『そして彼女は闇を歩く』Netflix 鑑賞記*SSIFF2025 ㉓ ― 2025年11月23日 11:44
アグスティン・ディアス・ヤネスの新作「Un fantasma en la batalla」

★サンセバスチャン映画祭2025アウト・オブ・コンペティションで上映された、アグスティン・ディアス・ヤネスの7年ぶりの新作「Un fantasma en la batalla / She Walks in Darkness」(『そして彼女は闇を歩く』)は政治スリラードラマ、「バスク祖国と自由」ETAの解体のために組織に潜入して無事生還できた唯一人の女性潜入捜査官エレナ・テハダ(偽名アランサス・ベラドレ・マリン)の実話に着想をえて製作されたフィクションです。2024年、アランチャ・エチェバリアが同一人物を主役に据えた「La infiltrada / Undercover」を撮っており、今年のゴヤ賞で作品賞と潜入捜査官を演じたカロリナ・ジュステが主演女優賞を受賞したばかりです。『アンダーカバー 二つの顔を持つ女』の邦題でWOWOWが放映した。両作ともフィクションですが、先行したエチェバリアのほうがエレナ・テハダの伝記に近いようです。基本データは作品紹介記事に譲り、キャスト陣とストーリー紹介だけアップします。本祭には監督、製作者、主要キャストが「ジェノサイド・ストップ」のバッチをつけて参加しました。
*「Un fantasma en la batalla」の紹介記事は、コチラ⇒2025年07月16日
*「La infiltrada」の作品とエレナ・テハダの紹介記事は、コチラ⇒2025年01月15日

(監督と出演キャスト、サンセバスチャン映画祭、9月24日フォトコール)
キャスト:
スサナ・アバイトゥア(偽名アマイア・ロペス・エロセギ/アマヤ・マテオス・ヒネス)
アンドレス・ヘルトルディクス(フリオ・カストロ中佐)
イライア・エリアス(ベゴーニャ・ランダブル、バスク語学校校長)
ラウル・アレバロ(アリエタ/ソリオン)
アリアドナ・ヒル(ギプスコア1961、ソレダード・イパラギレ・ゲネチュア/通称アンボト)
ミケル・ロサダ(ギプスコア1954、イグナシオ・グラシア・アレギ/
筆名イニャキ・デ・レンテリア)
アナルツ・スアスア(サンセバスティアン1961、アンボトのパートナー、ミケル・アルビス・イリアルテ/ミケル・アンツァ)
ハイメ・チャバリ(チキTxiki /エル・ビエホ)
クリス・イグレシアス(治安警備隊員アデラ、アマイアの連絡係)
アンデル・ラカリェ(アンドニ)
ディエゴ・パリス(エスケルティア)
フェルナンド・タト(ビスカヤ1966、フランシスコ・ハビエル・ガルシア・ガステル/
チャポテ)
ミケル・ララニャガ(ダゴキ)
アルフォンソ・ディエス(イスンツァ)
エドゥアルド・レホン(内部告発者)
イニャキ・バルボア(ヨス・ウリベチェベリア・ボリナガ)
エネコ・サンス(チェリス)
アルマグロ・サン・ミゲル(アマイアの恋人アントニオ)、フアナ・マリア(アマイアの偽の母親)、イゴル・スマラベ(ホセ・マリア・ムヒカ、フェルナンド・ムヒカの息)、ほか多数
◎ETA による誘拐&殺害された政府要人など
アルベルト・サンチェス(グレゴリオ・オルドニェス、国民党PPバスク州議会議員、
1995年1月23日、享年36歳)
ホルヘ・ウエルゴ(ホセ・アントニオ・オルテガ・ララ、刑務官、
1996年から532日間幽閉後救出)
フアン・モントーヤ(フェルナンド・ムヒカ、弁護士、活動家、社会労働党PSOE党員、
1996年2月6日、享年62歳)
ホセ・マリア・エルナンデス(フランシスコ・トマス・イ・バリエンテ、法学教授、
元憲法裁判所長官、歴史家、1996年2月14日、享年63歳)
ウィリアム・モンラバル・クック(ミゲル・アンヘル・ブランコ、PP議員、
1997年7月10日誘拐、13日死去、享年29歳)
ベナン・ロレヒ(フェルナンド・ブエサ・ブランコ、政治家、PSOEバスク社会党PSE-EE、
2000年2月22日、享年53歳)
ストーリー:1990年、バスク祖国と自由(ETA)の解体に寄与した潜入捜査官アマイアの恐怖の10年間が語られる。アマイアのミッションは、ETAがフランス南西部バスクに武器弾薬などを隠し持つ重要な秘密のアジト(スロ)を突き止めることであった。フランコ没後激化した実際に起きた要人暗殺、自動車爆破事件の数々を背景に、スペインの歴史的、政治社会的文脈に根ざした捜査官たちに触発されたフィクション。90年代後半から21世紀初頭の治安部隊による「サンクチュアリ作戦」をベースにしている。
生還できた唯一人の女性潜入捜査官の人生に触発されたフィクション
A: まだ進行中の事案ですから評価は別れます。ジャンルとしては実際に起きた殺害事件をドラマ化して挟みこんだドキュメンタリー・フィクションです。ヒロインの潜入捜査官アマイアのモデルは、アランサス・ベラドレ・マリンという偽名をもつ国家警察所属の警官エレナ・テハダと思われますが、ドラマでは治安警備庁の隊員になっています。人物造形もかなり違っていて、アマイアの上司カストロ中佐も当然違うわけです。
B: アマイアは実在しません。冒頭で「これはある捜査員の物語かもしれない」と、フィクションだと予防線を張っています。しかしETA側の主だった登場人物は虚構の人もいますが、多くは同じ名前(通称、あるいはニックネーム)や行動から本人と同定できるケースが多いから混乱します。
A: 先行して製作されたアランチャ・エチェバリアの『アンダーカバー』(「La infiltrada / Undercover」)を視聴した人は混乱するかもしれません。あちらは同じフィクションでもドキュメンタリー・ドラマに近く、よりテハダの実像にそっている。当時の治安警備庁は警察庁と同じ内務省に所属していましたが、どちらかというと国防省所属の三軍統合本部(陸海空)に近い仕事をしており、現在では国防省に所属しています。
B: 実際は二つの組織が手柄を競い合って反目していた部分があった。プライドが高いといえば聞こえがいいが、スペイン人の妬み深さは定評がある。先行作品はゴヤ賞作品賞とカロリナ・ジュステが主演女優賞をゲットしたばかり、まだ余韻が残っているからタイミングが悪かったかもしれない。
A: テロリスト・グループ「コマンド・ドノスティ(サンセバスティアン)」というのは、ETAのなかでも最も過激な集団だったということです。バスク自治州ギプスコアの県都サンセバスティアンの責任者であったアリアドナ・ヒル扮する通称アンボトは実在しており、以下チャポテ、イニャキ・デ・レンテリア、ミケル・アンツァなどのテロリストたちも実在の人物です。
B: チャポテ、本名フランシスコ・ハビエル・ガルシア・ガステルは、劇中でも再現されたグレゴリオ・オルドニェスの暗殺者、ミゲル・アンヘル・ブランコやフェルナンド・ムヒカの暗殺などにも関与している。

(アンボトの沈黙にビビるアマイア)
A: 劇中、数本の短編映画を撮り、脚本家、ミュージシャンでもあるフェルナンド・タト扮するチャポテは、サンセバスティアンの旧市街のレストラン「ラ・セパ」で食事中のオルドニェスを殺害したとき、赤いカッパを着用していたが、実際も赤いカッパだったということです。ミゲル・アンヘル・ブランコ議員誘拐の後に起きたスペイン全土で200万人とも250万人とも言われる抗議デモのシーンも、アーカイブ映像とそっくりでした。
B: 死刑廃止のスペインでは、殺害件数が多すぎて刑期はトータルすると三桁と寿命より長い。ギプスコアの幹部アンボトは冷静沈着、美人で風雅なのも実像に近いとか。

(殺害決行日は雨が降っていたので赤いカッパでも怪しまれなかった)
A: アンボトの通称は1994年秋ごろから使用、スペインとフランスを往復して「血なまぐさい」メンバーの一人と言われ、多くの殺害に積極的に関わっています。ETA中央委員会の二人目となる女性執行委員、軍事作戦を担当する4人のメンバーの一人でもあり、部下にも厳しかったそうです。2004年フランスで、1999年からパートナーだった筆名ミケル・アンツァことミケル・アルビス・イリアルテと共に逮捕された。アンツァはETA の創設者の一人ラファエル・アルビスの長男でETA メンバーでしたが作家でもあり、現在は執筆活動をしている。劇中ではアナルツ・スアスアが扮している。
B: 治安部隊が2004年に決行した「サンクチュアリ作戦」でアンボトとアンツァは逮捕されるのですが、映画はもっと前の印象でした。現実に起きた部分とフィクション部分が入れ子になっています。これはドラマであってドキュメンタリーではない。
A: アマイアが結婚を諦めて現場に復帰するのは、1997年夏のミゲル・アンヘル・ブランコ議員の誘拐、続く殺害の後ですからズレを感じました。商業映画ですから観客サービスも必要です。ただ埋め草的なシーン、ウエディングドレスを着せるなどやりすぎ、諸所に挟みこまれた二人の逢瀬も緊張が途切れて、個人的には残念でした。ただ起こらなかった事件のでっち上げはしていない。
B: 実際に起きたグレゴリオ・オルドニェスやブランコ議員の殺害シーンなどいやにリアルな部分がある半面、アマイアとカストロ中佐の密会シーンもかなり無防備でした。ミケル・ロサダ演じるイニャキ・デ・レンテリアも実在の人ですか。
A: 詳細が分からないようですが、グループのイデオロギー指導者ミケル・アンツァに次ぐリーダーと言われ、アルジェリアでゲリラ訓練を受けた。2000年9月フランス南西部のバスクで逮捕されている。
B: アンボトが二重スパイではないかとアマイアの身元確認を依頼したハイメ・チャバリ扮する「チキ/エル・ビエホ」は架空の人物でしょうか。

(ハイメ・チャバリ、2022年頃)
A: フェロス栄誉賞2025の受賞者チャバリ監督がスクリーンに登場しました。自作にも出演する他、ベルランガやアルモドバル作品にも小さな役ですが出演している。本作の「チキ/エル・ビエホ」は、ETA の象徴的な人物で、フランコ総統が死去する直前の1975年9月、21歳の若さで銃殺刑になったフアン・パレデス・チキ(1954)をシンボライズしているように思いました。他にも同定できない登場人物としてイスンツァがいる。1996年1月、ログローニョの刑務官オルテガ・ララを誘拐してギプスコアのモントラゴンに幽閉、翌年夏に彼が救出されるまでの532日間の監視役を務めた人物でした。
B: イライア・エリアス扮するバスク語学校の校長ベゴーニャは実在しませんね。

(エタ組織に入った理由をアマイアに問い詰めるベゴーニャ)
A: アマイアと同じようにベゴーニャに近いモデルはいるそうです。来年のゴヤ賞助演女優賞ノミネートは期待できます。同じくラウル・アレバロのアリエタも架空の人物に思われますが、指導部の一人に同名の人がいるようです。アリエタはバスク語で「石の多い場所」をさし、慎重で猜疑心のかたまりのような人物造形にぴったりです。しかし隙のないアマイアの身辺を探るため彼女のアパートに同居したのに、盗聴器を発見できないなんてあり得ない。
B: 治安警備隊の上層部がエタの動きを探るため彼を同居させるようアマイアに指示していたわけですから、狐と狸の化かし合いです。アレバロは視聴者を不安にさせることに成功していた。誘拐したブランコ議員の処遇を決める指導部の会議でも、殺害に迷わず挙手したリーダーでした。

(アマイアを監視するアリエタ)
A: アマイアの身辺警護のため多くの治安警備隊員が張り込んでいる。時間稼ぎのためエレベーターを故障に見せかけたり、クリス・イグレシアスのアデラも危険な連絡役を受け持っている。
B: エレベーターを修理するふりをしていたのは仲間ですね。エレナ・テハダを守っていた12人の警察官は「十二使徒」と呼ばれていたそうですが、テハダは顔を知らなかったと語っている。怪しまれないようにわざとそうしていた。
A: 劇中でも空軍大尉の身元がバレて、彼女が運転している車中で射殺されたり、アマイア自身が知らずに同僚を撃ってしまったりなど、用心のため互いに知らされていない。
B: アンドレス・ヘルトルディクスが演じたフリオ・カストロ中佐のモデルは、何人かがミックスされている印象です。

(アマイアの情報を受け取るカストロ中佐)
A: 『アンダーカバー』でルイス・トサールが演じたアンヘル・サルセド警部のモデルは、国家警察のフェルナンド・サインツ・メリノ長官だそうです。1990年初頭にはギプスコアのスペイン警察の指揮を任されていた。取り調べには拷問も辞さなかったそうです。長官は『アンダーカバー』の脚本作成に参加しており、中佐の造形には彼が部分的に取り入られているように感じました。ETAに顔が割れているエレナ・テハダは、1999年3月、任務終了後スペイン内をあちこち移動させられ、最終的にアンドラ公国大使館の治安機関に配属され慎重な活動をしている。
B: 塀の中とはいえ未だほとんどが存命、裁判が続行中ですから、映画にするにはどちら側にも不満が残ります。

(先行作品『アンダーカバー』)
A: スペイン内戦ものとは訳が違う。映画の冒頭部分でフランコ将軍の腹心で後継者だったルイス・カレロ・ブランコ首相暗殺のアーカイブ映像が流れました。1973年12月、ETA が得意とした自動車爆破で即死、彼の乗っていた車は20メートル空中に飛びあがり6階建てのビルを飛び越えて隣りのビルの2階屋根部分のパティオというか3階のバルコニーに落ちた。
B: 凄い破壊力です。1979年、この爆破テロ事件は『アルジェの戦い』で金獅子賞を受賞したジッロ・ポンテコルヴォが「Operación Ogro」(「鬼作戦」)として映画化した。
A: フランコ没後4年足らずの映画化で物議を醸したが、これはフランコ政権時代のテロ事件であり、バスク語使用も自治権も復権した90年代のテロとは区別して考えるべきです。かつて長いあいだ自分たちを容赦なく苦しめたスペイン人を懲らしめる目的のテロに民主化も正義の欠片もないでしょう。監督が冒頭に入れた目的は何かです。
B: 後継者を失ったフランコ政権はETA弾圧の強化に拍車をかけ、犠牲者を増やしていった。彼らは自分たちはバスク人でスペイン人ではないと考えている。
A: 『鬼作戦』以外にも、エタラを描いた作品は量産されている。本作にも挿入された2000年2月22日に起きたPSOEのフェルナンド・ブエサ・ブランコ殺害事件をバスクの監督エテリオ・オルテガがドキュメンタリー「Asesinato en febrero」(01、「2月の暗殺」)のタイトルで撮った。製作者のエリアス・ケレヘタもギプスコア県エルナニ出身(1934)です。カンヌ映画祭併催の「批評家週間」でプレミアされ、マラガ映画祭でドキュメンタリー賞を受賞している。
B: ケレヘタは、カルロス・サウラやビクトル・エリセ、モンチョ・アルメンダリス、レオン・デ・アラノアなどを国際舞台に連れ出したスペインを代表する製作者でした。
A: 監督、脚本家でもあった。当ブログでは、その他ルイス・マリアスの「Fuego」(発砲)、ボルハ・コベアガのコメディ仕立ての「Negociador」(交渉人)、アイトル・ガビロンドのTVミニシリーズ「Patria」(祖国)、イシアル・ボリャインの「Maixabel」(マイシャベル)などをアップしています。
B: ボリャイン映画のモデルになったマイシャベル・ラサは、2000年7月に暗殺された政治家フアン・マリア・ハウレギの未亡人です。どうやらディアス・ヤネスの新作がお気に召さなかったようでした。
A: エタ犠牲者の当事者ですから商業映画は受け入れがたいでしょう。真実も正義もどちらの目線に立つかで意見は別れる。すべて真実、すべて虚偽です。冒頭の「これはある捜査員の物語かもしれない」を空々しく思った人がいて当然です。本作は、自分の身元が割れることへの恐怖、自分が誰であるかを忘れることへの恐怖を描いているわけです。ベゴーニャに組織に入った理由を問い詰められて「居場所探し」と応じていたが、ベゴーニャがそんな理由を納得したとは思われない。
B: 当時の女性の居場所は決まっていた。ミーナの「あまい囁き」(「Parole, parole」)が小道具として使用されていたが、劇中で「パロール、パロール」と歌っていたのはミーナでなく、フランス語版のダリダ&アラン・ドロンのデュエットの「Paroles, paroles」でした。歌うのはダリダでドロンは語りです。
A: 「口先だけの甘い言葉では騙されないわよ」と手強いのは、登場人物の誰でしょうか。
★アグスティン・ディアス・ヤネス監督、スサナ・アバイトゥア、アンドレス・ヘルトルディクス、イライア・エリアスのキャリア紹介はアップしています。以下のフォトは本作がSSIFFでプレミアされたときのもです。






* ハイメ・チャバリのキャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2025年02月02日
*「Fuego」の作品紹介は、コチラ⇒2014年03月20日/同年12月11日
*「Negociador」の作品紹介は、コチラ⇒2015年01月11日
*「Patria」の作品紹介は、コチラ⇒2020年08月12日
*「Maixabel」の作品紹介は、コチラ⇒2021年08月05日
ペルラス部門にギジェルモ・ガロエのデビュー作*SSIFF 2025 ⑨ ― 2025年08月17日 15:30
カンヌ映画祭併催の「批評家週間」でSACD脚本賞受賞の「Ciudad sin sueño」

(ペルラク/ペルラス部門の公式ポスター)
★ペルラス部門にギジェルモ・ガロエのデビュー作「Ciudad sin sueño」(スペイン=フランス、スペイン語・アラビア語、97分)が、スペイン映画としてただ1作選ばれました。「批評家週間」インディペンデント賞SACD脚本賞受賞作品です。既に詳細をアップしておりますが、カンヌでは情報不足ということもあって、前回とダブらないように、今回少し補足しておきます。スペイン公開2025年11月21日がアナウンスされました。

(ギジェルモ・ガロエ監督)

★前回よりキャスト情報が増え、補足しておきます。
キャスト:アントニオ ‘トニ’・フェルナンデス・ガバレ(トニ)、ビラル・セドラオウイ(トニの友人)、ヘスス‘チュレ’・フェルナンデス・シルバ(祖父チュレ)、マヌエラ ‘アネリ’・フェルナンデス・フェルナンデス、デボラ‘スラミ’・ヴァルガス、フランシスカ‘パキ’・ヒメネス・フェルナンデス、サナ・アグミル、ルイス・ベルトロ

(トニと友人ビラル、フレームから)
★受賞歴、カンヌの他、ミュンヘン映画祭2025シネヴィジョン賞ノミネート、ブリュッセル映画祭 BRIFF2025 スペシャル・メンション受賞。監督以下撮影監督のルイ・ポサなどスタッフ紹介、トニ役のアントニオ・フェルナンデス・ガバレの紹介もしております。
*「Ciudad sin sueño」の紹介記事は、コチラ⇒2025年05月27日
ニューディレクターズ部門にホセ・アラヨンの「La lucha」*SSIFF2025 ⑧ ― 2025年08月13日 15:41
ホセ・アラヨンの「La lucha / Dance of the Living」

2)「La lucha / Dance of the Living」2025
データ:製作国スペイン=コロンビア、2025年、長編2作目、スペイン語、ドラマ、92分、撮影地カナリア諸島フエルテベントゥーラ島、16mm撮影、プレミア上映
監督:ホセ・アンヘル・アラヨン(アラジョン)、製作:El Viaje Films(スペイン)/ Blond Indian Films(コロンビア)共同製作、資金提供:MEDIA Creative Europe / ICAA / カナリア諸島政府 / ラジオ・テレビ・カナリア 協賛:カナリア諸島レスリング連盟、フエルテベントゥーラ・レスリング連盟、他フエルテベントゥーラ映画委員会など多数、製作者:マリナ・アルベルティ、脚本:マリナ・アルベルティ、サムエル・M・デルガド、撮影:マウロ・エルス、美術:シルビア・ナバロ、編集:エマ・タセル、キャスティング:センドリアン・ラプヤデ
キャスト:ヤスミナ・エストゥピニャン(マリアナ)、トマシン・パドロン(父ミゲル)、イネス・カノ、サラ・カノ、アリダニー・ぺレス
ストーリー:火星を思わせる乾燥したフエルテベントゥーラ島、母親ピラールが亡くなり、マリアナと父親ミゲルは前進しようとしますが、喪失感から父娘二人は精神的に漂流しています。カナリア諸島のレスリングは彼らの避難所であり、世界に自分たちの居場所を作るための方法です。しかし、トップレスラーのミゲルの体は慢性的な膝の痛みを抱え衰え始めています。一方このスポーツの規範には小柄すぎるマリアナの怒りは、彼女にルール違反を促します。チャンピオンシップ決勝を目前にして、不確実な状況に立たされていることに気づきます。父と娘は手遅れになる前にお互い冷静になる方法を見つけねばなりません。500年の伝統を誇るカナリア・レスリングを背景に、スポーツをはるかに超えた想像力、譲歩の拒否、静かな誇りが語られる。
監督・スタッフ紹介:ホセ・アンヘル・アラヨン、1980年カナリア諸島テネリフェ生れ、製作者、脚本家、監督、撮影監督、フィルム編集者。プロデューサーとしてのキャリが長い。「En el insomnio」がカルタヘナ映画祭2010とラス・パルマスFF短編賞を受賞、「La ciudad oculta」がフェロス賞2020ドキュメンタリー賞を受賞、ベネチア映画祭2023短編部門にノミネートされたマリナ・アルベルティ(監督、脚本家、製作者)の「Aitana」(23、19分)に脚本を監督と共同執筆する。ベネチア映画祭2019オリゾンティ部門出品のテオ・コートの「Blanco en Blanco」には製作と撮影を手掛け、ペドロ・シエナ賞2021撮影監督賞を受賞、テオ・コートは監督賞、FIPRESCI賞以下、ハバナ、トゥールーズ、ビニャ・デル・マルなど受賞歴多数。

(ホセ・アンヘル・アラヨン)
★2013年、マウロ・エルセ(監督、撮影監督)と共同監督した「Slimane」(西=モロッコ=仏、ベルベル語・西語、70分)で長編映画デビューを果たし、製作、脚本も手掛けた。IBAFFムルシア映画祭2014でオペラ・プリマ賞を受賞する。共同監督のマウロ・エルセは、オリベル・ラシェの『ファイアー・ウィル・カム』でゴヤ賞2020撮影賞を受賞している。アラヨンはベネチアFF2021「批評家週間」ノミネートのサムエル・M・デルガド&エレナ・ヒロンの「Eles Transportan a Morte / They Carry Death」には製作と撮影で参加、本作と同じカナリア諸島を拠点として展開するドラマです。アートディレクターのシルビア・ナバロは「They Carry Death」を手掛けています。


(撮影中のアラヨン監督)
キャスト紹介:主役マリアナを演じたヤスミナ・エストゥピニャンは、本作でデビュー、キャスティングのセンドリアン・ラプヤデが1年がかりで探した。父親役のトマシン・パドロンはベテランのレスラーということです。
ニューディレクターズ部門に2作品ノミネート*SSIFF 2025 ⑦ ― 2025年08月12日 13:57
イラティ・ゴロスティディ・アギレチェとホセ・アラヨン

(ニューディレクターズ部門の公式ポスター)
★バスク出身のイラティ・ゴロスティディ・アギレチェ(1988)のデビュー作「Aro berria」と、テネリフェ出身のホセ・アラジョン(1980)の第2作め「La lucha / Dance of the Living」の2作がノミネートされました。当部門は1作めから2作目が対象です。8月5日にノミネート全作品が発表になっており、日本からもユカリ・サカモト(坂本悠花里/ユカリ、東京1990)の『白の花実』(12月26日公開)がクロージング作品として選ばれています。招待作品ということで賞には絡まないのかもしれません。他、中国、コスタリカ、デンマーク、インド、イギリス、ロシア、スウェーデン、台湾、トルコ、計13作です。当ブログでは、スペイン映画2作をアップします。まずはイラティ・ゴロスティディ・アギレチェの「Aro berria」からアップします。

(ニューディレクターズ13作入りの公式ポスター)
1)「Aro berria / Anekumen」
Ikusmira Berriak 2020 作品
データ:製作国スペイン、2025年、スペイン語・バスク語、歴史ドラマ、110分、長編デビュー作。イクスミラ・ベリアクの他、ロカルノ・レジデンス2023,FIDLab、インディ・リスボア・共同プロダクション・フォーラムなどに参加している。
監督・脚本:イラティ・ゴロスティディ・アギレチェ、製作:Apellaniz y de Sosa SL / Anekumen Pelikula AIE / Leire Apellaniz & Claudia Salsedo / SEÑOR y SEÑORA、ICAA、RTVE、EiTBから資金提供を受けている。製作者:レイレ・アベリャニス、カルメン・ラカサ、撮影:イオン・デ・ソーサ、衣装デザイン:ハビエル・ベルナル・ベルチ、プロダクションデザイン:クラウディア・サルセド

キャスト:マイテ・ムゲルサ・ロンセ、オスカル・パスクアル・ロペス、アイマル・ウリベサルゴ、エドゥルネ・アスカラテ、ジョン・アンデル・ウレスティ、ナタリア・スアレス、(特別出演)ヤン・コルネ、オリベル・ラシェ、ハビエル・バランディアン
ストーリー:1978年5月、フランコのスペインは終焉を迎え、民主主義移行への興奮が感じられたサンセバスティアンの郊外では、水道メーター工場の労働者が集まり、ストライキについての集会を開いていた。最終的には失敗に終わり、幻滅した彼らのなかで最もラディカルな若いグループは工場を去り、社会変革より個人的なより仲間内の領域に向かい始めます。人里離れた山中に籠り、カタルシス体験を共有することで激しい探求への旅を企てますが、彼らの願望は深い矛盾にぶつかり、彼らが求めていた理想は揺らぎ始めます。フランコ没後の1970年代の実話に着想を得て製作された。

監督紹介:イラティ・ゴロスティディ・アギレチェ、1988年ナバラ州エゲシバル生れ、監督、脚本家。ビルバオとバルセロナで芸術と映画を学び、フルブライト奨学金を得て、ニューヨークに留学。本祭関連では、短編「Unicornio」(18分、シネミラ・キムアク部門2021)ほか。「Contadores」(19分、サバルテギ-タバカレア部門2023)は、カンヌ映画祭併催の「批評家週間」でライツ・シネ・ディスカバリー賞にノミネートされた他、グアナファト映画祭、ヴィラ・ド・コンデ映画祭などにもノミネートされた。アルカラ・デ・エナレス短編映画祭2023でイオン・デ・ソーサが撮影賞を受賞した。本作は「Contadores」で探求された世界を掘り下げたものであり、当時の歴史的再現やドキュメンタリー資料を駆使してアプローチしている。

(イラティ・ゴロスティディ・アギレチェ監督)

(イオン・デ・ソーサ、監督、製作者カルメン・ラカサ、SSIFF 2025、8月5日)
★次回、ホセ・アラヨンの「La lucha / Dance of the Living」を予定しています。
セクション・オフィシアル特別上映作品*SSIFF 2025 ⑥ ― 2025年08月09日 17:15
フィクション、ノンフィクション、TVシリーズ2作、合計4作が上映
★アウト・オブ・コンペティション特別上映作品として4作が選ばれている。ドラマとしてアシエル・アルトゥナの「Karmele」(114分)、ノンフィクションとしてイサキ・ラクエスタ&エレナ・モリーナの「Flores para Antonio」(98分)、TVミニシリーズに、コルド・アルマンドスの「Zeru ahoak / Sky Mouths / Bocas de cielo」(4話、160分)と、パコ・プラサ&パブロ・ゲレロの共同監督作品「La suerte / Fate」(6話、183分)です。今回はいま話題になっている「Karmele」をアップします。

「Karmele / Time to Wake Up Together」2025
Foro de Coproducción Europa-América Latina 2019
製作:Euskal Irrati Telebista / Eusko Jauraritza Gobierno Vasco /
Gastibeltza Filmak / RTVE
監督:アシエル・アルトゥナ
脚本:アシエル・アルトゥナ、キルメン・ウリベ・エルカレキン
(原作)キルメン・ウリベ “La hora de despertarnos juntos”
音楽:アイトル・エチェバリア
撮影:ハビエル・アギレ
編集:ロラン・デュフレッシュ
キャスティング:マリア・ロドリゴ
プロダクションデザイン:サロア・シルアガ
製作者:マリアン・フェルナンデス・パスカル
データ:製作国スペイン、2025年、スペイン語・バスク語、歴史ドラマ、114分
映画祭・受賞歴:サンセバスチャン映画祭2025アウト・オブ・コンペティション特別上映
キャスト:ジョネ・ラスピウル(カルメレ・ウレスティ)、エネコ・サガルドイ(チョミン・レタメンディ)、ナゴレ・アランブル、ハビエル・バランディアラン

(ジョネ・ラスピウルとエネコ・サガルドイ)
ストーリー:1937年バスク、看護師のカルメレと家族は内戦のため故国を追い出されフランスに避難していた。カルメレは音楽や舞踊を通して反戦活動をするなかで、バスク大使館とコンタクトを取る。そこでプロフェッショナルのトランペット奏者チョミンと出会う。その後、二人はベネズエラに渡りカラカスで一時期暮らした後、奪い取られたものを取り戻す期待をもってスペインに戻ってくる。スペイン内戦、フランコ独裁政権、亡命と20世紀のスペインを生きぬいた女性とその家族が語られる。実話に基づいて書かれたキルメン・ウリベの小説の映画化。


(カルメルとチョミン)
監督紹介:アシエル・アルトゥナ、1969年ギプスコア県ベルガラ生れ、監督、脚本家、撮影監督。テルモ・エスナルと共同監督した短編デビュー作「Txotx」(15分)がマラガ映画祭1997短編賞2席を受賞。本祭関連では、テルモ・エスナルと2005年長編デビュー作「Aupa Etxebeste !」がニューディレクターズ部門でユース賞を受賞した。2016年ベロドロモ部門で上映された短編集「Kalebegiak」(12編)の1編を二人で手掛けている。2019年同じくエスナルとバスク映画ガラで「Agur Etxebeste !」、単独ではアウト・オブ・コンペティション上映のドキュメンタリー「Bertsolari」(11、バスク語)、続いて「Amama」(15)でバスク映画部門のイリサル賞を受賞した他、ナント映画祭2016ユース審査員賞、モンテレイ映画祭2016観客賞を受賞した代表作。クイナリー・シネマ部門でバスクの伝統料理を提供するレストラン・アルサクのドキュメンタリー「Arzak since 1897」(20)が上映された。

(イリサル賞受賞した「Amama」と、サンセバスチャン映画祭2015)

(アシエル・アルトゥナとテルモ・エスナル、サンセバスチャン映画祭2019)
原作者紹介:キルメン・ウリベ・エルカレキンは、1970年バスク自治州ビスカイヤ県オンダロア生れ、詩人、小説家、脚本家、バスク語で執筆している。最初の小説 “Bilbao-New York-Bilbao”(2008年刊)がスペイン国民小説賞を受賞、スペイン語、カタルーニャ語は勿論のこと、フランス語、英語、ポルトガル語、ロシア語ほかに翻訳されている。日本でも『ビルバオ-ニューヨーク-ビルバオ』の邦題で翻訳刊行されている。『オババコアック』の著者ベルナルド・アチャガと同様バスク語作家として知られている。
キャスト紹介:ジョネ・ラスピウル、1995年サンセバスティアン生れ、歌手、ダンサー、ミュージシャン。17世紀初頭のバスク地方の魔女狩り裁判をテーマにしたパブロ・アグエロの「Akelarre」(20、西仏アルゼンチン、スペイン語・バスク語)でデビュー、高い評価を受け、ダビ・ペレス・サニュドの「Ane」(20)にパトリシア・ロペス・アルナイスの娘役に起用され、期待に応えてゴヤ賞2021新人女優賞を受賞、ロペス・アルナイスも主演女優賞を受賞した。他にイシアル・ボリャインの「Maixabel」(21)、アシエル・ウルビエタのスリラー「La isla de los faisanes / Faisalen irla」(25)に出演している。
*「Akelarre」の作品紹介は、コチラ⇒2020年08月02日
*「Ane」の作品紹介は、コチラ⇒2021年01月27日

(「Ane」のフレームから)

(「Ane」でゴヤ賞2021新人女優賞受賞)
★エネコ・サガルドイは、1994年ビスカヤ県ドゥランゴ生れ、俳優、アイトル・アレギ&ジョン・ガラーニョ共同監督の『アルツォの巨人』(「Handia」)でゴヤ賞2018新人男優賞とスペイン俳優組合賞を受賞する。ボルハ・デ・ラ・ベガの「Mía y Moi」(21)、パウル・ウルキホ・アリホのアドべンチャー・ファンタジー「Irati」(22)主演、TVミニシリーズ「Patria」(20、8話、バスク語)などに出演している。
*『アルツォの巨人』の紹介記事は、コチラ⇒2017年09月06日
*「Irati」の紹介記事は、コチラ⇒2022年12月22日
*「Patria」の紹介記事は、コチラ⇒2020年08月12日

(『アルツォの巨人』のフレームから)

(『アルツォの巨人』でゴヤ賞2018新人男優賞受賞)
アルベルト・ロドリゲスのTVシリーズ「Anatomía de un instante」*SSIFF 2025 ④ ― 2025年08月01日 11:27
ダブル・ノミネートのアルベルト・ロドリゲスの歴史ドラマ

(終結後、家族に無事を知らせる電話をする議員たち)
★アウト・オブ・コンペティション部門には、既にご紹介したアグスティン・ディアス・ヤネスの新作「Un fantasma en la batalla」とアルベルト・ロドリゲスのTVミニシリーズ「Anatomía de un instante」(4話、180分)の2作が選ばれ、4話のうち3話が上映されるようです。ハビエル・セルカスの同名ノンフィクション小説(2009年刊)がベースになっています。フランコ没後の民主主義移行期に起きた1981年2月23日の軍事クーデタ未遂事件が舞台です。スペインの子供たちは歴史の教科書で学びます。当時の国王ドン・フアン・カルロスI世の力量を国民が初めて知ることになったドラマチックな事件でもありました。今日のスペイン民主主義体制の土台となった事件だけにヒット作になるでしょうが、制作会社の一つMovistar Plus+ が配信しますので、多分日本では見ることができないでしょう。

(下院議場中央壇上のアントニオ・テヘロ中佐)
「Anatomía de un instante / The Anatomy of a Momento」
アウト・オブ・コンペティション
製作;Arte France / DLO Producciones / Movistar Plus+
監督:アルベルト・ロドリゲス
脚本:ラファエル・コボス、フラン・アラウホ、アルベルト・ロドリゲス
(原作)ハビエル・セルカス
撮影:アレックス・カタラン
編集:ホセ・M・G・モヤノ、アナ・ガルシア
キャスティング:エバ・レイラ、ヨランダ・セラノ
美術:ペペ・ドミンゲス・デル・オルモ
衣装デザイン:フェルナンド・ガルシア
プロダクションデザイン:アレックス・ミヤタ
メイク&ヘアー:ヨランダ・ピーニャ(主任)、イツィアル・コスタス、ナチョ・ディアス、アイダ・カルバリョ
製作者:ホセ・マヌエル・ロレンソ(クリエーター)、フラン・アラウホ、マヌエラ・オコン
データ:製作国スペイン、2025年、スペイン語、TVミニシリーズ4話、撮影地マドリードの下院議場、アルカラ・デ・エナレス、他。配給スペインMovistar Plus+ で配信が決定している。
キャスト:アルバロ・モルテ(総理大臣アドルフォ・スアレス)、エドアルド・フェルナンデス(スペイン共産党書記長サンティアゴ・カリージョ)、マノロ・ソロ(副総理グティエレス・メジャド陸軍将軍)、ダビ・ロレンテ(治安警備隊中佐アントニオ・テヘロ)、ミキ・エスパルペ(国王フアン・カルロスI世)、オスカル・デ・ラ・フエンテ(ミランス・デル・ボッシュ陸軍大将)、フアンマ・ナバス(アルフォンソ・アルマダ陸軍少将)、サムエル・ロペス(社会労働党アルフォンソ・ゲーラ)、イグナシオ・カステージョ(議長ランデリノ・ラビージャ)、ルイス・ベルメホ、ベネアロ・エルナンデス(フアン・ガルシア・カレス)、他多数
ストーリー:1981年2月23日、午後6時20分、治安警備隊アントニオ・テヘロ中佐と自動小銃で武装した警備隊員200名が下院議場を占拠、国王を擁した軍事政権樹立を要求する。テヘロ中佐が拳銃を手に議場に乱入、安全のため議席の足元の床に身を伏せるよう命令して辱めたが、アドルフォ・スアレス首相、サンティアゴ・カリージョ共産党書記長、グティエレス・メジャド副首相の3名は指示に従わなかった。民主主義の前進を率いたこの3人と軍事クーデタ未遂事件の首謀者3人、治安警備隊アントニオ・テヘロ中佐、ミランス・デル・ボッシュ陸軍大将、アルフォンソ・アルマダ陸軍少将を通して、スペイン民主化のプロセスを強化することになった「F-23事件」が語られる。

(テヘロ中佐を演じたダビ・ロレンテ、フレームから)

(メジャド副総理役のマノロ・ソロ、スアレス首相役のアルバロ・モルテ)

(カリージョ役のエドゥアルド・フェルナンデス)
★スペインで「F-23事件」と言えば、スペイン人なら1981年に起きた軍事クーデタ未遂事件と分かります。Fはスペイン語の2月 febrero の頭文字、わが国の「3-11」、アメリカの「9-11」と同じように、年号は不要です。三軍の長でもあったフアン・カルロスI世のクーデタ不支持表明で、発生から18時間後に終結した無血クーデタですが、スペイン民主主義の行方を決定づけたターニングポイントとなる事件でした。とはいえ現在でも事件の推移は混沌としており、事件の黒幕の解明には至っていないということです。製作者がどこまで事件に踏み込んでいるのか目下のところ分かりませんが、監督、脚本家など製作スタッフの顔ぶれから期待したいところです。
★2月23日は、アドルフォ・スアレス首相が政治的混乱、高い失業率、ETAのテロ活動の未解決の責任を取って辞意を表明(1月29日)、当日は新首相選出の手続きを行っていたところでした。従って与野党下院議員がほぼ全員出席、国営放送局によりテレビで生中継されていました。一方ミランス・デル・ボッシュ将軍がテレビ局を占拠、突然放映が中断されましたが、記録は残っています。ラジオからは内戦当時の軍隊行進曲が流され国民を40年前の恐怖に陥れた。因みにダニエル・カルパルソロのTVミニシリーズ「Asalto al Banco Central / Bank Under Siege」(24、5話、『バンク・アンダーシージ』Netflix)の第1話の冒頭にこのときの実写が挿入されています。下院議場の中央壇上に駆け上がって威嚇するテヘロ中佐、スアレス首相、カリージョ書記長、メジャド副首相の3人以外は議席の床に伏せている映像を見ることができます。本作はF-23事件から3ヵ月後の5月23日に起きたバルセロナにあるスペイン中央銀行へ押し入った強盗事件を描いています。

(反乱首謀者3人、左からテヘロ、アルマダ、ミランス・デル・ボッシュ)

(原作者ハビエル・セルカスが表紙に使用したクーデタ当日の下院議場内)
★コンペティション外、TVシリーズということもあるので、スタッフ、キャスト紹介は割愛しますが、ロドリゲス監督はセクション・オフィシアルの「Los Tigres」、脚本家ラファエル・コボスはマラガ映画祭2019でリカルド・フランコ賞を受賞した折に紹介、カリージョ役のエドゥアルド・フェルナンデスは映画国民賞2025受賞の記事で、副総理メジャド役のマノロ・ソロはビクトル・エリセの『瞳をとじて』やガストン・ドゥプラット&マリアノ・コーンの『コンペティション』、ラウル・アレバロの『静かなる復讐』などに出演しています。原作者のハビエル・セルカス(カセレス1962)は小説家、翻訳家、日本では『サラミスの兵士たち』(“Soldados de Salamina” 2001)と、最近『テラ・アルタの憎悪』(“Terra Alta” 2019)の翻訳が出版されています。
*アルベルト・ロドリゲスの紹介記事は、コチラ⇒2025年07月24日
*ラファエル・コボスの紹介記事は、コチラ⇒2019年03月26日
*エドゥアルド・フェルナンデスの紹介記事は、コチラ⇒2025年07月13日
セクション・オフィシアルの追加作品「Los domingos」*SSIFF2025 ③ ― 2025年07月27日 16:31
バスクの監督アラウダ・ルイス・デ・アスアの「Los domingos」

★7月23日、セクション・オフィシアルの追加発表がありました。結局これでスペイン映画は4作となりました。昨年TVミニシリーズ「Querer」(4話)がアウト・オブ・コンペティションで上映され、連続でサンセバスチャン映画祭に登場することになりました。セクション・オフィシアルにノミネートは初となるアラウダ・ルイス・デ・アスアの「Los domingos」は、長編3作目、17歳になる聡明な理想主義者アイナラの選択は、家族を驚かせ深い断絶と試練をもたらします。

(左から2人目、ルイス・デ・アスア監督、中央がブランカ・ソロア)
4)「Los domingos / Sundays」アラウダ・ルイス・デ・アスア
データ:製作国スペイン=フランス、2025年、スペイン語、ドラマ、115分、撮影地ビルバオ、2025年2月20日クランクイン。配給スペインBTeam Pictures
製作:Buena Pinta Media / Encanta Films / Colose Producciones / Movistar Plus+ /
Think Studio / Sayaka Producciones
監督・脚本:アラウダ・ルイス・デ・アスア、製作者:マヌエル・カルボ、マリサ・フェルナンデス・アルメンテロス、サンドラ・エルミダ、マヒカリ・イピニャ、撮影:ベト・ロウリチ、編集:アンドレス・ジル、美術:サロア・シルアガ、衣装デザイン:アナ・マルティネス・フェセル
キャスト:ブランカ・ソロア(アイナラ)、パトリシア・ロペス・アルナイス(母マイテ)、ミゲル・ガルセス(父親)、フアン・ミヌヒン、マベル・リベラ、ナゴレ・アランブル、リエル・アラバ(ゴルカ)、他
ストーリー:聡明な理想主義者アイナラは17歳、大学でどのようなキャリアを選ぶか決心しなければなりません。少なくとも、それは家族がアイナラに期待していることです。しかし彼女は自分の将来は別の場所にあるように考えています。彼女は神のおそばに近づきたいと修道会のシスターになる計画を打ち明ける。このニュースに不意を衝かれた家族は驚愕し、家族に深い断絶と試練を引き起こすことになる。

監督紹介:アラウダ・ルイス・デ・アスア(バラカルド1978)、監督、脚本家。デウスト大学(スペイン最古の私立大学)卒業後、マドリード映画学校 ECAM の映画監督の学位を取得した。短編5作を撮ったのち、デビュー作「Cinco lobitos / Lullaby」がベルリン映画祭2022パノラマ部門で上映された。同年マラガ映画祭コンペティション部門にノミネート、金のビスナガ作品賞を含む7冠を制した。翌年のゴヤ賞では新人監督賞を受賞するほか、主演女優賞(ライア・コスタ)、助演女優賞(スシ・サンチェス)の3冠、その他フェロス脚本賞、シネマ・ライターズ・サークル新人監督賞、ディアス・デ・シネ賞、ガウディ賞ヨーロッパ映画賞など2023年は受賞ラッシュの年となった。

(ルイス・デ・アスア監督、SSIFF 2024にて)
★ 第2作ロマンチックコメディ「Eres tú / Love at First Kiss」(23、米合作)は、『だから、君なんだ』の邦題でNetflixが配信している。上述した本祭2024 のアウト・オブ・コンペティションで上映された「Querer」は、新作にも出演しているナゴレ・アランブルとペドロ・カサブランクが主演、「愛が何であるか理解している男性はいるのか」がテーマ、TVシリーズ部門のトロフィー、例えばフェロス賞(作品賞・脚本・主演女優賞)、フォルケ賞(作品・主演男優賞)、フォトグラマス・デ・プラタ観客賞、シネマ・ライターズ・サークル賞(作品・アンサンブル・スター賞)などを手にした。
*「Cinco lobitos」の作品紹介は、コチラ⇒2022年05月14日/2022年12月13日
*「Querer」の作品紹介は、コチラ⇒2024年10月09日

(デビュー作「Cinco lobitos」ポスター)
キャスト紹介:アイナラ役のブランカ・ソロアは今作でデビューです。母親役のパトリシア・ロペス・アルナイス(1981)は、昨年ピラール・パロメロの「Los destellos / Glimmers」で銀貝女優賞を受賞、ダビ・ペレス・サニュドの「Ane」でゴヤ賞2021主演女優賞とサンジョルディ賞、エスティバリス・ウレソラ・ソラグレンの『ミツバチと私』でマラガ映画祭2023銀のビスナガ助演女優賞、その他グアダラハラ映画祭、香港映画祭など海外の映画祭でも評価された。ナゴレ・アランブルはフォルケ賞とフェロス賞主演女優賞を受賞した「Querer」の他、ジョン・ガラーニョ&ホセ・マリ・ゴエナガのバスク語映画『フラワーズ』(14)で日本に紹介されている。「Ane」、ガストン・ドゥプラット&マリアノ・コーンの『コンペティション』(21)、TVミニシリーズ「Patria」、パウル・ウルキホ・アリホの「Irati」(22、バスク語)、イボン・コルメンサナの「El bus de la vida」(24)など当ブログ紹介の良作に起用されている。マベル・リベラ(ア・コルーニャ1952)は、アメナバルの『海を飛ぶ夢』でゴヤ賞2005の助演女優賞を受賞している。

(撮影中のブランカ・ソロアと監督)

(銀貝女優賞受賞のロペス・アルナイス、「Los destellos」から)

(ナゴレ・アランブル、「Querer」から)
★ミゲル・ガルセスは、当ブログ紹介映画では、「Querer」、『ミツバチと私』、イシアル・ボリャインの「Soy Nevenka」(24)と「Maixabel」(21)、ロペス・アルナイスと共演したアンドレア・ハウリエタの「Nina」など、さらに今年は何本もTVシリーズが予定されている。フアン・ミヌヒンはブエノスアイレス生れ(1975)だが、海外の監督に起用されている。ディエゴ・レルマンの『代行教師』(22)とセバスティアン・シンデルの『天の怒り』(22)はNetflixで配信されている。フェルナンド・メイレレスの『2人のローマ教皇』(19)では、アンソニー・ホプキンスやジョナサン・プライスと共演、プライス演じるフランシスコ教皇の若い時代を演じた。ルクレシア・マルテルの『Zama サマ』(17)、銀のコンドル賞、マルティン・フィエロ賞、アルゼンチン映画アカデミー賞と受賞歴多数、TVシリーズ「El marginal」(43話、16~22)では27話に出演、タト賞2016主演男優、本作では監督(2話、22)も手掛けている。

(フアン・ミヌヒンとブランカ・ソロア、フレームから)
◎関連記事
*「Ane」の作品紹介は、コチラ⇒2021年01月27日
*『ミツバチと私』の作品紹介は、コチラ⇒2023年03月03日
*「Los destellos / Glimmers」の作品紹介は、コチラ⇒2024年07月30日
*「Nina」の作品紹介は、コチラ⇒2024年09月11日
*『フラワーズ』の主な作品紹介は、コチラ⇒2014年11月09日
*『代行教師』の作品紹介は、コチラ⇒2022年08月09日
*『サマ』の主な作品紹介は、コチラ⇒2017年10月13日
★大学ではなく修道女になりたいという若い女性の話は日本では分かりづらいが、監督によると本作のアイディアは、知人のお嬢さんがヒントになっているそうです。
第73回サンセバスチャン映画祭セクション・オフィシアル*SSIFF2025 ② ― 2025年07月24日 14:02
サンセバスティアンでデビューしたシネアストたちが戻ってきました

(SSIFF2025上映のスペイン映画一覧)
★第73回サンセバスチャン映画祭2025のノミネート作品が発表されました。まだスペイン映画に限定した部分的発表であり、全体像が見えてくるのはもう少し後です。金貝賞を競うセクション・オフィシアルには、ホセ・マリ・ゴエナガ&アイトル・アレギの「Maspalomas」、25年ぶりに戻ってきたホセ・ルイス・ゲリンの「Historias del buen valle / Good Valley Stories」、今回も脚本家ラファエル・コボスとタッグを組んでいるアルベルト・ロドリゲスの「Los Tigres」の3作品がノミネートされました。昨年は4作でしたが例年3~4作が選ばれています。情報に多寡がありますが、基本的なデータをアップしておきます。
*第73回SSIFFセクション・オフィシアル*
1)「Maspalomas」ホセ・マリ・ゴエナガ&アイトル・アレギ
データ:製作国スペイン、2025年、スペイン語、ドラマ、115分、撮影地カナリア諸島ラスパルマス、公開スペイン2025年9月26日
製作:Euskal Irrati Telebista(EiTB)/ ICAA / Irusoin / Maspalomas Pelikula /
Moriarti Produkzioak / RTVE
監督:ホセ・マリ・ゴエナガ(スペイン、オルディシア1976)、アイトル・アレギ(スペイン、オニャティ1977)の共同監督、脚本:ホセ・マリ・ゴエナガ、撮影:ハビエル・アギレ、編集:マイアレン・サラスア・オリデン、キャスティング:マリア・ロドリゴ、衣装デザイン:サイオア・ララ、製作者:アンデル・バリナガ・レメンテリア、シャビエル・ベルソサ、アンデル・サガルドイ
◎関連記事
*「Marco」の紹介記事は、コチラ⇒2024年09月03日
*「La trinchera infinita」の紹介記事は、コチラ⇒2019年12月20日
*『アルツォの巨人』の紹介記事は、コチラ⇒2017年09月06日
*『フラワーズ』の紹介記事は、コチラ⇒2014年11月09日
キャスト:ホセ・ラモン・ソロイス(ビセンテ)、ナゴレ・アランブル、カンディド・ウランガ、ソリオン・エギレオル、クリスティナ・イェラモス、ケパ・エラスティ
ストーリー:パートナーと別れた76歳のビセンテは、お気に入りのカナリア諸島のマスパロマスで人生を謳歌している。毎日太陽を浴び、思う存分娯楽三昧に浸っている。ところが予期しないアクシデントが彼をサンセバスティアンに引き戻すことになる。数年前からほったらかしにしていた娘と再会する。すでに解決されたと思っていた彼自身の隠された部分に再び直面しなければならない邸宅で暮らさなければならないだろう。この新たな状況のなかでビセンテは、他の人たちと仲直りする時間が未だあるかどうか自問することになるだろう。



2)「Historias del buen valle / Good Valley Stories」ホセ・ルイス・ゲリン
データ:製作国スペイン=フランス、2025年、ドキュメンタリー、スペイン語、122分、撮影地バルセロナ郊外バルボナ地区、配給元スペインWanda Visión、公開決定
製作:Los Ilusos Films(ホナス・トゥルエバ&ハビエル・ラフエンテ)/ Perspective Films(ガエル・ジョネス&ホセ・ルイス・ゲリン)
監督・脚本:ホセ・ルイス・ゲリン(バルセロナ1960)、ベルリン映画祭1984パノラマ部門にデビュー作「Los motivos de Berta」(『ベルタのモチーフ』)プレミア、第2作「Innisfree」(『イニスフリー』)がカンヌ映画祭1990「ある視点」プレミアされ、サンセバスチャン映画祭SSIFFサバルテギ部門上映、第3作「Tren de sombras」(『影の列車』)がカンヌ映画祭1997併催の「監督週間」プレミア、第4作ドキュメンタリー「En construcción」(『工事中』)がSSIFF 2001で審査員特別賞とFIPRESCI賞を受賞した。第5作「En la ciudad de Sylvia」がベネチア映画祭2007で上映、『シルビアのいる街で』で初めて公開された。2010年の「Guest」(『ゲスト』)はベネチアFFのオリゾンティ部門でプレミアされ、SSIFF サバルテギ・スペシャル部門で上映された。セビーリャ-ヨーロッパ映画祭2015で作品賞を受賞した「La academia de las musas」は、東京国際映画祭で『ミューズ・アカデミー』の邦題で上映された。当ブログで作品紹介をしています。
*『ミューズ・アカデミー』の紹介記事は、コチラ⇒2015年10月06日/同年11月24日
解説:バルセロナ郊外のバルボナ地区は、川、鉄道、高速道路によって周囲から孤立している。農村から都市への移行を生き、中心部では根絶された生活様式を保存している。スペイン内戦後にやってきた最初の移民の家と、ベッドタウンとして新たに移住してきたブロックが共存しており、この質素な一角を本物の地球村に変えました。本作は偏見、社会的な対立、世代とアイデンティティ、都市計画と環境保護の総和を語っていますが、今日の世界を冷静に人間味のある視点で描いている。移民人口の割合がかなり高いバルセロナのバルボナ地区で3年間にわたって撮影された。
★監督によると「この映画に登場する人々が経験する夢と葛藤は、世界中のいたる所に存在している。周縁部での生活は欠乏をはらんでいますが、それは中心部では消えてしまった独特なもの、抵抗の形態、生活様式を保存しています。それは映画製作者が構想する最も刺激的で野心的な挑戦です。質素であまり知られていない地域を描くことが全世界を映しだすことができる、つまり一枚の葉っぱを観察することで木全体の性質が明らかになるというのに似ています」と。



(ホセ・ルイス・ゲリン)
3)「Los Tigres」 アルベルト・ロドリゲス
データ:製作国スペイン=フランス、2025年、スペイン語、スリラー、109分、撮影地カディス湾に面したウエルバ港、アリカンテのスタジオ Ciudad de la Luz、2024年5月6日クランクイン、公開スペイン2025年10月31日、配給ブエナ・ビスタ・インターナショナル
製作:Movistar Plus+ / Kowalski Films / Feelgood Media / Mazagón AIE / Le Pacto(仏)
監督:アルベルト・ロドリゲス(セビーリャ1971)、監督、脚本家。本祭関係映画は、ニューディレクターズ部門ノミネートの「El traje」(02)、セクション・オフィシアルの「7 virgenes」(05『7人のバージン』)では主演のフアン・ホセ・バジェスタが銀貝男優賞を受賞した。「La isra mínima」(14『マーシュランド』公開)では、ハビエル・グティエレスが銀貝男優賞、アレックス・カタランが撮影賞、監督もフェロス・シネマルディア賞を受賞、翌年のゴヤ賞では作品賞を筆頭になんと10冠を制したヒット作になった。「El hombre de las mil caras」(16『スモーク・アンド・ミラーズ』)では、主演のエドゥアルド・フェルナンデスに銀貝賞のトロフィーをもたらし、ゴヤ賞では脚色賞を受賞した。「Modelo 77」(22)はコンペ外だったがセクション・オフィシアルのオープニング作品に選ばれている。
★またTVシリーズ「La peste」(17)と「Apagón」(22)も上映されており、今年もミニシリーズ「Anatomía de un instante」の上映が決定している。新作の脚本は今回も盟友ラファエル・コボスと共同執筆している。音楽:フリオ・デ・ラ・ロサ、撮影:パウ・エステベ・ビルバ、編集:ホセ・M. G. モヤノ
◎関連記事
*『マーシュランド』の紹介記事は、コチラ⇒2015年01月24日
*『スモーク・アンド・ミラーズ』の紹介記事は、コチラ⇒2016年09月24日
キャスト:アントニオ・デ・ラ・トーレ(アントニオ)、バルバラ・レニー(エストレーリャ)、ホアキン・ヌニェス、シルビア・アコスタ、セサル・ビセンテ、ホセ・ミゲル・マンサノバサロ”スコーン”、リカルド・ロッカ、ウルスラ・ディアス・マンサノ、カルロス・ベルナルディーノ、ホセ・ルイス・ラセロ、他
ストーリー:アントニオとエストレーリャは兄妹の物語。父親もダイバーでした。彼らは人生を通じて海と結びついています。アントニオはEl Tigre(タイガー)、無敵を誇る産業ダイバーとして仲間から一目置かれています。エストレーリャは海底生物を研究して海以外の陸にもつながっていますが、兄の働いているはしけ船で兄を手伝います。アントニオは本当に不器用な男で、将来のことはそっちのけ、生活はらくではありません。アントニオにアクシデントがおき、ダイバーとしての人生の終わりを告げられ、どん底に陥っている。しかしウエルバ港で沈没した石油タンカーの船体に隠されているコカインの密輸品を見つけることができれば、状況は好転するかもしれません。アントニオはそれに賭けることにしますが、エストレーリャは別の可能性を考えます。いつものことです。
★アントニオ・デ・ラ・トーレは、ロドリゲスの『マーシュランド』や『UNIT 7ユニット7麻薬取締第七班』(12「Grupo 7」)に出演している。バルバラ・レニーは初めてでしょうか。



(セクション・オフィシアルにノミネートされた監督)
★セクション・オフィシアル追加作品の発表がありました。アラウダ・ルイス・デ・アスアの「Los domingos」これで昨年と同じ4作品になりました。次回アップします。
アグスティン・ディアス・ヤネスの新作はNetflix*SSIFF2025 ① ― 2025年07月16日 10:49
「Un fantasma en la batalla」の主役は1990年代のETA潜入捜査官

★アグスティン・ディアス・ヤネスの新作「Un fantasma en la batalla / She Walks in Darkness」が、Netflix で配信されるニュースに接しデータを集めていたところにサンセバスチャン映画祭のノミネーション発表が飛び込んできました。まだスペイン映画に限定した部分的な発表ですが、アウト・オブ・コンペティション部門上映が決まったようです。セクション・オフィシアルのスペイン映画には、ホセ・マリ・ゴエナガ&アイトル・アレギのコンビがタッグを組んだ「Maspalomas」と、サンセバスチャンに25年ぶりに戻ってきたホセ・ルイス・ゲリンの「Historias del buen valle / Good Valley Stories」、アルベルト・ロドリゲスの「Los Tigres」の3 作がノミネートされていました。追い追いアップしていく予定です。
★アグスティン・ディアス・ヤネスの新作は、1990年代からおよそ10年間を、ETAバスク愛国主義のテロ組織に潜入して諜報活動をした若い治安警備隊員の実話に触発されて製作されました。1995年1月、サンセバスティアン市長選挙に国民党PPから立候補していたグレゴリオ・オルドーニェスが投票前日に暗殺される前から始まるようです。5年前からの構想ということで、今春クランクイン、フランス側バスクで撮影が開始されています。ヒロインのアマイアにスサナ・アバイトゥアが扮しますが、架空の人物です。ETAのテロリスト・グループに潜入した女性捜査官はアランサス・ベラドレ・マリン(偽名、本名はエレナ・テハダ)たった一人で、彼女をベースに人物造形をしたそうです。この女性潜入捜査官を主役にした、アランチャ・エチェバリアの「La infiltrada」ではカロリナ・ジュステが演じて、ゴヤ賞2025主演女優賞を受賞、エチェバリア監督もマルセル・バレナの「El 47」と作品賞を分かち合いました。
*「La infiltrada」の作品紹介記事は、コチラ⇒2025年01月15日

(スサナ・アバイトゥア、フレームから)
★製作スタッフは、『雪山の絆』を手掛けた、J. A. バヨナ、ベレン・アティエンサ、サンドラ・エルミダ、ラウル・ギベルトなどが全員集合しています。

(監督、製作者、メインキャストが勢揃い)
「Un fantasma en la batalla / She Walks in Darkness」
(邦題『そして彼女は闇を歩く』)
製作:Producción de Bayona / Netflix
監督・脚本:アグスティン・ディアス・ヤネス
撮影:パコ・フェメニア
音楽:アルナウ・バタリェル
美術:ハイメ・アンドゥイサ
プロダクションデザイン:アライン・バイネー
キャスティング:フアナ・マルティネス
衣装デザイン:サイオア・ララ
メイクアップ:ベアトリス・ブスタマンテ
製作者:J. A. バヨナ、ベレン・アティエンサ、サンドラ・エルミダ、ラウル・ギベルト
データ:製作国スペイン、2025年、スペイン語、歴史、政治サスペンス、テロリズム、105分、撮影地ギプスコア県、フランス領バスク地方イパラルデ Iparralde、スペイン公開10月3日、Netflix 配信10月17日が決定
映画祭・受賞歴:サンセバスチャン映画祭2025アウト・オブ・コンペティション上映
キャスト:スサナ・アバイトゥア(アマイア)、アンドレス・ゲルトルディクス(カストロ中佐)、イライア・エリアス(ベゴーニャ)、ラウル・アレバロ(アリエタ)、アリアドナ・ヒル(アンボト)、エドゥアルド・レホン、アントン・ソト(エタラ)、イニャキ・バルボア(ボリナガ)、エネコ・サンス(チェリス)、アンデル・ラカジェ(アンドニ)
ストーリー:若い治安警備隊員アマイアがETAテロ組織に潜入した約10年間が語られる。舞台は1990年代から2000年にかけての南フランスのバスク、アマイアのミッションはテロ組織が隠し持つ秘密兵器のアジト(スロス)を突き止めることでした。テロとの直接の闘いに関与し、スペインの歴史的、政治社会的文脈に根ざした捜査官たちの生活と経験に触発されて製作された。
★アグスティン・ディアス・ヤネス監督紹介:1950年マドリード生れ、監督、脚本家、作家。本作は7年ぶりの監督作品になる。本祭関連の映画として、1995年のデビュー作「Nadie hablara de nosotras cuando hayamos muerto」があり、審査員特別賞を受賞したほか、主役のビクトリア・アブリルが銀貝女優賞を受賞した。翌年のゴヤ賞でも8冠を制した。1997年『死んでしまったら私のことなんか誰も話さない』の邦題で劇場公開されている。

(アグスティン・ディアス・ヤネス)
★2001年「メイド・イン・スペイン」部門で2作目「Sin noticias de Dios」(『ウェルカム!ヘヴン』)、本作は当時のスペインで破格の製作費を費やして製作され、ペネロペ・クルス、ビクトリア・アブリル、ガエル・ガルシア・ベルナル、エルサ・パタキーなどが出演、撮影費の高いパリでも撮影された。そして2006年、ビゴ・モーテンセンをリクルートしたヒット作「Alatriste」は、ベストセラー作家アルトゥーロ・ペレス=レベルテの小説の映画化、2年後の2008年にはアブリル、新作出演のアリアドナ・ヒル、ピラール・ロペス・デ・アヤラ、エレナ・アナヤ、ディエゴ・ルナなどスターを起用して撮った「Solo quiero caminar」(『4人の女』DVD)、2017年「Oro」は、16世紀のアマゾン熱帯雨林に伝説の黄金都市を探し求めるアドベンチャー歴史ドラマ、ホセ・コロナド、オスカル・ハエナダ、新作出演のラウル・アレバロ、バルバラ・レニーなどが出演した。

(邦題『アラトリステ』の最後のシーン)
★当ブログ初登場のキャスト紹介:
*スサナ・アバイトゥア(バスク自治州ビトリア1990)、エレナ・タベルナの「La buena nueva」でトゥールーズ・シネスパニャ2008で新人女優賞受賞、ロドリゴ・ソロゴジェン「Stockholm」(13)、アンヘル・ゴンサレスのホラー「Compulsión」でタブロイド・ウォッチ賞助演女優賞受賞、アイトル・ガビロンドの「Patria」(20)でTVシリーズ助演女優賞ノミネート、ダニ・デ・ラ・オルデンの「Loco por ella」(21『クレイジーなくらい君に夢中』)、アラウダ・ルイス・デ・アスアのラブコメ「Eres tú」(23『だから、君なんだ』)、TVシリーズ「Farad」(23『華麗なるファラド家』8話)、サルバドール・カルボの「Valle de sombras」(23)、ダニ・ロビラと共演したイボン・コルメンサナの「El bus de la vida」(24)、マラガ FF2025コンペティションのダニエル・グスマン「La deuda」(25)など、ラブコメとシリアスドラマが演じられる若手女優。

*アンドレス・ヘルトルディクス(マドリード1977)、J. A. バヨナ『永遠のこどもたち』、最近ではホナス・トゥルエバの「Volvereis」、アバイトゥアと共演した「El bus de la vida」、アルベルト・モライスの「La terra negra」など出演のベテラン。マラガ映画祭2007短編部門「Verano o Los defecos de Andrés」で銀のビスナガ男優賞受賞、「Morir」でゴヤ賞2018主演男優賞ノミネート、2018年メディナ映画祭21世紀の俳優に選ばれる。

(アンドレス・ヘルトルディクスとスサナ・アバイトゥア、フレームから)
*イライア・エリアス(1980)、アシエル・アルトゥナの「Amama」でゴヤ賞2016新人女優賞とシネマ・ライターズ・サークル賞にノミネート、コルド・アルマンドスがサンセバスチャン映画祭2018でバスク映画賞イリサル賞を受賞した「Oreina / Ciervo」に出演している。

(イライア・エリアス、デビュー作「Amama」から)

(ラウル・アレバロ、フレームから)

(アリアドナ・ヒルとスサナ・アバイトゥア、フレームから)
◎関連記事
*イシアル・ボリャイン「Maixabel」の紹介記事は、コチラ⇒2021年08月05日
*TVシリーズ「Patria」の紹介記事は、コチラ⇒2020年08月12日
*ボルハ・コベアガ「Negociador」の紹介記事は、コチラ⇒2015年01月11日
ロス・ハビスの新作「La bola negra」にペネロペ・クルスが出演 ― 2025年07月04日 11:04
フェデリコ・ガルシア・ロルカの未完の小説 ”La bola negra” をベースに

(ハビエル・アンブロッシ、ハビエル・カルボ、グラナダの詩人ガルシア・ロルカ)
★5月19日、カンヌのイベントでロス・ハビスの新作「La bola negra」(スペイン=フランス合作)にペネロペ・クルスとシンガーソングライターのギタリカデラフエンテの出演が発表になりました。ハビエル・カルボ&ハビエル・アンブロッシ(通称ロス・ハビス)が、監督、脚本、製作する映画です。ロス・ハビスの制作会社「Suma Contento」とフランスの「Le Pacte」が製作し、パートナーに Movistar Plus+ が参画、販売権はフランスのGoodfellas が取得しました。2026年公開予定で劇場公開後にモビスター・プラスが独占ストリーミング配信します。

(ペネロペ・クルス)

(スクリーン・デビューをするギタリカデラフエンテことアルバロ・ラフエンテ)
「La bola negra」
製作:Suma Contento Films / Le Pacte / Movistar Plus+
監督:ハビエル・アンブロッシ、ハビエル・カルボ
脚本:ハビエル・アンブロッシ、ハビエル・カルボ、アルベルト・コネヘロ
音楽:ラウル・フェルナンデス・ミロ(ニックネーム ’リフリー’)
撮影:グリス・ホルダナ
編集:アルベルト・グティエレス
美術:ロジャー・ベレス
衣装デザイン:アナ・ロペス・コボス
メイクアップ:アンヘラ・センテノ、マリロ・オスナ
製作者:ハビエル・アンブロッシ、ハビエル・カルボ
データ:製作国スペイン=フランス、スペイン語、ドラマ、撮影地スペイン、8月クランクイン、12週間の予定、公開予定2026年、公開後Movistar Plus+ にて独占ストリーミング配信
キャスト:ペネロペ・クルス、ミゲル・ベルナルドー、ロラ・ドゥエニャス、カルロス・ゴンサレス、アルバロ・ラフエンテ・カルボ(ギタリカデラフエンテ)
解説:ガルシア・ロルカの未完の小説「La bola negra」と、アルベルト・コネヘロの戯曲「La piedra oscura」に触発されて製作された映画。三つの異なる時代(1933、1937、2017)を舞台に、三人のゲイの人生を織り交ぜ、セクシュアリティ、社会階級、宗教、欲望、痛み、遺産をテーマにして、スペインにおけるゲイとは何か、何を意味しているかを探ります。「私たちは、最大限の敬意をはらって、内省的な探求と歴史的研究の旅に出ます。今までは女性やトランスジェンダーの人々についての物語を綴ることで、クィアであることはどういうことか検証してきました。ゲイの男性を主役に据えた作品は今回が初めてです」と、アンブロッシはモビスター・プラスのプレゼンテーションで語った。

(Movistar Plus+ のプレゼンテーション、テレフォニカビル、1月22日)
★フェデリコ・ガルシア・ロルカ(グラナダ1898~1936)の「La bola negra」は、1936年、劇作家で詩人、舞台演出家のシプリアノ・リバス・チェリフに宛てて送った4ページにわたる小説。その年の8月18日にグラナダのアルファカルの道端で暗殺集団〈黒部隊〉によって銃殺された詩人は、永久に完成させることが叶わなかった。今回〈戯曲〉と紹介されている記事も目にしましたが、ロルカの最初にして最後の小説が正しいようです。リバス・チェリフ(マドリード1891~メキシコシティ2067)は、数ある〈ロルカ伝〉のどれにも度々登場する舞台演出家で、1934年の『イエルマ』をマドリードのスペイン劇場で初演している。フランスでナチに捕らえられた後、フランコ政府に引き渡され1945年釈放、1947年に家族でメキシコに亡命、彼の地で亡くなった。小説の主人公は裕福な家庭の息子、父親は信望のある会員制社交クラブに加入させようとしているが、それには一種の踏み絵があった。賛成なら白いボール bola blanca、反対なら黒いボール bola negra を投票箱に入れる。息子は結局加入しなかった。ゲイが原因で受け入れられなかった。
*「ロルカの死をめぐる謎」については、コチラ⇒2015年09月11日

(現在発表になっているポスター)
★アルベルト・コネヘロは、1978年アンダルシア州ハエン県ビルチェス生れの劇作家、王立演劇芸術学校で舞台演出と劇作法を学び、マドリードのコンプルテンセ大学博士課程卒。戯曲 “La piedra oscura”(2013刊)は、2015年に初演(60分)され、翌年演劇界の最高賞マックス脚本賞を受賞している。舞台はサンタンデール近くの陸軍病院の病室、出演者は互いに面識のなかった2人の入院患者(30代の砲兵大佐ラファエル、若い兵士セバスティアン)。ラファエルは1937年8月18日、サンタンデールの陸軍病院で25歳で亡くなったロルカの恋人ラファエル・ロドリゲス・ラプン、その最後の日々が語られる。ラファエルは知る由もないが、奇しくも1年前のロルカの命日に旅立っている。

(アルベルト・コネヘロ)

(戯曲 “La piedra oscura” の表紙)
★スタッフ紹介:ロス・ハビスは、TVシリーズ「La Mesías」(23)のスタッフを全員呼び戻したようです。それぞれ手掛けた作品のうち当ブログで作品紹介をしているものを追加しました。
ラウル・フェルナンデス・ミロ(音楽、「Un año, una noche」ガウディ賞、『二筋の川』)
クリス・ホルナダ(撮影、「Soy Nevenka」ゴヤ賞ノミネート、『リベルタード』ガウディ賞)
アルベルト・グティエレス(編集、『ホーリー・キャンプ!』「Casa en llamas」)
ロジャー・ぺレス(美術、『ホーリー・キャンプ!』『記憶の行方』)
アナ・ロペス・コボス(衣装、『シークレット・ヴォイス』『Madre』)
アンヘラ・センテノ(メイク、「Saben aquell」『レインボー』「Libertad」)
マリロ・オスナ(メイク、『パラレル・マザーズ』『誰もがそれを知っている』『ボルベール 帰郷』など)
*以上いずれも受賞歴のあるベテランです。
★キャスト紹介:ペネロペ・クルスやロラ・ドゥエニャスの紹介は不要ですが、二人とも原作には登場しない登場人物、どのように絡ませるのか、もう少し情報が欲しいところです。ロス・ハビスはクルスとのタッグは初めて、数週間前の初会合では「子供のときから映画館でしか見たことのなかった人」を目の前にして、かなり感動したようです。ドゥエニャスの演技力については「La Mesías」で体験済み、シンガーソングライター、ギタリスト、俳優のギタリカデラフエンテ(バレンシア州カステリョン県ベニカシム1997)は、今作が映画デビューと宣伝していますが、検索かけたらホアキン・マソンの「El casoplón」というコメディに出演していました(2025年4月公開)。まだクランインしていない映画ですので、後日纏めて紹介したい。
★ロス・ハビスは、「Pedro x Javis」(25、3話)というドキュメンタリーをMovistar Plus+ で製作したばかりです。既に配信されているようです。ペドロとはペドロ・アルモドバルのこと、他の出演者は、ロス・ハビス自身、アントニオ・バンデラス、カルメン・マチ、レオノール・ワトリング、ロッシ・デ・パルマ、作曲家アルベルト・イグレシアス、撮影監督ホセ・ルイス・アルカイネ、新作「La bola negra」出演のペネロペ・クルスやロラ・ドゥエニャスは勿論のこと、アルバロ・ラフエンテ、ラウル・フェルナンデス・ミロなどもクレジットされています。とにかく二人は、好き嫌いは別として、スペインでは話題提供のシネアストです。


(撮影中のハビエル。アンブロッシ、ペドロ・アルモドバル、ハビエル・カルボ)

(アントニオ・バンデラス、ロス・ハビス、後ろ向きはホセ・ルイス・アルカイネ)

(ロス・ハビス、ペネロペ・クルス、歌手アマイア・ロメロ)

(ビビアナ・フェルナンデス、ローレス・レオン、ロッシ・デ・パルマ)
★ハビエル・アンブロッシ(マドリード1984)とハビエル・カルボ(マドリード1991)のデビュー作『ホーリー・キャンプ!』(17)の紹介記事は、コチラ⇒2017年10月07日
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