J.A.バヨナの次回作はTVシリーズ『指輪物語』*ニュージーランド監禁 ― 2020年04月21日 11:54
アマゾンプライムのTVシリーズ『指輪物語』撮影のためニュージーランド滞在
★スペイン国民の85%が「現政権ペドロ・サンチェス首相の新型コロナ・ウイリス対策の取組の遅れが今日のパンデミアの原因」と考えており、59%が「より厳しい自宅監禁」を支持している。3月14日から学校は休校、850万人の子供たちは家に幽閉されている。大人は飼犬の散歩、スーパーへの買出しなどで外出できるが子供は禁止されているようで、子供の反乱がいつ起こってもおかしくないようだ。というわけで4月27日(月曜)から、1日30分、責任ある大人の付き添いがあれば外出が許されることになった。他の人との間隔を1メートル50センチあけ、勿論マスク着用、公園のブランコなどに乗っては行けませんという厳しいものです。東京の日曜日の公園の混雑を見たスペイン在住の日本人は、ただ一言「怖ろしい」と。本当に恐ろしいです。
★フアン・アントニオ・バヨナ(J. A.バヨナ、バルセロナ、44歳)は、現在アマゾンプライム・ビデオによって製作されるTVシリーズ『指輪物語』撮影のためニュージーランド北島の最大都市オークランドの郊外に監禁されています。全部で5シーズンという大掛りな企画だそうです。最初のテレビ作品ではありませんが、『永遠のこどもたち』や『インポッシブル』、『怪物はささやく』など映画作品の多くを手掛け成功させていることは周知のことです。第1シーズン全8話のうち今回は最初の2話を撮ったようです。
(『指輪物語』のポスター)
★監禁とは言っても、弟、義妹、12歳になる姪たちと一緒に、見えるのは森や牛だけという家で過ごしている。いつものようにチームにはカタルーニャ映画視聴覚上級学校ESCACの卒業生が多数参加している。一部はスペインがロックダウンする前に帰国したスタッフもいれば、バヨナのように撮り終えたフィルムの編集などに専念しながら留まっている人もいる。感染者、死者急増のバルセロナに住んでいる両親や二人の姉妹(一人は保健所職員)とは頻繁に電話連絡をとり、両親とは「1日に2回も無事を確認しあっている」と笑いながら語ったようです。今回のエル・パイス紙による監督インタビューはスカイプで行われたが、以下はQ&Aそのままでなく内容を主に映画に絞って管理人が再構成したものです。列挙した映画タイトルは邦題にし、監督名と製作年を追加しておきました。
(オークランドに滞在中のJ. A.バヨナ監督)
★山と森に囲まれた安全な家にいる反面、故郷から遠く離れていることの苦痛を味わっているようです。「酷い政治家の対応にも拘わらず国民が耐えていることに感銘を受けている」とも語っている。選挙の度に議席を延ばしている極右政党VOX*は身内に敵意を抱いている「カイン主義ポピュリズム」と批判している。また「カタルーニャ自治州政府が採用している活動は、独立目標を強化するための偽装の意図があり、国家が組織的にやっている仕事と矛盾していることにも悩まされている」と。
* 極右政党VOXボックスは、不法移民、同性婚反対、カタルーニャ自治州の自治権剥奪などを掲げる政党。2019年11月10日行われた議会再選挙で52席を獲得、社会労働党、国民党に次ぐ第3政党に躍り出ている。
★インタビュアーの「ファンタジーやホラーは撮っているが、パンデミア映画はない。それは現実が映画を超えているからか」と質問され、「すべてが変わってしまった。映画はファンタジーから疫病の蔓延に焦点を合わせてきている。『ワールド・ウォーZ』(13、マーク・フォースター監督)、『28日後・・・』(02、ダニー・ボイル)、『SF/ボディ・スナッチャー 』(78、フィリップ・カウフマン)などです。おもしろいことに、スティーブン・ソダーバーグがリアリズム手法で描いた『コンテイジョン』(11)は、いま世界で起きている病気とよく似ている。数日前まではSFだったことが現実になっている。当時はパンデミアが現実になるという可能性を想定しないで製作していた。いかに心の準備がないままであったかを示しており、学ぶことが多かった」と。
*最新ニュースによると、アメリカ監督協会DGAは、所属会員が仕事を再開するさいの安全対策を検討する特別委員会のトップに、『コンテイジョン』のソダーバーグを任命したそうです。
★『コンテイジョン』は今見たら恐ろしいくらいコロナとよく似ている。ウイルスは中国発、コウモリからブタに感染、ブタ肉を料理した料理人から次々に感染していく。映画の鑑賞法も変わらざるを得ない。いくら映画は映画館でといわれても映画館は閉まっている。映画は最初に禁止されたが、開館は最後になる可能性が高い。「このウイルスはお金持ちも貧乏人も選びませんが、誰もが自分自身を平等に守ることができるわけではありません。私たちには公衆衛生が必要です。将来福祉国家の縮小を目指す政策が間違いであることを忘れないで欲しい」と福祉予算削減に警鐘を鳴らしていますが、これは世界的成功にも驕らず謙虚な監督の人柄をよく表しています。
★今、どんな映画を楽しんでいるか訊かれて、「一人のときはオーソン・ウェルズのフィルムノワール『ストレンジャー』(46、未公開、邦題はビデオ)や、ヒッチコックの『海外特派員』(40、1976年公開)を上げていました。12歳になる姪御さんとはトランプに興じたり、子供向けの古典『我は海の子』や『いまを生きる』などを見ている由、前者は1937年のキプリングの小説 ”Captains Courageous”(1897、邦訳『ゆうかんな船長』)をヴィクター・フレミングが映画化した。邦題は同年公開されたときのもので、その速さに驚く。後者は1989年ピーター・ウイアーが監督し、ロビン・ウィリアムズが主演した。
*バヨナ監督のキャリア&フィルモグラフィ紹介は、コチラ⇒2018年03月24日
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