新人監督賞『トガリネズミの巣穴』3個*ゴヤ賞2015ノミネーション ⑧ ― 2015年01月30日 17:47
新世代の監督たちが輩出した年でした!
★カルロス・サウラがフェロス賞栄誉賞受賞の折りに「新しい世代が育って、スペイン映画の未来は明るい」と述べたように、昨年は新人監督の活躍が際立った年でした。マラガ映画祭2014の大賞受賞者は全て新人監督がゲットしました。その折りサウラも旧作『従姉アンヘリカ』が「金の映画賞」を受賞するので来マラガしていたから新世代にエールを送ったのかもしれない。サウラにとって彼らは孫世代ですからね。新人監督賞ノミネーション4作品は以下の通り、(3)以外は当ブログに登場しています。
1)カルロス・マルケス≂マルセCarlos Marqués-Marce “10.000 km”
(マラガ映画祭2014⇒4月4日&4月11日)
2) フアンフェル・アンドレス&エステバン・ロエル Juanfer Andrés y Esteban Roel
“Musarañas”『トガリネズミの巣穴』(トロントFF2014⇒8月13日、LB 2014⇒10月22日)
3)クーロ・サンチェス・バレラCurro Sánchez Varela “Paco de Lucía: La búsqueda”
4)ベアトリス・サンチス Beatriz Sanchís “Todos están muertos”
(マラガ映画祭2014⇒4月11日、トロントFF2014⇒8月13日)
◎フアンフェル・アンドレス&エステバン・ロエル
★ラテンビート2014のスクリーンで見た作品ということで贔屓目もありますが、『トガリネズミの巣穴』がトップを走っているのではないでしょうか。
“Musarañas”(Shrew’s Nest)2014 スリラー・ホラー 95分
*ノミネーション3個は、新人監督賞、主演女優賞(マカレナ・ゴメス)とメイク・ヘアメイク賞(ペドロ・ロドリゲス、カルメン・ベイナト、他)です。エグゼクティブ・プロデューサーにアレックス・デ・ラ・イグレシア、カロリーナ・バングという有力布陣でニュース・バリューもあり、各紙のコラムニストも好意的。トロント映画祭2014「バンガードVanguard」 部門でワールド・プレミア、続いてスペインのシッチェス・ファンタジック映画祭正式出品、ラテンビートがアジアン・プレミアでした。
★新人監督賞:二人とも本作が長編デビュー作、二人は共にマドリードの映画研究所の受講生。彼らの短編“036”(2011)は、Youtube で200万回のアクセスがあり数々の賞を受賞した。本作は上述したようにデ・ラ・イグレシアがファンタジー、スリラー、ホラーと才能豊かな若い二人に資金援助をして製作された。カロリーナ・バングはデ・ラ・イグレシアの異色ラブストーリー『気狂いピエロの決闘』(2010)に曲芸師として出演、本作にも脇役で登場。短編“036”出演が機縁でプロデューサー・デビューした。
(左から、エステバン・ロエル、フアンフェル・アンドレス)
★主演女優賞:マカレナ・ゴメスMacarena Gomez:1978年コルドバ生れ、女優。デ・ラ・イグレシアの『スガラムルディの魔女』に出演、狂気の「マドリードの魔女」を演じた。スパニッシュ・ホラーには欠かせない存在になっている。未公開だが、ミゲル・マルティのコメディ・ホラー“SexyKiller, morirás por
ella”(2008)が『セクシー・キラー』の邦題でDVD化された。本作は「ブリュッセル・ファンタジー映画祭」ペガサス観客賞を受賞、マカレナ自身もスペイン俳優組合賞にノミネートされた。その他、アントニア・サン・フアンの監督第2作コメディ“Del lado del verano”(2012)では主役タナに起用された。「14歳のとき女優になろうと決心した。先輩女優の演技から学ぶことが多く、特にベロニカ・フォルケから影響を受けている」と語っている。私生活ではミュージシャンのアルド・コマスと結婚、今夏ママになる予定。
(マカレナ・ゴメス、映画から)
プロット:広場恐怖症のモンセ(マカレナ・ゴメス)の物語。1950年代のマドリード、母親が出産したばかりの赤ん坊を残して死んでしまうと、臆病な父親(ルイス・トサール)は耐えきれなくなって蒸発してしまう。モンセは不吉なアパートから一歩も出られず、父と母と姉の3役を背負って青春を奪われたまま、義務感から洋服の仕立てをしながら赤ん坊を育てていた。苦しみから主の祈りとアベマリアの世界に逃げ込んで、今では一人の女性に成長した妹(ナディア・デ・サンティアゴ)を通して現実と繋がっている。ある日のこと、この平穏の鎖が断ち切られる。上階の隣人カルロス(ウーゴ・シルバ)が不運にも階段から落ち、唯一這いずってこられるモンセの家の戸口で助けを求めていた。誰か特に若い男がトガリネズミの巣に入ってしまうと、たいてい二度とは出て行かれない。
★多くの批評家が、1960年代のマリオ・バーヴォ『血ぬられた墓標』(1960)との類似性を指摘している。イギリス女優バーバラ・スティールがヒロインを演じた伝説的なイタリアン・ゴシック・ホラー映画。また、ナルシソ・イバニェス・セラドールの第1作“La residencia”(1969)、ドン・シーゲルの『白い肌の異常な夜』(1971)を思い起こさせるという人も。さしずめイーストウッドがカルロス役のウーゴ・シルバというわけです。マカレナは、ホセ・ルイス・ボラウがマヌエル・グティエレス・アラゴンと撮ったスパニッシュ・ホラー“Furtivos”(1975)の主演女優ローラ・ガオスが演じた恐ろしい母親とも比較されてもいる。本作はサンセバスチャン映画祭の「金貝賞」受賞作品。しかし、なんといっても似ているのは、ロブ・ライナーの『ミザリー』(1990)です。モンセの複雑な動きをする心理は、キャシー・ベイツ扮するアニーにそっくり。彼女は本作でアカデミー主演女優賞に輝いたが、それに倣ってマカレナも狙えるか、やはり“Magical Girl”のバルバラ・レニーでしょう。
◎カルロス・マルケス≂マルセ
★春4月に開催されるマラガ映画祭の大賞を独占した作品ですが、ゴヤ賞は、どうしてもアカデミー会員の記憶が薄れてしまいますから、苦戦すると思います。それでゴヤ賞狙いは秋開催のサンセバスチャンに焦点を合わせるわけです。
*“10.000 KM”のノミネーション3個は、新人監督賞、新人女優賞、新人男優賞。
マラガ映画祭2014の作品賞「金のジャスミン賞」受賞作品。カルロス・マルケス=マルセが最優秀作品賞(金賞)、最優秀監督賞、最優秀新人脚本賞(共同執筆者クララ・ロケ)、ナタリア・テナが最優秀女優賞、他にFNACから批評家特別賞(マラガは作品賞以外はすべて銀賞です)を受賞。他にガウディ賞2015のカタルーニャ語以外の部門に作品賞、監督賞、男優賞、女優賞などがノミネーションされている。発表は間もなくの2月1日です。
プロット:アレックスとセルジの二人はバルセロナで恋に落ち一緒に暮らしていたが、今は別々のアパートで孤独な一人暮らしだ。写真家のアレックスはロスアンゼルス、セルジはバルセロナ。アレックスがロスの奨学資金を貰って1年間の予定でアメリカに発ってしまったからだ。親になることも凍結した二人の会話はすべてインターネット越し、果たして10,000キロ離れた愛の行方は?
★カルロス・マルケス=マルセ Carlos Marqués-Marce は、バルセロナ生れの30歳、監督、脚本家、製作他。本作が長編第1作。短編多数、IMDb では2010年の“I’ll Be Alone”から掲載されておりますが、それ以前から撮っている。アッバス・キアロスタミとビクトル・エリセがコラボで指導しているバルセロナの映画学校に参加。スペイン最大手の貯蓄銀行ラ・カイシャLa Caixa 財団の奨学資金を得て、アメリカのカリフォルニア大学ロサンゼルス校UCLAの映画&テレビ学部、監督学科のマスター・コースに留学、この時の体験が長編デビュー作に織り込まれている。ここで製作した前述の“I’ll Be Alone” がロスのラテンアメリカ映画祭、その他で上映されました。他に“Caraquemada”(2010)、“I Felt Like Love”(2013)、2012年の“The Yellow Ribbon” は各地の映画祭で受賞した。
(マルケス=マルセ監督、マラガ映画祭授賞式にて)
* La Panda のメンバー(動物のパンダではなくグループの意味)。ロスに在住しているスペイン人11名(監督、製作者、脚本家、撮影監督、編集者など)が参加している。このグループとの出会いが刺激となって本作は誕生した由。EU加盟後のスペインは、英語を学ぶのが主流、若い世代は英米を目指すようになりましたが、長編デビュー作は「絶対スペイン語で撮りたかった」と監督。
★新人女優賞:ナタリア・テナは、1984年ロンドン生れのイギリス人、イギリス育ちの女優、歌手だが、両親がスペイン系でスペイン語が堪能。クリス&ポール(兄)・ワイツ兄弟の『アバウト・ア・ボーイ』(2002)で映画デビュー、もう「ハリーポッター」のニンファドーラ・トンクス役でお馴染み。またジョージ・R・R・マーティンのファンタジー小説『氷と炎の歌』をテレビドラマ化したシリーズ『ゲーム・オブ・スローンズ』にオシャOcha役で出演。オースティンのSXSW映画祭2014で女優賞受賞。
★新人男優賞:ダビ・ベルダゲルは、1980年、バルセロナ生れ、俳優、脚本家。2001年よりシリーズTVドラマでデビュー、マル・コルの『家族との3日間』(2009、東京国際女性映画祭タイトル)に脇役で映画出演、本作が2作目となり、オースティンのSXSW映画祭2014で男優賞受賞。カルメ・プチェの短編コメディ“Etiquetats”(2012)に脚本を共同執筆、出演もした。
(ナタリア・テナとダビ・ベルダゲル、映画から)
◎ベアトリス・サンチス
* “Todos están muertos” (ドイツ≂メキシコ≂スペイン)のノミネーション2個は、新人監督賞と主演女優賞。マラガ映画祭2014の審査員特別賞受賞作品、他に最優秀女優賞にエレナ・アナヤ、オリジナル・サウンドトラック賞にAkrobats が受賞、マラガ大学が選ぶ青年審査員特別賞も受賞。
プロット:若いころポップ・ロック歌手として輝かしい成功をおさめていたルぺの15年後が語られる。彼女の人生に過去のある幻影が忍び寄ってくる。一方、ちょうど思春期を迎えたテーンエイジャーの息子パンチョとの関係がぎくしゃくしてイライラが募ってくる。
★新人監督賞:ベアトリス・サンチスBeatriz Sanchís、監督、脚本家、アート・ディレクター。エレナ・アナヤとの5年間(2008~13)にわたるパートナー関係を解消して本作を撮った。2010年の短編“ Mi otra mitad”がワルシャワ映画祭にノミネート。
(ベアトリス・サンチェスとエレナ・アナヤ、マラガ映画祭授賞式にて)
★主演女優賞:エレナ・アナヤの紹介は省略、ペドロ・アルモドバル『私が、生きる肌』(2011)やフリオ・メデム『ローマ、愛の部屋』(2010)などで認知度バツグンだから。2012年「マラガ賞受賞者」でもある。
(エレナ・アナヤ、映画から)
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