女性に光が当たった授賞式*ゴヤ賞2018 ⑪2018年02月10日 17:57

             「すべての母親たちに、すべての女性たちに」に捧げる

 

★前回はイサベル・コイシェ監督の「母親への感謝のスピーチ」について述べたが、今年は母親を語った受賞者が多かったようです。例えば新人監督賞を受賞したカルラ・シモン『夏、1993)も、6歳のときエイズで亡くなった両親の思い出を語った。両親亡き後、叔父の家族と暮らすことになった映画の主人公フリーダが監督自身だった。カタルーニャ語で少女の揺れ動く心を繊細に描いた映画は、地味ながら子供から大人まで多くのスペイン人の心を掴んだ。ラテンビート2017での上映がアナウンスされながら土壇場でキャンセルになった(邦題はそのときのものだが、公開はどうなっているのだろうか)。

 

      

                  (カルラ・シモン)

 

Madre(「Mother」)というそのものずばりのタイトルをつけたたロドリゴ・ソロゴジェンの最新作は、下馬評通り短編映画賞を受賞した。国内外の短編賞を立て続けに受賞、最後のゴヤ賞まで独走してきた。我が子誘拐の悪夢をテーマにした「Madre」企画のきっかけは、「母親から掛かってきた1本の電話だった」と会場の母親に語りかけた。コイシェ監督の母親同様、ソロゴジェンの母親も出席していたのでした。父親とフランスに遊びに出かけていたはずの6歳の息子から突然電話がかかってくる。「ぼく一人で海岸にいるの」と。こうして1本の電話から穏やかな日常が悪夢化する。

 

      

       (トロフィーを手に母親に感謝の言葉をかけるソロゴジェン監督)

 

★「ゴヤ賞のガラはフリータが君臨した」と、その誰も予測できないようなユーモア、比類のない上品さ、いささか規格外れのシュールさで、会場を沸かせ、魅了した。フリータとは、Muchos hijos, un mono y un castilloで長編ドキュメンタリー賞を受賞したグスタボ・サルメロンの母親フリア・サルメロンのことである。この作品については受賞を確信して既にアップ済みであるが、ドキュメンタリーとはいえ、フリータの演技の部分も混じっているのだろうが、まさに「スター誕生」の感がある。

 

   

     (ドキュメンタリーMuchos hijos, un mono y un castillo」から

 

★サルメロン監督「私がここに立っていられるのはあなたのお蔭、このトロフィーをすべての母親たちに捧げます」と、すかさずマイクを母親の手に。「何を言えばいいかしら、ごめんなさい、アントニオ、あなたの次にもっとも素敵な男性はハビエル・バルデムよ」と会場の夫に告白する。アントニオとは夫君アントニオ・ガルシアのこと。これにはバルデム=クルス夫妻ともども大爆笑。夫妻の後列に監督のパートナーで本作の編集者でもあるベアトリス・モンタニェスと座っていた夫君も苦笑い。やはり「これはあなたのものよ」とトロフィーを息子グスタボに返していた。

 

          

          (母親フリータのスピーチを見守るサルメロン監督)

 

★このカリスマ的な妻を忍耐強く長年支えてきた夫こそ殊勲者でしょう。たくさんの子供に恵まれること、1匹のサルを飼うこと、そしてお城に住むことがフリータの願いだった。リーマンショックの負債で一時は手に入れた城を手放した。「最後の夢は叶わなかったけれど」、それ以上の幸福を味わったはずです。82歳になるというフリータ、スペイン内戦を体験し、40年の長きフランコ体制、民主主義移行期、そして現在まで激動のスペインを肩の力をぬいて生きてきた。他人を傷つけずに生きられることを実践してきたスペインの母親に光が当たった夕べでした。

Muchos hijos, un mono y un castillo」の紹介記事は、コチラ2018113

 

     

    (欠席が噂されていたバルデム、ベスト・ドレッサーNo1に選ばれたクルス)

 

★他に今宵、圧巻の貫禄を示したスターの一人が、歌手・女優・バラエティショーのスター、ペパ・チャロ1970マドリード)、どちらかというとラ・テレモト・デ・アルコルコンのほうが有名か。フェミニストとして女性の権利獲得に尽力しているアーティスト。「私はペパ・チャロ、女性です。そう思われていると信じてるが、一応はっきりさせておく。私の声は男性の声よりほんの少し高く聞こえる・・・」で始まったスピーチは、女性シネアストに対する映画界にはびこる不平等を具体的な数字を上げて告発した。リングでは決してタオルを投げない女性の迫力を見せつけた。

 

      

     (スピーチするペパ・チャロ「ラ・テレモト・デ・アルコルコン」の貫禄)

 

★まだ全部見ているわけではないが、個人的に素晴らしく感じたのはレオノール・ワトリング、最優秀歌曲賞のプレゼンターを務めた。受賞作は『ホーリー・キャンプ!』の中で歌われたLeivaLa llamadaだったが、4候補作を歌手としても活躍しているレオノール自身が歌って紹介した。ステラ・マッカートニーがデザインしたエレガントな朱色のドレスで赤絨毯に現れたが、ここではステージ用の黒のドレスに着替えていた。ステラ・マッカートニーの父親がポール・マッカートニーということで、顧客にはミュージシャンのセレブが目立つ。今回はノミネーションなしの授賞式だったが、来年は女優候補者として戻ってきて欲しい。

『ホーリー・キャンプ!』の紹介記事は、コチラ2017107

     

        

         (ノミネーション曲を歌いながら紹介するレオノール・ワトリング)

     

       

         (朱色のドレスでレッドカーペットを踏んだレオノール)

 

★観客を魅了したアレックス・デ・ラ・イグレシアのブラック・コメディPerfectos desconocidos」がノミネーション0個と、不可解な選考に個人的には不満が残ります。1万ユーロで撮ったというビクトル・ガルシア・レオンのコメディSelfieも、サンティアゴ・アルベルが新人男優賞にノミネートされただけでした。

Perfectos desconocidos」の紹介記事は、コチラ20171217

 

 

          レッドカーペットに現れたベストドレッサーたち

      

        

            (ゴヤ賞栄誉賞受賞のマリサ・パレデス、デザインはシビラ)

      

         

     (マリンブルーのドレスのマリベル・ベルドゥ、デザインはディオール) 

    

       

      (紫紅色のドレスのベレン・ルエダ、デザインはカロリナ・エレーナ) 

    

     

   (助演女優賞ノミネートのベレン・クエスタ、デザインはペドロ・デル・イエーロ)

    

      

            (若手で評判のよかったマカレナ・ガルシア)

   

      

        (清楚なサンドラ・エスカセナ、『エクリプス』のヒロイン)

 

      

   (ハイヒールを履いたエドゥアルド・カサノバ、『スキンあなたに触らせて』の監督) 

 

     

  (ハビエル・カルボ&ハビエル・アンブロッシ、『ホーリー・キャンプ!』の監督) 

 

★好みは人それぞれですが、黒一色でなかったのを幸いといたしましょう。これをもってゴヤ賞2018はお開きといたします。


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