アルゼンチンのコメディ『27夜』鑑賞記*SSIFF2025 ㉒2025年11月06日 16:19

       ダニエル・エンドレルの『27夜』ネットフリックスで配信開始

   

     

★第73回サンセバスチャン映画祭セクション・オフィシアル開幕作品、ダニエル・エンドレルの長編4作め「27 noches / 27 Nights」が『27夜』の邦題でストリーミング配信が始まりました。エンドレル監督はモンテビデオ生れのウルグアイ出身ですが、主にアルゼンチン映画で俳優として活躍しています。本作では脚本も手掛け、さらに主役マルタ・ホフマンを演じるマリル・マリニに振り回される司法調査官役で出演、三面六臂の大活躍です。今年はオリソンテス・ラティノス部門にノミネートされた3作め「Un cabo suelto」がオリソンテス賞(スペシャル・メンション)を受賞するなど大忙しでした。纏まった監督キャリア&フィルモグラフィー、キャスト紹介を後述します。

 

     

  (ダニエル・エンドレル、サンセバスチャン映画祭2025919日フォトコール)

 

 「27 noches / 27 Nights

製作:La Unión de los Ríos

監督:ダニエル・エンドレル

脚本:ダニエル・エンドレル、マルティン・マウレギ、アグスティナ・リエンド、

      マリアノ・リナス

原作:ナタリア・シトの小説Veintisiete noches202111月刊)

撮影:フリアン・アペステギア

編集:ニコラス・ゴールドバード

音楽:ペドロ・オスナ

録音:サンティアゴ・フマガリィ

メイク&ヘアー:マリサ・アメンタ

衣装デザイン:ロベルタ・ペスシ

製作者:アグスティナ・ジャンビ・キャンベル、サンティアゴ・ミトレ

 

データ:製作国アルゼンチン、2025年、スペイン語、コメディドラマ、108分、配給元ネットフリックス(ストリーミング配信1010日)、公開アルゼンチン109

映画祭・受賞歴:第73回サンセバスチャン映画祭セクション・オフィシアル開幕作品

 

キャスト:マリル・マリニ(マルタ・ホフマン)、ダニエル・エンドレル(レアンドロ・カサレス)、ウンベルト・トルトネーゼ(ベルナルド・ヒルベス)、フリエタ・ジルベルベルグ(アレハンドラ・コンデ)、カルラ・ペテルソン(マルタの長女ミリアム)、パウラ・グリンシュパン(マルタの次女オルガ)、エル・ルイサ・リベラ(家政婦デリア)、リカルド・メルキン(レアンドロの父親)、エゼキエル・ディアス(Dr. オルランド・ナルバハ)、ヘルマン・デ・シルバ(フリオ)、ロベルト・スアレス(カサレスの上司ボローニャ判事)、ロシオ・ムニョス(バネ/バネッサ)、マリアナ・ショード(Dra. グロリア・フスコ)、アレハンドラ・フレヒナー(マルタの精神科医ロトマン)、アラン・サバグ(クリニック所長)、他多数

 

ストーリー:風変わりで裕福な83歳になるマルタ・ホフマンの物語。マルタは認知症を患っていると主張する二人の娘たちの要請で突然精神科クリニックに入院させられる。一方、司法調査官レアンドロ・カサレスは、マルタが本当に病気なのか、それとも残された人生を単に自由奔放に生きたいためだけなのか調査するよう裁判所から派遣される。調査を始めたカサレスは、入院が保護行為のためというより、ただ母親の財産をコントロールしたいだけなのではないかと疑い始める。アルゼンチンの造形アーティストで作家のナタリア・コーエンが、2005年ピック病(前頭側頭型認知症)と誤って診断され、自分の意思に反して精神科クリニックに入院させられた実話に基づいて書かれたナタリア・シトのフィクション小説にインスパイアされている。

 

          「正気とは何か?」――奇行と狂気の境界線

 

A: 2005年のナタリア・コーエン事件の経緯は、彼女の娘たちが神経科医で急進市民連合党の議員でもあるファクンド・マネスの「ピック病を患っているという診断書」を添えて精神科クリニックに入院させた事案。その後の司法手続きにより、コーエンの健康状態が良好であると判断された。

B: 映画は退院後に直ぐ始まった自称アーティストたちを招いてのパーティ三昧や散財に業を煮やした娘たちが、再度の入院申立てをしたところから始まる。

   

   

            (ミリアム、マルタ、オルガ、母娘バトルの勝敗は?)

 

A: カサレスの調査とマルタの27日間に及んだ入院中のシーンが往ったり来たりするので、分かりにくいかもしれない。マルタの老化は否めないが、奇行と狂気は別、正常なのは冒頭で分かってしまうから、正気かどうかがテーマじゃない。

B: 高齢者の自立と尊厳、意思決定権、社会的偏見、壊れてしまった親子関係のドタバタが語られます。親の健康より相続できる財産の多寡を心配する子供たちは万国共通、国籍を問わない。

 

A: 自由を満喫している自称芸術家が、パトロンの援助を受けるのは正当なことだと豪語するブエノスアイレスでは、財産の目減りを怖れる相続者は生きた心地がしない。マルタの二人の子供たちも例外ではない。

B: 夫の死後、再婚もしかねないぶっ飛んだ母親とあっては、なまじ財産があるだけに娘たちにも同情する。背景には親子の対立、他人が母親の財産を横取りしているという不安や不満がある。認知症にして病院送りにするとはやりすぎです。

 

        ナタリア・シトの小説Veintisiete nochesに着想をえる

 

A: 前述したように2005年、メンドサ出身の造形アーティストで作家のナタリア・コーエン19192022)の身に降りかかった実話をもとにしている。精神分析医でもある作家のナタリア・シト(ブエノスアイレス1977)が、この実話に着想を得た小説Veintisiete noches2021年に上梓した。それを映画化したのが27 nochesです。小説とはいえ、作家は1年半がかりで約50人に取材した証言をもとに執筆したが、勿論取材拒否をした人もいた。

B: コーエンの享年は103歳、刊行時には存命していたことになるが、作家はモデル保護のため「サラ・カッツ」の偽名で登場させている。

   

     

 

              (原書と作家ナタリア・シト)

 

A: さらに映画では「マルタ・ホフマン」になり、その他の登場人物、娘たちや精神科医たちもすべて仮名のようです。特にピック病の診断書を提出したナルバハ医師など実名では名誉棄損になりかねない。取材拒否をした人です。

 

        ホフマン姉妹の正義 vs 母親マルタの意思決定権

 

B: 映画では今年のサンセバスチャン映画祭に監督と参加していたカルラ・ペテルソン1974)扮する気の強い長女ミリアムが主導権を握っているが、実際はダリの彫刻を盗み出していた妹クラウディア(映画ではオルガ)とその夫が主に画策して、看護師たちも加担していたという。

 

A: ミリアム役のペテルソンはTVシリーズのコメディ出演が多く、受賞歴もテレビに偏っているが、 サンセバスチャン映画祭2023でドロレス・フォンシが監督デビューした「Blondi」に共演している。本作では他人が母親に取り入って財産を横取りするので、日に日に目減りしていくのが耐えられない。ましてや再婚などされたら万事休すである。

B: 二言目に口にする「ママのためよ」が空虚に聞こえるが、子供のときから母親に愛されていないと思っていて、自由奔放に生きるマルタが許せない。夫婦仲もイマイチらしく幸せそうでない。

   

   

                    長女ミリアム役のカルラ・ペテルソン

 

A: ドイツのコンテンポラリーダンスの振付師で舞踊家のピナ・バウシュの経歴を調べて、マルタのお気に入りベルナルド・ヒルベスの作り話を突いたりして利口ぶりを発揮するのは、そちらの知識には不案内な調査員カサレスの鑑定結果を有利にしようとする作戦らしい。

B: 劇中アルゼンチン人の軽薄ぶりを随所に振りまき笑わせてくれる。ピナ・バウシュはパリではなくニューヨークのジュリアード音楽院ダンスコースで学んでいるからミリアムの言う通りかも。アルモドバルの『トーク・トゥ・ハー』に出演して日本でもファンは多い。

    

     

    (右から、カサレス役のエンドレル、ヒルベス役のウンベルト・トルトネーゼ)

 

A: TVシリーズでは、人気ラブコメ「Lalola」(200708)でブレイク、クラリン賞やマルティン・フィエロ賞を受賞しているベテランです。「Guapas」(14)では、マリル・マリニと共演している。一方、妹オルガを演じたパウラ・グリンシュパンの猫かぶりぶりが随所に見られて楽しめた。主に脇役が多いので出演本数は多いが、当ブログにアップしたディエゴ・レルマンのUFOを愛した男』ではテレビ局職員アリシア役を演じていた。

  

      

                     (次女オルガ役のパウラ・グリンシュパン)

 

B: 威勢のいいミリアムの陰に隠れているが、担保としてダリの彫刻をちゃっかり失敬している。自分のほうが賢いと思っている姉と、長女より優しく母親想いと勘違いしているマルタの両方を騙しているのが可笑しい。

A: 本作ではオルガが盗んだダリの彫刻をミキサーの空き箱に入れて返しにきたり、挙句落として折れた腕を接着剤でくっつければバレないとカサレスに言わせたり、ヒルベスに「ダリの作品など興味がないから盗むなどありえない」など、元の宗主国スペインをおちょくっている。「私は悪くない、悪いのはお前」というアルゼンチン気質がちりばめられている。ウルグアイ人監督は、常に上から目線のアルゼンチン人をチクチクやらずにいられない。

 

B: 肝心のマルタ役のマリル・マリニ(マル・デル・プラタ1940)は、当ブルグ初登場、モデルとなったナタリア・コーエンに見事に化けていた。

A: コンテンポラリーダンサーとして、アルゼンチンとフランスで人生のスタートをきる。1975年パリに居を移し、サミュエル・ベケット、ジャン・ジュネ、ユキオ・ミシマなどの舞台に立っている。映画はどれも未見ですが70年代からで、フランスではクレール・ドニとタッグを組んでいる。映画出演は今世紀に入ってからに限ると、代表作としてディエゴ・サバネスの「Mentiras piadosas」(08)に主演している。エンドレル監督と共演した「Los sonámbulos」は、オスカー賞2020のアルゼンチン代表作品になった。

 

     

    

     (モデルになったナタリア・コーエンとコーエンに化けたマリル・マリニ)

 

B: 演劇、映画、TVシリーズの受賞歴も多く、ナタリア・コーエンに負けず劣らずのキャリアです。加齢とともに評価が高くなるというのは、祖父母世代にこれほどチャンスは巡ってこないから、ハリウッドや日本では考えにくい。

 

A: カサレスの助手として資料調べや事情聴取に参加する、カサレスより有能なアレハンドラ・コンデ役のフリエタ・ジルベルベルグは、字幕入りで観られる女優の一人です。

B: ルクレシア・マルテルの2作め『ラ・ニーニャ・サンタ』の脇役でデビューしている。

A: ディエゴ・レルマンが主役に抜擢して撮った『隠れた瞳』が東京国際映画祭2010コンペティション部門にノミネートされた折り、監督と来日してQ&Aに参加している。翌年、銀のコンドル賞を受賞した。『人生スイッチ』にも出演、ダニエル・ブルマンの「El rey del Once」に新作でクリニック所長を演じたアラン・サバグとタッグを組んだ。

   

    

         (アレハンドラ・コンデ役のフリエタ・ジルベルベルグ)

 

B: ダニエル・エンドレル扮するもう一人の主役、真面目だが不器用、凝り性で調査に深入りしすぎて停職をくらう司法調査官レアンドロ・カサレス、マルタに翻弄されながらも最終的には信頼されていたらしく失業を免れる。マリル・マリニとは「Los sonámbulos」で共演している。

A: ウルグアイはブラジルとアルゼンチンに挟まれて「ボカディージョのツマ」などと揶揄される小国、ほとんどの俳優が市場の狭い自国だけでは食べていけないからアルゼンチンに出稼ぎに行く。エンドレルもダニエル・ブルマンの「アリエル三部作」の第1『救世主を待ちながら』でデビューしている。主人公アリエルはブルマン監督の分身と言われている。

  

    

         (弥次さん喜多さんのエンドレルとマリル・マリニ)

 

B: 第2部の『僕と未来とブエノスアイレス』、第3部は未公開の「Derecho de familia」でした。

A: 第2部でベルリン映画祭2004銀熊主演男優賞を受賞した。アドリアン・カエタノの犯罪スリラー『キリング・ファミリー』にレオナルド・スバラリアやアンヘラ・モリーナと共演、簡単なキャリア紹介をしています。また「アリエル三部作」についても「El rey del Once」で紹介しています。

 

B: 経歴をみると、建築家になりたかったのでウルグアイ建築大学で5年も学ぶが、かたわら演劇にのめり込み、さらにミュージシャンを目指したりしている。

A: 逡巡するカサレスのキャラクターに似ているところがある。結局俳優になったわけですが、それには1998年、ウルグアイでのブルマンとの出会いがあるのではないか。ウルグアイ製作の映画は少ないが、モンテビデオのシネマテークには格安のパスがあって世界の映画が見放題だったから、シネマニアの目は肥えていた。

 

B: エンドレルが主演したコメディ『25ワッツ』や『ウィスキー』を観た日本人は、ウルグアイ映画のレベルの高さにびっくりした。

A: フアン・パブロ・レベージャ&パブロ・ストールの名コンビ、国際映画祭での数々の賞に輝きながらもレベージャは2年後自死してしまった。エンドレルは『ウィスキー』に後に結婚することになったアナ・カッツと出演している。以後、両国で引っ張りだこになりラプラタ河を往復する人生が始まった。キャリア&フィルモグラフィーは以下に紹介しておきますが、既に70作を越えているので代表作品に限ります。

   

監督紹介:ダニエル・エンドレル(モンテビデオ1976)。司法調査官レアンドロ・カサレス役。映画、TV、舞台俳優、監督、脚本家、ユダヤ系ウルグアイ人、ウルグアイ建築大学で学ぶかたわら演劇活動にのめり込む。2007年、アルゼンチンの監督アナ・カッツと結婚したが、2018年離婚してしまった。国籍はウルグアイのみ、ブエノスアイレス在住だが取得していない。

フィルモグラフィーは主な作品に限ります(ゴチックが監督作品)

2000Esperando al mesias」『救世主を待ちながら』ダニエル・ブルマン、

  クラリン新人賞受賞

200125 Watts」『25ワッツ』フアン・パブロ・レベージャ&パブロ・ストール

  BAFICI男優賞受賞

2003El fondo del mar」ダミアン・シフロン、銀のコンドル賞主演男優賞ノミネート、

  リェイダ・ラテンアメリカFF男優賞

2004El abrazo partido」『僕と未来とブエノスアイレス』ダニエル・ブルマン、

  ベルリンFF銀熊主演男優賞、クラリン賞、銀のコンドル賞ノミネート

2004Whisky」『ウィスキー』フアン・パブロ・レベージャ&パブロ・ストール

2006年「Derecho de familia」ダニエル・ブルマン、スール賞、銀のコンドル賞ノミネート

2009Los paranoicos」ビアリッツFF男優賞、リマ・ラテンアメリカFF男優賞受賞

2010Fase 7」ニコラス・ゴールドバード、CinEuphoria賞主演男優賞受賞

2011Norberto apenas tarde」監督デビュー作、脚本

   BAFICIシグニス賞スペシャル・メンション、メキシコ市FF脚本賞受賞、

   イベロアメリカ作品銀のコンドル賞ノミネート他

2015El candidato」監督2作目、マイアミFF監督賞、ニューヨーク・ハバナFF脚本賞受賞

2017El otro hermano」『キリング・ファミリー 殺し合う一家』イスラエル・カエタノ

2019Los sonámbulos」パウラ・エルナンデス

2020El Prófugo」ナタリア・メタ、アルゼンチンのアカデミー賞助演男優賞ノミネート

2025Un cabo suelte」監督3作目、ベネチアFF観客賞ノミネート、SSIFFオリソンテス賞受賞

202527 noches」監督4作目、脚本、出演

 

『キリング・ファミリー 殺し合う一家』紹介は、コチラ20170220

El rey del Once」の作品紹介は、コチラ20160829

El Prófugo」の作品とエンドレル紹介は、コチラ20200227

 

キャスト紹介

マリル・マリニ(マル・デル・プラタ1940)主人公マルタ・ホフマン役、ブエノスアイレスでコンテンポラリーダンスを学び、1970年代からアルゼンチンとフランスで舞踊家として人生のスタートを切る。1975年にパリに居を移し、フランスで活躍していたアルゼンチンの舞台演出家アルフレッド・アリアスの劇団の舞台にたつ。1986年モリエール賞を受賞している。

映画出演では、ディエゴ・サバネスがフリオ・コルタサルの短編La salud de los enfermosを映画化した「Mentiras piadosas」(09)に主演、銀のコンドル賞にノミネート、スペインのビリャベルデ映画祭で女優賞を受賞している。またビオイ・カサレスの同名小説を映画化したアレハンドロ・マチの政治スリラー「Los que aman, odian」(17)では助演にもかかわらず銀のコンドル賞を受賞した。続いて2019年、SSIFFにエントリーされたパウラ・エルナンデスの「Los sonámbulos」ではエンドレル監督と共演、アルゼンチンのアカデミー賞助演女優賞にノミネートされている。本作はオスカー賞のアルゼンチン代表作品に選ばれた話題作。ゴンサロ・カルサダのホラーサスペンス「Nocturna: La noche del hombre grande」がブラジルのファンタスポア映画祭2021主演女優賞を受賞、銀のコンドル賞にノミネートされている。

 

カルラ・ペテルソン(ピーターソン、1974)マルタの長女ミリアム・ホフマン役、最近ではドロレス・フォンシのデビュー作「Blondi」(23)でアルゼンチン映画芸術科学アカデミーの助演女優賞にノミネート、過去にはディエゴ・カプランの「Dos más dos」(12)では主演女優賞にノミネートされた。後者はヌード・シーンのサービスが功を奏したラブコメディだったせいか『愛と情事のあいだ』という邦題でDVDが発売された。コメディ出演が多く、TVシリーズの人気ラブコメ「Lalola」で2007年と2008年、連続でクラリン主演女優賞を受賞、マルティン・フィエロ賞2008に受賞、主演したテレノベラ「Guapas」がマルティン・フィエロ2015年の金賞を受賞している。

Blondi」の作品紹介は、コチラ20230721

 

パウラ・グリンシュパン(グリュンシュパン、19)マルタの次女オルガ・ホフマン役、UFOを愛した男』の他、違いを受け入れる人々の友情を語ったサンティアゴ・ロサの「Breve historia del planeta verde」のダニエラ役、ダミアン・シフロンの辛口コメディ『人生スイッチ』(第6話「死がふたりを分かつまで」)での花嫁の友人役など。このオムニバス映画は各国際映画祭巡りをしたヒット作、受賞歴で一番多かったのが観客賞、SSIFF 2014でも受賞しています。

UFOを愛した男』の作品紹介は、コチラ20241031

Breve historia del planeta verde」の作品紹介は、コチラ20190219

『人生スイッチ』の主な作品紹介は、コチラ20150729

 

フリエタ・ジルベルベルグ(シルベルベルク、ブエノスアイレス1983)カサレスの助手アレハンドラ・コンデ役。1995年、子役としてキャリアをスタートさせる。映画、TV、舞台女優、ルクレシア・マルテルの「La na santa」(04)でデビュー、ラテンビートで『ラ・ニーニャ・サンタ』の邦題で上映された。ディエゴ・レルマンの「La mirada invisible」(TIFF 2010『隠れた瞳』)に主演、翌年、銀のコンドル賞を受賞した。ダミアン・シフロンのヒット作「Relatos sarvajes」(14、『人生スイッチ』)の第2話に出演、アナ・カッツの「Mi amiga del parque」(15)と「El perro que no calla」(21)に出演、前者にはエンドレル監督が共演している。2016年、ダニエル・ブルマンの「El rey del Once」に新作でクリニック所長を演じたアラン・サバグとタッグを組んだ。2023年、ブエノスアイレス大学の哲学部を舞台にしたマリア・アルチェ&ベンハミン・ナイシュタットの「Puan」など。

『隠れた瞳』の紹介記事は、コチラ20140511

『人生スイッチ』の主な作品紹介は、コチラ20150729

El rey del Once」の作品紹介は、コチラ20160829

Puan」の作品紹介は、コチラ20230715

ルクレシア・マルテルの「Nuestra tierra」*SSIFF2025 ⑪2025年09月13日 11:01

      オリソンテス・ラティノス部門――マルテルの初長編ドキュメンタリー

    

        

     

★今年は時間的に余裕をもってご紹介できると思っていましたがダウン、開幕が目前になってしまいました。全部門の審査員メンバー発表、ジェニファー・ローレンス(ケンタッキー州ルイスビル1990)の若干35歳にしてのドノスティア栄誉賞受賞、サバルテギ-タバカレア部門、メイド・イン・スペイン部門、短編部門Nest、ベロドロモ部門、バスク映画部門など、ほぼ全作品が出揃いました。カンヌ映画祭2025で「ある視点」賞を受賞したチリのディエゴ・セスペデスの長編デビュー作「La misteriosa mirada del flamenco」が、第6回目を迎えたLGBTIQA+作品に与えられるセバスティアン賞 Gehitu を受賞したことも発表になっています。13作がノミネートされ、オリソンテス・ラティノス部門からは、本作とブラジル映画、マリア・クララ・エスコバルマルセロ・ゴメスの「Dolores」の2作が対象作品でした。

    

     

     (セバスティアン賞受賞作「La misteriosa mirada del flamenco」)

 

       

                                              (ブラジル映画「Dolores」)

 

★前回の続きとして、オリソンテス・ラティノス部門ノミネートのルクレシア・マルテルの初長編ドキュメンタリー「Nuestra tierra」から再開します。2009年に起きたアルゼンチン北部チュシャガスタの先住民コミュニティのリーダー、ハビエル・チョコバル殺害と、植民地主義のルーツ、真実の不正義の物語を記録したものです。既にベネチア映画祭2025アウト・オブ・コンペティションで、831日ワールド・プレミアされています。類似作品として、チリのフェリペ・ガルベス(サンティアゴ・デ・チレ1983)の「Los colonos / The Settlers」がある。東京国際映画祭2023で『開拓者たち』の邦題で上映された。1901年から1908年のパタゴニアを舞台にしたティエラ・デル・フエゴ島の先住民セルクナム虐殺をテーマにしている。

    

      

                   (ルクレシア・マルテル、ベネチア映画祭2025にて)

 

 「Nuestra tierra / Landmarks

製作国:アルゼンチン、米国、メキシコ、フランス、オランダ、デンマーク

監督:ルクレシア・マルテル(アルゼンチンのサルタ1966

脚本:ルクレシア・マルテル、マリア・アルチェ

撮影:エルネスト・デ・カルバーリョ

編集:ジェロニモ・ペレス・リオハ、ミゲル・シュアードフィンガー

音楽:アルフォンソ・オルギン

録音:グイド・ベレンブルム、マヌエル・デ・アンドレス、他 

製作:Rei Pictures(アルゼンチン)/ Louverture Films(米国)

共同製作:Piano / Lemming Film(オランダ)/ Pio & Co / Snowglobe

継続時間:122分、スペイン語

 

キャスト:ハビエル・チョコバル、他コミュニダード・チュシャガスタ

  

ストーリー2009年、アルゼンチン北部のチュシャガスタの先住民コミュニティのメンバーを立ち退かせようと武装した3人の男がやってきた。彼らは対立のなか、土地の所有権を主張するリーダーであるハビエル・チョコバルを殺害する。このあからさまな犯罪の様子はビデオに収録されていたが、犯人は野放しのまま、裁判にかけられるまでに9年もの年月を擁しました。この象徴的な殺人事件をとりまくドキュメンタリーは、コミュニティの声と写真を法廷の映像と組み合わせて、ラテンアメリカにおける植民地主義のルーツ、殺人、不平等、土地の収奪の何世紀にもわたる歴史を探ります。

   

     

   

  

映画祭・受賞歴:ベネチア映画祭831日ワールドプレミア、トロント映画祭98日、サンセバスチャン映画祭9月、カムデン映画祭911日、バンクーバー映画祭104日、ニューヨーク映画祭107日、BFIロンドン映画祭1016日、他

 

監督紹介ルクレシア・マルテル1966年アルゼンチン北部サルタ出身、代表作は「サルタ三部作」といわれる『沼地という名の町』(2001La Ciénaga)、『ラ・ニーニャ・サンタ』(2004La niña santa)、『頭のない女』(2006La mujer sin cabeza)の他、第4作が約十年ぶりに撮った話題作『サマ』(2017Zama)がある。寡作な映像作家だが、アルゼンチン映画を代表する作品を手掛けている。詳細については当ブログに紹介記事をアップしています。また東京国際映画祭2022に短編『ルーム・メイド』(12分、Camarera de piso)が上映されている。咀嚼に時間のかかる気難しい監督で万人向きではないが、ファンは多い。短編、ドキュメンタリー、テレビシリーズ、アンソロジーなども手掛けている。

   

  

           (撮影中のルクレシア・マルテル)

    

   

      (ダニエル・ヒメネス=カチョがサマを演じた「Zama」のポスター)

 

★マルテル監督は、深く共感的でありながら根本的に感傷的ではないアプローチで展開させ、不公平さを描いている。2009年の殺害事件を追ってプロジェクトを起ち上げ、翌年から殺害犯の裁判に出席、2018年、サンダンス・ドキュメンタリー・プログラムとインスティテュート・オブ・コンテンポラリーアーツの助成金を授与された。コロナウイルス感染症パンデミックの影響で未完成のまま、ロカルノ映画祭2020フィルム・アフター・トゥモロー部門でパルド賞を受賞している。

 

★撮影監督エルネスト・デ・カルバーリョ、フィルム編集のペレス・リオハミゲル・シュアードフィンガー、録音のグイド・ベレンブルムマヌエル・デ・アンドレスなどとは、前作『サマ』でタッグを組んでいる。

 

『サマ』関連記事は、コチラ20171013同年1020

『ルーム・メイド』関連記事は、コチラ20221019


セクション・オフィシアル(イベロアメリカ映画)*マラガ映画祭2025 ⑤2025年03月23日 21:20

    チリのビンコ・トミシックの「El ladrón de perros」が金のビスナガ受賞

       

★作品紹介が終わらないうちに受賞作が発表になってしまいました。作品賞「金のビスナガ」は、イベロアメリカ映画賞がビンコ・トミシックの単独監督デビュー作「El ladrón de perros」、スペイン映画賞はエバ・リベルタードの「Sorda」、本作は観客賞もゲットしました。他、ベレン・フネスの「Los tortuga」が銀のビスナガ審査員特別賞と脚本賞、ヘラルド・オムスの「Molt lluny」が銀のビスナガ批評家審査員特別賞を受賞しました。全受賞作は授賞式を含めて後日アップ予定。

 

 

        セクション・オフィシアル(イベロアメリカ映画)

 

1)「Culpable cero」アルゼンチン=スペイン、2024年、110分、コメディドラマ

 監督ヴァレリア・ベルトゥチェリ(ブエノスアイレスのサンニコラス1969、長編2作目)、舞台女優としてスタートを切る。TVや映画に出演、2018年「La reina del miedo」で監督デビュー、サンダンス映画祭女優賞を受賞する。モラ・エリサルデ(デビュー作)、ブエノスアイレス大学で映像&音響デザインを専攻卒業する。2012年広告編集者としてキャリアを切り、TVシリーズの編集(「Morko y Mali」)やビデオクリップを制作する。2018年、宣伝広告と並行して映画プロジェクトの監督や脚本も手掛けている。

ベルトゥチェリ監督キャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ20180410

 脚本:ヴァレリア・ベルトゥチェリ、モラ・エリサルデ、マレナ・ピチョト

 製作Pampa Films / Gloriamundi Producciones

 キャスト:ヴァレリア・ベルトゥチェリ(ベルタ・ミュラー)、セシリア・ロス(カローラ)、ユスティナ・ブストス(マルタ)、ガイア・ガリバルディ(オリビア)、マルティン・ガラバル(ラミロ)、メイ・スカポラ(グレース)、マラ・ベステッリ(サンドラ)、ルシア・マシエル(グアダ)他

    

   

  (左からヴァレリア・ベルトゥチェリ、モラ・エリサルデ、20250318日)

   

 

 

2)「El diablo en el camino」メキシコ=フランス、2024年、108

 監督・脚本カルロス・アルメリャ(メキシコシティ、長編3作目)、イギリスの映画学校(CCC)とロンドン映画学校で学ぶ。短編「Tierra y pan」がベネチア映画祭2008短編部門の金獅子賞を受賞、そのほか受賞歴多数。ドキュメンタリー「Toro negro」は共同監督だが、サンセバスチャン映画祭2005でオリソンテス賞、ハバナ映画祭サンゴ賞を受賞、モレリア映画祭でも上映された。長編デビュー作「En la estancia」(15)はロッテルダム映画祭でプレミアされ、グラマドやサンディエゴなど国際映画祭で受賞している。2作目「Animo juventud !」(20)はモレリアFF、釜山青少年映画祭にノミネートされた。TVシリーズ多数。

 製作CIMA / B Positivo Producciones / Tita B Producciones / Zensky Cine     /The42Films 他

 キャスト:ルイス・アルベルティ(フアン)、マイラ・バタジャ(イサベル)、アケツァリー・ベラステギ Aketzaly Verastegui、リカルド・ウスカンガ、オスワルド・サンチェス、ロベルト・オロペサ、他

 

   

 

   

3)El ladrón de perros / The Dog Thief」ボリビア=チリ=メキシコ=仏=伊、2024年、

  90分、トライベッカ映画祭2024上映

 監督・脚本ビンコ・トミシック・サリナス(サンティアゴ・デ・チリ1987、長編単独デビュー作)、監督、脚本家、製作者。2014年、制作会社 Calamar Cine を設立。フランシスコ・エビアとの共同監督作品「El fumigador」(16)が、PÖFFタリン・ブラックナイツでプレミア上映され、SANFIC 2016 でナショナルフィルム賞を受賞した。カンヌ映画祭シネフォンダシオンとベネチア・ビエンナーレ・カレッジ・シネマ・プログラムで企画された。マラガ映画祭2025イベロアメリカ映画賞金のビスナガ受賞。

 製作Color Monster / Zafiro Cinema / Calamar Cine

 キャスト:アルフレッド・カストロ(セニョール・ノボア)、フランクリン・アロ(マルティン)、テレサ・ルイス(セニョリータ・アンドレア)、マリア・ルケ(グラディス)、フリオ・セサル・アルタミラノ(ソンブラス)、ニノン・ダバロス(セニョーラ・アンブロシア)

   

        

       

 

4)「Nunca fui a Disney」アルゼンチン、2024年、74

 監督マティルデ・トゥテ・ヴィサニ(ブエノスアイレス1989、デビュー作)、ブエノスアイレス大学の映像&音響デザイナーとしての学位を得る。監督、脚本家、フィルム編集者。2017年「Rosa」で短編デビュー、長編第1作である「Nunca fui a Disney」は第25BAFICI(ブエノスアイレス国際インディペンデントFF)で監督賞を受賞している。第2作の準備中。

 脚本:マティルデ・トゥテ・ヴィサニ、アグスティナ・マルケス・メルリン

 キャスト:ルシア・マルティネス・ラグ(ルシア)、アレハンドラ・ボルヘス、アルマ・フロレス、フランシスコ・アンテロ、ヘレミアス・サラテ、ルシアナ・ロメロ、ヤミラ・アスクアガ

 

      

     

 

5)「Perros」ウルグアイ=アルゼンチン、2025年、102

 監督・脚本ヘラルド・ミヌッティ(デビュー作)、社会コミュニケーションを専攻、10年間ジャーナリストだった。2013年ウルグアイ文化教育省の奨学金を得て映画を学んでいる。短編「Hogar」(18)は、ビアリッツ・ラテンアメリカ映画祭で審査員特別メンションを受賞、グアダラハラ映画祭コンペティション部門にノミネートされている。長編デビュー作は、

 製作Cinevinay / CimarrónThe Mediapro Studio

 キャスト:ネストル・グツィーニ、マルセロ・スビオット、マリア・エレナ・ぺレス、ノエリア・カンポ、ロベルト・スアレス、カタリナ・アリジャガ、マヌエル・タテ、ソレダード・ペラヨ

 

        

      

 

6)Sugar Island」ドミニカ共和国=スペイン、2024年、90分、ドキュメンタリー

テッサロニキ映画祭2024 WIFT 賞、ベネチア映画祭ヤング審査員賞ほか受賞、

マラガ映画祭2025銀のビスナガ撮影賞(アルバン・プラド)受賞

 監督ジョアンヌ(ヨハンヌ)・ゴメス・テレロ(ドミニカ共和国1985、ドキュメンタリー3作目)、ドキュメンタリー監督、脚本家、製作者、キューバの国際映画テレビ学校 EICTV の講座のコーディネーター。カタルーニャ映画視聴覚上級学校ESCACで映画配給修士課程卒業。短編ドキュメンタリー「Bajo las carpas」(1452分)で監督デビュー、2016年「Caribbean Fantasyを発表している。

 脚本:ジョアンヌ・ゴメス・テレロ、マリア・アベニア

 製作Tinglado Film / Guasábara Cine

 キャスト:イェリダ・ディアス Yelida Diaz、フランシス・クルス、フアン・マリア・アルモンテ、ルス・エメテリオ、ヘネシス・ピニェイロ、ディオゲネス・メディナ

 

      

     

 

7)「Violentas mariposas」メキシコ、2024年、101分、モレリア映画祭2024

  メキシコ公開202410

 監督・脚本アドルフォ・ダビラ(長編デビュー作)、監督、脚本家、製作者、メキシコシティのメトロポリタン自治大学 UAM でデザインを専攻した後、フルブライト奨学金を得て、ワシントンのアメリカン大学で映画を学び、ニューメキシコのサンタフェにある人類学フィルムセンターでも学んでいるなど多才。広告映画、ドキュメンタリー、ミュージックビデオ、短編5作を撮っており、現在長編2作目が進行中。

 製作Neural / Mandarina Cine

 キャスト:ディアナ・ラウラ DI(エバ)、アレハンドロ・ポーター(ビクトル)、ノルマ・パブロ(テレ)、ソフィー・アレクサンダー・カッツ(ロラ)、ジェルマン・ブラッコ(マテオ)、レオナルド・アロンソ(ラウル)、フアン・ルイス・メディナ(ムニェコ)、ヤヨ・ビジェガス(レオン)、他

 

       

   

ディエゴ・レルマンの『UFOを愛した男』*ネットフリックスで鑑賞2024年10月31日 11:01

         UFOを愛した男――現実と伝説化されたエピソードが衝突する

 

    

             (メインキャストをちりばめたポスター)

 

ディエゴ・レルマンUFOを愛した男が、1018日からネットフリックスで配信が始まりました。サンセバスチャン映画祭SSIFF 2024のセクション・オフィシアルにノミネートされた折、期待を込めて作品紹介をいたしました。フェイクニュースを演出する主人公ホセ・デ・ゼルの行動を批判することがテーマでないことは分かっていましたが、それでももう少し工夫が欲しかったと思いました。勿論、レオナルド・スバラリアの罪ではありません。混乱はアルゼンチンのアイデンティティーの基本、一貫性のないジグザクしたところを楽しむことをおすすめします。既に内容紹介をしておりますが、鑑賞したことではっきりしたところもありますので、データを加筆して再録します。謎の多いホセ・デ・ゼルの人物紹介記事は、以下にアップしております。

UFOを愛した男』内容紹介記事は、コチラ20240817

   

     

  (左から、レオナルド・スバラリア、ディエゴ・レルマン監督、レナータ・レルマン、

       モニカ・アジョス、SSIFF2024924日フォトコールにて)

  

 

 UFOを愛した男(オリジナル題El hombre que amaba los platos voladores

製作:El Campo Cine / Bicho Films  協賛Netflix

監督:ディエゴ・レルマン

脚本:ディエゴ・レルマン、アドリアン・ビニエス

音楽:ホセ・ビラロボス

編集:フェデリコ・ロットスタイン

撮影:ボイチェフ・スタロン

音響:レアンドロ・デ・ロレド、ナウエル・デ・カミジス、他

メイクアップ:ベアトゥシュカ・ボイトビチ

衣装デザイン:フェオニア・ベロス・バレンティナ・バリ

製作者:ニコラス・アブル、ディエゴ・レルマン

 

キャスト紹介

レオナルド・スバラリアTVレポーター&ジャーナリストのホセ・デ・ゼル)

セルヒオ・プリナ(カメラマン、カルロス・〈チャンゴ〉・トーレス)

オスマル・ヌニェス(チャンネル6ニュース部長サポリッチ/サポ)

レナータ・レルマン(ホセの娘マルティナ)

マリア・メルリノ(ホセの元妻ロキシ)

アグスティン・リッタノ(超常現象研究家シクスト・スキアフィノ)

パウラ・グリュンシュパン(TV局職員アリシア)

エバ・ビアンコ(宇宙人報道の依頼人イサドラ・ロペス・コルテセ)

エレナ・ゲレロ・ブリ(ラ・カンデラリア・ホテルの受付エレナ)

フリオ・セサル・オルメド(チーフ製作者グティエレス/グティ)

ノルマン・ブリスキ(チャンネル6CEOチェチョ)

モニカ・アジョス(踊り子モニカ/モニ)

エドゥアルド・リベット(セロ採鉱組合理事長ペドロ・エチェバリアサ)

ダニエル・アラオス(消防署長レカバレン)

ギジェルモ・アレンゴ(精神科医ドメネク)

ほか多数

 

ストーリー1986年、ジャーナリストのホセ・デ・ゼルとカメラマンのチャンゴは、うさん臭い2人の人物から奇妙な提案を受け取り、コルドバ県のラ・カンデラリアに向かうことにした。村に到着したが、丘の中腹に円形の焼け焦げた牧草地があるだけだった。しかし、その後に起きたことはアルゼンチンのテレビ史上最高の視聴率を誇ることになる。類まれな才能の持ち主にして虚言癖の天才デ・ゼルがやったことは、未確認飛行物体UFOの存在を演出することだった。実際に起きた1980年代の宇宙人訪問詐欺を題材にしたコメディ仕立てのドラマ。現実と伝説化されたエピソードの衝突。

 

 

        「視聴率50パーセントでも家では一人でした」と娘

  

A: 監督は冒頭で主人公ホセ・デ・ゼルの人物像を明らかにする。ヘビースモーカー、一人暮らし、女性にはサービス精神旺盛のお豆ちゃん、根っからの迷信家で常に不安定、1967年に起きた第三次中東戦争、いわゆる「六日間戦争」に予備役少尉として従軍、シナイ砂漠を彷徨ったこと、どうやら宇宙人の存在を信じていることなどが、当時の予備知識ゼロの観客に知らされる。

B: シナイ砂漠の件は想像の産物だった可能性があり眉唾ものらしいです。要するにニュースを報道するジャーナリストというより、広く浅くエンターテイメントの報道をする芸能記者のアイコンだった。

    

         

          (モニカ役のモニカ・アジョスとホセ・デ・ゼル)

      

A: 19824月、イギリスを向こうに回して戦ったマルビナス戦争、いわゆるフォークランド戦争の敗北は、1976年からの軍事独裁政権の崩壊、民政移管の引き金になりました。1985年には独裁政権歴代の指導者の裁判があり、国民は明るいニュースを欲していた。

B: 99パーセント捏造でも、宇宙人訪問は格好の話題だったに違いありません。あの白髪頭だがハンサムなホセ・デ・ゼルがホントだと言っているんだから。

     

      

      (チャンネル6のマイクを手にフェイクニュースを届けるホセ・デ・ゼル)

         

A: 映画からは「UFO を愛した男」というより「視聴率を愛した男」という印象でしたが、実際のホセ・デ・ゼルは、家族のインタビュー記事などから「マイクをこよなく愛した男」のようでした。

B: 監督の娘レナータ・レルマンが演じたマルティナの本名は、パウラ・デ・ゼル1971)、父親と同じチャンネル9のプロデューサーだったそうですが。

    

       

           (父と一緒の写真をかざす娘パウラさん)

 

A: パウラさんによると、実は2歳のとき父親の女性問題が原因で両親は離婚していたので、劇中でのマルティナ登場はフィクション部分、パウラはコルドバには行ったことがない。マリア・メルリノ扮する元妻ロキシも同じだそうです。父親は時々パウラに会いにやって来たそうですが、母親はホセとの関係を断っていた。「パパは人生の90パーセントを仕事に費やし、視聴率50パーセントでも、家に帰れば一人、淋しい人生だった」、自分は一人娘というわけではなく、異母妹がいるとも語っている。撮影前にスバラリアが訪ねてきたので情報をいろいろ提供したようです。

    

         

      (クリニックの受診を渋るホセ・デ・ゼル、娘マルティナ、元妻ロキシ)

 

        見世物は真実より優位にある――チャンネル6はフィクション

 

B: まず映画では「チャンネル6」でしたが、本当は〈Nuevediario〉「チャンネル9」ですね。

A: やはりまだ実在している人が多いから差し障りを避けるためにも変更は必要です。監督は「9180度回転させると6になる」と。 

B: 最初、ホセが持ち込んだUFO ネタをガセネタとして即座に却下したオスマル・ヌニェス扮するニュース部長サポリッチ、「視聴者は政治問題の報道に飽きあきしている。視聴者が思い描くシナリオを物語るべき」と、ホセを援護する部下のアリシアも、モデルはいるとしてもフィクション部分。

 

     

           (オスマル・ヌニェス演じるサポリッチ部長)

   

       

       (サポ部長をけしかけるパウラ・グリュンシュパン扮するアリシア)

 

A: 視聴率低迷に悩んでいるサポ部長もアリシアの「他局に取られたら」に怖気づいて前言を翻す。真実より優位にあるのがショー、お茶の間も半信半疑で楽しんだのです。パウラさんの話では、父親も経済的に苦境にあり、どうしてもネタを手放したくなかったと語っています。

B: ノルマン・ブリスキが軽妙に演じていた「チェチョ」の愛称で呼ばれていたTV局オーナーもフィクションですか。

A: チェチョのモデルは、メディア界の大物アレハンドロ・ロマイで「チャンネル9の皇帝」と呼ばれていた人物。彼との出遭いが大きい、パウラさんによると父親の「長所と短所を認めて、ずっと目をかけてくれた」ということでした。

   

   

       (チャンネル6のオーナー「チェチョ」役のノルマン・ブリスキ)

 

B: あるときは「バカ」、あるときは「天才」と言っていた。出番はここだけでしたが存在感があった。

A: 横道になりますが、つい最近マルティン・フィエロ賞2024のガラがあり、ブリスキは栄誉賞を受賞したばかり、文化軽視の現政権を皮肉たっぷりに批判したスピーチが話題になっている。芸術は政治とは無関係などくそくらえです。ついでですがレオナルド・スバラリアも2022年に製作された「Puanで助演男優賞を受賞した。

  

        フィクションと現実の境界をぼかした現代のエル・キホーテ

 

B: 実名が一致するのは、ホセ・デ・ゼルと、セルヒオ・プリナが演じたカメラマンのカルロス・〈チャンゴ〉・トーレスの二人だけのようですが。パウラさんは「叔父さんとして家族同然だった」と語っています。

A: ホセが現代のエル・キホーテなら、チャンゴはさしずめサンチョ・パンサです。二人は正反対のようにみえますが、実は深いところで似ているのです。チャンゴはホセを上から目線の男、しつこくてうざったく思っているのに離れない、彼もUFO の存在を信じているようだ。

   

      

           (カメラマン〈チャンゴ〉役のセルヒオ・プリナ)

 

B: ホセの「ついて来い、チャンゴ、ついて来い!」の名セリフは、その年の流行語になった。

A: チャンゴを演じたプリナの淡々とした演技を褒めたいですね。どこかで見たことのある顔だなぁと思いながら観ていましたが思い出せないでいた。検索してみたら、アグスティン・トスカノの「El motoarrebatador」でバイク引ったくり犯を生業にしている男を演じていた俳優でした。当ブログでも紹介しているのでした。

   

El motoarrebatador」の作品紹介記事は、コチラ20180907

★サンセバスチャン映画祭2018オリソンテス・ラティノス部門にノミネートされ、オリソンテス賞スペシャルメンションを受賞、主役のミゲルを演じたセルヒオ・プリナがリマ・ラテンアメリカ映画祭、ハバナ映画祭で男優賞を受賞している。なら国際映画祭2018で『ザ・スナッチ・シィーフ』の邦題で上映された。ほかにマラガ映画祭2021フアン・パブロ・フェリックスの「Karnawal」(20)にも出演している。

 

B: UFOが着陸したと思われる牧草地、円形の黒こげのある丘も、同じコルドバ県ですが実際とは違うということですが。

A: 劇中のホセが登っていくコメルナ山ではなく、実際は海抜1979mの Cerro Uritorco ウリトルコ山ということです。当時とは景観が変わってしまっていて撮影地には適さなかった。それに消防署長以下、一般住民も大勢インチキに関わっていましたから。

  

          「メシア主義」の存在とフェイクニュースの関係

 

B: セロ採鉱組合の目的が、かつては金の採掘で活気があった土地を買い占めた不動産会社の観光事業のやらせだったことが分かってからも、ホセはUFOの存在を裏付ける証拠改竄にムキになる。

A: 監督は「メシア主義」」の存在とフェイクニュースが関係していると指摘しています。救世主の到来を信ずることは、ユダヤ教の信仰のなかでも重要です。シナリオには幾つも穴があるけれども、宇宙から到来する存在の根拠に乏しい信念が、ホセの合理主義的思考を蝕んでいると語っています。

   

   

   (UFO報道の仕掛け人、セロ採鉱組合役人を名乗るイサドラ役のエバ・ビアンコ)

  

B: 最後のシーンには唖然としました。本作は言うまでもなく、ホセ・デ・ゼルの人生を掘り下げるのがテーマではありません。

A: 深入りしたくありませんが、ホセは母親フローラがマイトレ劇場を経営していたので、後にアメリカに渡った女優の叔母さんに育てられたということです。その劇場のチケット売りをしていたが仕事が適当だったので辞めさせられた。その後、イスラエルのキブツにいた父親サミュエルに呼び寄せられてイスラエルに渡っている。謎が多くてどこまでが本当か分かりませんが、20代半ばで第三次中東戦争(1967)に従軍したのもそういう関係でしょうか。

 

B: その時まで父親がキブツにいたなんて知らなかったと言っている。ウイキペディア情報では、職業は「ジャーナリスト、軍人」です。帰国後、時期は不明ですが友人の紹介で「Gente」誌に就職している。ジャーナリスト誕生です。

A: 劇中でも息切れするほどの13箱のヘビースモーカー、そのうえコーヒー中毒者でもあり、112杯ぐらい飲んでいた。緊張からくるストレスで心も病んでいた。一番華やかだった時代は、チャンネル9に報道記者として在籍していた、1984年から1994年の10年間、1997年、罹患していたパーキンソン病と肺癌ではなく食道癌で56年の人生を駆け抜けた。旅立つときは「ママ、パパ、もう直ぐそっちに行くよ・・・行くから待ってて」と言ったとか。イスラエル人墓地に眠っている。

    

    

   (妻殺害でサンタフェ刑務所に収監されていたミドル級チャンピオンのボクサー

   カルロス・モンソンにインタビューするホセ・デ・ゼル、手にチャンネル9のマイク

 

A: ホセになりきったレオナルド・スバラリア(ブエノスアイレス1970)は度々紹介しておりますが、マラガ映画祭2017の大賞マラガ-スール賞を受賞した折にキャリアをアップしております。『10億分の1の男』で鮮烈デビューして以来、リカルド・ダリンに継ぐ知名度を保っています。

B: 監督は以前からタッグを組みたかったらしく、レオもオファーを待っていた。

 

A: ホセ役に「体型は拘らないが白髪頭は譲れないと考えていた」と監督。脚本は未完成だったが、即座にOK の返事がきた。

B: 前述したように「Puan」でマルティン・フィエロ助演男優賞を受賞したばかり、2025年の主演を期待したい。

 

A: ほかに超常現象や心霊現象を調べているシクスト・スキアフィノに扮したアグスティン・リッタノはサンティアゴ・ミトレの『アルゼンチン1985』、レルマンの『代行教師』、フェリペ・ガルベスの『開拓者たち』、管理人は未見ですが、デミアン・ラグナのホラー『テリファイド』に出演している。消防署長のダニエル・アラオスはマリアーノ・コーン&ガストン・ドゥプラットの『ル・コルビュジエの家』の怪演でアルゼンチン・アカデミー賞2010の主演&新人男優賞のダブル受賞を果たし、レルマンの『家族のように』にも出演している。

B: いつの時代でも「信じたいものを信じ、見たいものを見る」のが人間のようです。

    

   

            (本作撮影中のディエゴ・レルマン監督)


主な監督キャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2017年09月03日10月23日

主なレオナルド・スバラリアの紹介記事は、コチラ⇒2017年03月13日


オリソンテス・ラティノス部門第4弾*サンセバスチャン映画祭2024 ⑮2024年08月29日 15:11

         アルゼンチン在住のドイツ人監督ネレ・ヴォーラッツの第2作

 

★オリソンテス・ラティノス部門の最終回は、変わり種としてアルゼンチン在住のドイツ人監督ネレ・ヴォーラッツが中国人の移民を主役にしてブラジルを舞台にした「Dormir de olhos abertos / Sleep With Your Eyes Open」、イエア・サイドの「Los domingos mueren más personas / Most People Die on Sundays」、ソフィア・パロマ・ゴメス&カミロ・ベセラ共同監督の「Quizás es cierto lo que dicen de nosotras / Maybe Its True What They Say About Us」の3作、いずれも長いタイトルです。

 

 

                オリソンテス・ラティノス部門 

 

12)「Dormir de olhos abertos / Sleep With Your Eyes Open

 ブラジル=アルゼンチン=台湾=ドイツ 

 イクスミラ・ベリアク 2018 作品

 2024年、ポルトガル語・北京語・スペイン語・英語、コメディドラマ、97分、撮影地ブラジルのレシフェ。脚本ピオ・ロンゴ、ネレ・ヴォーラッツ、撮影ロマン・カッセローラー、編集アナ・ゴドイ、ヤン・シャン・ツァイ、公開ドイツ613

監督ネレ・ヴォーラッツ(ハノーバー1982)は、監督、脚本家、製作者。アルゼンチン在住のドイツ人監督。長編デビュー作「El futuro perfecto」がロカルノ映画祭2016銀豹を受賞している。アルゼンチンに到着したばかりの中国人少女のシャオビンが新しい言語であるスペイン語のレッスンを受ける課程でアイデンティティを創造する可能性を描いている。第2作は前作の物語にリンクしており、主人公が故郷の感覚を失った人の目を通して、孤立と仲間意識の物語を構築している。3作目となる次回作はドイツを舞台にして脚本執筆に取りかかっているが、監督自身もドイツを10年前に離れており、母国との繋がりを失い始めているため距離の取り方に苦労していると語っている。新作に製作者の一人として『アクエリアス』のクレベール・メンドンサ・フィーリョが参加、偶然ウィーンで出合ったそうで、撮影地が『アクエリアス』と同じレシフェになった。

映画祭・受賞歴:ベルリンFF2024「エンカウンターズ部門」のFIPRESCI賞受賞、韓国ソウルFF、カルロヴィ・ヴァリFF、(ポーランド)ニューホライズンズFFSSIFFオリソンテス・ラティノス部門出品

 

キャスト:リャオ・カイ・ロー(カイ)、チェン・シャオ・シン(シャオシン)、ワン・シンホン(アン・フー)、ナウエル・ペレス・ビスカヤール(レオ)、ルー・ヤン・ゾン(ヤン・ゾン)ほか多数

ストーリー:ブラジルの或るビーチリゾート、カイは傷心を抱いて台湾から休暇をとって港町に到着する。故障したエアコンをアン・フーの傘屋に送ることにする。友達になれたはずなのに雨季がやってこないので店はしまっている。アン・フーを探しているうちに、カイは高級タワーマンションでシャオシンと中国人労働者のグループの存在を知る。カイは、シャオシンの話に不思議な繋がりがあるのに気づきます。ヒロインは監督の外国人の視点を映し出す人物であり、帰属意識を失う可能性のある人の物語。

  

   

 
    

  

 


 

13)「Los domingos mueren más personas / Most People Die on Sundays

 アルゼンチン=イタリア=スペイン

 WIP Latam 2023 作品

 2024年、スペイン語、コメディドラマ、73分、デビュー作、WIP Latam 産業賞&EGEDA プラチナ賞受賞、公開スペイン2024年104日、アルゼンチン1031

監督Iair Said イエア(イアイル)・サイド(ブエノスアイレス1988)は、監督、脚本家、キャスティングディレクター、俳優。2011年俳優としてスタートを切り、出演多数。監督としては短編コメディ「Presente imperfecto」(17分)がカンヌFF2015短編映画部門ノミネート、ドキュメンタリー「Floras life is no picnic」がアルゼンチン・スール賞2019ドキュメンタリー賞受賞。長編デビュー作は監督、脚本、俳優としてユダヤ人中流家庭の遊び好きで無責任なゲイのダビを主演する。

映画祭・受賞歴:カンヌFF 2024 ACIDクィアパーム部門でプレミア、グアナフアトFF国際長編映画賞ノミネート、SSIFFオリソンテス・ラティノス部門出品

 

キャスト:イエア・サイド(ダビ)、リタ・コルテス(母親)、アントニア・セヘルス(従姉妹)、フリアナ・ガッタス(姉妹)

ストーリー:ダビは叔父の葬儀のためヨーロッパからブエノスアイレスに帰郷する。母親が、長い昏睡状態にある父親ベルナルドの人工呼吸器のプラグを抜く決心をしたことを知る。ダビは、夫の差し迫った死の痛みに錯乱状態の母親との窮屈な同居と、自身の存在の苦悩を和らげるための激しい欲望とのあいだでもがいている。数日後、彼は過去と現在を揺れ動きながら、また最低限の注意を向けてセクシュアルな関係を保ちながら、車の運転を習い始める。さて、ダビは父親の死を直視せざるをえなくなりますが、呼吸器を外すことは適切ですか、みんなで刑務所に行くことになってもいいのですか。家族、病気、死についてのユダヤ式コメディドラマ。

    



 

 

 

14)「Quizás es cierto lo que dicen de nosotras / Maybe Its True What They Say About Us

 チリ=アルゼンチン=スペイン

 WIP Latam 2023 作品

 2024年、スペイン語、スリラー・ドラマ、95分、脚本カミロ・ベセラ、ソフィア・パロマ・ゴメス、撮影マヌエル・レベリャ、音楽パブロ・モンドラゴン、編集バレリア・ラシオピ、美術ニコラス・オジャルセ、録音フアン・カルロス・マルドナド、製作者&製作カルロス・ヌニェス、ガブリエラ・サンドバル(Story Mediaチリ)、Murillo Cine / Morocha Films(アルゼンチン)、b-mount(スペイン)、公開チリ2024年530日(限定)、インターネット67日配信。

監督カミロ・ベセラ(サンティアゴ1981)とソフィア・パロマ・ゴメス(サンティアゴ1985)の共同監督作品。ベセラは監督、脚本家、製作者。ゴメスは監督、脚本家、女優。前作「Trastornos del sueño」(18)も共同で監督、執筆している。意義を求めるような宗教セクト、口に出せないことの漏出、男性がいない家族、ヒメナのように夫を必要としない女性、これらすべてがこの家族を悲惨な事件に追い込んでいく。「私たちの映画は、どのように生き残るか、または恐怖にどのように耐えるかを描いており」、「この事件の怖ろしさがどこにあるのかを考えた」と両監督はコメントしている。

映画祭・受賞歴SSIFFオリソンテス・ラティノス部門出品

   

キャスト:アリネ・クッペンハイム(ヒメナ)、カミラ・ミレンカ(長女タマラ)、フリア・リュベルト(次女アダリア)、マリア・パス・コリャルテ、アレサンドラ・ゲルツォーニ、ヘラルド・エベルト、マカレナ・バロス、他

アリネ・クッペンハイムについては、マヌエラ・マルテッリのデビュー作『1976』が東京国際映画祭2022で上映され女優賞を受賞した折に、キャリア&フィルモグラフィーを紹介しています。 コチラ20221106

   

ストーリー:成功した精神科医のヒメナは、長らく或る宗派のコミュニティに入り疎遠だった長女タマラの思いがけない訪問をうける。タマラが母親と次女アダリアが暮らしている家に避難しているあいだ、タマラの生まれたばかりの赤ん坊がセクト内部の奇妙な状況で行方不明になったというので、ヒメナは赤ん坊の運命を知ろうと政治的な調査を開始する。実際に起きた「アンタレス・デ・ラ・ルス」事件にインスパイアされたフィクション。

  

アンタレス・デ・ラ・ルスAntares de la Luz」事件とは、2013年、キリスト再臨を主張した宗教指導者ラモン・グスタボ・カステージョ(19772013)が、世界終末から身を守る儀式の一環としてバルパライソの小村コリグアイで、女性信者の新生児を生贄として焼いていたことが発覚した事件。当局の調査着手に身の危険を察知したカステージョは、逮捕に先手を打って逃亡先のクスコで首吊り自殺をした。チリ史上もっとも残忍な犯罪の一つとされる事件は、ネットフリックス・ドキュメンタリー『アンタレス・デ・ラ・ルス:光のカルトに宿る闇』(24)として配信されている。

   

   




 

     

  (ネレ・ヴォーラッツ、イエア・サイド、ソフィア・パロマ・ゴメス、カミロ・ベセラ)

 

★オリソンテス・ラティノス部門は、以上の14作です。スペイン語、ポルトガル語がメイン言語で監督の出身国は問いません。ユース賞の対象になり、審査員は18歳から25歳までの学生150人で構成されています。


オリソンテス・ラティノス部門第2弾*サンセバスチャン映画祭2024 ⑬2024年08月23日 14:41

        過去の受賞者フェルナンダ・バラデス、ルイス・オルテガなどの新作

 

★オリソンテス・ラティノス部門第2弾は、アルゼンチンに実在した美少年の殺人鬼を映画化した『永遠に僕のもの』(18)のルイス・オルテガ、2020年のオリソンテス賞を受賞した『息子のの面影』のフェルナンダ・バラデスなどが新作を発表している。それぞれ4作ともカンヌ映画祭併催の「批評家週間」、ベネチア映画祭、ベルリン映画祭、サンダンス映画祭などでワールドプレミアされた作品ですが、スペインでは未公開なので選ばれています。本祭は開催時期が遅いこともあって二番煎じの印象が付きまとい分が悪い。第2弾として4作品をアップします。

 

          オリソンテス・ラティノス部門

 

5)Simón de la montaña / Simon of the Mountain

  アルゼンチン=チリ=ウルグアイ=メキシコ

 2024年、スペイン語、ドラマ、96分、公開アルゼンチン1017

 脚本フェデリコ・ルイス、トマス・マフィー、アグスティン・トスカノ

監督フェデリコ・ルイス(ブエノスアイレス1990は、監督、脚本家。ブエノスアイレス大学で社会コミュニケーションを専攻、2013年卒業制作「Vidrios」を共同監督し、ブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭(Bafici)でプレミアされた。ほか短編がカンヌ、トロント、マル・デル・プラタ、アムステルダム・ドキュメンタリー(IDFA)など各映画祭で受賞している。本作が単独監督デビュー作である。

 

映画祭・受賞歴:カンヌFF2024併催の「批評家週間」グランプリ受賞、ゴールデンカメラ賞ノミネート、上海FF上映、ミュンヘンFFシネビジョン賞作品賞受賞、リマFFドラマ部門審査員俳優賞受賞(ロレンソ・フェロ)、SSIFFオリソンテス・ラティノス部門出品

 

キャスト:ロレンソ・フェロ(シモン)、ペウエン・ペドレ、キアラ・スピニ、ラウラ・ネボレ、アグスティン・トスカノ、カミラ・ヒラネ

ストーリー21歳になるシモンは、引っ越しのヘルパーをしている。なんとか現実を変えたいが料理もダメ、トイレ掃除もダメ、ただベッドメーキングはできる。最近、障害をもつ子供二人と友達になったことで変化の予感がしてきた。彼らは自分たちのために設計されていない世界を一緒にナビゲートし、愛と幸福のための独自のルールを発明していく。ルイス・オルテガの『永遠に僕のもの』で実在した殺人鬼を演じたロレンソ・フェロがシモンを演じている。

    

      

   


   

 

6)El jockey / Kill The Jockey

  アルゼンチンメキシコスペインデンマーク米国

 2024年、スペイン語、犯罪ドラマ、97分、脚本ファビアン・カサス、ルイス・オルテガ、ロドルフォ・パラシオス。海外販売Film Factry Entertainment、公開アルゼンチン926日、Disney+でストリーミング配信される予定

監督ルイス・オルテガ(ブエノスアイレス1980)、監督、脚本家。両親とも俳優、兄セバスティアンは映画製作者など、アルゼンチンでは有名なアーティスト一家。2002年、メイド・イン・スペイン部門に長編デビュー作「Caja negra」が選ばれている。公開された『永遠に僕のもの』はカンヌの「ある視点」のあと、本祭ペルラス部門にエントリーされた。監督キャリア&フィルモグラフィーは7作目となる『永遠に僕のもの』にアップしています。新作が8作目と若い監督ながらチャンスに恵まれている。

監督キャリア&フィルモグラフィーは、コチラ20180515

 

映画祭・受賞歴:ベネチアFF2024コンペティションでワールドプレミア(829日)、トロントFF「センターピース」部門出品、SSIFFオリソンテス・ラティノス部門出品

 

キャスト:ナウエル・ペレス・ビスカヤート(レモ・マンフレディーニ)、ウルスラ・コルベロ(レモの恋人アブリル)、ダニエル・ヒメネス≂カチョ(シレナ)、マリアナ・ディ・ジロラモ(アナ)、ダニエル・ファネゴ、ロリー・セラノ、ロベルト・カルナギ、アドリアナ・アギーレ、オスマル・ヌニェス

 

ストーリー:伝説の騎手レモ・マンフレディーニの自己破壊的な行動は、彼の才能に影を落とし始めている。恋人のアブリルとの関係も脅かしている。騎手であるアブリルはレモの子供を宿しており、子供か名声かを選ばなければならない。かつて命を救ってくれたマフィアのボスのシレナからの借金を精算しなければならない、彼の人生でも重要なレースの日、貴重な馬を死なせてしまう深刻な事故に遭ってしまう。病院から抜け出してブエノスアイレスの街路を彷徨います。自分のアイデンティティから解放されたレモは、自分が本当は誰であるべきなのか考え始める。一方シレナは生死にかかわらず彼を見つけだすための捜索を開始する。アブリルはシレナより先に彼を見つけようとする。

    


 

 

 

7)Cidade; Campo」ブラジル=ドイツ=フランス

 2024年、ポルトガル語、ミステリー・ドラマ、119分、脚本ジュリアナ・ロハス、製作者サラ・シルヴェイラ、音楽リタ・ザルト

監督ジュリアナ・ロハスは、1981年サンパウロ州カンピナス生れ、監督、フィルム編集者、脚本家。サンパウロ大学の情報芸術学校で映画を専攻した。大学で出合ったマルコ・ドゥトラとのコラボレーションでキャリアをスタートさせ、数編の短編で注目を集める。2011年、ドゥトラとのデュオで長編デビュー作「Trabalhar Cansa / Hard Labor」を撮り、カンヌFF「ある視点」でプレミアの後、シッチェスFF新人監督賞、ハバナFFサンゴ賞3席、リマ・ラテンアメリカFFスペシャル・メンションなどを受賞した。2017年、ホラーファンタジー「As Boas Maneiras / Good Manners」でロカルノFF銀豹賞を受賞、翌年『狼チャイルド』の邦題で公開された。

  

映画祭・受賞歴:ベルリン映画祭2024エンカウンターズ部門監督賞受賞、SSIFFオリソンテス・ラティノス部門出品

エンカウンターズ部門は2020年に新設されたインディペンデント作品を対象にしている。作品・監督・新人監督・審査員特別賞などがある。

 

キャスト:フェルナンダ・ヴィアナ(ジョアナ)、ミレッラ・ファサーニャ(フラヴィア)、ブルナ・リンツマイヤー(マラ)、カレブ・オリヴェイラ(ハイメ)、アンドレア・マルケー(タニア)、プレタ・フェレイラ(アンヘラ)、マルコス・デ・アンドラーデ(セリノ)ほか

ストーリー:都会と田舎に移住した二つの物語が語られる。一つ目はジョアナの物語、貯水池が決壊して生れ故郷の土地が浸水してしまうと、彼女は孫のハイメと暮らしている姉タニアを頼ってサンパウロに移住する。ジョアナは労働者の都会で成功するため闘うことになる。不安定な雇用のなかより良い仕事を求めて同僚と絆を深めていく。二つ目はフラヴィアの物語、疎遠にしていた父親の死後、フラヴィアは妻のマラと一緒に父の農場に移り住む。二人の女性は新たなスタートを切りますが、田舎の厳しい現実に直面してショックを受けます。自然が二人の女性をフラストレーションに向き合わせ、古い記憶と幻影に立ち向かうことを強います。

    

      

   

           (ジョアナ、ハイメ、タニア)

  

 

                      (マラ、フラヴィア)

   

    

 

8)Sujo / Hijo de sicario」メキシコ=米国=フランス

 2024年、スペイン語、ドラマ、126分、脚本アストリッド・ロンデロ&フェルナンダ・バラデス、撮影ヒメナ・アマン、編集スーザン・コルダ、両監督、録音オマール・フアレス・エスピナ、衣装デザインはアレハ・サンチェス。スージョ役に『息子の面影』でデビューしたフアン・ヘスス・バレラが起用され、その演技が絶賛されている。

 

監督アストリッド・ロンデロ(メキシコシティ1989)、監督、製作者、脚本家、共同監督のフェルナンダ・バラデスの『息子の面影』の脚本を共同執筆している。単独で監督した「Los días más oscuros de nosotras(17)は、アリエル賞2019のオペラ・プリマ賞、主役のソフィー・アレクサンダー・カッツが女優賞にノミネートされたほか、ボゴタ、サンアントニオ、モンテレイ、サントドミンゴ・アウトフェスなどの国際映画祭で作品賞や脚本賞を受賞している。共同監督のフェルナンダ・バラデス(グアナフアト1981)は、上述したようにSSIFF 2020オリソンテス賞を受賞した『息子のの面影』を撮っている。キャリア&フィルモグラフィーについては、ロンデロ監督も含めて以下に紹介しています。両監督ともメキシコにはびこる暴力、麻薬密売、社会的不平等、女性蔑視などを映像を通じて発信し続けています

『息子の面影』の紹介記事は、コチラ20201126

 

映画祭・受賞歴:サンダンスFF2024ワールドシネマ・ドラマ部門審査員グランプリ、ソフィアFFインターナショナル部門グランプリ、トゥールーズ・ラテンアメリカFFレールドック賞&シネプラス賞、スペイン・ラテンアメリカ・シネマ・フェスティバル作品賞他を受賞。ヨーテボリ、香港、マイアミ、ダラス、シアトル、シドニー、ミュンヘン、ウルグアイ、マレーシア他、各映画祭でノミネートされている。SSIFFオリソンテス・ラティノス部門出品

 

キャスト:フアン・ヘスス・バレラ・(スージョ)、ヤディラ・ペレス・エステバン(叔母ネメシア)、アレクシス・バレラ(ジャイ)、サンドラ・ロレンサノ(スーザン)、ハイロ・エルナンデス・ラミレス(ジェレミー)、ケヴィン・ウリエル・アギラル・ルナ(少年スージョ)、カルラ・ガリード(ロサリア)ほか

 

ストーリー:メキシコの小さな町、スージョが4歳だったとき、麻薬カルテルのヒットマンだった父親が残忍な方法で殺害されるのを目撃する。彼は叔母ネメシアの機転で間一髪で命を救われるが孤児となる。ネメシアは危険を避け、生れ故郷の暴力が届かないところでスージョを苦労を重ねながら育てていた。しかし彼の人生には暴力の影が付きまとい、成長するにつれ父親の過去の忘れられない暴力的な遺産にとらえられ、面と向かって立ち向かうことが自分の宿命のように思えてくる。カルテルがスージョとその友人たちを見つけだす。スージョ役に『息子の面影』でデビューしたフアン・ヘスス・バレラが起用され、その演技が絶賛されている。

  

    

 

   

    

        (メキシコ版のポスター「Hijo de sicario」)

    

   

(アストリッド・ロンデロ、フェルナンダ・バラデス、サンダンスFF2024ガラにて)

 

 

      

    (左から、フェデリコ・ルイス、ルイス・オルテガ、ジュリアナ・ロハス、

     アストリッド・ロンデロ)


オリソンテス・ラティノ部門14作ノミネート発表*サンセバスチャン映画祭2024 ⑫2024年08月20日 15:14

        オリソンテス・ラティノス部門14作、最多はアルゼンチンの5

   

       

 

88日、オリソンテス・ラティノス部門のノミネート14作が一挙発表になりました。スペイン語、ポルトガル語に特化した部門、例年だと1012作くらいなので多い印象です。ラテンアメリカの映画先進国アルゼンチンの監督が5人と最多、チリ、メキシコ、ブラジル、パナマ、ベネズエラ、ペルーと満遍なく選ばれています。3回ぐらいに分けてアップします。オープニングはチリのホセ・ルイス・トーレス・レイバの「Cuando las nubes esconden las sombras」、クロージングはアルゼンチンのセリナ・ムルガの「El aroma del pasto recién cortado」です。新人登竜門の立ち位置にある部門ですが、「Pelo malo」で2013年の金貝賞を受賞したマリアナ・ロンドンの新作もノミネートされております。作品賞にあたるオリソンテス賞には副賞として35.000ユーロが与えられます。 

 

            オリソンテス・ラティノス部門

 

1)Cuando las nubes esconden las sombras / When Clouds Hide The Shadow

チリ=アルゼンチン=韓国

 オープニング作品 2024年、スペイン語、ドラマ、70

監督ホセ・ルイス・トーレス・レイバ(サンティアゴ1975)は、監督、脚本家、編集者。「El cielo, la tierra, la lluvia」がロッテルダムFF2008FIPRESCI賞、ヒホン、ナント、サンタ・バルバラ、トライベッカ、全州チョンジュFFほか多くの国際映画祭にノミネートされている。「Verano」はベネチアFF2011オリゾンティ部門でプレミアされている。本祭関連ではSSIFF2019の「Vendrá la muerte y tendrá tus ojos」で金貝賞やセバスティアン賞を争った他、マル・デル・プラタ映画祭でスペシャル・メンションを受賞している。サバルテギ-タバカレア部門には、「El viento sepa que vuervo a casa」(16、カルタヘナFFドキュメンタリー賞)、短編「El Sueño de Ana」(17)、「Sobre cosas que me han happens」(18)が紹介されている。新作でセクション・オフィシアルに戻ってきた。

映画祭・受賞歴:全州チョンジュ市映画祭プレミア、SSIFFオリソンテス・ラティノス部門

 

キャスト:マリア・アルチェ

ストーリー:マリア・アルチェは、映画で主人公を演じるために世界最南端の港町プエルト・ウィリアムズを訪れている女優です。激しい暴風雨が予定通りの撮影クルーの到着を阻んでおり、一人で待つしかありません。背中のひどい痛みの手当てを探しに、彼女は世界南端の村々を歩き回ることになるでしょう。彼女の人生で気がかりな物語の一つ、と同時に希望の物語であり、マリアと大陸の最南端の自然とその村人たちの間に起きる思いがけない出会いの物語である。

   

       

 

2)El aroma del pasto recién cortado / The Freshly Cut Grass

アルゼンチン=ウルグアイ=米国=メキシコ=ドイツ

 クロージング作品 2024年、ヨーロッパ=アメリカ・ラテン共同製作フォーラム 2020

 ドラマ、114分、脚本ガブリエラ・ララルデ、セリナ・ムルガ、ルシア・オソリオ、他

映画祭・受賞歴:トライベッカFF 2024脚本賞受賞(6月)、SSIFFオリソンテス・ラティノス部門

監督セリナ・ムルガ(アルゼンチンのパラナ1973)は監督、脚本家、製作者。1996年映画大学で映画監督の学位を取得、制作会社「Tresmilmundos Cine」の共同設立者、映画研究センターで後進の指導に当たっている。本祭との関連では、話題のデビュー作「Ana y los otros」がオリソンテス2003、ボゴタFF作品賞、リオデジャネイロFFFIPRESCI賞、ほか国際映画祭での受賞歴多数、「Una semana solos」がシネ・エン・コンストルクション2007、ミュンヘンFF2009 ARRI/OSRAM賞を受賞している。「The Side of The River」がオリソンテス・ラティノス2014にノミネートされている。

 

キャスト:ホアキン・フリエル(パブロ)、マリナ・デ・タビラ(ナタリア)、ルチアナ・グラッソ(ベレン)、アルフォンソ・トルト、ベロニカ・ヘレス(ルチアナ)、ロミナ・ペルフォ(カルラ)、オラシオ・マラッシ(ロベルト)、クリスティアン・フォント(マルセロ)、ロミナ・ベンタンクール(ソニア)、ほか多数

   

ストーリー:ブエノスアイレス大学の教授であるパブロは結婚していて2人の息子がいる。彼の学生であるルチアナと不倫関係にある。浮気が発覚すると仕事と家族を失うと脅されます。ここから同じ大学の教授であるナタリアの物語が始まります。彼女も結婚していて2人の娘がいる。彼女も生徒のゴンサロと不倫関係を始めます。二つの物語は、同じコインのウラオモテであり、男女間で確立された力関係と、事前に確立された性別の解体に向けた新たな道を問いかけることになる。ありきたりの倦怠期夫婦の危機が語られるが、新味がないのにパブロとナタリアの不倫が交差することはなく、その独創的な構成と達者な演技で上質のドラマになっている。

 

   

    

 

     (左から、ホアキン・フリエル、ムルガ監督、マリナ・デ・タビラ)

 

 

3)「Reas」アルゼンチン=ドイツ=スイス

 WIP Latam 2023 作品 ドキュメンタリー、ミュージカル、82分、 

映画祭・受賞歴:ベルリンFF2024フォーラム部門ドキュメンタリーでプレミア、テッサロニキ・ドキュメンタリーFF金のアレクサンダー賞&マーメイド賞、ルクセンブルク市FFドキュメンタリー賞、シネラティノ・トゥールーズ2024ドキュメンタリー部門観客賞受賞、ほかノミネート多数、SSIFFオリソンテス・ラティノス部門

 

監督ロラ・アリアス(ブエノスアイレス1976)は、監督、脚本家、戯曲家、シンガーソングライター、舞台女優、演出家と多才、キャリア&フィルモグラフィーはドキュメンタリーのデビュー作「Teatro de guerra」(18)がサバルテギ-タバカレア部門にエントリーされた折、作品紹介とキャリアを紹介しています。新作は長編2作目で昨年のWIP Latamに選出され完成が待たれていた。

監督キャリア&フィルモグラフィーは、コチラ20180805

 

キャスト:ヨセリ・アリアス、イグナシオ・ロドリゲス(ナチョ)、カルラ・カンテロス、ノエリア・ラディオサ、エステフィー・ハーキャッスル、パウラ・アストゥライメ、シンティア・アギーレ、パト・アギーレ、ハデ・デ・ラ・クルス・ロメロ、フリエタ・フェルナンデス、ラウラ・アマト、ダニエラ・ボルダ、ほか多数

 

ストーリー:麻薬密売が発覚して空港で逮捕された若いヨセリは、背中にエッフェル塔のタトゥーをしている。ヨーロッパ旅行を夢見ていたからだが、規則、制約、友情、連帯、愛で構成されたチームに参加することにした。ナチョは詐欺罪で逮捕されたニューハーフでロックバンドを結成している。もう使用されなくなっているブエノスアイレスの刑務所の敷地が、ドキュメンタリー、ミュージカル、ドラマを組み合わせた本作の舞台となる。過去に収監されていた人々が刑務所での記憶をフィクション化して再現します。控え目な人も荒っぽい人も、ブロンドも剃毛も、長期囚も最近入所した人も、シスもトランスも、ここには自分の居場所があります。このハイブリットなミュージカルでは踊り、歌い、フィクション化して自分の人生を追体験し、自身の可能性のある未来を創造します。

   

   


 

  

4)Querido Trópico / Beloved Tropic」パナマ=コロンビア

 2024年、スペイン語、ドラマ、108分、脚本アナ・エンダラ、ピラール・モレノ

映画祭・受賞歴:トロントFF2024「コンテンポラリー・ワールド・シネマ」部門でプレミア(97日)、SSIFFオリソンテス・ラティノス部門

監督アナ・エンダラ・ミスロフ(パナマシティ1976)は、ドキュメンタリーを専門とする監督、脚本家、製作者。フロリダ州立大学で社会学を専攻、キューバの国際映画テレビ学校で映画を学んでいる。2001年、ドイツのケルンにある芸術メディア・アカデミーの奨学金を得る。広告代理店のプロとして、ドキュメンタリーやオーディオビジュアルのプロジェクトを制作している。2013年コメディ・ドキュメンタリー「Reinas」でトロントFFグロールシュ・ディスカバリー賞、2016年「La Felicidad de Sonido」でコスタリカFFの審査員賞、イカロFF2017のドキュメンタリー賞を受賞している。マドリード女性映画祭2023の審査員を務めている。本作が最初のフィクションです。

 

キャスト:パウリナ・ガルシア、ジェニー・ナバレテ、フリエタ・ロイ

ストーリー:トロピカルな庭園は、時を共にすることになる二つの孤独の出会いの舞台になります。過去のすべてが奪われていく裕福だが認知症を患う女性、その介護者はたった一人で怖ろしい秘密から逃れてパナマに移民してきた女性、監督は二人の孤独を痛烈に解き明かします。

    

   

(コロンビア女優ジェニー・ナバレテ、チリのベテラン女優パウリナ・ガルシア)

   

 

    

     

(左から、ホセ・ルイス・トーレス・レイバ、セリナ・ムルガ、ロラ・アリアス、

 アナ・エンダラ・ミスロフ)


★トロント映画祭2024は、95日から15日までとSSIFFに先行して開催されます。


ディエゴ・レルマンの新作はコメディドラマ*サンセバスチャン映画祭2024 ⑪2024年08月17日 10:41

      フェイクニュースの先駆けホセ・デ・ゼルの人生を描くコメディ

   

      

 

★セクション・オフィシアル紹介の最終回、アルゼンチンのディエゴ・レルマンの「El hombre que amaba los platos voladores」は、20世紀に実在したアルゼンチンのテレビレポーター、ホセ・デ・ゼルの人生が語られる。レルマンが初めてネットフリックスから資金援助を受けて製作した「UFOを愛した男」は、コメディドラマであると同時にファンタジックなビオピックでもあり、SFの要素も備えている。彼のデビュー作『ある日、突然。』02、「Tan de repente」公開2004年)を、それこそトツゼンに思いだしました。ロカルノ映画祭銀豹を皮切りに新人が貰える国際映画賞を山ほど手にした映画でした。

 

★本名ホセ・カイゼルKeizer として1941年誕生したホセ・デ・ゼルは、アルゼンチンのエンターテインメントのジャーナリスト、テレビレポーター、ポップカルチャーのアイコンとして不思議な磁力で人々を引き付けていた。舞台は1986年のブエノスアイレス、ある人物から不自然で奇妙な提案を受けたホセ・デ・ゼルとその相棒カメラマンのチャンゴは、コルドバのラ・カンデラリアに旅立ちます。

 

      

 

 「El hombre que amaba los platos voladores

  (英題「The Man Who Loved UFO」)

製作:El Campo Cine / Bicho Films  協賛Netflix

監督:ディエゴ・レルマン

脚本:ディエゴ・レルマン、アドリアン・ビニエス

編集:フェデリコ・ロットスタイン(1983 BSAS

美術:マホ・サンチェス・キアッペChiappe

録音:ナウエル・デ・カミジス、レアンドロ・デ・ロレド、ルベン・ピプット・サントス

製作者:ディエゴ・レルマン

 

データ:製作国アルゼンチン、2024年、スペイン語、コメディドラマ、ビオピック、106分、配給元ネットフリックス、配信1018

映画祭・受賞歴:サンセバスチャン映画祭2024セクション・オフィシアル作品

 

キャスト:レオナルド・スバラリア(ホセ・デ・ゼル)、セルヒオ・プリナ(カルロス・〈チャンゴ〉・トーレス)、オスマル・ヌニェス、レナータ・レルマン、マリア・メルリノ、モニカ・アジョス(アヨス)、ダニエル・アラオス、エバ・ビアンコ、ノルマン・ブリスキ、アグスティン・リッタノ、ギジェルモ・プフェニング、他

 

ストーリー1986年、ジャーナリストのホセ・デ・ゼルとカメラマンのチャンゴは、うさん臭い2人の人物から奇妙な提案を受け取り、コルドバのラ・カンデラリアに旅立った。村に到着したが、丘の中腹に焼け焦げた牧草地があるだけで取り立てて調査するようなものは見つからなかった。しかし引き続いて起きたことは、アルゼンチンのテレビ史上最高の視聴率を誇ることになる。隠された才能の持ち主で虚言癖の天才デ・ゼルがやったことは、地球外生命体エイリアンの存在を演出することだった。1980年代の宇宙人訪問詐欺を題材にしたコメディドラマ。

    

           

   (ラ・カンデラリアの丘でライブ放送をするホセ・デ・ゼル、フレームから)

 

ホセ・デ・ゼル(José de Zer 本名 José Bernardo Kerzer)は1941年、劇場の照明デザイナーの息子としてブエノスアイレスで生れた。エンターテインメントのジャーナリスト、テレビレポーター、軍人、1997年、罹患していたパーキンソン病と食道癌と闘ったが56歳の若さで鬼籍入りした。彼の報道したニュース同様、ポップカルチャーのアイコンとして短いが波乱万丈の人生だった。映画からはフェイクニュースのパイオニアみたいな印象を受けるが、当時あらゆるタイプの記事をカバーできる実力のあるジャーナリストの地位を確立していた。だからこそ眉唾のフェイクニュースにお茶の間は釘付けになったのでしょう。今日のようにフェイクが民主主義を脅かす政治的武器ではなく、無害でエキサイティングな娯楽だった時代には、お茶の間で楽しむ人々も共犯者だった。いつの時代でも私たち庶民は、信じたいものを信じ、見たいものを見るという、操作されやすい存在ということです。

    

     
   (レオナルド・スバラグリアが演じることになったホセ・デ・ゼル、1986年)

 

★ユダヤ教徒のホセ・デ・ゼルは、第三次中東戦争(1967)に、予備役少尉としてイスラエルに派遣されている。別名「六日間戦争」と言われるようにイスラエルの圧倒的勝利で、たったの6日間の戦闘で終わった戦争なので、九死に一生を得るということではなかったと思うが、パタゴニアでの意識を失うほどの深刻な自動車事故を生きのびて以来、死を怖れるようになった。息切れするほどのヘビースモーカーでコーヒー中毒だったから長生は難しかったのではないか。1989年にゲリラによってブエノスアイレス州のラ・タブラダ軍事施設が襲撃されたときの現場報道、妻殺害でサンタフェ刑務所に収監されていたミドル級チャンピオンのボクサー、カルロス・モンソンのインタビューなど、堅実な報道も行っている。

 

★監督キャリア&フィルモグラフィーは紹介済み、主役のレオナルド・スバラグリア(スバラリア)は、マラガ映画祭2017の大賞マラガ-スール賞を受賞した折にキャリア&フィルモグラフィーをアップしています。公開、ミニ映画祭、ネット配信、DVDと電撃デビューした『10億分の1の男』(01)以来、20数作も字幕入りで鑑賞できる俳優はそんなに多くありません。

主な監督キャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2017年10月23日

レオナルド・スバラグリア紹介記事は、コチラ20170313

 

ケイト・ブランシェットに続いて、二人目となるドノスティア栄誉賞受賞者ペドロ・アルモドバルの発表がありました。昨年授与式を延期していたハビエル・バルデムも今年は出席します。またオリソンテス・ラティノス部門、ペルラス部門、サバルテギ-タバカレア部門などのノミネートがアナウンスされ映画祭の全容が見えてきました。もう開催まで1ヵ月を切りましたので、バランスをとって作品紹介をしていく予定です。


追加情報:10月18日から『UFOを愛した男』の邦題で Netflix 配信が始まります。


マルティン=カレロの「El llanto」*サンセバスチャン映画祭2024 ④2024年07月25日 16:21

          マルティン≂カレロの「El llantoセクション・オフィシアル

    

     

 

★セクション・オフィシアルのノミネート2作目、ペドロ・マルティン=カレロのデビュー作「El llanto」の紹介です。当ブログ初登場の若い監督、1983年バジャドリード生れ、監督、脚本家、撮影監督。音楽産業、広告会社で働く。本作はロドリゴ・ソロゴジェンの共同脚本家としての実績豊富なイサベル・ペーニャと共同で脚本を執筆した。ホラー映画がコンペティションにノミネートされたのは2021年、パコ・プラサが初めてSSIFFに登場した「La abuela」でした。1973年バレンシア生れ、ジャウマ・バラゲロと共同監督した『RECレック』(07)や『エクリプス』(17)などで知名度もあるベテラン監督でしたが、マルティン=カレロは私たちにとって全く未知の監督、どんなホラーなのでしょうか。

La abuela」の紹介記事は、コチラ20210812

 

 El llanto / The Wailing

製作:Caballo Films / Setembro Cine / Tandem Films / Tarea Fina / 

   Noodles Production / El Llanto AIE   協賛RTVE / プライムビデオ

監督:ペドロ・マルティン=カレロ

脚本:イサベル・ペーニャ、ペドロ・マルティン=カレロ

音楽:オリヴィエ・アルソン

撮影:コンスタンサ・サンドバル

編集:ヴィクトリア・ラマーズ

キャスティング:マチルド・スノッドグラス、アランチャ・ベレス

プロダクションデザイン:ホセ・ティラド

美術:ルチアナ・コーン

メイクアップ&ヘアー:(ヘアー)フェデリコ・カルカテリ、ノエ・モンテス、(メイク主任)サライ・ロドリゲス、(特殊メイク)ナチョ・ディアス

プロダクションマネジメント:アルバロ・ディエス・カルボ、ベレン・サンチェス=ペイナド

製作者:エドゥアルド・ビジャヌエバ、クリスティナ・スマラガ、フェルナンド・デル・ニド、ジェローム・ビダル、イサベル・ペーニャ、ナチョ・ラビリャ、他

 

データ:製作国スペイン、フランス、アルゼンチン、2024年、スペイン語、サイコ・ホラー、107分、撮影地マドリード、ブエノスアイレス、ラプラタ、期間7週間、資金提供ICAA及びマドリード市議会、配給ユニバーサル・ピクチャーズ、海外販売フィルム・ファクトリー、公開スペイン20241025日、メキシコ1025

映画祭・受賞歴SSIFF 2024セクション・オフィシアル正式ノミネート

 

キャスト:エステル・エクスポシト(アンドレア)、マチルド・オリヴィエ(マリー)、マレナ・ビリャ(カミラ)、アレックス・モネル、ソニア・アルマルチャ、トマス・デル・エスタル、ホセ・ルイス・フェレル、リア・ロイス、クラウディア・ロセト、ラウタロ・ベットニ、ピエール・マルキーユ、他

 

ストーリー:時間の異なる瞬間に無意識に繋がり、自分たちを超えた脅威に直面する3人の女性のポートレート。何かがアンドレアをストーカーしているが、それを誰も彼女自身でさえも肉眼で見ることはできません。20年前、1万キロ離れた場所で同じ存在がマリーを恐怖させていた。それが何なのかカミラだけが理解できたのだが、誰もそれを信じなかった。その重苦しい脅威に直面したとき、3人は同じ抑圧的な泣き叫んでいるような音を聞きます。

    

    

 (左から、イサベル・ペーニャ、マルティン=カレロ監督、エステル・エクスポシト

 

★監督紹介:ペドロ・マルティン=カレロは、1983年バジャドリード生れ、監督、脚本家、撮影監督。マドリード映画学校ECAMで撮影演出を専攻、第1作ビデオクリップ「Blanc」がメディナ・デル・カンポ映画祭2014で審査員賞を受賞、インターネットで注目を集める。受賞は広告制作やロンドンのビデオクリップ制作会社 Blink Productions、バルセロナのCANADAの仕事に役立った。

   

     

   (審査員賞の受賞スピーチをする監督、メディナ・デル=カンポFF 2014ガラ)

 

主なフィルモグラフィー紹介は以下の通り:

2008年「5 segundos」短編13分、撮影。監督ジャン・フランソワ・ルゼ

2010年「ImparesTVシリーズ28話、脚本

201011年「Impares premiumTVシリーズ10話、脚本

2016年「Julius Caesar: Shakespeare Lives」短編3分、英語、監督

2017年「You Are Awake」短編4分、英語、監督、脚本、撮影

2017年「The Weeknd: Secrets」ミュージックビデオ3分、英語、監督

2018年「Who Stole the Cup」ビデオ3分、英語、監督

2024年「El llanto」長編デビュー作、107分、監督、脚本(共同)

 

★脚本共同執筆者のイサベル・ペーニャ(サラゴサ1983)は、ロドリゴ・ソロゴジェンのデビュー作「Stockholm」(13)以来、SSIFF 2016コンペティション部門ノミネートの『ゴッド・セイブ・アス マドリード連続老女強姦殺人事件』(16、審査員賞)、同2018の「El reino」(ゴヤ賞2019オリジナル脚本賞)、同2022ペルラス部門の『ザ・ビースト』(公開タイトル『理想郷』)、他にベネチア映画祭2019オリゾンティ部門の『おもかげ』を監督と共同で脚本を執筆している。マルティン=カレロとの接点は、マドリードの映画学校ECAMの同窓生、彼女もTVシリーズ「Impares」の脚本を17話執筆している。

イサベル・ペーニャのキャリア&フィルモグラフィーは、コチラ20190719

 

     

    (オリジナル脚本賞のトロフィーを手にしたイサベル・ペーニャ、ゴヤ賞2019ガラ)

 

★音楽を担当したオリヴィエ・アルソンは、1979年パリ生れ、ペーニャと同様『ゴッド・セイブ・アス マドリード~』、『ザ・ビースト/理想郷』、他にカルロタ・ペレダの「PIGGY」(22)などを手掛けている。製作者の一人エドゥアルド・ビジャヌエバは脚本家でもあり、TVシリーズのImpares」や「Impares premium」の脚本を執筆している。ソロゴジェンの「Stockholm」、『おもかげ』、『ザ・ビースト/理想郷』をプロデュースしている。クリスティナ・スマラガ1990)は、ビクトル・エリセの新作『瞳をとじて』のほか、アグスティン・ディアス・ヤネスの『アラトリステ』(06)とイシアル・ボリャインの『ザ・ウォーター・ウォー』(10)でそれぞれゴヤ作品賞を受賞しているスペインを代表する女性プロデューサーである。

 

キャスト紹介:主役のアンドレアを演じたエステル・エクスポシト(マドリード2000)は、女優、モデル。人気TVシリーズ『エリート』(182024話)のカルラ・ロソン役で人気に火がついた。映画デビューはミゲル・アンヘル・ビバスの「Tu hijo」(18、『息子のしたこと』)にホセ・コロナドと共演している。しかしジャウマ・バラゲロのヒット作「Venus」(22)でゴーゴーダンサーに扮してホラー映画デビューを果たした。これが今回の抜擢にも繋がったようです。2023フォトグラマス・デ・プラタ(映画部門)女優賞を受賞。

    

       


     (アンドレア役のエステル・エクスポシト、フレームから)

 

★共演者マリー役のマチルド・オリヴィエ(パリ1994)はフランスの女優、モデル、製作者。代表作はジュリアス・エイヴァリーのホラーSF『オーヴァーロード』(18、米国、プライムビデオ)、TVシリーズのスリラー『1899』(228話、Netflix)のクレマンス役。もう一人の共演者カミラ役のマレナ・ビリャ(ブエノスアイレス1995)は、アルゼンチンの女優、歌手、作曲家。代表作はサンセバスチャン映画祭2015でマルコ・ベルヘル監督がセバスティアン賞を受賞した「Mariposa」、彼女も銀のコンドル新人賞にノミネートされた。実話をベースにしたルイス・オルテガの『永遠に僕のもの』(18、公開19)、フアン・シュニットマンの「Rompiente」(20)、サンティアゴ・フィロルのホラーミステリー「Matadero」(22)など。若手アレックス・モネル、他ソニア・アルマルチャトマス・デル・エスタルのベテランが脇を固めている。

   

    

            (マリー役のマチルド・オリヴィエ、フレームから)

  

    

   

        (カミラ役のマレナ・ビリャ、フレームから)


追加情報:東京国際映画祭2024ワールド・フォーカス部門に『叫び』の邦題で上映が決定しました。

 

ボレンステインの『安らかに眠れ』鑑賞記*ネットフリックス配信2024年04月30日 16:56

      アルゼンチン1990年代の政治経済危機をバックにしたサスペンス

 

     

 

セバスティアン・ボレンステイン(ブエノスアイレス1963『安らかに眠れ』のネットフリックス配信が始まりました。マルティン・バイントルブの同名小説の映画化、マラガ映画祭2024の銀のビスナガ主演男優賞、同助演男優賞受賞作品、『明日に向かって笑え!』の監督作品、などなど期待をもって鑑賞しました。


★主役のホアキン・フリエルの熱演は認めるとして、1994718日に実際にブエノスアイレスで起きたアルゼンチン・イスラエル相互協会AMIA爆破事件までのスピード感が、後半失速してしまった印象でした。国民にとっては90年代にアルゼンチンを襲った政治経済の危機的状況、ユダヤ系移民のアルゼンチンでの立ち位置などは周知のことでも、知識がない観客には主人公の短絡的な行動が分かりにくいのではないか。また後半にまたがる20011223日の史上7回目となる債務不履行〈デフォルト〉という国家破産についてもすっぽり抜け落ちていました。

 

AMIA爆破事件1994718日、ブエノスアイレスのアルゼンチン・イスラエル相互協会(共済組合)AMIAAsociacion Mutual Israelita Argentina)本部ビルの爆破事件、死者85人、負傷者300人という大規模なテロ事件。イスラエルと敵対関係にあるイランの関与が指摘されているが真相は今以って未解決。1992年のイスラエル大使館爆破事件(死者29人、負傷者242人)に続くテロ事件。アルゼンチンにはユダヤ系移民のコミュニティーが多く存在し、ラテンアメリカでは最大の約30万人が居住している。シリアやレバノンからのアラブ系移民のコミュニティーの中心地でもあることから両国は複雑な政治的関係にある。

   

    

(左から前列製作者フェデリコ・ポステルナクとチノ・ダリン、後列ホアキン・フリエル、

  ボレンステイン監督、グリセルダ・シチリアニ、ラリ・ゴンサレス、マラガFF2024

 

セバスティアン・ボレンステインのキャリア&フィルモグラフィー紹介

『コブリック大佐の決断』の作品紹介とフィルモグラフィーは、コチラ20160430

『明日に向かって笑え!』の作品紹介は、コチラ20200118

 

 『安らかに眠れ』原題「Descansar en paz」英題「Rest in Peace」)

製作:Benteveo Producciones / Kenya Films

監督:セバスティアン・ボレンステイン

脚本:セバスティアン・ボレンステイン、マルコス・オソリオ・ビダル

   (原作:マルティン・バイントルブ)

音楽:フェデリコ・フシド

撮影:ロドリゴ・プルペイロ

編集:アレハンドロ・カリーリョ・ペノビ

美術:ダニエル・ヒメルベルグ

製作者:フェデリコ・ポステルナク、リカルド・ダリン、チノ・ダリン、エセキエル・クルプニコフ、(エグゼクティブ)フアン・ロベセ

 

データ:製作国アルゼンチン、2024年、スペイン語、サスペンス・ドラマ、107分、撮影地ブエノスアイレス、パラグアイの首都アスンシオン、撮影期間9週間、2023325日クランクイン。公開アルゼンチン2024321日、Netflix 配信2024327

映画祭・受賞歴:第27回マラガ映画祭2024セクション・オフィシアル上映、銀のビスナガ主演男優賞(ホアキン・フリエル)、同助演男優賞(ガブリエル・ゴイティ)受賞

 

キャスト:ホアキン・フリエル(セルヒオ・ダシャン/ニコラス・ニエト)、グリセルダ・シチリアニ(妻エステラ・ダシャン)、ガブリエル・ゴイティ(高利貸しウーゴ・ブレンナー)、ラリ・ゴンサレス(ゴルドの妻イル)、ラウル・ドマス/ダウマス(エル・ゴルド電器店主ルベン/愛称ゴルド)、マカレナ・スアレス(セルヒオの娘フロレンシア)、ソエ・クニスキ(フロレンシア12歳)、フアン・コテット(セルヒオの息子マティアス)、ニコラス・Jurberg(マティアス/マティ)、アルベルト・デ・カラバッサ(フロレンシアの夫アリエル)、エルネスト・ロウ(セルヒオの弟ディエゴ)、ルチアノ・ボルヘス(セルヒオの友人ラウル)、サンティアゴ・サパタ(役人)、アリシア・ゲーラ(ベアトリス/愛称ベア)、他多数

 

ストーリー1994年ブエノスアイレス、多額の借金に追い詰められたセルヒオは、偶然AMIA本部ビルの爆破事件に遭遇する。軽い怪我を負ったセルヒオは、この予測不可能な状況を利用して姿を消すことを決意する。自分の死を偽装したセルヒオは、ニコラス・ニエトという偽りの身分でパラグアイの首都アスンシオンに脱出する。過去を封印した15年の歳月が流れるが、ネットで偶然故国に残してきた家族を発見したことで望郷の念に駆られ、それは強迫観念となっていく。安定しているが偽りの人生を続けるか、危険を冒して故国に戻るか。人間は一つの人生を永遠に消し去り、別の人生を生きることができるのか。ネット社会の功罪、現実逃避などが語られる。

     

   

    (爆破されたAMIA本部ビルの瓦礫に佇むセルヒオ、フレームから

 

 

   「映画は映画、文学は文学であって別物」と語る原作者バイントルブ

 

A: 冒頭で本作は同名小説の映画化と書きましたが、マラガ映画祭のプレス会見でボレンステイン監督は「小説にインスパイアされたものだが、同じテーマの2冊の作品を土台にしている」と語っております。作家からは「映画と小説は別物であってよい」と、脚本に一切口出しは控えてくれたようです。

B: 小説の映画化でも「映画は映画、文学は文学であって別物」が原則です。作家によっては違うと文句いう人いますが。

 

A: 監督によると「小説の主人公はもっと嫌な人物で、映画のように頭に怪我を負っていない。想定外のテロ事件を利用して姿を消す決心をして、証拠となるようカバンを投げ捨て遁走する。

B: アリバイ工作をするわけですが、映画では意識が戻ったとき、カバンは持っていなかった。

A: 妻エステラも嘘つきのうえ夫に不実な女性で、総じて夫婦関係は壊れている。どちらかというと二人とも互いに憎みあっていたという人物造形のようです。

 

B: エステラが既に夫を愛していなかったのは映画からも読み取れます。贅沢が大好きで、夫を睡眠薬漬けにして苦しめた高利貸しブレンナーとちゃっかり再婚している。

A: 字幕はブレナーでしたが、この高利貸しの人物造形も一筋縄ではいかない。苗字から類推するにドイツからのユダヤ系移民のように設定されている。裏社会に通じていることは明白ですが、主人公を脅迫してまで容赦なく返済を迫っていた彼が、彼の妻エステラには借金を棒引きにしている。

B: これがユダヤ式のルールなのでしょうか。実父セルヒオをスーパーマンのように尊敬していたマティ少年をアブナイ道に誘い込んでいる。

 

A: ブレンナーを演じたガブリエル・ゴイティは、俳優のほかコメディアンとして〈El Puma Goity ピューマ・ゴイティ〉として知られています。本作の危険な男の役柄で「新境地を拓いた」と評価を高めています。マラガ映画祭には不参加でしたが、銀のビスナガ助演男優賞を受賞している。

B: 敵役のホアキン・フリエルが代理でトロフィーを受けとった。

  

A: 本作に登場する人物では主人公が第二の人生を送るパラグアイの人々に比して、アルゼンチン人はこの国特有の嫌らしい気質で描かれていて面白かった。

B: 劇中、アルゼンチンでの仕事をゴルド社長から頼まれたセルヒオに「アルゼンチン人は注文が多くて行きたくない」と言わせており、図星をさされたアルゼンチンの観客は大笑いしたことでしょう。実態とかけ離れた特権意識が強いアルゼンチン人は、近隣諸国からはおしなべて嫌われていている。

        

     

  (笑顔で脅迫する不気味なブレンナー役のガブリエル・ゴイティ、フレームから)

  

A: 主人公の過去を不問にして闇の身分証明書IDを入手してくれたエル・ゴルドをサンタクロースの衣装で急死させている。少し都合がよすぎて笑えましたが、このゴルド役ラウル・ダウマスは、映画データバンクによれば映画初主演です。舞台俳優かもしれない。

    

       

            (エル・ゴルド役のラウル・ダウマス)

 

B: エル・ゴルドの話の分かる賢い妻イルを演じたラリ・ゴンサレスの演技が光っていましたが。

A: パラグアイ出身、1986年アスンシオン生れ、映画、舞台、TVシリーズで活躍するベテラン女優、弁護士でもある。フアン・カルロス・マネグリア&タナ・シェンボリの「7 cajas」で映画デビュー。本作はゴヤ賞2013スペイン語外国映画賞にノミネートされ脚光を浴びることになった。映画市場の小さいパラグアイでは活躍の場が少なく、本作のようにアルゼンチンや国外の映画に出演している。他の代表作は「Luna de cigarras」(14)、「El jugador」(16)など、ロマンス、アクション、スリラーなど演技の幅は広い。

7 cajas」の紹介記事は、コチラ20151213

    

          

         (イル役のラリ・ゴンサレスとホアキン・フリエル)

 

B: ベッドシーンは監督とカメラマンのみで行われ、監督の配慮に感謝したとか。

A: ラテンアメリカ諸国は数は減少しているとはいえ多くがカトリック信者です。すっぽんぽんには抵抗感があるからでしょう。

 

      ストーリーのありきたり感を救ったホアキン・フリエルの演技

 

B: 主人公は前半を借金で首の回らないセルヒオ・ダシャンとして、後半を遁走中に乗ったタクシーの運転手の名前ニコラス・ニエトとして二つの人生を生きる。

A: まず名前から分かるように主人公の家族もユダヤ教徒のアルゼンチン人であることです。だから借金まみれでもユダヤ教徒に欠かせない女子の成人式を祝うバトミツワーのパーティーをしたわけです。本作はユダヤ系アルゼンチン人社会を背景にしたドラマであることを押さえておく必要があります。

   

  

  (娘の12歳の成人式バトミツワーのパーティーで幸せを演出するダシャン一家)

 

B: ホアキン・フリエルが演じたセルヒオの苗字Dayanは、イスラエルではダヤンが一般的と思いますが、字幕も発音もダシャンでした。

A: スペイン語の〈y〉と〈ll〉の発音は国や地域によって違いがあり、アルゼンチンでもブエノスアイレス周辺では、日本語のシャ行に近い音になる。同じスペイン語とはいえ、先住民やそれぞれの移民コミュニティーの言語の影響を受けて違いが生じるのは当り前です。

 

B: 金貸しウーゴ・ブレンナーのBrennerはドイツ系の苗字、アルゼンチンはドイツからの移民も多く、第二次世界大戦後にはニュルンベルク裁判を逃げおおせたナチス戦犯を含めたナチの残党、反対にヒットラーに追われたユダヤ系ドイツ人の両方を受け入れている。

A: アウシュビッツ強制収容所でユダヤ人大量虐殺に関与したアドルフ・アイヒマンや、戦時中にユダヤ人に人体実験を行っていた医師ヨーゼフ・メンゲレがアルゼンチンに潜伏できたのも、この強固なドイツ人コミュニティーのお蔭です。この歴史的事実は幾度となくドキュメンタリーやドラマ化されており、監督がAMIA爆破事件を取り入れた理由のひとつではないでしょうか。

 

B: 移民国家であるアルゼンチンは、セルヒオ同様、やむなく偽りの人生を送っている人が多いのかもしれない。裏社会に通じているブレンナーの謎の部分は詳しく語られないが、彼がユダヤ教徒であることは、フロレンシアとアリエルの結婚式ではっきりします。

 

A: ホアキン・フリエルは、1974年ブエノスアイレス生れの俳優、舞台俳優としてスタートを切る。最初はTVシリーズ出演が多く、映画デビューは実話をベースにしたセバスティアン・シンデルの「El patrón, radiografía de un crimen」(14)、本作で銀のコンドル賞、グアダラハラ映画祭男優賞、アルゼンチン・アカデミー主演男優賞などを受賞した。その他同監督の「El hijo」(19)と公開されたダニエル・カルパルソロの『バンクラッシュ』(16)で、アルゼンチン・アカデミー賞にノミネートされている。最近は映画にシフトしており、Netflix配信の『シャチが見える灯台』(16)、フリオ・メデムの『ファミリー・ツリー、血族の秘密』(18)などが字幕入りで観ることができます。

          

       

       (クロリンダ市から国境線パラグアイ川を越えるセルヒオ)

      

        

   (銀のビスナガ主演男優賞のトロフィーを手に、マラガ映画祭2024ガラ)

 

B: 妻エステルを演じたグリセルダ・シチリアニは、メキシコのアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの『バルド、偽りの記録と一握りの真実』(22)に出演しています。

A: ダニエル・ヒメネス・カチョ扮する主人公の妻役、サンセバスチャン映画祭2022に監督たちと参加しています。1978年ブエノスアイレス生れの女優、TV女優として出発、2012アルマンド・ボーの『エルヴィス、我が心の歌』で銀のコンドル賞にノミネート、スペインのセスク・ゲイの「Sentimental」で、ゴヤ賞2021新人女優賞ノミネートの他、サン・ジョルディ賞とモンテカルロ・コメディ映画祭の主演女優賞を受賞している。

『エルヴィス、我が心の歌』の作品紹介は、コチラ20160622

    

       

     (死んだはずの夫の姿を目撃して驚愕するエステラ、フレームから)

 

           伏線の巧みさと高利貸しの深慮遠謀

 

B: 幸い軽傷ですんだ爆破事件に遭遇した後、姿を消す決心をする引き金はどの辺でしょうか。セリフは全くありません。

A: 公衆電話でどこかに電話しますが繋がらない辺りでしょうか。失ったカバンはいずれ瓦礫の中から発見され、遺体が見つからなくても犠牲者の証拠品となる。伏線でブレンナーに返済すべき現金はカバンでなくウエストポーチに入れたと確認するシーン、好況だったときに掛けた高額な生命保険金で借金が完済できることなどが観客に知らされている。

 

B: 姿を消す条件は揃った。夫の苦悩より子供の授業料やクラブ費を優先する妻にはもはや未練はないが、二人の子供と別れるのは辛い。しかし子供の幸せには代えられない。

A: 伏線を張るのが好きな監督です。犬を連れた路上生活者が冒頭のシーンに出てくるが、これなんかもその一例。主人公は自分の将来の姿と重ねて怯えている。パラグアイで野良犬を名前も付けずに15年間飼い続けている。犬は心を許せる友であって唯の犬ではないのです。

 

B: 成長した娘フロレンシアをネットで偶然目にしたことで、偽りの人生に疲れ始めていた彼は自制心を失っていきます。

A: ネット社会の功罪が語られるわけですが、これは発火点にしか過ぎない。果たして人間は過去の人生を永遠に消し去ることができるのかという問い掛けです。このあたりから結末は想像できますが、管理人の場合、大筋では合っていましたが少し外れました。

 

B: お金が絡むと兄弟喧嘩はつきものだし、主人公は娘の養父が自分の運命を狂わせた高利貸しだったことに驚愕するわけですが、アルゼンチンのように政治経済や社会が常に不安定だと何でもありです。

A: ストーリーには多くの捻りがあり、それなりに魅力的でしたが、後半の継ぎはぎが気になりました。しかしセルヒオに欠けていた高利貸しの深慮遠謀や素早い行動力は、社会が常に不安定な国家では褒めるべきでしょう。現実逃避だけでは解決できません、悪は存在していますから。