審査員特別賞受賞作ベレン・フネス「Los Tortuga」*マラガ映画祭2025 ⑪ ― 2025年04月25日 13:23
ベレン・フネスの第2作「Los Tortuga」が4冠の快挙

★ベレン・フネスの2作め「Los Tortuga」は、審査員特別賞、監督賞、脚本賞(共同執筆マルサル・セブリアン)、SIGNIS(カトリック・メディア協議会賞)の4冠を受賞しました。長編デビュー作「La hija de un ladrón」はサンセバスチャン映画祭2019のセクション・オフィシアルにノミネート、主演のグレタ・フェルナンデスが女優賞を受賞しました。ゴヤ賞2020新人監督賞を受賞した折、作品紹介もキャリア&フィルモグラフィーも簡単に紹介しただけでしたので、脚本共同執筆者のマルサル・セブリアンも含めてアップいたします。
*ベレン・フネスのキャリア紹介は、コチラ⇒2019年12月24日
*マラガ映画祭2025授賞式の記事は、コチラ⇒2025年03月28日
「Los Tortuga / The Exiles」
製作:Oberon Media / La Claqueta PC / La Cruda Realidad / Los Tortuga La Plícula /
Quijote Films
協賛 3Cat / Cenal Sur Radio y Televisión / Canal Sur Televisión / ICEC /
ICAA / RTVE / TV3、他
監督:ベレン・フネス
脚本:ベレン・フネス、マルサル・セブリアン
撮影:ディエゴ・カベサス
音楽:パロマ・ペニャルビア
編集:セルヒオ・ヒメネス-AMAE
美術:パウラ・エスプニー
キャスティング:クリスティナ・ペレス、イレネ・ロケ、マリチュ・サンス
衣装デザイン:ルルデス・フエンテス
メイクアップ&ヘアー:サラ・カセレス
製作者:オルモ・フィゲレド・ゴンサレス=ケベド(La Claqueta)、アントニオ・チャバリアス(Oberon Media)、マヌエル・H・マルティン、アンヘルス・マスクランズ、ジャンカルロ・ナシ(Quijote Films)、カルロス・ロサド・シボン、(エグゼクティブ)アルバ・ボッシュ・デュラン、サラ・ゴメス(La Claqueta)、(アソシエイトプロデューサー)マルサル・セブリアン
データ:製作国スペイン=チリ、2024年、スペイン語・カタルーニャ語、ドラマ、109分、撮影地バルセロナとハエン県、販売 Film Factory Entertainment、配給(スペイン)A Contracorriente Films、公開スペイン2024年11月15日
映画祭・受賞歴:トロント映画祭2024セクション・センターピースでプレミア、テッサロニキ映画祭 Meet the Neighbors コンペティション、女優賞(アントニア・セヘルス)、スペシャル・メンション(エルビラ・ララ)、マル・デル・プラタ映画祭、以下2025年、パームスプリングス映画祭、ヨーテボリ映画祭、マラガ映画祭(上記)、クリーブランド映画祭新人監督部門コンペティション、マイアミ映画祭ナイト・マリンバス賞受賞
キャスト:アントニア・セヘルス(デリア)、エルビラ・ララ(娘アナベル)、マメン・カマチョ(イネス)、ペドロ・ロメロ、ロレナ・アセイトゥノ、メルセデス・トレダノ、セルヒオ・ジェルペス、ビアンカ・コバックス(Iuliana)、セバスティアン・アロ(ホセ)、ノラ・サラ=パタウ、ギレム・バルボサ、パディ・パディリャ(郵便配達員)、ジョルディ・ぺレス(ハビ)、ペドロ・カステリャノ、他
ストーリー:夫フリアンが亡くなってから、デリアとアナベル母娘は彼のいない人生に向き合っています。経済的困窮から立ち退きの脅威に晒されています。ハエンのオリーブ畑とバルセロナの街並みを舞台に、母娘は異なった方法で喪に服していますが、愛と痛み、優しさと辛さのバランスを取りながら、自分たちの不確実な将来の再建に立ち向かおうとしています。

(フレームから)
★監督紹介:ベレン・フネス、1984年バルセロナのリポレト生れ、監督、脚本家。2008年、バルセロナ大学に付属しているESCAC(カタルーニャ映画視聴覚上級学校)のコミュニケーションと監督の学位を取得、その後キューバに渡りEICTV(映画テレビジョン国際学校)の修士コースで学んだ。2015年短編「Sara a la fuga」で監督デビュー、マラガ映画祭の銀のビスナガ短編賞と監督賞を受賞した。2017年短編2作目「La inútil」(17分)がメディナ映画祭脚本賞をマルサル・セブリアンと受賞、ガウディ賞短編部門にノミネート、2018年トロント映画祭のタレントラボに選ばれ、長編デビュー作の脚本を執筆する。翌年サンセバスチャン映画祭2019セクション・オフィシアルに「La hija de un ladrón」のタイトルでノミネートされた。本作は短編「Sara a la fuga」がベースになっている。主演のグレタ・フェルナンデスが女優賞を受賞した他、トゥールーズ・シネスパニャ脚本賞、翌年のガウディ賞では非カタルーニャ語映画賞・監督賞・脚本賞の3冠、ゴヤ賞新人監督賞を受賞した。バジャドリード映画祭2019で女性監督に贈られるドゥニア・アヤソ賞も受賞している。新作「Los Tortuga」が長編第2作になる。

ビュー作「La hija de un ladrón」のポスター)

(新人監督賞を受賞したベレン・フネス、ゴヤ賞2020ガラ)
★脚本家紹介:マルサル・セブリアン、1983年バルセロナ生れ、脚本家、脚本アナリスト、製作者、俳優、バルセロナ大学の教師。23歳という年齢でESCACの脚本特別コースで学んだという遅咲きの脚本家。ベレン・フネスの全4作の脚本を共同執筆している他、2012年マルティ・サンスのドキュメンタリー「L’estigma?」(スペイン=イスラエル)、2019年ラファ・デ・ロス・アルコスの短編「Todo el mundo se parece de lejos」(15分)にそれぞれ監督と共同執筆している。受賞歴はベレン・フネスと同じです。俳優としてリリアナ・トーレスのコメディ「Family Tour」(13)に出演している。2025年4月、GAC(カタルーニャ脚本家連合)の総会で新会長に選出されました。


(マルサル・セブリアンとベレン・フネス、ガウディ賞2020ガラ)
★キャスト紹介:アントニア・セヘルス、1972年サンティアゴ生れ、映画、舞台、TV女優。父は産婦人科医のフェルナンド・セヘルス、母は仏教徒でアドベンチャー・カメラマンのモニカ・オポルト。セント・ジョージ学校で学び、その後グスタボ・メサ演劇学校(現テアトル・イメージ)で演技を学んだ。チリ国営テレビでテレノベラ(連続テレビ小説)に出演、キャリアを積んだ。1995年、クリスティン・ルカスの「En tu casa a las ocho」のアントニエタ役で映画デビューする。その後の活躍は以下のフィルモグラフィーの通りです。2006年にパブロ・ララインと出遭い、彼の代表作「ピノチェト政権三部作」(『トニー・マネロ』『ポスト・モーテム』『No』)、『ザ・クラブ』では映画の鍵を握る訳ありシスター・モニカ役で存在感を示した。私事に触れると、ララインとは長女誕生の2008年正式に結婚、2011年に長男誕生するも2014年離婚している。しかし離婚後もララインのスペイン語映画のほぼ全作に出演している。映画祭上映、公開、ネット配信など字幕入りで見ることができた。

(G.G.ベルナルとタッグを組んだ『No』のフレームから)

(チリの名優が共演した『ザ・クラブ』のフレームから)
★もう一人の重要な監督マティアス・ビセとは、ラライン映画より先の長編デビュー作「Sábado」(03)に起用された。たった65分間の映画でしたがマンハイム・ハイデルブルク映画祭でファスビンダー記念特別賞、FIPRESCI賞、チリのアルタソル賞を受賞した問題作、セヘルスは妊婦役に扮した。その後も度々オファーを受け出演している。2022年に主演した「El castigo」では、旅行中に行方不明になった子供の母親に扮し、その複雑な母性の危うさや揺らぎを見事に演じて多数の受賞に輝いた。


(マラガ映画祭2023セクション・オフィシアルにノミネートされた「El castigo」)
★ラライン映画では、監督お気に入りのアルフレッド・カストロとタッグを組むことが当然多いわけだが、他の監督、例えばマルセラ・サイドがカンヌ映画併催の「批評家週間」にノミネートされた「Los perros」(17)でも、軍事独裁政権下で体制側に与していた過去を引きずるセレブ階級の女性を演じている。ほか女性監督のドミンガ・ソトマヨールの「Tarde para morir joven」、マヌエラ・マルテッリの『1976』などが挙げられる。

(共演したカストロとセヘルス、「Los perros」から)
★少女時代から女優になることが夢だった由、「声がよかったが歌手になるには無理があった。趣味は料理、魚は食べるベジタリアン、多様性に欠けているからテレビは見ません、後ろめたい娯楽はサウナ」だそうです。スペイン語版ウイキペディアによると、ララインと出会う前のパートナーは舞台俳優のリカルド・フェルナンデス(2001~04)、ララインと別れてからはミュージシャンのGepe(ダニエル・アレハンドロ・リベロス・セプルべダ、2015~17)とある。
★演劇では、アリエル・ドルフマンの戯曲『死と乙女』でアルタソル賞2012女優賞、TVシリーズでは、「Secretos en el jardín」(2013~14、90話)でアルタソル賞2014女優賞、「La jauría」(2019~22、全16話)でプロドゥ賞2020、カレウチェ賞2021主演女優賞に各ノミネートされた。カレウチェCaleuche賞は2015年から始まったチリ俳優組合が選考母体の賞、「変容する人」に与えられる。セヘルスは『ザ・クラブ』で2016年助演女優賞を受賞している。
◎主なフィルモグラフィー(監督名、主な受賞歴、なお短編・テレノベラ・TV は割愛)
1995「En tu casa a las ocho」クリスティン・ルカス
2003「Sábado」マティアス・ビセ
2007「Pecados」マルティン・ロドリゲス
2008「Tony Manero」『トニー・マネロ』パブロ・ラライン「ピノチェト三部作」の1、
テレビプロデューサー役
2010「Post Mortem」『ポスト・モーテム』同「ピノチェト三部作」の2、主役
ハバナFF 2010女優賞・アントファガスタFF 女優賞、アルタソル賞ノミネート
2010「La vida de los peces」マティアス・ビセ 助演
ペドロ・シエナ賞2011助演女優賞ノミネート
2012「No」『Noノー』「ピノチェト三部作」の3、G.G.ベルナルの元妻の反体制活動家役
2015「El club」『ザ・クラブ』パブロ・ラライン 助演
シカゴFF 2015俳優賞・カレウチェ賞2016助演女優賞・ペドロ・シエナ賞2016
イベロアメリカ・プラチナ賞2016助演女優賞ノミネート多数
2015「La memoria del agua」マティアス・ビセ 脇役
2017「Una mujer fantastica」『ナチュラルウーマン』セバスティアン・レリオ
レストラン店主役
2017「Los perros」マルセラ・サイド 主役
ストックホルムFF 2017女優賞・アルトゥラスFF 2018主演女優賞、ノミネート多数
2017「Neruda」『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』パブロ・ラライン、端役
2018「Tarde para morir joven」ドミンガ・ソトマヨール 脇役
2021「Mensajes privados」マティアス・ビセ
2022「1976」『1976』マヌエラ・マルテッリ 脇役
2022「El castigo」マティアス・ビセ 主役
タリン・ブラックナイツ2022女優賞・ペドロ・シエナ賞2022、以下シアトル、
トリエステ、ブエノスアイレス、リマ各映画祭2023女優賞、北京FF 2024女優賞
2023「El conde」『伯爵』パブロ・ラライン 脇役
イベロアメリカ・プラチナ賞2024助演女優賞ノミネート
2024「Los domingos mueren mas personas」(アルゼンチン)アイール・サイド、脇役
2024「Los Tortuga」(スペイン合作)ベレン・フネス、主役
◎当ブログ関連記事
*『ザ・クラブ』の紹介記事は、コチラ⇒2015年10月18日
*「Los perros」の紹介記事は、コチラ⇒2017年05月01日
*『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』の紹介記事は、コチラ⇒2017年11月22日
*「Mensajes privados」の紹介記事は、コチラ⇒2022年03月14日
*『1976』の紹介記事は、コチラ⇒2022年09月13日
*「El castigo」の紹介記事は、コチラ⇒2023年03月03日
*「Los domingos mueren mas personas」の紹介記事は、コチラ⇒2024年08月29日
★カンヌ映画祭2025コンペティション部門&「ある視点」、カンヌFF併催の「監督週間」&「批評家週間」などのノミネーション発表があり、全体像が見えてきました。スペインからはコンペティション部門にオリベル・ラシェ*の3作目「Sirat」とカルラ・シモンの3作目「Romeria」の2作がノミネートされました。また「ある視点」部門にディエゴ・セスペデスの「La misteriosa mirada del flamennco」、コロンビアのシモン・メサ・ソトのコメディ「Un poeta」など、今年は珍しく4 作もノミネートされました。順次作品紹介を予定しています。
*オリベル・ラシェ Oliver Raxe は、相変わらずオリヴィエ・ラセ、オリバー・ラクセと表記が定まりませんが、前作『ファイアー・ウィル・カム』で来日した折に確認したところ、ガリシア語読みのオリベル・ラシェが最も近いということでしたので、当ブログでは前作以後こちらに統一しています。
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