映画国民賞2023の受賞者はカルラ・シモン ― 2023年06月12日 15:58
『悲しみに、こんにちは』の監督、カルラ・シモンが映画国民賞を受賞

★去る6月1日、2023年度の映画国民賞の発表がありました。2017年のデビュー作『悲しみに、こんにちは』(「Verano 1993」カタルーニャ語)と、昨年の金熊賞受賞作「Alcarràs」(カタルーニャ語)のたった2作しか長編は撮っていないカルラ・シモン(バルセロナ1986)が受賞することになりました。いやはや驚きました。映画国民賞史上2番目の36歳という若さでの受賞、最年少は1995年度のカルメロ・ゴメス、前年のイマノル・ウリベの『時間切れの愛』の凄みのある演技が認められました。3番目が2013年のフアン・アントニオ・バヨナ監督の38歳、前年の『インポッシブル』の爆発的な興行成績や国際的な活躍が評価され、文句なしの受賞でした。傾向として受賞対象は前年度の活躍に焦点が当てられることが多い。因みに2022年ペネロペ・クルス、2021年ホセ・サクリスタン、2020年イサベル・コイシェ、2019年アントニオ・バンデラス、2018年ホセ・ルイス・ガルシ・・の順。

(デビュー作『悲しみに、こんにちは』オリジナルポスター)
★本賞は毎年文化スポーツ省が授与するため、フェルナンド・トゥルエバのように国からのご褒美はいっさい受け取りたくないと辞退する人が出て、恥をかきたくない政府は、それ以来発表前に一応打診してから発表することにしている(結果的にはトゥルエバも説得されてもらっている)。過去には2人のこともありましたが、原則1年1人、副賞は30.000ユーロと決して高額ではありませんが、ゴヤ賞より格上です。審査員は、今回は委員長ICAA総ディレクターのベアトリス・ナバス・バルデス、副委員長ICAAプロモーション、国際関係局次長カミロ・バスケス、委員にスペイン映画アカデミー会長フェルナンド・メンデス・レイテ、CIMA女性映画製作者・視聴覚メディア協会パトリシア・ロダ、ミリアム・ロレンソ、グレゴリオ・ベリンチョン、コルド・スアスア、などの映画監督、映画コラムニストが大勢で審査する。
★審査員は「世界で最もレベルの高い映画祭の一つベルリン映画祭金熊受賞により、スペイン映画を国際舞台に位置づけた」と評価した。文化省は「この賞は、物語と登場人物の構成における自然さと正確さが、社会問題を視点にしたリアリズムとフィクションを知的かつ厳密に調和させたことで、私たちの映画史のある道標となった。さらに私たちの社会と文化を特徴づけ豊かにする言語の多様性を調和の取れたかたちで組み入れている」という声明をだした。
★受賞の報を受けて「驚いた」というシモン監督、というのも「Alcarràs」の金熊賞受賞、オスカー賞スペイン代表作品など受賞歴を誇っていたにもかかわらずゴヤ賞は無冠だったからです。ゴヤ賞には作品・監督を含む11部門にノミネートされていた。各国ともアカデミー賞はアカデミー会員の投票で決定する。審査員はなく完全に民主的なはずです。会員はロドリゴ・ソロゴジェンの『ザ・ビースト』に投票した経緯があった。このゴヤ賞の件が国民賞に影響したどうか、やはり気になるところです。本賞の審査員が「どんな議論をしたか知る立場にないので、ゴヤのことが関係したかどうか分からない。いずれにせよ、私はそれが民主的なもと考えているし、それが映画を変えるものではない」とシモンはコメントしている。ゴヤ賞無冠の埋め合わせでないと信じたい。

(「Alcarràs」金熊賞のトロフィを手にした監督、ベルリン映画祭2022、2月16日)
★シモンが6歳のとき両親はエイズで亡くなり、新しい家族である叔父夫婦に引き取られる。デビュー作『悲しみに、こんにちは』(ゴヤ賞2018監督賞受賞)は、彼らとの生活に適応せざるをえなかった「1993年の夏」を描いた作品である。第2作「Alcarràs」も自伝的な要素が含まれた作品、ベネチア映画祭2022に出品された短編「Carta a mi madre para mi hijo」(25分、スペイン語)もマネルという小さい息子のいる母親への映画的なラブレターである。

(短編「Carta a mi madre para mi hijo」のポスター)
★ベネチアFF当時2ヵ月になった我が子マネルを妊娠中にスーパー8ミリで撮影された。監督自身も出演しているが、監督の非常に個人的な回想や映像、アンヘラ・モリーナ、セシリア・ゴメスが出演する架空のシーンで構成されたフィクションです。モリーナがマネルの祖母になるのだが、「私の母は自分が祖母になっていたことを知ることはないし、マネルもその祖母を決して知ることはない」とシモン。ベネチアには父親の腕に抱かれたマネルも一緒だった。彼女の尊敬するアンヘラ・モリーナが出演を受けてくれたことでスタートした。彼女がイメージする母親像に雰囲気が似ているということらしい。

(短編出演のアンヘラ・モリーナ)
★彼女の映画の中心軸は家族に絞られる。「両親について知ってることは殆どありません。叔父や祖父母を介しての話、写真、ビデオの断片、自宅の引き出しに保管している両親の私物から記憶のパズルを嵌めていく。エイズで亡くなったということで、事実を隠したり、それぞれが主観的な非常に異なったバージョンで情報を私に伝えた。それが私にフラストレーションを起こさせました。人生を通じて私が取りくんできたことは、いくつかの断片を搔き集めて何かを発明しなければならなかったのです」と語っている。
★次作「Romería」のテーマも家族が中心、「家族の思い出と、それにアクセスできなくなったときに何が起こるかについて少し語ります。これで私の家族三部作を完結させたい。新作の舞台は田舎ではないでしょう」ということです。また独立系の映画製作者について「新しい世代には共通点があって、非常に少ない資金で作り始めたということです。それが私たちに、何かを探したり、試したりする感覚を与えました。俳優の演技については、以前のスペイン映画を少し打破したものになっています」と。
★新世代の女性監督の輩出には目覚ましいものがあり、列挙するなら、『ザ・ウォーター』のエレナ・ロペス・リエラ、『リベルタード』のクララ・ロケ、『スクールガールズ』のピラール・パロメロ、『カルメン&ローラ』のアランチャ・エチェバリア、『家族との3日間』のマル・コル、「La novia」のパウラ・オルティス、「La hija de un ladrón」のベレン・フネスなど枚挙に暇がない。なかでもカルラ・シモンは「・・・非常に短期間に質の高い映画を世界中の観客に届けることに成功した新世代の代表でもある。間違いなく、彼女はスペイン映画が今経験している偉大な瞬間の基準となる一人です。同時に新型コロナウイルスのパンデミック後の困難な時期に映画館の開館を促進してくれた」と声明で審査員は強調した。つまりロングランで映画産業にも寄与したことが理由の一つだった。

(新世代シネアルト、エチェバリア、シモン、ロケ、フネス、パロメロ)
★映画国民賞の授与式は、サンセバスチャン映画祭2023(9月16日~27日)の会期中に、文化スポーツ大臣によって手渡されるのが恒例になっています。
*『悲しみに、こんにちは』の作品紹介は、コチラ⇒2017年02月22日
*「Alcarràs」の作品紹介は、コチラ⇒2022年01月27日
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