殺後に救けを呼ぶという矛盾した行動に出る作家)
B: 小説の特徴は、登場人物を通じて女性の内面性に焦点を当て、女性の知的、社会的自由を求めて闘う姿勢を示している。
A: 家父長主義、男性優位が当たり前の社会、女性解放、ウーマンリブという言葉さえなかった時代ですから、どの作品も評価は分かれたでしょう。映画は当時の社会階級の相違、容疑者も被害者も共に経済的に何不自由なく暮らしている中流階級に属しており、陽ざしの届かない狭苦しいアパートにひしめき合って暮らすエリサ・スルエタ演じるメルセデスのような庶民からすれば、どちらも同情に値しない。
B: メルセデスは、家族、なかでも鈍感な夫に対してフラストレーションを抱え、精神的な逃げ道というか息抜きを必要としていた。偶然にしろ手にした自身の自由を少しでも長く享受したいから、上司である判事が厳罰で臨むことを願っている。
A: 容疑者の弁護士は、精神錯乱を理由に無罪に持ち込もうと画策するが、作家は翌1956年、自分が体験している女子刑務所を舞台にした “Cárcel de mujeres” **(「女性刑務所」)というタイトルの小説を発表して、弁護士の計画を断ち切った。自ら精神錯乱を否定したわけだが、女性蔑視の報道に終始したメディアが「動機は文学的キャリアを高めるためだ」という方向に向かう危険をはらんでいた。

(代表作となった小説 “Cárcel de mujeres” の表紙)

(小説を手にしているメルセデス)
B: この本の出現は軽い制裁で済まそうとしていた判事のメンツをつぶした。判事の事情聴取には黙秘権を行使しておきながら、収監中に小説を執筆して堂々と刊行するなど到底許しがたい。しかし思いがけず手にした自由を手放したくないメルセデスは密かにほくそ笑む。
A: 実際がどうだったか分かりませんが、映画では1956年7月11日、懲役541日の判決を下す。実際は約2倍の3年ですが、変えた理由は何でしょうか。取り立てて落ち度のなさそうな誠実な人間を射殺しておきながら、この刑の軽さは現在の常識では理解しがたい。
B: 現在の司法制度では、判決を下す際に犯罪の動機、被害者への謝罪は重要ですが、作家は謝罪どころか後悔の素振りもなかった。
A: 映画でも彼女の真意は謎のままで、殺害の動機については一貫して沈黙しつづけ、結局墓場までもって行った。作家は1913年生れ、数年前に発症していたアルツハイマー病で自分の名前すら分からなくなって旅立つのが1996年1月1日、享年82歳でした。
B: 真昼間、衆人環視のもとで公然と行われた衝撃的な殺害事件はドラマの背景にすぎなかったというわけでしょうか。
A: 一方、ニコラス・サアベドラが演じた被害者のロベルト・プマリノ・バレンスエラは、1925年サンティアゴ生れ、12歳年下でした。同じ職場である公務員ジャーナリスト基金で知り合ったときは既婚者でしたが、彼女の虜になってからは二人の関係を不倫にしたくないということで離婚しています。
B: カフェのウェイターが「彼は指輪をしていなかった」と証言している。兄弟や同僚の証言からもロベルトが律儀で誠実な男性だったことが窺えるが、作家がロベルトに望んでいたことではなかった。
A: 所詮、ヘオルヒナ・シルバという女性は、彼の手に負える女性ではなく、お金を貢いでくれる取り巻きの一人でしかなかった。独立していて、性的に自由で、文学界である程度の評価を得ていても、ほかの女流作家ほど高くなかったということですから、より名声を求めていたのは確かでしょう。
B: 彼がプレゼントした当時の主婦の憧れの床掃除機を、彼女が「マポチョ川に投げ入れた」という証言が事実なら、やはり激情しやすい、どこかが壊れていた女性です。
A: 才能ある自分が普通の女と一緒くたにされて、プライドを傷つけられたわけです。メルセデスが愛用した赤いガウンをプレゼントした自称詩人ルネが「床掃除機を贈っていたら今頃は僕の追悼式だった」と自嘲するシーンがありましたね。
50年代のチリに精神錯乱でもなく動機もない犯罪は存在しなかった
B: さらに彼女に朗報が届く。ニューヨークに在住していたミストラルなどが、時の大統領カルロス・イバニェス・デル・カンポに恩赦の嘆願書を送った。
A: 映画のエンディングに挿入された嘆願書の日付は、判決の約1カ月後の8月13日でした。ミストラルは「友人である作家」の赦免を求めている。反体制派には厳罰で臨んだ軍事独裁者も、政治的な発言は生涯剥奪したものの自由を認めた。
B: 結果、服役は1年足らずです。残念なことにメルセデスの自由は束の間に終わってしまった。ミストラルは半年後に膵臓癌でニューヨークで客死するから間一髪でした。遺族にしてみれば不条理だったに違いない。

(オスカーとゴヤ賞のチリ代表作品に選ばれた)
A: チリの50年代には、動機のない犯罪、挑発もなく女性が犯す殺人の可能性は考えられなかったことも作家には幸いしたが、これが正義だったとは思えない。ロベルト・プマリノは浮かばれないし、遺族や弁護士はさぞ歯噛みしたことでしょう。被害者サイドの弁護士モンテロが、容疑者が刑務所でなくホテル住まいだと息まくシーンもありました。判事からブエン・パストールの女子修道院だと宥められるが、司祭以外の「男性お断り」の女子修道院では男性のモンテロにはお手上げです。修道院が刑務所の一端を担っていた。
B: 作家の出所は、メルセデスを突き放す。もうセンスある衣装を身にまとうことも、イヤリングなどの装身具も、マニキュア、化粧品とも別れなければならない。
A: 作家と同じ髪型に変え、トレードマークのロングコート、ブレスレッドを付けて変身していく大胆さに、観客はこれはヤバいとドキドキする。しかし、メルセデスが想像のなかで作家と一体化して現実を侵食していくシーンは少し冗漫に感じました。実際のところ弁護士が預かれない容疑者の鍵を担当書記官が自由に使用できる設定は「あり」でしょうかね。
B: 作家の鍵を持っていて、アパートでメルセデスと鉢合わせする自称詩人のルネも自分の居場所がないと嘆いていましたが、居場所探しは女性に限らない。
A: 出所した作家をタクシーで迎えに行った取り巻きの一人がこのルネでした。詩を書いて生計を立てるのは、いつの時代でも厳しい。2回登場させていますが、パラルにいるという姉も含めて多くの証言者が冒頭で消えてしまうのと対照的です。
B: それぞれ視点を変えれば、どんどん実像から離れていくという駒として登場させている。
前例のあった殺人事件――「エウロヒオ射殺事件」
A: 前述の詩人で小説家のマリア・ルイサ・ボンバル(1910~80)の恋人射殺事件を取り入れることで、ストーリーにふくらみをもたせている。1941年、ボンバルはかつて熱烈な恋愛関係にあったエウロヒオ・サンチェスの腕に3発の銃弾を浴びせるという事件を起こしている。場所も同じホテル・クリヨンでした。裁判になったがサンチェスが彼女の罪をいっさい問わなかったので裁判官もボンバルを無罪にした。
B: 前例があるわけですね。シルバがこの射殺事件を念頭において模倣した可能性がある。
A: ウイキペディア情報ですが、二人の作家は作風が似ているようです。ボンバルはボルヘスやネルーダとも親交のあった作家だそうで、エロティック、シュールレアリスト、フェミニズムのテーマを取り入れ、いわゆる男性らしさを否定している。サンティアゴ市文学賞を受賞するなどシルバより評価は高そうです。
B: 実在したモデルのある人物と架空の登場人物がうまく噛み合っていない印象でした。
A: 公式サイトで、エリサ・スルエタが演じたメルセデスを「内気」と紹介していますが、内気どころか少々大胆で、保身に汲々している上司を翻弄している。当ブログ初登場です。
B: 2人のハイティーンの息子がいるから、事件当時42歳だった作家と同年齢か少し年下に設定されていますが、若く見えました。複雑な作家を演じたフランシスカ・ルーウィンも初登場。
A: ルーウィンは1980年サンティアゴ生れ、彼女も映画よりTVシリーズ出演が多い。
★エリサ・スルエタは、1981年サンティアゴ生れ、映画、TV、舞台女優、脚本家、演出家でもある。マルティン・ドゥプァケットの「El Fantasma」(23)に主演、共同で脚本を執筆、ルネ役のネストル・カンテリャノと共演している。TVシリーズ出演が多い。ノミネートはあるが受賞歴はない。
★フランシスカ・ルーウィンは、1980年サンティアゴ生れ、TVシリーズ出演が多く、「Los Capo」(全124話)でアート・エンターテインメント批評家2005助演女優賞を受賞している。


(ともにサンセバスチャン映画祭は初めてという、スルエタとルーウィン、9月23日)
*”El mundo dormido de Yenia”(1946、イェニアの眠りの世界)、”Extraño estío”(1947、奇妙な夏)、”Soñaba y amaba al adolescente Perces”(1949、ペルセスの思春期の夢と愛)、仮題を付記しました。
**フィクション、証言、自伝を織りまぜており、通行不能な世界である刑務所に収監された女性たちと彼女たちを取り巻く状況を描いた画期的な小説、ほかに女性同士の欲望、今でいうレズビアンを描いた部分が当時としては独特な位置を占めている。「省略と脱線の繰り返しは、裁判官や弁護士の協力を防ぐために巧妙に配されている」とトラブッコ・セランは評している。
*原作者、作品紹介は、コチラ⇒2024年08月14日
*監督の主な紹介は、コチラ⇒2020年10月22日/2024年01月18日
オリソンテス・ラティノス部門第4弾*サンセバスチャン映画祭2024 ⑮ ― 2024年08月29日 15:11
アルゼンチン在住のドイツ人監督ネレ・ヴォーラッツの第2作
★オリソンテス・ラティノス部門の最終回は、変わり種としてアルゼンチン在住のドイツ人監督ネレ・ヴォーラッツが中国人の移民を主役にしてブラジルを舞台にした「Dormir de olhos abertos / Sleep With Your Eyes Open」、イエア・サイドの「Los domingos mueren más personas / Most People Die on Sundays」、ソフィア・パロマ・ゴメス&カミロ・ベセラ共同監督の「Quizás es cierto lo que dicen de nosotras / Maybe It’s True What They Say About Us」の3作、いずれも長いタイトルです。
*オリソンテス・ラティノス部門 ④*
12)「Dormir de olhos abertos / Sleep With Your Eyes Open」
ブラジル=アルゼンチン=台湾=ドイツ
イクスミラ・ベリアク 2018 作品
2024年、ポルトガル語・北京語・スペイン語・英語、コメディドラマ、97分、撮影地ブラジルのレシフェ。脚本ピオ・ロンゴ、ネレ・ヴォーラッツ、撮影ロマン・カッセローラー、編集アナ・ゴドイ、ヤン・シャン・ツァイ、公開ドイツ6月13日
監督:ネレ・ヴォーラッツ(ハノーバー1982)は、監督、脚本家、製作者。アルゼンチン在住のドイツ人監督。長編デビュー作「El futuro perfecto」がロカルノ映画祭2016で銀豹を受賞している。アルゼンチンに到着したばかりの中国人少女のシャオビンが新しい言語であるスペイン語のレッスンを受ける課程でアイデンティティを創造する可能性を描いている。第2作は前作の物語にリンクしており、主人公が故郷の感覚を失った人の目を通して、孤立と仲間意識の物語を構築している。3作目となる次回作はドイツを舞台にして脚本執筆に取りかかっているが、監督自身もドイツを10年前に離れており、母国との繋がりを失い始めているため距離の取り方に苦労していると語っている。新作に製作者の一人として『アクエリアス』のクレベール・メンドンサ・フィーリョが参加、偶然ウィーンで出合ったそうで、撮影地が『アクエリアス』と同じレシフェになった。
映画祭・受賞歴:ベルリンFF2024「エンカウンターズ部門」のFIPRESCI賞受賞、韓国ソウルFF、カルロヴィ・ヴァリFF、(ポーランド)ニューホライズンズFF、SSIFFオリソンテス・ラティノス部門出品
キャスト:リャオ・カイ・ロー(カイ)、チェン・シャオ・シン(シャオシン)、ワン・シンホン(アン・フー)、ナウエル・ペレス・ビスカヤール(レオ)、ルー・ヤン・ゾン(ヤン・ゾン)ほか多数
ストーリー:ブラジルの或るビーチリゾート、カイは傷心を抱いて台湾から休暇をとって港町に到着する。故障したエアコンをアン・フーの傘屋に送ることにする。友達になれたはずなのに雨季がやってこないので店はしまっている。アン・フーを探しているうちに、カイは高級タワーマンションでシャオシンと中国人労働者のグループの存在を知る。カイは、シャオシンの話に不思議な繋がりがあるのに気づきます。ヒロインは監督の外国人の視点を映し出す人物であり、帰属意識を失う可能性のある人の物語。




13)「Los domingos mueren más personas / Most People Die on Sundays」
アルゼンチン=イタリア=スペイン
WIP Latam 2023 作品
2024年、スペイン語、コメディドラマ、73分、デビュー作、WIP Latam 産業賞&EGEDA プラチナ賞受賞、公開スペイン2024年10月4日、アルゼンチン10月31日
監督:Iair Said イエア(イアイル)・サイド(ブエノスアイレス1988)は、監督、脚本家、キャスティングディレクター、俳優。2011年俳優としてスタートを切り、出演多数。監督としては短編コメディ「Presente imperfecto」(17分)がカンヌFF2015短編映画部門ノミネート、ドキュメンタリー「Flora’s life is no picnic」がアルゼンチン・スール賞2019ドキュメンタリー賞受賞。長編デビュー作は監督、脚本、俳優としてユダヤ人中流家庭の遊び好きで無責任なゲイのダビを主演する。
映画祭・受賞歴:カンヌFF 2024 ACIDクィアパーム部門でプレミア、グアナフアトFF国際長編映画賞ノミネート、SSIFFオリソンテス・ラティノス部門出品
キャスト:イエア・サイド(ダビ)、リタ・コルテス(母親)、アントニア・セヘルス(従姉妹)、フリアナ・ガッタス(姉妹)
ストーリー:ダビは叔父の葬儀のためヨーロッパからブエノスアイレスに帰郷する。母親が、長い昏睡状態にある父親ベルナルドの人工呼吸器のプラグを抜く決心をしたことを知る。ダビは、夫の差し迫った死の痛みに錯乱状態の母親との窮屈な同居と、自身の存在の苦悩を和らげるための激しい欲望とのあいだでもがいている。数日後、彼は過去と現在を揺れ動きながら、また最低限の注意を向けてセクシュアルな関係を保ちながら、車の運転を習い始める。さて、ダビは父親の死を直視せざるをえなくなりますが、呼吸器を外すことは適切ですか、みんなで刑務所に行くことになってもいいのですか。家族、病気、死についてのユダヤ式コメディドラマ。



14)「Quizás es cierto lo que dicen de nosotras / Maybe It’s True What They Say About Us」
チリ=アルゼンチン=スペイン
WIP Latam 2023 作品
2024年、スペイン語、スリラー・ドラマ、95分、脚本カミロ・ベセラ、ソフィア・パロマ・ゴメス、撮影マヌエル・レベリャ、音楽パブロ・モンドラゴン、編集バレリア・ラシオピ、美術ニコラス・オジャルセ、録音フアン・カルロス・マルドナド、製作者&製作カルロス・ヌニェス、ガブリエラ・サンドバル(Story Mediaチリ)、Murillo Cine / Morocha Films(アルゼンチン)、b-mount(スペイン)、公開チリ2024年5月30日(限定)、インターネット6月7日配信。
監督:カミロ・ベセラ(サンティアゴ1981)とソフィア・パロマ・ゴメス(サンティアゴ1985)の共同監督作品。ベセラは監督、脚本家、製作者。ゴメスは監督、脚本家、女優。前作「Trastornos del sueño」(18)も共同で監督、執筆している。意義を求めるような宗教セクト、口に出せないことの漏出、男性がいない家族、ヒメナのように夫を必要としない女性、これらすべてがこの家族を悲惨な事件に追い込んでいく。「私たちの映画は、どのように生き残るか、または恐怖にどのように耐えるかを描いており」、「この事件の怖ろしさがどこにあるのかを考えた」と両監督はコメントしている。
映画祭・受賞歴:SSIFFオリソンテス・ラティノス部門出品
キャスト:アリネ・クッペンハイム(ヒメナ)、カミラ・ミレンカ(長女タマラ)、フリア・リュベルト(次女アダリア)、マリア・パス・コリャルテ、アレサンドラ・ゲルツォーニ、ヘラルド・エベルト、マカレナ・バロス、他
*アリネ・クッペンハイムについては、マヌエラ・マルテッリのデビュー作『1976』が東京国際映画祭2022で上映され女優賞を受賞した折に、キャリア&フィルモグラフィーを紹介しています。 コチラ⇒2022年11月06日
ストーリー:成功した精神科医のヒメナは、長らく或る宗派のコミュニティに入り疎遠だった長女タマラの思いがけない訪問をうける。タマラが母親と次女アダリアが暮らしている家に避難しているあいだ、タマラの生まれたばかりの赤ん坊がセクト内部の奇妙な状況で行方不明になったというので、ヒメナは赤ん坊の運命を知ろうと政治的な調査を開始する。実際に起きた「アンタレス・デ・ラ・ルス」事件*にインスパイアされたフィクション。
*アンタレス・デ・ラ・ルス「Antares de la Luz」事件とは、2013年、キリスト再臨を主張した宗教指導者ラモン・グスタボ・カステージョ(1977~2013)が、世界終末から身を守る儀式の一環としてバルパライソの小村コリグアイで、女性信者の新生児を生贄として焼いていたことが発覚した事件。当局の調査着手に身の危険を察知したカステージョは、逮捕に先手を打って逃亡先のクスコで首吊り自殺をした。チリ史上もっとも残忍な犯罪の一つとされる事件は、ネットフリックス・ドキュメンタリー『アンタレス・デ・ラ・ルス:光のカルトに宿る闇』(24)として配信されている。





(ネレ・ヴォーラッツ、イエア・サイド、ソフィア・パロマ・ゴメス、カミロ・ベセラ)
★オリソンテス・ラティノス部門は、以上の14作です。スペイン語、ポルトガル語がメイン言語で監督の出身国は問いません。ユース賞の対象になり、審査員は18歳から25歳までの学生150人で構成されています。
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