女性に光が当たった授賞式*ゴヤ賞2018 ⑪ ― 2018年02月10日 17:57
「すべての母親たちに、すべての女性たちに」に捧げる
★前回はイサベル・コイシェ監督の「母親への感謝のスピーチ」について述べたが、今年は母親を語った受賞者が多かったようです。例えば新人監督賞を受賞したカルラ・シモン(『夏、1993』)も、6歳のときエイズで亡くなった両親の思い出を語った。両親亡き後、叔父の家族と暮らすことになった映画の主人公フリーダが監督自身だった。カタルーニャ語で少女の揺れ動く心を繊細に描いた映画は、地味ながら子供から大人まで多くのスペイン人の心を掴んだ。ラテンビート2017での上映がアナウンスされながら土壇場でキャンセルになった(邦題はそのときのものだが、公開はどうなっているのだろうか)。

(カルラ・シモン)
★「Madre」(「Mother」)というそのものずばりのタイトルをつけたたロドリゴ・ソロゴジェンの最新作は、下馬評通り短編映画賞を受賞した。国内外の短編賞を立て続けに受賞、最後のゴヤ賞まで独走してきた。我が子誘拐の悪夢をテーマにした「Madre」企画のきっかけは、「母親から掛かってきた1本の電話だった」と会場の母親に語りかけた。コイシェ監督の母親同様、ソロゴジェンの母親も出席していたのでした。父親とフランスに遊びに出かけていたはずの6歳の息子から突然電話がかかってくる。「ぼく一人で海岸にいるの」と。こうして1本の電話から穏やかな日常が悪夢化する。

(トロフィーを手に母親に感謝の言葉をかけるソロゴジェン監督)
★「ゴヤ賞のガラはフリータが君臨した」と、その誰も予測できないようなユーモア、比類のない上品さ、いささか規格外れのシュールさで、会場を沸かせ、魅了した。フリータとは、「Muchos hijos, un mono y un castillo」で長編ドキュメンタリー賞を受賞したグスタボ・サルメロンの母親フリア・サルメロンのことである。この作品については受賞を確信して既にアップ済みであるが、ドキュメンタリーとはいえ、フリータの演技の部分も混じっているのだろうが、まさに「スター誕生」の感がある。

(ドキュメンタリー「Muchos hijos, un mono y un castillo」から)
★サルメロン監督「私がここに立っていられるのはあなたのお蔭、このトロフィーをすべての母親たちに捧げます」と、すかさずマイクを母親の手に。「何を言えばいいかしら、ごめんなさい、アントニオ、あなたの次にもっとも素敵な男性はハビエル・バルデムよ」と会場の夫に告白する。アントニオとは夫君アントニオ・ガルシアのこと。これにはバルデム=クルス夫妻ともども大爆笑。夫妻の後列に監督のパートナーで本作の編集者でもあるベアトリス・モンタニェスと座っていた夫君も苦笑い。やはり「これはあなたのものよ」とトロフィーを息子グスタボに返していた。

(母親フリータのスピーチを見守るサルメロン監督)
★このカリスマ的な妻を忍耐強く長年支えてきた夫こそ殊勲者でしょう。たくさんの子供に恵まれること、1匹のサルを飼うこと、そしてお城に住むことがフリータの願いだった。リーマンショックの負債で一時は手に入れた城を手放した。「最後の夢は叶わなかったけれど」、それ以上の幸福を味わったはずです。82歳になるというフリータ、スペイン内戦を体験し、40年の長きフランコ体制、民主主義移行期、そして現在まで激動のスペインを肩の力をぬいて生きてきた。他人を傷つけずに生きられることを実践してきたスペインの母親に光が当たった夕べでした。
*「Muchos hijos, un mono y un castillo」の紹介記事は、コチラ⇒2018年1月13日

(欠席が噂されていたバルデム、ベスト・ドレッサーNo1に選ばれたクルス)
★他に今宵、圧巻の貫禄を示したスターの一人が、歌手・女優・バラエティショーのスター、ペパ・チャロ(1970マドリード)、どちらかというとラ・テレモト・デ・アルコルコンのほうが有名か。フェミニストとして女性の権利獲得に尽力しているアーティスト。「私はペパ・チャロ、女性です。そう思われていると信じてるが、一応はっきりさせておく。私の声は男性の声よりほんの少し高く聞こえる・・・」で始まったスピーチは、女性シネアストに対する映画界にはびこる不平等を具体的な数字を上げて告発した。リングでは決してタオルを投げない女性の迫力を見せつけた。

(スピーチするペパ・チャロ「ラ・テレモト・デ・アルコルコン」の貫禄)
★まだ全部見ているわけではないが、個人的に素晴らしく感じたのはレオノール・ワトリング、最優秀歌曲賞のプレゼンターを務めた。受賞作は『ホーリー・キャンプ!』の中で歌われたLeivaの「La llamada」だったが、4候補作を歌手としても活躍しているレオノール自身が歌って紹介した。ステラ・マッカートニーがデザインしたエレガントな朱色のドレスで赤絨毯に現れたが、ここではステージ用の黒のドレスに着替えていた。ステラ・マッカートニーの父親がポール・マッカートニーということで、顧客にはミュージシャンのセレブが目立つ。今回はノミネーションなしの授賞式だったが、来年は女優候補者として戻ってきて欲しい。
*『ホーリー・キャンプ!』の紹介記事は、コチラ⇒2017年10月7日

(ノミネーション曲を歌いながら紹介するレオノール・ワトリング)

(朱色のドレスでレッドカーペットを踏んだレオノール)
★観客を魅了したアレックス・デ・ラ・イグレシアのブラック・コメディ「Perfectos desconocidos」がノミネーション0個と、不可解な選考に個人的には不満が残ります。1万ユーロで撮ったというビクトル・ガルシア・レオンのコメディ「Selfie」も、サンティアゴ・アルベルが新人男優賞にノミネートされただけでした。
*「Perfectos desconocidos」の紹介記事は、コチラ⇒2017年12月17日
*レッドカーペットに現れたベストドレッサーたち*

(ゴヤ賞栄誉賞受賞のマリサ・パレデス、デザインはシビラ)

(マリンブルーのドレスのマリベル・ベルドゥ、デザインはディオール)

(紫紅色のドレスのベレン・ルエダ、デザインはカロリナ・エレーナ)

(助演女優賞ノミネートのベレン・クエスタ、デザインはペドロ・デル・イエーロ)

(若手で評判のよかったマカレナ・ガルシア)

(清楚なサンドラ・エスカセナ、『エクリプス』のヒロイン)

(ハイヒールを履いたエドゥアルド・カサノバ、『スキンあなたに触らせて』の監督)

(ハビエル・カルボ&ハビエル・アンブロッシ、『ホーリー・キャンプ!』の監督)
★好みは人それぞれですが、黒一色でなかったのを幸いといたしましょう。これをもってゴヤ賞2018はお開きといたします。
トロフィーを母親に捧げたコイシェ監督*ゴヤ賞2018 ⑩ ― 2018年02月08日 12:55
母親たちに感謝の言葉が捧げられたゴヤ賞の夕べ
★2月3日の午後10時から翌日の午前2時近くに及ぶ受賞式、大騒ぎに飽きて途中で寝てしまった人も多かったでしょうか。視聴率はここ数年の最低ラインの19.9%、ダニ・ロビラが司会した前3回は23.1%、25.8%、24.7%と平均すれば24%を超えていたから、かなりの落ち込みといえます。司会者の力量だけでなくノミネートされた作品にもよるから一概に比較できないのは当然です。ネットの書き込みも批判が目立ったようです。かつて自らも受けた攻撃でくさっていたダニ・ロビラが「気にするほどのことはないよ」とツイートしていた。人の口には戸を立てられないからね。

(スペイン映画アカデミー副会長、マリアノ・バロッソとノラ・ナバス)
★スペイン映画アカデミー会長空席で開催された第32回は、副会長の脚本家マリアノ・バロッソと女優のノラ・ナバスが取り仕切った。「もっと女性にチャンスを」と書かれた赤い扇子の波にうんざりした人も中にはいたはずです。個人的には現在のままでいいとは全く考えていないので、クオーター制の促進に反対ではありませんが、急ごしらえの硬直した制度には疑問をもたざるを得ません。何はともあれ一歩踏み出したことを祝福したい。しかし改革は「賢く緩やかに」、なぜなら急激な意識改革は成功しないからです。

(真っ赤な扇子には「もっと女性にチャンスを」と書かれている)
★作品賞の予想は個人的には外れました。脚色賞はありかなと予想していましたが、まさかイサベル・コイシェの英語映画「La librería」(原題「The Bookshop」)が受賞するとは思いませんでした。興行成績の順位はパコ・プラサのホラー『エクリプス』に次ぐ2位だったのでしたが。作品賞と監督賞は連動しているから受賞は当然として、結果本作は大賞3個をゲットしました。これで監督自身のゴヤ賞は『あなたになら言える秘密のこと』に次ぐ2個目の監督賞、同作と『死ぬまでにしたい10のこと』を合わせて3個目の脚本賞、ドキュメンタリー賞2個、合計7個となりました。

(大賞3個を受賞した「La librería」の多過ぎるプロデューサー)
★壇上にはイギリスからマドリード入りした、主演女優賞ノミネートのエミリー・モーティマーと助演男優賞ノミネートのビル・ナイの姿もありました。二人とも受賞は叶いませんでしたが、作品賞受賞には二人の好演、特にモーティマーの繊細ななかにも意志の強さを秘めた気品のある演技が無視できなかった。詳細は分かりませんが、2018年に劇場公開が決定しているようです。

(ベスト・ドレッサーだったエミリー・モーティマー)
★スペインでは、母親への感謝が述べられるのが仕来り化しているスピーチも、栄誉賞以外は祖父母、子供、兄弟などは時間が掛かりすぎるとストップがかかるとか。監督のスピーチは「母親にお礼を言いたい、なぜかと言うと私は子供だったとき、家のことはほっぽり出してサボってばかりいた。それで父親に叱られてばかりいたのだが、母親が『本を読んでいるんだから、そのうち役に立つこともあるわよ』と取りなしてくれた」と。庇ってくれた母親ビクトリア・カスティーリョも会場にいたのでした。両親は本好きな子供だったイサベルに単行本だけでなく漫画雑誌も買ってくれた。さらに父親も母親も父方の祖母もシネマニアで、よくディズニーの映画を観に連れて行ってくれた。「最初の映画は『ピノキオ』で、ピノキオがクジラに飲み込まれると娘は泣きだして、私たちは映画館を出なければならなかったのよ」と母親。繊細な少女だったのだ。いわば映画に行くことはコイシェ一家のホビーだったわけです。

(受賞スピーチをするコイシェ監督)
★84歳になる母親はサラマンカ出身、仕事のためにバルセロナに移住、FECSAというカタルーニャの電力会社で働いていた父親フアン・コイシェと結婚した。つまり「私の両親は文化の重要性を信じていた労働者階級の人でした」。風変わりではあったが「娘はけっして問題児ではなく、知識欲が旺盛だっただけ」と母親。初聖体のプレゼントは、スーパー8ミリのカメラ、プレゼントとしては高価だったと思うが、シネマニア一家のコイシェ家らしい贈り物でした。

(2個のトロフィーを手にした監督の母親ビクトリア・カスティーリョ)
★コイシェ監督の次回作は、「Elisa y Marcela」、1901年に結婚したスペイン最初のレスビアン夫婦の多難な人生が語られる。ガリシア出身のエリサ・サンチェス(マリオ・サンチェスとして)とマルセラ・ガルシアは共に教師同士、教区の主任司祭から拒絶されたのでイギリスで結婚した。ナルシソ・デ・ガブリエルの『Elisa y Marcela, Más allá de los hombres』(2010刊)の映画化のようです。キャストもナタリア・デ・モリナとマリア・バルベルデに決定、5月にガリシアとバルセロナでクランクインする。ネットフリックスです。

第32回ゴヤ賞結果発表*ゴヤ賞2018 ⑨ ― 2018年02月04日 23:27
フェミニズムの夕べ、パンドラの箱が空きました!

(スペイン映画アカデミーの代表者)
★2月3日22:00、マドリードのマリオット・オーディトリアム・ホテルで開催、約4時間近い長丁場でした。第32回ゴヤ賞授賞式は初めてスペイン映画アカデミー会長不在で開催され、世界のフェミニズムの流れにそって、映画産業界の平等の欠如に警鐘を鳴らす授賞式になりました。「もっと女性にチャンス」という赤い扇子1800本が用意され出席者に配布されました。勿論断るのも自由ということですね。黒が目立つようですが、濃いブルーが写真では黒に見えるのでゴールデングローブ賞のような強制はなかった。ベストドレッサーNo1に選ばれたペネロペ・クルスは白、いつも通りベルサーチでした。レオノール・ワトリングはエレガントな朱色のドレス、ベレン・ルエダはあでやかな紫紅色のドレスでした。

(栄誉賞のマリサ・パレデス)
★総合司会者は3年連続のダニ・ロビラから、スペイン南東部アルバセテ出身のホアキン・レイェスとエルネスト・セビーリャという二人の喜劇俳優にバトンタッチ、評判のほどはどうだったのでしょうか。ガラあれこれは次回に回すとして取りあえず受賞結果をアップしておきます。主演男優・女優賞のように予想通りの受賞と、「La librería」の作品賞受賞のように外れが混在したのも、例年通りでした。それにしても「Handia」のノミネーション13個のうち受賞が10個には驚きました。興行成績はノミネーション作品では下位でした。

(総合司会者のホアキン・レイェスとエルネスト・セビーリャ)
★ゴヤ賞2018の受賞結果は以下の通りです。(ゴチック体は当ブログ紹介作品)
◎作品賞
「El autor」 ノミネーション9個(受賞2個)
「Verano 1993」(『夏、1993』) 同8個(3個)
「Handia」 同13個(10個)
◎「La librería」 同12個(3個)
「Verónica」『エクリプス』 同7個(1個)

(プレゼンターは、カルロス・サウラとペネロペ・クルス)
◎監督賞
マヌエル・マルティン・クエンカ 「El autor」
アイトル・アレギ&ジョン・ガラーニョ 「Handia」
◎イサベル・コイシェ 「La librería」
パコ・プラサ 「Verónica」

(プレゼンターは、フアン・アントニオ・バヨナとグラシア・ケレヘタ)
◎新人監督賞
セルヒオ・G・サンチェス 「El secreto de Marrowbone」
◎カルラ・シモン「Verano 1993」『夏、1993』
ハビエル・カルボ&ハビエル・アンブロッシ 「La llamada」『ホーリー・キャンプ!』
リノ・エスカランテ 「No sé decir adiós」

(赤い扇子を広げて感激のカルラ・シモン)
◎オリジナル脚本賞
パブロ・ベルヘル 「Abracadabra」監督パブロ・ベルヘル
カルラ・シモン 「Verano 1993」
◎アイトル・アレギ、ジョン・ガラーニョ、ホセ・マリ・ゴエナガ、アンドニ・デ・カルロス「Handia」
フェルナンド・ナバロ&パコ・プラサ 『エクリプス』

(トロフィーを手にしているのがジョン・ガラーニョ)

(ホセ・マリ・ゴエナガとアンドニ・デ・カルロス)
◎脚色賞
ハビエル・セルカス、アレハンドロ・エルナンデス、マヌエル・マルティン=クエンカ 「El autor」
コラル・クルス、ジョアン・サレス、アグスティ・ビラリョンガ 「Incerta gloria」
◎イサベル・コイシェ 「La librería」
ハビエル・カルボ&ハビエル・アンブロッシ 「La llamada」『ホーリー・キャンプ!』
◎オリジナル作曲賞
◎パスカル・ゲーニュ 「Handia」
アルベルト・イグレシアス 「La cordillera」『サミット』監督サンティアゴ・ミトレ
アルフォンソ・デ・ビラリョンガ 「La librería」
カルロス・アルガラ&トマス・ネポムセノ 『エクリプス』

(フェロス賞に続いての受賞)
◎オリジナル歌曲賞
「Algunas veces」ホセ・ルイス・ペラレス 「El autor」
「Feeling lonely on the Sunday aftermoon」アルフォンソ・デ・ビラリョンガ 「La librería」
◎「La llamada」Leiva(ホセ・ミゲル・コホネス) 「La llamada」『ホーリー・キャンプ!』
「Rap zona hostil」ロケ・バニョス「Zona hostil」 監督アドルフォ・マルティネス・ペレス

(ホセ・ミゲル・コホネス Leiva)
◎主演男優賞
アントニオ・デ・ラ・トーレ 「Abracadabra」
◎ハビエル・グティエレス 「El autor」
ハビエル・バルデム 「Loving Pablo」監督フェルナンド・レオン・デ・アラノア
アンドレス・ヘルトルディス 「Morir」監督フェルナンド・フランコ

(フォルケ賞、フェロス賞も受賞、『マーシュランド』に続いて2個目をゲット)
◎主演女優賞
マリベル・ベルドゥ 「Abracadabra」
エミリー・モーティマー 「La librería」
ペネロペ・クルス 「Loving Pablo」
◎ナタリエ・ポサ 「No sé decir adiós」

(フォルケ賞、フェロス賞も受賞、初めてのゴヤ賞主演女優賞、プレゼンターは
ホセ・サクリスタンとルイス・トサールでした)
◎助演男優賞
ホセ・モタ 「Abracadabra」
アントニオ・デ・ラ・トーレ 「El autor」
◎ダビ・ベルダゲル 「Verano 1993」
ビル・ナイ 「La librería」

◎助演女優賞
◎アデルファ・カルボ 「El autor」
アンナ・カスティーリョ 「La llamada」『ホーリー・キャンプ!』
ベレン・クエスタ 「La llamada」『ホーリー・キャンプ!』
ロラ・ドゥエニャス 「No sé decir adiós」

(フェロス賞に続いての受賞、ゴヤ賞は初めて)
◎新人男優賞
ポル・モネン 「Amar」 監督エステバン・ガルシア
◎エネコ・サガルドイ 「Handia」
エロイ・コスタ 「Pieles」『スキン あなたに触らせて』
サンティアゴ・アルベル 「Serfi」 監督ビクトル・ガルシア・レオン

◎新人女優賞
アドリアナ・パス 「El autor」
◎ブルナ・クシ 「Verano 1993」
イツィアル・カストロ 「Pieles」『スキン あなたに触らせて』監督エドゥアルド・カサノバ
サンドラ・エスカセナ 『エクリプス』

(ガウディ賞に続いての受賞)
◎プロダクション賞
ミレイア・グラエル・ビバンコス 「Verano 1993」
◎アンデル・システィアガ 「Handia」
アレックス・ボイド&ジョルディ・べレンゲル 「La librería」
ルイス・フェルナンデス・ラゴ 「Oro」 監督アグスティン・ディアス・ヤネス

◎撮影賞
サンティアゴ・ラカRacaj 「Verano 1993」
◎ハビエル・アギーレ・エラウソ 「Handia」
ジャン・クロード・ラリュー 「La librería」
パコ・フェルナンデス 「Oro」

◎編集賞
ダビ・Gallart 「Abracadabra」
アナ・Pfaff プファフ& Didac Palou 「Verano 1993」
◎ Laurent Dufreche &ラウル・ロペス 「Handia」
ベルナ・アラゴネス 「La librería」

◎美術賞(アートディレクター)
アライン・バイネー 「Abracadabra」
◎ミケル・セラーノ 「Handia」
リョレンス・ミケル 「La librería」
ハビエル・フェルナンデス 「Oro」

(『フラワーズ』も手掛けたアートディレクター)
◎衣装デザイン賞
パコ・デルガド 「Abracadabra」
◎サイオア・ララ 「Handia」
メルセ・パロマ 「La librería」
タティアナ・エルナンデス 「Oro」

(『フラワーズ』の衣装も手掛けたビルバオ生れのデザイナー)
◎メイクアップ&ヘアー賞
シルビエ・インベルト&パコ・ロドリゲス 「Abracadabra」
◎アイノア・エスキサベル、オルガ・クルス、ゴルカ・アギーレ 「Handia」
エリ・アダネス、セルヒオ・ぺレス・ベルナル、ペドロ・デ・ディエゴ 「Oro」
ロラ・ゴメス、ヘスス・ジル、オスカル・デル・モンテ 「Pieles」『スキンあなたに触らせて』

(ゴルカ・アギーレ、アイノア・エスキサベル、オルガ・クルス)
◎録音賞
ダニエル・デ・サヤス、ペラヨ・グティエレス、アルベルト・オベヘロ 「El autor」
セルヒオ・ブルマン、ダビ・ロドリゲス、ニコラス・デ・ポウルピケ 「El bar」
『クローズド・バル 街角の狙撃手と8人の標的』監督アレックス・デ・ラ・イグレシア
イニャーキ・ディエス&サンティ・サルバドル 「Handia」
◎アイトル・ベレンゲル、ガブリエル・グティエレス、ニコラス・デ・ポウルピケ
『エクリプス』

(録音賞1個で終わった『エクリプス』)
◎特殊効果賞
◎ジョン・セラーノ、ダビ・エラス 「Handia」
レイェス・アバデス&イシドロ・ヒメネス 「Oro」
ラウル・ロマニリョス&ダビ・エラス 「Verónica」
レイェス・アバデス&クーロ・ムニョス 「Zona hostil」

◎ドキュメンタリー賞
「Cantábrico」 監督ジョアキン・グティエレス・アチャ
「Dancing Beethoven」 同アランチャ・アギーレ
◎「Muchos hijos, un mono y castillo」 同グスタボ・サルメロン
「Saura(s)」 同フェリックス・ビスカレット

(フォルケ賞に続いての受賞、親孝行できた監督と母親フリータ、フリア・サルメロン)
◎イベロアメリカ映画賞
「Amazona」(ドキュメンタリー)コロンビア、監督Clare Weiskopt & Nicolas van Hemelryck)
「Tempestad」(ドキュメンタリー)メキシコ、同タティアナ・ウエソ
◎「Una mujer fantástica」(『ナチュラルウーマン』)チリ、同セバスティアン・レリオ
「Zama」(『サマ』)アルゼンチン、同ルクレシア・マルテル
*フォルケ賞に続いて予想通りの受賞、自信をもってチリからやってきました。

(ヒロインのダニエラ・ベガと監督)
★以下は受賞作だけのアップです。
◎ヨーロッパ映画賞
◎『ザ・スクエア 思いやりの聖域』監督リューベン・オストルンド(スウェーデン・独仏ほか)
◎アニメーション賞
◎「Tadeo Jones 2. El secreto del Rey Midas」監督エンリケ・ガト&ダビ・アロンソ

◎短編アニメーション
◎「Woody and Woody」 監督ジャウマ・カリオ

(中央がカリオ監督、スタッフ)
◎短編映画賞
◎「Madre」 監督ロドリゴ・ソロゴジェン

(フォルケ賞に続いて下馬評通りの受賞)
◎短編ドキュメンタリー
◎「Los desheredados」 監督ラウラ・フェレス

(父親と一緒のラウラ・フェレス)
ゴヤ賞ガラ直前のあれやこれや*ゴヤ賞2018 ⑧ ― 2018年02月03日 21:05
ペネロペ・クルスに「セザール賞栄誉賞」とは!
★ゴヤ賞ガラに出席するため戻っていたマドリードの自宅の電話で知らされたという。前もってバルデム=クルス夫妻の不参加が伝えられていたのですが変更したようです。今回で10回目のノミネーション、受賞の可能性はゼロではないが下馬評の点数は低い。今年3度目の風邪をひいていたということですが、「セザール賞栄誉賞」のビッグ・ニュースで吹き飛んだことでしょう。2月3日のガラには予定通り出席ということです。フェルナンド・レオン・デ・アラノアの「Loving Pablo」(西・ブルガリア)で夫婦揃って主演男優・女優にノミネートされています。久しぶりのスペイン人監督と母語で、コロンビアの麻薬王ペドロ・エスコバルのビオピックを撮るという触れ込みでしたが、出来上がってみれば英語なのでした。どうしてなのか理由は想像できますが、スペイン人の賛同は得られない。

(ベネチア映画祭2017に出席したときのペネロペ・クルス、9月6日)
★フランスの「セザール賞」については説明不要と思いますが、この「栄誉または名誉賞」は「ゴヤ賞栄誉賞」と異なってインターナショナルな人選です。一応フランス映画に寄与したシネアストが対象でしたが現在はなし崩しになっています。初期こそフランス人が目立ちましたが、最近では外国勢、特にハリウッドで活躍するシネアストに与えられる傾向があります。フランス人の現役俳優では男優賞・女優賞にノミネートされるから栄誉賞は後回しにしているのかもしれない。受賞者によっては「なんだ、もう引退しろということか」とすねる人もいるらしい。
★女優に限るとダニエル・ダリュー、アヌーク・エーメ、ジャンヌ・モロー(2回)などは晩年になってから受賞しています。銀幕で活躍中のカトリーヌ・ドヌーヴ、イザベル・アジャーニ、イザベル・ユペール、ジュリエット・ビノシュは、まだ手にしていません。それに対して海外勢は、シャーロット・ランプリング、メリル・ストリープ、若いところではケイト・ウィンスレット、2014年の受賞者にいたっては30歳にもなっていないスカーレット・ヨハンソン(1984)だった。
★43歳の受賞者ペネロペ・クルス(1974、マドリード近郊アルコベンダス)は、スペイン人の受賞者としてはペドロ・アルモドバル(1999年受賞)に次いで2人目です。ハリウッドでの成功と活躍が長かったせいか、妬み深い同胞からは「PPってスペイン人だったのね?」と嫌味を言われたりしたが、正真正銘のスペイン人なのでした(笑)。「とても驚いていますが、やはり嬉しいです。少し心配なのは受賞スピーチを書かなければならないこと。楽しんでもらえるよう準備したい。予想もしないことでしたが、自身にとっても家族にとっても、大いに夢がかなったということです。・・・15歳のときにこの世界に入り多くの経験を積み重ねながら、どうやって生きてきたか。これからも学びながら夢を追い続けます」と、エル・パイス紙のインタビューに答えていました。43歳とは言え、既に30年近いキャリアの持ち主なのでした。長編映画デビューは今は亡きビガス・ルナの『ハモンハモン』(92)でした。
★小さい子供が2人いるから25歳とか30歳のときのように仕事はできない。撮影、撮影の連続でセット暮らしが多い。家族と過ごせるように配慮してもらいながらバランスをとって仕事をしている。ブレーキをかけて、からだの声を聞きながらです。イランのアスガー・ファルハーディ監督の新作「Todos lo saben」(「Everybody Knows」西語・英語、2018年スペイン公開の予定)では撮影に4ヵ月かかりましたが、家族とは離れずにすみました。いつも仲間とは一緒で、自身もコマーシャルに出演しているランコムの化粧品も手放さないとか。自分にとって母親としての役割はとても重要だときっぱり。

(リカルド・ダリン、監督、ペネロペ・クルス、ハビエル・バルデム、「Todos lo saben」)
★ゴヤ賞の候補に選ばれたことはとても幸運だったこと、つまりどれが選ばれるかは宝くじみたいなものだから。勿論受賞したら嬉しいが、一緒に仕事をした仲間の努力が反映されたと思って、今回は泣きました。しかしスペインでは「Loving Pablo」は未公開、DVDも届かず、投票のためのネット配信もできてない。アカデミー会員の方々には是非観てほしいと思っています。主演女優賞の予測を訊かれて「みんな望んでいるわよ。でも今回は無理かなと思っている。全員貰っていい仕事をしたわけで、具体的に名前を挙げるのは差し控えたい」と。インタビュー者は「ナタリエ・ポサはどう?」と訊いていたが、いくらエル・パイス紙のベテラン批評家でも失礼な質問だよ。

(パブロ役のハビエル・バルデム、愛人役のペネロペ・クルス、「Loving Pablo」)
★社会現象になっているセクハラ糾弾運動「Time's Up」については、賛同して寄付したと答えていた。現在のところ世界で1700万ドルが集まったという。ちょっと行きすぎかなと思われる告発も気になるが、今まで沈黙していたことが異常だったわけです。
★次回作も決まっていて、資金は準備できており、今年の夏にはクランクインするようです。新しい映画は、トッド・ソロンズの「Love Child」(米、英語)、ブロードウェイのスターに憧れる自分勝手な男ナチョは父親を殺すことを画策している。彼を溺愛している母親と関係がある。ナチョにエドガー・ラミレス、クルスは母親を演ずる。ソロンズの過去の作品同様タブー視されるテーマを扱っているようだ。IMDbではコメディ・ドラマとあり、目下捉えどころがない。
★ノミネートされた作品の興行成績のトップは、新人監督賞候補者セルヒオ・G・サンチェスの「El secreto de Marrowbone」、2位パコ・プラサ『エクリプス』、3位ハビエル・カルボ&ハビエル・アンブロッシ『ホーリー・キャンプ!』、イサベル・コイシェ「La libreria」、カルラ・シモン『夏、1993』、マヌエル・マルティン=クエンカ「El autor」、最多ノミネーションの「Handia」と続きます・・・。

(「El secreto de Marrowbone」撮影中のセルヒオ・G・サンチェス監督)
★授賞式は現地時間3日22:00スタートですが、RTVEでは19:00から、出席者の赤絨毯登場は20:25から見られます。日本との時差は8時間、こちらは寝ている時間帯です。

(巨大ゴヤ胸像を挟んで司会者のホアキン・レイェスとエルネスト・セビーリャ)
作品賞ノミネーション監督が語る映画の現在と未来*ゴヤ賞2018 ⑦ ― 2018年02月01日 14:32
恒例のガラ直前の監督座談会

★ゴヤ賞授賞式1週間前の1月26日(金)、恒例になっている作品賞5作にノミネートされた監督のうち4名の座談会が、エル・パイス紙の編集室で催されました。監督賞ノミネーションは、マヌエル・マルティン=クエンカ(「El autor」)、アイトル・アレギ&ジョン・ガラーニョ(「Handia」)、イサベル・コイシェ(「La librería」)、パコ・プラサ(「Verónica」『エクリプス』)の5名、因みに新人監督賞は、カルラ・シモン(「Verano 1993」『夏、1993』)他、セルヒオ・G・サンチェス、ハビエル・カルボ&ハビエル・アンブロッシ、リノ・エスカランテの5名です。今年はマルティン=クエンカが「パブロ・イバル事件」のドキュメンタリーのためマイアミで撮影中で不参加、ジョン・ガラーニョも現在米国に滞在していて出席しておりません。「パブロ・イバル事件」については、いずれドキュメンタリー完成後に触れることになるでしょう。

(左から、イサベル・コイシェ、パコ・プラサ、カルラ・シモン、アイトル・アレギ)
★本座談会は前回アップしたガウディ賞発表前に行われたものです。ガウディ賞独り占めの感があったカルラ・シモンもゴヤ賞となると話は別です。今年はことのほかバルセロナとマドリードには深い溝ができているうえに、選挙権のあるメンバー数もガウディとゴヤでは比較になりませんし、マドリード派が断然多い。結構根回しも重要とか、「映画は面白かったが監督は嫌い」という会員もあるようです。
★最終候補に残った作品は、例年とはかなり違った印象を受けます。それは使用言語の多様性だけでなくホラー映画が選ばれたことも一つかもしれない。パコ・プラサの「Verónica」は、既に『エクリプス』の邦題で公開されているが、日本の観客にはB級ホラーと評価はイマイチでした。二人の女性監督が残ったことも異例、うちカルラ・シモンの『夏、1993』はデビュー作、監督自身のビオピックというのも珍しいことです。
「枠組みの変化はなかった」と出席者たち
★まず口火を切ったのは、他の監督より1回り2回り年長のベテラン監督イサベル・コイシェ(1960、バルセロナ)。「枠組みが変わったとは思いません。単に偶然の産物、これらの作品がここまで到達できたのは良い映画だからです。またこの古風な現代ホラーにも驚きました・・・」という発言にを受けて、パコ・プラサ(1973、バレンシア)「そうですね、枠組みの変化ではないですね。しかし現在のスペイン映画の多様性を反映したさまざまな変化があるように思われます。例えば以前だったらスリラーといえば、アントニオ・デ・ラ・トーレが演じた痛ましい男、怒りに満ちたルイス・トサールの3本の映画とか、ね。でも今回はカルラ・シモンの愛情のこもった物語、バスクの巨人の話、他にも火星で作られた「Abracadabra」、あるいは『ホーリー・キャンプ!』のようなミュージカル・・・今年は子供っぽいマッチョな男が出てくるスリラーは現れなかった。5作品のうち3作は女性が主役・・・多分これはより若い人々を取り込もうとするアカデミーの意図に基づくのではないか」。

*デ・ラ・トーレが演じた痛ましい男とは、2017年作品賞のラウル・アレバロの『物静かな男の復讐』でしょうか。トサールの3作とは具体的にどれを指すのか分かりませんが、2010年作品賞の『プリズン211』、『暴走車 ランナウェイ・カー』または『クリミナル・プラン』でしょうか。
★アイトル・アレギ(1977、ギプスコア)「私も枠組みの変化はないという意見です。来年は元に戻ると思います。時には今年のような不思議な調和が、それがどうしてか分からないが起きる・・・アカデミーのメンバーが真面目に投票してくれるかどうか、最後にならないと分からない・・・確かなのは若い会員たちのモチベーション次第です」と弱気、コイシェ監督から「もっと期待して」と慰められていました。
使用言語の多様性について
★カルラ・シモン(1986、バルセロナ)「アカデミーは年長者が組織しているので、若い人々の加入はとてもポジティブです。私はアカデミー会員ではないので、今年の投票はついていないでしょう。どうやって候補作を比較するんですか」。コイシェ監督が使用言語について、受賞作『あなたになら言える秘密のこと』を例にして「アカデミーは常に観客のことを先に考えている。製作者の観点からいえば、登場人物たちが話している言語はそんなに重要ではない。少なくとも私の場合は、無国籍です」

★「私たちの映画では、バスク語は強制的でした。農民たちは古いバスク語を話していたのです。それで愛とか皮肉についてのたとえ話を語るためにもことば遊びが必要だった」とアレギ監督。「最初のプランはスペイン語で撮ることでした。しかし上手くいかなかった。つまり私は子供の頃カタルーニャ語を喋っていたからです。それでカタルーニャ語に変更しました。登場人物たちもカタルーニャ特有の性格をもっていたからです。他に商業的な経過について言うと、最初6月にカタルーニャ語で公開しました。9月にはスペイン語版を作りました。字幕付きのコピーを拒絶する映画館が出たためでした」とシモン監督。これに対してアレギ監督は、バスク州以外でもマドリードやバルセロナでは、どちらかというとバスク語が受け入れられ、「映画ファンはスペイン語よりオリジナル言語で見たがった」と述べた。

★これは観客層の違いもあるでしょう。『夏、1993』は子供が主役で、小学生くらいだとまだ字幕は充分追えない。「Handia」は小学生の観客はまず想定外、そのうえバスク語はスペイン語、カタルーニャ語のどちらとも似ていないし、大方のスペイン人には外国語のようなものです。吹き替え版が主流だったスペインでもオリジナル版で観たい観客が増えており、それで反対の結果になったのだと思います。
★製作会社の思惑の違い、撮影日数の少なさ、キャスト選考の困難さなどが各自語られたが、それは映画を作るうえで避けられない。コイシェ監督によれば「新しい『ショコラ』のような映画を望んでいた海外の共同製作者とやり合ったが、私の映画はそれとは別ですよ」という。『ショコラ』(2000、ラッセ・ハルストレム)とは、ジュリエット・ビノシュが主役を演じてヨーロッパ映画賞主演女優賞を受賞した作品のこと。知らない土地でチョコレートのお店を開く女性の話です。
★シモン監督は女の子のキャスティングが決まらず、脇役を交えての撮影は6週間だけだったという。6週間あればそれは贅沢というもので、「私は5週間でした」とコイシェ監督。5~6週間は普通になっている。パコ・プラサ監督は、ベロニカ役に14歳の女の子起用を製作者が認めてくれ、「16歳以下は1週間に2日4時間しか使えない決りです。しかし製作者はこの効率の悪い条件を受け入れてくれた」と感謝していた。

(『エクリプス』撮影当時14歳だったベロニカ役のサンドラ・エスカセナ)
「女性が撮った映画のバランスの取れた品質の良さにびっくりさせられる」
★司会者から作今のセクハラの事例が次々に明るみに出されたことについて質問がとんだ。モンスター製作者ワインスタインに対するローズ・マッゴーワンやサルマ・ハエックの声明には賛同するが「ゴールデングローブ賞授賞式での黒装束強要はやりすぎ、私が好感したのは、ナタリー・ポートマンが『ここにお集まりの監督賞候補者全員が男性です』とスピーチしたときです」とコイシェ監督、どの業界にも言えることですが、映画界でもシネアストの性別が云々されない時代が来ることを願っているとも。シモン監督は「映画を作っている女性は少数派、とても男性が多数派です。だから声高に主張し続けねばならない」と。
★男性のパコ・プラサ「私はフェミニストに囲まれて暮らしています。私の一番の戒めは、女性の声を重視するなら我々男性は沈黙すべきで、実際そうしています。男性監督93%に対して女性は7%を決まり悪く思っています。クォータシステムはまだ幾つか問題があり、不公平だからです。じゃ現実が公平かというと<No>でしょ。仮に93%の女性が監督だとしたら、それはもう男性にとってはSFの世界です。スペイン映画がマッチョなのではなく、私たちは男性優位で女嫌いの社会に暮らしているということです」。ある女性監督のプロデューサーをしたときの個人的体験から多くを学んだこと、低い「パーセンテージにもかかわらず、女性が撮った映画のバランスの取れた品質の良さにびっくりさせられる。クォータシステムに問題があっても、勿論必要です」と語ったようです。
★「ある女性監督」とは女優・監督・脚本家、パートナーのレティシア・ドレラと推測します。本作にも出演しておりますが、マラガ映画祭2015で新人脚本賞を受賞した「Requisitos para ser una persona normal」で監督デビューした。そのときの共同エグゼクティブ・プロデューサーの一人がプラサ監督です。他にも彼女の短編をプロデュースしている。
受賞者は誰の手に?
★「私は怖がりやでパコの映画は観ていない。多分『夏、1993』か「La libreria」のどちらか」とアレギ監督、「すみません、どれも観ておりません」とシモン監督、「フォルケ賞の結果から『El autor』でしょ。私は12カテゴリーにノミネーションされたことで充分満足しています」とコイシェ監督。授賞式は間もなくの2月3日です。

★欠席のマヌエル・マルティン=クエンカ(1964、アルメリア)とは、スカイプでやり取りがあったようです。かなり若返りしたせいか「私は若いのかベテランなのか」と、気になるようでした。「たくさん撮ってるわけではないし、前進中だ。今年の4言語は異例だが素晴らしい。これが一時的なものに終わらないことを願っている」。映画界のみならず社会全体の男女平等の機運については「格差を是正するためにずっと闘っている。クォータシステムについては全面的に支持するが・・・社会の意識化のプロセスにかかっている。アメリカからの波が届いたとき、問題をもっと掘り下げるべきだった。私たちの両親の世代も闘っているが、それはすべての人間が平等でないからです。本質と行程を示すこと、感情的なメディア・リンチは社会変革から切り離すべきです」が、つまみ訳です。

★管理人が一番驚いたのは、カルラ・シモンがノミネーションされた他作品をどれも観ていなかったこと、スペイン映画アカデミー会員でなかったことでした。会員でなくても候補者にはなれるわけです。投票権は会員だけ、それに会費を滞らせていると貰えないと聞いている。フォルケ賞は「El autor」と「La libreria」の2作、フェロス賞は『夏、1993』と結果は分かれました。ガウディ賞はあまり参考になりません。
ゴヤ賞俳優候補者たちの座談会*ゴヤ賞2018 ⑥ ― 2018年01月28日 16:28
フェミニズムとマチスモについて語る
★この企画を膳立てしたのはモビスター+(テレフォニカ傘下の携帯電話事業会社、1995年設立。スペインでは2200万人が加入している)で、まず1月24日(水)にゴヤ賞並びにフェロス賞にノミネートされた女優陣、26日(金)に男優陣の座談会が開催された。ハリウッドの大物プロデューサー、ハーベイ・ワインスタインのセクハラ騒動を機に映画界のみならず政界にまで、世界中に火の粉は飛び散っています。セクハラが面白可笑しく語られる時代ではなくなったということでしょう。一歩前進ですがゴヤ賞にノミネートされたシネアストたちの座談会でのテーマも、女優、男優とも期せずしてフェミニズムについてだったようです。
★先に開催された女優座談会の出席者は、写真左からサンドラ・エスカセナ(ゴヤ賞新人女優賞『エクリプス』)、マリアン・アルバレス(フェロス賞主演女優賞「Morir」)、イツィアル・カストロ(ゴヤ新女『スキン あなたに触らせて』)、アンナ・カスティーリョ(ゴヤ助女『ホーリー・キャンプ!』)、ダフネ・フェルナンデス(ノミネートなし「Perfectos desconocidos」)の5名、司会者はマリア・ゲーラ。

(S・エスカセナ、M・アルバレス、I・カストロ、A・カスティーリョ、D・フェルナンデス)
★いろいろ盛りだくさんなことが話し合われたが、なかでも出席者たちのテーマはフェミニズムに集中した。例えば「フェミニズムの対極にあるのがマチスモ、女性の平等の権利が欲しいか、本当に同等に扱われているか。もし欲しくないなら、あなたは男性優位の考えをする人、それ以外の選択肢はありません」とイツィアル・カストロ。
★女優陣に続いて第2弾として開かれたのが男性陣座談会、出席者は写真左から、サンティアゴ・アルベル(ゴヤ賞新人男優賞「Selfi」)、ダビ・ベルダゲル(ゴヤ助男夏、1993』)、ポル・モネン(ゴヤ新男『禁じられた二人』)、フアン・ディエゴ(ゴヤ助男「No sé decir adiós」)、アンドレス・ヘルトルディス(ゴヤ主男「Morir」)の5名、司会者はカルロス・モラニョン。

(S・アルベル、D ・ベルダゲル、P・モネン、J・ディエゴ、A・ヘルトルディス)
★女性座談会の流れを受けたのか、こちらもテーマの中心は映画は勿論ですがフェミニズムだったようです。まずベテランのフアン・ディエゴが、男性たちは社会に横溢しているマチスモに向き合うことを認識すべきであり、それが極めて重要な問題なのだと認めたようです。スペインのマチスモは改善されるのでしょうか、今後に期待したいところです。
★次回は恒例となっている、ゴヤ賞ガラ前に行われる監督候補者たちの座談会をアップいたします。今年32回は5作品4言語と異例の年になりました。スペイン語2作、カタルーニャ語、英語、バスク語、各1作ずつです。
ゴヤ賞候補者が一堂に会して昼食会*ゴヤ賞2018 ⑤ ― 2018年01月22日 12:13
映画アカデミー会長空席で開催された昼食会

(昼食会に参集した候補者たち、中央が栄誉賞受賞のマリサ・パレデス)
★授賞式(2月3日)に先立って催される候補者を招待しての昼食会が1月15日、5年ぶりにプエルタ・デル・ソルの王立郵便局(18世紀に建てられ時計台で有名なマドリード自治政府庁の本部)でありました。イボンヌ・ブレイク映画アカデミー会長が年初に脳卒中で倒れ辞任が確実になっています。治療のため入院が続いており、ゴヤ賞ガラ終了後の選挙で理事会は一新することになります。副会長ノラ・ナバスの「一日でも早い回復を祈る」という挨拶に大きな拍手が沸いたようです。また多様性に富んだ映画が多く製作された「素晴らしい収穫」の1年であったことを強調した。立場の異なる人々の対話の促進、異論のない品質の高い映画の製作、まだ「映画が作れるんだという夢を私たちがもつことができた」とも語ったようです。アカデミーの新会員が300名あったことも朗報の一つです。政治だけでなく組織の若返りは必須でしょう。

(主要ノミネーション作品)
★この昼食会には主要カテゴリーにノミネートされていても、海外を本拠地にしている人(バルデム=クルス夫妻、ローラ・ドゥニャスなど)や次作の撮影でスペインを離れている人は欠席するケースが多い。上記写真の前列には(小さすぎて正確に判別できないのですが)、マリサ・パレデスを真ん中にしてイサベル・コイシェ(監)、カルラ・シモン(新監)、マリベル・ベルドゥ(主女)、ナタリエ・ポサ(同)、ハビエル・グティエレス(主男)、アンドレス・ヘルトルディス(同)、ホセ・モタ(助男)、ベレン・クエスタ(助女)、15回ノミネーション10回受賞の作曲家アルベルト・イグレシアスなどの姿がありました。ニューヨークのブルックリンを本拠地にしているイサベル・コイシェ監督もフォルケ賞以下、フェロス賞、ガウディ賞にノミネーションされているので滞在しているのかもしれない。

(左から、マリベル・ベルドゥ、ホセ・モタ、ベレン・クエスタ、当日の衣装)
★今回サンティアゴ・ミトレの『サミット』の音楽でゴヤ賞に戻ってきたゴヤ胸像のコレクター、アルベルト・イグレシアスは、「新しい人々が増えたことはとても良いことで、映画作りに新しいアイデアや形式をもたらす彼らを見つけて援助すべきだと思う」と、世代交代が顕著になったことを実感しているようです。パコ・プラサの『エクリプス』(原題「Verónica」)主演で新人女優賞にノミネートされたサンドラ・エスカセナの16歳が最年少候補者、監督では『夏、1993年』のカルラ・シモン、『スキン~あなたに触らせて』のエドゥアルド・カサノバ、『ホーリー・キャンプ!』のハビエル・カルボとハビエル・アンブロッシなどの今後が楽しみです。「二人のハビ」は仕事でガラに出席できないらしい。

(サンドラ・エスカセナ、『エクリプス』から)
★主演男優賞にノミネーションのアンドレス・ヘルトルディスの受賞は難しいでしょうか。「Abracadabra」のアントニオ・デ・ラ・トーレ、「Autor」のハビエル・グティエレス、「Loving Pablo」のハビエル・バルデムという大物揃い、映画もフェルナンド・フランコの「Morir」と小粒である。バルデムと主演女優賞ノミネートのペネロペ・クルスの両人は欠席がアナウンスされています。こちらの二人も受賞はないと予想しています。

(時計回りに、ハビエル・グティエレス、アンドレス・ヘルトルディス、
ハビエル・バルデム、アントニオ・デ・ラ・トーレ、4人の候補者)
★新人監督賞受賞の先頭を切っているカルラ・シモン、「女性シネアストたちにご褒美を出してやる気を駆り立てるのは間違いなく賛成」であるが、政治的関心が薄れているのが気になるとコメントしている。ベテラン勢のナタリエ・ポサやイサベル・コイシェたちも「さまざまの権利を存分に主張し続けねばならない」とはっきり、「新しいページをめくる必要があります」とナタリエ・ポサ。

(ノミネートはなかった二人の子役、カルラ・シモンの『夏、1993年』から)
★男優女優にノミネートされた24人のうち13人と番外1人の14人が、世界初の女性ファッション誌『ハーパーズ バザー』(ニューヨーク1867年刊)にヌードをご披露した。日本版には多分掲載されていないと思う。ノミネートされた作品ごとに、好感度ナンバーワンは、『ホーリー・キャンプ!』のベレン・クエスタとアンナ・カスティーリョ、以下『禁じられた二人』のポル・ムネン、「No sé decir adiós」のローラ・ドゥニャスとナタリエ・ポサ、「Abracadabra」のマリベル・ベルドゥとホセ・モタ、「El autor」のハビエル・グティエレス、アデルファ・カルボ、アドリアナ・パスの3人、『夏、1993』のブルナ・クシとダビ・ベルダゲル、『スキン~あなたに触らせて』のエロイ・コスタ、もう一人は女優賞のノミネートはなかったが短編映画のロドリゴ・ソロゴジェンの「Madre」の主演マルタ・ニエト、合計14人です。過激なものから味気ないものまで、マサカという人もいます。これが受賞にプラスかマイナスかは神のみぞ知るです。写真はすべて見ることができますが割愛。
★ゴヤ賞イベロアメリカ映画部門ノミネーションのセバスチャン・レリオの『ナチュラルウーマン』の公開日がアナウンスされました。来る2月24日(土)、シネスイッチ銀座、新宿シネマカリテ、恵比寿ガーデンシネマの3館です。1月23日のセルバンテス文化センターでの試写会は既に満席です。
ゴヤ賞栄誉賞にマリサ・パレデス*ゴヤ賞2018 ④ ― 2018年01月18日 20:36
「栄誉賞」が初めてのゴヤ賞受賞にびっくり!
★栄誉賞受賞の理由は「数多の長年のキャリアと信望・・・・スペインのみならずリスクのともなう海外の映画出演でも競い合い、その無条件の力強さを維持している」からだそうです。受賞の知らせは既にアップしていますが、改めて長い芸歴を纏めてみました。まず驚いたのは、これまでゴヤ賞には全く縁がなかったということでした。1987年にゴヤ賞が始まったころに、女優としてのピークが過ぎていたわけでもないのに逃しており、その長いキャリアとその存在感は皆が認めていたのにです。パレデス本人も「私と同じように幸運に恵まれない人々がたくさんいる」と語ったようです。

★マリサ・パレデスMarisa Paredes、1946年4月3日マドリード生れの71歳、映画・舞台・TV女優。スペイン、ほかフランス、イタリアでも活躍。ゴヤ賞には縁がなかったが、シネアストの最高賞と言われる映画国民賞(第1回1980年受賞者カルロス・サウラ)を1996年受賞、2007年芸術文化分野で功績を残した人物にスペイン文化省が与える金のメダル(Medalla de Oro al Merito en las Bellas Artes)受賞、サンセバスチャン映画祭につぐ老舗映画祭、第62回バジャドリード映画祭2017の麦の穂栄誉賞を受賞したばかりである。ゴヤ賞以外の女優賞は多数あるが、なかで『私の秘密の花』でカルロヴィ・ヴァリー映画祭1996、「El dios de madera」でマラガ映画祭2010、各女優賞、シチリア島のタオルミーナ映画祭2003でタオルミーナ芸術賞を受賞している。2000年から2003年までスペイン科学映画アカデミー会長を務めた。少女時代から女優を目指し、音楽学校、マドリードの演劇芸術学校で演技を学んだ。

(麦の穂栄誉賞を手に、バジャドリード映画祭2017授賞式にて)
★1960年当時14歳だったパレデスは子役として、ホセ・マリア・フォルケの「091 Policía al habla」で映画デビューしているが、クレジットされていない。翌年コンチータ・モンテス劇団のホセ・ロペス・ルビオの戯曲「Esta noche tampoco」で初舞台を踏む。以来現在まで二足の草鞋を履いている。60~70年代は、概ねその他大勢の脇役、コメディが多かった。フランコ体制当時は、厳しい検閲逃れのコメディが多く製作された。1965年フェルナンド・フェルナン=ゴメス監督・主演の「El mundo sigue」でお手伝い役を演じたほか、ハイメ・デ・アルミニャンのコメディ「Carola de día, Carola de noche」(69)、アントニオ・イサシ=イサスメンディの「El perro」(76)に出演している。

(左、主演のリナ・カナレハス、右マリサ・パレデス、「El mundo sigue」から)
★フランコ体制が崩壊(1975)、民主主義移行期を経た1980年、フェルナンド・トゥルエバの「Ópera prima」やエミリオ・マルティネス=ラサロの「Sus años dorados」に出演、1983年アルモドバルの第3作目『バチ当たり修道院の最期』(原題「Entre tinieblas」仮題「闇の中で」)に尼僧役で出演、カルメン・マウラのように通称「アルモドバルの女性たち」の仲間入りをした。監督もバスの乗客として出演している。1986年アグスティ・ビリャロンガの「Tras el cristal」、1987年ホセ・サクリスタン監督・主演の「Cara de acelga」で初めてゴヤ賞助演女優賞にノミネートされた。

(尼僧に扮したパレデス、『バチ当たり修道院の最期』から)
★1990年代にはアルモドバルの成功作に出演している。例えば『ハイヒール』(91)、『私の秘密の花』(96、ゴヤ賞主演女優賞ノミネート)、『オール・アバウト・マイ・マザー』(99)であるが、ゴヤ賞は素通りされた。『ハイヒール』の年は、ビセンテ・アランダの『アマンテス/ 愛人』のビクトリア・アブリルとマリベル・ベルドゥの二人、バジョ・ウジョアの「Alas de mariposa」(仮題「蝶の羽」)のシルビア・ムントの3人がノミネートされ(1998年まで3名)、受賞者は後者だった。次はアグスティン・ディアス・ヤネスの『死んでしまったら私のことなんか誰も話さない』のビクトリア・アブリルの前に敗れたが、アブリルの受賞は個人的に納得でした。オスカー賞まで取った『オール・アバウト・マイ・マザー』では、該当する助演女優賞に相手役のカンデラ・ペーニャがノミネートされた。作品の重要性からいってパレデスがノミネートされて然るべきだったと思います。結果はベニト・サンブラノの『ローサのぬくもり』のマリア・ガリアナが受賞した。

(娘役ビクトリア・アブリル、アルモドバル、母親役パレデス、『ハイヒール』から)

(壊れた夫婦を演じたパレデスとイマノル・アリアス、『私の秘密の花』から)

(付き人役のカンデラ・ペーニャとパレデス、『オール・アバウト・マイ・マザー』)
★パレデス本人が言うように「運に恵まれなかった」感が否めない。この90年代は海外での出演も多く、例えば、イスラエルのアモス・ギタイの『ゴーレム さまよえる魂』(92、「ディアスポラ三部作」の最終章)、スイスのダニエル・シュミットの自伝的映画『季節のはざまで』(92、仏・スイス・独、独語)、フィリップ・リオレの『パリ空港の人々』(93、仏・西、仏語)、特にメキシコのアルトゥーロ・リプスタインの『真紅の愛』(96、メキシコ・仏・西、西語)では、パレデス本人は賞に絡みませんでしたが、アリエル賞以下ハバナ映画祭でも多数受賞した話題作でした。またガルシア・マルケスの同名小説の映画化『大佐に手紙は来ない』(99)では、老大佐の妻を演じた。イタリア映画では、ロベルト・ベニーニ監督・主演の『ライフ・イズ・ビューティフル』(97)出演も忘れがたい1作、ユダヤ系イタリア人グイドの妻ドーラの母親に扮した。チリの亡命監督ラウル・ルイスの『三つの人生とたった一つの死』(96、仏・ポルトガル)など海外での活躍も見落とせない。

(白髪にして老妻を演じたマリサ・パレデス、『大佐に手紙は来ない』から)
★2001年、ギレルモ・デル・トロがアルモドバルに招かれスペイン内戦をテーマに撮った戦争ホラー・サスペンス『デビルス・バックボーン』に出演、エドゥアルド・ノリエガやフェデリコ・ルッピが共演した。批評家からは高い評価を得られたものも興行的には成功しなかった。その後は、マノエル・デ・オリヴェイラの『マジックミラー』(05)、ベダ・ドカンポ・フェイホーの「Amores locos」(09)でエドゥアルド・フェルナンデスと共演、アルモドバルの『私が、生きる肌』(11)ではスペインに戻ってきたアントニオ・バンデラスと共演、ポルトガルのバレリア・サルミエントの『皇帝と公爵』(12)ではジョン・マルコヴィッチと共演した。イタリア語ができることもあって、クリスティナ・コメンチーニのコメディ『ラテン・ラバー』(15、伊・仏)に出演している。最新作はハイメ・ロサーレスの『ペトラは静かに対峙する』(18)、主役のペトラにバルバラ・レニー他、アレックス・ブレンデミュール、ベテラン演技派ペトラ・マルティネスとの共演である。

(右脚を失い義足の役柄に挑んだパレデス、『デビルス・バックボーン』から)
★私生活では「El perro」の監督イサシ=イサスメンディと結婚、1975年に生まれた娘マリア・イサシも女優。現在はホセ・マリア・プラド<チェマ>(1952年、ルゴ生れ)が1983年からのパートナー、現在に至っている。スペイン・フィルモテカ(フィルム・ライブラリー)のディレクターを長年務めており、国内の映画祭のみならず、世界の映画祭、カンヌ、ベネチア、ロカルノ、サンダンス、グアダラハラ、ロッテルダムなどに出向いている。イベロアメリカ・フェニックス賞のディレクター、またフォト・アーティストでもある。


混戦模様のドキュメンタリー部門*ゴヤ賞2018 ③ ― 2018年01月13日 21:08
作品賞よりお茶の間を沸かすドキュメンタリー部門

★本来なら作品賞部門の行方が気になるはずだが、今回はこれと言って特別応援する映画がない。面白そうなのが長編ドキュメンタリー部門である。カルロス・サウラの人生を7人の子供たちに語らせた「Saura(s)」は以前に紹介済みだが、今お茶の間の話題をさらっているのが、俳優グスタボ・サルメロンが実母フリータの生き方を、14年に亘って撮り続けた初監督作品「Muchos hijos, un mono y un castillo」(「Lot of Kids, a Monkey and a Castle」)ではないでしょうか。昨年12月15日の公開以来、フリータと家族はテレビのショータイム番組に引っ張り凧、このエキセントリックな一族(写真下)が、相変わらず高い失業率にあえぐお茶の間を元気づけている。批評家の評価もおしなべて高く「Saura(s)」を超えるのは間違いなさそう。何が魅力なのでしょう?

(全員集合、前列は孫たち、中央が両親、背後に控える監督以下子供たちの家族)
「Muchos hijos, un mono y un castillo」(「Lot of Kids, a Monkey and a Castle」)2017年
製作:Sueños Despiertos / Caramel Films(配給)
監督・撮影・プロデューサー:グスタボ・サルメロン
脚本(共):グスタボ・サルメロン、ラウル・デ・トーレス、ベアトリス・モンタニェス
編集:ラウル・デ・トーレス
音楽:ナチョ・マストレッタ
美術:マヌエル・エスラバ・フェハルド
録音:アブラハム・フェルナンデス、ペラヨ・グティエレス、アナ・ベレン・マルティン
データ:スペイン、スペイン語、2017年、ドキュメンタリー、90分、カルロヴィ・ヴァリ映画祭2017(7月6日)でワールドプレミア、ベスト・ドキュメンタリー賞受賞、トロント映画祭(9月)出品、カムデン映画祭(米ニュージャージー州)ハレルHarrell賞受賞、サンセバスチャン映画祭サバルテギ部門出品、ハンプトン映画祭ゴールデン・スターフィッシュ賞受賞、他チューリッヒ、ロンドン、ストックホルム、マル・デル・プラタ、各映画祭出品。マドリード限定プレミア12月12日、一般公開12月15日。間もなく開催される2018年ゴヤ賞(ドキュメンタリー部門)、フォルケ賞(同部門)、フェロス賞(コメディ部門)などにノミネートされている。

(トロフィーを手に、家族全員が呼ばれたカルロヴィ・ヴァリ映画祭の授賞式)
出演者:グスタボ・サルメロン(監督)、フリア・サルメロン(母親フリータ)、アントニオ・ガルシア(父親)、他ガルシア・サルメロン一家
プロット:フリータは三つの夢を叶えることができた。それはたくさんの子供に恵まれること、モンキーを飼うこと、城に住むことの三つだった。しかし世界を震撼させた2008年の経済危機に見舞われ、目下一家は苦境に立たされている。この堂々たる城を維持していくだけのお金がないのだ・・・グスタボ・サルメロンが俳優の仕事をしながら14年間に亘って、突飛で優しさあふれた思索家でもある母親を主人公に、エキセントリックな一族を撮り続けた、ちょっと物悲しいコメディ。
「私の母はスペインのジーナ・ローランズ、太めのメリル・ストリープ」と監督
★「なんて素晴らしい母親なんだろう! 記録しておかなくちゃ」というわけで2003年3月に撮影が開始された。監督によると、「14年間格闘してきた。1日として撮影しなかった日はなかった。大プリニウスの教え『1本の線を引かない日は1日もない』をモットーとしていたからだ」と。これは古代ローマの博物学者大プリニウスが、古代ギリシャの画家アペレスの不断の努力を讃えた言葉である。「出演者、つまり私の家族と私、私と私の家族の甘酸っぱい、匙加減をしない、ありのままの姿を明らかにすることだった」とも。「へこんだり、うんざりしたり、途方にくれたりしたが、とにかく14年間謙虚に作業をした」と語っています。本格的にドキュメンタリーにまとめようとしたのは後のことだったようです。

(スペイン家庭の定番朝食、ビスケットをオーレにひたしながら食べるフリータを撮る監督)
★中流家庭のガルシア・サルメロン家は、常に混沌としていたが子供たちには創造力と自由が許される環境に包まれていた。6人兄姉の末っ子グスタボが学齢に達しても、誰も学校に行かせようとは考えなかった。子供たちの長所を見つけて過度に励ましてくれるコツを心得ていた。「私たち兄弟はサルと一緒に育った。80年代にサルを家で飼うことなど全く無責任なことでした。母は80歳でも少女のようでした」と。子供たちのなかには将来、工業デザイナーになった兄、幼稚園の園長になった姉がいる。一家は城を買い入れ、やがて鎧や絵画、動物たちが溢れだしてきた。フリア・サルメロンはいわゆるディオゲネス症候群(ため込み症候群)の持ち主だった。自由奔放すぎる女性のようです。

★2004年の9月、「ねえ私、祖母の脊椎骨を持ってるのよ」と母フリータはのたまう。―「何だって、いい加減なこと言って」と監督。「ほんとよ、私の祖母の」―「ちょっと待ってくれ、ぼくの曾祖母のかい?」―頭が真っ白になった監督「どこにあるんだい?」―「どこかにあるはずよ」。つまり場所が分からなくなっていた。俄然見たくなった監督、本当にあるなら見つけて埋葬してやりたかった。すぐさま脊椎骨探しが始まった。この曾祖母は1936年スペイン内戦のさなかに姪とともに殺害されたということだった。本格的にドキュメンタリーにしようと決心した瞬間だったようです。だから最初のタイトルは「En busca de la vértebra perdida」(仮訳「失われた脊椎骨を探して」)だった。監督にとってこの脊椎骨探しはスペイン探しでもあったからである。

(絵画や動物に囲まれた、かなり太めのスペインのメリル・ストリープ)
★撮影開始10年目を迎えた2012年3月、母親がどんな状況でもカメラを回しつけたが、どこか具合が悪いのか元気がなく、「ねえグスタボ、私たちを撮ることで俳優の仕事ができないのじゃないの」とフリータ、いつもは強がりの父親も、「私たちはもう役立たずの二人の年寄りなんだよ」。カメラを取りに急いで書斎に入り、これは心理学者に相談しに行かねばと決心する。2008年のリーマンショックが一家を追い詰めつつあったようで、結局2014年、銀行の負債が返済できなくなり城を手放した。いいことばかりじゃなかった。城は失ったが代わりに映画が完成して大成功をおさめたのだから。

(フリータ最愛の夫「忍耐の天才」アントニオ・ガルシア)
「自由についてのレッスン」とエルビラ・リンド
★トータルで撮影に14年間、最後の2年間はカメラを回しながら同時に編集作業をした。脚本はとても難しく、二人のプロフェッショナル、ベアトリス・モンタニェスとラウル・デ・トーレスの協力を仰いだ。400時間を88分に編集してくれたのもラウル・デ・トーレスだった。別の人の視点が必要だったし、とても勉強になったと語っている。本作は個人史ではあるが「

(脚本家ベアトリス・モンタニェスと監督)
★各紙の批評家がこぞって「この並外れて素晴らしい女性に観客は夢中になるだろう」とエールを送っています。『メガネのマノリート』の作者エルビラ・リンドの批評を要約すると、「どうして映画館がいっぱいになるのか? それは素晴らしい本物の女性に会えるからだ。このドキュメンタリーは自由についてのレッスンであり、傷つけあわずに共に生きることを知っている一家に会える純粋なコメディだからです」と述べています。マドリード限定のプレミア上映には、アルモドバルを筆頭に、サンティアゴ・セグラ、フェルナンド・コロモ、フアンマ・バホ・ウジョアの監督たち、カルロス・アレセス、エレナ・アナヤ、ナタリエ・ポサなど大勢の俳優たちが応援に馳せつけた。間もなく発表になるフォルケ賞が受賞ならゴヤ賞が射程にはいってくる。

(鎧と脊椎骨を両側にセットした椅子に座る両親と監督、マドリードの映画館カジャオにて)
★グスタボ・サルメロンは、1970年マドリード生れの47歳、俳優、監督、脚本家、製作者。俳優としてのキャリアは、1993年フリオ・メデムの『赤いリス』でデビュー、2001年短編「Desaliñada」で監督デビュー、翌年のゴヤ賞2002短編映画賞を受賞している。詳しい紹介は受賞したら特集いたします。

(俳優グスタボ・サルメロン)
スペイン映画科学アカデミー会長イボンヌ・ブレイク辞任 ― 2018年01月11日 11:52
悪い知らせが届きました・・・・
★「会長辞任」の報など目にしたくなかったのだが、「もしかしたら」が事実になってしまいました(公式発表1月10日水曜日)。イボンヌ・ブレイク会長は、1月3日に緊急搬送されたマドリードのラモン・カハル病院のICUで治療中、ゴヤ賞ガラを目前に待ったなしの決断だったのでしょう。2016年7月14日、前会長アントニオ・レシノスの突然の辞任の後を引き継いで会長代理を引き受け、9月15日の会長選挙で正式に選ばれて第15代スペイン映画科学アカデミーの会長に就任した。第1副会長マリアノ・バロッソ、第2副会長ノラ・ナバスとともに奮闘してきたが、労多くして功少なしの役職、なり手の少ないことを考えると今後のアカデミーは前途多難でしょうか。

★第32回ゴヤ賞ガラは2月3日、マドリード・マリオット・オーディトリアム・ホテルで予定通り開催されます。

(授賞式会場となるホテルのオーディトリアム)
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