ブラジル映画「Benzinho」が金のビスナガ*マラガ映画祭2018 ⑰ ― 2018年04月30日 17:31
ブラジル中流家庭の或る一面を切り取った映画

★今年はブラジルから2作ノミネートされ、その一つウルグアイとの合作、グスタボ・ピッツィの長編第2作「Benzinho」が、イベロアメリカ部門の作品賞「金のビスナガ」を受賞した。ピッツィ監督は目下TVミニシリーズ撮影中で来マラガできなかったが、製作者を代表して参加したウルグアイの共同プロデューサー、アグスティナ・チアリノが金のビスナガのトロフィーを受け取りました。サンダンス映画祭2018でワールドプレミア、続いてロッテルダム映画祭、スウェーデンのヨーテボリ映画祭、ウルグアイのプンタ・デル・エステ映画祭などに出品された後、マラガにやってきました。ブラジル中流家庭の日常、新居の購入、息子の自立、母親の子離れの難しさをコメディタッチで描く。いずれにしろ子供は親の知らないうちに大人になってしまうのです。

(トロフィーを手に喜びのスピーチをする製作者アグスティナ・チアリノ)
「Benzinho」(「Loveling」)2018
製作:Bubbles Project / Baleia Films / Mutante Cine / TvZERO
監督・脚本・製作者:グスタボ・ピッツィ、脚本クレジットはグスタボ・パッソス・ピッツィ
脚本(共):カリネ・テレス、レイテ・デ・ソウサ・ピッティ
撮影:ペドロ・ファエルステイン
音楽:ダニエル・ロランド、ペドロ・サー、マクシミリアノ・シルベイラ
編集:リビア・セルパ
美術:ディナ・サレム・レヴィ
衣装デザイン:ディアナ・レステ
メイクアップ:ビルヒニア・シルバ
製作者:タティアナ・レイテ(エグゼクティブ)、ロドリゴ・レティエル、アグスティナ・チアリノ(ウルグアイ)、フェルナンド・エプステイン(ウルグアイ)
データ:製作国ブラジル=ウルグアイ、ポルトガル語、2018年、コメディ・ドラマ、98分、撮影地リオデジャネイロ近郊のペトロポリス。サンダンス、ロッテルダム、ヨーテボリ、プンタ・デル・エステ、マラガ、各映画祭2018正式出品。マラガ映画祭イベロアメリカ部門の作品賞受賞作品、ブラジル公開8月23日。配給New Europe Film Saes
物語:イレーニとクラウスが結婚したのは随分前のことだ。イレーニは38歳になりクラウスと言えば45歳になった。二人は4人の息子とリオデジャネイロの近郊ペトロポリスに住んでいる。子供が大きくなり狭くなった、おまけにガタのきた家から出たいと思っている。それで夫婦で一生懸命働き数年がかりで新居を建てようと夢をふくらませている。イレーニはハイスクールの卒業証書をもらうための勉強のかたわらセールスの仕事をしている努力家だ。一方クラウスは既に斜陽になったコピーショップを経営、書籍の販売もしているが転職を目論んでいる。16歳になる長男のフェルナンドはハンドボールの有力選手で、シーズンのハイライトの後、ドイツのプロチームからオファーをうけた。嬉しいニュースには違いないが、家族に微妙なさざ波が、特にイレーニが動揺しはじめた。自慢の息子フェルナンドとこんなに早く離れて暮らすとは考えてもいなかった。巣立ちするには早すぎる、新居には彼の部屋も用意していたのだ。もう少し後のはずだったのに間もなくドイツに行ってしまうのだ。フェルナンドのいない新しい生活に順応しなければならない。子供は知らないうちに大きくなってしまうのだ。
ブラジルの観客は社会的階級を反映した映画を見る習慣がありません。
★今回映画祭にはウルグアイ側の製作者アグスティナ・チアリノだけが来マラガした。監督はTVミニシリーズの撮影に入ってしまって出席できなかったということです。プレス会見では「フレッシュで飾らない日常を描いた映画には価値があるのですが、ブラジルの観客には、このような社会的階級を反映した映画を見る習慣がありません」とコメント。これはどこの国にもいえることです。物語が身近すぎるから平凡に感じてしまうのです。カンヌやベルリンで評価されても変わりありません。

(一人で来マラガしたアグスティナ・チアリノ、プレス会見、4月19日)
★また「脚本を共同執筆した監督と主役イレーニを演じたカリネ・テレスは、実生活では夫婦ですが、彼らのビオピックではありません。双子の兄弟を演じた子役は夫妻の実の子供ですから、勿論ストーリーには家族のエッセンスが流れ込んでいます」ということでした。それで撮影中は実生活と映画の線引きがややこしかったこともあったようです。「今のママはどっちなの?」というわけです。

(双子の兄弟と次男ロドリゴ、映画から)

(家族揃って参加したロッテルダム映画祭2018)
*監督キャリア&フィルモグラフィー*
★グスタボ・ピッツィGustavo Pizziは、1977年ペトロポリス生れ、監督、製作者、脚本家。リオデジャネイロのフルミネンセ連邦大学UFF映画科卒。2006年ドキュメンタリー「Preterito Perfeito」を撮る。2010年、長編デビュー作「Riscado」(英題「Craft」)は、XAXW映画祭2011でワールドプレミアした。その後40か所以上の映画祭で上映された。同2010年、共同で監督した短編「A Distração de Ivan」では製作も手掛け、カンヌ映画祭と併催の「批評家週間」に出品されている。2012年、ドキュメンタリー「Oncoto」を撮る。本作「Benzinho」が長編第2作目になる。TVシリーズの脚本を執筆、現在TVミニシリーズ「Gilda」の撮影中で来マラガできなかった。

(長編デビュー作「Riscado」のポスター)

(グスタボ・ピッツイ=カリネ・テレス夫妻、2010年ごろ)
★イレネ役のカリネ・テレスは、1978年、監督と同郷のペトロポリス生れの39歳、女優、脚本家、製作者。映画、TVシリーズ、舞台で活躍している。監督長編デビュー作「Riscado」に出演している。ペトロポリスは本作の撮影地、監督が生れ故郷を舞台に選んだのは、子供のころ過ごした好きな町だからです。夫役のオタヴィオ・ミュラーは、1965年リオデジャネイロ生れ、映画にTVにと出演キャリアの長いのベテランです。

(イレネとクラウスの夫婦、映画から)

(イレネとソニア役のアドリアナ・エステベス、映画から)

(ハンドボールの選手フェルナンド役のコンスタンティノス・サリス、映画から)
★出演者は、第1作に出演した俳優が多く、スタッフも重なっている印象でした。ウルグアイのもう一人のプロデューサー、フェルナンド・エプステインは、フアン・パブロ・レベージャ&パブロ・ストールの共同監督「25 Watts」や、公開された『ウィスキー』、同じくフェデリコ・ベイロフ『アクネACNE』やアドリアン・ビニエス『大男の秘め事』、最近ではパラグアイ映画ですが、ベルリン映画祭2018のマルセロ・マルティネシ「Las Herederas」など話題作を手掛けています。ウルグアイは小国で市場も限られているので、隣国アルゼンチンやブラジルとの合作が多い。個人的には金のビスナガを受賞するとは考えておりませんでしたが、もしかするとブラジル映画祭にエントリーされるかもしれません。
*「Las Herederas」の記事紹介は、コチラ⇒2018年02月16日
* 第15回ラテンビート2018上映が決定、邦題は『ベンジーニョ』
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