本命か”La isla minima”17個*ゴヤ賞2015ノミネーション ⑥ ― 2015年01月24日 21:22
銀貝賞、フォルケ賞作品賞、アルベルト・ロドリゲス
★作品賞最後の紹介はアルベルト・ロドリゲスの第6作“La isla mínima”です。ノミネーション17個とやたら数が多いが、何個くらい受賞できるのだろうか(カテゴリー的には主演男優賞に2人ノミネーションだから16です)。おおよそ『エル・ニーニョ』と競合しているから仲良く半分こするのか(笑)。監督賞、撮影賞、脚本賞は狙っているでしょうね。まだキャストが決まらない2013年夏から記事にしているので、個人的思い入れも大きくて冷静な判断できない。

★『7人のバージン』(2005)を「ラテンビート2006」で見て以来、第4作“After”(2009)、第5作“Grupo 7”(2012)と、ずっと気になっていた監督です。特に“Grupo 7”は実話に着想を得たフィクション、ゴヤ賞2013の話題作でしたが、不運にも対抗馬が『インポッシブル』と『ブランカニエベス』という大作に対抗できませんでした。しかし興行成績は『インポッシブル』には遠く及びませんでしたが、『ブランカニエベス』を倍以上引き離して映画界に貢献しました。今回ノミネーション17個は以下の通り:
*“La isla mínima”*
作品賞:Antena 3 Films(ミケル・レハルサ他)/Atipica Films(ホセ・アントニオ・フェレス)/
Sacromonte Films(ヘルバシオ・イグレシアス)
監督賞:アルベルト・ロドリゲス
脚本賞:ラファエル・コボス/アルベルト・ロドリゲス
編集賞:ホセ・M・G・モヤノ
撮影賞:アレックス・カタラン
オリジナル作曲賞:フリオ・デ・ラ・ロサ
プロダクション賞:マヌエラ・オコン
衣装デザイン賞:フェルナンド・ガルシア
メイク・ヘアメイク賞:ヨランダ・ピーニャ
美術賞:ペペ・ドミンゲス・デル・オルモ
特殊効果賞:ペドロ・モレノ/フアン・ベントゥラ
録音賞:ダニエル・デ・サヤス/ナチョ・ロヨ≂ビリャノバ/ペラヨ・グティエレス
主演男優賞:ラウル・アレバロ/ハビエル・グティエレス
助演男優賞:アントニオ・デ・ラ・トーレ
助演女優賞:メルセデス・レオン
新人女優賞:ネレア・バロス
データ:スペイン、スペイン語、2014、スリラー、105分 撮影地セビーリャ他、配給:ワーナー・ブラザーズ・ピクチャー、2015年興行成績600万ユーロ(約100万人)、スペイン公開9月26日、DVD発売2015年1月23日
受賞歴:サンセバスチャン映画祭2014、審査員最優秀撮影賞(銀貝賞)アレックス・カタラン/最優秀男優賞(銀貝賞)ハビエル・グティエレス/Feroz
Zinemaldia 賞アルベルト・ロドリゲス
フォルケ賞2015、最優秀作品賞、最優秀男優賞(ハビエル・グティエレス)
キャスト:ラウル・アレバロ(刑事ペドロ)、ハビエル・グティエレス(刑事フアン)、アントニオ・デ・ラ・トーレ(ロドリゴ)、ネレア・バロス(ロシオ)、メルセデス・レオン、ヘスス・カストロ(キニ)、ヘスス・カロッサ、サルバドル・レイナ、マノロ・ソロ(新聞記者)、セシリア・ビジャヌエバ(マリア)、フアン・カルロス・ビジャヌエバ(アンドラーデ判事)、アナ・トメノ、他
プロット:1980年、アンダルシア、グアダルキビール河沿いの低湿地帯。時が止まったような打ち捨てられた小村のお祭りの最中、二人の少女が行方不明になる。しかし誰も気に留めなかった、若者たちはみんなこの重苦しい村から出たがっていたからである。少女たちの母親ロシオは、地方判事アンドラーデが失踪事件に関心を示していることを知る。やがてマドリードの殺人課の刑事ペドロとフアンが派遣されてくる。性格も捜査方法も非常に異なっていたが、二人とも警察主要部との関係が上手くいっていなかった。この地域の主産業であるコメの刈入れ時で、農民たちのストが起こり不穏な空気につつまれていた。捜査は「沈黙の壁」と嘘の情報に困難を極めたが、次第に以前から若者の多くが行方不明になっていることが分かってくる。更に主産業がコメ以外に麻薬密売であることも明らかになってくる。ペドロとフアンは死の恐怖に直面しながらも、重要なことは犯人を上げることであった。

★以上のプロットから推察できるように、性格の異なる二人の刑事が事件の裏側から真相を突き止めていくアメリカの人気TVドラマ『トゥルー・ディテクティブ』“True Detective” シリーズを思い浮かべる人が多いかもしれない。マシュー・マコノヒーとウディ・ハレルソンのダブル主演、事件解決だけではなく、地方の町に潜んでいる日常的な深い闇を暴きだして、政治のみならず貧困、差別、汚職、麻薬取引などを描いて全米の話題作となっている。骨格が相似していますね。
★しかし、ロドリゲス監督によると、「2009年の数ヵ月、(共同執筆の)ラファエル・コボスとロベルト・ボラーニョの小説『2666』やジョン・スタージェスの『日本人の勲章』(1955米国)、ラディスラオ・バフダの“El cebo”(1958西独)などから着想を得て、フィルム・ノワールの共同執筆を考えていた」と語っています。ボラーニョの小説はメキシコのシウダー・フアレスの女性連続殺人事件をめぐる第4部「犯罪の部」、『日本人の勲章』は真珠湾攻撃を理由に日本人移民が人種差別で殺害される事件、スペンサー・トレイシーがアカデミー男優賞を受賞、吹替え版でテレビ放映もされた映画です。またバフタはハンガリー生れの監督ですが各国で映画を撮っており、これは西ドイツ映画、スイスの片田舎で少女が殺害される。(1942年にスペインに帰化、日本では『汚れなき悪戯』が公開されている。)いずれも孤立した地方の共同体で起きた陰惨な殺人事件の裏側を主人公が解明していくストーリー。
★「私とコボスはフィルム・ノワールと探偵小説の大ファンなんだ。1930~40年代を舞台にした映画ピラール・ミロとか“El cebo”のラディスラオ・バフタ、『日本人の勲章』などを見ていった。共に背景に社会政治的な内容の濃いスリラーで、これらは本作に大きな影響を与えています」と、サンセバスチャン映画祭のインタビューで語っています。ミロの作品は多分『クエンカ事件』などを指していると思う。外部からやってきたスペンサー・トレイシーが本作の二人の刑事に重なるわけです。監督はレイモンド・チャンドラーやマヌエル・バスケス・モンタルバンの推理小説の熱狂的なファンで、その影響が随所に現れているとも語っています。
★この映画には大きく分けて二つの視点がある、デモクラシーを支持する側の視点、フランコの旧体制を守ろうとする側の視点。スペインの1980年代というのは、いわゆる「民主主義移行期」にあたるが、都会と違ってアンダルシアのような地方のコミュニティは、40年代とあまり変わっていなかった、とセビーリャを舞台に映画を撮りつづけている監督は指摘している。また、セビーリャの写真家アティン・アヤAtin Aya*の展覧会で見たグアダルキビールの湿地帯で暮らす人々の素晴らしい写真に打たれたという。これも映画製作の大きな理由であった。
*1955年セビーリャ生れ(2007年没)、写真家。グラナダ大学で心理学、ナバラ大学で社会科学を専攻、1981年、マドリードのフォト・センターで写真を学んだ。1992年セビーリャ万博の正式に選ばれた写真家のメンバーだった。
監督賞:アルベルト・ロドリゲス Alberto Rodriguez Librero、1971年セビーリャ生れ、監督、脚本家。セビーリャ大学の情報科学部で映像と音響学を専攻、アマチュア・レベルのビデオを撮り始める。1997年、サンティアゴ・アモデオと3万ペセタで短編“Banco”を撮り、1999年に400万ペセタをかけ別バージョンで撮ったものが評価され15個の賞を受賞する。長編は以下の通り:
2000年“El factor Pilgrim” サンセバスチャン映画祭2000新人監督に与えられる審査員スペシャル・メンションを受賞
2002年“El traje”
2005年 “7 Virgenes” サンセバスチャン映画祭2005に正式出品、主演のフアン・ホセ・バジェスタが最優秀男優賞(銀貝賞)を受賞。(『七人のバージン』の邦題でラテンビート上映)
2009年“After” ローマ映画祭、トゥルーズ映画祭に出品
2012年“Grupo 7” フィルム・ノワール、 サンセバスチャン映画祭2012「メイド・イン・スペイン」上映、ゴヤ賞2013ノミネーション16個(受賞は2個)。
2014年 本作

★撮影賞:アレックス・カタラン、サンセバスチャン映画祭「審査員最優秀撮影賞」(銀貝賞)を受賞している。ロドリゲス監督のデビュー作を除いて5作品を専属的に手掛けている。最近の代表作は。イシアル・ボリャイン(『雨さえも~』)、フリオ・メデム(『ローマ、愛の部屋』)、ハビエル・フェセル(『カミーノ』)など。
*撮影は、2013年10月から11月にかけて行われた。この湿地帯には三つの島があり、その中で一番小さい島‘la isla mínima’が舞台となっている。クランクインの10月の昼間の気温は42度、11月下旬の夜間には零下4度にまで下がり、高温、乾燥、寒さ、おまけに都会にはいない虫の存在もスタッフ、キャスト両方を苦しめ、かなり過酷なものだったという。稲刈りなんかもしたらしい。セビーリャの中心地から30キロ南方の湿地帯で主に撮影された。水田地帯というのは春から夏にかけて緑一面に被われ、収穫時の秋には黄金色に染まる。このさびれた湿地帯、ジメジメした水田、河も登場人物の一つであるようだ。ドキュメンタリーの手法で撮られているが全くのフィクション、監督はサンセバスチャンでアレックスが評価されたことが「特に嬉しかった」と述べていた。

(登場人物の一つ、グアダルキビール河の低湿地帯)
主演男優賞:ハビエル・グティエレスJavier Gutiérrez :1971年、ガリシアのア・コルーニャ生れ、俳優、サウンドトラック、監督。2000年テレドラに出演、映画デビューはエミリオ・マルティネス≂ラサロの“El otro lado de la cama”(2002)。受賞歴は、2012年シリーズTVドラ“Aguila Roja”(2009~14)でスペイン俳優組合賞男優賞を受賞。本作によりサンセバスチャン映画祭2014最優秀男優賞、フォルケ賞2015最優秀男優賞を貰っているほか、フェロス賞及びシネマ・ライターズ・サークル賞にもノミネートされており、一番受賞に近い。俳優たちのセリフ、表情、視線、間の取り方に釘付けになった批評家も多く、中でもグティエレスの演技は飛びぬけていた由。酷暑の撮影中、疲れと脱水症状で倒れた甲斐がありました。その他代表作は以下の通り:
2004年“Crimen ferpecto”監督アレックス・デ・ラ・イグレシア
2005年“Torrente 3”同サンチャゴ・セグラ
2006年『スパニッシュ・ホラー・プロジェクト:ベビー・ルーム』同デ・ラ・イグレシア
2011年“Torrente 4”同サンチャゴ・セグラ
*ラウル・アレバロRaúl Arévalo は、1979年マドリード生れ、俳優。ダニエル・サンチェス・アレバロの『漆黒のような深い青』『デブたち』『マルティナの住む街』、イシアル・ボリャイン『雨さえも~』、アルモドバル『アイム・ソー・エキサイテッド』などでお馴染みの俳優、ゴヤ賞2010『デブたち』で助演男優賞を受賞している。本作でフェロス賞にもノミネートされており、コメディでの演技を嫌う向きも、今回は合格点をつけている。

(主役二人がノミネーション、グティエレスとアレバロ)
助演男優賞・同女優賞・新人女優賞:出番の少ない脇役連の演技が光っていると評判の3人、アントニオ・デ・ラ・トーレ、メルセデス・レオン、ネレア・バロスの評価が高く、揃ってノミネーションを受けた。
*アントニオ・デ・ラ・トーレは、マヌエル・マルティン・クエンカの『カニバル』(2013)ほか何回か紹介しているし、今回は受賞はないと思います。“Ocho apellidos vascos”のカラ・エレハルデの手に渡ると予想。
*メルセデス・レオンMercedes Leónは、コルド・イサギーレの“Amor en off”(1992)でデビュー、主にシリーズのTVドラに出演している。ゴヤ賞ノミネーションは初。
*ネレア・バロスNerea Barrosは、1981年、サンチャゴ・デ・コンポステラ生れ、女優。代表作としてハビエル・ベルムデスの“León y Olvido”(2004)、TVドラ“Matalobos”(2009~10)や“Volver
a casa”(2010)に出演、今回は失踪した少女の母親役です。1月25日発表の第2回フェロス賞助演女優賞にもノミネートされている。ゴヤ賞は初。このカテゴリーは予測が難しい、誰が取ってもおかしくないし、4人全員に挙げたいくらいです。

(夫婦役アントニオ・デ・ラ・トーレとネレア・バロス、映画から)

(メルセデス・レオン、映画から)
*脚本賞:共同脚本執筆のラファエル・コボスは“7 Virgenes”“Grupo 7”でも監督とタッグを組んでいる脚本家。今回は期待しているでしょう。
*関連記事・管理人覚え
“Grupo 7”紹介⇒2013年8月18日
“La isla mínima”予告記事 ⇒2013年8月20日
サンセバスチャン映画祭2014 ⇒2014年9月16日/9月30日
フォルケ賞2014 ⇒2015年1月14日
『カニバル』トロント映画祭⇒2013年9月8日
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