『盲目のキリスト』 チリ映画*ラテンビート2016 ⑤2016年10月06日 11:47

           社会的不公正を描く宗教的な寓話

 

クリストファー・マーレイ『盲目のキリスト』は、既にベネチア映画祭とサンセバスチャン映画祭「ホライズンズ・ラティノ」にEl Cristo ciego原題でご紹介しています。しかしデータ不足で簡単すぎましたので、IMDbの情報も含めて仕切り直しいたします。ラテンビートの作品紹介によると、主人公の名前が「ラファエル」となっておりますが、ベネチア、サンセバスチャン両映画祭のカタログ、IMDbによると「Michael」です。Michaelカナ表記をどうするか悩ましいのですが、ただ一人のプロの俳優、主人公役のマイケル・シルバが「この映画では、配役名は全員自分の名前を使用した」と語っておりますので、目下のところは「マイケル」でご紹介しておきます。(Michaelの綴り字を用いる代表国は、英語マイケル、独語ミハエル、ラテン語ミカエル。異なる綴り字では西語ミゲル、伊語ミケーレ、仏語ミシェルなど)

 

   

 

『盲目のキリスト』“El Cristo ciego(“The Blindo Jesus”)

製作:Jirafa(チリ)/ Ciné-Sud Promotion(フランス)

監督・脚本:クリストファー・マーレイ

撮影:インティ・ブリオネス

音楽:Alexander Zekke

編集:アンドレア・チグノリ

美術:アンヘラ・トルティ

メイクアップ:パメラ・ポラク

セット・デコレーション:エウへニオ・ゴンサレス

製作者:ブルノ・ベタッティ(エクゼクティブ)、ペドロ・フォンテーヌ(同)、フロレンシア・ラレラ(同)、ホアキン・エチェベリア(同)、他

 

データ:製作国チリ=フランス、スペイン語、2016年、85分、撮影地チリ北部のラ・ティラナ、ピサグア他、撮影期間5週間

映画祭・受賞歴:ベネチア映画祭2016正式出品、サンセバスチャン映画祭2016「ホライズンズ・ラティノ」部門出品、29回トゥールーズ映画祭「Cine en Construcción」参画作品

 

キャスト:マイケル・シルバ(マイケル)、アナ・マリア・エンリケス(アナ・マリア)、バスティアン・イノストロサ(バスティアン)、ペドロ・ゴドイ(ペドロ)、マウリシオ・ピント(幼馴染み、マウリシオ)、他現地のエキストラ多数 

 

    

                 (映画から)

 

解説ラ・ティラナの村で父親と暮らす整備工マイケルは30歳、砂漠のなかで神の啓示を受ける。しかし誰にも信じてもらえない。それどころか村人は気が触れたと相手にしなくなった。そんなある日のこと、子供のころからの親友が遠くの村で事故にあい苦しんでいるという知らせが届く。彼はすべてを投げうち、父を残して裸足で巡礼の旅に出る決心をする。やがて奇跡が起き友人を助けることができた。この噂は鉱山会社で働く採掘者や麻薬中毒者の関心を呼び、彼をチリ北部の砂漠の過酷な現実を和らげてくれるキリストのようだと噂した。都会の経済的繁栄から打ち捨てられた貧しいチリの人々の、社会的不平等からくる痛苦をドキュメンタリータッチで描く宗教的寓話。移り変わる厳しい自然も登場人物の一人となっている。

     

  監督キャリア&フィルモグラフィー

クリストファー・マーレイChristopher Murrayは、1985年、チリのサンチャゴ生れ、監督、脚本家。チリの「クール世代」と呼ばれるニューウェーブの一人(マーレイ、マーレー、マレー、マリィと表記はまだ一定していない)。長編映画デビューは、パブロ・カレラと共同監督したManuel de Ribera10)、スプリト国際映画祭(ニューフィルム)特別賞を受賞した。本作が第2作目となるが単独としては初めてである。他に2012年、高い評価を受けたドキュメンタリーPropagandaを送り出している。チリでは“Propaganda”の監督と紹介されていた。2011年より構想していた『盲目のキリスト』では、御多分にもれず「資金提供をしてくれる製作会社の門戸を叩いて回った」と語っている。「これはある地方に特有なことではなく、どこでも起きる物語、現実と神話、あるいはドキュメンタリーとフィクションをミックスさせた映画、人々がパンパの現実を知ることができるだろう」とも語っている。

 

 

          (クリストファー・マーレイ監督)

 

★舞台となったラ・ティラナは、北から2番めのタラパカ州(州都はイキケ)タマルガル県、タマルガル・パンパの小村。監督によると、最初のアイデアは「チリのキリスト」だったが、実際に現地の人々と接するうちに変化した。だからドアをオープンにして都会からやってきた監督を受け入れてくれた「この地域の人々とのコラボです」とベネチアで語っていた。大勢のエキストラを含めて、主人公マイケルを演じたシルバ以外の出演者はすべてこの地域でスカウトした由。「ずっと何週間も砂漠で撮影に熱心に協力してくれた村人たちを思い出すと感無量」、「パンパをテーマにした映画ではあるが、パンパは荒涼としているだけでなく、語る価値のある非常に豊かな人間味あふれる映画に寄与してくれた」と監督。

 

★イエス・キリストをめぐる映画だが、監督自身は特別熱心に信仰しているわけではなく「魅せられている、それは宗教の背後に人間的な性質や現実が存在するから」で、常に神話の起源はどこからくるのかを自問自答している。「しばしば人間は突然何か不足しているという考えに襲われる。ある時はそれが地域性のある政治的不正に起因していることにあると気づく。私は、歴史や物語を語ることが現実以上に意味をあたえることができると確信している。これはそれを探す映画です」と監督。

 

スタッフ&キャスト紹介

★エクゼクティブ・プロデューサーのブルノ・ベタッティは、クリスチャン・ヒネメスのデビュー作『見まちがう人たち』、『ボンサイ―盆栽』『ヴォイス・オーヴァー』(3作とも東京国際FF上映)、セバスチャン・シルバ『マジック・マジック』、パトリシオ・グスマン『真珠のボタン』にも共同参画している。同じくペドロ・フォンテーヌは、アレハンドロ・フェルナンデス・アルメンドロス『殺せ』、“Aqui no ha pasado nada”、フロレンシア・ラレラはセバスチャン・シルバ『クリスタル・フェアリー』、ホアキン・エチェベリアは初めてである。重要な役割を果たしているという音楽監督のAlexander Zekkeはロシア出身の作曲家、実験的な要素をもつ本作に深い意味を持たせているという。社会的問題の多い多国籍企業がはき出す鉱山汚染、環境破壊は、鉱夫たちの健康を損ねている現実があるようです。高い評価の撮影監督のインティ・ブリオネスは、『殺せ』、“Aqui no ha pasado nada”などで確認済みでしょうか。



    (『殺せ』の監督アレハンドロ・フェルナンデス・アルメンドロスの新作)


★主人公を演じたマイケルシルバLBFFミカエル)は主人公と同世代の29歳、2014年にアビガイル・ピサロと結婚した。チリのTVミニシリーズSudamerican RockersZamudioで人気を博した。またパブロ・ララインの「ネルーダ」にアルバロ・ハラ役で出演している。本作では、選ばれた預言者イエスとして不毛の砂漠を巡礼するマイケルを演じた唯一人のプロの俳優。「一緒に仕事をした俳優は、今までのプロとはちょっと違っていた」「クリストファーはミニマリズムの監督」だとベネチアで語っていた。観客はマイケルの手に導かれて神秘的な旅に出掛けていくことになる。ラテンアメリカ映画に特有な〈移動〉が、ここでもテーマになっているようです。

 

 

       (監督とシルバ、ベネチア映画祭にて)

 

ラテンビート10月15日(土)13:30上映後に監督によるQ&Aの予定。

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