「ある視点」にアルゼンチンから二人の女性監督*カンヌ映画祭2017 ⑦2017年05月14日 16:15

          デビュー作「La novia del desierto」がノミネーション

 

 

2番目にご紹介するのが、アルゼンチンの二人の女性監督セシリア・アバレリア・ピバト長編デビュー作La novia del desiertoです。アルゼンチン=チリ合作、『グロリアの青春』でブレークしたチリのパウリナ・ガルシアとアルゼンチンのクラウディオ・リッシがタッグを組んだようです。本作はカメラ・ドールの対象作品でもあります。昨今のチリ映画界の躍進は、アルゼンチンに劣らず目覚ましいものがありますが、いずれも合作ですが「批評家週間」のLos perrosLa familiaを加えて3作に、当ブログでは受賞した場合だけアップしている短編Selva(ソフィア・キロス・ウベダ)があります。本作はまだ予告編さえアップされておりませんが、ブエノスアイレスからアルゼンチン北西の州サン・フアンへ、チリとの国境沿いまで砂漠を横切って旅をする一種の<ロード・ムービー>のようです。ここでもラテンアメリカ映画に顕著なテーマ「移行」が語られるようだ。

 

 

 (左から、ピバト、リッシ、アタン、製作者エバ・ラウリア、Pantalla Pinamar20173

 

La novia del desierto(カンヌでは英題The Desert Bride2017

作:Ceibita Films / El Perro en la Luna / Haddock Films

   協賛Flora Films de Florencia Poblete(サン・フアン州のプロデューサー)

監督・脚本・共同プロデューサー:セシリア・アタン&バレリア・ピバト

撮影:セルヒオ・アームストロング

編集:アンドレア・チニョーリChignoli

音楽:レオ(ナルド)Sujatovich

プロダクション・デザイン:マリエラ・リポダス

プロダクション・マネージメント:フアン・デ・フランチェスコ

録音:パブロ・ブスタマンテ、マウリシオ・ロペス、他

衣装デザイン:ベアトリス・ディ・ベネデット、ジャム・モンティ

プロデューサー:エバ・ラウリア、アレホ・クリソストモ、、ラウル・リカルド・アラゴン、

        バネッサ・ラゴネ

 

データ:アルゼンチン=チリ、スペイン語、ドラマ、85分、撮影地ブエノスアイレス州、サン・フアン州、撮影期間1120日から1216日、カンヌ映画祭2017「ある視点」正式出品&カメラ・ドール対象作品、アルゼンチン公開10月予定

資金援助:アルゼンチンINCAAのオペラ・プリマ賞、チリのCNCAオーディオビジュアル振興基金、第66回ベルリナーレ共同製作マーケット、トゥールーズの製作中の映画プログラムに参加して、フランスのCNCの奨学金を得る。

 

キャスト:パウリナ・ガルシア(テレサ)、クラウディオ・リッシ(エル・グリンゴ)、マルティン・スリッパック

 

物語:ブエノスアイレスで住み込みの家政婦として働いていた54歳になるテレサの物語。何十年も家政婦という決まりきった仕事に埋没していたテレサだが、雇い主が家を売却することになり行き場を失ってしまった。ブエノスアイレスでは次の雇い主を見つけることができず、サン・フアン州の新しい家族のもとで働くことを受け入れる。旅の道連れもなく砂漠の危険な旅に出発するが、奇跡を起こすという「ディフンタ・コレア」のある最初の宿泊先で、彼女は一切合財が入っていたバッグを失くしてしまった。テレサはある行商人と旅を共にすることになるが、彼は途方に暮れたテレサに助けの手を差し伸べてくれた唯一人の人物だった。旅の最後にはテレサにも救いが待っているのだろうか。

 

    

    (テレサ役のパウリナ・ガルシアとエル・グリンゴ役のクラウディオ・リッシ

 

★長年住み込み家政婦として働いてきた身寄りのない女性の心の救済がテーマのようです。この映画で重要な「Difunta Correa」(今は亡きコレア)について、少し説明が必要だろうか。「ディフンタ・コレア」とは、今でもアルゼンチン人の信仰を集めている伝説上の女性デオリンダ・アントニア・コレアのことである。サン・フアン州バジェシートVallesitoに礼拝堂があり、願いをする人、願いを叶えてもらった多くの人々が巡礼に訪れている。このバジェシートの伝説「ディフンタ・コレア」に着想を得て作られた本作には、サン・フアン州の人々がエキストラとして多数参加しているそうです。

  

デオリンダはサン・フアン州アンガコで、夫クレメンテ・ブストスと小さい息子の3人で暮らしていた。しかし内戦の嵐が吹き荒れ、夫は隣州ラ・リオハで戦うため1840年ころ強制的に徴兵されてしまった。ラ・リオハを進軍中のゲリラ兵に無理やり捕らえられ、デオリンダも辛い日々を送っていた。夫との再会を願って探しに行こうと決心する。渇きと空腹に耐えて歩き続けたが、山の気候の厳しさやサン・フアンの砂漠の過酷さに耐えきれずに命を落としてしまった。近くを通った子供たちが赤ん坊の泣き声が聞こえるというので村人が行ってみると、母親は死んでいたが赤ん坊はお乳を吸っていた。これは奇跡だと近くのバジェシートに礼拝堂を建てて母親を手厚く埋葬し、今は亡きコレアDifunta Correa」と名付けて、「ディフンタ・コレア」と書かれた十字架の付いた花束を飾った。この奇跡が口から口へ延々と語り継がれ、今日でも巡礼者で賑わっている。大体こんなお話ですが、他にも多数のバージョンがあるようです。

 

  

  (花束に埋まった母親ディフンタ・コレアとお乳を飲んでいる赤ん坊、サン・フアン州)

 

★奇跡を願う人々は古今東西、なくなることはありません。キリスト教と共存しながら伝説や神話は絶えることなく生き続けています。「ディフンタ・コレア」は砂漠のオアシスとしての役目もあるのかもしれません。本作で目立つのが監督を含めて女性シネアストの活躍です。それにアルゼンチンとチリ両国のスタッフが交じり合って担当していることです。例えば、衣装デザインのベテラン、ベアトリス・ディ・ベネデット(ルシア・プエンソの『ワコルダ』のデザイナー)やプロデューサーのエバ・ラウリアバネッサ・ラゴネはアルゼンチン人、撮影はラライン映画(『ザ・クラブ』『トニー・マネロ』『ネルーダ』など)を手掛けているセルヒオ・アームストロングと編集のアンドレア・チニョーリ(ララインの『トニー・マネロ』や『NO』アンドレス・ウッドの『ヴィオレータ、天国へ』など)はチリ人です。圧倒的にアルゼンチン人ですが、主役にはチリのパウリナ・ガルシアを据えています。

 

★セバスティアン・レリオの『グロリアの青春』13)で受賞できる賞の全てを手に入れた感のパウリナ・ガルシアは、女優の他、監督、劇作家としても活躍しています。EFEのインタビューによれば「長い間、私たちの国はアジェンデとピノチェトの対立により政治的条件が厳しく、他の国との合作映画など考えられなかった。チリでは経済力のある階級の人々は文化に対する理解が十分とは言えない。だから映画に携わる人の生活は恵まれていないのです」と、合作映画に出演できた喜びを語るガルシア。「まだ夜が明けたばかり、民間分野とアーティストたちの交流を図るための公的政策が足りないのです」とも。今年のカンヌには出席する予定だが、「チリとフランスの関係は非常に長い歴史をもっている。たくさんのアーティスト、製作者、監督が1970年代にはパリで暮らしていた。それでフランス映画のプロフェッショナルな人々との繋がりは強いのです」と、確かにそうですね。「批評家週間」ノミネートの「Los perros」や「La familia」を含めると、50人くらいの関係者が今年のカンヌに行くそうです。

 

      

            (サン・フアンの荒れ地にたたずむテレサ)

 

二人の監督紹介

バレリア・ピバトValeria Pivato は、アルゼンチンの監督、脚本家、プロデューサー。フアン・ホセ・カンパネラのEl hijo de la noviaのアシスタント監督やキャスティング、同Luna de Avellaneda『瞳の奥の秘密』のスクリプト、パブロ・トラペロの『檻の中』にアシスタントの共同監督に参加、テレドラも手掛けている。本作で長編デビューを果たした。他にウォルター・サーレス、ミゲル・ペレイラ、フアン・ソラナスなどとコラボしている。

  

セシリア・アタンCecilia Atánは、1978年ブエノスアイレス生れ、監督、脚本家、プロデューサー、女優。監督としては2012年短編El marやテレドラも手掛けている。アシスタントや助監督としての経歴は長い。アルベルト・レッチのNueces para el amor2000)にアシスタント監督として参画、同作はハバナ、カルタヘナ、ビニャ・デル・マル各映画祭で作品賞を受賞した話題作。他ホセ・ルイス・アコスタのNo dejaré que no me quierasなど、スペインとの合作映画もある。また五月広場の母親たちのドキュメンタリーMadres de Plaza de Mayo, la historiaを撮っている。他にエクトル・ベバンコ、アレハンドロ・アグレスティなどともコラボしている。 

    

              (セシリア・アタンとバレリア・ピバト)

 

★カンヌが近づくにつれ情報が入ってきましたが、例えば、どうしてヒロインにアルゼンチンではなくチリの女優を選んだか、主要登場人物にシニアを設定したのはなぜか、アイデアの誕生など少しずつ分かってきましたが、今回はとりあえずこれでアップしておきます。 

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