ボルハ・コベアガの新作”Negociador”*2015年公開予告 ④2015年01月11日 22:41

 4弾*ETAのコメディ

17日にゴヤ賞2015のノミネーション発表があり中断しました。“La isla mínima17個(カテゴリーは16ですが、主演男優に2人ノミネーション)、『エル・ニーニョ』16個に、「ご冗談でしょ」と腰が引けてしまいましたが、なかには「何で?」「まさかぁ!」もあったり、短編では見るチャンスがなかったりもして、例年受賞よりもノミネーションそのものに不満が聞こえてきます。取りあえずNegociadorが済んだら気分を変えて「ラテンビート2015」なども視野に入れてニュースを更新していきます。 

   

                                                                                

                 (映画のワンシーンから)

★さて、ボルハ・コベアガってどんな監督なの。当ブログではエミリオ・マルティネス≂ラサロのコメディOcho apellidos vascosの脚本をディエゴ・サン・ホセと共同執筆した人として紹介しております。今年ゴヤ賞では5個ノミネーションされましたが、残念ながら脚本は選ばれませんでした。

 

    Negociador

製作Sayaka Producciones Audiovisuales

監督・脚本・プロデューサー:ボルハ・コベアガ

撮影:ジョン・D・ドミンゲス

編集:カロリーナ・マルティネス・ウルビナ

美術:リエルニ・イザギレ

衣装:レイレ・オレリア

プロデューサー(エグゼクティブ):ナヒカリ・イピニャNahikari Ipiña

データ:スペイン、スペイン語、201479分、ETAの悲喜劇、撮影地:サンセバスチャン/
    ビアリッツ/サンフアン・デ・ルス、スペイン公開
2015313

受賞歴:サンセバスチャン映画祭2014  サバルテギ部門上映、バスク映画賞イリサル Irizar賞受賞

 

キャスト:ラモン・バレア(マヌ・アラングレン)、ジョセアン・ベンゴエチェア(ジョキン)、カルロス・アセレス(パチ)、メリナ・マシューズ(ソフィー)、ラウル・アレバロ(ソフィーの恋人)、セクン・デ・ラ・ロサ(ボーイ)、サンティ・ウガルデ(ボディガード)、オスカル・ラドレイ、ゴルカ・アギナガルデ、ジュリー・ダクキン、他

 

      

   (左から、カルロス・アセレス、ラモン・バレア、ジョセアン・ベンゴエチェア)

 

プロット:バスクの政治家マヌ・アラングレンの物語。2005年、アラングレンはスペイン政府とETAとの「平和プロセス」の難しい交渉に立ち合っていた。もう黒ネクタイをしめて友人知人の告別式に出席するのは終りにしたいと思っていたからだ。しかし会談はプロフェッショナルな形式に基づいたプロセスとはほど遠く、意見の相違、誤解、偶然に強く左右されがちでなかなか進展しなかった。ただ交渉人たちの個人的な関係だけは明るい結末を得るために損なわないようにしていたのだが・・・

 

★事実に着想を得て作られたフィクションだが、実在のモデルが存在するということです。ですからコメディといってもテーマがテーマだけに辛口の悲喜劇のようです。ラモン・バレア扮する主役のマヌ・アラングレンのモデルは、ヘスス・マリア・エギグレン(1954年ギプスコア生れ)、法学者で政治家、現在はバスク大学の法学部教授。舞台背景となる200506年は、バスク社会党(Partido Socialista de Euskadi-Euskadiko Ezkerra PSE-EE)の党員だった。コベアガ監督は「平和を取り戻そうとする主人公の夢に惹かれる。エギグレンの熱意がエタを終わらせた。ラモン・バレアが映画に息を吹き込んでくれたんだ。エギグレンのオピニオンを知ることができて満足している。ドキュメンタリーで撮ることは考えていなかったし、フィクションで少しも支障は感じなかった。だって彼を批判したりからかったりする意図は全くなかったからね、その反対だよ」と。

 

            

         (ETAとの交渉についての著書を手にしたエギグレン)

 

ジョセアン・ベンゴエチェアのモデルは、ホセ・アントニオ・ウルティコエチェア・ベンゴエチェア(1950年ビスカヤ生れ)だが、ホス・テルネラのほうが知られている。テロ組織ETAの歴史に残る代表的な指導者の一人だった。199010月、武器の不法所持や偽造身分証明書利用の廉で10年の刑を受けている。2011年アメリカはテロリスト名簿に載せているが、詳しい現況は分かっていない。カルロス・アセレスのモデルは、バスク分離独立ITAの元リーダー、ハビエル・ロペス・ペニャ、別名「ティエリー」(1958年ビスカヤ生れ)。休戦協定を台無しにした張本人。20085月、ボルドー潜伏中に逮捕されフランスで服役中だったが、2013330日、心臓障害で治療を受けていたパリの病院で脳溢血のため死去している。

 

               

           (ボルドーで逮捕されたときの「ティエリー」)

 

★この交渉は結果的には失敗するわけですが、だからといって無駄だったわけではなく、20134月、エギグレンは平和と和解に寄与したとして「ゲルニカ賞」を受賞している。コベアガ監督は書籍、新聞記事、ドキュメンタリーを徹底的に精査して脚本を作り上げたと語っています。実際の会談では「何が話し合われ、どう推移したのか、何を食べ、飲み物は何を飲んだのか」。彼はこの平和プロセスの厳粛さを取り除いて自由に夢想しているようです。つまり「交渉のプロセスを描くストーリーではなく、その副次的な側面や家庭を取りまく細部について語った物語です。政治的な会談に集中したくなかった」とサンセバスチャン映画祭で語っています。

 

                    

               (ボルハ・コベアガ監督

 

ボルハ・コベアガ Borja Cobeaga Eguillor 1977年サンセバスチャン生れ、監督、脚本家、製作者。脚本家としてキャリアをスタートさせる。監督デビューはPagafantas”(2009、ゴヤ賞新人監督賞ノミネート)2作目No controles”(2010、本作が3作目です。TVシリーズ、短編多数、うち2002年“La primera vez”がゴヤ賞ノミネート、2007年“Eramos pocos”がオスカー賞スペイン代表作品にノミネート、2014年“Democracia”がナント映画祭で短編映画賞を受賞している。エミリオ・マルティネス≂ラサロの“Ocho apellidos vascos”の続編をディエゴ・サン・ホセと共同執筆中、今春クランクインが予告されている。